● 「ねえ世恋」 「なにかしら、お姉さま」 カフェのテラス席。珍しく日中に外出した『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は、目の前でカップを抱えて首を傾ける『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)を見詰めて、小さく溜息を吐いた。 実に可愛い。何て言うかお花飛んでる。そもそも両手でカップ持つとか、あたしじゃ有り得ない。 「……如何したら、あんた位女子力上がるかしらね……」 長い爪を弄る。身なりに気を使わないわけではないし、寧ろお洒落は嫌いではない。 けれど。何だろう、この、滲み出る何かの、差は。 「じょ、女子力!? え、え、っと!?」 お姉さまにも、あると思うのに。ぼそぼそ、返された返答すら何て言うか可愛い。何だこれ。この控えめさが良いのか。そうなのか。 ほんのり甘い紅茶に口をつける。嗚呼。 女子力って、何処で買えるものですか。 ● 「……今日は折り入って、皆様にお願いがあります」 ブリーフィングルームの片隅。何時もならフォーチュナが立つ其処で、『常闇の端倪』竜牙 狩生 (nBNE000016)は話を始めた。 差し出したのは、一枚の地図。 「来る8月11日は、月隠君のお誕生日だ、と、小耳に挟みまして。嗚呼、本人は完全に忘れているようです。誕生日について教えてくださった月鍵君曰く、アークに居なければ引き篭もっているとか」 淡々と語られる台詞に、何の依頼かと身構えていたリベリスタの肩の力が抜ける。 この地図の行き先は? そう尋ねる声に頷いて、男は話を進めた。 「まぁ、ご本人が覚えていないのでしたら、サプライズも悪くは無いだろう、と言う事で。先んじてパーティー会場を取らせて頂きました。 ドレスコードは特にありません。基本的な料理等は手配済みですが、持ち込みはお気軽に。嗚呼、酒類も多少は用意済みです」 そういう事か、と頷き交わすリベリスタを一瞥して。 男はひとつ吐息をもらした後、本題は此処からだ、と告げる。 「……女性に年齢の話は失礼に当たりますが、彼女もまぁ、妙齢の女性です。けれど、浮いた話に興味が無いそうで。理由に関しては私は知りません。 ただ、余りにも今時流行りの女子力、と言うものに欠けるのも如何か、と思いますので、今回は皆さんに協力を願いたいのです」 要するに、内外共に女子力上げてみたり、ときめかせてみたり、リア充自慢したり、青春したり、婚活したりすれば良いということらしい。 適当な枚数印刷された地図が、並べられる。 「嗚呼、月鍵君の協力のお陰で、本人の予定も押さえられています。……もしお暇でしたら、当日はどうぞ、宜しくお願い致します」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月19日(日)22:22 |
||
|
||||
|
||||
|
■メイン参加者 28人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「お誕生日おめでとー! かんぱーい!」 響いたのは、明るい音頭。食事とドリンクの並ぶ机の中心辺りで、グラスを掲げたのは双葉だった。 女子力なんて良く分からないけれど、其のままでも十分素敵だ、と思いながら。 今日の主役の下に向かった双葉が差し出すのは、手作りのショートケーキ。 「今の良さを大事にしたらいいんじゃないかな、とか」 ちょっと偉そうな事を言ってみる。照れたように笑う少女に、有難う、とお礼を言って。 響希は、想定外の事態に驚きながらも嬉しそうな表情を浮かべていた。 其の笑顔を確認して、双葉はそっと人の中に消える。有名所もちらほら居る様だし、少し話をしておこう。 主に、姉の事、とか。 「おめでと、なの……口にあうと、いいけれど……」 おずおずと。ふんわり包まれた、可愛らしい包みを差し出した那雪は、少しだけ不安そうに、パーティーの主役の顔を見上げた。 難解で、高すぎる壁、女子力。自分にそれは無いけれど、お祝いの気持ちをたっぷり込めて作ったのは、完熟ばななとチョコチップ入りのパウンドケーキ。 食べていいの? と首を傾げた響希は、少しだけ気恥ずかしげにその包みを解く。口に入れれば、広がるのは豊かな香りと甘さ。 「ん、美味しい。