●あらすじ 蒸し暑い太陽が降り注ぐ、初夏の風は生ぬるく肌をなぞった。 舌にとろけるジェラートに、優しげな甘さのアイスクリーム。 ひんやり美味しいシャーベット、きんと冷たいかき氷。 ――そんな氷菓を想像するだけでしあわせで堪らないけれど、中々ありつけないわけで。 「! あ、お姉さまからのメール……! ふふっ!」 椅子に座り、脚をぷらぷらとさせていた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は携帯電話を見つめて本当にしあわせそうに笑った。 メールの受信先は彼女の大好きなお姉さまこと『導唄』月隠・響希(nBNE000225)からである。 『知り合いのパティシエがコンテストに見事入賞したからそのお礼に氷菓をごちそうしたいんだって、私は仕事があるから世恋が行ってくれないかしら?』との内容のメール。 この暑くて堪らない毎日、ごちそうしてくれるというならばいくしかない。 世恋は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。 そうだわ、アイスを食べよう! ●……、という訳で 「アイスを食べに行きましょう? あ、勿論何でもあるのよ!」 アイスクリーム、ソフトクリーム、ジェラート、シャーベット、かき氷。 嗚呼、想うだけでも幸せ。甘さが咥内に広がる様だわ――氷菓を指折り数えて微笑んだ世恋は何かを思い出したように手を叩く。勿論、お代は頂かないわ、と。 「お誘いくださったパティシエさん――佐倉さんがこのたび見事コンテストに入賞したんだって。 試食を手伝った子がリベリスタに何人かいるみたいで……そのお礼ってことらしいの」 コンテストの入賞者、ってことはとってもとっても美味しいってことだよね!と語るのは外見年齢は中学生程度のフォーチュナ(23)である。 春にお菓子のコンテストに出たというパティシエが今度は氷菓のコンテストにも出場するらしい。その試食会とお礼を兼ねての催しだとフォーチュナは桃色の瞳を輝かせた。 お腹を壊さない程度に好きなだけ食べましょうね、と世恋はリベリスタ達を見回す。 「あ、厨房は好きに使って良いらしいの。アイスクリームの作り方も教えてくれるそうよ?」 オリジナルアイスクリームって夢よね?と彼女は眼を輝かす。 例えば、オレンジを刻んでチョコレートのジェラートに混ぜ込むだとか、ココナッツでシャーベットを作ったりだとか、彼女は幸せそうに呟いていく。 「とにかく、色んな氷菓を食したり作ったり! 幸せを噛みしめましょうよ」 これが地図ね、とずずいと差し出す世恋。 来るも来ないも自由、それじゃ、また後で! 落ち着かない様子で、アイス、アイスと彼女はブリーフィングルームを後にした。 『あ、またコンテストがあるそうだから、何か浮かんだら教えてあげてね? せれん』 ……だなんて地図の下にはこっそりと書いてあった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月30日(月)23:55 |
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● 夏の日差しは暖かに降り注ぐ。まだ初夏であると言うのに今年の太陽は肌を刺す。 酷暑だろうか、そうじゃないのか、そんな事を想いながらも辿り着いたのは三高平のパティスリー。 「場所はここか。色々ありそうで楽しみだ」 ブリーフィングルームに残された地図。 それを頼りにたどり着いた疾風は暑すぎて蕩けそうだと額に伝う汗を拭う。 選ぶのはバニラ、抹茶、そしてブルーベリー。 「ブルーベリーは目に良いから好きなんだよね」 だなんて、微笑む。パティシエは其れに頷いた。こちらも、と差し出されたのはブルーハワイのかき氷。 暑い時はこれに限る。頭にキィン、と響くのは氷菓の美味しさ故。 そうだ、後でお土産を貰おう。夏はまだまだ続くから。 「なんとあいすたべほーだいなの~」 幸せそうに尻尾を揺らしたミミルノ。キラキラと瞳を輝かせ、アイスの山へと突撃していく。ぐっと固めた拳。気合は十分だ。 「こんなチャンスはめったにないのっ!」 テレビや雑誌で見たもの、興味が合ったけど食べた事がないアイスを全て食べるという勢い。 大きな口を開けて、咥内へ招き入れた氷菓は、頭をキンと冷やしてしまう。 