● ――戦場の熾は時を待たずして、再び燃え上がる。 過日、アーク対バイデン戦力との防衛戦に於いて敗北を喫したリベリスタ達は、それに恐れを為すことなく、再度の戦いを選択した。 ともすれば猪武者と謗られる事も厭わなかった彼らの根底の思い、囚われた八人の仲間達を救わんとする心は、それほどまでに苛烈だったのだ。 その覚悟を受け取った、アーク戦略司令室室長……時村沙織もまた、それに応えて一つのチップを彼らに乗せた。 それは、本来予知能力の加護を得られぬ総力戦に於いて投入された、アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアを始めとする幾人のフォーチュナ達のバックアップ。 得られた些少のリターンは、即ち多大なるリスクの裏返し。 それを知って尚、彼らは再度の戦いに臨むのだ。 曇天は彼らを見下ろす。 陽光すら見放された世界で、寵愛は彼らに微笑むのか、それとも―― ● 「っははははははは!! 面白いなあ、コイツは!」 幾多の剣戟が響く世界。 憤怒と嘆きの荒野の総力戦。再度現れたと知れる異世界者達に対し、逸るバイデンの先鋒部隊は既に交戦を開始していた。 それぞれが得物をぶつかり合わせ、血と咆哮をまき散らす中、その最後方に位置するバイデン達が居る。 「異世界の者は対した知識を持ってるじゃないか、後ろからこんなものを射掛けられっぱなしでは、彼らも為す術がないだろう!」 「……『悪童』、いい加減にしろ」 哄笑するバイデンの傍で、忌々しげに言葉を吐くのはまた別のバイデン。 「我らは自らの力以外で敵を倒すような無様な行いは好まん。 早々とこのようなものは打ち捨て、彼奴らと矛を交えたいという思いが解らんか」 語るバイデンの横にあるもの。 それは、リベリスタが橋頭堡にて設備、使用していた発射台である。 巨大な投石機であるそれらで石を射出し、最前線のリベリスタに轟音を響かせるその様は、以前の防衛戦を逆の立場でまき直しているようにも思えた。 が、当然――『己以外の力』を利用するバイデン達の表情は暗い。 先ほど諫言を飛ばしたバイデン以外にも、十数名のバイデン達が発射台を操ってはいるが、その表情の暗さは、彼らの性質を考えれば言うまでもないだろう。 対し、『悪童』と呼ばれたバイデンは、意地の悪い笑みと共に言葉を返した。 「否だ、ゴラク。俺もまた同様ではある」 「なら」 「だが、なあゴラクよ。不公平だとは思わんか? 彼奴らはこのような道具を散々と使い、我らの仲間を、巨獣達を思うさま蹴散らし、我らは――それが我ら自身の望みとはいえ――只得物と巨獣を活かすだけの、無知な戦だ」 「……」 一度、 言葉に詰まったゴラクに対し、『悪童』は気にした風もなく、会話を続ける。 「不公平だとは思わんか? この道具もまた彼奴ら自身により作り上げた力であることは違いも無かろう。 さりとて、死した仲間共の怨嗟を、慟哭を、彼奴らは与えるのみだ。その痛みが如何なるものか、彼奴らに身を以て教えることに幾許の価値すらも無いと、そう貴様は思うか?」 「……供養のつもりか? 輩の」 下らん、と嘯くゴラクに対し、『悪童』は呵々と大笑した。 「それこそ要らぬ心配よ、ゴラク。 俺は唯、適当な理由を付けてでも、この玩具を心ゆくまま味わいたいだけだ」 「……」 「元より無茶な取り外しをしたものだ、あと数発も撃てばこれらも崩れよう。 戦はその時でも間に合うだろう? 先ずは児戯を終えてから愉しもうではないか」 「……貴様という奴は」 嘆息したゴラク。 だが、二の言葉は告げず、彼もまた渋々と作業に戻る。 残る発射機は五台、それらもまた、投石の度に機体ががたがたと揺れ、崩れ落ちる時はあと僅かと思い起こされる。 なれど、その僅かな時こそが、リベリスタ達を更なる苦境に追い込むファクターたり得るのだ。 均衡する戦線。その瓦解の一端を担う彼ら。 其れを、仮に止めうる者が居るとしたら、それは正しく―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月21日(火)23:39 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 喧噪と土埃。 戦場に疾く広がるそれらを受け、立つは八人の救世者。 「意趣返しとは傾奇な奴だ。