● 「やっぱ正解だったろーが、最高っしょ?」 「いや、ほんっとに! もう住みてーくらいだわ」 輝く太陽。何処までも青い空。心地よく頬を撫でる風。 田舎のハイウェイをかっ飛ばすのは、平日のホリデイを満喫中の男たち。 御機嫌に唸る真っ赤な愛車のアクセルを踏み込み、制限速度等なんのその。風を切って爆走する。 視界を満たす大自然と綺麗な空気に大満足な様子で、目的地へと向かっていた。 ――男たちより遥か先。高速道路沿いを、とぼとぼと歩く少年がいた。 広がる緑と、その真ん中を貫く道路。少年の姿は、辺りの風景の中で明らかに異質だった。 好き放題伸びた髪に、着古した衣服。所々破れている服の間から覗く肌はとても白く弱弱しい。 どこか悲しい表情を浮かべた儘、彼は歩を進める。 その背を護る様に、更に異質なモノが連れられていた。 鈍い金属光沢を放つ紺色の身体を揺らし、少年を追うのは人型のロボットだった。 人型といっても、人間と比べ重厚な装甲を連想させるがっしりとした体躯。背には大きなコンテナの様な箱を担いでいる。 頭部は角ばったフルフェイスヘルメットの様な形状で、前面を黒いバイザーが覆う。 突如、少年の鼓膜を爆音が揺らした。 赤い車が、猛スピードで迫って来る。 「な、何? 何でこっちに来るの……っ」 響くエンジン音に、少年は白い顔を青く染め、怯えた。 かちかちと歯が鳴る程に震え、その場にしゃがみ込んでしまった。 『心拍挙動の急変を確認――Signal Fear.』 少年の様子に、先程まで無音を貫いていたロボットは反応し、動きを見せた。 『C-I-W-S Ready.これより接近する熱源の殲滅を開始します』 響く電子音。同時に頭部のバイザーに光が走る。 震える少年の眼前に進み出ると、迫る車を捕捉。距離や速度を瞬時に測定していく。 『炸裂式焼夷弾及びクラスター爆雷を装填。仰角、23度』 背に携えたコンテナが不意に形状を変え、左右の肩口から突きだした大型の砲身となった。 続いて僅かに体勢を下げ、射撃体勢に入る。脚部の踵が鉤状に変形し地面に深々と突き刺さり、反動への準備を完了させる。 殲滅する。我が主を震わせる敵は全て。 それが、私に与えられた任務。 それが、私が此処に或る理由なのだから。 『 Fire. 』 長閑な田舎の緑を、灼熱の朱が飲み込んだ。 ● アークのブリーフィングルーム。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はリベリスタたちが集まったのを確認すると、話し始めた。 「今回の依頼は、とある少年が所持しているアーティファクトの奪取、もしくは破壊です」 和泉の言葉と共に映し出されたのは、幼い少年を護らんと爆撃を開始する、一体のロボット。 目標とされたのだろう、一般人の乗る車が大破した後も、周辺に爆薬の雨が降り注ぐ。 「このロボットは、アーティファクト『夢の英雄』。理由や過程は不明ですが、この少年、佐々木小波君が所持、使用しています」 あたかも少年の所業に聞こえる言い回し。リベリスタから挙がる質問の声をこほん、と小さく咳払いで制すと、和泉は続ける。 「小波君が抱く感情に反応して、この機体が即座に動く仕組みになっていると考えられます」 一度言葉を切って、情報端末を差し出す和泉。目線をリベリスタ達へ向け、告げる。 「判明している限りの情報は此処に。余裕があれば少年とアーティファクトの接点等も調査して頂けると有難いです。御健闘を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ぐれん | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月02日(木)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ボクもあの頃……」 戦場となる地点への移動中、『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)は空を見上げ、小波を思い小さく零した。 