「……!!! こんなことではミミのかいしんげきはとめられないのっ」 甘いものあるところに、私ありと瞳を輝かせたウェスティアも笑う。 「またお菓子を頂けるのですね」 リーゼロットの頬が緩む。財布の都合もあり、ごちそうしてもらえるとなれば幸せで堪らない。 好みのものを、と選んだのはストロベリーアイス。満足いくまで同じものを。 ――面白みがないか、と少し思ってみるけれど、パティシエは嬉しそうに笑う。 「自分は気に入ったらそればかり、の性分なので仕方ないですね」 それも宜しいのですよ、とパティシエが用意したストロベリーアイス。添えられたのは生クリーム。 パティシエは楽しげに笑った。さあ、心行くまで。 山の様に用意されているアイスクリーム。席についたアルトリアは用意されたアイスクリームを見回す。 パティシエである佐倉のオリジナルアイス。指折り数え切れないほどのアイスクリーム。全て違う魅力があって、素敵だと、思う。 見回す先に仲間達がアイスクリームを作る姿。余った物は評価しようと笑いかければ、頷き返される。 「こうして食べれる事が幸せなのだ」 その声に近くに居たフォーチュナは頷く。此方もどうぞ、と出されたのは佐倉が作ったオレンジのゼリー。 「それじゃ、遠慮なく」 「ええ、どうぞ召し上がってね」 優しげな風味。夏空の下、鼻先に柑橘の香りが辿った。 選ぶのはオススメがいい、食べるなら二種類のジェラートをベルギーワッフルで挟み込んで。 「……お勧めのものを」 「それじゃ、これはどうかしら?」 そっと世恋が差し出したのは濃厚なマンゴーと優しい風味の杏仁ジェラート。 ワッフルの歯ごたえと、ジェラートの甘味、それはきっと幸せだ。 「……それに、チョコレートソースを掛けても……美味しそう」 フルーツもふんだんに使おう。盛り合わせて、理想のアイスクリームを食べよう。 「夏の……暑さを忘れられる」 冷たさを楽しんで、今は氷菓に舌鼓。夏が暑いからこうやってアイスクリームが美味しく食べられる。 其れなら、少しはこの暑さも許せる、そんな気がした。 盛りに盛ったのはかき氷。周りにはシロップを全て準備しして、席に着席する。今日は食べに来たのだ。 先ずはブルーハワイ、続くのは練乳と、砂糖水。お次はメロンシロップ、そしていちごシロップ。 「……おいしい?」 こくり、と頷いた菜々美は漬物の残り汁をかける。 カルピスを掛けて桃シロップをかける。 そこまで来るとまるで氷山の様に見えたかき氷は姿を消してしまう。 「ごちそうさまでした」 良い食べっぷり。パティシエとフォーチュナが顔を見合わせて笑った。 ぱたぱたと自身を仰ぐのは黒いスーツを纏い全身を黒で固めた星龍である。夏は暑いからこそ夏である。 ――だが、暑いのはつらい。自分のスタイルを貫く上での強敵である。 「雪花冰をお願いします」 脳裏に浮かぶのは故郷台湾のかき氷。 草苺果醤雪花冰を、とパティシエに頼んだ所、クエスチョンマークが浮かぶ。 「ああ、日本風に言いますとミルクイチゴかき氷ですね」 日本では故郷のかき氷を提供する場所は少ない。たまに食べたいんだ、という言葉にパティシエは頷いた。 今年はこれで乗り切ろう。遠い、故郷に思いを馳せて。 「夏は冷たいものを食べるのが一番ですね」 ――と言っても食べ過ぎは腹痛のもとである。注意しなければ、と周囲のリベリスタを見回す。 心配になる様な食べ方をする仲間が多い中、彼女は小さく笑いながらシャーベットを注文する。 「今の季節ならなんでしょうね……桃やスイカ、葡萄」 数えて行くと沢山浮かぶ。夏は食べ物がおいしい季節だ。 四季折々、季節のフルーツを使ったものを、と待っていると運ばれてきたのはアプリコット。 大きなハイビスカスを飾りにつけたハイビスカスティも添えて。 「赤色がよく似合うお嬢さんだもの」 フォーチュナは笑う。杏の果肉がとても美味しいわよ、と。 勿論お持ち帰りのアイスクリームもきちんと準備してあった。 何にしましょう、と並んだアイスクリームを見つめる麻衣。 「アイスクレープなんて、いいですね」 逆三角形のガラスの器にクレープを敷いて、中にはフローズンヨーグルト。その周囲を好みのフルーツが飾る。 如何にも美味しそうだ、と麻衣は頷く。 選び抜いたのはフローズンヨーグルトの甘さとはまた違う濃厚なマンゴー。色合いのコントラストも映える。 