●箱舟は往く 異世界の狂戦士・バイデン達の総攻撃は壮烈なものであった。 襲撃を退け、拠点である『ラ・ル・カーナ橋頭堡』を護らんと必死に戦い抜いたリベリスタ達だったが、辿り着いた結果は敗北。 バイデン達によって囚えられたであろう八人を残したまま――――リベリスタ達は、ボトム・チャンネルへと撤退せざるを得なかったのだ。 そして急遽、発動された戦略司令室討議。提示された案の中から、圧倒的多数として挙げられたのは、一つ。 ――ラ・ル・カーナへの再進撃。 同じ箱舟の乗船者を、『仲間』を見殺しになど出来ないからこそ。八人のリベリスタを救いたいからこその、強き決断。 然し防衛戦ならばともかくとして純粋な侵攻とは優位性が低く、勝利の保証や根拠は確実なものでは無い。 『万華鏡』が存在するボトム・チャンネルと違い、戦場は異界の地。アークのフォーチュナによる予知能力は普段より限られてしまう。 そして何よりフォーチュナには戦闘力を持ち合わせていないからこそ、最前線へと投入するのは危険過ぎるのだ。 ――けれど、そんな数々の問題を楽々と打破できる女が、たった一人。 『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア。 アークにとって、とても借りは作りたくない存在ではあったが、今回ばかりはやむを得ない。 戦略司令室長の交渉により彼女も了承し、かくしてリベリスタ達は再び異界の地へと降り立ったのだ。 皆の役に立てるのならばと、立ち上がるフォーチュナ達も加え――――箱舟は往く。 ただ、真っ直ぐ。『果断なる者達』が向かう先には、囚われた八人の仲間達が、きっと遠くに。 ●交わりし矜持 奴等の顔を、忘れなどしない。自分達に立ち向かい、『敗北』を叩きつけた存在など、忘れられる訳がない。 確かに、拠点襲撃はバイデン側の勝利に終わったが――それはあくまでも、『バイデン』という族全体が手に入れただけの事。 未知の強者……リベリスタ達との闘いに敗れ、自分達の部隊は無様に逃げ帰ってきたのだ。 それは己が、部隊の仲間が、弱者であったという証。強さこそが美徳であるバイデンにとってこれ程までに、不名誉であり、怒れる事実は他に無いであろう。 ――空には三つ月は無く、異界を照らすのは真昼の太陽。 荒れた大地を進むのは、三体の巨大なる赤き獣だった。 形態の特徴から、虎――と称すのが妥当であろうか。体長や毛並みの他に、目を三つ有している事など、ボトム・チャンネルの虎と比べ、相違点はいくつも存在するが。 そのうち二体に三人ずつ、一体に二人の赤き鬼が騎乗している。 「それ程までに、不服か?」 一体の巨獣に乗った小柄な赤胴の背に向けて、一人のバイデン――ホロジィは問う。前回の闘いにてリベリスタ達の信念を感じ取り、敗北を認めたバイデンのその声色は、至って冷静なものだった。 そんなホロジィとは打って変わり、小柄なバイデンのヴァロンは苛立ったまま答える。 「ったりめぇだ……俺はもっと闘れたはずなんだ。それを――」 「ならば此度の再戦にて、誇りを取り戻すのだ。己が望む、至上の戦をすれば良い」 バイデンは戦いを求めし、怒りの戦士。リベリスタと同じ信念とは――他者の為に『護る』等とは、無縁。 彼等の信念を理解はしたが、ホロジィは同調しなかった。それは自身がバイデンとしての『矜持』を抱き続けているからこそ。 対してヴァロンは違う。リベリスタが戦う理由を、今回も何故に自分達へ再び立ち向かおうとしているのかを、知らない。 然し、そんなことはどうでも良かった。ただ戦えれば、それで良い。 巨獣から飛び降りたヴァロンは、そのまま真っ直ぐに突き進んだ。その先には、求めし強者が揃っているのだ。 己に向かってくるならば、今度こそ。悔い無き最高の戦いを、この拳で成す為に。 「いいぜェ……来いよ、リベリスタ。ぜってえ逃げねぇ。全力で相手してやらァ!!」 両拳の手甲を打ち合い、鈍い音を響かせる。その雄叫びは嚇怒か、覚悟か。 ――――互いの『復讐』が、いま衝突する。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:明合ナオタロウ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月21日(火)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 真っ先に響き渡ったのは、拳同士の激突。 