幼少時代の自身を襲った不慮の事故。その中で只一人革醒し、生き残った光介。 自ら望んだ運命ではないし、大きく変わった世界と、何より、自分自身が怖かった。 彼も、きっとそう苦しんでいる。救わなければならない。同じように生き残った自分が。 唇を凛と張りながら、腕に抱えた魔導書を光介は強く握った。 独りの儘朽ちる結末なんて、そんな悲しい御伽になんて、させない。絶対に。 決意に燃える光介の隣を、『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)は駆けていた。 解らないな、なんで君はそんなに怯えているの。泣いたって喚いたって、何が嫌で何が怖いのか、わからない。 彼を知りに行こう。そして彼の悲しみとか色々、僕等が終わらせよう。 そう心の中で呟いて、影時は強く地を蹴った。 ――目標地点へリベリスタが到着すると、間もなくカレイドシステムの予告通りに少年が姿を現した。 ● 少年とロボットの姿を確認し、真っ先に駆けだしたのは『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)だった。 真紅に輝く脚甲を駆り、身体のギアを引き上げながら言い放つ。 「行くぜ、ガラクタ…!派手にブッ壊れろ!」 あれは少年を助ける英雄等ではない。只の牢獄じゃないか、と怒りを露わに先陣を切った。 戦闘態勢に入るロボットの姿を睨み、神秘の矢を番えながらアイリは告げる。 「そんな悪趣味で歪んだ壁等、私が貫いて遣ろう」 その手には剣ではなく弓。因果を断つのではなく、少年の命を絶つのではなく、少年を縛る壁を破りに来たのだ。 込めた神秘は数々の光の銃弾となって、障壁の源である英雄を続けざまに貫いていく。 「君の力になりにきた。 ……まだ信じてはもらえないだろうが」 アイリの射撃の脇を抜けて、『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は地を強く蹴り、接敵。 戸惑う小波を一瞥すると、駆けた勢いを殺すことなく握った剣を『夢の英雄』の横っ腹に振り下ろした。 待って居ろ、小波少年。心の壁の向こうの君を、きっと俺たちが守って見せる。 今の君に必要なものは、近付くもの全てを傷つける『英雄』なんかじゃない。それを伝えに来たんだ。邪魔立て等、許さない。 不意打ちに続く速攻の連撃。『夢の英雄』は零二の攻撃の回避に失敗し、横っ飛びに吹き飛んだ。 体勢を整える間もなく、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)がその眼前に姿を現す。 「なるほど、英雄譚に良く描かれるような英雄だね。 さて、誰の為のものなのかな」 握った拳を包む練気。練り上げた力を、堅牢な装甲の内側目掛けて叩き込む。 『EEEEEEERROR---RECOVERY ACT START.』 叩き込まれた練気は対象の電気系統を容易く侵し、動作不良を引き起こした。 脱力する英雄の挙動を確認すると、『銀の銃弾』ベルバネッサ・メルフィアーテ(BNE003324)は動き出す。 「ガキの方は任せたぞ、俺はこいつを何とかしてみせる!」 言葉と共に駆け出すと、両手に小銃を握り、銀を込めた銃弾をばら撒いた。 右手に『狩人の囁き』、左手に『這い寄る蛇』。近距離戦闘に特化した武装の性能を遺憾なく発揮し、銃痕を数知れず刻みつけていく。 『C-I-W-S Ready. Fire』 リベリスタの猛攻を受けながらも、動作を回復した『夢の英雄』は反撃に出る。 背面のコンテナが変形し砲身を成すと、眼前のリベリスタを薙ぎ払う様に高レートの射撃を見舞う。 堪らず距離を離すリベリスタ達。その足元を、英雄本体が放つ弾ける爆雷が襲った。 繰り返し爆ぜる『其れ』の効果範囲は想像を絶した。少年からAFを引き剥がす戦略。自ずとロボットとの距離は詰まってしまったのだ。 癒し手の少ない不利な戦線。爆撃の外でそれを支えるのは、『持たざる者』伊吹 マコト(BNE003900)だった。 