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<箱舟の復讐>不可視の戦い『左』


 先の『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の防衛戦に敗れたリベリスタ達。
 バイデン達の威圧に屈した彼等はボトム・チャンネルまでの撤退を余儀なくされたが、仲間を囚われた彼等は黙ってそれで引き下がる程、大人しい者達では無かった。
 戦略司令室の判断を早期に大きく動かしたのはリベリスタ達の熱烈な意見――それは即座にラ・ル・カーナに進撃するべしという強硬論であった。

 優位が確実な防衛戦に比べ、不利は否めない総攻撃である。
 確実な勝機は無い。無いが、時村沙織はこの局面に一つの『追加戦力』の投下を決断する。
『万華鏡』によるバックアップの無いラ・ル・カーナにおいてアークのフォーチュナの能力は限定的なものに留まる。
 最も危険に晒してはならない存在を最前線に投入するのはある意味でのギャンブルに違いなく、リターンが多く望めないならばリスクヘッジを考えねばならぬのは必然だった。
 しかし、彼には一つの考えがあった。『フォーチュナは戦闘能力を持たないが故に最前線に投入し難い』。ならば、『戦闘力のあるフォーチュナが居たならば』。
 そしてそのフォーチュナが『万華鏡に頼らずとも高精度の予知を可能とするならば』。全ての問題はクリアされるのだ。
 本来ならば避けたい『借り』を代価に『塔の魔女』アシュレイはラ・ル・カーナでの作戦従事を了承する。
 そして黙っていられないのはアークのフォーチュナ達も一緒だった。
 苦笑いする沙織も、もう止めない。フォーチュナ達は己が『微力』を振り絞り、危険も厭わずに異世界の地を踏みしめる。剣を持たぬリベリスタ達の戦い、そして剣持つリベリスタ達の戦い。
 まさに今、憤怒と嘆きの荒野を血に染める復讐戦の幕は切って落とされようとしている――


 故に、
「諸君戦争だ! クソ忌々しいアザーバイドどもを鏖殺する戦争の時間がやってきたぞ!」
 普段は人前に晒さない眼帯の奥に隠した異形の瞳を、ラ・ル・カーナの太陽の光にぎらつかせて『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が咆哮をあげる。戦争が大好きで、アザーバイドが大嫌いな彼らしい台詞だ。
 とは言え本来ならばこの場に居る筈の無い、戦闘能力を持たないフォーチュナである逆貫の姿。
「なんだ、私がこの場に居るのが不思議か? 確かに我々フォーチュナは諸君等と比べれば圧倒的に弱い存在だ。時村の御曹司の言い分はもっともだろう」
 白い部分の全く無い、彼が最も忌み嫌う黒曜石の様な右目がリベリスタ達の顔を映し出す。
「だが我々は後生大事に神棚に飾られて守られて喜ぶ程、この局面に黙ってボトムで茶を啜っていられる程、無神経では無いのだよ」
 吐き出された言葉に滲むは怒り。
「諸君等に道を示し、其の任務の一助となる役割を担うのは、あのけしからん乳の魔女でも、ましてやどこぞのアザーバイドの族長でもない。常に我々だ」
 異世界でリベリスタ達を導いたのはフュリエの女王シェルンであり、この局面で時村沙織が頼りとしたのは『塔の魔女』アシュレイだった。
「其れは我々に許された唯一つの戦い方で、我々の忌まわしいこの力を誇って役立てれる手段で、我々の矜持だ。何処の誰にも譲りはしない。なあ、ギロチンよ」
 逆貫が同意を求めるは、傍らでもう1グループのリベリスタ達に任務の説明をする『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)だ。
 アークの司令代行が下した現実的な判断。其れは戦う力を渇望しながらも其れを持たぬ彼のプライドを甚く傷つけたのだろう。
 無力であるが故に、後生大事に守られる屈辱。
「我々は、我々の意思で此処に立っている。何、心配するな。我々に何かあろうとも、カレイドシステムとイヴ君が健在である限り何度でも建て直しは可能だろうさ」
 ふん、と鼻を鳴らす逆貫。余程腹に据え兼ねていたらしい。要するにこのいい年をしたおっさんは、置いていかれて拗ねていたのだ。
「さて、前置きはこれくらいにして説明に入ろう。諸君等も最早帰れとは言うまい? さて、時間も無いし手っ取り早く行くか」
 リベリスタ達に差し出されるは、何時も通りの逆貫お手製資料。
「今回諸君等が相手にするのは、幻影竜とギロチンが名付けた巨獣に跨るバイデンの部隊だ。ああ、何、竜と言ってもギロチンの趣味で、実際には馬鹿でかいカメレオンの様な物だから過剰に心配はしなくて良い。……厄介さでは竜に勝るやも知れんがな」
 厄介さで竜に勝るかもしれないカメレオン。カメレオンの厄介な特性と言えば……、
「そう、今回の敵部隊はステルス部隊だ。この巨獣は、自らの周囲の空間を歪ませ自己と背にのったバイデン達を周囲の風景に溶け込ませる能力を有している。この部隊を放置すれば、本隊の横っ腹に不可視の敵が喰らいつく事になるだろう」
 其れがどれだけ致命的な出来事であるかは、今更語るまでも無い。
 周囲の空間を歪ませての能力であれば、この手の敵へのセオリーであるカラーボールなどの手段も無意味であろう。
「だが完全に見えない訳では決して無い。射撃が届く範囲からでも朧に輪郭は見えるし、音もあるし気配もある。そこに居ると判っていれば、何とか戦えぬ相手ではないのだ」
 逆貫が取り出したのは人数分の荒野用の迷彩色を施されたシート。この手の物は逆貫の家には山ほど転がっている。彼が昔使用していたものが。
「私とギロチンが二人掛かりの予知を繋ぎ合わせ、奴等の進撃ルートと時間を割り出した。諸君等は其の地点で、奴等が来るまで此れを被って伏せていてくれ。奴等は自分達の進撃がバレているとは、ましてや相手にも迷彩の方法があるとは思ってもいないだろう。敵は多く、また戦いにくい。虚を突けるであろう最初が肝心となる」