……嫌いじゃあない」 ちらと笑みを浮かべ、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)が言う。 「ああ。それに俺らの作ったもんを持ち出してきてるんだってな?」 咥え煙草を片手で弄びながら、言葉を継いだのは『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)。 「悪くねえな。そう言うところも、唯、まあ……」 言葉を切る。 語るべくもないと言わんばかりに、未だ半分近く残る煙草を携帯灰皿にねじ込む。 次いだその時、彼の思考は獣の其れへとスイッチしていた。 ――さあ、此処から先は復讐戦。 何れの中にも去来するのは苦い記憶。 先の橋頭堡防衛戦。惜敗を喫した彼らの記憶は未だ新しく、故にそれは今此処に立つ彼らの、個々の思いを加速させる。 「嫌いだ、バイデン」 多くの者が傷ついた。 「大嫌いだ!」 大切な仲間達が囚われた。 ――全部、滅びてしまえばいい。 故、『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)が、泣き出しそうな顔で思いを吐き出す事を、誰が責められようか。 ……同じくして。 暗い面持ちの『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)が、魔術書と小盾を双手に出した。 「……レイライン様」 全ては彼女たちの力量不足だった。 一時、連れ去られた同胞達は、今こそ自陣に帰ってきてはいる。 だが、その中で失われた恩寵は、死の対価は、二度と帰っては来ないものだ。 二度目は無い――否、作らせない。 異界の魔力が唸りを上げる。『守るための力』は彼女の身を、より固く難く練り上げていく。 「……ああ、そうだ」 乾いた風が礫を運ぶ。 傷む肌に顔をしかめながらも、『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)が、彼女の決意に感化されたように、瞳を眇めた。 「突破されたらボトムに来るんだろ。……それだけは、絶対にさせない」 振るう紫爪は、誰がために。 ――轟音が響く。 アークが造り、バイデンが奪った投石機の音だ。 巨石が大地に降りると共に、悲鳴のような叫びが聞こえた。 痛みと、憎しみの声。 「やらせるかよ」 それを聞き、吐いて捨てる。 『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が炎顎を握る。 手に持つそれと同様に、抱く思いは炎を模して。 交わした約束、王と戦士の想いが交錯する大地。 ――よくぞ戻ってきた、外の戦士たちよ、否、アークの戦士達よ! 雷鳴のような声を覚えている。 巌のような体躯を覚えている。 此処が彼らとの、再度の決戦となるのならば、それは是非も無し。 「フォーチュナのみんなを手助けするために」 脚が大地を蹴り進む。 「最前線で戦う皆のために」 顕なる気に、バイデン達が気づく。 「僕達を救おうとしてくれた気持ちに応えるために」 敵が構える。 だが、遅い。彼らの構えは既に終わっていた。 「――誇りある、戦いを」 戦いが、始まる。 ● 「っ……アークの戦士達か!」 初手の対応に遅れながら、バイデン側の対処は早かった。 「全員散開! 防護態勢を整えながら奴らに接近しろ!」 「おい、ゴラク」 「『玩具』にかまけて戦も行えずに死ぬなどバイデンの恥だろうが!」 「……ま、それもそうだ」 苦笑混じりに、悪童も発射機から手を放す。 それを見て――リベリスタ達も舌を打った。 あくまでも『遊び』に興じる悪童からすれば、戦いなど二の次かと思いきや――少なくとも自身の生命と天秤に掛ける程度の理性は持ち得ていたらしい。 構えたのは双腕。右に骨の小太刀、左に網を巻いた獣皮の籠手。 「望む闘争になるか知らないが、脇でふて腐れてるよりマシだろう」 挑発――と言うよりは、誘惑のそれに近い。 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)がふむと小さな笑みを覗かせると同時、構えたナイフを基点に中空の水分が凍り始める。 「発射台のついでだ、楽しもうか?」 「――上等だ、戦士よ!」 