●燦々サマー 「時に蝮原様」 「何だ名古屋」 「夏ですね」 「それがどうした」 「世間では夏だ海だと賑やいでおりますな」 「海……か」 「海ですかぁ……」 「……暑いのは好きじゃねぇ。海でハシャぐタマでもねぇ」 「私も暑すぎるとオーバーヒートしちゃいますし……メタフレなので重くて沈みますし、機械の隙間に砂が入ると大変ですし、大体我々の水着姿とか誰得やねん……ニッチすぎるわ……893にニ■ムラやぞ……」 「何言ってんだお前……」 「夏って言ったら図書館ですよ……涼しい楽しい過ごしやすいで本も読み放題! 夏イズ図書館、図書館イズ夏」 「図書館か……」 「ハイそゆ訳で図書館に行きましょう。超涼しいですぞ。三高平市内の図書館なので幻視やらも要らないですし」 「……」 「……提案して睨まれなかったの、さり気なく初めてなんですけど……!」 ●とある張り紙 『と言う訳で図書館に行きましょう。涼しい図書館で本を読むも良し、学校の宿題をするも良し、ただダラダラするも良し。皆々様のご参加をお待ちしておりますぞ! メルクリィより』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月26日(日)22:52 |
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●夏DA! 「うわーい! 泳ぐぞおお!」 ураааааといの一番に図書館へ突撃をかましたのはベルカ。尻尾をぶんぶん振ってドヤ顔で曰く、 「――本の海を」 あっすいません、図書館では静かにします。集まった視線にぺこぺこ。 しかしこう見えて彼女は三高平大学の1年生、しかも文学部。つまりここはホームグラウンド。 「これから毎日本を読もうぜ?」 読んだなコイツ! というのはさて置き、夏季休暇の課題は済ませてあるし、任務で空けてしまった分の補習なども、教師兼フォーチュナの各位に手伝って貰っている。 (今日は純粋に趣味の本でも読むとするかな) 歴史系のエンタメ物は、と。 「知識という紙面を漂う書の海原、図書館ってのは良いもんだよな」 空調が完璧ってのがまた良いもんだ、と烏は火を付けていない煙草を口先で揺らす。手にしているのは『東日流外三郡誌』、図書館の蔵書なのか己の所有物か不明瞭ではあるけれど。その上偽書との曰く付きだが、判っていて読み解くのもまた面白い。 シェリーもまた手には本、読み耽るのは魔道研究に関する書物。 (書籍に纏められているモノで妾が読んだことのないモノなど希にしかないのだが――) 既に読んだ本をもう一度読み返すのは悪くない。それを書いた者の魔道に対する考えや思想に触れられるから。魔女にとって、同じ道を歩んだ者達の集大成を知るというのは感慨深い。著者の偏見で書かれた完全な駄作もあるけれど、そういったモノでも楽しめる。 なんだろうな。そういった者達をどうしても他人とは思えない。 魔道を究める道とは、孤独な道。馴れ合う必要はない。だから横で指差し笑う位が丁度良い。 そう思うと楽しくてしょうがないのだ。 「おー、海だー……本の」 涼しい。冷房素晴らしい。本を手にソファにちょこんと座ったリンシードは時折吹く冷房の風に目を細める。 図書館のソファは意外と座り心地が良い。その心地に細められた目が次第にトロンと…… ぐぅー。 ……ハッ。 (起きると、閉館時間でした。なんて……そんなのは、避けます……熟睡しないように、気をつけないと……) 目をごしごし、膝の上で本を開く。 本。不思議な魔力を持っている、と少女は思う。 惹きつけられるというか、引きこまれるという、か…… ぐぅー。 ……ハッ! 文字って、眠くなる。ダメですね、思いつつも再度目をごしごし。 (やっぱ私に本は合わないです……戦うほうが性に合ってるかも…… いやいや、でも、多少は本で、戦う知識も手に入るかも…… 剣の扱い方とか、書いてないですかね……?) うん、がんばって読もう。ぐっと意気込んで、そして、 ……ぐぅー…… 結局カックリ頭を項垂れ眠りの海を泳ぐリンシードの傍ら、長椅子でぐったり紅瑠とゐろは。 「やばい……もう限界……」 「あーーーーっづぇ」 夏と言ったら避暑地。涼しいのは素晴らしい。でも紅瑠は機械化部に熱が籠ってヤバい。熱中症になりそう。故にと静かに熱が冷めるのを座ってジッと待っている……のだが、その傍のゐろはが紅瑠の熱気でダウン中。長椅子に寝そべって団扇でめっちゃ仰いでいる。 別にする事も無いし最近矢鱈考える事も多いし、偶には何か調べ物でもするかと思っっていた時代がゐろはにもありましたの巻。 (ていうかここに来るまでの道のりで完全にそんな殊勝な心がけ蒸発して四散したよね) つかこんなビックリ人間大集合みたいな団体が揃いも揃って図書館とか、いくら三高平でも絵面的にヤバイ。手の甲で額の汗を拭って見渡せばあれやこれやそれが。 つか何がヤバイって『あの』フォーチュナと『あの』フィクサード()が揃いも揃ってIN図書館てのが一番ヤバイ。 えーと何だっけあのフィクサード()にちょっと前あだ名付けた様な付けてなかったような。 