●澱の坩堝 苦しい。妬ましい。羨ましい。悔しい。辛い。哀しい。憎い。人の願いに果ては無く、人の想いに限りは無い。 そしてその全てが実現する訳ではない。否、むしろ実現しない事の方が多いのが現実。 世界は平等に不平等であり、寛容過ぎるほどに無慈悲である。成る事は成る、成らない事は成らない。 そうして生まれた無念の想い。負の感情。人の内に在る陰の思念は場に根付き、溜り、淀み、濁り、沈殿する、 時に災禍として世界その物へ牙を向く、エリューション・フォースと呼ばれる存在などはまさにその際たる例である。 人が在る限り生まれ続ける思念の結露。それはつまり、古来よりそういう物が生まれ続けて来ていた事をも意味する。 ナイトメアダウン以前、世界大戦以前、いや、更に更に昔から。人はそれらと戦い勝利して来た。 しかし戦うばかりが能ではない。人の知恵は対処から予防へと変遷する。その一つの手段が祈りである。 冠婚葬祭、人はことあるごとに、そして自覚する以上に多くの祈りを捧げている。 それは決意であり、それは希望であり、それは追悼であり、それは喜びである。正の祈りは負の想いと相殺する。 神社、仏閣等はそれを狙って建築された向きすらある。逆に言えば、彼の地には人の想いが溜まり易い。 都心にひっそりと建つ、縁結びを掲げる裏寂れた神社。例えばこの場所もまた、そんな思念の集う場所の1つである。 けれど他人への無関心がうたわれる昨今、この神社へ捧げられる祈りは激減していた。 そうでもなく何かと忙しい現代人である。例えば祭りを実施したとしても、とても採算が取れないのが実情。 人の世のあらゆる行事には損益が密接に関わってくる。それは神事であろうと変わらない。 祀られる事が減れば祈りも減る。祈りが減れば澱みは増す。澱みが増せば人足は自然と遠のいていく。 徐々に徐々に蓄積されたそれは集い、纏まり、渦を巻き、飽和の兆しを見せていた。 唯でさえ想いの集まり易い地で熟成された負の思念。どれほど邪悪なエリューションが生まれるかは想像に難くない。 アークへと白羽の矢が立ったのはそんな折の出来事である。 ●あなたに届け! 「つまりは、ラヴ&ピースって訳だよ。得意だろそういうの」 何の根拠も無くさらっと言ってのけたのは『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)である。ニヒルな笑みは揺るぎも無い。 ブリーフィングルームへ集められたリベリスタ達からすれば、まあ、何と言うか良く分からないノリだろう。 「ナイトメアダウン以降10余年、そこまで繊細に対応する奴が居なかったからってのも有るんだろう。 とある神社が大分追い詰められてる。ハートブレイク寸前って感じだ。どんな想いだってへヴィ過ぎると病むって事だね」 モニターに表示された神社の位置は諸に都心である。こんな所でエリューションが出現したら厄介極まりない。 「でもま、良いニュースだってある。場所は神社、立派なホーリースポットだ。この場所での心からの祈りは特別な意味を持つ。 分かるだろ、憎しみを解すには愛だよ、愛。そしてラヴソングにはハートとビートが肝心って事さ」 伸暁による独特の表現は、何を言いたいかは分かる様でいて、何を言っているのかはさっぱり分からない。 が、つまりこの神社へ赴き正の想いをぶつけることでエリューションの出現を未然に防げる、と言う事らしい。 「どんなメッセージを持ち込んでも構わないが、演技はノーセンキュー。心からの想い。真摯な願い。 パッション溢れる真実の言葉だけが響く。ソウルの籠ってないロックじゃ灯らない。燃えろよ、そして燃やし尽くせ」 何せ10年物の凝り固まった怨恨である。半端な言葉では吹き飛ばせない。必要なのは情緒ではなく勢いである。 「恥ずかしいとか人の目なんかは一旦忘れた方が良いだろうね。青い春を全力でぶつけてこそ咲く花だってある。 