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迎え火



 はじまりは『そういう趣味』を持った女と付き合ったことだった。
 首を絞めて。
 そう言われたときは面食らったものだ。
 息苦しさが生の実感になるとか、癖になる気持ち良さがあるとか言っていた。

 だがその女も、今はもう居ない。
 もっともっとと強請られているうち、少し加減を間違えて死なせてしまった。
 その後は厄介だった。
 死亡した原因だとか、容疑者だとか。その類も面倒だったがもう一つ。
 女が死んだ頃には、俺もその『趣味』にハマっていたこと。

 過去の女の厄介事から逃れ、次の女を適当に漁った。
 経験を積んでもやはり加減は難しく、今さっき息絶えた女に息を吐く。
「はー……。いっそ元から死んでる女でも探してみるか?」
 衣服を整えのど飴を口に放り込む。
 毎度『こう』なるせいか、別の理由か。空虚感には力が抜ける。
 適当な工作を施してその場を後にし、男は夜の煌びやかな明るさに紛れていく。

 暫し歩いたところで、思いついたとばかりにポケットを探り、塗装が少し剥がれ使い込まれた風の携帯電話を耳に当てる。
「もしもし? なぁ、死んでる女ってどうしたら手に入れられるよ?」
 あんた詳しいだろ? そう言って男は屈託なく笑った。



 挨拶をそこそこに済ませると『灯心』西木 敦(nBNE000213)がこの先に起こり得る事象に口を開く。
「皆さんに行っていただきたいのは、ある墓地です」
 途端に渋い顔をした者、心なしか浮き立ったように見える者、平時と変わらない者。
 リベリスタ達の多様な反応を見て、肝試しではありませんが、合間にそう挟んで言葉は続く。
「そこでまずお願いするのは、フェーズ1のエリューション・エレメント『鬼火』と『土女』達の討伐になります」
 微かな靴音を伴い資料を手渡し、最後まで渡ったところで訝しげなリベリスタの眼差しとぶつかった。
「まずってことはどういうことだ?」
「……はい。ご説明します」

 雲のない月と星の映える夜空の下、山中の一角に広がる墓地。
 墓前のそこかしこで赤色がちらちらと輝き、中でも大きく中央に赤々と燃えたつ炎。
 中央の炎からはゆっくりとではあるが、火が周囲に広がっているように見える。
 そして墓地の砂利の下から、広がる火の中からE.エレメントらしいものが生まれ始める。
「恐らく、お盆の頃に焚かれる祖先の霊を迎え入れるための『迎え火』に似せて、この状態なのかと」
「……杜撰というかな。首謀は」
「フィクサード、ジーニアスのデュランダル。蕪木 信之(かぶらぎ しんじ)。
 お察しの通り、彼を止めることが第二目標になります」
 方法及び生死不問であることを付け加え、敦は眉を顰めながら茶髪に黒い瞳をした青年の写真を渡す。
「彼はこの中央の炎――昔の恋人の眠る墓の傍らに居ます。
 最近の彼の周りでは、交際女性の死が目立ちます。
 と言っても、捕まっていないからこの騒ぎなんですが……」

 フォーチュナは怪訝な表情を小さく吐いた息で切り替え、一度頭を下げてから顔を上げた。
「……すみません。俺には彼のこの動きの理由は分かりません。
 討伐対象のE.エレメントについて判明している確かな情報を、お渡しします」

 そう言って取り上げるのはE.エレメント達。
 『鬼火』はいわゆる火の玉に似ている。
 燃え盛る火の中心が怨嗟の籠もった人の顔でなければ、肝試しの仕掛けのようにも見える。
 到着時刻の予知の時点で確認されたのは4体。
 神秘に特化したタイプで脆いが、火から発生するために火を消さなければ数が増える懸念があるという。
 そして注意すべきは、攻撃を加えるたびに飛散し降りかかる火の粉。
 鬼火の攻撃行動も加え、火炎もしくは業炎を負う可能性が濃い、とのこと。

 『土女』の風体は闇であれば、その暗さに紛れてしまうようなもの。
 月と、墓地に広がる火に照らされるのは、黒土色の体をした女性。
 形が女性であるだけで、そこに人らしい知性は見えず、ふらふらと徘徊する。
 数は合計で5体。増えることはないが、頑丈で自己再生能力も窺えるという。
 一人、狙いを定めれば徹底的にその人を狙う性質もあるらしい。

