● 熱を孕んだ空気が、喉をひりつかせる。 風が砂を巻き上げた時、唐突にそれが視えた。 戦場に渦巻く炎。 混乱の中を駆けていく黒い馬と、その背にまたがった赤銅の肌の戦士。 巨大な赤いトカゲが、灼熱の衝撃波を口から吐いて――。 視えるビジョンはひどく断片的で、なかなか全容が掴めない。 いかに普段、万華鏡に頼っているかを思い知らされるが、それは始めからわかっていたことだ。 可能な限り情報を読み取り、皆に知らせなくては。 そのために、自分はここに来たのだから。 ● ラ・ル・カーナ橋頭堡における戦いは、バイデンの勝利に終わった。 バイデンの攻勢に屈したアークのリベリスタ達は異界に築いた橋頭堡を失い、ボトム・チャンネルへの撤退を余儀なくされたが、闘志を失わぬ彼らの目は既に『次の戦い』へと向けられていた。 何しろ、八人ものリベリスタがバイデンの捕虜となっているのだ。 ラ・ル・カーナに再び侵攻し、囚われた仲間を一刻も早く救出すべし――という意見が大勢を占めたのも、無理からぬことだろう。 とはいえ、相手は精強なバイデンだ。 彼らに正面から野戦を挑むとなれば、先の戦いと比較しても不利は否めず、勝ち目は薄い。 そこで、アーク戦略司令室室長・時村沙織は『追加戦力』であるフォーチュナの投入を決断した。 万華鏡(カレイド・システム)の目が届かないラ・ル・カーナにおいて、フォーチュナの能力は著しく制限される。非戦闘員である彼らを最前線に送るなど通常では考えられないことだったが、『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアという『例外』がこれを可能にした。 高い戦闘能力を持ち、さらに万華鏡なしで高精度の予知を行える彼女の存在こそ、沙織が用意したアークの切り札だった。本来は借りを作りたくない相手ではあるが、背に腹は変えられないということか。 アシュレイは沙織の要請に応じ、今回の作戦に従事することを了承した。 かくて、アークのリベリスタ達は再び、ラ・ル・カーナの地を踏むことになったのだ。 憤怒と渇きの荒野を舞台に、今、『箱舟(アーク)』の逆襲が始まろうとしている――。 ● 「本隊を離れて、こちらの側面に奇襲をかけようとするバイデンの一団がいる。 悪いが、対応に回ってもらえないか」 荒野の乾いた風が吹く中、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は近くにいたリベリスタ達を集めてそう告げた。 本来、『普通のフォーチュナ』でしかない彼は戦場に立つべき人間ではない。 しかし、この苦境に黙っていられないのはフォーチュナも同じ。 能力が制限されようと、己の身が危険に晒されようと、できる限りのことをしたい――と、制止を振り切って参戦を希望するフォーチュナは後を絶たず、数史もその一人だった。 「万華鏡が無いもんで、断片的にしか視えなかったが…… バイデン達は二手に分かれ、それぞれが違う種類の巨獣の背に乗って進んでいる。 おそらく、先行組がかく乱し、混乱に乗じて後続組が突入する――という形だろう」 敵の構成はバイデンが八名にトカゲ型の巨獣が四体、馬型の巨獣が四体。 バイデンと馬型巨獣については詳しい情報は得られなかったものの、先行組のバイデンが騎乗するトカゲ型巨獣の能力はある程度掴めている、と数史は言う。 「こいつは速い上に、麻痺や混乱などの搦め手を得意とする。状態異常も効きづらい。 だが――ある意味で一番厄介なのは、戦場を炎で包む能力だろう。 この中では視界が制限されるから、後続組がどこから突っ込んでくるか分かりづらくなる。 遠距離攻撃の命中率も、かなり下がると考えた方がいい」 ただ、後続組が突入するタイミングは判明している。