別にラヴに限った話じゃない、感謝だって良いし決意の再確認だって良い。アップに、ストレートに、ポジティブに。 暗い夜を一気に吹き飛ばす、抜群にソウルフルで極上のグルーヴを魅せつけてくれよ」 普段言えない言葉を形にするチャンス。とはいえ、ざっくり言えば恥を切り売りして世界を救えと言う話である。 良い笑顔で親指を立てる伸暁を前に、当然の事ながら退路は無い。リベリスタの世界は非情である。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月01日(水)00:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●for the world 伝えたい言葉。届けたい気持ちがあった。 人は一人では、生きる事しか出来ないから、メッセージには、受け取る人が必要だから。 守りたい絆。護りたい想いがあった。 胸に秘めていては、伝わらないから。心に閉じ込めているのは、なかなか言えない言葉。 解き放つには決断が必要。機会が必要。時間が必要。そして何より、勇気が必要。 だったらそれに力が宿らない訳が無い。全力の言葉に意味が宿らない訳が無い。 8人1人1人が、それぞれに。誰にも譲れない意志を築き、育み、温め、伝えるからこそ響き合う。 演奏も無い、範奏も無い、言葉と言う意味ある音だけを重ねる極小の協奏曲。 誰でも知っているありふれたメッセージ。世界はこんなにも掛けがえが無いのだと。 60億分の1。ちっぽけな1人がほんの少しだけ集まって、そっと何気なく世界を救う。 この日起きた出来事は、そんなどこにでもある、ほんの些細なメルヘン。 ●twinkle twinkle 「今回のように思いで解決できたら、もう少し世界は平和なんでしょうね」 寂れた古い鳥居に向けて一揖し、境内へと潜る『星守』神音・武雷(BNE002221)に続き、 神社へ踏み入った雪白 万葉(BNE000195)がぽつりと告げる。思わず漏れた呟きは戦いばかりの日々を想ってか。 入り口に赤いコーンを並べていた『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)とすれ違う。 彼女の手元には愛用のノート。速筆で“うまくいけば良いですね”と書かれたそれを見て、万葉もまた淡く笑む。 そうして境内に到るとそこには酒瓶を箱詰め紐かけ熨斗をつけて奉納している『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の姿。 「あ、俺の実家、酒屋なんで」 言ってはにかむ姿からは普段最前線で盾となっている勇壮な姿等連想も出来ない。気の良い大学生の姿がそこには在った。 「あたしの希望と未来を巫女の言霊として歌に乗せるよん!」 気合十分に巫女服で鉾鈴を振るのは『ライアーディーヴァ』襲 ティト(BNE001913) 清めの意味もあってかしゃんしゃんと鈴音を奏でながら境内を巡る――と、そこにりかいふのうのなにかがあらわれた! 「いえ、別に怪しい者ではありませんよ」 鳥居を潜った瞬間にはい、失格! と言われそうな『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は、黒い何かを被って佇む。 彼が何者で被っている物から生えている小さな手らしき物が何なのかとかは深く考えてはいけない。見間違イカ何カダ。 「言葉の力で澱みをブレイク!で、ゴザイマスカー。なかなかユニークな試みでゴザイマスネー」 更に後ろからは奇妙なイントネーションで喋る『イービル・ジョー』呼子・ヴァナラ・爬沼庵(BNE001985)が顔を出す。 口元はマスクで隠している物の、九十九に負けず劣らずの異相、けれどその胸に秘めた想いは至極純粋である。 ただし視覚に引っ張られるのは人間の哀しい性。端から見れば牛頭の武雷も苦笑いの吃驚人間大集合である点は否めない。 