「美味しそうですね」 頷いて、ディンブラのアイスティーを用意する。此方は砂糖入れずにシンプルなストレートティー。 「さて、感謝しつついただきます」 パティシエの行為に暫し甘えよう。甘く、濃厚なその味と茶葉の苦みが喉元へ。 バニラアイスにブランデーをかけて食べるという話はよく聞く。 「どうせなら最初からブランデーが入っていた方が嬉しいですよね」 そう笑ったアルフォンソのオーダーはチョコレートアイスにブランデーを入れて作ったもの。 ほろ苦いチョコレートの甘みに薫り高いブランデー。チョコレートとブランデーの相性はばっちりだと彼は笑う。 「ああ、それとアイスカフェ・ラ・テも」 畏まりました、パティシエはそう頭を下げた。 「アイスクリーム! 夏と言えばこれですよね!」 瞳を輝かせたのは独露氷菓愛好会のドーラだ。アイスは大好きだという彼女の後ろを生粋のロシア人であるチャイカがついていく。 「アイスクリームと言えば、母国でも人気ですよね」 「食については風土ともどもお寒い国なのが一般的な評価ですね」 最近よく耳にする大手メーカー。それも郷土のものです、とチャイカは笑う。名産品でなくても好きなものは好きだ。 案内しますと微笑んで彼女はアイスクリームの知識をチャイカへと教える。 「夏になると行列ができるんですよ。アイスクリームをお皿の上でスパゲッティ状に絞って……」 その上にストロベリーソース。甘酸っぱいスパゲティアイス。 「へえ、変わってますね……」 「チャイカさんが私の母国へ行く機会があれば試してくださいね?」 その時は案内します。ドイツはきっと楽しいですよ、とドーラは笑う。 様々なフレーバー。どれにしようか、と迷う指先。 「そうだ、はんぶんこしましょう?」 「仲良くはんぶんこ、いいですねっ! こんなに種類があると、流石に食べきれませんから」 「はい、分ければいろいろ食べれて幸せですね」 微笑みあう。そうだ、と独露氷菓愛好会としての知識をチャイカも披露する。 「そういえば知ってますか? 昔は戦闘機にアイスクリームの原料を詰め込んだ缶をくくりつけて飛んでいたみたいですよ。低温と振動でいい感じのアイスができるんだとか」 アイスとは奥が深い。二人の探求は続いていく。 「暑い夏にはアイス! そして! かき氷!」 きらきらと瞳を輝かせたなずなはスプーンを握りしめる。その様子に聊かデ・ジャヴを覚えた創太は頭を掻く。 残さないようにな、と注意を入れる赤い瞳をした友人になずなは笑う。 好きなものを心行くまで食べられる機会。それならば好きなものを一杯食べたいと思うのは普通だろう。 「色んなものを少しずつだ! 十凪! はんぶんこしろ!」 お腹を壊さないように少しずつ、其れならたくさん食べれるだろう。一人で無理なら二人で。 私、かしこい、と胸を張った彼女は机の上に並んだアイスクリームやかき氷にうっとりと視線を移す。 まったりとした口どけのアイスクリーム。フルーツを盛った豪華なかき氷。 「……やっぱりお子様だな、お前は」 大人で紳士な彼の手にはコーヒーアフォガート。バニラ風味のジェラートに濃いめに淹れたコーヒーを注ぐ。香り付けのシナモンが鼻孔を擽った。 「優雅に……」 じ、っと見るなずなの視線に肩を竦める。分かった、食べる、と彼は折れる。 「頭がキーンとしたらぐりぐりしてやるのだ」 「じゃあテメェがキーンとしたらぐりるからな!?」 大丈夫だ、と胸を張る可愛い友人が嬉しそうに微笑んだのにほっと一息。 それじゃあ、アイスのお供は紅茶にしよう。暖かい、身体を包み込む優しい味。 夏だからこそ許される贅沢に、身を任そう。しあわせを暫し此処に。 一度訪れた店先。顔を出した夏栖斗はパティシエへとオススメを訪ねる。 甘さが控えめでさっぱりとしたもの、提供されたのはフラゴーラと甘夏のジェラート。 スプーンで掬いあげ唇へと運ぶ。咥内に広がるのはフルーツの香りと風味。 「うん、こっちも美味しいな! そっちのは」 どう?と差し出したスプーンを受け取るこじりは御満悦。掬いあげたジェラートを其の侭夏栖斗の口元へ。 「はい、三度頭を垂れてから食べなさい」 「どーもあざーっす」 言葉通り三度頭を垂れた彼は笑う。咥内に溶けるアイスクリームは程良い酸味が堪らない。 有名な職人が作ったから、材料が良いから、そんなものではない。 誰と食べるのか、其れが隠し味となる。