●殺伐の境界線 -Artificial Line- 深夜の橋上。 剣林と裏野部のフィクサードが抗争をしていた。 憂さ晴らしが出来れば良い裏野部。言いがかりに頭を下げるにはプライドが重過ぎる剣林。 切っ掛けなど、些事だった。 「黄泉ヶ辻の仕業だ!」 剣林のフィクサード『太陽王子』南 テツヲは警棒型の破界器で、振り下ろされんとするチェーンソーを受け止めた。 「私は殺人鬼ィィィ! 一日一人殺さないとぉ、気が狂ってしまうのだぁぁぁ!」 裏野部『幹部を夢見る乙女』高梁・テスタロッサ・邦子が狂気に満ちた顔で眼前に迫る。邦子が携えたチェーンソーのモーター音が間近で唸って、耳をつんざく。警棒が削れて火花が散る。 「くっ!」 テツヲが周囲を見れば、邦子の配下が群がる。 モヒカン頭で鉄パイプやバールのような破界器を携えている。 「っとお!」 テツヲは力を込めて邦子を突き飛ばした。 次に配下のフィクサードへ正拳を見舞う。 「せやっ!」 ――ぼかん。 テツヲが拳を繰り出した瞬間、間近で爆発が起こった。 吹き飛ばされたテツヲは、咄嗟に宙返りをして着地する。 死闘を繰り広げていた邦子もまた、身を翻して爆発を回避していた。 「くっ!? 何者だ!?」 「な、なんだァァァァ!?」 「あ、あろッ!?」「ちにゃ!?」 裏野部側フィクサードの頭部が次々と爆ぜて、あたり一面に漿液と灰色の脂質片が散る。 頭部を貫いた"タケノコの如きモノ"が地に刺さり、狂ったように潜っていく。 ――ドリルであった。 「死ぬには良い日だ、良い月だ。かぐや姫だってビジネスクラスでも里帰りしたくなるだろうな。そう思わないか」 月光を遮るように、大きな影が現れる。 2mはあろうかという巨体が中央に着地した。 生き残ったモヒカン達は狼狽した様子だった。 「なんだテメェはぁぁぁぁ!」 「ゆるッざんっ!」 2mの巨体は全身を金属装甲で覆いロボットの様に見えた。 こぼれた灰色の脂質片を踏み潰し、両腕の得物を悠然と向ける。得物からはガンベルトの様に連なるドリルが垂れ下がっていた。 「俺は『係長』」 『係長』と名乗った巨人の両腕から、甲高い音が鳴る。青白いスパークが迸る。 「恨みは無いがビジネスでな。死んでもらう」 : : : 「こ、この『太陽王子』を……!」 「Nice Joke。お魚さん達と盆踊りってのも洒落てるぜ? お勧めだ」 『係長』はテツヲを橋下へ放った。 水音が鳴り、太陽王子は水に没する。 後に残る音は虫の音と川のせせらぎのみ。 喧騒のない静寂が広がった。 『鏖殺を確認』 「必殺完了。しかし脳筋は良いものだ。生きやすそうで羨ましい」 『私語を謹んだらどうでしょうか、係長』 「終わったんだからさ。石みたいな石頭は無しにしようぜ、アイちゃん」 『終わった? これはサブ任務ですが?』 「え」 『オーバーキルです。特殊兵器の弾薬費は給料から引かせて頂きます。バランス良く』 「ダレカサンの真似? これ以上引かれたら首がまわらないんだがな、今月」 『引き続き、工場襲撃を遂行してください』 「無視か。きっついねぇ、えへら、きっついねぇ、全く」 先程まで吠えていた邦子も、あちこちに千切れて沈黙している。 どこからが誰で、誰がどこからで、判別などはつかない。 橋上に広がった赤い水面は水月を湛え、映る景色を歪夜のように染めていた。 ●焼け野原 -Burned field- 「二人組のフィクサードが、某重工の工場を襲撃します」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)が静かに告げた。 どうも寝不足の様にも見える。 「何処の誰がそんなことを」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタの一人から質問が出た。 