「確か……まー……まむ……まみ……『マムニャン』」 何処のけい■ん!だよ。これには流石のまむっさんも視線を逸らし。因みに正解は『マミィ』でした(Byエンドレスデストロイ) 「……まあいいや」 そうだ兵法でも読も。 立ち上がる。入れ替わりに汗だくの福松が。 「あ づ い」 幾ら白い色で太陽光を弾くといっても流石にスーツでは暑いか。そらそうだ。こっちなんかノースリーブだ。それはさて置き。 「蝮原、あんたその格好で夏過ごすのか?」 「何だ俺の水着でも見たかったのか」 「どうせ見るなら組長n ゲフンゲフン」 危うくテラーテロールで命を落とす所でした。 さて涼む為に図書館に入ったがどうしようか、今更勉学などしてもしょうがあるまい。ところで福松ちゃん学校は?という疑問もさて置き、そんなこんなで只管ウォー■ーを捜す事にした10歳児。 食い入るように本を見る。似た様なダミーにイライラしつつも全力で挑む。 『残像だ』 『また騙されたな』 なんかそんな台詞が件の笑顔と共に聞こえてきそうで余計ブッツンしそうになりつつも彼はデスペラードミスタ、暗黒街の紳士です。集中を使い命中を上げ挑む。 が、そんな彼に襲い掛かったのは――悪戯でウォ■リーのいる場所に丸がつけられている本! ビ キ ッ ! ? これには流石の福松も青筋立ててキレ――かけるも、彼はデスペ以下略です。紳士の心意気で何とか堪える。 「くッ……」 だがしかし。だがしかし、捜せども見付からぬあの紅白ボーダー男。唇を噛み締める。 どうする。否、止むを得ない。 「すまん、捜してるヤツが居るんだが――」 恥を忍び、皆に訊いて回る。一人で生きてきた彼だが、一人では出来ない事もあるのだ。 でも気が付いたら『迷子のお知らせです、三高平市の禍原福松くんがお連れ様をお待ちです』にまで発展してたのは何故だ。 そんな放送を終え。 司書代行のお仕事中なエナーシアは頭を抱えた。 (アークが図書館……だと……) 絶対に騒いで問題起こすだろうっていうか既に五月蝿いな流石アーク五月蝿い。 だが今のエナーシアは司書代行のお仕事中。他人のふりをいたしませう。 (元より私は自営業の一般人なので関係者じゃないのだけど) ステルス、ステルスを使う。大事な事なので二回言う。 『エナーシア・ガトリングは静かに暮らしたい』のです。 何処の吉良さんですか。 兎角、追加任務承諾。深く静かに潜行。 が。 (……うぎぎ、名古屋さんが来たのです) ですぞーとリベリスタの皆に会釈している例のアイツ! ス、ステルス!ステルス! (本は城、本は石垣、本は堀、静寂は味方、情けは敵なり、なのだわ。本の森を遮蔽にさり気なくやり過ご……) 「あれ、エナーシア様?」 (見つかった!?) 「おや、やはりエナーシア様じゃないですか」 (フォーチュナの予見なのですか!? くっ……まだなのだわ、まだ近付かれただけでバレたわけではないのです! このエナーシア容赦せん!) 「どのやうな本をお探しでセウカ?」 「え? あの」 「どのやうな本をお探しでセウカ?」 「エナーs「ぜんぜんあやしくないのですよ?」 エナーシアウソツカナイ。 一方で亘はジャンル無視で選んだ本をゆっくり読んでいた。夏の遊びは外だけじゃなく、涼しく静かな空間で過ごすのもまた良い。 夏休みの宿題も某地獄の合宿で終わったし。 そんな余裕とは対照的に。 花梨は暑さに負けて溜まりに溜まった夏休みの宿題の消化に追われていた。今年こそは31日に纏めてやる羽目にならぬよう……なんて思いつつも最近入荷したらしい恋愛小説にちょっと心が揺れるお年頃。 そう、夏休みの宿題。 「としょかん!!」 「ウルサイ」 ミーノとリュミエール、隣に並んだ二人の狐。ミーノの前にはどっさり宿題。 「……こんなのむつかしすぎるの~……」 うーんうーん。頭を抱える。一方のリュミエールは頬杖を突いたままくぁっと欠伸を一つ。ミーノの宿題のお手伝い。因みに彼女は宿題など既に終わっている。ダガミセナイ。兎角基本をお浚いしつつ教えていく。留年だけは回避させないと。甲斐甲斐しく教えてやろう、と。 「成績的にいえば私はほぼ上位だナメンナヨ。ちゃんと自分で解けるようにナラネーと意味ネーシな。 ソモソモ夏休みの宿題って大抵復習ナンダケドナー……トイウカ多分全部ヤッテナインダロウナア……ヤッテネーヨナァ」 「ためていたわけではないの~きづいたらきょうになってただけなの~」 「マァ……どうしても間に合わない時は仕方ないから手伝ッテヤルヨ……終わった後にスイーツデモタベニイクカ」 「めるくるいー! まむしのおじちゃんっ! これとこれっ……とこれっおねがいしますなの~」 「オイ聞けヨバカ」 理科社会英語をメルクリィと咬兵に手渡そうとしていたミーノに、流石のリュミエールも高速でツッコミすぱーん。 あららと苦笑するメルクリィ、そんな彼をラシャが捕獲。 「雑誌を立ち読みしてて懸賞には応募したいけど雑誌高いしな、と思うことはないだろうか」 「う~ん私そもそも雑誌を買ったりは……」 「え、いや、それだと話が進まないのであるということで……」 「ひどい」 「まぁそういう時には図書館が便利だ。