悪童とゴラク、二人を除いた十四体のバイデン。その何者かが笑う。 陰陽・氷雨が舞い落ちる。精度、威力共に申し分ないそれらでは在るも、初手からの交戦を捨て防御専従となった彼らはそれらを冷静に回避。 20mと言う距離は中途半端な部分である。相互の殴り合いには些か足らず、かといって遠距離戦を行うには十二分に過ぎる。 仮に、だ。 仮に、それが適さない存在が居るとすれば―― 「奇矯な風貌よ。それで居て動きに些かのズレも見られぬ」 「!!」 一挙動の内に、ユーヌへ肉迫した悪童。 防御に構えたナイフが空を切る。反し、悪童の骨刀は的確にユーヌを穿った。 貫かれたマントが朱に濡れる。苦悶。腕の肉を削がれた、だけではなく。 「『斬られた』な?」 「――――――!!」 瞬間、その傷口から血が噴き出した。 だけではない。呼吸が止まる。汗が噴き出る。身体に混入された異物の気配に、ユーヌが膝を屈した。 死毒と失血、状態異常としては凶悪な二種が彼女の身体をかき乱した。 「……失策か」 それを見ながら、鷲祐が臍を噛む。 ミカサ、『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)と共に発射機攻略に向かう彼らは、それに対処するバイデンが一人も居ない時点で、『其れ』に気がついていた。 依頼目的と敵の思考は必ずしも同一ではない。 発射機による攻撃がリベリスタ達にとって『戦況を揺さぶられる行為』で在ろうとも、バイデン達にとってそれは『遊び』にしか過ぎないのだ。 自然、目前に迫る危機と期待に対してバイデン達の取る行動は見ての通りだった。 「荒れるぞ、この勝負」 ● 叩きつけられた斧が身を抉った。 体技と得物で大半をいなしたが、衝撃に揺らいだ身体を最後の一撃が食らい付く。 鮮血が吹く。表情が歪む。 ――だから、それが? 「なあ、こうやって戦うほうがバイデン流だろ?」 御厨夏栖斗はバトルジャンキーではない。 平凡な高校生だ。少しばかり正義漢が強く、格好良いところを見せたがる、唯の少年だ。 それでも、 彼の魂を揺さぶった、バイデンという種族に対して、彼もまた同様に、身を焦がす戦を叩きつけ合う。 「気持ちよく戦おうぜ――!」 蹴撃。真空が一直線に戦場の空気を切り裂く。 次いで、殺到。 ぽっかりと空いた大気の穴に急激に流れ込んだ空気が、戦場を土埃そのものへと変化させる。 その直撃を受けたバイデンはたまったものではない。 腕の一本が吹き飛んだ、余波を受けた二体も指の何本かが奇妙に曲がっている状態だ。 「そんな敵の玩具遊びつまんねぇだろ? バイデンは己が力を誇ってこそ、戦いの意味があるんだろ? 来いよ『アークの戦士御厨夏栖斗』が相手するぜ?」 ――オオオオオオォォォォォォォ――――――!! 嘗て、彼らの拠点に於いて行われた『戦士の儀』。 プリンスに単身挑み掛かり、その命を繋いだ『真なる戦士』の名を知らぬバイデンは存在しない。 釣られて何名もが挑み掛かる。その攻撃の一つ一つを見極め、対処する彼ではあるが、いかんせん数の差が在りすぎた。 一撃、また一撃と傷を増やしていく彼を、 「同じく付喪モノマっ! いくらでも相手になってやるっ! しけた面下げてねぇでとっととかかってきやがれっ!」 最中に割り込んだモノマが、近づいた。 脚を払う。腕を挫く。自己再生能力を持ってすれば直ぐに癒えるであろう傷だが、少なくとも夏栖斗が態勢を整えるまでには役に立った。 背中合わせ、互いに互いを守る姿勢を見せた二人を、悪童が笑った。 「良いな! 足りぬならば補えば良い、か。その姿勢はバイデンにとって馴染みが無いだろうが、俺にとっては大いに良いものだ!」 だが! と叫んだ悪童の言葉を、継いだのはゴラクだった。 「勇名一つに戦の理を忘れるな、戯け共が! 総員、得物を持ち替えろ!」 「――――――!!」 リベリスタの間違いのもう一つが、これである。 敵方の装備はあくまで『確認した限り』のものだ。更なる装備を持っていない可能性は否定できなかった。 部下達が出したのは手のひらほどの石刃。柄尻の部分に糸を通したそれらは…… 「スローイングダガー……!」 バイデン側の後衛も同様に、番えた弓をしっかりと後衛に向けている。 俊介が、リサリサが、瞬く間に針鼠となっていく様は、少なからずリベリスタの動揺を誘った。 「すけしゅん!」 「……ばっか、心配すんな……って!」 