 左側敵部隊の資料

 幻影竜×4
 5m以上の大きなカメレオンに似た巨獣。ギロチン曰くどこかのゲームで似た様なのを見た事があるらしい。チャームポイントもギロチン曰く3本の角。
 自分や自分に接触している味方や主と認識している者を、其の周囲の空間を歪ませ風景に溶け込ませる能力を持つ。
 この巨獣や、其の背のバイデンに対しての遠距離攻撃には大きなペナルティが、近距離攻撃にも少しのペナルティがかかる。
 爪による攻撃、突進して角での串刺し、尻尾での横殴りはサイズに見合った威力を持ち、遠距離に対しての非常に長く、硬質で鋭い舌を伸ばしての突き刺しも侮れない。

 バイデン×6
 1匹の幻影竜に2人ずつ騎乗している。
 バイデンは好戦的なアザーバイドであり、其の真価は近接戦闘で発揮される。自己再生能力と、反動付きの非常に強力な近接攻撃を持つ。
 今回の部隊のバイデン達が所持する武器は斧。

 バイデン指揮官
 1匹の、4匹の中で一番大きな幻影竜に一人で騎乗している。
 バイデンの中では比較的理知的な個体。実力は高い。
 所持武器は投擲も可能な片手斧を2刀流。予備を腰等色々な所に工夫を凝らしてぶら下げており、合計で8本の斧を所持している。
 名はゲルウォード。




「諸君等と同じ戦場の空気を吸い、今こそ漸く諸君等を戦友と呼べる。……絶対に勝てとは言わん。戦の勝ち負けは水物だ。そして負けたとて心配は要らん。戦友と共に在る戦場で死するなら、この逆貫に恐れも悔いも無い。寧ろこの老兵はその時を待ち望み戦いを続ける者だ」
 懐中時計を取り出して時間を確認した逆貫は一つ頷く。
 バイデンが幾ら闘争を好む種族と言えど、所詮其の歴史は十数年。有史以来延々と殺し合いを続けるボトムの人間達の其れ比べれば、可愛らしいものである。
「さて、名残惜しいが時間は迫る。そろそろ向かってくれ。今回は諸君等の健闘を祈りなどしない。……諸君。共に戦果を!」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月21日(火)23:42
 本隊への奇襲を仕掛けんと進撃して来るステルス部隊に対し、逆に黒歌鳥ST側の依頼参加リベリスタと挟撃による奇襲を仕掛けると言う任務です。此方は左側。
 勝利条件はバイデンに突破されずに倒すor撃退する事。

 このシナリオは、黒歌鳥STの <箱舟の復讐>不可視の戦い『右』 シナリオと判定を共有します。
 ただし、負けたからと言ってバイデンの部隊が必ずしももう一方に雪崩れ込む訳ではなく、バイデン達はあくまでリベリスタ本隊への攻撃を優先させる可能性が高いです。
 逆にリベリスタ側は勝てば相手側を殴りに行く事になります。プレイングにいちいち書く必要はありません。余力があれば、敢えてしないと書いていない限りはそうなります。