あまりにも一直線な、ヴァロンの初手。細かい戦法など考えず、ただ目の前にいる相手へ撃つ。ただそれだけしか頭に無かったのだろう。 まず狙いとなった『リグレット・レイン』斬原 龍雨(BNE003879)は、その単純な拳を、己の拳で受け止めた。 拳からズシリと感じる反動は、ダメージは重い。彼女は負けじとヴァロンを睨まえ、言い放つ。 「ヴァロン! 雪辱を果たしたいなら臨むところだ!」 「あァ? テメェ、名を名乗れ!」 「あの時は名乗っていなかったか……私は斬原・龍雨。正々堂々と、一騎打ちだ」 拳をぶつけ合うのに理屈は必要ない、そうだろ?――真っ直ぐな赤の瞳と睨み合い、ヴァロンは気づいた。 ――そうか。覚えているとも。この俺にトドメの一撃を与えやがった、アイツの眼じゃねえか。 ……ハハッ、丁度良い。 「こうして初っ端にブチ当たったのがオマエとはなァ! その勝負、受けて立つぜ……!」 大口を開けて牙を見せ、ヴァロンは笑う。ただその目は未だ、嚇怒に燃えたまま。 (相も変わらず、阿呆め。だが……此奴等、嘗ての戦の――) その様子を横目に、ホロジィは敵を確認する。見覚えのある者が、彼女の他に二人。 前方には、長柄の武器を用いて大嵐を起こした黒き戦士――『永御前』一条・永(BNE000821)。 そして、笑みを顔に貼りつけながら戦の中で喋喋しく囀り続けた白衣の男――『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)が、後方に。 「あっは、お久しぶりですね! また会えてすっげー嬉しいですよ、お二方」 前と変わらぬ飄々とした調子を見て、ホロジィは一瞬だけ眉を顰める。 単純で凶暴、短絡的。いわゆる、脳筋に属するバイデンとしては、言葉巧みに翻弄する詩人のようなタイプはどうも苦手である様子。――彼本人にとってはからかい甲斐があり、最高の相性ではあるのだが。 そんなバイデン・ホロジィを、『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は注視する。 前回の撃退戦の報告書に、奴はリベリスタ達と交戦した事で心境に変化が起こり、自ら撤退に踏み切った――そう記されてあった。 其れに目を通していた上で、己と異なる価値観を知ることで何らかの影響が生じるのは、自然であるとソラは考える。 ――だが、例え理解を得たとしても、受け入れる事ができるかは別の問題だ。 現にこうして、自分達リベリスタへまた挑んでくるのであれば、 「……倒さないことにはどうにもならないのよね」 落ち着きながらも、溜め息を一つ。自分達が前へ踏み出した以上、この場で奴等を全力で食い止める。疾うに決意は、固めている。 「うーん、やはり敵の数は多いですね。レイザータクトとしての腕の見せ所です♪」 敵部隊をまじまじと確認する『混沌を愛する黒翼指揮官』波多野 のぞみ(BNE003834)は胸を張り、どこか余裕を持っている。 さあ――如何にして、戦況を優位に進めるか。指揮官は自信たっぷりに、真紅のフルフェイスパワードスーツの裏で微笑んだ。 その時、 「……俺と戦え。誇り高きバイデンの戦士よ!」 前衛から一歩前に出、決意を宿した目で赩猛虎に騎乗するホロジィを見据える青年が、一人。 鋭きその眼は射るように、好敵手――ホロジィを見つめている。 彼……『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が望むは、真っ向からの――そして全力の勝負。 例えこの身が砕かれ、滅びへ向かおうとも、その間際まで闘い続ける。 そう――全て己の拳にて対応するのみ。彼の覚悟は魂に、その手に、刻まれているのだ。 「我が名は義桜葛葉、貴様の武と我が武! どちらが上か、見極めたい!」 「何だと……?」 葛葉のその視線を離さず、ホロジィは申し出に耳を傾ける。確かな一騎打ちの宣戦。――嗚呼、此奴も戦士……否、武人と称えるべきか。 多少は警戒もした。然し――奴の言葉は堂々と威勢良く、あの眼は視線を逸らす事無く、真っ直ぐであった。 