美味しいね、と笑う。愛しい人と、しあわせの味。 「ところで、夏休みだね」 最近はどうだろう? そんな他愛もない話。課題もやらなければいけないし、それでも遊びたい。 高校生と大学生。やはり夏の過ごし方は少し違うのかもしれない。 「そうだ、旅行に行きましょう。暑いから、北海道なんて良いわね」 勿論任務のついでではない、プライベートで。アークの任務帰り、と言いかけた夏栖斗の言葉を遮る。 19年目の夏。初めての夏。口元に笑みを浮かべたこじりが囁く。 「楽しみましょうよ」 その言葉に夏栖斗は笑った。夏を満喫しよう。 「めいっぱい、遊ぼうよ」 きみとなら、きっと。 きゅっふふふふ! デートだよ、と微笑んだのは美少女……と言ってもオカマバーなどを運営しているオカマである。 「悶えちゃうよねー」 なんて笑った愛。氷菓と言えば宇治金時。クリームが乗っていればなおよし! だなんて彼女……彼は言う。 「あーん!」 ちょうだい、と差し出した愛。 そこで思い当る。頬にクリームが付いていればフラグの可能性が!? なんたって超絶可愛い(ナルシスト)天使だ。 俊介をじっとみる。舐めていいよ、どうするの? だなんて彼を見つめたまま、時が停止した。 「なんだよぅ。照れてるの?」 もしかして、ツンデレなのかな、なんて笑いながら愛は言う。また、誘ってね。 アイスクリームと言えば夏の定番だな、と考える。 「……そういえば、今年はこれをまだ食べていなかったな」 悩んだ末、手に取ったのはアイスクリーム。もうそんな季節でしたね、と悠月は笑う。 もうすぐ八月に為る、夏の盛り。冷たいものが美味しい季節。 「悠月は何が良い?」 「私の好きなもので良いのですか? そうですね……」 瞬きを繰り返す。青りんごを、と。彼女の好みのものを選びに彼は席を立つ。 気付けば今年も夏が訪れる。こうしていると気付いたころには秋が来て、冬が来て、春が来て、また夏が来るだろう。 「……ん、美味しいな。夏と言えば、これに限る」 「夏祭りの……お馴染みですね、かき氷」 こうやってのんびり食べるのも良いだろう。嬉しそうに笑みを浮かべた拓真に悠月も微笑む。 ふと、スプーンで掬われるかき氷。 「一口食べてみるか。美味しいぞ」 え、と飛び出た疑問は予想外のその行為へのソレ。しばし考えつつ、照れたように彼女は微笑んだ。 「……では、失礼しまして」 咥内に招き入れたのは淡い青りんご。舌先で溶ける氷の冷たさに美味しい、と彼女は笑う。 伺った拓真も微笑む。 「かき氷、美味しいですね」 夏には本当にいいものです。本当に美味しい、そう笑って。 暫くはゆっくり過ごそうか。偶にはそんな一日も良いだろう。 「氷菓、ですか」 へえ、と首を傾げたのはリセリア。折角の夏だ。アイスクリームが食べたいと猛はリセリアを伴ってパティスリーに訪れていた。 「色々あるんですね」 「どれを食べるか悩むな……。食べ過ぎは良くないし」 並んだアイスクリーム。腕を組んでじっと考える。沢山あればある程、どれをとるか悩んでしまう。 迷った末にリセリアの選びとったのはチョコレートアイス。猛は抹茶アイスだ。 開いた席に腰かけて、二人一緒にいただきます、と号令をかける。 「ん、美味い……! リセリアは何を選んだんだ?」 「私はチョコアイスです。チョコ味」 彼女の選んだチョコレート。濃厚なそのアイスをじっと見つめて一口くれ、と笑いかける。 いいですよ、掬いあげたスプーンを手渡す前に一度、止まる。口を開け、食べさせてと言う風に待つ彼にリセリアは焦り動きを止める。 「ど、どうぞ……」 意を決して口元へと持っていったアイスクリーム。少し溶けかけのその味を猛は舌先で味わって、笑う。 「ん、これも美味しいな。……照れてるリセリアも可愛いぜ?」 「な、なんですかいきなり。……えと、その、ありがとう」 気恥ずかしさで紅潮する頬。目の前の相手は分かった上でやっているのだろう。嗚呼、なんて意地悪。 甘いものは食べると幸せになるのだね。 そう笑う愛おしい大切な人。彼女のおかげで苦手だった甘いものも食べれるようになったとヴィンセントは微笑む。 「食べ過ぎは後が怖いから、ほどほどに。なのだよ」 うさ子の言葉に頷く。なめらかな舌触りはふわふわ雲の様で。蕩ける甘さは幸せ味。 ほろ苦さがあるものは、きっとその幸せをもっと引き立ててくれるから。 