 射撃攻撃でも、近接距離から放てばペナルティは近接攻撃と同じになります。
 相手からの攻撃も透明で見難く、非常に危険となっておりますのでご注意ください。

 フォーチュナ二人による予知の相互補完で精度は上がっていますが、それでもカレイドがある普段に比べれば情報は少なめです。相手よりも有利な点を確実に活かして対処してください。

 敵の能力的に難しい任務になりそうですが、お気が向かれましたらどうぞ。


●重要な備考
『<箱舟の復讐>』はその全てのシナリオの成否状況により総合的な勝敗判定が行われます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
レイザータクト
アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)


 荒野に迷彩シートを被って伏せ、じっと待つ。
 まるで死体にでもなったかのような気分に、リベリスタの一人が苦笑いを浮かべる。
 二人のフォーチュナに拠って予知された時間まで、後ほんの僅かだ。
 遥か遠くが、一瞬揺らぐ。其れが起きると判って居なければ、見逃してしまいそうな居瞬の揺らぎ。
 陽炎等ではない。このラ・ル・カーナにボトムと同じ様な陽炎が起きるのかどうかは定かでないが、其の揺らぎは自然現象ではなく、人為的な、バイデン達が駆る巨獣、ギロチンが名付けた所の幻影竜の能力によって引き起こされた物。
 移動する揺らぎが此方に達するであろうタイミングは、告げられていた時刻とほぼズレが無い。
 2人のフォーチュナが力を合わせたとは言え、カレイドスコープを使用せず其れを割り出すには一体どれ程の労力を必要としたのか。
『共に戦果を』
 リベリスタ達を戦友と呼んだ逆貫とギロチンは、己の役割を果たした。
 地に伏せたままの『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の唇が笑む。次は自分達の番だと。
 普段は冷静な彼をしても、戦い前の高揚が抑え切れずに身の内より溢れ出したのだろう。
 アークがこの敵地となるラ・ルカーナでの不利な戦いを敢えて選んだのは、快を含めた8人の虜囚を救わんとする者が多かったからだ。
 無論其れが理由の全てではないにせよ、不利な地での戦争を選択させてしまった一因であるとの自責を感じずに居られるほど快は無神経ではない。
 カレイドスコープの使えない不利な地での決戦だからこそ、身の危険を犯して、アーク司令代行の意向に反発してまで、フォーチュナ達が前線へと出張って来てしまったのだ。
 誰が責める訳ではなくとも、其の事実は彼の心を締め上げる。
 けれど幸いなるかな。アークの其の勇敢な選択は、快に其の借りを返す機会を与えた。
 アザーバイドであるバイデンの価値観を正確に推し量る事は難しい。
 だが勇猛なるバイデン達は、敗戦に折れずに異世界への再侵攻を選んだアークを認め、更には命を賭けて戦士の儀を乗り越えた捕虜達の勇敢さも認めた。
 自らを助けんと世界の壁を越えて再度この世界へとやって来た仲間達への借り、戦場で決着をつける為に虜囚を解放したバイデン達への借り、どちらも背負い込むべき物ではないのだが、借りを返す機会は目前だ。
 決意とほんの少しの自嘲、そして喜びの混じった笑みを浮かべた快は、横たわる四肢に徐々に力を込めていく。
 だがそんな快の様子を横目に見た『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)は、ほんの少しだけ呆れを覚える。
 逆貫も偉く格好良さげな事を言っていたが、なぜ男達はこうも思い込みが強いのだろうのか。いい歳をしていても、どこか、そう、子供っぽい。
 そもそも逆貫の発言なんて何を今更と言った感じだ。
 戦地に赴くだけでが戦いではないのだ。逆貫自身が如何思っていたとしても、彼は元々ずっと一緒に戦っていたというのに。
 其れに気付かない逆貫も、見せない様にはしていても自責を抱えた快も、そしてこじりが何時も心に描く何より大切な彼も、男は皆幾つになっても馬鹿ばかりだ。
 でも多分、きっとだから、偶に腹も立つが、それはそれで其処が可愛い所でもあるのだろうけど。