 肝試し云々とはまた別の意味で渋い顔をしたリベリスタに対し、申し訳なさそうに敦が眉をさげる。
 自分で久方に見た予知に、これ以上の事は見当たらなかった。
 あとは、彼らに託すしかない。
「お墓の損傷は……やはり控えられればそれに越したことはありません。
 ですが、あまりそれに気取られても危険ですから、気にするにも程々に」
 お盆にさしかかる時期だ。
 この時期に限らずではあるが、墓碑の大規模な倒壊は大事になり得る。
 現状から被害が広がらないことは望ましい。
 しかし、事態は差し迫り猶予はない。
 だが、任を託す彼らにこれ以上の危険が増すのは避けたい。
「どうぞ、お気をつけて」
 敦は僅かに迷い残る笑みを向け、深くリベリスタに頭を下げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:彦葉 庵  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月06日(月)23:49
●任務
壱、『鬼火』『土女』の討伐
弐、フィクサード『蕪木 信之』の制止・制圧(生死不問)
 ※壱が達成されれば、弐の達成は強制されません。

●舞台
 晴れた夜の墓地。寺社からも離れた場所で、人気はありません。
 到着時点で、墓地の中央から火が広まりつつあります。
 お墓が所狭しと並び、お墓とお墓、通路共に極めて狭い。
 また、足元には砂利が敷き詰められています。
 四隅に水道があり、バケツとひしゃくが2つずつ置いてあります。

●敵
・鬼火 E.エレメント、フェーズ1
 火から発生。火を放置で1ターンごとに1体増えます。
 初期で4体、最大10体まで増加。火炎・精神無効。

 火群:攻撃を加えた際、火炎・業炎が付与される可能性あり。
 火球:神/近/単/ノックB/業炎。燃え上り一直線に突進します。
 火遁:神/遠/全/業炎。足元から火の柱が吹きあがります。

・土女 E.エレメント、フェーズ1
 土から発生。数は全5体。
 墓地内でランダムに出没し、墓地を徘徊、襲いかかります。
 電撃・精神無効。崩しは受けやすい。

 土塊:P。一定値のリジェレネート。
 土喰:物/近/単/ショック/呪い。襲いかかり噛みつきます。
 土壕:A/自付与。一定ダメージで発動。物/神防御アップ。

・蕪木 信之(かぶらぎ しんじ)
 ジーニアス×デュランダル。
 虚無感を埋める為に殺人をも厭わない青年。でも自分の命は大事。
 また、土女は彼の趣味には合わない様子で、さっさと帰るつもりです。
 お喋りなので言葉を交わせば冒頭の情報はすらすら出てきます。


 夏の夜に墓地で戦いましょう。
 前作に続きまたしてもお久しぶりになってしまいました。彦葉です。

 猶予なしということで、短期間の相談期間となり、申し訳ありません。
 白紙防止に心情や一言でも、仮止めのプレイング送信をお奨めします。

 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしています。
 どうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
クロスイージス
ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)
インヤンマスター
渡・アプリコット・鈴(BNE002310)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
マグメイガス
田中 良子(BNE003555)
レイザータクト
アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)
レイザータクト
伊吹 マコト(BNE003900)


「人気のない夜の墓地に向かわせるとかどういうことなの……」
 ぼそり。思わず零したのは『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)。
 少女の手がしっかり握る懐中電灯が照らしだすのも、あつらえたかのような人気のない山道だ。
「なになに? リョーコちゃん、怖い?」
「べ、別に怖くはないのだぞ? ただちょっと武者震いしてしまうというかなんというか……!」
 ひょいと人懐っこい笑みを浮かべて『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が顔を覗かせた。
 その動作にもびくりと肩が跳ねる。手を腰に胸を張ってごまかしにかかるが、見逃してはもらえない。
 夏栖斗の反対側に、華やかな花嫁水着の白いレースがひらりと舞う。
「田中ちゃん、怖がることないっちゃよ」
「わ、我はフレイヤ様だからな! 田中は夜を忍ぶ仮の姿だからな!」
 にんまりと悪戯っこのような笑みを浮かべる『十徳彼女』渡・アプリコット・鈴(BNE002310)の横で、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が口元に手を添えて笑みを隠す。
 墓地へフィクサード、エリューションを相手にしにいくというのに、和やかな空気で緊張がほぐれる。
 その中心でフレイヤ――良子は田中呼びに泣きそうになっていたりするのだが。