雑誌が読み放題だし、ハガキも書けるしな。雑誌を切り取って応募以外は大体いける。図書館でハガキを書くのはちょっととか、インターネット応募であればコピーも出来るから便利だ。 というわけで、この『月刊メンズ真空管』の真空管ラジオに応募してみよう」 「何ですかそれ!? それ需要あるんですか!?」 「あるって事で……話を戻すけど、男性誌だから、男性が当たりやすいから名古屋さんの名前を借りて……」 「セバスチャン様にしといて下さい」 「じゃあそうしておこう」 図書館でごろごろの予定が何故か安く楽しむ雑誌懸賞生活に――さぁ、貴方も図書館を有効利用して楽しい懸賞ライフ。 「夏休みももうすぐ終わりッスねぇ」 「そうですね、月日が経つのは早いものです」 隣同士、リルは勉強、凛子は読書。 「リルにはあんまり関係ないッスけど、勉強くらいはしとかないと怒られるんスよね」 広げる教科は適当に。ペン回しをして息を吐くリルに、サイエンス系の雑誌を手にした凛子は仄かに苦笑を浮かべる。 「私が教えられる事でしたら聞いてくださいね?」 「ありがとッスよ。それじゃ早速ッスけど……」 読書の邪魔したくないなぁ、なんて気遣いつつも、ここ、と指させば彼女が覗き込む。必然的に距離が近くなる。 一方で、リリとシメオンもまた机を並べていた。 僕も偶には学徒らしくね、とシメオンは常の笑みを浮かべる。別に節電の煽りで部屋の電気代削られてエアコンつけられなくて死にそうになんてなってないし、劣悪な環境で長時間労働させるのも監視の人に悪いし! 冗句めいた言葉を吐くも変わらぬ表情だ。リリをそれを横目に見遣りつ、 「……思う事は幾つかありますが、貴方は大切なお友達です。次に何かあったらその時は戦う事になると思いますが、それまでは」 「リリ君の心配する事はないと思うよ? ほらこの澄んだ瞳を見れば一目瞭然」 そうですか、と嘆息。しかし開く間に何とも言えない気分になり、再度そっと視線をやった。どんな本を読んでいるのか。 「遺伝子学とか生物工学の本だよ」 「……私の知識は神秘に特化しているので、多少分かる程度です」 「多くの人を幸せにしたいって想いは矢ッ張り僕の根っこにあるんだよね、手段は見直すにしてもさ」 「多くの人を幸せに、手段が違うだけで気持ち自体は同じ……」 ああ実験がしたい。そんな笑顔をリリはじっと見つめていた。と、彼からそっちは何を読んでいるのかと訊ねられ。 「先日から気になっていた謎の力『女子力』の本です。が、どういう物なのか全く理解出来ません……これはシードで補強できるのでしょうか?」 「女子力は……シードでの強化は難しい気がするなあ」 「難しいのですね……このままでも大丈夫なのでしょうか」 「特別なことしなくたって、素のリリ君で勝負すればいいんじゃない?」 「えっ、勝負……やはり戦う力なのですか? 戦う力ならば、いずれこの手に……!」 ガタッと立ち上がったらどうどうと諌められました。 そんなこんな、『せっかくの図書館ですから今回は知的に攻めちゃうZO!』とエーデルワイスはメルクリィにハイリーディングを使い、その思考内容を適当に曲解アレンジ&作詞して公表しようとしたが。図書館ではお静かに。連行されました。 外での一服から戻ってきた烏をそれを横目、目があったメルクリィに苦笑と一緒に「南無三」と。彼と咬兵が読書出来る環境だと良いんだが。 「どんな本を読んでるんだ?」 覗いてみれば、咬兵は黙したまま読んでいた古文学の表紙を見せ、メルクリィは福松とウ■ーリーを捜していた。 面白そうなら借りて読んでみるか。活字媒体は何でも読む派。なんて思っていたらいつの間にか一緒にウォ■リーを捜す羽目になっていたとさ。 欠伸一つ。 勉強に飽きてきたリルは机にぺっとりしつつ、周りを見たり凛子を眺めたり。 ふと、視線が合う。勉強、飽きてしまいました?そんな声に苦笑で頷く。 「そうだ、凛子さんのオススメを教えてほしいッス」 「そうですね、推理小説などは如何です?」 「ミステリー……。難しそうッスね」 渡された本、姿勢を正して読んでいく。 面白い。が、段々、瞼が重くなってきて…… 「あらあら」 くつりと凛子の苦笑。机に突っ伏し眠ってしまったリルにそっと白衣を掛けてあげた。 なんだかいいにおい。柔らかな微睡みに、リルは身を委ねる。 ●柘榴 夏休み終了まであと少し、気合を入れてやりましょう。 意気込むレイチェル、隣にはエルヴィン。妹は宿題消化の為、兄は自らの勉強と彼女のサポートの為。 「ここなんですけど、」 「あぁ、これはな……」 周りの迷惑にならぬ様、声はひそひそ。両者真面目に丁寧に。 そんな中、背凭れに背中を預けたレイは一つ独り言。 「この時期まで宿題残してたのなんて初めてだよ」 「珍しいよな、お前がこんだけ宿題溜めてんの」 「ほら、やっぱりアークに所属してから依頼とか大変で時間がさ……」 尤もらしく溜息。が、エルヴィンはニヤっと笑って。 「まあ、理由はわかってるけどね」 どうやら兄にはしっかりバレているようで。 「あんだけデートとか行ってたら、そりゃ宿題もできねーよなぁ?」 「はいはいそうです、それが一番の原因です。