先行組との交戦開始から、約三十秒後だ。 「虫食いだらけの情報で申し訳ないが、連中の奇襲を許せば損害は免れない。 ……頼まれてくれるか」 リベリスタ達に語る数史の表情は、明らかに強張っていた。 自ら志願したとはいえ、まったく戦う力を持たない彼にとって、この戦場の空気は並ならぬプレッシャーになっているのだろう。 リベリスタの一人が、大丈夫か、と思わず口にする。 黒翼のフォーチュナは、苦笑して答えた。 「……正直言って怖いよ。怖くないと言ったら嘘になる。 自分から来ておいて、情けない話だけどな。 でも、一番後ろに引っ込んでる俺達よりも、前で戦う皆のがよっぽど危ないだろ」 だから、こっちのことは気にするな――と精一杯の虚勢を込めて続ける。 数史は一つ息を吐くと、リベリスタ達、一人一人の顔を見て言った。 「こういう状況だから、無茶をするなとは言わない。 だが――どうか気をつけてな。必ず、全員で帰ってきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月16日(木)23:07 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 迎え撃つべき敵が、近くに迫っていた。 仮面越しに前方を眺める『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が、「さて再戦ですな」と呟く。 先日の戦いでアークを破った赤銅の戦闘種族――バイデン。 その精強さはもちろん、彼らが従える巨獣たちの力も侮れない。 厄介極まりない相手ではあるが、退くつもりはなかった。 「自分の身を危険に晒しても、此処に来てくれた数史さんの為にも、 この戦い、負ける訳にはいきませんのう」 くっくっくっく……と仮面の奥からくぐもった笑いを漏らす九十九に、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が頷く。 戦えぬ身でありながら、リベリスタの『目』となるべく同行したフォーチュナ達。 彼らの覚悟を、無駄にしてはいけないと思う。 「値千金の情報を活かして、絶対に勝たなくちゃね」 出発前、「トカゲのしっぽでもお土産に持ち帰るから楽しみにしてて」と告げた彼女に、黒翼のフォーチュナは「期待してる」と笑ったものだ。 「ここで勝利しないと、私たちの世界にとってもフュリエにとっても 厄介なことになると思うし、全力でがんばるわ」 近付く敵を凛と見据え、『下策士』門真 螢衣(BNE001036)が口を開く。 「防衛戦では敗北を喫したわたしですから、今度は勝って汚名返上したいところです」 術式用手袋に覆われた彼女の手は、固く握られていた。 「進軍阻止かー。撃滅じゃあないってことは強いってことだよねー」 盾座の力を宿す外套を顔に巻きつけた『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が、“大火(アンタレス)”の名を冠する禍々しいハルバードを不敵に構える。 「――でも勝ちに行くぜ―、アンタレス! 勝負事ってのは、負け続けるとつまんねーからなー」 揺らめく炎の如き刃の中央で、巨大な赤い瞳が敵を睨みつけた。 赤いトカゲのような巨獣の背に跨ったバイデンが四騎、互いに少し距離を空けて横一列に駆けてくる。 フォーチュナの予知によると、さらに馬型巨獣に乗った四騎が増援に来るという話だった。 「蜥蜴と馬、何とも奇妙な組み合わせですね」 眠たげな目を細め、明神 暖之介(BNE003353)が呟く。 感心はすれど、ここを抜かせる心算はない。どんな姿の敵であろうと、阻むまでだ。 「――さて、始めましょうか」 暗殺者として研ぎ澄まされた刃を内に秘め、暖之介がにこりと笑む。 