無言で赤き虎の巨獣から降り立ち、左腰から大太刀を抜く。その行動による配下共のざわめきなど一切気にせず、ホロジィは答えた。 「リベリスタ――『ギオウクズハ』、か。良かろう。異界の強者の申し出とあらば、断る理由も無い」 貴様等、決して邪魔をするなよ――己や相棒の配下へ、振り向かずそう言いつける。ざわめきは消え、六人のバイデン共はそれに応じた。 そんな光景を見、『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は誰にも悟られないよう密かに想う。 頭首は降りても、配下は虎に跨ったまま――バイデンも保身を考えるんだな。 虎に騎乗したままの配下を見上げ、立てた中指を見せつけて義衛郎は笑いかけた。 「今の内に、そこからの眺めを楽しんでおけ」 奴等はただ此方を見やり、笑うだけ。案の定、意味は通じない。――だがまあ、気合いを入れるのを含めて。 あのような『腑抜け』共には、後で吠え面をかかせてやれば良い。発動するのはハイスピード。己の能力が上がりながらも、彼の笑みは保たれたまま。 一方で、永は静かに目を伏せる。 嗚呼、想うは己の十八の誕生日――そして覚醒者となった、あの日に見た夢。 あれから六十一年経った今でも忘れない。舞い散る吉野山の千本桜。其れを見つめる一人の鎧武者・一条永時の、無念と覚悟。 彼の得物は、今は我が手の中に。両目を開くと共に、『桜』を構え、奥州武者は見得を切った。 「刮目して見よ! 箱舟の矜持を! 奥州武者の意地を! ――益荒男どもよ、貴殿等が御首級、いざ頂戴仕る!」 響き渡る永の名乗り。気迫が込められたその声を合図に、八人のリベリスタ達は――否、バイデン共を含めた、戦士達は改めて、牙を向いた。 さあ戦士よ、語り合え。己の力で。 ● 彼方此方から飛ぶ蛮声、そして荒々しき戦いの響動。 進み往くリベリスタ本隊は次々にバイデンと正面から衝突し、本格戦闘を開始していた。 そして――――八人のリベリスタ達も、既に激しき戦場の最中に立っている。 「一騎打ち……任せたわよ。配下たちは私たちがなんとかするわ」 頭首共と相対する、二人へ声を掛けるソラ。真剣勝負である以上、手出しは出来ない。そう、こうして勝利を信じる事しか。 ――それなら、私達は私達の出来ることを。 願いながら、信じながら。彼女が起こしたチェインライトニングは、配下共や赩猛虎を貫いた。 「じゃあ、始めようか。お互いの意地を掛けた戦いを」 電流の衝撃を受けて蹌踉めく虎を立て続けに襲うのは、『極黒の翼』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)による黒き瘴気。生命力を削りながらも、騎乗するホロジィの配下共々狙ってゆく。 彼女の顔に浮かぶのは、曇り無き不敵な笑み。それはまさしく普通の少女とは違う、戦いへ臨む戦士のもの。 ――さあ、今こそ戦いを。強者との仕合いを。 彼女の胸は高鳴り続ける。無銘の大太刀を握ったその両手が僅かに震えるワケは恐怖でなく、歓喜なのだ。 赩猛虎やバイデンも黙ったままではない。 ホロジィの配下共が弓を引き、降り注ぐ矢は前衛の義衛郎を、フランシスカを射抜く。 「チッ……!」 舌を打ちながら、義衛郎が繰り出すは幻影剣。幻惑の武技は幻影を生み出し、鋭き斬撃を巨獣へと与えた。 (……にしてもコレ、互いに敗戦の屈辱を拭いに来てるってワケ?) ――なんて滑稽な。 詩人は密かに笑みを零す。 最終的には撤退として、不完全燃焼で幕を閉じた撃退戦。だがこうしてまた、戦場で相見えることができたのだ。 「戦の華を愛でるのもまた一興、ってね」 最高の戦いを奴等も望んでいるのであれば、此度は楽しき、愉しき復讐戦を挑められるよう支援を―― バトルアジテーターは斯く笑い、神秘を宿した閃光弾を投擲した。爆発は巨獣だけでなく、ホロジィの配下までも巻き込み、痺れを起こさせる。 そんな中――荒野に降り立つ、ヴァロンの配下と対峙するのは永と、のぞみ。 三対二……状況的には不利ながらも、彼女らの顔には曇りも翳りも無い。 「此れより先は三途の川。其の首、要らぬ者から掛かって参れ!」 凛々しき科白を言い放った永へ、雄叫びを上げながら真っ直ぐに迫り来るは槍の鬼。踏み込みの時点で動きを読み、繰り出される突きを回避する。