言われなくてもわかってるよ、もう」 脳裏に過ぎる片思いの彼とのデート、視界にはニヤニヤしながらいぢめてくる兄の顔。僅かに赤面し、その視線から逃れるように宿題に視線を移した。そんな様子に、エルヴィンは小さく微笑を零して。 アークに来て、多くの仲間と出会って。 ようやくこの子は、俺以外の世界と向き合う事ができた。 兄離れした妹の成長が、とても嬉しい――反面、寂しくないと言えば嘘になるけれど。 「まあまあ、俺は応援してるから」 内心を隠して微笑むと、顔を上げたレイチェルに消しゴムを投げられた。嗚呼恐るべしその命中精度。顔面ど真ん中。その見透かしたような表情が癪だったとか。 ●75893 御龍はうだぁ~っ机に突っ伏してだ~らだら。 「いくらリベリスタと言えどこの暑さは堪えるわぁ~」 どんな飾りか最近の動向をちぇけらぁ!ってな感じでトラック雑誌を読んでいたが、それにしても暑い。 「暑いぃ~もっとクーラー効かせてほしいなぁ~」 はぁ~。籠る熱を吐き出すように溜息。取り敢えず一服でもするか、と立ち上がったその時、視界に映るメルクリィ。 「あれぇメルクリィさん。メルクリィさんは何の本読んでるのぉ~」 「あぁ、それは」 「エッチな本? エッチな本なのねぇ!」 「違いますよ! 月刊フォーチュナですよ!」 「くけけぇ。冗談冗談~。図書館にそんな本が置いてあるわけないじゃないぃ~ で、蝮さんはBL? BLなのねぇ!!!」 「……」 「あっはははぁ、なぁんてねぃ。と言うわけであたしは煙草を吸いに行くよぉ~」 そんじゃぁねぇ~とだ~らだら、うだうだぁ~。 その背を見送った二人の傍、静に座すのはウラジミール。 「最近は戦いばかりだったな」 故に静かに読書と言うのもまた良い。酒や煙草とはまた異なる楽しみ。 新聞もアークで一通りは目を通しているが、図書館には色々とあるだろうからと日本の最近の情報を収集。それから、聖書や祖国の文学書を黙読。 しかし――ふと、顔を上げる視界。仲間達。 「聖書ですか、なんだかウラジミール様らしいですなぁ」 「そうかね。……独りで読む本というのも集中ができて良いが、この様な場所にて仕事以外でゆっくり皆の様子を眺めて読むのも良いものだ」 「えぇ、全くです」 「蝮原殿や名古屋殿はどの様な本を?」 等、他愛も無い会話。穏やかなやり取り。 ああ彼の言った通り偶にはこんなのんびりしたのも良い。浅く息を吐いた咬兵の、視界にひょっこり顔を出したのは久嶺である。 「あら、蝮原さん御機嫌よう」 「よう宮代」 「言っちゃマズいかもしれないけど……図書館に不釣合いよね、その外見だと」 「そいつぁどうも。……しかしお前が本を読むタマだとはな」 「え、アタシ? アタシだって本読むことくらいあるわ! 銃の腕前、美貌、知識を兼ね備えてこそのアタシなのよ……まぁ、涼みにきたのが半分だけど」 蝮原さんだって、そうでしょう?気にしない気にしない。苦笑を浮かべて手をヒラリ。図書館は万人に開かれてるのよー。 「まったく、うちの節約魔人がうるさくって……冷房は使わない扇風機もなるべく我慢とか……地球や財布だけじゃなくて、人間にも優しくして欲しいわ、ほんと……」 「同感だぜ。節約節約言う奴は、ヒューマンダイナモ辺りを習得すりゃいいだけの話だろ」 暑いのはやっぱ嫌なモンである。 「えーと、本を読むんだったわね……なんかお勧めの本とかないかしら?」 むしろ、聞きたい?なんて言いつつ、そうねぇ……徐に取り出す一冊。 「アタシのお勧めは……これとか……」 テッテテー(ヤクザの人情モノな本 「……なんかごめん」 「一応読んどいてやるよ」 そして、溜息と視線。咬兵は普段どんな本を読んでいるのか――それはもうこっそり確認しに来たミリィが向けられた視線にハッと息を飲む。 「気付かれていましたか……うぅ、私もまだまだですね」 「次ァ期待してるぜ」 くつりと咽奥で笑む無頼にむぅと頬を膨らませ、ミリィは大人しく彼の対面に座って本を開いた。図書館ではお静かに。いつもの様にボーっと彼の傍、思い出した様に本を読むだけのお仕事。目で辿る文字は何処にでもある様な恋愛小説。 「宿題は良いのか?」 「えっと、はい。後に残すと大変ですので早めに終わらせたのですよ。 最近はお仕事に手を割く時間も増えてきて、ゆっくりする時間も少なくなってしまいましたから」 だから、ですかね。本から顔を上げ、浮かべるは微笑。 「今の様に皆と過ごせるこの時間が、とても尊く思えてきたのですよ……?」 「そうか。そりゃ何よりだな」 心なしか、返す咬兵の言葉も柔らかい。 ●海と花と 『ねぇねぇ、ジースェ! メリクリーさんがね、メタフレ暑いとオーバーヒートするし、夏だし、皆で海行こうって誘ってたよー☆』 『なんだ? 海か? おおう! いいぜぇ! 海に行こうぜ!』 数時間前、とらとジースのそんな電話会話。 そして現在、二人はドドンと水着で参上! 「最高にカッコい……はっ! 今何かのっとられた様な」 黒と赤のスタイリッシュな水着で決めポーズのジース、一方でキュートな水着のとら。 しかしそんな彼らを迎えたのは―― 「……って、あるぇ?」 「おい、どういうことだ!? めちゃ、図書館じゃねーか!!!」 