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<剣林>そのレゾンデートルの行方


「ああ、疲れた……」
「いい加減アレだもんなあ」
「アレって何だよ……」
「過労?」
「ああ」
 どうも、初めまして皆さん。
 我々、救急救命士なる仕事をしております。
 と言うと、はてなと思われる方も多いでしょう。
 いい年した男二人、ほろ酔い加減で肩を組んでおりますが。実に久方ぶりの休み。勘弁してほしい。
「ていうか、あれだよなあ……」
「あれって何だよ」
「彼女が、欲しい……!」
「合コンでもすんべや!」
「アテは……?」
「あー」
「休みは……?」
「言うなぁぁぁ!!」
 救急救命士と言うと、皆さん何のことやらと首を傾げるやも知れません。
 簡単に言えば、救急現場から病院に至るまでの道で応急処置を施す人間です。
 業態によりけりですが、やはり休みは少なく。
 そして、我々はなかなか報われません。
 具体的には、医師の指示の下でなければ医療行為は行えなかったり。それでも遺族の視線に晒される存在であったり。
 それでも、1991年に“救急救命士”という存在が法制されるまで、そも我々のような存在は“医師ではない”ことを理由に医療行為を行えなかったことを考えると、随分とまあ法律は進歩したものです。
「それでも……なあ」
「最近、お前、出動何だった?」
「ああ……アレ、急患で呼ばれたよ」
「結果は?」
「……タクシー」
「ヤッパリ」
「……忙しいなりに、せめて人助けをしたいよなあ」
 そう、これでも。
 それなりに、この仕事には誇りを持っているわけで。
 だから、小ばかにされると言うのは我慢がならないと言うわけで。
「まあ、んでもアル中とたわけ以外に俺らの仕事が無いってのは悪いことじゃねえしな」
「こないだはどっかのバアちゃんの心臓発作に立ち会ったけどな……」
「ああ、救えねえってのもまたやるせない……お?」
 ほろ酔いなりにふらふらと道を歩いているのですが。
 職業柄、目は走るものです。
 道端、人気のない路地のゴミ捨て場に女の子が倒れこんでいるのが目に付きました。隣の友人に目配せをすると、たらたらと近寄る。
「おうい。大丈夫ですか……?」
「姉さん、酔ってる? 気分大丈夫? タクシー呼ぼうか?」
 何といってもこちらは野郎二人、なるべく危険を感じさせないようにごくごく紳士的に声をかけます。
 頬をぺちぺちと叩いて呼びかけるが、反応はない。わりとマズいか?
 危機感を持った俺は、彼女の身体を転がして上に向けます。嘔吐すれば気道を塞ぎかねないし、ショックで舌を噛む事もある。
 そう思った俺の目に飛び込んできたのは、一面の赤でした。
「……は?」
「え、ちょ、マジ?」
 急いで服を裂く。傷は紛うことない。刃物で負った傷だ。左肩から右腹斜筋にかけてばっさりと。
 この時代にしては何とも場違いな、これはおそらく刀傷という奴だ。ご丁寧にその腰にも、大振りの刀が納められている。
「これは……」
 頬を続けて叩く。傷に軽く触れると、小さく呻いた。痛みに対する反応はある。まだ手遅れではない。
「って言っても、どうすんだよコレ」
「……どうするって」
「救急救命士がオフに救命行為するって結構問題だぜよ」
「そうもいかないだろ……」
 止血くらいはしてもバチは当たらないだろう。といっても早いところ縫合と輸血をしないとマズい。
「……ほら、そっち持てって」
「マジかぁ。まあそうだよなぁ」
 二人で両肩を取ると、女の子は小さく呻く。その頭には耳と尻尾が……え?
「コスプレ……で、斬殺?」
「死んでねえって」
 違和感があることに変わりはありません。
 一先ず運ぶか……と、そう思った時に、ソレは来ました。
 ビルのうえから落下音。金属的なソレの音はとてもとても重い音。
 がしゃあん、とか。そんな感じに。
「何だ、バケツでも落ちてきたんか?」
「かもしれな……」
 足は八本。
「……いや、クモ?」
 ヒィィィン、と音がして、何が何やら、がちゃがちゃと展開する音がします。クモと言ってもそのフォルムは実にメカニカルで、例えるなら特急列車の1両目から足が八本生えているようなフォルムです。否応なしに、そのボディに収められている何かを想像します。
 顎と思しき場所から、二本のブレードが飛び出してきました。
 彼のクモらしき何かは身の居丈3m、高さも1mはあり、足の分も含めるとサイズはそれ以上に見えます。
「あー、ってか、返り血付いてんね」
「……だな」
「どする? 死ぬよこれ、きっと俺達」
「…………」
 親友には悪いと思っています。
 思っていますが、止まりません。
「……おい、走るぞ」
「え?! マジで、こんな、行きずりの見るからにヤバそうな傷と間違いなくヤバい追っ手がついてる女の為に何するっての?!」
「……知るか」
 悩むこともありました。
 腐ることもありました。
 しかしそんな何をかもを抱えて、それでも大事と思える何かの為に走れる。
「……それでも、俺達は、救急救命士だ」
 そういう男に、私はなりたいと思っています。
「あー、あークソッ! わかってらぁ!! お前はそういう奴だし、それに釣られる俺はこういう奴だよっ!!」
『排除対象1、障害2。コマンド申請:ターミネート……受理。コマンドを実行します』
 機械から流れる音はどこまでも無機質です。
 少なくとも、中に人間が入っていることはなさそうです。
 それだけは、俺の救いです。
「……走るぞっ!!」