元の装甲が非常に厚かったリサリサは兎も角として、俊介の受けた傷は決して浅くはない。 それでも、笑う。『守られてばかり』の彼が、前衛の請け負うダメージを肩代わりすることは、些細な喜びでもあるのだ。 ――たまには恩返しする、最高の場面じゃねーか。な、そうだろ? 傷んだ体を立て直す。癒し手の咆哮が、屈強なバイデン達を震わせた。 唸れ、花染。 誇示せよ、聖神。 戦場を覆う光の息吹が、彼らを再び立ち上がらせた。 ● 『不透明な未来の代償』は、バイデン達の後方で戦う三人の身にも襲いかかっていた。 「ちぃ……!」 自身の不利なテリトリーに入る敵への対処を怠っていなかったのは、斧を持つバイデン達だけではない。 鷲祐の刃を、石刃に持ち替えた弓持ちが弾いた。硬質な音。双方の腕に痺れるような衝撃。 態勢が傾いだバイデン達を、まおが即座に躍りかかる。 ダンシングリッパーが土埃を血煙に変えた。細く細い黒弦が弓持ち達の身体を絡め取ると思えば、その時には弦が巻き付いた部分には血が滲んでいる。 「良くもやってくれるものだ、戦士よ――!」 弓持ちの何者かが叫んだ。 それと同時、幾つもの石刃が彼女の身体を貫いていた。 「……っ!」 力量に差はあれど、数の差は大凡二倍差。 速度偏重の鷲祐を除けば、回避、防御共にさして高くはないと言える面子だ。 リサリサ、俊介から成る聖神の息吹が彼らを保たせている部分が大きいが、敵方は能動能力よりも、身体強化に於ける部分に技巧の殆どを費やしていることがこれまでの戦いで解った。 爆発的な回復力に物を言わせるリベリスタ、 生まれ持った自己回復と、特化させた身体能力で渡り合うバイデン達。 戦況は消耗戦に近いものがある。バイデン達が一人、二人と倒れていく内、リベリスタ達もフェイトによる復活を余儀なくされていた。 そして 「あ、……ぅ」 まおが、眩んだ。 末期の一撃を与えたバイデンは、ミカサの連撃によってその命を終えていた。 「荒苦那さん――!」 「……だ、い、じょうぶ、です」 荒いだ息は、未だ生命の色を失っては居ない。 「……無理はしない方が良い。其処で休んでて」 「……っ」 自らの弱さを痛感する。 理解していても、それでも為したいことがあるからと、彼女は異界の地に訪れ、その戦いに身を窶した。 それでも、だ。 動かない身体、呼び起こせない運命。知っていた弱さを、更に呼び起こされる度、まおは表情を歪めそうになる。 「解ってる」 それを、押しとどめたのはミカサだった。 生き残るバイデン二体。傷だらけの鷲祐と彼は、それでも表情一つ変えることもなく、彼らと相対している。 「君と一緒さ。俺も、自分の力が足りないのは知ってる。それでも――」 譲れない物の為に戦う姿を、見せてあげるよ。 紫爪が空気を裂いた。 石刃でいなすバイデンが、空いた身体に蹴りを叩き込む。 衝撃、転倒、倒れた身体に飛びかかったバイデンを、けれどその動きで制止させたのは鷲祐だった。 「……俺を知っているか? ……神速の二つ名を!」 幻想纏いが蒼銀の光を宿す。 ナイフはそれを伝達し、正しく神速の動きで彼の胸を貫いた。 ――神速斬断『竜鱗細工』。 空中に浮いた僅かな瞬間が致命となろうとは、殺されたバイデン自身、想いもすまい。 赤銅の肌が地に墜ちる。それを確認する間もなく、鷲祐の側面に接近したバイデンが、彼の脇腹を抉った。 血が出る。肉が零れる。死にかけたその身が、しかし痛みを以て死んでいないと確信させた。 次手、未だ動きの止まらないバイデンが、次こそ彼を殺そうとしたとき、 「……これが、俺たち、アークのリベリスタ、だよ」 その首は、ミカサによって刎ね飛ばされていた。 ● 「……っ、くそ、聖神……!」 前線側の戦況は、バイデン後衛側で戦う三名よりも苛烈であった。 俊介の花染が光を無くす。術を行使する気力が枯渇したのだとは一目でわかった。 実際、その能力によって癒されたリベリスタ達は、意気軒昂と言えずとも、未だある程度の余力を保ってはいるのだが―― 「万策尽きたか? アークの戦士よ」 ……前線側のバイデンの人数は、悪童を含む十一名から、七名になったのみ。 実際、こうなるに至った経緯は単純な個体差にも因ろうが、それよりも身体能力の強化のみに鍛えられたスキルが物を言った。 