海は海でも本の海でした! 水着で参上どころか惨状だ! 「おっかしーなぁ、メリクリーさん海に沈んじゃう(でも身長2Mもありますから、全然平気ですぞー♪)とか、 砂が入る(から対策考えなきゃですな☆)とか、 誰得水着(ビキニだから、ちょっと恥ずかしいですな~♪)とか言ってたよ?」 「その話、おかしくねぇか!? 何か()で脳内補完されてねぇか!?」 「とらの脳内嫁758さんだよ☆」 「滅茶苦茶じゃねぇか!」 「……!!? え、メリクリーさん普通に服着てる! とらを騙したのね、あ゛っ――!!」 「おいこら、待て、とらーーーー!? 俺を騙したのはお前だーーー!」 どたんばたん。 そんな惨劇の少しだけ前。 「メルクリィさーん★」 「ルア様ー♪」 図書館だから少し静めに、しかしいつもの元気良さでルアがむぎゅー!とメルクリィに抱きついた。お返しは、抱きあげてむぎゅー返しとメカハンドなでなで。 「メルクリィさん大丈夫? 怪我してない?」 「いえいえ、私フィジカル高いので」 なんて冗句めいた言葉を返す彼を、その頭をルアはぎゅうと抱き締めた。 彼は笑顔だ。だが、ルアは知っている――きっと、その裏側は、とても辛い。 「……ごめんね」 こうして抱き締める事しか出来ない。 自分が泣いてもどうしようも無いというのに、ジワリと滲んでくる涙。 「何故ルア様が謝る必要があるのです? ……貴方が悲しいと、私も悲しいですぞ」 笑って下さいと、目元をぐしぐし拭うルアの背中をぽんぽん叩く。 辛くて悲しいけれど、その気持ちで自分達が涙する事を『あの子』は望んでいないだろう。 笑おう、辛い時こそ。 だから少女は懸命に、それでも笑顔を浮かべた。 「一緒に絵本読もう?」 大きな彼の手を引いて、膝の上に座って、広げる幻想世界。ゆっくりとした時間。 絵と文字の世界。それを目で追う最中――ルアはそっと、メルクリィの顔を覗いてみる。でも、駄目だ。やっぱり泣きそうになって、慌てて下を向いて。 と、そこへ。 「おいこら、とらーー!」 どったんばったん、弟の声。しかも水着姿。 うるさくって、心の中のモヤモヤをぶつける様に一睨み。 『ジース、うるさい。図書館では静にするの!』 『はい。お姉さま。すみませんでした』 アイコンタクト会話。途端に静かになるジース。 だがジースは姉と視線を合わせたまま、少し首を傾げて。 『どうした?』 目で訊ねられる。 どうやらこっそり泣いてた事なんてお見通しのようだ。それでも彼女は強がって、 『なんでもないもん! ジースのばか!』 べっと舌を出した。 (ああ、かなりお怒りである……) 帰りにプリンだな、苦笑を浮かべてジースはようやっととらをむんずと取っ捕まえては八つ当たり。 「お前のせいで怒られたじゃねぇかっ!」 「あ゛っ――!!」 「いっでぇ!?」 噛まれました。 ●麻呂の下でAGAKE 今日読むのは歴史関係の本。だって歴史っておいしいじゃない……じゅるりと心の中で涎を拭い、壱也が立つのは薔薇のかほりがベーコンでレタスな本棚の前。何で図書館にそんなコーナーがあるのかというのはさて置き。彼女は狩人の目で『獲物』を捜す。 (むむ、あれは今読んでる『麻呂の下でAGAKE』の続きじゃないかっ) 手を伸ばす。が、届かないッ……背伸びしてもジャンプしても!これが現実っ……現実なのですっ……! 「はい、欲しい本、これでしょ?」 (あ、あれ……親切な誰かが……) 「あー☆ ちっちゃい子が無様にぴょんぴょんしてると思ったらまいらぶりー羽柴ちゃんだー☆」 「あ、ありgうわああああでたああああ」 「振り向いた羽柴ちゃんちょーきゅーと☆」 「な、なんでまたいるの……!?」 突然の葬識に驚きのあまり落とす本。フリーズする壱也。 そこへ、その肩をぽんと掴み落とした本を差し出す者が。 「あらやだ折角取ったげた本落としちゃってもー♪ ハイ羽柴ちゃん『麻呂の下でAGAKE』どーぞー♪」 「また親切な誰かが拾ってくれたのかと思ったらうわああああ阿久津さんまで……コンニチワァ」 「やー★ 避暑に最適って言うから殺人鬼ちゃん連れてきたのよー。あー今日も僕等のらぶりー羽柴ムーヴだねー★ さー折角の図書館だー知識の泉へ飛び込もー!」 「ね~阿久津ちゃん☆ はいはい囲んで囲んで」 「ぎゃああ囲まれたああああ」 「あー駄目だよ羽柴ちゃん暴れちゃー。着席しよー★」 「勉強する~? ほらほら見てみて、羽柴ちゃん用の資料用意してきたよ~ 歴女とかそういうので、センゴクブショー☆で掛け算しちゃうんでしょ? 羽柴ちゃんのために勉強しちゃったしぃ」 どどんと置かれる歴史書。呆気にとられる壱也と、それらを覗き込む甚内。 「ほー? じゃーさっきの本はなんじゃらほい?」 そして甚内が取りだすのは『麻呂の下でAGAKE』、葬識が取り出すのは壱也のバッグの中身。 「ねえ、これさー、この穴なんのあなー? こんなところに入るの~☆」 「確かに戦国はおいしいけどうわあああだめえええバッグの中の本はあああ見ちゃだめ!! あ、穴!!?? なななに!!!」 「『麻呂の火縄が暴発寸前でおじゃる 成りません上様 放つにはまず筒先をあぁぁ……っ』」 「アッ! 