襲撃を受けるという某重工は、駅構内の業務用エアコンや、道路等にも貢献している大企業だった。 「恐山です……」 『三高平(´・ω・`)ピック』に千堂が呼ばれている。ここで恐山事件とは何とも豪気だ。 しかし、恐山が力技というのも珍しい。 「正確には、恐山系列の企業です。表向きはクリーンな運営をしており、行政の介入も無いのですが――」 横から女の声がした。 「――裏では、仕事の仲介をやっている」 片腕を欠いた女がいた。壁に背を預けて不機嫌そうな顔をしている。 和泉曰く、参考人との事だった。 「仲介している仕事は、非合法な武器の輸出入。傭兵の貸し出し。まあ何でも有りだ」 恐山系列の企業に所属しているフィクサードが、何者かの依頼を受けて大手企業の工場を襲う。 そういう話だった。 「私も以前は此処を利用していた。小規模リベリスタ組織の依頼や、フィクサード同士の抗争で双方から依頼が来る事もある。実態は気になっていたが、恐山だったとはな」 小競り合いが利益になるのならば首をつっこむ。双方から仲介料をせしめる。何とも恐山らしい。 「流石は恐山というべきか。権力を用いた圧力等での解決は見込めません。また、目前の事件に関してはやはり皆さんに頼らざるを得ません」 仮に何か証拠を掴んだとしても、あっという間に倒産させて、別の企業を作るだろう。恐山ならば。 「よりにもよって『係長』とはな、変態め。……せいぜい善処の上、生きて帰れ。リベリスタ」 意味深に言い切った後、参考人は職員に連行されていった。 「宜しくお願いします」 最後に和泉は、眠たそうな目で頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月12日(日)22:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●(´・ω|壁 -Dorin !?- 何とも夏らしい夜だった。 リベリスタ達が訪れた工場は、既に盆の休暇に入ったか。 静まり返っていて、鈴虫の音が何とも心地よい―― 「チェロスキー製の変態兵器と聞いて参上よ♪ 変態兵器ある所に私ありね」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は、長らくこの件を追う一人だった。 「十字を切って勝利を誓うわ。今宵の宴の勝利は我らに有り♪」 ――さぁ宴の贄共を迎え撃とう。 エーデルワイスが揚々と得物を高らかにする。 続いてリベリスタ達が各々配置につき、付与を施した。 「(´・ω・`)ピックは後日ダイジェストを鑑賞するつもりだが……」 『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)が月を仰ぎながら呟く。 急に舞い込んだこの依頼。相手は恐山一派が2人、内1人はオーバードウェポンなる物を使う。 「『こんなもの』が存在するなんて驚きだよ、どんな変態企業力を有しているんだ」 参考人の言葉が脳裏に浮かぶ。綾香が、続く言葉をつなぐ。 「――ゆくゆく好きと見えるな」 「恐山脅威のテクノロジーって奴だな」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)が綾香に応じながら煙草咥えた。着火はしない。 「やべぇな。Wドリルか。昔のアニメに出てくる大砲を二つ肩に乗せたロボみてぇな感じなのかねぇ?」 88mm大陸弾道ドリルバンカー。 心に潤いをもたらす兵器。それも二つ。想像するだけで胸が躍る。 フィルターの触感を口角に感じながら、次に『係長』ってのも凄い名前だと考える。 