● 箱ティッシュがあった。 周りには誰も居なかった。 此処は貴方の部屋ではない。片付ける必要も無い。 ――やってはいけないって言われたら、やりたくなるものじゃないでしょうか。 ● 「あー、……ええと。あんたらにとっても重要で重大な任務をお願いする」 『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は、比較的常識人である。 そんな彼女がこうやって、ハイライトの消えかけた瞳で語る案件は多くの場合、ろくでもない。 「現場。アーク内の会議室。まぁ、普段使ってないところ。因みに椅子とか机とかその他諸々は撤去済み。 で、敵。エリューション・ゴーレム。フェーズ1。既に被害者が出ている。アーク職員なんだけど、ついさっき、欝だ死のう……って言いながら帰った。 鉄壁の防御を持ってる。あんたらが全力で攻撃しても、ちょっと凹むくらいらしいわ。 ……ねー、怖いわよねー。ただ、こいつ弱点があるの。其処を突けば、勝てる筈。だから、れきせんのゆーしゃ、あんたらにお願いする」 話だけ聞いていれば、深刻そうだ。しかし、時折混ざる酷く適当な台詞が、それを端からぶち壊しているような。 「まぁ、話は大体以上。……あー、弱点? 行けば分かると思うけどなぁ……でも、心の準備は必要かしら。 その部屋には、箱ティッシュが8個ある。全部で12個だったけど、内4個は処分済み。それが、エリューション。 ……見た目に寄らず、ものすごい大量に中身が入ってる。しかも、1枚ずつしか引き出せない。中身が全部無くなると、エリューションは死ぬ。 しかも、これ、延々と続けると……まぁ、欝だ死のう……って気持ちに、なるのよ。マジで。本当に心の底から」 因みに、あたしも一個片付けたからね。そう言うフォーチュナの瞳は相変わらず、空ろである。 嗚呼やっぱりろくでもなかった。そう、踵を返そうとするリベリスタの肩を、フォーチュナは問答無用で捕まえる。 「ほら、大丈夫よ。あんたらなら出来るでしょ? ね? 報告待ってるから、どーぞ、後宜しく」 長い爪が、現場となる部屋の位置を指し示した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月31日(火)00:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 扉を開ければ、綺麗に片付いた床。 その中心で、ソレは厳かに、鎮座していた。程好く掛けられた空調の涼やかな風が、純白の薄布をひらひらと、揺らしている。 それを、じっと見詰めて。『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は既に光を失いかけた瞳を何度か、瞬かせた。 憂鬱無効なんてスキルは無いのだろうか。嗚呼無いか。そうかなら仕方ない。やるしかない。 空ろな瞳が、今度は仲間へと向けられる。 「いえー! ぷち☆でびるあいしゃのだぶぴなの!」 明らかに落ち込んだ空気をよまn……振り切る程の明るい声で。『Halcyon』日下部・あいしゃ(BNE003958)はポーズを決めて見せる。 纏わり付く相手は、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)。 死んだ目で自分達を見送ろうとしたフォーチュナが、されるがままなのに付け入ろうとした作戦は、「いやいやいややらないから! これ以上心の傷を(ry」と言うご本人の拒否で失敗している。 ――が。それを見ていたぷち☆でびるあいしゃが、代わりと言わんばかりにやっているのだ。所謂、ダブルピースを。 その横では、両手いっぱいの袋に食料(コンビニ産)を詰め込んだ『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が淡々と室内に入り、適当に腰を下ろす。 欝になるなど、自分に限ってそんな事は有り得ない。断じて無い。