 そこへ不意にぽつ、ぽつと呟くような声が響く。
「しかし、墓参り目的以外で墓地に来るのは初めてだね。……余り気にしなくて良いよ、幽霊なんかより生きた人間の方がよほど怖いしね」
 その声は確かに会話をしている調子で、静かだ。
「全く自分が幽霊みたいな物なのにどの口が……。……あぁ、分かった分かった。悪かったよ」
 声の主である『持たざる者』伊吹 マコト(BNE003900)の眠たげな眼差しと、柔らかな声が向けられる先は中空。
 そこに人影はない。
 良子が慌てた様子で周りを見渡してもいないものはいない。
 つまるところ、ブレイン・イン・ラヴァーズである。
「フレイヤちゃん、大丈夫だよ! フレイヤちゃんなら大丈夫!」
「う、うむ! 黄昏の魔女が幽霊を怖がるはずがないのだからな!」
 すっかり涙目の良子を『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)がなだめる。
 壱也自身もホラーは苦手なのだが今は秘密にして、少女にかける言葉で自分をも奮い立たせていた。
「怖がられてしまったようだよ」と、マコトは変わらず恋人に語りかけている。
 その一連を眺め、助け舟ではないが……そう頭の隅で考えながら、先頭を歩いていた青年が口を開いた。
「賑ってるところ悪いが、到着だ」
 銀髪の彼、『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)の言葉に、リベリスタ達の空気が変わる。

 山道を抜けた先、焦げた臭いがリベリスタ達の鼻をついた。
 天には紺碧の夜空がある。金銀に輝く月と星もある――日常と言える夜の姿。
 そしてリベリスタ達の目の前に広がる夜は、神秘に暮れた非日常。
 本来、人が生を終え安らかに眠る墓地には、ちらちらと赤い鱗片が舞い上がる。

 静かだが確かに炎と異形の息衝く気配。
 あるいはその明るさと熱に対し、サングラスの奥でゆるりと緋色の瞳が眇められた。
「鬼火の発生源というだけ……ではないですね」
 アルビノの青年――アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)にとって太陽光も酷だが、この戦地の無粋な炎にも早々にご退場願いたい。
「じゃ、打ち合わせの通りに行くぞ」
「おう!」
「オッケー!」
 ぱんっ!
 ゲルトの声、続く夏栖斗の小気味良い拳の音と共に応じ、ぐっと両脇で拳を握りしめて見せる壱也。
 それぞれが思いを胸に墓地に足を踏み入れ、そこでふと、マコトが振り返り目を細めた。
 どこからともなく響いた声――姿なき恋人の声にマコトは肩越しに手を振る。
「行ってくるよ」



 リベリスタがまず選んだのは『消火』だ。
 墓地に広まりつつある火は鬼火を生み出す。その元を最小限に抑え、断つ。
 なす為に必要な役割はそれぞれに割り振られている。

「私はあっちの水道にまわるわ」
「あ、サポートいる?」
 一帯を見回したミュゼーヌが四隅の一角を示す。彼女が指したのはリベリスタが四隅を順に巡れば最後になる一角だ。
 炎に焦げた花が、鋼鉄の足元で熱風に揺れる。
 消火活動を行う面々の道を切り拓く夏栖斗と壱也の目が問い、ミュゼーヌが婉然と微笑み返す。
「平気よ、そっちはお願いね」
「お気をつけて」
 オフェンサードクトリン、ディフェンサードクトリンをもってして場の全員に力を付与しながらアルフォンソは駆けだしたミュゼーヌの背に声を投げた。
 効率よく消火に当たるためにと用意されたホースはアルフォンソ、マコト、鈴の持つ三本。
 広い墓地に散ることになるが、四隅の水道すべて使った方が消火は早い。
 一番目の水道にはマコトがホースを取り付け、洗濯バサミでホースの根元を止めたところ。
「これで良し。……始めようかな」
 限界まで一気に蛇口を捻れば勢いで波打つホースを引きずり、外回りから火を消していく。
「……ああ、火の細かい方からも出てくるんだね」
 中央から目を走らせれば、離れた地点の炎から散った火の粉が爆ぜるようにして鬼火に変化したものだから、口をついて言葉が出た。
 となれば、外側から消していくという判断は正しそうだ。
 マコトは携えたレールガンαを一瞥して在処を確かめると、ホースの先端を持ち上げて水を空高くに振り撒いた。