的確に、かつ鋭く指揮棒を振るう様に、彼の意識はリベリスタ達の動きを統率していく。 身を貫く筈の銃弾は空を切り、身を焦がす火炎は仄かに掠めるに留まる。 「面倒だね、黙ってなよ」 仲間の突貫から一人外れ、周り込んだ影時。もう一度射撃体勢に入る敵を、指先から放った練気の糸で縛り上げる。 「ボクには、ボクの出来ることをっ!」 先陣を切ったリベリスタ達より後方。前衛と距離を置いた位置で、光介は天使の息吹を体現し、仲間の支援へ徹する。少年を救う戦いは、未だ始まってさえいないのだ。 一対多の戦闘は、互いの耐久を削り合う乱戦へと発展していった。 ● 繰り返される範囲攻撃に、徐々に消耗を余儀なくされるリベリスタ達。加えて予想以上に堅牢な装甲。目に見えてダメージの見えない戦線は、集中力を削り取っていった。 そんな中放たれた砲弾の業火に焼かれ、力尽きたヘキサの身体がぐらりと傾く。 倒れ行く最中、視界の端、恐怖に震える小波の姿にかつて自身が居た孤児院の子供を重ねるヘキサ。 こんな所で、倒れてる場合じゃねぇ、か。 『夢の英雄』の眼前、倒れ行く身体を駆り、自身の運命を燃え上がらせると、大地を踏みしめ止まる。 「……いい加減に、しろよ!」 『自分が望まねぇのに全部壊して孤立させやがって。こんな檻も看守も、俺が纏めて蹴り壊して遣る』 光る眼光。怒号と共に渾身の蹴りを叩き込む。0―100の突発的な加速。かつての姿を体現する様に、紅の飛蝗が唸りを上げる。鈍い金属音と共に生まれる衝撃に、浮き上がる『夢の英雄』の重厚な体躯。けれど、ヘキサの動きは止まらない。 強力な一撃に加えて、もう一発。真紅の残像を残す程の速度で脚甲を振り抜き、浮き上がった英雄を大地へ叩き付けた。 畳み掛ける様な連撃。『夢の英雄』の頭部のバイザーに亀裂が走る。 その瞬間、小波を覆う壁が溶ける様に消えていった。倒れ込む少年。心の障壁の呪縛は、解かれたのだ。 「あれ、此処は……?」 すうと深く息を吸って、身体を起こす少年。その瞳には、恐怖の色は無い。けれど、視界を満たす炎と煙が引き金となって、直ぐ様脳内を映像が駆け巡る。 おとうさんが叩くのが嫌だと思って、嫌だと叫んだ。次の瞬間には、ソレはおとうさんじゃなくなっていた。 一握りの消し炭、それがおとうさんだったモノ。怖くなって叫ぶ僕の家を、大きな炎が包んでいく。助けてと叫ぶ声には、誰も応えない。 涙で霞む部屋の中で、大事な貯金箱も、壁に貼った絵も、全部、全部、燃え尽きていく。 こんな風にしたのは僕なのだと、直感的に理解した。おとうさんもおかあさんも、僕のせいで。 「また、また僕は……、嫌だ、嫌だ嫌だぁぁああ!!」 「――大丈夫」 叫ぶ僕の頭を、不意に誰かの腕が抱く。あの時は現れなかった、誰かの腕が。 ふわりと、視界を満たす、蒼。怯える小波を、駆け寄ったアイリが抱き締めていた。 「でも、僕……っ」 「大丈夫、だから」 反論する言葉を遮って、アイリはもう一度言葉を紡ぐ。 「そうさ。この世界の誰だろうと責めない、責められない。 例え君自身だったとしてもだよ」 アイリの言葉を補う様に。額から流れる血を拭って、零二は笑ってそう告げた。 既に起こってしまった事実。 間接的とはいえ、親に手を掛けた少年の心の傷は計り知れる物ではない。簡単に受け入れられるものでもない。 許せないのも許したくないのも自分自身なのだろう、今は受け入れることなど出来ないだろう。それでも、いつか。 「その腕輪が、あのロボットを動かしている。これ以上誰かを傷つけたくないと思うなら、外してもらいたい」 最初の時も、誰かを傷つけたいと望んだのではないだろうと、付け加えて、アイリは告げる。 「で、でも…っ」 家族が居なくなって、それからずっと居たのは、彼だった。 何にも言わないけれど、笑ってもくれないけれど、一緒に居てくれたのは、彼だったのだ。 誰も彼も、自分でさえ敵に見えて、全てが怖かった時に一緒に居てくれた。彼が居なかったら、僕は。 「佐々木小波くん、だよね?」 アイリの腕の中、孤独の恐怖に震える小波へ光介は告げる。 紡がれた自分の名前。