いいなぁ、あたし料理、って言うかお菓子作るの苦手なんだよね」 那雪チャン女子力高いわよ、と思わず浮かんだ笑みに、嬉しそうに頷き返してから、那雪はもうひとつの包みを、迷う様に手で押さえた。 少しだけ、多めに持ってきたケーキ。その瞳が見る先には、丁寧にグラスを並べる漆黒の青年の姿。渡しても、良いかな。そう言いたげな視線に気づいたのだろうか。 ふ、と合った視線が、微かに笑う。今晩は、と唇が動いたのに気付いて、思わず安堵の吐息が漏れた。 その背を、面白そうに目を細めたフォーチュナが押す。いってらっしゃい。優しく告げられた言葉に頷いて、那雪は小走りに青年の下へと向かった。 何時も有難う御座います、と狩生が微笑むのは、この少し後の事である。 差し出されたのは、枯れない永久花。色合いも美しく、飾り易いであろうその花束に嬉しそうに笑う響希に祝辞を告げながら、よもぎは一輪、その花を手に取る 「自室に彩を添えるのも女子力アップに繋がるんじゃないか……と思ってね。それに、」 黒髪にも映える。少しだけ背伸びして、髪に挿されたそれに、目の前の紅が気恥ずかしげに細められた。 自分に女子力と言うものは無いから、説得力に欠けるけれど。そう付け加えたよもぎに首を振って、響希は花束を抱え直した。 「素敵なプレゼントだわ。でも、あたしに似合うなら、よもぎチャンにも似合うと思うけど」 折角貰ったけど、御裾分け。そんな言葉と共に、艶やかな長い髪に花を添える。 その性がどちらなのかを、フォーチュナは知り得ないけれど。おそろいね、と笑った顔は何時もより上機嫌だった。 「響希とワンナイトラブだ」 「メイ、そこはお祝いに来たって言おうよ……」 普段から好きではいけないのか。そう首を捻る五月と、そもそも其処じゃないと突っ込む惠一。 そんな二人を面白そうに眺める響希へと、祝辞を告げて。二人が差し出したのは、きらきら光る金平糖。 「僕達からのプレゼント、気に入ってくれると嬉しいな」 「それと女子力、が欲しかったのか」 世恋と一緒に、と言う言葉に頷いて、嬉しそうに瓶を揺らす様子を眺めながら、五月はもうひとつ、ときらりと光る何かを取り出す。 女子力は、やはり二人にも良く分からなかったけれど。考えてみた結果、髪飾りをつけてみるのは如何だろう、と言う事になったらしい。 覗き込んだ掌には、可愛らしい猫のヘアピン。自信たっぷりの表情に、響希の表情が思わず緩んだ。 「どうだ、けーいち、これは女子力か? ……あ、迷惑じゃないなら付けて欲しいのだ」 そうだね、と頷いて頭を撫でる少年と、期待の眼差しを向ける少女。可愛らしいそれが少しだけ気恥ずかしくて、けれど、好意を受け取る様に、長い爪がそれを手に取った。 髪に飾った花の、すぐ下辺り。ちょこん、とくっついた猫の姿。 「ありがと。……猫っていうと、メイチャンと一緒に居るみたいね」 似合うかな、と落ちかかったストールを引き上げ照れ笑い。 良く似合ってるよ、と頷いてくれた惠一にもお礼を告げて、響希は五月の頭を撫でた。いい誕生日だ。そう呟く声を聞きながら、惠一も再び口を開く。 「響希は今でも十分女の子らしいと思うよ」 年下の僕が言うのも何だけれどね。そんな言葉には、褒めても何にも出ない、と笑ったものの。常よりその調子が軽やかなのは気のせいではないのだろう。 女子力なんて無くても、響希は素敵だ。自分が嫁に貰ってやりたい位だ。そう言い募った五月は、ふと。微かに首を傾けた。 ドレスコードの無いパーティ。無論、何も知らずに来た上に、フォーマルな装いを余りしない響希の服装が、何時もと違う。 床へと滑り落ちる、黒いドレス。見慣れないなぁ、と首を傾げる五月の様子に気付かないまま。フォーチュナは照れたまま笑う。 「メイチャンも、秋月クンもありがと。これからもどーぞ宜しくね」 差し出されたのは、ジュースのグラス。かつん、と硝子が触れ合う音が響いた。 ● 話は変わって。遡る事、今から大体、1時間程前の事。 「……いや、ミカササンがセンス良いのは知ってるんだけどさ、に、似合う?」 滑らかな黒のマーメイドドレスに靴、そして、小物まで一揃え。 その手にかかれば、お姫様にだってなれるんじゃない? そんな言葉を実践しに来た、と告げたミカサは、おずおずと顔を出した響希に軽く頷いてみせる。 漏れた、安堵の溜息。歩み寄り、今日何の日だっけ、と首を捻るその姿を何時も通りの無表情で見遣ってから、ミカサは徐に口を開いた。 