電撃を纏いし強烈な一撃を与えた。放電しながらも赤き肌を穿ち、致命的な攻撃を受けた槍のバイデンは崩れ落ちる。――これで、二人。 「最初が肝心、一気にいきますよ!」 彼女の支援をするのは、のぞみの役目だ。起こったフラッシュバンはヴァロンの配下三人へ。纏めて麻痺に陥らせてゆく。 但し、この戦場は今や乱戦状態。動き回る赩猛虎――それに乗るホロジィ配下三人までも巻き込むのは至難である。 そして――赩猛虎は、バイデン共が騎乗している一頭だけでは無いのだ。 「……ッ!?」 ぐらり、とのぞみの身体が揺れる。パラサイトメイルを砕かれ、腕から流れるは流血。 振り返るとそこには――無人の、赩猛虎。 バイデン共、そして一頭の巨獣を掃討するのに手一杯であったリベリスタ達は、二頭の赩猛虎を放置していたのだ。 周囲を確認すれば、ホロジィ配下三人を担当する仲間達の方にも一頭の赩猛虎が加勢してしまっていた。既に一頭の巨獣が討伐されていたのが、唯一の幸いか。 体当たりによる一撃で、フランシスカに隙が生まれ、それを突いてバイデン共が対象を射る。 「っ痛てて……やっぱ雑魚じゃないワケだね。侮れない」 「回復なら任せておいて、本職じゃないけどちゃんと癒すわよ」 傷ついたフランシスカを見やり、すぐさまソラが詠唱――天使の歌を発動し、荒野の中に福音を響かせた。リベリスタ達の傷が癒されてゆく。 全体的な数でも不利ではあったが……それでも、負ける訳にはいかない。 永は決意していたのだ――今度は勝つ、と。 「吹けよ神風! 舞えよ千本桜!」 宣するのは、烈風の合図。薙刀を旋回し、吹き荒ぶ嵐が範囲内の巨獣を、バイデンを襲った。 ● 生み出された戦鬼烈風陣によって、荒野を舞う砂塵の勢いは増してゆく。 仲間達が闘い合う中で、彼等の一騎打ちも、激戦へと加速していた。 「ぐハッ……!?」 鳩尾に撃ち込まれるのは、赫々たる輝きと嚇怒を籠めたヴァロンの拳。腹を押さえて崩れ落ちるも、龍雨は己を加護する運命を燃やす。 額から流れ、荒野の大地へと落ちるのは血液が混じった汗。――体格が小さくとも、奴は小部隊でもトップとして動くバイデン。ヴァロンは、彼女が思う程に……否、それ以上に、強かった。 「よォ、『キリハラルウ』……それが、テメェの全力か? コッチはまだまだ闘り足りねェぜ」 またもや牙をむき出し、鬼の闘士は笑顔を見せる。 それでも、奴の赤胴の肌は幾つも焼け爛れていた。其れらは龍雨がひたすらに撃ちつけた、業炎撃による火傷である。そして余裕を見せながらも、ヴァロンの体力は残り僅かでもあった。 奴へ与えた一つ一つの打撃は、確実なものとなっているはず――然し、喜ぶ余裕は無い。 歯を食いしばり、ふらつきながらも立ち上がる。血の汗を拭い、そして再び拳を構え直した。 ――私は決して強くはない。前回の勝利だって、仲間の協力があってこそ。……それでも。 「テメェ……何故闘う? 俺らバイデンと同じように、ただ楽しんでるだけじゃねェようだが」 「自分で選んだ闘いだ……。前へ進む以外に道は無い。そしてそれが、私の生き方。だから……!」 それに――今もなお戦いながら、自分を支えてくれる仲間がいるならば、尚更だ。 仲間達に対して自分が出来るのは、この一騎打ちに勝利する事。それのみ。 だからこそ、無様な真似はしない。そして絶対に、悔いも残さない。 「己を高め、もっと強くなる為に……! 必ず乗り越えてみせる!」 力強き意志を表した声と同時に、龍雨は動いた。 「なァッ……!?」 瞬時に間合いを詰め、繰り出すは大雪崩落。小さくも屈強なヴァロンの身体を掴み上げた。――彼女の拳は嚇怒でない。己と、仲間の想いを全て籠めた力。 前戦の時と同様のトドメ――再びヴァロンを、このラ・ル・カーナの地に叩きつける! ――ヴァロン達から然程遠い距離では無いにしろ、彼方から飛び交う凄まじい打撃音に振り向く事無く、ホロジィと葛葉も仕合うていた。 五感は闘いの為だけに研ぎ澄まされてゆく。互いに考えるのは、目の前の相手を如何にして撃ち倒すか――ただ、それが全て。 「全力一撃、我が拳を受けよ……!」 これでもう、何度目か。凍てつく冷気を拳に纏い、葛葉は瞬発的に飛び込んだ。 相手の得物は大太刀。無論、リーチは奴の方が勝る。ならば間合いを削り切り、一気に――押し切る。 