リベリスタ達はバイデンの進路に立ち塞がると、高らかに名乗りを上げた。 「われこそはアークのはいぱーすぺしゃるさぽーたーミーノなのっ!!」 堂々と胸を張る『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ ミーノ(BNE000011)の声に、バイデン達が足を止める。続いて、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が主将と思しきバイデンに語りかけた。 「怯えを知らぬ誇り高き戦士共とお見受けする」 バイデンを釘付けにするには、彼らが何より求めてやまぬ“闘争”を提供してやるのが最も手っ取り早い。それを、リベリスタ達はよく理解していた。 「間違いで無いならば一戦を! 何れかが斃れ伏す迄の、激戦を!」 うさぎの声に、主将が口の端を持ち上げる。 「この先には、もっと多くの『リベリスタ』が居るのだろう。 貴様らだけで、我らを満足させられるか?」 「大きい方が美味しいとは限りませんよ、バイデンさん。我々も食い出には自信があります」 うさぎの後方に立つ『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、艶然と微笑んでみせた。 「そーれーとーもー、実は少食さんですか? なんて。うふふ」 茶化すような言葉を受けて、主将はさも愉快そうに呵呵大笑した。 「面白い! その馳走、期待して良いのだろうな!」 乗騎の背で、バイデン達が一斉に武器を構える。『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)が、勇者の剣を掲げて叫んだ。 「かかって来いバイデン!! 返り討ちにしてやるのですよ!!」 戦いを前に、鬨の声を上げるバイデン達。初めて相対する彼らを眺め、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が呟いた。 「全く、ガチンコでの闘争が望みとは暑苦しい連中だ。 ……だが、嫌いじゃないぜ」 帽子を被り直し、バイデン達を鋭く睨んで啖呵を切る。 「オレの名は禍原福松。今この瞬間から、お前の敵に回る!」 リベリスタとバイデン、両者の戦いがここに幕を開けた。 ● 先手を取ったのは、赤いトカゲに跨るバイデン四騎。 彼らは、それぞれの進路を塞ぐうさぎ、九十九、暖之介、福松の四名に真っ直ぐ駆けて接敵すると、乗騎に命じて周囲を炎に包んだ。 ミーノが、防御結界を展開して守りを固める。 肌を焦がす炎にも負けず、彼女は明るい声で仲間達を激励した。 「みんな、たたかいがはじまるよっ♪ ふぁいとっ」 バイデンは強い。ミーノの優れた指揮能力をもってしても、勝つのは簡単ではないだろう。 だから、精一杯の笑顔で皆をサポートする。それが自分の役割だと、彼女は信じていた。 敵の突破を阻む福松が、素早く側面に回り込んで拳を繰り出す。小柄な彼の攻撃は、トカゲに騎乗するバイデンの足を狙い通りに打った。 「――出来る限り後ろへ!」 死の刻印を放って眼前の主将を牽制しつつ、うさぎが後衛の仲間達に指示を飛ばす。 射撃の精度が落ちる上、体力を奪われ続ける炎の中で全員が戦うのは避けたい。敵の配置が横一列である以上、炎から逃れるには後方に下がるのが最も早い筈だ。 既に接敵されてしまった前衛は相手の妨害で自由に動けないが、後衛だけでも炎の外に出ることができれば――。 愛用の改造小銃を携えたユウが、炎の壁から脱出を果たす。 敵に対する視界は遮られたままだが、打たれ弱い彼女にとっては炎によるダメージを軽減するだけでも意味はあった。命中率の低下を少しでも補うべく、自らの動体視力を強化する。 