「君には「綺麗」が似合う」 お世辞じゃないよ。そんな言葉にも、褒めても何も出ないと笑う響希はしかし、此方を確りと見詰める黒に、少しだけ表情を改め首を傾げた。 本音を言おうか? 答えを求めない疑問系。骨ばった白い手が伸びて、少し熱を帯びた頬に触れた。 「君を想う人が少なからず居る。気が気じゃないんだ、」 ――誰かに奪われるのは耐えられない。 息が止まった気がした。思考が追いつかない、と言いたげに瞳を幾度も瞬かせたフォーチュナに、ミカサは微かにその口元を緩める。 手が離れた。紅く染まった顔が、困った色を浮かべる前に。 「女子力だっけ……少しはときめいた?」 ときめいてくれたら下手な演技も報われるんだけど。その言葉に漸く真意を悟ったフォーチュナは、何か言いかけ、けれど何も言えずに額を押さえた。 ミカササンの、ばか。漸く聞き取れる程度の幼稚な悪口にも表情を変えず、男はゆっくり歩き出す。 パーティに出るつもりは無かった。喧騒は好まない。モノクロの自店への帰路に着こうとした彼はしかし、ふとその足を止めて振り向いた。 「俺から見れば、君は十分可愛い女の子だ」 想う人が出来たらこっそり教えてね、お姫様。誕生日の祝辞を添える事も忘れずに、飄々と会場を後にするミカサの後姿を。 残されたフォーチュナがどんな思いで見つめたかは、本人だけが知っている事だ。 そんな経緯もありつつ。珍しく着飾った主役と言葉を交わしながら、パーティは和やかに進んでいく。 「やあやあ、響希たん! 誕生日おめでとう! 悩める女子? のために、イケメンリベリスタ筆頭の俺が即参上!」 女子、についた疑問は何だ。アラサーだとでも言いたいのか。否、事実アラサーだが。 どーもありがと、と手をひらつかせた響希に差し出されたのは、素敵なドレス(胸元がちょっと刺激的☆)。 山あり谷ありで男子を誘惑、これでイケメンゲットだゾ☆ って事らしい。 「……あたし、結城クンは黙ってれば本当にイケメンだと思うわ」 でも有難く貰って置く。そう言いながら、面白そうに笑った響希の様子に、竜一は力一杯言葉を続ける。 そもそも女子力とか、女子じゃないのに分からない。俺は自然な子が好きだ。 だからこそ、響希も今のままで居て欲しい。そんな言葉に感動と感謝を告げかかったものの、 「まあ、女子力気にしちゃうようなところも可愛いけどね! うぷぷー!」 色んな意味で台無しである。嫌がらせじゃないって言われても。言われても。 しかも、続いたのは彼女の惚気。それでも、はいはい、確かに凄く綺麗な子ね、と笑みを崩さなかった彼女の後方。 外へと続く扉が、唐突に開く。聞こえてくる、荒い息。 「……あれ、新田クンか。如何したの、外暑かったでしょ」 大量のケース。恐らくは全て酒であろう其れを覗き込み、水のグラスを差し出せば、快は深い溜息と共にそのグラスを取った。 「いや、酒類の注文があったから持ってきたんだよ」 普段なら軽トラックで持ってくるはずのそれ。けれど。少し前、知人が任務で使いたい、と言うので貸してみれば。 なんと、廃車になってしまったのです。ふふ、と漏れる、恨めしげな笑い。 だから公共交通機関で持ってきたのだ、と言う彼の苦労を労う様に、もう一杯いる? と尋ねる響希。これって女子力かなぁ、ぽつりと漏れた声に、快は微かに首を捻った。 「女子力? いや、何て言うか、そういうの気にしちゃうと却ってマイナスじゃない?」 ひとを好きになる時って、なんだかんだでその人の素を好きになるものだと、快は思う。 頭を過ぎるのは、星屑に照らされたあの日の面差し。 「俺の好きな人も、何て言うか結構クールなところあるし。いや、ホントは凄く優しくて……おっと」 思わず惚気てしまった。そう言いたげに笑ってから、祝辞と共にシェイカーを取り出す。 何か作るよ、そんな言葉に少し、考え込んで。 「アレクサンダーで。……ちょっと気が早いけど、新田クンへのお祝いも込めて?」 早く、いい報告頂戴ね。ご馳走様。意味深に笑って、響希はカクテルの完成を待つ。 「あ、はい。三高平大学文学部の1年生、ベルカであります」 先日の講義の話で、と声をかけてきたのはベルカ。嗚呼、覚えてる覚えてる、と頷いた響希は、面白そうに首を傾げる。 「勉強熱心ね、それとも、試験がいまいちだった?」 言外に含む言い方に、慌てて首を振る。単位欲しい訳じゃない。無いのだ。 