取ってきたやつもだめ!! 見ないで! 図書館では大声出しちゃだめだよぉおおお!!」 「えー? うるさいってー? しょーがないなー」 「ごめんね~☆ じゃあ、別のところいくねぇ~☆」 ニッコリ笑顔、ひょいっと持ち上げられる壱也。 「ほぎゃああ降ろしてええ!!」 「愛の巣にごー」 「楽しくなってきたー★」 哀れ壱也。南無。 ●758932 「こんにちは……」 新聞の束を抱え、咬兵に挨拶をしたのはアンジェリカ。「よう」と返される言葉に軽く会釈をしつつ、さり気無く座るのはその隣。 「それを読むのか?」 彼女ぐらいの年ならばもっと見合う本があろうに、という物言いに少女は新聞を広げて答える。 「夏休みの宿題……新聞の社説を読んで自身はどう思うかを書く宿題だよ……」 「ほう……ま、頑張んな」 うん、と頷き、ぱらぱら捲る紙面。沢山の文字。 ――と、市内で起きたらしいとある殺人事件の記事に目がとまった。 容疑者はイタリアマフィアの幹部らしい。しかしその顔には見覚えが。 それは彼女が敬愛する神父が行方知れずになる前、町に一緒に買い物に行った時。彼にぶつかった人に似ている――顔を見て彼がはっとしたようなので何となく覚えてる――ぼーっと、ただただ視線を落としていて。 「寝ちまって新聞に涎落としても知らねぇぞ」 咬兵の声にハッと我に返った。ヨダレなんか落とさないよ、とちょっとむくれつつ答え……うん、きっと他人のそら似だよね。再度、紙面を捲り始めた。 その様子に咬兵は一つ息を吐く。そして何とはなしに向けてみた視線の先には、虎鐡の姿が。 「か……っこいいでござぁ……」 今日は非番。はわわと目を輝かせ、食い入るように読んでいるのは極道漫画だ。 (主人公の極道が任侠道とか人情の厚さとか凄いでござる……今の極道って皆こうなのでござるか……!) ちょっと訊いてみたくなった。 ので、丁度訊き易そうな極道に訊いてみる。なんか近寄ったら静かに視線を逸らされたけど気にしない!隣に着席。広げる頁。 「で、どうなのでござるか? 皆極道とはこういう者なのでござるのか? 咬兵。だって時代は流れてるから今の極道システム分かんないでござるし」 「……」 咬兵は漫画の頁を少し捲って、一言。 「今時こんな奴いねぇよ……」 「そうでござるか……でもかっこいいでござるなー拙者もこんな侠になりたいでござるなー」 別にお前はそのまんまでも良いと思うが、そう言いかけて咬兵は言葉を飲み込む。言ったらまた調子に乗りそうだと思ったから。頬杖で向こう側を向く。そんな彼に虎鐡はドサァと極道漫画をオススメる。 「さぁ咬兵にも勧めるでござるし! 感動できるから咬兵も是非読むでござるし! 「あー……暇があったらな」 「むむ、しかし借りてくかどうか迷うでござる」 全ウン十巻とか言われたら、そりゃあね。 「お。同志ティバストロフだ」 ご機嫌いかがですか。ひょっこり顔を出したのはベルカ、挨拶代わりにメルクリィの真空管をキュッキュ。 「ありがとうございますねぇ~ベルカ様はええこやで……」 「うむ。そうだ、貴方のお勧めの本があれば読んでみたいですね」 「そうですねぇ。あ、これ先程蝮原様がオススメされてた本ですぞ」 差し出されたのは極道漫画。ふむ、と受け取り具に眺める。自分とはまったく違うタイプと言うのも興味深い。 と、そこへフラフラ紅瑠がやって来る。機械化部の熱が少し落ち着いた。 「初めまして、メルクリィさん。あの……暑さの対処方法教えていただけたらな……と。同じメタフレなので、どんな方法で暑さを凌いでるのか気になるんです」 「涼しい所に引きこもるに限りますな!」 「成程……! 有難うございます、メルクリィさん」 握手は…今手が凄い熱いから自重。 一方、寒いよーとガタガタ震えているテリーへ亘が前回のお礼も兼ねて挨拶を。 「こんにちはテリーさん。ふふ、この前の熱い雪合戦ありがとうございました。一緒に遊べてとても楽しかったです」 「おう亘かー。そんな事よりクソ寒ィよ……」 「テリーさんはどんな本がお好きですか?」 「本は~……あんま読まねーや眠たくなるし」 「では、こんなのどうでしょうか」 さっと渡すのは熱いバトル小説や漫画、彼の為にと。 静かに熱く読み語り合う、それもまた一興。 ●ふわもふ 「うむ、この時期のクーラーのきいた図書館はひんやり気持ちいいのだ」 「お外で遊ぶのも楽しいけど……こうして、涼しく静かに過ごすのも、楽しいねっ」 羽をパタパタ、雷音とあひるが見渡すのは絵本が沢山収められた本棚。きょろきょろ、一緒に探す。 「あひる、このネコのお話読んだこと、ないなぁ……一緒に読みましょ」 雷音は何を読むのかな?隣の少女の手元を見れば、分厚い辞典。くわ、とその大きさにちょっとびっくり。 「ボクの好きな物語が、あひるにとっても好きなお話になるといい。 あひるの好きなお話がボクにとっても好きな話になるといい。 そうしたらふたりで好きな話が二倍になってお得なのだ」 「幸せな気持ちを、2人で共有だっ」 本を広げて、二人で読む時間。共有する時間。 穏やかだけれど、幸せに包まれた一時。 