「それじゃあ今日は宜しくお願いします」 そうしてぼうっとした眼差しが危なっかしい『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)の一礼を皮切りに、 彼らは向かう。寂れた神社の裏側へ。そして彼らは向かい合う。この世界の裏側と。 「……う」 ティトから声が漏れたのは最も強く悪意を感知したからか。裏庭はとても神の社とは呼べない燦々たる有様だった。 誰の目にも明らかである。物的な質量を持ってそれが存在している訳ではない。けれど、その空間は穢れていた。 身体を動かす度に粘つく様な奇妙な不快感を伴う。一歩踏み出す度にどんどん気力や意欲と言った物が削ぎ落とされていく。 此処まで澱めば、残留思念も立派な災厄である。事象化した負の概念その物に気持ちが引きずり込まれていく。 リベリスタ達でこうなのであれば、少しでも心が弱っている人間を連れて来たなら容易く自死に追い込めるだろう。 先頭に立っていた武雷が、その凶悪さを甘く見ていた事に歯噛みする。確かにこれは、漏れ出してはいけない類の物だと。 「――っみんなみんな、いつもどうもありがとうーっ!」 突然の叫び。誰もが驚き瞬く。口火を切ったのはニニギア。単純極まる感謝の言葉に、まるで怯える様に澱みが震える。 「……そうか! 世界が平和になりますように!」 意図に気付いた快が続く。そう。この戦いは力ではなく心の戦い。怯えも、恐れも、警戒すらも今は必要は無い。 「神様! 皆! ありがとう! 感謝してもしきれなか――!」 武雷が漏らした言葉は郷里の言葉。けれど想った事を純粋に言葉にした時、浮かんだのは使い慣れた故郷の響き。 「今日もお天気で具合がヨロシカッター!」 マスクを剥ぎ取り呼子が大声を上げる。それはとても原始的で、酷く分かり易い喜びの言葉。 「みんながあたしの曲でハッピーになれ――!」 負けじとティトも声を響かせ鉾鈴を鳴らす。歌姫としての誇り、巫女としての使命感。 二つの意志を土台として解き放たれる言霊が、澱みに突き刺さるのが分かる。呼吸すら苦しかった穢れがほんの僅かに緩和する。 ●like & love 「私は! カレーが! 好きだ――!」 そこに叩き付けられるカレー愛。カレー店経営・百舌鳥 九十九(25)の全てがそこには込められていた。 それは正しくぐつぐつ煮込み続けた熟成カレーの面持ちである。粘度、辛さ、隠し味、トッピング、そして味わい深さ。 特にチーズをかけたカレーに対する想いであれば誰にも負ける気がしない。確信的な自信。そして食に対する拘り。 それは命の讃歌である。辛いカレーは苦手と言う決定的負の要因を抱えていてすら募る想いは止まる所を知らない。 カレーの肯定。カレーとの絆。カレーへの賞賛。そしてカレーへと向ける求道の念である。 信念とも言える所まで昇華されたされたカレー・ラヴを伝えるのには唯の一言で良い。何度でも叫ぼう高らかに。 「私は! カレーが!! 好きだ――!!!」 「水飲んだらオイシカッター!」 「おいしいもの食べるの、幸せー!」 ニニギア、呼子がこれを引き継ぎ、生きる喜びを輪唱の様に歌い上げる。 「人の笑顔を見るのがダイスキー!」 「たいやきばんざーい!」 畳み掛ける2人の勢いは、急には止まらない止まれない。寄せては返す波の如く、澱みが目に見えてじわりと退く。 「九十九さんの屋台のクリームコロッケカレー大好きー!」 「お富さんの里芋の煮物も大好きー!」 その隙を逃しはしない。食べる事に賭ける情熱ではニニギアだって負けてはいない。 九十九のカレー・ラヴとはまた趣が異なれど、あらゆる美味しい物に注ぐ想いは真摯であり極めて純度が高い。 そして何より彼女の想いには決して九十九には真似出来ない、極上のスパイスが効かされていた。 「でも、ランディの作ってくれるごはんが、いちばん好き――!!」 