まぁ、冗談だし安心して良いわよ、と笑った響希へと、語るのは自身の専攻の話。 どちらかと言えば日本史を考えてはいるが、教養として世界史も取っている、と告げれば、偉いわねぇ、とその笑みが優しくなる。 「自分も歴史に学ぶ事を志します。ですが、こちらの方には知識が薄くて……先生は、どの辺りがお好きなのですか?」 「そうねぇ、一応学生の頃は西洋史学専攻してたわ。個人的にはイギリス史、特に近世が好き」 話すと長くなっちゃうから、興味あるならまたその内。少しだけ真面目な表情。 話を楽しむ余り、また、自身の誕生日を忘れているのだろうか。歳を取るごとに、自分の誕生日とは意識の外になるものなのかもしれないけれど。 節目、と言うのは大切だとベルカは考える。だから。 「先生の誕生日にお祝いを申し上げる。この1年、息災であられる事を。乾杯!」 かつん、と何杯目かもしれないグラスを合わせる。有難う、と笑った表情はやはり何時もより少し、優しい気がした。 ● ご主人様のために甲斐甲斐しく尽くす姿はまさに女子の鏡!! フリルがかわいい「ミニスカメイド服」!! 夏だ! 海だ! 女性の魅力を見せつけろ!! 巷で話題の「えっちな水着」!! ニッチな趣味の方のためにご用意しました「スクール水着」 清楚でお淑やかな大和撫子!! うなじで男どもを惹きつけろ!! ちょっと裾が短いけど無問題「浴衣」!! 学校制服って萌えるよな! ご用意しました! 「三高平大学付属中等部制服」!!(高等部制服は面白くn……私服と代わり映えしなさそうなのでありません) 合計5着。女子力MAX! らしいソラ先生プロデュース、外面から女子力アップを狙える(らしい)衣装達。 若干、と言うか相当青ざめた響希が見なかった事にして後ずさろうとすれば、ソラは素早くその背に言葉を投げかける。 「選べなかったら私が選んで強制的に着せてあげるわ。白スクール水着」 びくり、跳ねる肩。って言うかそもそも白ってマニアック過ぎませんか。怖い。怖い。 恐る恐る、振り向く。何度見直しても、変わらない衣装ラインナップ。ちょっと目のハイライトが消えかけてきた気もする。 「……じゃあ、……中等部制服、で……」 少ししたら着替えるから! 着替えるからね! そう宣言して着替えてきたフォーチュナに、制服が似合っていたのかどうかは、見た者のみが知る。 誕生日を祝う。言葉にしてしまえば簡単だが、りりすは酷く、悩んでいた。 何をすれば良いのか。どうも人と違う方向を向いているような気がする自分の祝い方が、果たして正しいのか。 まぁ、悩んでも始まらない。普通のお祝いをしようと決めて、制服から着替え直したフォーチュナへと手をひらつかせた。 「月隠お嬢さん、お誕生おめでとう。ぷれぜんとは嵩張りそうだから別に用意する事にするね」 ひらひら、手を振り返して笑いながら近寄ってきた彼女と適当に言葉をかわしながら、ふと。 思い付いた様に、りりすは首を傾ける。 「そういえば、月隠お嬢さんは、何でそういうの興味ないの? らぶこめろうよ。いいよ。らぶこめ」 あれは、人類の数少ない美点のひとつだと思うよ。本気か否か。分からない調子の声に少しだけ、驚いた様に瞬いた瞳に、ちらりと視線を投げる。 恋は、いいモノだ。りりすは何時だってそう思う。永遠なんて無い。夢は醒めるもので、花は散るものであるように。 残され続けても、かわした想いが、繋がりが、目に見えないものになってしまっても。それでも。 「それでも、言い切れる。人を好きになってしまう。……恋は奪うモノでもあるけれど。堕ちるモノでもあるからな」 月隠お嬢さんも、きっと何時か堕ちてしまうよ。 光の薄い瞳が、深いいろを湛えて揺らぐ。其処にある真意を読み取るには、経験が余りに足りなくて。けれど、思う所があったのだろう。 少しだけ思い悩む様に、グラスに目を落とした侭。唇が微かに、開かれる。 「失くしたの。見送って戻って来なかった。それは恋では無かったけれど、……もう、そんな思い、したくなかったの」 血の繋がった支え。理解者。だから、此処でも同じ様に生きていくつもりだったと、小さく呟いて。フォーチュナは、不意に笑う。 りりすに確り向き直って。忘れてた、と言わんばかりにグラスを合わせて。 「……無理だったし、りりすサンの言う通り、恋に落ちちゃうのかもね」 その時は宜しく。少しだけ吹っ切れたような笑みを浮かべて、フォーチュナはふらりと席を外した。 