「『課長、部長』と合わせて社蓄三連星とか何れ出てきたらおっかねぇな、うん、おっかねぇ」 「こっちじゃ変わった武器が流行ってんのかな」 『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)もまた、つい先日に変態兵器と遭遇している。 昔そんなの持ってた傭兵をどっかの国でも見た気がすると考えるが、間もなく止めにした。 とにかく強そうだ。楽しそうだ。存分、愉しもうという想いが胸裏を塗りつぶす。笑いが止まらない。 「ハァ~……」 笑みを禁じ得ないシャルラッハに対して、『持たざる者』伊吹 マコト(BNE003900)は、ため息をついた。 今回のフィクサードは『係長』という。 マコトは毎日会社で係長にいびられて、フラストレーションが溜まっていた。 『係長』――気に食わない。とりあえず脳内嫁に語りかける。『八つ当たり?』と返答が返ってくる。 「……まぁ、確かに八つ当たりだけどね。多少気が晴れるなら良いかなって」 マコトがボソボソと脳内嫁と語り合う横で、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)も"建前"を吐き出した。 「やだなぁ~、こんなアグレッシブな恐山」 (´・ω・`)ピックに千堂が呼ばれている。調停くらいもっとおとなしく出来ればいいのに、と吐露する。 「脳筋ってやだやだ~バランスよくないよ~」 建前と本音。建前を吐き出しながらも、暗視と千里眼で迎え撃つ準備を進める。定期的な殺人の欲求。 その足しになるか。陽気な殺人鬼は歪な鋏をくるりと回した。 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は黙していた。しかし、くくりと頬を釣り上げる。"殺し合い"を"楽しみ"と考える者が何とも多いと考える。対する者はビジネスと来た。何の因果か。 「『係長』に凍イ出ちゃん、まだかな~?」 「楽しみだよねー」 『狂獣』と『殺人鬼』が嗤う横で、『Trompe-l'S il』歪 ぐるぐ(BNE000001)も、はしゃいでいる。 「さあこい、ぐるぐさんが喰ってやるのですよ~」 シビリズは何とも楽しそうだと感じた。 闘いなど楽しむものであろうに、と考える。そう、存分に存分に―― 「あ、係長」 葬識が千里眼で、空高く『係長』を捉えた瞬間。 鉄の巨人が門近くに降り立った。コンクリートが煎餅のように砕ける。 『ジャミングか。来る事を知ってたみたいだな』 ●謀略の恐山 -A Schemer- 二足歩行の機械兵器そのものが目の当たりになった。 煌々としたモノアイカメラ。尖鋭的なフォルム。 両腕には『88mm大陸弾道ドリルバンカーW』が備わっている。 ツインキャノンなどという発展でもなく、両手にそれぞれ単純に二つ持っていた。 『アークか。悪いがビジネスでな。通らせて貰うぜ』 工場の入口を『係長』から遮るような布陣。『係長』が猛スピードで突破せんと迫る。 ガンベルトの様に連なったドリルを変態兵器が飲みこんでいく―― ぐるぐが弾丸のように飛び出した。 「恨みは無いけどお仕事でして。邪魔させて頂きますよ、係長」 ほぼ同時に、無数のドリルが発射される。ぐるぐは間を縫うように駆けた。飛来するドリルをナイフでさばき、銃床で叩き落とせば、眼前に『係長』。 縦横無尽に動き、『係長』の腕を殴る。蹴る。撃つ。斬る。 『空気みたいに身軽な奴だな。その辺で空気になっていて貰おうか』 ぐるぐの目前にもう一つの変態兵器の砲口が据えられた。青白い電光が目前。悲鳴の様な甲高い音が耳に入る。 ――断罪の魔ドリル。 ナイフと銃をクロスさせて中央で受け止める。触れた瞬間、狂った様に回転する錐の衝撃で放り上げられた。 ぐるぐが放たれた即座に銃声が鳴る。 断罪の魔ドリルが爆ぜる。 