料理上手な恋人と過ごす一時を思い浮かべ、彼女は叫ぶ。何処か幼くも真っ直ぐな“大好き”と言う当たり前の気持ち。 「ランディ、だーいすき――っ!」 赤裸々な告白は何処までも明るい希望に満ちている。負の概念と相反する正の思念。特大の火力が澱みの坩堝に直撃する。 妬み、嫉み、羨望と言った好意の対極にある想いが罅割れる。苦しむ様に律動する大気に続けて歌声が混ざっていく。 「生きるって素晴らしい~♪ 生きるって素晴らしい~♪」 「えぇっ!?」 透明に澄んだ声を真横で聞いたニニギアが目を丸くする。彼女の声を聞くと言うのはちょっとした珍事である。 「エリューションを退治するときに庇ってくれた人ありがとう~♪」 「前衛でいつも頑張っている仲間の皆さん~常々感謝なのですよ~♪」 それは決して技巧的ではなく、むしろ拙い音色。けれど普段文字に頼りっぱなしの沙希が温めていた正直な気持ち。 使い慣れない声音は大きく響きはしないけれど、助けられた全ての人達へ、彼女なりに全力のありがとう。 勿論感謝の想いは彼女だけの物ではない。武雷もまた心を込めて勲の様な叫びをぶつける。 「とーちゃん! かーちゃん! おれを生んでくれてありがとう! 育ててくれてありがとう……!」 「この世界を守ってくれて、ありがとう……わしは今、生きてることが嬉しくて仕方なか!」 失われた物へ捧ぐ祈りだってある。それは決して後ろ向きな物ばかりではない。惜しむだけが祈祷ではない。 命果てようと、絆は消えない。言葉が届かなくても、想いは死なない。心からの感謝は、何より尊い。 「誰も傷つかない世界にしたか! 無理かもしれなか……ばってんだからといって! わしが歩みを止めてよか理由にはならなか! 全部をわしは背負ってくばい! 重くても辛くても絶対に投げ出さん!」 魂を震わせ不安に立ち向かう。己への鼓舞が言霊となり満天下に鳴り響く。救えなかった人が居る。 守れなかった物がある。それでも足を踏みしめ前へ進むと誓う。滲む視界に命を賭して世界を護った両親を想う。 「みんな大好きだ――! すいとっとよ~!!」 生きとし生ける命への祝福。その潔い雄叫びに、ティトもまた負けじと声を張り上げる。 「もっともっと凄い歌い手になりたいおーっ!」 発声の基本が出来ている為か、明らかに大柄な武雷の声に勝るとも劣らぬ大音量。 鉾鈴を振る度に澱みが捻れ、抵抗する様に穢れを吐き返す。けれど退かない、止まらない。 「あたしの歌を聴けーっ!」 しゃん、っと向けられる鉾鈴が清浄な空気を巻き起こす。正と負が拮抗し、リベリスタ達も身体の自由を取り戻す。 「こんなイイ風吹いてる日なのに、こんな所で澱んでるのは、モッタイノウゴザイマスヨ――!」 呼子の朗らかなからりとした笑いに、穢れた裏庭の気配が徐々に変わり行く。 ●happy birthday 「えーっと……俺には、好きな人がいる」 騒々しい位に弾ける中にあって、ぽつり、と漏れた呟きは快の物。 その素朴でありながらも誰より深く込められた感情に、思わず周囲が静まり返る。それはそう、澱みすらも例外ではない。 「俺にはリベリスタとしての背骨は何も無かった。そんな俺がフェイトなんかを授かっちまって……」 思い返すのは過去の追憶。それは決して楽しい思い出ではない。唯の大学生が力を与えられ、戦えと言われたとして。 果たしてどの程度が生き残れるだろう。それは半ば死の宣告にすら近い筈だ。 「自暴自棄にもなりかけた」 自由も選択肢も奪われ、未来すら縛られる。革醒するとはそういう事。元の生活には、戻れない。 「けど、あの人が俺に居場所をくれたお陰で、ここに居てもいいんだって思えるようになった」 「いろいろ辛いこともあった。苦しいことも、悩むこともあった」 「けどそんな時、あの人は俺に笑ってくれた。俺が苦しいときに、一緒に悩んでくれた」 何度も想い、何度も目線で追った残像が、脳裏にくっきりと浮かべられる。 