「植物はああみえて愛情をちゃんと理解できるのだ」 「雷音、すごいね……! あひるも、もっと愛情を込めて、育ててあげないと……っ!」 開いた辞典、たくさんの知らない事。それを知る楽しさ。 「辞典って、面白いわよね……! 勉強になるし……一石二鳥だわ」 「そうだ、あひるの好きな鳥の話も聴きたいのだ」 「鳥のお話っ、任せて……! あのね、カワセミはね、いろんな色に見えて宝石みたいなのよ。 あひるの羽も……ほら、いろんな角度から、キラキラしてみえるの」 ぱたり、羽ばたかせる羽は自慢の羽。きらりと輝く。 「あひるの、羽根はとても綺麗だな。翡翠色の羽根はうらやましいのだ。 さわっていいかな? 羽根に」 「うん、もちろんっ……!」 もふもふ。 毎日バッチリお風呂に入っているし、見事な色ツヤ。指を埋めるとふわふわの手触り。 もふもふ。 「人の羽根に触るのはめったにあることじゃないのだ。うむ。嬉しいな」 「えへへ……もふもふ、楽しい……! あひるも、雷音の羽を触らせてもらいたいな」 「うむ、存分にもふもふするといい」 「やったぁ……!」 雷音の羽には色が無いけれど、その『白』という色が素晴らしい。透き通るような、純白。勿論さわり心地もふわっふわ。 もふもふ。もっと仲良しになれるね。零れる笑顔がその証。 ●しあわせ図書館 「夏だ! 避暑だ!」 「知識の海という名の避暑地いぇーい☆」 というわけで図書館なのだ。五月は読書感想文の作文を、終はその手伝いを。 「せんせも一緒にご本を読むのだ!」 \赤ずきんちゃん/ 突然の赤ずきんちゃんである。 「狼さんはええと、メルクリィだ。せんせが赤ずきんちゃんだぞ」 「え、オレが赤ずきんちゃんなの? メルクリィ狼さんに食べられちゃう!」 「大丈夫、オレは猟師さんだ! 助けるのだぞっ」 「やった、頼もしいー!」 「こうやってちゃんと座って音読すると、眠く……眠く……うー」 「って、めいちゃんもう舟こいでる!? 読んでるあげるから起きて起きて☆」 「ハッ! ね、眠ってないのだぞ」 慌てて顔を起して、目をごしごしこすって。 ピンとたてた黒猫の耳で聴くのは、終が語る一つの童話。 メデタシメデタシで締め括られるそれに、少女は小さく首を傾げた。 「ねえ、せんせ、赤ずきんで狼さんは幸せになれないのか? オレ、皆幸せになればいいと思うのだ。 お腹かっ捌いたら縫って仲良しさんにするのだ。そしたらしあわせになるとおもうのだぞ! どうだろう!」 「そうだね……みんな仲良く幸せがいいよね☆ そうだ! 名医BJ先生に縫合手術やって貰ったら狼さん元気になるよ☆」 えーと、BJ先生は。きょろきょろ。視線の果てに、咬兵の姿。 「あ、咬兵さん、咬兵さん……!」 「? 何だ」 「めいちゃん、仁蝮組の若頭とは仮の姿……実は咬兵さんこそが名医BJ先生だったんだ……!!」 「な、なんだってー!?」 「これでメルクリィ狼さんが何度おなかをぱりーんされても大丈夫☆ 赤ずきんちゃんの最後はみんなでハッピーエンドだよ☆」 「オレはせんせと一緒でしあわせなのだ。るんるん」 幸せそうなその様子に、流石の咬兵も『どういう事だ一体、説明しろ』の言葉を飲み込んだとさ。 「ハッ! そうだ読書感想文だった。せんせ、感想文の書き方伝授お願いするのだ!」 そんなこんなで、幸せな時間はまったり過ぎてゆく。 ●ゲレンデが解ける程 涼しい冷房にレイラインは目を細め。 「涼しいのう……」 これならじっくり読み進めそうだ。 この恋愛指南本を!(デデーン (テリーがわらわの為にアークに来てくれた。わらわもその気持ちに答えねばのう) さて、恥ずかしいし隅っこの方ででも。ごそごそ。 「夏の図書館はいいものよね。涼しいし」 呟いたエレオノーラの視界の端には、何やら隅っこで挙動不審なレイラインがいるが……まぁ分かり易過ぎるので放っておこう。 それより動物図鑑だ。もふもふかわいい。 と、何処かで聞こえた溜息。見遣ってみれば、かじかみテリー。何やら考え事をしているようで。 あら、まぁ。エレオノーラは笑み混じりな息を吐いた。 「ちょっとテリーちゃん、これ本棚に戻してきてくれない?」 「へ? な、何でだよ」 「別にいいでしょう……届かないのよ」 この身長だからね、と肩を竦めてみせる。本当は飛べばいいんだけどね、それじゃつまらないじゃない。うふふ。 「そう、本があったのは具体的にはあっちよ」 そう言って指差した方向は、レイラインが居る方向。それを知らず、仕方ねーなと歩いていくテリー。計画通り。 「後は若い子同士で上手くやるでしょう、楽しみね。ふふ。」 「……? あれれ? あれはれいらいん? ……!!」 一生懸命勉強中だったミーノも現れ、どきどきわくわく。こくはく!どきどきわくわく。 結果は神のみぞ知るが、果たして―― 鉢合わせ。 「ってててテリー! 何故此処に!?」 いかん!今見つかる訳には……慌てた瞬間、レイラインの手から落ちる恋愛指南本。にゃぎゃー。 「おい、落とした、ぜ……」 しどろもどろに拾い上げ、差し出す本。その表紙や題名もしっかりテリーの目には入っていて。 (うぅ、最悪じゃぁ……) (うわぁ、どうしろってんだよ……) 心の準備も出来てないし、顔もまともに見れやしない。