続いて飛び出したニニギアが、頭をガードしていた両腕を下ろした。 「髪がこげこげになるところだったわ……」 小さく息をつきつつ、周囲の魔力を取り込んで神秘の力を高めていく。炎の中で、バイデン達が剣を振り上げるのが見えた。 斬撃を盾で受け止めた九十九が、仮面の奥でくっくっくっく、と笑う。 「此処までの行軍お疲れ様でしたな、バイデンの皆さん。 残念ながら、此処から先は通行止めですぞ」 集中力を極限まで高めていく彼の瞳に、敵の姿がコマ送りの如く映った。 「どうしても通りたいなら、私達を倒してから進んで下さいな。 ただし、盾を装備した私を、そう簡単に倒せると思わないで欲しいですがのう」 主将の攻撃を受けたうさぎの傷を、螢衣が癒しの符で塞ぐ。 荒れ狂う炎の中を、“アンタレス”を構えた岬が駆けた。 炎を防ぐために顔に外套を巻いているものの、熱は容赦なく彼女の全身を焼く。それでも、怯むことはない。 「心頭滅却すればなんたらーだよー」 横方向に伸びた戦場の右手側に回り、邪悪な意匠のハルバードを一閃させる。 全身のエネルギーを集中した一撃を受け、福松と戦っていたバイデンが宙を舞った。 地面に叩きつけられたバイデンを視界の隅に映し、暖之介が眼前の敵との間合いを詰める。 「まずは、此方へと降りて頂きましょう」 彼は巧みな体捌きで死角に潜り込むと、黒き破滅の影でバイデンの頭部を打った。赤銅の巨体が、衝撃に揺らぐ。すかさず肉迫した光が、勇者の剣に輝く闘気を込めた。 「ボクに任せるのです! くらえハイメガクラッシュ!!」 激しくもんどりうったバイデンが、鞍上から姿を消す。暖之介は、残されたトカゲの様子を注意深く窺った。運が良ければ、このままバイデンの手を離れる可能性もあるが――。 (さて、バイデンの方々による日頃の躾の成果を拝見致しましょう) 炎渦巻く戦場に、主将の口笛が響く。 騎手を失い浮き足立っていたトカゲ達は、それを聞くと、近接するリベリスタ達に襲いかかった。 高熱の衝撃波を浴びて、光が動きを封じられる。 辛うじて直撃を免れた暖之介は、穏やかな表情を崩さぬまま口を開いた。 「成程、喉を焼かれかねない程の熱ですね」 どちらかと言えば暑さに弱い性質なのだが、この場合はそんな事も言っていられないだろう。 「ぶれいくひゃー!!」 ミーノが、邪を退ける光で仲間の麻痺を消し去る。 炎の中を猛進する岬が、邪悪な意匠のハルバードを両腕で振り上げた。炸裂したエネルギーが、今度は九十九の前に立つバイデンをトカゲの背から叩き落す。 「巨獣だけじゃあ進軍できないからねー」 口笛で操るにしても、バイデンが巨獣の近くにいる必要があるだろう。まずは両者を分断し、バイデンを優先して叩くのがリベリスタ達の戦術だった。 自分を吹き飛ばした岬を得難き強敵と判断したのか、地面から跳ね起きたバイデンが二人、彼女に打ちかかる。次いで、もう一人の剣が光を捉え、主将の鋭い突きがうさぎの肩を傷つけた。 ニニギアの呼び起こした聖神の息吹が、仲間達に癒しをもたらす。背の翼でふわりと舞い上がったユウが、炎に包まれた戦場に目を凝らした。 (これで少しでも炎による命中低下が緩和できれば……!) “Missionary&Doggy”から放たれた弾丸が天を射抜き、降り注ぐ炎の矢がバイデンと巨獣を襲う。 直撃にこそ至らなかったものの、この不利な条件下で殆どの敵に当ててみせたのは見事と言えた。 今や唯一の騎手となった主将の猛攻を凌ぎつつ、うさぎが叫ぶ。 「攻撃の集中を!」 早いうちにバイデンの数を減らさなければ、敵の増援で危機に陥ってしまう。 ここは、何としてもリベリスタ全員の狙いを統一し、徹底する必要があった。 そのためには頭くらい下げる。なんなら土下座したっていい。安いプライドなど、犬に喰わせろ。 