挑発するユーヌへの抵抗、夏栖斗、モノマ達に対する呼びかけに対しても、データに因らぬ指揮官肌のゴラクがそれを諫め、的確に狙うべき対象を選んでいる。 戦の有り様は様々だ。 通常のバイデン達……刃を交え、咆哮を語り、命のやりとりをすることが戦であるとする者もいれば、 今相対する彼ら、誇りに背く行いこそ控えど、『勝利』をこそ第一とするバイデンも居る。 「冗談だろう? お前ら程度の力量ならば、最前線に行かせる価値もない」 「ハハハハハ、語ってくれるものよ、だがまあ、全く否定は出来ぬがな」 苦笑を返した悪童の言葉には、僅か、自嘲するような響きすら籠もっている。 「全く……適当な理由を付け、此奴らを前線から下げていたものだが……中々どうして、戦場とは自由に事を運べない」 「? 何を……」 「ユーヌさん!」 リサリサが叫んだ。 意図に気づいたユーヌが身をかがめる。その直ぐ上を石刃が過ぎた。 「過ぎた事よ。今あるものはこの闘争のみ。 漫然と時間を過ごすのももう飽きた。いよいよ決着としたいものだが? アークの戦士達よ」 「はっ、上等だっ! 悪くねぇっ!」 モノマが叫んだ。 それが、終局の切っ掛けだった。 残るバイデンの殆どが石刃を投げる。 俊介が再度の朱を被った。リサリサが残る聖神を響かせる、だが、だが、 傾ぐ身。血に汚れた身体。身一つを犠牲にし、敵方の一手を費やした価値を、しかし夏栖斗とモノマが確かに証明する。 ユーヌが嘲る。唯一人を躍起になって攻め立てたバイデン達の無様を。 アッパーユアハート。そうと気づいたものは、この時ばかりは居ない。殺到する赤銅の群れを、しかし留めたのは夏栖斗達だった。 焔腕が空を巻く。 黒腕が地を囲う。 赤銅の群れに尚負けぬ『赤』を出だした二人が、互いににやりと笑みを浮かべた。 「ナイス! EX焔大車輪ってとこ?」 「未だ未だ、たった三体片付けた程度だぜっ!」 だが、バイデン達も未だ、その全てを終えていない。 悪童が疾った。地を這うかのような低空疾走。 一撃、次撃、違わず当たる。 連撃とその毒が、ユーヌを頽れさせた。リサリサの余力も既に無い。その身は俊介同様、地に横たえられる。 「くそ……!」 夏栖斗が叫ぶ。 一手に届かぬその身体を、しかし代わりに追う者が居た。 ミカサ、そして鷲祐だ。 紫穿、銀閃、その何れが悪童を転倒させる。間違いなく致命傷だった。 だが、 「――退け! 戦いはこれまでだ!」 「っ!?」 急速な幕引きはゴラクの叫びからだった。 慌ててそれを引き留めようとするリベリスタを、しかし鷲祐が止めた。 「止めておけ。此方の余力も、最早無い」 「……っ」 それは、変えられようのない事実。 癒し手の二人は既にその術を行使できず、倒れたものは三名、残る面々もフェイトを利用していないものは少なくない。 発射機は破壊された。 バイデンも、その半数超――九体以上を倒すことが叶った。 戦いは勝利なのだ。だが、この終わりはあまりに―― 「……?」 其処で、気づく。 未だ、去らぬ者が二人、其処にあることに。 ● 「……結局、こうなる訳か?」 嘆息混じりで語るバイデン――ゴラクに対して、悪童はあくまでも平時の調子を崩さない。 「お前からすれば誉れだろう? 戦場の中で死ねるのならば」 「それを奴らにも言ってやれ」 唯二人の戦場。 『リベリスタ』達の能力は個体ごとがリーダー格である悪童とほぼ同等だ。単純に数の差で負けている以上、勝ち目は殆ど無い。 それでも、悪童は調子を崩さない。 「彼奴らはなあ。未だ足りぬところが多い」 「……」 「仮に今、戦場で死ぬとしようが、それはバイデンの誉れよ。それを否定することは無いがな。 彼奴らには、それを最高の形で味わってほしいものだ。足りぬ力量を口惜しみながら果てる在り様は、何よりも彼奴ら自身にとっての屈辱であろう」 「で、我らはその礎か?」 「不服なら言え。今ならもう一人くらいは逃してくれるかも知れんぞ?」 「莫迦を言え、第一此方は既に頭打ちだ」 苦笑する。呵々と笑う。 自らの終局を定めながら、それを是とする彼らの心が斯く在る理由は、恐らくその種族のみが為すことではないのだろう。 「往くか」 「ああ」 三名を欠いた敵方に、未だ引き下がる気配はない。 両者は軽く拳を合わせ、死神舞う死地へと足を踏み入れた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|