とくりと心を揺らす声に、小波は目線を光介に向ける。 彼は言う。僕と少し似ているのだと。家族を失って、自分だけ生き残って。 とっても怖いよね、どうすることも出来なかったよね、と。僕の名前を呼んで、僕の目を見詰めてこの羊みたいな人はいう。それから。 「あれはすごく危険なもの。いまの君になら解るよね」 同時に響く轟音、頬を掠める爆風。光介の視線の先で、『夢の英雄』は数人のリベリスタと戦闘を続けていた。 両親を焼いた炎。それが彼の放つものだと、薄々気付いていた。それでも、孤独が怖くて。 ぎりりと唇を噛む小波に、不意に影時が口を開いて告げる。 「これ以上、不幸を増やされるのは迷惑なんだよね」 はっとして振り返る少年の見開かれた目を見詰め、影時は続ける。 「起きてしまったことに、僕はどうこういうつもりは無いよ。 けど、君はどうして欲しい? 待ってるだけじゃ、何も変わらないよ。 その腕輪が危険なことはもう解ったと思う。それでも手放さない君は、何を望んでいるんだい?」 握ったナイフを懐に仕舞って、膝を折り屈む影時。 「終わらせるには君が心を開いてくれないといけない、何が不服か言ってくれないといけない」 怒りでも、恐怖でも、受け止めてやるから。その言葉に小波は小さく口を開く。 どうして、僕ばっかりこんな目に合うの。 一つ紡いだ言葉は、二つ目の言葉を順々に促して、引き出していった。 どうして僕だけがこんな目に合うのか。あんなこと、望んでいない。独りで居ることが凄く辛い、怖い、悲しい。と。 大粒の涙が幾度となく頬を伝う。心の奥底で、深く強く小波を縛りつけていた鎖が、次々に溶け落ちていく。 抱き締めるアイリの背を、強く掻き抱いて。縋るように、強く握って。 もう、僕は嫌だと小波は言う。何度も何度も、声を跳ねさせながら。 「あぁ……、そっか」 何をいうでもなく、影時達は小波の傍に居た。時折小さく頷いて、彼の叫びを噛み締める。 「腕輪を外して、一緒に来てほしい。 今度はさ……ボクらが必ず君を守るから!」」 「この戦いに、僕等が君と戦う理由って無いと思うんだ」 想いの丈を吐き出し、泣きじゃくる小波に、リベリスタ達は話し掛け続ける。何度も、何度も。 何度も躊躇した。只一つの繋がりと思っていた。罪を犯した自分には当然だと。幼心に、そう思っていた。 「信じて欲しい、君自身を。 踏み出せるさ。君なら」 名前も知らない、彼らが紡いだ言葉。その全てが駆け巡る。 『大丈夫』 震える手を、腕輪へそっと伸ばして。 『ボクらが必ず君を守るから』 きつく瞼を閉じ、唇を結んで。 『信じて欲しい、君自身を』 かちゃり、と小波の掌から腕輪が落ちる。 瞑った瞼を開いて、小波はリベリスタ達の目を見つめ返した。 「うん、僕……頑張ったよ」 返る相槌に、初めて僅かに笑顔を浮かべる小波。 『Signal CAUTION.』 ――突如、『夢の英雄』のバイザーが赤く煌々と輝き、背面のコンテナが形状を変化させていく。 砲身とは大きく異なる機械の翼。その中腹には、大型の推進器を携えていた。 「まずい、あれはっ!」 直ぐ様僅かに屈む英雄の動作。その延長上には小波達の姿があった。敵の目的を瞬時に悟り、マコトは声を上げた。その声にリベリスタ達は地を蹴り、肉薄せんと駆ける。 しかし、甲斐なく彼らの脇を過ぎ行く黒い機体。推進器は、加速の為だけに特化した武装であった。 一直線に小波へと加速する『夢の英雄』。リベリスタ達は不意の挙動に、対応が遅れてしまう。 「彼の未来を閉ざさせてたまるものか……っ!」 カレイドシステムのデータに無い『夢の英雄』の挙動。それを確認すると同時に、零二は小波の前へと立ちはだかっていた。 高速の突進を身体で受け止めるも、吹き飛ぶ零二。厚い壁に強く叩き付けられ、がくりと力なく倒れてしまう。 「っちぃ……!」 突撃した機体に追いつくと、目にも止まらぬ動作で背後から銃撃を加えるベルバネッサ。数々の弾痕を刻み、ロボットの装甲を焦がしていく。 『対象の殲滅、対象の殲滅。殲滅殲滅殲滅殲滅』 幾度とない接近射撃。