「甘いのもいいのだけど、苦みもまたアクセントなのだね」 選んだのは少し甘さ控えめのビターテイスト。ヴィンセントはキャロットアイス。 「今は野菜を使ったスイーツが人気だそうですよ」 うさ子さんは人参好きですか? その問いに彼女は微笑む。面白そう、少し頂戴、と。 頬についたアイスクリーム。唇を寄せて、舌で掬う。頬への口付けへのお返しと、悪戯心を含んだままに。 ほろ苦いビターのアイス。けれど何処か甘いのはきっと彼女の頬から掬いとったから。 鼓動が、早まる。紅潮する頬。けれど、その悪戯は失敗。小さく笑った彼女は腰を上げる。 「人のこと、言えないのだね」 ちゅ、と鼻先に口付ける。え、と零れた言葉は予想外の彼女の行動へ向けたもの。続くのは優しい時間。 温い紅茶に口をつけて、微笑むうさ子から視線を逸らす。その視線の先、一人アイスクリームを口にしたフォーチュナに笑いかける。 「あ、月鍵さん、誘ってくれてありがとうございます」 三高平の空は如何ですか? 呼ばれたフォーチュナは微笑む。 貴方の言う通り、とても素敵な場所だったわ。 手にしたのは少し苦みを舌へと伝えるコーヒーのアイスクリーム。 騒がしいパティスリーの一角。月鍵、と声を掛けたリオンに世恋は小さく微笑んだ。 何が好みかと聞いた彼にフォーチュナは桃色の瞳を細めて言う。それでは貴方と同じものを。 「しかし、まあ、年齢を知って驚いたな」 「良く、言われるわ」 ――ね? 人を見かけで判断してはいけない。 何の話しをしようかと、手にしたアイスクリームを頬張りながらも思案する。今までの依頼の話。 其れでも彼女が苦手だと言ったお化けの話しは避けようか。楽しくて、しあわせなはなしを。 「最近はよく世話になっているからな、興味があるか分からないが」 少しでも恩返しになれば、と話す。後衛で支援する自分の話しで良いならば、と。 「いつも、ありがとう」 その言葉に瞬きを繰り返し、笑う。いえ、此方こそ。私はリベリスタのみんながいて幸せね。 舌に伝わるのは程良い苦みと、喉に残る甘さ。 粋な誘いがあるんだ、と目を輝かしたのはベルカだった。 「興味深いな……。こと酒類に関する造詣は本職はだしと言ったところか……」 用意されたのはリキュール。快の提案でアイスクリームにリキュールをかけて頂こうと言ったちょっと【大人のデザート】を楽しむ会だ。 はじめましてな人が多くて、緊張する、とスペードは手を胸元にあてて深呼吸する。 ――手にしたアイスクリームの様にカチカチの硬さもいつか溶けます様に、そう祈る。 「新田さんは相変わらず酒娯神よねぇ、準備が良いのだわ」 エナーシアが手にしたのはカルヴァドリス。アイスクリームにあうといえば林檎よね、と彼女は笑う。 「月鍵さん! こういう形で会うのは初めましてだよね。良かったら【大人のデザート】付き合ってよ」 「一緒にどうかしら? 普段あまり飲みなれてなくてもこういうのだといけるわよ」 提案者である快は通りかかったフォーチュナへ声を掛ける。 呼ぶって年齢は大丈夫、と心配した悠里だが彼女の年齢が思い当る。 「それでは皆々様、アイスとリキュールは行きわたったかしら?」 酒の席、と思えば珍しい面々が席に着いたものだと思う。大人のデザート会を始めましょう、と快へと視線を向けたエナーシアは微笑んだ。 「乾杯!」 その音頭の元、其々が好きなものを口にする。ヤガが選んだのはバニラアイスとコーヒーリキュール。 「この苦みと軽い酩酊感が……」 素晴らしいと目を閉じる。着流しを着てバニラを食べる様子と言うのは何とも言えないのかもしれない、と周囲を見回して。 偶にはしゃれた物を少しは、と笑う。 「お酒は、定番はチョコレートリキュールに紅茶リキュール」 ナッツ系ならばアマレット、ヘーゼルナッツやどんぐりも。 快の酒への知識は驚くもので流石ね、とティアリアは笑う。 ベリー系ならクレーム・ド・カシスやストロベリー、木苺。 他にはラム、ブランデー、カルヴァドス、アブサンも。 並べられるリキュールの中には珍しいものも含まれている。 「どんぐり……?」 「そう、どんぐりのリキュール」 珍しいものだと目を輝かしたベルカに快はどんぐりのリキュールを差し出す。 ベルカにとってどんぐりといえば秋の頃にコロコロと転がっていて、集めるのを楽しんだ記憶がある。 嗚呼、集めた後、置いておくと中からにょろにょろと出てきてしまう、そんなもの。 