●リベリスタ視点 「急げ! 外の皆に通達しろ! 敵が近付いているぞ――!」 三つの月が照らす下。橋頭保の一確たる監視塔では矢継ぎ早にリベリスタの声が発せられていた。 もはや全方向と言っても問題ない勢いでバイデン達が向かって来ているのだ。焦るのも無理は無い。 「遊撃に出た連中は無事だと良いが……とにかく防壁を固めるんだ! 内部に侵入さえされなければ防御の観点からこっちが有利だ! 巨獣を近付けさせるな!」 監視塔にて周囲を見渡すリベリスタの一人が素早く指示を出す。 攻城兵器に見立てた巨獣の数々。特に本隊らしきグレイト・バイデンの姿が見えた時は直感レベルで“あれは危険だ”と分かる程だ。絶望が目に見えて嫌になる。 だが古来より攻める側と守る側では“守る側が有利”と言われている。 無論全てが全てそうとは言えないだろうが――今まで準備に準備を重ね、橋頭保を強化してきたのだ。少なくとも今までの努力がこの戦いに置いて、マイナス面で出ると言うことは無いだろう。 故に、奴らを拠点に入れてはならない。拠点に入れさえしなければ凌ぎ切れる筈だ。 だから、そう、なんとしても奴らを―― 「…………■■■――■?」 瞬間。声が聞こえた。 人の声では無い。いや、そもそも声と言うよりも“言語”という概念が違う様な、 「――ん、なッ、あ!? バ、バイデンだと!?」 指示を出していたリベリスタが気付く。 監視塔の窓際。そこに、仮面を付けたバイデンが居るのだ。赤き肌に強靭な肉体――間違いない。 「だがどうやってここに……!? ここは、監視塔の中でも高い位置にあるんだぞ!?」 巨獣を使って空から? いやあり得ない。警戒している真っ最中だ。監視塔から離れているならまだしも、監視塔へと直接送り届ける為に近寄るのなら高確率で気付ける筈だ。では、どうやって、 「■■――■!」 「くそっ! とにかく迎撃を……!」 幸いな事に侵入してきたのは一体だけ。 これならば自分だけでもなんとかなるだろう――そう思った時、彼は視た。 監視塔の窓際に新たな“赤き手”が掛るのを。 ●バイデン視点 『クハハッ! おいおい置いていくな先走りしすぎだぞお前は! クハハッ!』 『やかま――しい。貴様が――ノロノロ“登って”いるから――だろう』 監視塔に侵入するもう一体のバイデン。 その言語こそリベリスタには通じない物の、彼らの間では何の問題も無く通じていた。そして、その会話の中にあった“登って”こそ彼らが“どこから”監視塔へと侵入したのかを物語っていた。 何の比喩でも無い。登ったのだ――“監視塔の壁”を。正にロッククライミングするかの如く。 『いやしかし我らも運が無い。折角にもこうしてここへ来たと言うのに、強者がおらぬではないか。どいつもこいつも貧弱そうな体格ばかりよクハハッ!』 『だから――と言って手は――抜くなよボルギレルド。それ――と、他の同族――は?』 『落ちた。あの程度の壁も登れぬなど、畜生が多かったようだな。 その点やはりお前は信用できるぞポトガル! ああ、最高だともクッハハハハハッ!』 この場の監視塔へと侵入したバイデンはどうやら二体の様だ。 他の者は壁を登り切れず水堀に落ちたとの事だが……そもそも登れるような壁にはしていない。 だと言うのに登って来たこの二体は何だと言うのか。ロッククライミングの技術に長けているだけならばそれだけの話だが――雰囲気としても、そう言う訳ではないだろう。 『ではお喋りはこの辺りにして……始めようか』 『ああ――この場を、制圧――する』 ――気配が変わる。 殺気は膨大に。血に飢え、勝利を掴む為に、彼らは一歩を踏み出した。 強さこそがこの世の至上である事を証明する為に。 ●救援へ 「と言う事らしくてな。監視塔に侵入してきたバイデン達との戦闘が始まった。 ああ全く愉快な状況だよ。“クソッタレ”という、な」 襲撃により慌ただしく動く貴方を『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)が呼び止めた。 語られる言葉は監視塔の状況だ。どうも、奇襲された為かかなり劣勢に追い込まれているらしい。 「このままでは監視塔の機能が確実に麻痺する。だからこそ、監視塔の救援に急行してもらいたい。負傷者もそれなりに出ているようだしな……取り戻さねば」 外も、内も責められていると言うことか。 バイデンとの対話は不可能ではないだろうが――彼らの性質を考えるに、戦闘回避は難しいだろう。力尽くで排除する必要がどうしてもある。 「今回はとにかく人手が必要だ。故、私もサポートする。 ……心して欲しい。橋頭保の陥落は事実上我らの世界への防衛ライン消失をも意味する。ラ・ル・カーナの問題だけでは無くなるやもしれん。さぁ気張ろうか――諸君」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月28日(土)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●突入 監視塔は危機に陥っていた。 突然の奇襲。 なんとか警備の面子で持ち堪えたものの、このままでは遠からず陥落してしまうだろう。 故に、 「行きます――突入を!」 救援の者達が送りこまれてきたのだ。 まず一番手とばかりに『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が聖なる光を放ちつつバイデンを焼き払わんと乗り込めば、直撃する。 『むっ? 増援か! クハハッ!』 ボルギレルドは視る。入口から次々と突入してくるリベリスタ達を。 だから迎撃した。滾る血に身を任せ、身の丈程ある巨大なハンマーを振り被って――薙いだ。 「おおっとぉごきげん麗しゅう! 残念だけど、やらせないよ!」 