真っ向からぶつかる、単純な戦法……然し、これはやはり葛葉が好む戦い方だからこそ。 彼はこれで、一騎打ちの勝利を目指すのだ。 だが、感じた手応えは硬い――金属音。ホロジィが構えた大太刀によって阻まれたのだ。挟まったクローの刃を抜きながら跳躍し、間合いを置き直す。 「やりおるな、『ギオウクズハ』……然し、我とて勝利を譲るつもりは無い。バイデンの誇りに掛けて――!」 大太刀を振るい、斬撃による衝撃波が生まれる。奴は遠距離からでも個体を狙って攻撃することが可能なのだ。強力な圧力に、コートからさらに血が滲む。 そんな中で――バイデン、だと? 葛葉は先程の言葉を訝る。 貴様は『バイデン』という種族として、己と戦っているのか。 「勝たねばならんのは、俺も同じ。――だが、貴様とは違う。 『アークのリベリスタ』としての俺ではなく、『武人』としての俺がそう囁くのだ!」 拳をさらに堅く握り締め、吼えた。そして突進。拳を振り上げてもう一度、冷気を呼び起こす。 またも同じ攻撃か――そう呟かんとばかりに、ホロジィはまたも待ち構える。が、 「何だと!?」 「勝たせて貰うぞ、ホロジィよ! 俺は、俺達は負けられん!」 構えていた大太刀を掻い潜り、狙うは懐。逡巡するホロジィへ、一人の『武人』は全力の一撃を見舞った――! ● 「これで、終わりだよ!」 大太刀での一撃。其れに秘められし暗黒の魔力が、最後のバイデン一人の精神もろとも斬り裂いてゆく。 フランシスカによるソウルバーンが、掃討戦の最後を決定づけた必殺の一撃。 ヴァロンの配下一人は吼えながら地に伏し、そのまま動かなくなった。 ――多少の危機は有ったものの、結果はリベリスタの勝利であった。 然し、被害も少なくない。 ヴァロンの配下三人を相手取っていた二人は運命を代償とし、その内、体力があまり高い方では無いながらも前衛にて力闘していたのぞみは深い傷を負っている。 「いやあ。やっぱ一本、芯が入った輩は強いし見ていて清々しい」 荒野へ転がる鬼共を見下ろしながら、詩人は口の端を吊り上げる。 あっちも楽しく一騎打ちしてるなら幸いですが――そう想いながら振り返ったと同時、荒野に響き渡るのは勝鬨。 声の主は……やはり、期待していた通り。 「ふう……万が一の時はフォローも視野に入れてましたが、杞憂でしたか」 安堵する義衛郎。彼の視線の先には、乾いた大地に崩れ落ちた赤き巨体。 そして――立ち上がったまま拳を天高く上げる、一人の男。 「――また戦おう」 「……何の、つもりだ?」 「武とは一日にしてならず。競争相手が居らねばつまらんからな」 それは撤退への示唆。一騎打ちには勝利したが、リベリスタ側も追撃できる程の戦力は残っていない。 ――憤怒と乾きの荒野に、甘えなど無用。然し。 ホロジィは身を起こし、へたりこんでいた相棒の襟首を掴み、宣言する。 「異界の戦士よ、再び相見えようぞ」 「あぁ……って、おいホロジィ! また撤退かよ!?」 「撤退ではない。これは転進だ」 「結局逃げるのは一緒だろーが! 畜生、俺はまだ……!」 と、気合を入れ直そうとしたところで、ぐらりと体が揺れる。 辛うじて意識はあるが、龍雨との一騎打ちの結果は引き分け。受けた攻撃は数多く、ヴァロンも満身創痍なのだ。 あの時の大雪崩落は、彼女の最後の全力だったのだろう――最後には力尽きた戦士の少女を見やり、ヴァロンは思い出す。 倒れる前に、彼女が言っていた言葉は、 ――良い闘いだった。有難う。 「……甘ェなあ。テメェらも、俺も。――次は、覚えてろよ」 捨て台詞は荒野に投げ置いて。肩を貸されながら背を向け、二人のバイデンは去っていった。 「まだ戦いは終わってない、それに余裕もないわ。さあ、他の戦場へ」 ソラの言葉に頷き、リベリスタ達も負傷者を背負いながら、各々散らばってゆく。 そんな中、去りゆく二人の戦士を見つめ、永は一人呟く。 「屍山血河踏み越えて、往き着く先は阿修羅道。――また、お会いいたしましょう」 その言の葉は、赫き背中と同様に。異界に吹きゆく砂塵に紛れ、静かに消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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