 カチリ、遥か遠くで懐中時計の秒針が予定時刻を指し示したその時、荒野にまた一つ戦場が生まれた。
 仲間の合図と共にシートを跳ね上げたアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が投擲するは、神秘の力で生み出された光の玉。
 不意に現れた人の姿に驚愕するバイデン達の気配の真ん中で、その光の玉が閃光と共に弾け飛ぶ。
 透明に揺らぐ朧けな敵影に対し、集中に集中を重ねた、戦いの火蓋を切って落とす其の一撃。閃光と衝撃で動きを縛り、意識も逸らす。
 アルフォンソのフラッシュバンの閃光に一瞬映し出される4匹の幻影竜と、其の背のバイデン達の影。
 閃光と透明化で目には映らずとも、其の慌てる様を耳で、集音装置でしっかと捉えた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が僅かに笑う。
 逆貫は予知でこの光景を見ただろうか?
 此処までを彼が見ていたとしても、此の先は揺らぐ予知の届かぬ未来。
 猛っていた彼の姿は、年寄りの冷や水をチラと思わせる物だったけれど、だがまあ老後の楽しみに協力してやるのも偶には良いだろう。
 老兵の昔語りに、一つの花を添えてやろう。
「道中暇だろう? 退屈しのぎに遊んでいけ、お代は首で十分だ」
 言葉と共にユーヌの周囲に満ちる道力が占うは、一匹の幻影竜の不運。占いは、其れを理解する知恵を持たぬ幻影竜に、けれども本物の不吉の影を呼ぶ。幻影竜の身に染み込んだ災いが、呪殺の力に暴れ身を刻む。
 無論リベリスタ達の猛攻は此の程度では終らない。そう、正に正しく猛攻だ。
 静かに、密かに、事前の準備を整え、集中に集中を重ね、練りに練り上げた力の発露。相手の虚に叩き付けられる、最大火力。
「見えなくても私たちは負けない!」
 戦場を焼き払う白き閃光。厳然たる意思を秘めた其の光は、『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)によって放たれた。
 少しの土煙も、空間の揺らぎも見逃さんと眼を大きく見開く彼女。例え見えない敵が相手だろうと、アリステアは諦めない。
 閃光に再び敵影が照らし出される。
 映し出された其の影の、3本の角に対して振るわれるはこじりのデッドオアアライヴ。硬質の物質同士がぶつかる甲高い音を響かせ、こじりの一撃は幻影竜の首を大きく弾く。
 とは言えこじりの一撃に大したダメージは発生しない。何せ其の部分は幻影竜の身体の中でも最も硬く、言うなれば武器を叩くも同然だ。
 けれど弾かれ横を向いて伸びた首は、其の付け根、生き物にとっては致命的な弱点を曝け出す。
 ズブリ、と隙を逃さず其処へ突き込まれたのは、今回集まったリベリスタのこじりに並ぶもう一つの主砲だ。
「へっ、どうだ!」
 デッドオアアライヴで突き込んだバスタードソードを引き抜き、『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)がニヤリと笑う。
 勢い良く噴出す鮮血に……、透明化を解除して傾ぐ巨体。
 何とか踏み止まらせんと其の背に乗るバイデン達が声を張り上げるが、露わになった2人のバイデン達を、そして瀕死となった幻影竜を貫くは気で作られた細い糸。
 ピンポイント・スペシャリティ、『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の全身から放たれた複数の気糸は、バイデン達の腕を、胸を、そして幻影竜に対しては先程宗一が刃を突き込んだ其の穴を、正確に貫き通している。
 ダメ押しの一撃に、命を失い其の巨体を地に横たえる幻影竜。
 其の死に様に、彩歌は一瞬サングラスの奥の目を細める。巨獣は唯戦いに使われているだけの、知恵乏しき動物に過ぎない。其の存在に罪らしき罪は無い。
 いや、巨獣だけではない。罪が無いと言うならばバイデンとてそうだ。此の世界へ勝手に踏み込んだのはリベリスタ達。前回も、今回も、戦いを選んだのは自分達なのだ。
 巨獣もバイデン達も、自分たちの領分で自分達の理を通していたに過ぎない。弱肉強食と、闘争の理を。
 罪など、何処にも在りはしなかった。
 けれど、彩歌は次の獲物を見定め狙いを据える。冷徹に、殺す為に。
 バイデン達はボトムに関心を持った。故に、殺す。
 ボトムに彼らの理を持ち込ませる事は、彩歌にとって耐え難い。失う事が怖い。
 故に、失う事を恐れて手に入れた力を使い、巨獣を、バイデンを、彩歌は殺す。