エーデルワイスの放ったものが跳弾して、ぐるぐが攻撃を加えた場所へ突き刺さる。 「ここは行き止まりよ係長。先に進みたいなら御代を払ってもらうわ」 エーデルワイスは、側転と同時に、機械の腕に刺さるドリルを引きぬいた。 無数にばら撒かれたドリル。腕部の穴からはパチパチとスパークを覗かせる。 『幾らだ』 機械から表情は読み取れない。モノアイは何も語らない。 「御代はもちろん貴方の命♪」 『大したクソアマだ』 「私にとっては褒め言葉も同然♪」 エーデルワイスと『係長』の間に、ぐるぐが宙返りをして着地する。 変態兵器の片方がエーデルワイスに向けられ、もう片方はぐるぐへ。 再び変態兵器から悲鳴の様な音が鳴る。 「いきなりアポ無しで失礼するよ、係長さん」 シャルラッハが、係長の腕が跳ね上げた。 振るう赤々しいチェーンソー。禍々しきオーラを携えて下から上へ振りぬき、更に片方の腕を跳ね上げる。 『アポ取ってから来るんだな。千堂さんかアイちゃんにTEL入れて、書類用意して、ハンコ押して――』 『係長』腕を振るう。シャルラッハをこれを後方に回転とびで避ける。 「やだよめんどうくさい。でもシャル達もビジネスで来てるわけだから、悪いけどここはお引き取り願うよ!」 ここへ葬識が「凍イ出ちゃん見ぃつけた」と合図を出す。 「そうか」 シビリズは腹部にドリルを受けていた。 口中までこみ上げる物をゆっくり嚥下する。重厚な槍を振って地に突き刺させば、光がぐるぐの呪いを浄化する。 これを見届けて、次に駆け出した。 綾香は、ドリルで抉られた脇腹を押さえながら思索していた。 暗視と千里眼を持つ葬識により、門の向こう側にいた『殺伐の境界線』凍イ出 アイビスを視認する。『係長』達の脇をすり抜ける。 綾香が施したジャミングにより、声によるサポートが不全化した状況。 支援役ならば射程ギリギリの地点で、戦術を展開せんと用意する。強行突破が難しい等の判断されれば、他の侵入経路を探す等で離脱されるか。チャンスは少ない。 綾香の高速演算より弾き出した先、次手。即座に叫ぶ。 「聞こえているか恐山、勝つのは私達だ」 綾香に気がついたアイビスが振り向いた。 即座に綾香はトラップネストを作動させる。 「何とも。甘く見すぎましたか」 アイビスはトラップネストを避けると、反撃とばかりに綾香へ破界器を向ける。 「こんにちは~いい夜だねぇ~本日オーダー2人めの殺人鬼だよ~」 アイビスの背中。歪で禍々しい大きな鋏が夜闇に煌めいた。 煌めくと夜闇よりも深き暗黒が生じて、アイビスに反撃を許さず切り裂く。 「鏖殺されないように葬ちゃんがんばっちゃう☆」 葬識がゆるりと闇から出た。 陽気に嗤いながら、歪な鋏を開いて閉じる。閉じて開く。 「気触れですか、貴方」 「そんなに褒めないでよ凍イ出ちゃん~☆ 俺様ちゃん嬉しくて丁寧に殺したくなっちゃう」 リベリスタ達はアイビスへと多く面々を割いていた。 最初にアイビスを撤退させた後、係長を集中攻撃するという作戦。 「ね~、君、あそこで大暴れしてる人の保護者でしょ? いいのあんなに弾数消費して~」 「……」 アイビスからの返事は無い。 アイビスはバイザー付きのヘッドギアを装備している。表情は読みにくい。 「ここって意地張るところじゃないし、また出直してこない~?」 「――面倒は嫌いなのですが」 アイビスは係長の方向へ走りだした。 「悪いっすね。係長のお手伝いはさせないっすよ」 マコトの手より鴉が放たれる。アイビスの肩を掠り抜ける。 「……惜しい」 「ネストの次に鴉ですか。面倒な方々です」 怒りは発動しない。しないがアイビスは門から中に入り、マコトの眼前で動きを止めた。 「プランB『トラップネス――」 言葉を途切れさせる破裂音。アイビスの頭がグラりと揺れる。 