もし、百歩譲って欝になる事があったと仮定するなら、水着で広場100周してやったって構わない。 何処と無く彼女の未来を予知させる様な気がしなくも無いがこの際その事実は端にやっておく。 自分にとって食事とは最高の喜びのひとつ。ならば、その至上の喜びとあの風にそよぐ白い紙の魔力を相殺すれば良い。優雅に、余裕たっぷり。初めて食すコンビニ食に舌鼓を打つ。 うん、これは500点。及第点だ。点数の分だけ器用に足の指でティッシュを引き抜きながら、シェリーは笑う。この分なら、余裕で無くなるだろう。その余裕が崩されるなんて欠片も予想せずに。 とまぁ何時もの私は此処までだ。もう何て言うか私の心のフェイトは0だ。 そう、丁度、 「ひとつ! ふたつ! みっつ!」 そこで一心不乱に剣を振ってる義衛郎の様に。って言うか何してるんですか。この程度じゃ箱ティッシュは痛痒も感じないのは解ってる。解ってるけど、こうして無理矢理気持ちを盛り上げないと心が折れる。by義衛郎らしいですけどそれテンション上がるんですか。そもそも貴方そういうキャラなんですか。 そんな声を背景に、思い付く限りティッシュ箱をぼこぼこにしてみた『黒い方』霧里 くろは(BNE003668)は漸く、黙々とティッシュを引き抜き始めていた。 ティッシュ箱エリューション。こんなものでさえエリューションになるのか。まぁ、これより酷い物など星の数ほどあるのかもしれないが。 黙々。考えながらも引き抜く。あ、憂鬱になってきた。思うのは姉の事。どうしてあんなに馬鹿なのか。育て方か。家の影響か。それとも類は友を呼ぶ……いやいやそれだと自分も含まれてしまう。 「今更叩いて治れば労はないのでしょうが……」 ぶつぶつぶつぶつ。只管呟く。嗚呼、明らかに欝である。 窓辺。なんだか凄い呟きとか、凄まじい勢いで剣を振る声とか。そんな世界と隔絶した其処。 零れ落ちる金髪は緩やかに波打ち、外を眺める青い瞳は何処か物憂げ。 まるで絵画の一ページ。けれどその『Knight of Dawn』ブリジット・プレオベール(BNE003434)の手には勿論ティッシュです。ティッシュ出してます。白いのがふわふわ。 でもそれも見ようによっては何とか、こう、天使の羽というか。淡雪というか。見えないことも無いのだが。 当の本人の唇から紡がれる言葉が、全てをぶち壊していた。 「ああ、憂鬱ですわ……皆様、強敵と戦ったり充実した生活を送っていると言うのに、わたくしと来たらこんなところでティッシュ出しだなんて。普段ならなにかしらの感情一つでも沸いてくる所ですが……今日はそんな気分じゃありませんわね。怒るのも面倒ですわ」 ぽいぽい。ティッシュ出す。手の動きは止まらない。言葉の勢いも止まらない。 「思えば、騎士としてアークに来たのはいいものの、あまり騎士らしいことも出来てませんし、里帰りする暇もほとんどありませんし。ここの生活がつまらないわけではないんですのよ? 食事は美味しいですし、皆様よくしてくださいますし。ただ、なにかが足りないというか。なんでしょう、オルクス・パラストにいた頃は、待遇は酷かったものの覇気があったような。そう、アークではまるで飼い殺しにあっているような、そんな気がしてならないのですわ。……きっと、アークの組織が優しすぎるのかもしれませんわね。わたくし気付きましたわ。本当にわたくしに必要なのは、騎士としての能力はもちろん、自分に厳しくできる精神だったんですわね。そうと決まればいざ行動、ですわ。まずはこのティッシュで鍛錬と参りましょう」 決意を固めたブリジットの心が折れるのは、このほんの数分後である。因みに、折れる→戻る→決意に燃える、これで4週目です。 ● 「現代社会ではパソコンを使えないとダメだよね……」 既にハイライト消えてます。空ろな瞳が、虚空を見詰めて微笑む。脳内恋人。リベリスタの持ちうる特技によって言葉を返してくれる誰かに、『持たざる者』伊吹 マコト(BNE003900)は話しかける。 誰にでも出来る仕事。