「あたしゃ賞金首みたいなもんだったしぃ、喧嘩喧嘩の毎日だったよぉ」 修羅場だったし、浮いた話のひとつも無かった。その腕ひとつで生きてきたのだと言う御龍。 日本酒のグラスを差し出した響希は、驚いたように瞬きをして、凄いのね、と呟いた。 「女子力って言うか、こう、……戦闘力じゃないの、それ」 普通に凄いと思うけど。そう付け加えられた言葉に、みりゅーん……(´・ω・`) どうせ付き合うなら、自分より強い人がいい。そんな台詞と共にやはり、祝辞を告げた彼女は思い出した様に用意してきたものを取り出した。 「あ、そだぁ、クッキー作ってきたんだよぉ♪ これはささやかなプレゼントさぁ!」 女子力なんて皆無だけど、と言う彼女が差し出したのは、クッキー。ハートにうさちゃん、驚く程ファンシーで乙女チックロマンチック。 食べてみた。味も美味しい。これで、女子力が無いなんて。ちょっと目のハイライトが消えかけた響希に。 「まぁ料理なんかしてみれば女子力上がるんじゃぁなぁぃ?」 力一杯、無自覚の追い討ちがかかったらしい。 とあるリベリスタは言っていた。あのフォーチュナが、自分達を送り出す時の様子が印象に残る、と。 「其れに、チョーカーが艶かしくて……同性の私は羨ましいです」 思うこと。聞いたこと。それを全て、狩生に伝えながら、シエルはそっと胸元を押さえる。 本人に直接伝えれば、口下手な自分の言葉では、単なるお世辞と受け取られかねない。 故に、周囲の人々が感じていそうなその魅力をこの場を通して語り合い、共有する事で。 「彼女の魅力の再発見に繋げる事が出来ればと思います」 如何でしょうか、と不安げに首を傾げれば、青年は素敵な案だと思います、と微笑んだ。 そんな言葉と共に、差し出されたのは焼き菓子を詰めたバスケット。 「……少々多く用意し過ぎてしまいまして。お持ち帰り頂けますか」 確か、孤児院で働かれているとか。そんな言葉を添えた青年の肩を叩いたのは、常の様にアクセサリーで身を飾った鷲祐だった。 差し出すのはギムレット。爽やかに香るラムを受け取って、誘われるままに座ったのは窓際の白いテーブル席。 口に含む。味わう様に飲みながら。 「……いい機会だ。アンタはどんな女性がタイプなんだ?」 レンズ越し。視線の先は、エリスと言葉を交わす響希。例えば、あの髪型は。服のセンスは。 落ち着き、大人の雰囲気漂う男同士の会話の中で。話題に上がる、と言うのは、自信や色々なきっかけに繋がるだろう。 そんな企みを含んだ彼の問いに、狩生は薄く笑う。 「自分らしさを失わない方、とでも言っておきましょうか」 この歳になると、恋はとても難しいものに思えるので。その瞳から真意は読み取れなかった。 ● 16歳。それは、日本の女性の結婚可能年齢である。 そして、その16歳。華の女子高生、明奈にとってもそれは例外ではなかった。 ならば、今から婚活シミュっといても損は無い。まずは彼氏から? そんな事は分かっている。けれど。 「……おっかしいなー」 何故、こんなに明朗快活で可憐なのに彼氏が出来ないのか。 クラスの男子全員、いや最低でも全校生徒の半分が土下座して、交際を申し込んでくる筈なのに。 彼氏の一人や二人や三人など、ちょろい筈なのに。 最近の男子は何なの? シャイなの? 草食系なの? つまり、此方が狩る側。女子力即ち狩猟力。 時代は、肉食系女子なのだ。 「女子力アップで彼氏ゲットのためにはまず罠の設置からだな」 男を誘う餌……スタイル抜群、このボディを磨かねばならない。 夏の日差しにも負けずに輝く、健康的な黒い肌! でも制汗対策はしっかりと! 汗ジミはNGだ! ばっちり用意を整えながら。ふ、とその手が止まる。 「で、何の集まりだっけこれ。ま、いいや!」 そんな彼女と同じく。 女子力。 それは、乙女たる証明にして狩人の印。 汝恐るることなかれ。汝怯えることなかれ。 貴方の内に秘めたその力、余すところなく解き放て! 以上、抜粋に迷ったのでそのまま使いました。会場の片隅、ゑる夢は来るバレンタイン(注:半年後)に向けて、チョコレートの試作を行っていた。 依頼で勝ち取ったチョコと、あのNOBUのラヴやらパッションやらなんやらたっぷり詰まった猪口を削って溶かして混ぜ合わせて固めて。 「……ほら……素敵なハートが出来ましたよ……」 そのハート、ちょっとって言うか相当禍々しい色ですが。