「少し困ったことになりました」
 『天照』神宮・てる(ID:nBNE000231)が困惑した顔で話す。
「状況は、映像を見ての通り。襲われているのはフィクサード<剣林派>の小組織に属する少女、『理刀』小野 刀那。なぜ襲われているのか、襲撃者は何者なのか、それは不明ですが。おそらくはエリューション、もしくはアーティファクトの類に属するものかと」
 金属音が鳴り響く裏路地を、蜘蛛型の機械が疾走する。いつの間にか張られていたらしい結界は、周囲数キロメートルを無菌地帯と化していた。
「放置していれば、この三人の男女の命の行方は自明の理。即時の対応をお願い致します。
 また……本件には、一般人の男性が2人関わっています。予知の時刻と現在位置を勘案すれば、到着はほぼ同時刻。如何致しましょうか……わたくしどもには、神秘の隠匿という命題があります。たかが二人、されど……どう対処するか、それは皆様にお任せ致します」
 そう言うと、てるは銅鏡を胸の前に捧げ持つ。目を閉じると、僅かに微笑んだ。
「此度感じるものは、責務――鬱屈――その性。皆様の道行きに、幸あらんことを」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕陽 紅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月07日(火)21:52
●作戦目的
人命を救助せよ

●敵情報
・EL-0930VA
自律稼動アーティファクト。蜘蛛型。
設定を自身の手でフレキシブルに書き換えながら目的を確実に遂行する。
欠点は、行動原理の入力を行う際のみプラットフォーム上で行う必要があること。
現在の設定は「小野 刀那の抹殺」とされており、その原則に沿う範囲ならば融通が効きますが、その範囲にそぐわないコマンドは自身で跳ね付け、エラーが起きます。
索敵範囲は半径200m。その範囲内であれば、際限なく敵を襲ってきます。

・面接着
・高振動ブレード/物近単:出血・流血、威力大
・プロトンビーム/神遠単:麻痺、威力大
・拡散プロトンビーム/神遠範:麻痺
・自動修復/戦闘不能時発動。2ターンを費やしてHPを全快。ただし、回数を重ねると失敗率が上がり、失敗判定が出ると自壊する。

●フィールド情報
某市街地直径約500mの範囲
ビルは高くても5~7階程度
人間は建物内に引きこもっており、姿は見られないが複数人の革醒者により広域の強結界が張られている。建物外で戦う限り、配慮は必要ない

●NPC
・『理刀』小野 刀那(オノ カタナ)
ビーストハーフ・トラ/ソードミラージュ
重傷、気絶中

・一般人男性×2
神秘の隠匿に対する配慮は皆様の裁量でお願い致します。


●STより
夕陽 紅です。
いかが致しましょう。秘匿は命題ですが、彼らは一体どうしましょう。
なお、普通に真正面から戦うとかなり苦戦するのでお気を付けください
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
歪 ぐるぐ(BNE000001)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
プロアデプト
阿野 弐升(BNE001158)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
李 腕鍛(BNE002775)
クリミナルスタア
ガッツリ・モウケール(BNE003224)
覇界闘士
斬原 龍雨(BNE003879)