「アレを食用に供する訓練は受けた事はあるが、リキュールと成すとは……」 人類とは凄い生き物で、何でも食用にしてしまうのだ。世の中には面白いものがたくさんある。 シンプルなバニラアイスに掛けて、彼女は口を開く。広がるのはナッツの香り、そして甘さ。 「世恋さんはお酒は、大丈夫でしょうか?」 「あまり飲んだ事がないの」 大丈夫かしら、と首を傾げたフォーチュナに彼女は小さく笑う。 ――もしかしたら更にピンク色に染まってしまうのかも。 桃色の瞳で瞬きを繰り返し、彼女は笑う。まあ、如何しましょう。 スペードが手にしたのは紅茶のリキュール。口いっぱいに広がる優しい甘さ。 わ、と声を漏らし、その幸せに暫し浸ろうか。 「お酒、私も普段はあまり飲まない……というか、お酒の入手が面倒くさいのよね」 見た目では幼さを見出す事の出来るエナーシアがため息をつく。日本で作った戸籍はあまり身分証明に使いたくはない。 「世恋は可愛いわよね、それで20を越えてるなんて中々の詐欺だわ」 小さく笑ったティアリアはエナーシアといい勝負じゃなくって? と二人を見比べる。 「月鍵、良ければアイスをとってくるけれど、リクエストはあるかい?」 リキュールは使えるのか、と聞きかけて年が近い事を思い出した遥紀は咳払いをする。 そんな様子が可笑しくて、フォーチュナはティアリアと顔を見合わせて笑う。 「あ、ああ、月鍵には世話になっているからね、少しでもお返し出来ればいいのだけど」 其れと、と付け加えたのは優しい言葉。 「改めて、友達になりたいと伝えようと思って」 その言葉に幸せそうにほほ笑んだフォーチュナは言う。 素敵なお友達ができてしまって、私はしあわせね。 手にした苺は甘酸っぱく舌に溶ける。ティアリアが手にしていたバニラアイスにはカルーアが。 そこから続くのは他愛もない会話。なんてことない、優しい会話。 「やっほー、スペードちゃん、遥紀さん! 先日はお疲れ様」 ひょこりと顔を出した悠里は二人と共にこなした依頼を思い出して笑う。 緊張した表情のスペードの服の裾を握り世恋は笑う。大丈夫、とでも言う様に。 楽しい談笑もアイスクリームの冷たさには時には負ける 「う、くー」 「うわ~キーンってくるの、夏って感じだよねぇ~」 額を押さえた悠里の隣で同じく額を押さえる葬識は笑う。 「あ、こんにちは、初めましてだよね、月鍵ちゃん」 そう笑った葬識は『おねえさま』とは良く話すんだけど、と付けたす。 その言葉にフォーチュナは瞳を輝かせる。敬愛する『おねえさま』から聞き及んだ殺人鬼。 「なにかさ、フィクサードの事件を予知したら教えてね~」 「あら、怖い」 楽しく殺しに行くからさ、なんて笑った彼の手にしたヘーゼルナッツのリキュールを掛けたかき氷は静かに溶けて行く。 「今度は彼女を誘ってみようかな」 あの娘は未成年だから普通のになるだろうけれど、普通のものでもきっと楽しめるだろう。 「此れからも、こうやって遊ぼうね?」 一緒に、ね、そう笑った遥紀にフォーチュナは優しく微笑んだ。勿論、喜んで。 頬杖をついてレイチェルはため息をつく。 兄の節操無いナンパは何時もの事だと思う。 だから、もう何も言わないけれど。デートに妹同伴とはどうなのか。 「来てくれるだろうか」 「どうでしょうかね」 打ち込むメールはまっすぐで不器用な友人――その中でもまだ幼さの残る泣き虫な少女へのお誘い。 分かっている。相手が皆で来やすい様に、とか。来れないなら自身とデートにしよう、とか。 「……兄さんのそーゆートコ、ムカつきます」 エルヴィンのスネに入ったのはレイチェルの蹴り。誘われて嬉しいとは思う。 兄は優しくて強かである。だからこそ、ロクデナシなのだと、思う。 メールを打つエルヴィンの手元で溶けて行くアイスクリームをスプーンで掬って口にする。ちょっとした意地悪。 来れないとは思っている、アークに来て、この街を見て、彼らの理想が見れるならば。 返信メールにはごめんなさいの文字。彼女がアークのリベリスタではないという事は分かっている。 「また次の機会にな」 その機会がありますように、大好きなお兄ちゃんへときっと幸せそうに文字を打ったであろう優しい友人。 気をつけてね、夏奈さんとレイチェルは小さく笑う。 望む未来が何時来るかは分からないけれど、共に笑えます様にと願う。 