「一番弱ってるのはあいつだ。そこから狙ってくれ」 後衛を守るべくトカゲをブロックし続ける福松が、岬を狙うバイデンの一人を示す。 揺らめく炎を瞳に写し、螢衣が呪符を舞わせた。 「我が符より、一つ出て抉れ鴉」 生み出された鴉の式神が、バイデンの肌を傷つける。すぐ近くに立っていた九十九が、至近距離から魔力銃の銃口を向けた。 「射手が接近戦が出来ないと思っているなら、その油断を撃ち抜いてくれます」 たとえ目が塞がれようと、彼には鋭い聴覚があり、研ぎ澄まされた勘がある。この距離で、狙った獲物を外すことはない。 撃ち出された神秘の弾丸が、バイデンの心臓を貫いた。 ● ようやく一人を倒したものの、リベリスタ達は苦境に立たされていた。 もともと戦列が横に長いことに加え、バイデン達は騎手を欠いた巨獣をも駆使して前衛を足止めにかかり、半ば分断している。 結果、近接攻撃を主体とするメンバーは狙える敵が制限され、思うように火力を集中できずにいた。視界を遮る炎により、射撃も本来の威力を発揮できない。 「巨獣から降りて正々堂々と戦うです!!」 眼前のバイデンにハイメガクラッシュを叩き込みながら、光が主将に向かって叫ぶ。主将は今もトカゲの背にあり、巨獣との連携でうさぎを苦しめていた。守りに秀でたうさぎでなければ、この時点で倒されていただろう。 光も、岬も、今は別のバイデンに張り付かれて身動きが取れない。癒しの符でうさぎの背を支える螢衣が、辛辣な口調で主将を挑発した。 「トカゲに乗っていないと戦えないなんて……軟弱なバイデンもいたものですね」 「そういう言葉は実力で我を引き摺り下ろしてから言うのだな、『リベリスタ』!」 体格に見合わぬハルバードを振るう岬が、炎の如く揺らめく刃をもって相対するバイデンを屠る。そろそろ、敵の増援が来る時間だ。 できれば、その前に炎から脱出したかったが、前衛の大半が抑えられている現状では難しい。バイデンも、自らの得意とする領域から敵を出すつもりはないのだろう。 槍を携え、黒い馬に似た巨獣を駆るバイデンが四騎、側面から迫り来る。 いち早く気付いたミーノが、全員に警告した。 「バイデンがくるのっ!!」 状況は厳しいが、こういう時こそ自分がしっかりしなくてはならない。 今回こそ、完璧な戦闘指揮力でバイデンを懲らしめてやる番だ。 トカゲが放つ熱波をかい潜り、うさぎが主将に死の印を刻む。 「じゃあ実力で叩き落とすよー」 駆けつけた岬が、渾身の一撃で主将を吹き飛ばした。巨体が炎の壁を突き抜けた瞬間、ユウがここぞとばかりに火矢を浴びせる。 直後、到着した四騎のバイデンが暖之介と光を襲った。 身構えてはいたものの、その突進の威力は凄まじい。勢いを乗せた巨獣の体当たりを連続で喰らった二人は、立ち続けるのに自らの運命を差し出さねばならなかった。 「二度目の敗北はないのです!! 今回は負けないのですよ!!」 決意とともに、光は勇者の剣に闘気を込める。 「ここは絶対に通さないのですよ!!」 全身の力を溜めた斬撃が傷ついたバイデンを捉えた瞬間、素早く懐に潜り込んだ暖之介が死の刻印で止めを刺した。 「絶対みんなで揃って戻って勝利の報告をするわ!」 自らを鼓舞するように叫んだニニギアが、聖なる神の息吹で仲間達を癒す。九十九の銃が魔力の弾丸を吐き出し、炎の中に舞い戻った主将を撃ち抜いた。 状況は、依然として厳しい。トカゲの攻撃に光が倒れ、他のメンバーもダメージを蓄積させている。 リベリスタの焦りを吹き飛ばすように、ミーノが力強く言った。 「だいじょーぶ! ミーノもニニギアちゃんもうしろにいるよっ!」 天使の歌を響かせ、皆の傷を塞ぐ。 バイデンにアークの強さを示すためにも、絶対に負けるわけにはいかない。 福松が、己にしつこくまとわりついていたトカゲを拳の一撃で沈める。 