別に何も特別じゃない。誰でも抱く気持ち。特別でないからこそ、これ以上も無く特別な、気持ち。 「この神社は縁結びの神社だって聞いた。その人との縁を結んでくれ、なんて分不相応の願い事をするつもりはない」 「ただ、一つだけ」 それは本当に真実の想いかと、穢れ澱んだ坩堝はその存在を以って問う。 それでもその相手が欲しい筈だ。どんな手を使ってでも射止めたい筈だ。他人の手に渡るのが嫌な筈だ。 もしそうなったなら、悔しく、羨ましく、妬ましい筈。それこそが、人の本性だと。 けれど快は笑って告げる。例えもしそれが真実だったとしても、自分はこれだけで十分過ぎる位、十分だと。 「――彼女が俺を幸せにしてくれたのと同じくらいの幸せが、彼女にも訪れますように」 音は無い。気配も無い。けれど何かが歪み、軋んだ音が、確かに聞こえた。 そんな秘めた恋心をしっとりと語る快を見て、隣に佇んでいた万葉が微笑ましげに瞳を細める。 そうして一歩。坩堝の中心へと寄る。弱りつつあると言っても澱みの吹き溜まりの最奥となればそうもいかない。 瘴気と言っても過言ではない気配が噎せ返る程に強くなる。とても大声が出せる環境ではない。 呼吸をする度臓腑まで穢される感覚。どうでも良くなる。思考が濁る。腐敗した世界があらゆる絶望を耳元で囁く。 その場で軽く腰を落とし、万葉は語る。猛る事無く荒ぶる事無く、彼らしく、言い聞かせる様に。 「私は世界が好きです。人が好きです。美味しい物が好きです」 言葉を区切って目線を向ける。九十九がカレー愛を叫び、ニニギアが最愛のでーくんの作るお弁当について熱く語る。 ティトが歌を天命と信じ、武雷が亡き両親へと誓う。呼子が命を喜び、快は唯一人を真摯に想う。 その様を愛おしく思う。何気ない人々の喜びを、笑顔を、掛け替え無く思う。 「全てが綺麗だとはいいません。裏切られる事も、嘘をつかれる事も、騙される事もあるでしょう」 上手く行く事ばかりではない。むしろ逆の方が当然であり自然。百の挫折の向こうに一の栄光がある。 いっそ全てが黒であれば、白い輝きを望みなどしないのに。空と大地が同一であれば、翼など求めないのに。 肯定する様に澱みがうねる。その実在こそが悪性の証明。人の本質は善ではないと無言の内に抗弁する。 「ですがそれがなんですか?」 淡々と告げる様でいて、万葉の心にも譲れない想いがある。それは蒼い焔の様に、胸の奥で静かに燃える。 「真実を話してくれる人もいます。信じてくれる人もいます。騙された時心配してくれる人もいるじゃないですか」 「世の中には汚い面も沢山あります。けれども、周りを見渡せば綺麗な物も沢山あります」 「けれど、蹲っていては見えません」 陽炎の様にゆらぐ。彼に見えた物は泣きながら膝を抱える子供だった。だからこそ、紡ぐ。 「立ち上がって少し周りを見渡してみませんか」 澱む物を負と切り捨てない。許容、容赦、寛容、それだって立派な愛と呼べるだろう。 澱みの核が萎んで行く。それは許されたかった想い。許されなかった祈り。 誰かに受け入れて貰いたかった、気持ちである。 はらり、はらりと少しずつ消えていく。それは人々の負の思念。報われなかった想いの残滓。 けれどそのどれを取ったとしても、それはただ、悪いだけの物ではない。何故なら―― 「思いを変えれば、きっと君も生まれ変われます。もっと明るい、姿に」 人の想いに正と負がある様に。心に光と影が射す様に。正しくありたかった心の流した血こそが、澱みなのだから。 壊れ行く、崩れ行く。それは舞い散る花の様に。佇むリベリスタ達の耳元で、何かが囁く声が聞こえた。 “ありがとう” それが果たして何だったか。それは誰にも、分からない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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