溶けかけたアイスクリームの写真の向こう、楽しげなリベリスタの様子が、覗いていた。 ● 厨房はざわめく。甘い匂いの漂うそこではオリジナルアイスを作るリベリスタ達が談笑していた。 店内にある氷菓の数は膨大だ。いくつか味見を終えたシェリーは周りのリベリスタ達の作る氷菓に興味津々である。 パティスリーに用意されていたものは一度は目にした事のあるものばかり――と言ってもそこにもパティシエの工夫はある程度凝らされているのだが。 あちらこちらに顔を出しては製作途中のものを見る。 どんな物でも食べれるけれど、それでもやはり美味しい方がいい。 ふと、佐倉さん、とパティシエを呼ぶのは亘。 「お久しぶりです。コンテスト入賞本当におめでとうございます」 その言葉にパティシエは嬉しそうに笑った。自分の事の様に喜ぶ人がいるならば、それは本当に幸せで堪らない。 自分も、とチャレンジするのはチョコミント。アイスクリーム屋さんの様なほのかな爽やかさ、優しさ。 パティシエの作る美味しさを――できるなら、それ以上を。 「御指導お願いできますか?」 持って帰って友人らに御馳走すると笑う。喜んで、微笑んでくれるその顔を想像して。 ぱたぱたと走り込んできたイーリスは瞳を輝かせる。 「なんと! あいす! つくってみせるのです!」 勇者はお休みして、今日はアイスクリーム屋さんになろう。 作るのはもちろん『はいぱーさいきょうのあいす』に限る。 「てけてってってってって!」 三分間いーりす! そう両手を広げる。ばばーんと口でつけたすのは効果音。 選び抜いたのは自分の好きなアイスクリーム。ガキ大将系であったり、単に美味しいからだったり、種も入ったスイカスティック、色んな味のする果実アイスにバニラエッセンス。 どばっと混ぜ込んだ其れにプラスして自宅の冷蔵庫から拝借したのはラムレーズンの少し値の張るアイスクリーム。 「誰のかはしらないのです!」 だなんて宣言する様子に周囲は小さく笑う。 全てを混ぜ込んだアイスクリームは『はいぱーさいきょうのあいす』。 「妾に頂けるか」 「絶対! 自身作なのです!」 輝く瞳を向けたシェリーに差し出すが、そのお味は果たして――? 「ジェラートはどうだろう?」 「む……ジェラートか」 経営する牧場での提供する一品の考案を行う雷慈慟の隣では、新人スタッフの雷音も悩ましげ。 優しくて紳士で、自身の先輩でもある雷慈慟。 他愛もない、そんな話を真剣に聞き相槌を打ってくれる優しい友人。 ――少しでも、たすけてやれれば。それが、恩返しに為るなら。 新緑の瞳を開き、少女はパティシエへと助言を求める。此れが彼女なりの恩返し。 たまにの休日。何時もであれば過酷な任務での顔合わせが多い。 まだ年若い後輩。殺伐とした空気にその身を投じ、志高く、救いの手を差し出す。 少しでもこの休日を楽しんでもらえれば、そう思う。 「ココナッツを少し混ぜると香りづけにいいんじゃないだろうか」 「……む、その発想はなかったな」 出来あがるのは、きっと彼女達の想いとよく似た優しい味。 牧場で飼っているうさぎ――ゆきいちごの事を浮かべた雷音が優しく微笑んだ。 「いちごゼリーを目の様に二つ乗せればゆきいちごにそっくりでかわいくないかな」 嗚呼、そうしよう。今年の夏は決まりだ。 そう笑った先輩に少女は嬉しそうにほほ笑んだ。ゆきいちごも喜んでくれるかな、と。 「折角ですから旬の果実を使ったものを作ろうかと思いまして」 その言葉にリルは頷く。凛子が選んだのは桃とメロンのアイスクリーム。リルは夏みかんだ。 「美味しいの作るッスよ」 優しげに笑った凛子はたどたどしい手付きで一生懸命作るリルを手伝う。 卵、砂糖、バニラエッセンス、美味しくなります様に、そう念じて混ぜ合わす。 分からない事もあるけれど、凛子さんのため――そう思って頑張って。冷凍庫に閉じ込めて二人して笑う。 「出来あがりが楽しみですね」 「出来あがり楽しみッス。待ってる間だけ、その……抱っ……なんでもないッス」 抱っこを、と言いかけて恥ずかしくて逸らした視線。そんな愛らしい子に凛子は笑う。 出来あがりはきっと甘酸っぱくて、其れで居て、優しいお味。 「あーんしてくださいッス」 差し出したスプーン。美味しいと微笑んだリルに彼女は優しく微笑んで。 「リルさんのも美味しくできてますね」 とても美味しい、だって貴女のためだから。 お互いをイメージした氷菓を作ろう。