 重苦しい金属音がごりごりと迫ってくる。最早逃れる術などない。ビルとビルの合間を飛び交って最短ルートを進み、その超振動の毒牙が三人の人間を一刀の下に捉え……
 そうして、ぎぃんと耳障りな音と共に、二つの影が弾き飛んだ。ひとつはEL-0930VA、そしてもう一つは『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(ID:BNE000659)。その姿は、二人の男の目には映らなかった。
「な、何だぁ?!」
「ウッセ。ハヨ逃ゲロ」
 地面にべたりごろごろと転がって受身を取りながら唇を尖らせる少女に目を白黒させる。
「へいへーい、説明は後にするお!」
 ばぎん、と盛大に跳ね飛ばしたのは4DW、四輪の駆動力を余すことなく蜘蛛に伝えて、『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(ID:BNE003224)が運転席の窓から顔を出した。確かに、このサイズの車なら後部座席を倒せば十分に人を介抱するに足るスペースも作れるだろう。が、突然の自体に二人の男は躊躇した。
 しかし、それも一瞬だ。少なくともこれより状況が悪くなることは絶対にないと判断すると、素早く少女を乗せる。運転席のシートを蹴りつけるくらいの勢いで、男は声を張り上げた。
「出してくれ……!」
「あいあいおー♪」
 踏み込むアクセルはべた踏み。しかしタイヤは空転する。
『…………』
 しばし何かを精査するような音を路地に鳴り響かせ、しかしその音は更なる大音声に遮られた。
 ひん、と空を切る音。地面に転がった蜘蛛の足はバンパーに突き刺さって動きを止め、しかしかん高い金属音と共にバンパーを突き抜けて地面に刺さる。
 『女好き』李 腕鍛(ID:BNE002775)の掌は剄力は胸から軸を通り、劈の軌道を以って地盤ごと足を叩き付けたのだ。著しく温度の下がる脚部は、しかし直前で打点をずらされたのか動きまでは止まっていない。
「早く行くでござる!!」
 腕鍛の叫び。ゴムの焼ける白煙を出して走り出す車を精査する。機械の思考を人は知ることは出来ない。
『高脅威対象8、追跡対象の障害と判断。可及的速やかな回避と初期プロトコルの実行の為コマンド申請:サーチアンドデストロイ……受理。コマンドを実行します』
 知れずと言えども、リベリスタ達にとって、何をしなければいけないのかは明白であった。


 疾走する蜘蛛型のメカニカルアーティファクト、EL-0930VA。抜かれてはならぬと追走するリベリスタ。そしてそれらから逃げる軌跡の4WD。
「ハイスペックメカだー!」
 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(ID:BNE000001)のわくわくどきどき。どうなってんのそれ見たいバラしたい改造したいと書いてある目で蜘蛛を捉えると、ピンポイントを放つ。ぎぃ、と
しなる音がして、しかしすぐに残った7本の足を動かして走り出す。機械らしい融通の利かなさで飛び上がって7つの傷をがりがりと壁に付けてスライド。機械ながらその動きは実に有機的で、それが逆に気持ちが悪い。その動きが、一瞬がくんと止まった。
「ま、どうせ再生しますしね。先ずはちくちくと……」
 『群体筆頭』阿野 弐升(ID:BNE001158)のトラップネストは狙い違わずその進行方向を絡め取り機動性を一時的に奪った。
「ここは引き受ける、と……言うまでも無かったな」
 彼らは荒事には向かなくとも、緊急時のプロフェッショナルではある。そういうことだ。『リグレット・レイン』斬原 龍雨(ID:BNE003879)の顔は嬉しそうだった。閃刃・空牙の刃が装甲を裂いて火花を立て、燃え上がる炎は一時的にセンサーを眩ます。しかし、そこらの凡百の機械とコレは、基本から違った。眩んだ目のままに音響センサーのみで位置を捕らえ、牙のように二本のアームが飛び出すと弾丸のように、既に遥か向こうに行っている車に向かって飛び出す。慌ててツァイン・ウォーレス(ID:BNE001520)が盾を前に、剣も盾に、身体も合わせて全てを斜めに構えて受け流すように立ちはだかった。
「いぃ!?」
 かなりの硬度を誇るはずの彼の装甲がりぃぃぃんと妙に澄んだ音を立てて火花を放っているのを見て、目が飛び出しそうな面持ちで蜘蛛を蹴り飛ばす。
「こんなこと言っちゃ何だけど、たかが一人の追走になんでこんなアーティファクトを……」
「ツァイン様、頭を下げて!」
 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(ID:BNE000742)が叫んだ。慌てて金色の頭が下がるのを確認すると、片手の銃に優しく口付ける。
「貫け、Dies Irea――!」
 放たれる弾丸は祈りを籠め、怒りの日の名に相応しい力を孕んで装甲に突き刺さり、解放された。軋みを上げる。呪いというものが機械に対しどれほど意味あるものか。未だ目には見えぬが、確かに届いた。
 一瞬の沈黙。カメラアイと思しき複眼に僅かなノイズが走る。じゃこん、とブレードを仕舞ったかと思うと、続いて砲口のようなものが突き出た。より正確に言うならば線形粒子加速器。
 閃光が、リベリスタ達の目を灼いた。