 序盤から全力をぶつけ、バイデン達を圧倒したリベリスタ。
 大半のバイデンは、そして彼等が駆る幻影竜は、リベリスタ達に良い様に翻弄されていた。
 彼等の指揮官であるゲルウォードが駆る一際大きな幻影竜ですら、其の大きさを目印にされ、『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)のピンポイントで意識を其方に惹き付けられている。
 熱感知による存在の把握を、透明化への対策とし、念入りに準備された正確無比な攻撃に抗えという方が無茶だろう。
 だがバイデン達とて全てが唯無様にされるがままで居た訳では、無い。
 不意に空間に湧き出た飛来する手斧が、吸い込まれる様にアルフォンソの胸に突き刺さる。
 例え騎乗する幻影竜がエレオノーラの手玉に取られていたとしても、其の背のゲルウォードは冷静なままだった。


「見えなければ気付かない、攻撃できないと思っていた? 生憎だけど外の世界じゃあワリとありがちなのよ」
 異世界の戦士、エレオノーラの言葉にゲルウォードの顔に刻まれた戦いへの喜びが深くなる。
 思い出すのは今騎乗する幻影竜を捕らえた時の苦労だ。透明化した幻影竜を捕らえる為にあらゆる手を使い、成し遂げた時の興奮と達成感。
 それが外の世界ではありがちだと眼前の異世界の戦士は言う。ならば其処はどれ程に愉しませてくれる世界なのだろう。
 地面に放り出された迷彩シートに視線を注ぐ。
 自分達が偶々居た巨獣の性質を利用しているだけなのに比べ、なんと異世界人は自分達で其の手段を加工し作り出しているのだ。
 なんと面白い。きっと迷彩だけではない筈だ。飛行や、地を潜る術すら貪欲なボトム人達は自らの手で作り出しているかも知れない。
 更に続いたリベリスタ達の透明化に対しての苦情……、もしかしたら挑発の心算だったのかもしれないが、を聞き流しゲルウォードは戦況を見渡す。
 其の傾向があり、其れを好むのも確かだが、そもそも今までも散々奇襲だの降下だのを駆使して攻めて来ているバイデンに、今更何の幻想を抱くのか。
 闘争の手段を選ぶという発想自体無いのかも知れないとの、彩歌の考えが正しいか如何かは判らないが、宗一の言う通り、先の戦いでも判明したように戦いに関してのみならばバイデンは唯の脳筋の一言で切り捨てられる程に単純な存在ではない。
 奇襲の混乱を抜けても尚、戦いのイニシアチブを握るのはリベリスタ達だった。
 ゲルウォード配下のバイデン、彼等が駆る幻影竜達が躍起になって攻撃を繰り返すのは、一人の小さな少女、ユーヌに対して。
 幻影獣が角を振り翳して突撃し、バイデン達は其の背から斧を振り下ろす。襲い来る圧倒的な質量を前に、あの小さな少女が砕けなかった理由は唯一つ。
 ユーヌの前に立ち、彼女を庇う快が全ての攻撃を己が身で全て受け止めたからだ。恐れる事無く見えぬ攻撃の前に立ち、血塗れになる一人の戦士。
 其の名はゲルウォードも知っている。戦士の儀を乗り越えた一人だ。
 成る程大したものである。アレとアレが庇う者を砕かねば、此の状況を五分に戻す事は出来ぬのだろう。
 恐らくは何らかの術で、部下のバイデン達はあの少女に惹き付けられているのだから。
 手斧の柄を握るゲルウォードの太い前腕がミチィと更に膨れ上がる。
 だがゲルウォードは快を狙わない。通常、如何考えてもあの質量を一人で支え切るのは不可能な筈。ならば其れを可能とする要因は他にある。
 尋常ならざる握力から解放されて宙を舞う手斧が狙うは戦場後方から回復を飛ばし快を支えていたアリステア。リベリスタ達にとってのアキレス腱を見つけ出したのは闘争の本能か、巨獣を狩るハンターとして身に付けた嗅覚か。
 しかし其の手斧は、見えざる投擲者の手から放たれる不可避の一撃は、アリステアの身に届かず、代わりに射線に割って入ったアルフォンソの喉に突き刺さる。
 既に倒した筈の相手のまさかの行動に、冷静なゲルウォードも流石に僅かな呻きを洩らす。ゲルウォードが最初に放った一撃は、彼にとって会心の一撃だったのだ。クリーンヒットどころではない。更に其の上の上をいったであろう手応えを確かにゲルウォードは感じ取っていたのに。
 運命を対価にしての踏み止まりを目の当りにした事がないゲルウォードは其のカラクリに気付かず、プライドを傷つけられた屈辱と、敵の想像以上の手強さに対する喜びに身を震わせる。