「ナイス御厨くん!」
 墓場に明るい声が響く。
 壱也と夏栖斗がそれぞれが鬼火をブロックし、良子の魔力のミサイルが降り注ぎ道を作り出す。
 その道を擦り抜け、二番目の水道へ鈴がホースを繋ぎ消火に取り掛かった。
 ひゅ、と氷の飛礫を纏った√666――彼愛用のトンファーが鬼火の核を捉え、瞬く間に火は氷に姿を変える。
「ちびくらっしゃー、粉砕頼んだっ」
「ちびじゃない!!」
 ぷくりと壱也が頬を膨らませたのは一瞬のこと。
「けど任せて! 粉々にしてあげる!」
 次の瞬間、まっすぐに鬼火を見据え、迷いなくはしばぶれーどを振り抜いた。
 シルクの赤いリボンが翻り、籠められた威力に氷漬けの鬼火が砕け散る。
「ナイスちびくらっしゃー!」
「ちびじゃないってば!」
 そのやりとりの間に鬼火の発生源は消え、鈴とアイコンタクトを取って次へ足を向ける。
 業炎を寄せ付けない夏栖斗の技能と壱也の自己治癒力。
「よっし、次! リョーコちゃん頼んだ!」
「ふふん。任せよ!」
 光彩豊かな魔陣を展開し魔力をさらに増幅させ、神秘を操る黄昏の魔女。
 役割と息の揃った攻勢に、戦いの舞台はリベリスタに傾いていく。
(今はエリューションどもをボコボコにすることだけ考えておれば良いのだ!)
 意識を澄ました刹那、悪寒を感じた。
 咄嗟に振り向き、反射的に翳した腕の隙間から見える土色の女。
 すぐ背後に今し方、発生したばかりらしい。濃く湿った土の臭いが流れ込んでくる。
 避けるのは叶わない。息を詰めると、視界が暗くなった。
 視界を遮った主は良子と土女の間に割って入り、食いちぎられんばかりの痛みを引き受ける。
「田な……もとい、フレイヤさん(仮)、大丈夫ですか?」
(仮!?)
 恐怖に感謝にと、ない交ぜになる感情に見開いた赤い瞳。
 それを見返したアルビノの彼が横薙ぎに土女の歯を振り払う。
 攻撃手と癒し手を兼ねる少女の無事を確保した次は、
「御厨さん」
 そして声を投げるのは、すでに動き始めていた年下の青年。
「ごめんなさいよっと」
 墓石の下で眠る主に小さく謝罪をして、墓石を足掛かりに身を宙に身を浮かせ、唇が弧を描く。
 ひんやりとした石を支えに、重力も味方にそのまま踵落としの要領で土の体を裂いた。
「……!」
 それを見届けて、壱也がほうっと息を吐いた。だが安堵の間は長くない。
 鼓膜を震わせるのは砂利がぶつかり、すれ合う微かな音。
 目を向ければ、足元から這い出す土女が残り火に不気味に照らし出される。
 心中で感じた嫌な予感は裏切ってはくれなかった。
 彼女は声にならない声を上げて、二体目の土女を渾身の力で吹き飛ばした。

 墓地の一角。
 進路上が燃え広がるより先に抜けたミュゼーヌは、バケツを使い消火にあたる。
「貴方はこの世に在らざる者よ、鎮まりなさい」
 最中ににじり寄ってきた土女は、鋼鉄の足という鉄槌で胸に穿たれた風穴から崩れ土に還った。
 ときに墓石の上を失礼して、熱感知で察した火へ余さず水を撒き、順に消していく。
 見渡せば彼女を含め四方から消火が始まり、火柱も漂う炎も減っている。
「あとは、あの碌でもない男ね」
 水の重みが消えたバケツを提げ、溜息まじりに髪をかきあげた。
 熱源を検めるよう見渡せばその先で、二人の男が刃を交えるのが見える。
 そして、そのもっと先。遠く対角線上、花嫁のヴェールをかぶった女性と目があったような気がした。
 ――触れれば切れそうな昏さを覗かせた緑の瞳と。