周囲に立ち上る硝煙に紛れ、ベルバネッサの首元を機械の腕ががっしりと掴む。 間髪を入れず、ベルバネッサの姿は轟音と共に空中を舞っていた。彼女を焼いたのは、背面の機関砲の至近射撃。 二人が身を挺して稼いだ僅かな時間。その間にアイリは小波を抱き上げ距離を離す。しかしその背を、容赦も一片の迷いもなく、肩部へ装填された弾頭が襲った。 炸裂焼夷弾。周囲を超高温で焦がす業火は、一切の例外なくその効果範囲を焼き抉る。 射撃を見舞われたリベリスタ達の身体は力なく大地に伏した。力任せの猛進。『夢の英雄』の次の目標は、明らかに小波へと向いていた。 『対象の、殲滅』 頭部のバイザーに走る信号。『夢の英雄』は緩慢な動作で、小波へと向き直る。腕部で形を成す、鋭利な剣。 振り上げられる"死"を与える剣。戦場に響く、声にならない叫び。迸る鮮血が、青い空へ弾けて消えた。 ● 「英雄なんてものは、誰かが望んで作り上げられる物なんだよ」 剣を振り下ろした機体の脇腹を、氷を纏うクルトの一撃が襲った。 震える程に握りしめられた拳が、装甲の一帯を凍らせていく。めりめりと拳を捻じ込み、静かにクルトは告げる。 「英雄であることを望んだ小波を傷つけた君は、もう英雄等ではない。 ……壊させてもらうぞ」 凍て付く拳に怒りを込め、捻じ込んだ拳を振り抜くクルト。その眼前で、男が剣を振り上げ、立っていた。 一度倒れた体を、運命を削り駆り立てて。四門零二は、立っていた。 閉ざさせる訳にはいかない。少年の長い長い未来を。俺は、そのために此処にいる。 「……大丈夫だ、彼は。 彼自身で歩いて行ける」 傷付いた『夢の英雄』を真っ直ぐに見つめて、彼は何処か切な気に呟く。握った剣に、力を込めて。 「だから、眠れ……っ!」 一閃。英雄の成す短い夢は、終わりを告げた。 「――ってて、大丈夫か、お前」 広がる血溜りの中心。小波の小さな体を覆うように、ヘキサは倒れ込んでいた。 『夢の英雄』の剣が小波を捉える刹那、一迅の風となって庇いに駆けたのだった。 背に走る激痛を堪え、腕の中の少年に笑いかける。少年は、泣きそうに顔を歪ませて、礼を告げる。 リベリスタ達の奮闘の結果、何一つ命を失うことなく戦いは終わった。悲しい御伽は、紡がれることはなかった。 それからすぐに、赤い車のエンジン音と、観光客の声が響く。 「やっぱ正解だったろーが、最高っしょ?」 「いや、ほんっとに! もう住みてーくらいだわ」 何も知らない彼らの無事も、守られた様だった。 「さて、と。佐々木君、ちょっといいかな」 任務を終え、光介の治療の合間。マコトは小波の隣に座りこんで訪ねた。 何も、此処でハッピーエンドじゃない。 腕輪を何処で手に入れたのか。『夢の英雄』となった人形が何故動いたのかを教えて欲しい。 同じような形で、第二、第三の被害者が現れることは、防がなければならないから、と。 じりじりと焼くような太陽の下、小波は沢山の話をした。これまでのことや、『夢の英雄』が動き始めた夜の事。時折訪れる感情の波を、リベリスタ達は受け止め、受け入れ、共有して遣る。 徐々に楽になっていく少年の表情に、ベルバネッサは一人踵を返す。後の事は、あいつらに任せておくか。 「今回は、随分大変だったな……」 折角磨いた愛銃達は、早速煤に汚されていた。早く帰って、整備をしなければ。 もうすっかり短い煙草の煙を、ふぅと空へと吐いてみる。視線の先には、何処までも澄み渡る空。こんなのも、たまには悪くねぇか。 のんびりと先頭を歩く彼女に、自然と促され歩くリベリスタ達。笑顔を浮かべる小波の姿に、もう恐怖の色は無い。 小波の手には、腕輪が握られていた。彼が望んだ、英雄が居た証として。 腕輪は不意に淡く、人知れず輝く。壊れた人形が、僅かに震えて。 『Signal Happy------Thank you, Guys. Good night,Master.』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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