烏の狙撃がヘッドショットを達成する。ハイスコア。反撃不可能な位置からのアーリースナイプ。 「撤退をお薦めするんだけどね」 リロード。薬莢を落として次を装填する。 烏は狙撃手の様に伏せつつアイビスを狙う。次に『係長』側をチラと見れば、戦況が動いていた。 ――不味い、と烏が呟く。 アイビスのヘッドギアが半分砕けた。集中攻撃をされて、しかし笑っていた。 「『係長』を狙わず私へ、という訳ですか――」 「惜しかったですね」『惜しかったな』 突如、ドリルがシビリズの脇腹を攫っていった。 断罪の魔ドリル。威力が増しに増している。 続いてアイビスを庇う様に『係長』が降り立った。 「プランB、『トラップネスト』」 シビリズの足元から気糸の罠が生じる。 「……ッ」 呪いと麻痺。これは容易に解けない。 『焦ったが、早めに分かったのは僥倖だな』 何を知られたのか。――ブレイクフィアーの使い手の有無か。 再び変態兵器が、悲鳴の様な音を立てた。 ●停滞 -Submergence- 停滞が生じた。 『係長』はこの図体ながらも疾い。攻撃した後にアイビスを庇う。 庇いながら注がれる麻痺と呪いが、リベリスタ達の火力を奪う。 レイザータクトであるマコトは、離れた位置で思索を続けていた。 単体の分析に強い綾香も、論理を展開して助言を添える。 先に束縛を仕掛けられた事が手痛かった。 やはりにシビリズが鍵だった。耐えるしかない。 『いい線いってたんだがな。悪く思うなよリベリスタ』 『係長』が動く。 『係長』はアイビス庇い続けた結果、被害が蓄積していた。 シビリズは、悠然と工場の入口に向かう『係長』を見ると、途端に胸裏から煮えたぎるもの覚えた。 このまま間抜けに見過ごすのか。ただの一発も殴りつけず、終わるのか。 望んだ闘争ではない。断じて、決して。…… 「『係長』!」 シビリズは立ち上がる。 「さぁ戦おう、さぁ闘争だ。麻痺だと。呪いだと、ふざけるな。こんなくだらない小手先で。私が屈するか。再開だ! さぁ再開だ! ドリルを撃て、必殺の砲撃を使え。今すぐにだ、ビジネスマン!」 シビリズは闘争心を全開にして破邪の光を放つ。束縛が消滅する。停滞の終わり。 『イカレばっかだな。もういい、損きりだ』 「――ですが」 『係長』は無言で返答する。しばしの沈黙の後、アイビスは離脱するように動いた。 アイビスを撤退か撃破をしてから、『係長』を集中攻撃する計画であったが故に見逃す。 見逃した分を『係長』へ注ぐ。 『マジな戦いって好きじゃないんだよな。まぁやるなら、本気でやった方が楽しいか』 変態兵器の青白いスパークが真っ赤になる。 「ぐるぐさんもそう思うのですよ。やるなら、本気でやった方が楽しい」 麻痺の解けたぐるぐは満身創痍といった状態で、強く拳を握る。 『恐山に向いてねぇんだろよ、ハハハッ!』 ビジネスだ、と言っていたその本性らしきものが現れる。 「オーバードウェポン振るうのってどんな気持ち?」 『こいつが欲しいのか? タダでやれるほど俺は裕福じゃあねぇ』 エーデルワイスが銃口を向けながら問いかける。 「おいくらしますの♪」 『もちろんお前等の命さ』 「ぴっきーーん! 大したクソ係長です。係長如きが先生の変態兵器をもつなんて許せなーい!」 『褒め言葉だな。勝ち取ってみろ』 エーデルワイスが『係長』へギルティドライブを返す。 最大限の断罪の魔弾が、『係長』の片方の変態兵器に損傷を累積させる。 「ああ、なんて愉しい」 シャルラッハはドリルを引きぬく。 あちこち抉られた所が何ともオイル臭い。ドリルに付着していたオイルか。 血の匂いも火花飛び散り擦れる金属音も、何もかもが心地良い。この場、この空気。 「ハハハハッ、おじさん、もっと遊ぼう」 振り下ろすチェーンソー。変態兵器の中で回るドリルが露出する。