無言の時間……顔が熱い、心臓が煩い。 「「あの」」 話しかけたのは同時、搗ち合った視線、ハッと逸らす一瞬。 どうしよう、どうしようか。 ……話しかけようか。 深呼吸を小さく一つ、意を決してレイラインはテリーに向き直る。 「えっと、その……わらわ、中身はお婆ちゃんなんじゃよ? それでもいいの?」 「今更聞く事でもねーだろっ、年齢がなんだってんだ。……良いに決まってんだろ、言わせんな」 「――!」 その返事に、レイラインは胸の高鳴りが一層強まるのを感じる。この音が相手に聞こえてしまうのではないか。思わず抑える胸元。 でも、このドキドキは嫌じゃなくて。 「……うん。わらわも……テリーの事、す、好き……大好き!」 自分を愛してくれる人が居る事が、こんなにも嬉しくて、幸せで。 だから、笑顔が零れる。心の底から。 「なっ、ななななな ほ、ほんとにほんとにいいのかよ!?」 「ふ、不束者ですが、宜しく……お願いします」 潤んだ目で、微笑みながら、レイラインは三つ指御辞儀。 ぼかん。 テリーは理性がぶっつんする音を確かに聴いた。 それから、ぷしゅー。 そして、ガスマスクを脱ぎ捨てて。 跪いてその手を取った。 「こっちこそ。……俺、お前を幸せにする。宜しくな、レイライン」 笑んだ後、その手の甲に誓いの――…… きゃー、と顔を覆った手。でも掌に開いた穴でエリエリはしっかり目撃一部始終。 レイラインと、噂の彼氏。こっそり静かに遠くから見守っていた。 (男日照りの還暦ダブルピースなおばあちゃんに遂にやってきた春。 ほぼ孫なポジションにいるわたしがやることはひとつ――そっと見守る! のです!) 手を出したいのをぐっと堪えていたが、もう良いだろう。 満を持してエリエリ登場なのです! 「あの……」 すすっと登場、テリーへにっこり笑い。 「レイラインの孫の、エリエリです! これからよろしくお願いしますね、テリー……おじいちゃん!」 「!?」 (うふふふふ。おじいちゃん呼ばわりはどれだけショックでしょうか。わたしって邪悪ロリ!) 「お…… おじいちゃんですよ!!」 「ふえええええええ!?」 なんか高い高いされました。 でも、幸せになるって良いなぁ。そんな事を思うエリエリなのでした。 ●ゲレンデが解ける程の裏でたやすく行われるえげつない行為 「ぼっちです!」 竜一が浮かべた笑顔は輝く夏の太陽のようなそれであった。ぼっち() そんなこんなで彼は真夏の暑さが風紀を乱す前に取り締まりにきたそうです。 夏だからって開放的な気分になっているやつらを取り締まります。 何故なら、赦せないからです。 「悪い子はいねぇがぁー! いちゃいちゃしてるやつはいねぇがぁー!」 なまはげ登場です。突然のなまはげ! 「! この感じ……甘酸っぱい気配っ!」 右腕が疼く。こっそり覗いた先にはレイラインとテリー。 ぐぎぎぎぎぎ!ゆるすまじ! 「図書館ではお静かにっ!」 隙を見て竜一は地を蹴り出そうと―― ――そして時は僅かに遡る 快は酒に合う料理本を読んでいた。出汁や盛り付け等、基本の知識を中心に。 (! この感じ……甘酸っぱい気配っ!) 快のデイアフタートゥモローが疼く。見遣った先には取り込み中の噂のレイライン。 (これは物凄い現場に居合わせちゃったな) 見守らせてもらおう。守護神()的に。後学のために。 気付かれない程度に見遣る視線――と、そこへ!凄まじい歯ぎしり音! (って、あれは竜一!? まさかあの構えは――) 快の不沈艦が直感に囁く。テリーさんに腹パンをするつもりか! 本を閉じる。表情をきっと引き締める。 見過ごせない。守護神()的に考えて。 舞い降りろセ●ール神! ブワッサァアア! デデーン! コキャッ。 テーレッテー ※具体的に言うと、快は後ろから竜一に近付いて、首をコキャっとへし折って悪行を防ぎました。やったね! 「お前の不幸は俺が偶然居合わせたことだ――あ、これは抑えておくんで続きをどうぞ」 竜一をその辺に置いて、ニッコリ笑んだ快は態とらし~く口笛を吹きながらソファに座って本を読み出しましたとさ。因みに本は逆様だったとさ。 ●閉店ガラガラ そして迎える閉館時間。 ハッと目覚めたリンシード。 「……あ、閉館時間? おはようです」 目をごしごし、未だ眠たげ。 リルも凛子に肩を叩かれて目覚め、う~んと伸びを一つ。手元には読みかけのミステリー小説。折角だから借りて帰ろう、そう思いつ、本を手に立ち上がる。 「私も借りて帰ろうと思っていましたので」 「帰ったら、今度はじっくり読んでみるッスね」 一歩一歩、歩いていく。 そしてエナーシアが『閉館致しました』の札を下げ、今日はこれにてお終い。 外はすっかり夕焼けだった。 「そう、俺たちの輝かしい未来をあらわしている」 お外で三角座りの竜一は、爽やかな笑顔で夕日を眩しそうに見つめていた―― 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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