どんな男子も撃墜出来るとは本人談だが、これでは別の意味で撃沈しそうである。 でもまぁ。とりあえず。 「さあ、来たれ乙女の狩猟祭!」 そんな、ある種ものすごい空気の一角の様子は気にも留めずに。花束を渡し終えたエリスは黙々と、食事を口に運んでいた。 リベリスタの女子力は、物理で殴るもの。そう聞いた事がある。 「それを……確かめに……来た」 今日はわかりそうには無いけれど。ある意味外れていない気も、した。 「月隠さん、お誕生日おめでとうございます」 恭しくも気取って、一礼。話でもしないかと誘う亘の声に返るのは、喜んでと言う上機嫌な声。 世間話を重ねて。次第に話題は、悩み、と言うか女子力へと流れていく。 「貴方は素敵な女性だと自分は感じてます。だから根本的には変わらずでいい」 それが貴方の魅力なのだから。気恥ずかしげにありがと、と返った声に頷いて。 その上で、助言になるかは分からないけれど。そう前置いてから。亘はひとつ、提案をする。 「少しの積極性を持ってみては?」 何でも良い。家事でも人間関係でも、一歩踏み出せば。世界は変わり、自身を変える事も叶うのでは。 そんな言葉に、響希の瞳が瞬いて。 「……その通りね、情けないなー、もうちょっと頑張ってみてからって話よねぇ」 教えられちゃったわね。そう笑う姿に笑みを返して。恐らく一番簡単なのはその心を捕らえる男性が現れる事だろう、と呟く。 恋をすれば、それだけで身につくもの。それが女子力。 「そうしたら、貴方は更に美しく輝くでしょうね」 そんな言葉に、少しだけ紅の瞳が下げられて。頑張って見るべきかしらねぇ。呟いた声は少し、小さかった。 ● 「恋愛については、私も本当に最近の事で……」 合わせたグラス。余り飲めない酒だけれど、今日は特別。リリは、控えめに話を始めていた。 恋。自分がする事など無いと思っていたそれだから、今の状況は自分でも本当に驚くべき事だった。 切欠なんて分からない。それが、何時やってくるのかも。 「あの方を好きになってから、世界の見え方も、ものの考え方も、色々な事が変わったように思います」 例えば会えない時の寂しさのような。辛い事もあるけれど。 それを補って余りある程に。彼を思えばその心に満ちるのは、幸福と勇気。 優しい彼。強く、その手を握り続けてくれる人。 「あの方を好きになって良かったです。……私は今、とても幸せです」 出来る事なら、ずっと傍に―― そう、願いをかけかけて。微笑ましげに目を細めて此方を見る響希に気付いたリリは、慌てて手を振った。 「……わ、私の話ばかりになってしまいました……参考になったでしょうか」 「素敵な惚気をありがと。……そうねぇ、人恋しくはなったかも」 これからもまた聞かせてね。 グラスを煽った響希の笑みはほんの少しだけ寂しげで、けれど、次にかかった声に直に、その表情は笑みに変わった。 「響希さん誕生日おめでと~! 片想いの彼へのフラグが一向に立てられません!」 人生の先輩と言う事で。是非とも助言願いたい、と何時もの私服で現れた陽菜は、しかし少しだけからかう様にその視線を投げた。 恋愛相談? の様なものだけれど。 「……とは思ったものの、響希さんも独り身なんだよね~」 「あのねぇ、あたしだって恋愛未経験! って歳じゃないわよ」 まぁ、陽菜チャンなら気付けば立ってる気がするんだけど。可愛いし。そう、律儀に付け加えた言葉に笑いながら、陽菜は辺りを見回す。 会場には、沢山の女の子。ならば。折角だ、この中で一番女子力の高い女子を選んでもらおうじゃないか。 そんな提案に、返るのは苦笑。 「アークの女の子、皆可愛いし。あたし、女子力良く分かんないから選べないわよ」 まぁ、とりあえず今日勉強した事に沿うならば、手料理が出来て、身なりに気を使う女性なのだろうか。疑問は未だ、解けて居ない様だった。 「響希ちゃんは女の子らしさが欲しいと思ってるのね。要するに」 グラスを傾けながら。並ぶのは、響希と狩生、そして少女……否、エレオノーラ。 今のままの響希を好きな人は沢山居ると思うけれど。折角の機会だ。 自分は女ではないから、的外れかもしれないけど、そう前置いて、エレオノーラはグラスを机に置いた。 「女性を女の子らしくさせるのはいつでも男の責任だと思うの」 恋をして、綺麗になるなんて、よく言ったものだ。女性を変えるのは何時でも男だ。 「女の子っていつでもお年頃よ。