「お前が起こした面倒を俺達が始末してるんだ。代わりに少々付き合ってもらうぞ」
「……何だよ、リベリスタさん? 俺もう帰るとこなんだけど」
 消火を任せエリューションを振り切り、ゲルトは目標のフィクサード――蕪木信之に声を掛ける。
 悪びれた様子のない言動にゲルトの眉が顰められた。
 ゲルトとて彼を理解できるとも思っていなければ、する気もなかったが……身勝手が過ぎる。
「生憎だが、逃がす気はない」
 蕪木は傍らで赤々と輝く炎にも、エリューションにも怖じない。
 だが斬りかかってくる様子もない。腕を組み、顎をさすり、まるで話題を探すような軽さだ。
 ならばと、遅かれ早かれ触れる話題を口にする。
「この邪法、お前に教えたのは誰だ」
「邪法? 邪法って」
 彼は意表を突かれたと言わんばかりに目を丸め、邪法の指すものに合点がいくと安堵に笑い。
 ――次の瞬間、乱暴にナイフが噛み合う。
 直線に突き出された蕪木のナイフを、ゲルトのナイフの刃が止めた。
 物理的な力に限れば相手が優位にある、だが守り戦う術ならば己に軍配が上がるだろう。
 驕り、謙遜を排除し力量を推し測り、攻撃を捌く。
(『情報源』としてなら、命は取られないと考えたか……?)
 安直だと吐きたくなる息を飲み込んで、隙を探る青年を青く鋭い双眼で睨みつける。
 すると金属の軋む音に好奇の声が混ざり込んだ。
「ただのオカルト狂いだろ」



 消火を終えれば『エリューション殲滅』、次いで『フィクサード捕縛』がブリーフィングルームで打ち合わされた順序。
「ごきげん麗しゅう。おしゃべりしようよ」
「わたしも色々お話したいから、ちょっと待ってくれるとうれしいなぁ」
 消火と殲滅が進み、エリューションとの戦いの合間に掛けられた言葉に窮鼠となった青年からは返す言葉もない。

 ――残る殲滅対象は土女が1、鬼火が2。
「鎮まりなさい」
 ミュゼーヌから掃射の弾丸が放たれ、アルフォンソの操る真空の刃が土女の腕を土塊に変えた。
 レールガンαの魔弾が唸りを上げ鬼火を貫き、散る寸前、鬼火が膨れ上がる。
「来る!」
 声とほぼ同時、場の生者を余さず二重の火柱が包み込んだ。
「くっ……黄昏の魔女様のONSTAGEだ。貴様ら全員我の歌声で骨抜きにしてやろう!」
 急ぎ頬の煤を拭った少女の澄んだ声が、癒しの力となって仲間たちの傷を塞いでいく。
 その最中、ゲルトの目が、末期の炎を浴びたマコトと鈴の姿に向いた。
 彼の破邪の光が彼女らの身を焼く炎を打ち払う。そして、すぐさま向き直ったゲルトの腕をナイフが抉り、振るわれた力に体が強引に弾かれた。
「っ!」
 リベリスタ達は最後の一撃に手が割かれている。
 この数、この実力のリベリスタを相手に、逃げ出す最後の幸運。
 蕪木が転がるように踵を返すその姿を捉えた途端、一人の女が駆けだす。
 逃がさないと彼女は立ち塞がり、薔薇色の唇で口遊む。
「ねぇ信之、遊ぼうよ」


 女って面倒なもの。男がさらに面倒なだけで。
 男というのは勝手なもので、女の意志を選択する。
 同じように首を締められて、判るんよね。――この男は、女にそれを望ませる。