どんな物が出来あがるかはできてからのお楽しみ。 隣で作る可愛い友人。ほんわりして、可愛らしい。何時も眠たげな瞼。 イメージするのは甘くてふわふわした、そんな優しい氷菓。 クレープの生地に乗せたのはミルクティーとプリンの二種のアイスクリーム。 皿の上にホイップクリームとビターチョコソースで羽根を描く。 「これで、どうかしら」 隣でパティシエが微笑んだ。良いと思うよ。 盛りつけは彼女の思い描くままに。彼女の浮かべる可愛い友人を皿に描いて。 「お姉さん……」 隣で笑う優しい白頭鷲の大好きな友人。 きっと、甘くて、ちょっと甘酸っぱくて、大人の風味。 イチゴミルフィーユのジェラートにラズベリーのシャーベット。 飴細工を羽の様にふわりとさせる。たどたどしくも完成したのは羽音の様にふわふわしてキレイなもの。 「お姉さん、あーん」 「甘酸っぱくて美味しいし……飴細工も、綺麗だね」 少し恥ずかしいけれど、それでも貴女の為だから。 しあわせに、笑う。食べる事すら勿体ない位、嬉しくて。 「あたしのは、どうかな……?」 「……お姉さんが作ってくれたの、羽が可愛いの」 しっとりとしたクレープ生地、しあわせのミルクティー。貰ったアイスを掬いあげ、那雪は微笑む。 二人で分け合う方が、もっとしあわせだから。 恋人となら、折角だから手作りを。 刳り抜いた夏みかん。果実粒入りのシャーベット。夏の風味を詰め込んださっぱりとした味わいのもの。 「む、固める時に皮が少しへこんでしまった」 ……問題ないかな、とユーヌは少し首を傾げてみる。 汗を垂らし、愛しい恋人が手作り氷菓を持って現れるのを竜一は一人で待つ。 愛しい人の手作りなら、どんなものでも嬉しくて。 一口分ほど分けて味の確認をしたユーヌがアイスティーを片手に現れる。 「おお、うまそう! 冷たそう! さっぱりしそう!」 尻尾があれば振っている様に思えるとはまさにこの状況。きらきらと瞳を輝かせた竜一に彼女は笑う。 いただきます、その声と共に唇に運ばれるのは彼女の手作りシャーベット。 「うーまーいーぞー!」 「口に合えば、良いんだがな?」 美味しい、しあわせだと彼は笑う。君の手作りとなれば更に美味しい。 舌先に広がる味わいは優しくて、其れでも冷たい。 「頭が痛くなっても知らないぞ?」 「更に更に……! ギャーッ!?」 きぃん、と頭に響く冷たさに彼は悶える。そんな恋人に小さく笑う。 「む、はい、ユーヌたんもあーん」 掬いあげたシャーベットを彼女の口元へと運ぶ。 もう一度、と今度はスプーンではなく自身の唇で。彼女は笑う。 唇も良いけれど、アイスが溶けてしまいそう。 重ねて、触れて。残るのは夏みかんの香り。 「ちっちゃい頃ってさ、アイス屋になりたいと思わなかったかい?」 「アイス屋さん、憧れてた……! カラフルなアイス、何段にも積み上げて……夢の職業よね……っ!」 何時だって好きな時にアイスが食べれる。そんなアイスクリーム屋さん。 フツは笑う。彼女の憧れたアイス屋さん。彼女専属のアイス屋さんだ、と。 「好きなアイスを御馳走するぜ!」 「あひる、お手伝いさんするねっ!」 アイス屋さんの貴方も格好いい。微笑みあう。 作るのは自身の好きなチョコミントと彼女の好きなクッキークリーム。 本物の『アイス屋さん』に教えてもらえるならきっと、素敵なものができるはず。 クッキークリームに沢山のチョコチップ。どこかほろ苦くて、甘くて。それは恋に似た優しい味。 「アイス屋さんって楽しいね。好きなものをいれて、世界に一つだけのアイスができちゃうッ!」 君を想って、もっと甘くておいしくて世界で一つだけのものを作ろう。 大きく掬ったフツのアイスの上にあひるのアイスをちょこりと乗せて。 お菓子で作った目と手。可愛らしい小さな雪だるま。 最初のお客様であるあひるにあーん、と掬ったチョコミント。 そのお代は、君からアイスを貰うことでいいんだ。フツの言葉に彼女は笑う。 そんなこと、何時だって何度だって。 暫し、今は甘さに酔いしれよう。こんなに晴れた暑い日々なのだから。 酒類提供:新田酒店 三高平営業所 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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