●幕間
「ふぃー、やっと視界から消えたお」
 後方を見やる。ガッツリは、その姿勢で二人の男を見た。
 間違いなくプロフェッショナル。自分のシャツを裂いて止血を施し、道具の不足故に荒っぽく傷口を塞いでも処置は的確だ。このまま真っ直ぐ病院に向かうか治癒の術をかければ、一命は取り留めるだろう。
「そんで、説明してくんね?」
「お?」
「……あんたらと、この子と……アレは、何なんだ」
 二人の男は、さりげない風を装っている。知りたいことではあるが、拒絶されればあっさり引き下がるだろう。事情に深入りすれば、危険が待っていることを大人の彼らはよくわかっているのだ。
 だから、さらりと説明してやる。口の軽さが、逆にそれ以上の深入りを許さないという意思表示になるということをガッツリは知っていた。
「んでんで、どうするかお?」
「何がさ」
「あのロボットはこの子が狙いだし、その程度の怪我じゃその子が死ぬ事はない……と思うお?」
「……彼女の唇が見えるか?」
 返事にならない返事。ガッツリが振り向いてみると、フィクサードの少女の唇が紫になっているのが見えた。
「……チアノーゼだ。血中の酸素濃度が低下している。ショック症状の一種だ。こういう患者を大丈夫と俺達は言わない」
「……やれやれだお」
 肩を竦めた。
 この世界も、思ったよりお節介さんは多いものなのである。
 そのほんの僅か後。彼女の視界を閃光が灼いて、何だかわからない悲鳴はAF越しに皆に聞こえることになる。