女子力なんて気にしちゃう時点で、有り余ってると思うのよね、あたしは。ねえ狩生君」 話を振る。興味深げに耳を傾けていた狩生はその視線を向けて、そうですね、と頷いて見せた。 紫の揺れるグラスが、光を反射する。 「……経験豊富そうね。いいなぁ、おじさま……いや、見た目はとっても美少女だけど」 憧れちゃう。そんな言葉にくすり、と笑って。エレオノーラは首を振る。 自分も、きっと狩生もそうだろうけれど。体験談に、聞いて参考になるものなどひとつも無いのだから。 恐らく其れに気付いたのだろう。面白そうに笑みを浮かべた狩生もまた、口を開く。 「秘密は多い方が、魅力的に見えるものの様ですしね。……貴方は特別でしょうか、エレーナ」 貴方の積み重ねたものは酷く魅力的に見えますね。男の表情もまた、何処か楽しげだった。 並べられたのは、何枚もの顔パック。 「……今回は女子力向上グッズを提供しに来たのさ。じゃーん」 何と高濃度なんちゃらをなんちゃらした、米国で大人気の云々。如何にもな宣伝文句を並べる千景の言葉には半信半疑。 良くある過剰宣伝じゃないの? そう言いたげに首を捻る様子に、ならば実演。 パックを貼って、使うのはスキル。ぱらり、剥がせば肌はモチモチ、目はパッチリ、髪もサラサラ! 「……こんなので女子力上がったら苦労しないわよね……。ごめんね、時間取らせちゃって」 手鏡で自分を見つめて溜息つくのも忘れない。さらり、髪を靡かせて去るその場に残るのは、先程のパック。 実は糊を塗った悪戯品で有る事を響希が知るのは、家に帰ってからの話である。 ● 「じょしりょく!! ミミルノにおまかせなの~」 きゃっきゃ、と楽しげに。ミミルノが差し出したのは、自身のお気に入りの洋服たち。 女子のアピールはまず、可愛い服だ。 「こーゆーのきてみないっ?? ふたりできたらもっとかわいいとおもうの~♪」 向けられるのは、純粋な好意。一瞬詰まった響希はしかし、折れた様に頷いて見せた。 ふりふり可愛いお洋服に、縫い包みとかリボンとかポシェットとか。 飛び切り可愛いコーディネートに身を包んだ響希が、落ち着かないと言いたげに頭のリボンを触る。 「ミミルノのおきにいりをかすのはとくべつなのっ!」 後でお菓子欲しい、何て思ってない。誤魔化すようにそう告げたミミルノに、思わず笑って。 響希は自身の鞄に入っていたチョコレートを差し出した。 「ありがと。大事なお洋服着せてくれて嬉しいわ」 ただ、恥ずかしいからもう少ししたら、脱がせてね。そう笑う顔は、案外満更でもなかったのかも知れない。 誰かの誕生日を祝うなんて、何時振りだろうか。 アークに来て日も浅い。少しでも空気に慣れようと、紅麗は人の中をすり抜け、グラスを取っていた。 声をかけなくては。深呼吸をひとつ、徐に近寄って。 「初めまして……。そして誕生日オメデトウ……」 控えめな声に振り向いた響希は、有難う、と笑ってグラスを揺らす。 目的は果たせた。やっぱり多人数は得意ではない、仕舞っておいた仮面に手を伸ばして。 初対面だけど、お祝い出来て良かった。そう告げながら去ろうとする背を見遣って、響希は思いついた様に声をかける。 「ええと、確か闇影クン、だっけ。……何かあったら相談位には乗るんで」 これから宜しくね。それだけ告げて手を振る彼女の前を、うろうろしていたのはミリィだった。 祝辞は既に済ませてある。自慢するような事も、告白も無い。ワンナイ? には年齢が足りないらしい。 ボッチは寂しい、と言う事で話に耳を傾けていたミリィは、自身の得ていた知識と異なる女子力に首を捻った。 「私の調べた女子力を磨くことに、オムライスが食べられなくなると言うものがあってですね……」 ひよこさんがかわいそうですぅ>< なんて奴だろうか。そう言うものじゃないのか、と問えば、響希は面白そうに笑って、首を振った。 「や、それは流石に違うと思う。オムライス食べてる子可愛いし」 その答えもずれている気がするのは、気のせいではないだろう。 嗚呼良かった、と安堵を漏らして。ミリィは段々と分かってきた女子力像を頭の中で纏める。 生まれつきの能力と、女性である事を自覚し努力していく力。それが、女子力なのだろう。 「間違った知識は正せましたし、今度は一緒に磨けたらいいのですよ」 目指せ女子力アップ。頑張りましょう、そう笑った響希の手が、ミリィの頭を撫でた。 芳醇な香り。お気に入りのワインを差し入れて、ティアリアはおめでとう、と微笑んだ。 