 荒野の戦場で死闘は続く。
 二体目の幻影竜も其の身体を地に横たえ、姿をあらわにしたバイデン達もリベリスタ達の火力に巻き込まれて大きな損害を被っている。
 けれども、だ。同様にリベリスタ達もまた甚大な被害を被っていた。守り続けてくれたアルフォンソを失ったアリステアも彼の後を追う。身体に食い込んだ手斧2本を、決して返さぬとばかりに抱きかかえて崩れ落ちた彼女。
 一手に攻撃を集め続けたユーヌを庇う快もまた、回復手を失った事により限界が訪れる。一度は踏み止まれど、運命の加護は二度も三度も使えない。角の一本を圧し折られた巨獣の、残る二本角が腹を貫き、頭を振って彼の身体を遠くへ投げ捨てる。
 攻撃に専念し続ける宗一も、姿を現したバイデン達の集中攻撃の前に膝を折り、血反吐で荒野を赤く穢す。
 熱感知や集音装置を活かす事で、敵の攻撃を察知し、回避に活かすエレオノーラやユーヌはまだ少しばかりの余裕があるが、誰も彼もが倒れていく。
 幾度目になるのだろうか? 再び放たれた彩歌のピンポイントスペシャリティに、3匹目の幻影竜が瀕死となり、2人のバイデンが倒れる。血で血を洗い、荒野を朱に染める凄惨な戦い。
 当然の様に、弱った獲物はトドメを刺された。幻影竜を殺したのはこじりの放ったデッドオアアライブ。
 敵を仕留めても、こじりは表情に何の感慨も浮かべない。血が泥沼の様に纏わりつくこの場所では、笑う体力すらが惜しいのだ。
 リベリスタ達が此処まで苦戦した最大の要因は、やはり敵の指揮官ゲルウォード。見えざるフォームから投擲される破壊力に満ちた手斧は、リベリスタ達を大いに苦しめた。
 しかし既に使用された手斧の数は7本。最後の一本を手放せば武器の全てを失う為に、もうそう易々とは投擲出来ない。
 互角の戦いを繰り広げながら、互いの戦力を削り合うリベリスタとバイデン。
 開始からどれ程の時が流れたのか? 未だに戦いの趨勢ははっきりと定まらない。
 エレオノーラやユーヌの回避便りの壁が不運な一撃で壊れてしまえばバイデンが勝つだろう。しかしそれさえなければ、こじりと彩歌が確実に削り、恐らくリベリスタが勝利する。
 見えない戦いの行く末は、けれど意外な所で決定付けられた。

 いや、違う。最初から其れは判っていたのだ。
 唯余りに凄惨な戦いが、思考の余裕すら奪うへばり付く血糊が、其れを忘れさせていただけである。
 バイデン達の遥か後方から、ボトムの言葉で鬨の声が響く。
 右側のバイデン部隊を相手取っていたリベリスタの一部が、そう、向こうも激しい戦いとなったのだろう。こちらへと辿り着いたのは向こうのリベリスタの、ほんの僅かな一部のみ。
 だが其れでも士気高く、彼等は自分達の存在をアピールしながら駆けて来る。
 敵に動揺を、味方に勇気を届けんと、声の限りに気勢を上げて。
 並みの相手ならそれだけで敵は壊走し、戦いは終っただろう。だが相手はバイデンだ。
 最後の一人が倒れるまで、その戦いは終らない。

 …………やがて、最後の一人となったゲルウォードの胸を、心の臓を、刃が貫く。
 未だ嘗てナイフが此れほど重たかった事があっただろうか?
 エレオノーラは疲労に萎えた細腕に、最後の力を込め、刃を捻る。
 そうせねばならないのは、身体のつくりが違うアザーバイドだからではない。心の臓を刺しただけなら、ゲルウォードは、この最後の一滴まで闘争を諦めなかった戦士は、其の魂で一撃を繰り出しかねないから。
 荒野は一人残らずバイデンの血を吸い尽くし、長い、戦いの幕は下りる。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 全体的な方針はよく考えられてて良かったと思います。
 ただ個々のプレイングには齟齬や穴がちらほら見られました。初手の行動がちぐはぐだったりとか。
 ラスト付近まで拮抗状態が続きましたが、結果はこうなりました。
 お疲れ様でした。お気に召したら幸いです。