「ガッツリ殿! ガッツリ殿! ……くそっ」
 腕鍛が扇をばちんと畳む。通信術に反応が見られないのはいかなる理由か、無事ならば良いのだが。その視線は今しがたビームを放ったEL-0930VAへと向かう。かの機械は人間にはわからない方法で追撃を行った後、再び壁へよじのぼってリベリスタをかわして追跡しようとする。その脚に飛びつく影がある。ほとんど壁に顔を押し付けるようにして疾走して、眼前に回りこむ。
「この空間は私ノモノダ機械ゴトキがイルンジャネーヨ」
 誰よりも早く反応したリュミエールの速度、自身の領域を侵したものに対する不快感はハイスピードアタックという形を取って地面に叩き落した。空中で回転して変則の両足踵落とし。大質量のメカは、それに見合った速度と重さで地面に大穴を開けた。水道管が壊れたらしい、吹き上がる水を突き破って現れた蜘蛛の線形粒子加速器は形状が先ほどと変化している。
 拡散するビーム。威力は下がったものの、より広範囲に。さながらビームのショットガンと言った様子で、何人かの動きを止めた。
「あのロボット、カタナ殿を倒したら存在理由を失うのでござるよな……その時回収に来るのは人でござろうが……このロボットもなんだか可哀想なやつでござるよ」
 その蜘蛛の正面に、腕鍛が立ちはだかる。ぐっと右脚をためて、弾ける様に踏み出す。すれ違うようなブレードに手を軽く添えて、掌が裂けるのも構わず、脚を靴裏でへし折りながら掌を振り下ろした。龍形拳。叩き込んだ掌から冷気が走ってびきり、と氷結した。動きの止まった蜘蛛の眼前に、ぐるぐのR・コラージュ。7つある目のうち赤外線センサーらしいそれにぎゃりぎゃり傷をつけてから、×の字に振り下ろされる二本のブレードの下を掻い潜って三対目の脚の右付け根にある動力ケーブルがほんの少し露出する部分を掻き切ると、完全に動きを止めた。
「わーひ。さー分解だっ」
 普通ならばこれで倒したと言えるかも知れない。しかし、なにやらぐるぐがもぞもぞ作業している間にもぎゅるりとコードとコードが互いに結びついたり、装甲が復元されたりしている。単に超科学である以上に、これがアーティファクトであることを示す光景だ。関節をいじっては見るものの、すぐさま時間が巻き戻るような光景を見せる。むにー残念無念、と作業を中断してぐるぐが飛び下がると、一瞬の間を置いてブレードが先ほどまで彼女の居た空間を薙ぎ払った。六本の脚に逆関節という概念は存在しないらしく、器用に身体をひっくり返すと蜘蛛は再び疾走の姿勢を見せる。それにぶち当たったのは、弐升だ。先んじて全力で防御をしていた彼は辛うじて麻痺を逃れ、そして今、抜かせまいとその前に立ちはだかった。
「陳腐ですが、ココを通りたければ俺たちを倒してからってね」
 リリは一瞬、銃を撃ち放つかそれとも次の攻撃に向けて集中するか迷う。しかし、自身の務めを果たすべくブレイクフィアーを唱えた。麻痺をしていた全員と、血が止まらなくなっていた腕鍛の身体から異常が消える。支えるべき者に対し果たせることを果たしほっとした顔をするが、有機的な動きを始める蜘蛛に対しふと疑問を覚えた。
(あれは何者かの所有物なのだとしたら、何故フィクサードを狙い、何故結界を……)
 彼女の知識から、間違いなく人の手によるものであり、暴走状態にあるものではないことは判る。それ以上を胸のうちに秘めたまま、今はまず戦うべし、と気持ちを切り替えた。何故なら、観察の余波は一つの事実を指し示していたからだ。
「皆さん。アレは、先ほどと比べて……私達との戦闘から索敵に移る際のタイムラグが、だんだんと広がっています」
「見失いかけているかも知れないのだな」
 ならば話は早い。そう口の中で呟くと、壁に飛び上がった蜘蛛に先んじて壁に飛びついた龍雨は、更に壁を蹴ると半ば無理やりアームの付け根辺りに足を絡める。両側から襲い掛かるブレードを腕の刃で弾き返し、身体を限界まで逸らすと、その反作用によって思い切り地面に叩き付けた。いわゆるフランケンシュタイナーのようにセンサーから地面に突っ込んだと言うのに、歩みを止めない。ぐっと奥歯を噛み締め、虚空に向けてツァインが叫んだ。
「おい、見てんだろ!? 戦闘データが取りたいんなら俺達が付き合ってやる! どうよ!」
 答える声はない。鼻に皺を寄せる。
「こんの、卑怯者!!」
 剣が清澄な光を帯びる。踏み込む。ブレードを盾で受けると、捻って捻り落とそうとするが……
(これは……こいつ、上手い!)
 同じ剣だからこそ判ることがある。
 盾で受けた瞬間、絶妙に筋を通そうとして来た。盾で弾けば押し戻されるし、流せば内側に捻り込まれる。そういう軌道と力の入れ方だ。結局手首を返して強引に外側に落とすしかなかった。リュミエールのアル・シャンパーニュも捌き切られた。速さに任せた突撃は精密さをやや欠き、装甲を裂くに留まる。
「何ダコイツ……」
 リュミエールも感じる違和感。技巧が籠められている。地面で蠢く蜘蛛はぎゅるりと蠢き、ブレードを突き出して身近の敵を斬ろうとした。