「まあ、年を取るのを祝われて嬉しいわけじゃないのはわたくしにもわかるけど」 生きて来れた事や、出会いを喜びなさい。そんな祝辞に笑って頷いた響希へと。ティアリアは更に言葉を重ねた。 女子力が欲しい。女性らしさは十分あると思うが、そうではないのか。その問いにも、返るのは肯定。 「別に、可愛く見せる必要は無いと思うのだけど」 ティアリアが可憐である様に、響希は格好良いが似合う女性だ。其処を潰さない方が大事じゃないか。 そんな言葉に、あー、と言いたげに頷いた響希はしかし、思い悩む様に頭を抱える。 「何て言うの、ティアリアさん系の、可憐な落ち着きの方が、良いのかなみたいな……」 でも、そう言う事じゃない、と言うのは何と無く分かった。そう告げる響希を面白そうに眺めて、ティアリアはワインを口に運ぶ。 「わたくしと一緒に女子力アップトレーニングしてみる?」 自分も興味が無い訳じゃない。楽しげな笑み。ティアリアサンとなら楽しいかなぁ、そう呟きながら、響希もまた、グラスのワインを味わう様に口に含んだ。 ● 女子力。正体こそ分からないけれど、可愛い格好をすれば上がりそうだ。 そう思いながら、響希に声をかけたアルメリアが差し出したのは、スカートやワンピース。 「ちょっと雰囲気を変えるくらいなら、ゴスパンク風。もっと違う感じにするならワンピースとか似合いそう」 どうかしら、と尋ねる声。 「すっごい好き。……似合うかなー、でも、ちょっと興味はあるわ」 何処にあるの? そう首を傾げれば、アルメリアは笑顔で、案内を買って出た。 もし、他にも興味があるなら、一緒に可愛い服も探しに行きたい。だって。 「せっかく知り合えたのだし響希ちゃんと仲良くなりたいもの」 そんな言葉に、響希はやはり照れた様に笑って。今度是非、と、頷いて見せた。 「お誕生日おめでとう。サン・オリーブだって、ペリドット色のお祝いを君に」 ふらり、カクテル片手に現れた葬識に、響希は何時も有難う、と笑って其のグラスを受け取った。 かちり、触れ合う硝子の音。 「熾喜多クンが来てくれるとは思わなかったわ、殺人鬼は生死どちらも尊ぶの?」 「そりゃあ、世界すべて、生きとし生けるものが増えることは素晴らしいことだねぇ~」 言葉遊び。すべての生命が好きだ。だからこそ、殺したい。その、運命ごと。 殺人鬼は嘯く。答えはシンプルだ。愛とか恋とか、難しい方程式何て必要無い。 大切な命を、大切に殺すだけだ。 あんたは何時もぶれないわね。そんな呟きを聞いているのか聞いていないのか、葬識は飄々と目を細める。そう言えば、女子力だったか。 「俺様ちゃん殺人鬼だからよくわからないけど十分、月隠ちゃんは可愛いと思うけどねぇ~」 特に月鍵ちゃんをみているときなんて、素敵だよ~。何処まで本気なのか。けらけら笑いながら告げられた其れに、微かに笑う。 ねえ、と、かかる声。 「例えば、飛び切り素敵に思えたなら、あんたはそれを殺したくなるのかしら」 それは、どんな気持ちなのか。今度、機会があったら教えてよ。そんな言葉を残して。 透ける翠を飲み干したフォーチュナは楽しげに笑った。 会も終盤。響希を中心に、女性、そして男性。手早く並べた鷲祐は、持参したカメラを確りと三脚に据えた。 「気づくって事は、見返す事だからな」 記念に一枚。シャッターを切る。鷲祐自身は如何するのか? ――問題無い。神速で、ばっちり写るのだから。 帰り際。喧騒の中で耳にした好意は、どれもポジティブなものだった。 何時もの様に狩生に声をかけたよもぎは、少しだけ考える様に視線を落とした。 交わし終えた会話。少し、間が開いた。 「私はね、きみが好きだよ」 一言。零れる様に漏らされた言葉は置き去りに。よもぎは歩き出す。 有難う御座います、と聞こえた気がした。けれど、それ以上言い募るつもりなんてなかった。 だって、今は未だ。飾る必要なんて無い、言葉だ。 気付けば夜も更けていた。帰路に着くもの、飲み直す者。行き先は様々で。 その面々を見送りながら、フォーチュナは思う。此処に、アークに所属する事の出来た自分。 「……正直、それが今年一番の、プレゼントだったかも知れないわねぇ」 優しいリベリスタ達に感謝を告げて。預言者は楽しげに、夜の街へと消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|