それをやっている事でただでさえ心が折れそうだった彼は、ティッシュを引き出し続ける作業に完璧に心が折れていた。 そして。彼の鬱々とした気持ちは次第に、社会へ、そして自分の上司への愚痴へと変わっていく。 ロクに仕事出来ないのに年功序列で大きい顔してる上司、会社の癌。ぶつぶつ、呟く言葉。でもそんな事言わないで。一生懸命なの。おじさまだって一生懸命なの。 彼の言葉は止まらない。確かに、上司が居なくては出来ない事も有る。けれど。ひとつ物申したい。 「アンタの出来る事は時間を掛ければこっちに出来るようになるけど、こっちに出来る事は時間を掛けてもアンタには出来ないんだよ……あぁ、そうだ、今すぐに言ってやろう」 空ろな目が笑う。嗚呼この人やばいです。取り返しの付かないアレです。その手が、端末を取り出して操作を始めた、その時。 ぴくり、その手が止まる。声を張り上げたのは多分きっと心の恋人。ぶんぶんと首を振る姿が見える気がしなくも無い。 「はっ……ありがとう、今まで培ってきた「真面目な伊吹君」のイメージが壊れる所だったよ……」 全くです。こんな事で窓際転職とか笑えないです。 「あいしゃファインティーング!」 ティッシュ抜きまくり。簡単なお仕事な上にセルフ欝とか、言ってられない! ぷち☆でびるあいしゃ、がんばってます。殴りも蹴りもしないお仕事、人類皆しあわせだもの。お花畑見えてるけど。辛いけど。孫の手振ってるおじいちゃんとか見えるけど。 あれ、何で孫の手なの? ああ大丈夫こんな事考える余裕あるもの大丈夫頑張れる大丈夫大丈夫……あ、駄目かも。お母さんに殺されかけたアレとか見えてきた、し。 「Oh……ママ……」 あいしゃ、涙が出ちゃう。だって、女の子だもん>< 慌てて首を振る。危ない危ない。正気を失うところだった。気を取り直して、ティッシュをきっと睨み付ける。 「心に潜むプチ☆デビルはへこたれないの。あいしゃは悪魔なの、頑張るの」 もう合言葉のようです。只管呟くその瞳からもやっぱり、ハイライト消えてる気がします。 その横では、どんなぺースで食事をしたのか。既に袋全てを空にしたシェリーが、ついに空ろな表情へ変わっていた。その口にはティッシュ。もぐもぐ。貴方ヤギだったんですか。 最近欝になった事、全裸ブリッジ。思わず漏れる溜息。欝と言うか私だったら切腹ものです本当に有難う御座います。 ぎりぎりと。握ったティッシュに爪が立つ。ラケシア・プリムローズ(BNE003965)は、怒りに震えていた。 華やかなデビューをしたかった。新米だから仕方ないのかも知れないけれど、でも。何事も無くお仕事完了しそうじゃないか。ドラマティックなあれとかそれとか、欲しいと思うのはやはり駆け出し故の幻想なのだろうか。 全く。そんな理不尽な怒りの先はフォーチュナ。正直フォーチュナ的にもとばっちりである。色んな意味で。 「望むような戦場に立てないのであれば、あちらと変わらないじゃない」 もういっそ日本を出てしまおうか。そんな事を考えれば、思い出すのは故郷に残る父と母。嗚呼懐かしき故郷。けれどそうならないのが彼女である。 沸々と。父親を思い出すだけで怒りが燃えてくる。 「小さい頃は力を得たら共に戦おうと言っていたのに、いざ運命の加護を得たら今度は女だから戦場に立つ事は許さないだなんて前時代的だわ。アークなんて女性の方が前線に立っている方が多いくらいじゃない。結局の私を認めて下さっていないという事よね」 始めは小さく。しかし後半はどんどん声のトーンが上がっていく。同時に怒りのボルテージも急上昇☆ ふるふる、肩が震える。泣いているのか、未だ辛うじて正気を保っていた義衛郎が声をかける前に。 「お父様の……お父様の……お父様の馬鹿ーーーーーッ!!」 力いっぱい絶叫。嗚呼これが強気なお嬢様のキャラ崩壊と言う奴なのでしょうか。猛然と、引き抜かれたティッシュが宙を舞う。 そんな彼女は、事後に社会的戦闘不能の為に己のフェイトを削りたがるのだが、それはまた別の話である。 