 逃走に急いた敵の前、無防備に身を晒すのはあまりに危険過ぎる。
 したたかに背を石に叩きつけ、首を絞める男を霞む視界に入れて、鈴は思考する。
「はっ、ぁ……」
 途切れそうになった瞬間、流れ込む空気に意識が浮上した。
 加減の下手な男の腕を払った運命が、粛々と彼女の生命を繋ぎ止めていた。
「……それで交際女性の死が目立つ、か。穏やかな理由じゃ無いっすね」
「別に、殺しが目的じゃあねぇけどな」
 マコトの後に聞くと、蕪木の声は明らかに固く、呼吸が浅い。
「投降するなら命まで奪うつもりはねぇよ。逃げれないのは分かるはずだ」
 吐き捨てるような夏栖斗の声に一瞬、体の強張りを感じた。
 首から掌が浮いて、代わりに腕が回る。そして一歩、後ずさる。
 まるで人質を取り、取られた膠着状態の中、リベリスタ達の意識は明瞭に研ぎ澄まされる。
 アルフォンソは静寂を保ちながら、背に隠したグリモアールで二種のドクトリンを行き渡らせた。
 逃げ場のない男の胸で、鈴は胸元の傷へ指先を這わせ、そっと息を吐く。
 女の中にあるそれを、この男は覗いて、暴いて、味わってしまうのだろう。
(それは女のエゴでもあるし、男女の交わりの性でもあるっちゃけど)
 鈴の掌から血塗れの花嫁を冠するウェディングブーケが消えた。
「でもね。許せないものは許せんとよ」
 その声は蕪木に聞こえただろうか。
 黒い呪いを宿した蛇腹剣が頸に巻きつき、刈り取ろうとその身を引き絞る。
 強く睨み付けた彼女を突き飛ばした瞬間――勝負は決したに等しい。

「父なる主はお前の罪を見逃しはしない。贖罪の時だ!」
 片腕で鈴の体が倒れ込むのを留めた彼の刃が白銀に煌めき、一閃して邪を裂く。
 伴うショックに硬直した体が、弾丸の力を受け後方に揺らぎ、落ちる。
「禍根を断つ為、今ここで始末しても良いのだけど……」
 先の弾丸で死なせていても構いはしなかったけれど、ミュゼーヌは嫌悪の眼差しで蕪木を見下した。
 ゲルトと夏栖斗に両腕を捻りあげられ地に伏した彼の為に手を汚す甲斐はないだろう。
 砂利を踏みしめ、リベリスタは距離を詰める。良子はきゅっと唇を結んで、俯き加減に蕪木を見た。
「逃げ回ってもいいことないよ。それに、人の命を奪ってしまったなら、償いはしなきゃいけない」
 ぽつりと口を開いたのは壱也。自分も万人受けしない趣味はあるが、彼の趣味は理解はできない。
 だが彼と彼女の間には、人の命を境に深い線が引かれている。
「降参、してほしいな」
 その声と、奥から刺さる眼差しに、声も出せず蕪木が笑った。



「ああ、上着の胸ポケットだよ」
 リーディングを介したマコトの声にならい夏栖斗が携帯を取り出す。
 その夏栖斗の渋面に、アルフォンソの声がかかった。
「期待した情報はなさそうですか」
「調べに回したら分かるのかもしれないけど」
 発着信履歴は一件だけ。メール、アドレス帳は溢れる数であることを鑑みれば、削除された気配がある。
 調査に回そうとそれを回収される間、ちらりとマコトはリーディングを試す。分かったのは、彼が拷問を受けるのかと危惧している……ということだけだった。

 一応の命の保証を受け、動作と思考を放棄したフィクサードをじぃっと見るのはフレイヤこと、良子。
 幼い魔女は、彼に問うた。
 なぜこんな事をしたのか。愛を以て首を、絞めていたのか。
 問うた途端に吹き出されたのも、彼の趣味そのものも、少女には理解できない。
 だが、彼は後者の問いに答えた。愛だと、確かに頷いた。

「慈悲深い魔女の手を払うとはな」
 逸脱し、愛し合えない男を憐れみ、撫でてやろうとした手は軽く払われた。
 その手からゆっくりと視線が泳ぐ。愛だと返された答えに、言葉が見つからなかった。
「……愛とは一体なんなのだ」
 我も恋をすれば分かる様になるのだろうか。
 首に残る絞首の痕を撫でる者、恋をしかけがえのない人がいる者――そして愛を以てその命を奪う者。
 そっとその姿を窺い見て、いつか分かるかもしれない期待と不安に、彼女は赤い双眸を閉じた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 迎え火、お待たせいたしました。
 消火から入り鬼火は群れと言う数にはならず、墓地への被害も戦闘の痕は残りますが気遣っていただいた分、軽くなっています。

 蕪木ですが、思わぬアプローチもいただきました。
 いつの日か良い出逢いと、恋と愛がありますように。

 現在、彼はアークに連れられています。彼の持つ情報は明らかになるでしょう。
 それでは改めまして、ご参加ありがとうございました!