 であろうが行かせぬ、と腕鍛が踏み込む。先の反省を踏まえてブレードの横を叩き、滑り落とすように鑚拳。複眼に突き刺さると、弾くように氷結する。そこではたと、通信が復活した。
『……じかお? 無事かお、みんな!』
「ガッツリ殿?!」
「無事無事、良かった良かったー今度こそ解体だよね!」
 ぐるぐがわきゃわきゃ喜ぶと、早速工具を取り出す。ドライバーにモンキーレンチにうんたらかんたら。がちゃがちゃ、構造を把握する、神秘の本質に近付く、間違いなくその瞬間、彼女は高周波ブレードとプロトンビームの本質を理解したが、その直後。
 渾身の力で跳躍。地面に転がる。彼女のいた場所に刺さった飛刀は、僅かな音を立てて地面に突き刺さっていた。第三者の存在を予想していなかったぐるぐは、攻撃こそ喰らわないものの回避を優先せざるを得なかった。
 半瞬の後、そこには男が居る。男はじろじろとリベリスタ達を睥睨する。首を傾げると
「……ふん、資格はあるな。存外、正義の味方というのも捨てたものではない」
「あー! ぐるぐさんのブレードー!」
「やらんよ」
 ぶーぶーと、文句を言うまま地面で手足をばたばたさせる彼女に溜息を吐く男は、ゆったりとした服に身を包んだ壮年の男だ。齢は40に届こうかと言うような、脂の乗った年齢を過ぎてしかし技術には円熟を追え達人の域に入り始める頃である。
 そして、革醒者に見た目の常識は通用しない。彼は音も無く飛び降りると、先刻弄るにあたってぐるぐが頑張って引っくり返したEL-0930VAをあっさりと小脇に抱えた。
「貴様らが継承者となること、存分に有り得るだろう。では、次を待っているぞ」
 そうして、飛び上がって消え去った。困惑するリベリスタ達のもとに、4WDのタイヤの音が聞こえる。
「ガッツリ殿!」
 腕鍛が駆け寄る。既にその車の中に二人の男の影は無く、ガッツリが適切な処置を施したと判る。が、肝心のガッツリの表情は曇っていた。というか、困っていた。
「あ、あんたら!」
 4DWから飛び出してきたのは、今回追われていた小野 刀那だ。年の頃が15ほどで見た目の止まっている彼女は負傷も深く息荒く、しかし切羽詰った声をしていた。
「な、何してくれたんだ!!」
「……貴方は」
 リリが、眉根を寄せる。実際に刀那の動きを目にして、異界の知識と直感の全てを総動員した彼女は違和感を覚えたのだ。
 先ほどの、剣戟に造詣のある人物に“できる”と評させた蜘蛛の動き、その体捌きと彼女の動きが、驚くほど似通って居たのだ。
「何てことをしたんだ、あんたら! あんな、あんな……か、、勝手に助けてくれたおかげであんたらはなあ!」
「ちょっと待て!」
 傷を押さえてなおもわめき続ける刀那の眼前に、ツァインが掌を差し出した。彼もまた、剣の冷や汗を間近に感じた一人だ。それを以って、これをただ終わらせることに異を唱えた。
「確かに俺達は勝手に首突っ込んだだけだ。でも少しでもしこりに思ってんなら……すっきりさせた方がいいと思うぜ?」
「スッキリもクソもなぁ……えい、めんどくせえやい! 見なよ、これをっ」
 彼女が懐から取り出したのは、名簿とでも言うべきものだった。異界の知識に対する造詣があるものにとっては、それが自動筆記の性質を持っているということが判っただろう。
「んでも」
 口を挟んだのはガッツリだ。先ほどからわめき散らすままだった刀那にやや辟易として、そしてそれにも増してなお、疑問を抱えていた。
「どうして、武器が腰に収まってるのかお? 蜘蛛を1度倒して油断してしまっちゃったのかお? ビスハが油断かお?」
 考えてみれば、それは当然の疑問だった。例えば一度倒したと思って武器を収納したとして、ビーストハーフならばそう簡単に不意打ちなど喰らうはずなどないのだ。まして
「しかも、傷は前からだお? 戦闘中に刀を構えていたにしてはおかしな傷だと思うしお」
 その時、少女は掌を前に突き出した。
 彼女は、言うまいとさせていた。それは或いは、それ以上の言葉によって自身を助けた男二人に対する敬意とでも言うべきものかも知れない。自分の意図によって怪我を追ったのだと言葉で言ってしまえば、それは彼ら二人による救出を馬鹿にするものだと。
「……良いだろう。ここまで来ちゃあ、あんたらも同類だ。あたしを助けたこと、精々後悔しな」
 彼女の突き出した先刻の名簿は、間違いなく、先に見たときは小野 刀那の名前のみが刻まれていたはずだ。
 巻物のようなそれには、次の瞬間、間違いなく、墨のような素材によって、リベリスタと書かれていた。刀那はふるふる震えている。それは或いは、観察眼の鋭い人間なら、他人を巻き込んだことによる恐怖と気付いたことだろう。
「あんたらな、そろいも揃って、うちの組織のイベントに巻き込まれちまったんだよ、バカ共!!」
 声はただただ、夜のしじまに響いて消えていった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
ブレード奪取はレアドロップなので、やはり万一の抜けも無いと難しく。
でも、惜しかったです。
ま今回は逃しましたが、他にも色々仕込んでいる連続シナリオなので、何か手に入れたい方は頑張っていただけると幸いです。