それにしてもなんでそんなみんなしてフェイト削りたがるんでしょうか。前のめりに生き急ぎすぎじゃないですかこわい。豊富なフェイトに物言わせるアークのリベリスタこわい。因みに、社会的な戦闘不能はキャンセルできません強く生きましょう。 ● 「すみません、ちょっと喉乾いたんで買い出し行ってくるっすねー」 全員グロッキー。これなら、いける……! そんな感じで、脱出を試みたのはマコト。 策は悪くない。けれど何故口に出したのか。それは当然この後彼も痛感する羽目になるのだが…… 「漫画もよろしくのぅ~♪」 「ソーダ味のアイスも頼みます」 「わーい、あいしゃ、待ってるの! あ、オレンジジュースでなの」 立て続けに告げられる注文。冷や汗が流れる。まぁ宣言すれば当然ですよね。半ば涙目で出て行くマコトの背を見送りながら、瑠琵は呼び出した影人が哀愁漂わせ只管にティッシュを抜く様を眺めていた。 ふわりふわり、ティッシュが散っていく。暇だから来た、飄々とそう宣言する彼女だが、その瞳の色は何処までも真剣だ。 思うのは、同じ一族の蒼い彼女。彼女の想いを知っているからこそ、その胸中は複雑だった。 外見や振舞いに反して、瑠琵の思考は深い。否、達観しているからこその振舞いなのかもしれないが、それは本人のみが知るところだ。 人と、自分たち。外見こそ同じだが、その身の内に流れる時が余りに違いすぎる、それ。 1世紀も生きられぬ相手に懸想すれば、招く結末など見えている。少し前まで崩界を防ぐ事ばかり考えていた彼女の変化が幸か不幸かは、わからないが。 「……寿命を向かえて哀しむのは自業自得じゃが」 死に別れが原因で道を踏み外す者が多いのは、事実。死者蘇生を願うならそれは総じてフィクサードだ。 彼女に限って、そんな事は無いだろうが。思いながらも思わず、溜息が漏れる。ふわふわ、引き抜かれるティッシュを眺めながら。 啜った茶を置いて、瑠琵は更に思い悩む様に視線を落とした。 嗚呼欝だ。欝だ。義衛郎の心が折れる。欝になる理由? この間、好きな人に振られたから。悪いか。 ひらり、ひらり、ティッシュを抜く。なんだかなあ。好きだ、って言ったりはしなかったけど。いや、言わなかったから振られたんだろうけど。 「……鬱だ。失恋が理由とかアレだけど鬱だ……」 元気出せよ、飲みにいこうぜ。そんな声をかけたくなってしまう。 半分は消費しただろうか。此方も完全に空ろになった瞳でティッシュを抜き続けているあいしゃが、周囲の光景を眺めて笑う。 「わーい☆ なんだか、白くって雪景色☆ ……欝だ」 本音が重いです。けれど、あいしゃは負けない。だってこあくまだし。負けない。 これが終ったら、やりきったんだぜってどや顔するんだ……って台詞がもうフラグにしか見えない。辛い。そもそも何の目的があったのこの敵。花粉症の季節に来たかったの? そんな疑問とか出てきちゃう。聞かれたエリューションも大層困っている事だろう。 「切ないの……、使ってもらえないなんて……哀しいの、いいの、あいしゃが抜き取ってあげるの」 もう、本当に学校とかから帰りたい気持ちになってるけど。絶対勝つ。はんっって鼻で笑ってやる。 完全にハイライトを失ったあいしゃがティッシュを抜き終えるのは、この2時間後である。 ● この後、水着でシェリーが広場を駆け回ったり、酒を求める義衛郎が空ろな瞳で帰宅したり等々色々あったがその辺りは割愛する。大人の事情で。 何とか、己のティッシュを処理し終えたリベリスタ達がどんどん退室していく中。 黙々と、ティッシュを抜き続けるマコト。買出し分の遅れは非常に大きかったようです。 黙って帰れば良い? 否。それが出来ないのが日本人。そして、ゆとりエリート。 ゆとりエリートは、Noと言えない日本人なのだ。 その日、アークの一室は明け方近くまで明かりが消えなかったとか、なんとか。 |
■シナリオ結果■ | |||
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