「完全に後手に回ったな」 彼は舌打ちすると、純白のシルクストールを靡かせて新手のブロックに向かった。黒馬の如き巨獣を操る彼らは、身を挺して立ちはだかった暖之介を打ち倒し、後衛にまで迫ろうとしている。 岬は主将に抑えられ、うさぎと九十九は眼前のトカゲがまだ健在だ。福松一人では、到底ブロックしきれない。 突進の直撃を喰らった螢衣が、運命を削ってその場に踏み止まる。 敵の突破を許して、戦場のフォーチュナ達に危険が及ぶことはあってはならない。これは、リベリスタとしての意地だ。 眼前に肉迫する一騎を無数の火矢で狙い撃ち、ユウが彼らを挑発する。 「私たちを無視すれば、確かに貴方がた全体にとっては利益でしょう。 ですが、貴方がた個人のバイデンとしての誇りはどうです?」 それでも、彼らの足を止めることは叶わない。 巨獣の強烈な体当たりが、バイデンの槍が、ユウを地に沈めた。 「無視などするものか。貴様らは我らが存分に相手をしてくれる。 望み通り、何れかが斃れ伏すまでな」 傷つきなお闘志を失わぬ主将が、牙を剥いて哂う。 「先の『リベリスタ』はお前達にくれてやる、行け」 主将の命を受け、三騎のバイデンが駆け出した。 ● 「バイデンが敵を見逃すなんて、何と運が良いのでしょうか。 強さよりも手柄を示したいなんて、つまらないバイデンもいたものですね」 鴉の式神を放つ螢衣が、戦場の突破をはかるバイデンに痛罵を浴びせる。 しかし、彼らはその挑発に乗らなかった。 「バイデンは至高の戦いを求めるのみ。我らの戦場はここではない」 臆病者と謗るうさぎの声にも、耳を貸さない。 「一人も逃がさない……!」 ニニギアが体を張って一騎を抑えるも、残る二騎は彼女の脇を全力で駆け抜けていく。 畜生、とうさぎが呻いた。離脱した二騎を追おうにも、この場に残るバイデンを殲滅しない限りは難しい。 豪腕から振るわれる主将の剣が、岬を捉えた。 鮮血に染まる体を自らの運命で支え、彼女は“アンタレス”を再び構える。 「熱くて寝てられないよー、熱源落としとかないとー」 敵の前に立ち続けるのも、前衛の仕事だ。 戦場に渦巻いていた炎が晴れ、視界が戻る。 主将の口笛に操られたトカゲが、強襲で螢衣を打ち倒した。 ミーノが、天使の歌を響かせてニニギアや岬の傷を癒す。 自分を阻むトカゲの側面に回り、近接射程ギリギリまで腕を伸ばしたうさぎが、半円のヘッドレスタンブリンに似た奇妙な武器――“11人の鬼”を主将に繰り出した。 涙滴型をした十一枚の刃が、絶対命中(クリティカル)で死の印を刻む。 巨体が崩れ落ちると同時に、うさぎは叫んでいた。 「バイデンから撃破を!」 福松が、黄金に輝く“オーバーナイト・ミリオネア”を抜き撃つ。 彼は神速の連射でバイデン達の急所を次々に貫くと、射線上にいたトカゲ二体の頭部を撃ち抜いた。 ニニギアやミーノの回復に支えられたリベリスタ達は、攻撃を集中してバイデンを屠っていく。 やがて、魔力で貫通力を高めた九十九の弾丸が最後の一人を沈めた。 今から突破した敵に追いつくのは、不可能に近い。 それよりは、残る巨獣を仕留めて後顧の憂いを少しでも断つべきだろう。 残る力を結集し、リベリスタ達は巨獣たちの殲滅にかかる。 「当たれー!」 ニニギアの展開した魔方陣から放たれた矢が、この戦場における戦いに終わりを告げた。 うさぎが、悔しげに唇を噛む。 戦いはこれで終わりではない。今は体勢を立て直すのが先決と、理解はしているが。 そんなうさぎを気遣うように、九十九が口を開いた。 「次の戦場が私達を呼んでいますな。急ぎましょう」 熱を孕んだ荒野の風は、まだ止んでいない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|