ドリルとチェーンソーが激しく火花を散らせる。 『狂獣』に続いて『殺人鬼』が近接する。 葬識はぐるぐを意識した立ち位置。黒より深い黒が二度目。アイビスの次に『係長』を引き裂く。 「ところで、おしゃれな武器だよねぇ~それ何処製?」 『通販だよ』 「紹介してよ~☆」 『おととい来な』 葬識がフェイントを交えた攻撃を次々と繰り出す。 柔軟な視野を持たないのか『係長』を翻弄する。 「よそ見していると、シャルがぶっ壊しちゃうよ!」 「こっちもあるんだよねぇ~ファイナルオーバードウエポン☆」 『係長』が猛攻撃を捌く中、遠方からの飛来物が変態兵器を穿つ。 弾丸、そして気糸。 「なんべん見ても良いもんだよな。ドリルが回転してパイルバンカーみたいにガシャンコ。凄くいい」 烏のアーリースナイプは粛々と『係長』の体力を削る。 「おじさんさ、そろそろ逃げた方が良いんじゃないかと思うんだ。ただし無事に帰りたきゃその武器おいてけ」 『じゃ帰る。武器は置いてかないけど』 「え」 「何……だと」 烏が耳を軽く疑う。綾香も気糸を放った次に、驚愕する。 今の今まで発狂したかのような素振りは何だったのか。 論理的に再計算をする。 「殿か?」 『ご名答』 アイビスを逃がす為に、敢えて挑むようなフリをしたと察した。 マコトのレールガンの弾が飛ぶ。 『係長』は咄嗟に変態兵器で防御するも、損耗が限界を迎えて動きを止めた。 ああ勿体ねぇ……と誰かの呟きが聞こえたような気がした。 「良い兵器っすね。そういうの、大好きっすよ。……でも所持者のアンタは気に食わねーっす」 マコトがレールガンを構え直す。 「今日の任務は残念ながら失敗っすよ。帰って課長か部長にでもこってり絞られると良いっす」 『仕方ない』 『係長』は後退して門へと行く。 「じゃじゃ馬ってのは扱い憎いぐらいが可愛いと思いません?」 ぐるぐが再び距離を詰めた。葬識が声を上げる。 「かっこいいところ見せてね、歪ちゃん」 『あん?』 ぼかん、と絶頂な音がした。 ぐるぐのそれは、変態兵器を完全に弾き、それでも尚止まらない豪快絶頂拳。 装甲を伝わり、中を直接シェイクするが如きもの。 反動がぐるぐの意識を持っていく。必死で意識を掴みとる。 『く、イカれてんな』 装甲から火が噴き出て爆発が起こる。それでも尚、係長は立って撤退する。 「虚仮だったという事か。――フ、ハハハハハッ! 興を削ぐ真似をッ! 砕けるが良いッ!」 シビリズの魔落の鉄槌が襲うのと同時。 「無謀だったな恐山。他の奴らと同じだと思ったか」 綾香の気糸が装甲を更に炎上させる。 「先生の武器を持つ奴はすべからく死ね! さぁ懺悔の時間だ!」 エーデルワイスの嫉妬を伴った魔弾が炸裂する。 「もう一回」 『係長』の眼前。ぐるぐが更に溜めを作る。 『じょ、冗談じゃ……チィ』 「素敵ドリル武器は分解して構造を調べたいな」 烏の弾丸が呑気に、煙草を口で転がす。まだ射程内。放つ狙撃が『係長』の装甲を爆発させた。 ●戦後 -Burned field- 装甲の残骸。 見れば、一人分の空洞があった。 運命をくべて立ち上がったか。損耗していない兵器は『係長』が持ち去ったか。 烏は壊れた方の変態兵器を調べると奇妙な木片が出てきた。 エーデルワイスは前にも同じものを見ている。 燃えて炭になったそれは、装飾にもならなかった。 ともあれ撤退させた。 恐山は大赤字に違いない。 盂蘭盆会を控えた月。 損得勘定など起こらない程、まんまるで(´・ω・`)のように見える月が光を湛えていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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