だが、とばかりに『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が振り下ろされるハンマー軌道上に乱入すれば、頭部にて腕を交差させて防御の構えを。 直後。交差させた腕から衝撃が走った。 肉で受け、骨を伝って全身に響き、余波が床にまで届く。しかしそれでも“届けさせない”。 本来ならば範囲の真っ只中に居た――気絶している仲間の所へは。 「助けに来ましたよ! 皆さん、もう少しだけ耐えて下さいね!」 次いで『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)がボルギレルドを抑える為に地を蹴った。 即座。狙いを定めてリボルバーの引き金を絞り上げれば、発砲音が鳴り響く。 助けは来た。希望はある。 だから、 「最後まで――諦めるなッ!」 活を入れるかのように言葉を放てば銃弾が直撃する。 その間隙を突いてさらに突入してくる二人は、 「気絶してる連中は俺らがなんとかするから、早く脱出しな!」 「ここは私達に任せて一旦下がってください。 次の反撃が出来る様になるまで、傷を治して体を休めてください」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)と『下策士』門真 螢衣(BNE001036)だ。 二人はそれぞれ翼の加護と守護の結界を味方全てに与えながら、倒れている仲間の救助へ走る。そのまま駆け抜ければ倒れている内の二人と接触できた。 だが問題が発生した。救出すべき最後の一人が入口から見て奥に居るのだ。 さらに、 『止ま――れ』 そこへポトガルが立ち塞がった。 彼らの言葉は分からない。だが意味は感じ取れる。 ここから先に行きたいのなら私を倒してみせろと、そう言う訳だ。 「一人で私達全員を止めるつもりですか? 成程、闘争に明け暮れる者の傲慢ですねソレは」 ポトガルの前へ一歩を『不屈』神谷 要(BNE002861)が踏み出した。 剣を突き出し十字の加護を仲間へと分け与えれば、仮面の奥底に潜む目を豁然と彼女は見据えて、 「他の方と戦いたくば、まず私を打ち倒してからにしてもらいましょうか。 無論、出来るならですが」 『――』 告げた。向こうの言葉が分からぬのと同じように、こちらの言葉も向こうには分からないだろう。 しかし分かる。伝わる。感じる。相手が何を望んでいるのか、何をしたいのか。 「おいおい一人占めは止めておくれよ? この世界にきてからずっと吸殻溜めて待ってたんじゃ……わしにも一枚噛ませい」 『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)が低空飛行しながら要の横へと。 同時に彼女はポトガルへの“解析”を始める。 弱点は無いか、状態異常無効は? ブレイク付きの攻撃は? 全て調査出来るとは限らないが、情報の少ない相手に対して情報取得行為は無駄では無い。その結果は、 「ふ、む。やはりというか何と言うか……物理に対する耐性は高い様じゃな。 ブレイク付きの攻撃は無し、と。で、状態異常無効は――チッ、これは解析失敗か」 「いやいやそれだけでも十分な成果やろ。 さ、ほんなら本格的に行こか。なにせ……」 『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)が巨銃パンツァーテュランを構えれば、 「仲間がやられとるけいの! その怪我の分、たっぷり利子つけて返しちゃるわ! 覚悟しいや――!」 雄叫び共に銃撃を連続させる。 音が連鎖し、絶え間なくボルギレルドへと注がれれば――ソレが本格的開戦の号砲となった。 ●激突と激突 レイチェルは思考していた。さて、どう動くべきかと。 いや。やる事は決まっているのだ。ボルギレルドを麻痺によって封殺せんと言う行動がある。しかし、 『砕けるが良い、小さき者共よ!』 「ッ、う! 存外、速いですね……!」 意外な程ボルギレルドは機敏に動くのだ。 レイチェルならば速度で上回る事はかなり優位なレベルで可能だが、それも100%では無い。 そも奴は遅くは無いのだ。 身体能力に優れるポトガルが早すぎるのだが、それに多少遅れてとは言えボルギレルドは引き続いて壁を登り切った。比較対象が悪く鈍重なイメージがあったかもしれないが、それでも平均的なバイデンよりは上なのだ。 「ですが……これ以上はやらせません。必ずここで貴方達は潰します」 己が思考を集中させ、脳の働きを高速化させる。 ――許さない、通さない。絶対にこれ以上進ませてなるものか。 その意思が彼女の思考の演算を並列化させ、目に映る万の情報を超速で処理し始めた。 「こっちも行くぞ……!」 その横をフツが飛びだす。 狙いは奥に倒れている警備のリベリスタ。救出の為、ポトガルを強引に超えるつもりなのだ。味方を癒す福音を刻みながら往けば、 『させは――』 「しないのはこちらですよ!」 カウンター気味にフツの顔面へ蹴りを叩き込もうとするポトガルを要が止めた。 高速の蹴りが防御の上から直撃し、衝撃音が部屋に響き渡る。されど、全身の力を防御に当てて反射の力を発動させればポトガルの動きが一瞬停止し、 『ッ? それ――は……』 「う、おおおお――!」 超えた。奴が何か呟いていたようだが、関係無い。 フツの手が要救助者に届けば前進する体を急停止。反転の後に出口へ向かわんと行動する。 「さぁ、重傷の者は彼らに任せ君達は走りたまえ!」 「必ず救います……救って、みせます!」 動く事の可能なリベリスタに八雲が声を掛ければ、螢衣もまた動けぬリベリスタを背負って離脱を目指す。 下の階へと避難させ、戻ってくるのに最速でも二十秒。奥にまで行ったフツの事も考えると三十秒は掛るかもしれない。その間、三人が戦場から消える訳だがそこは、 「援護するでぇ――! デカブツの方はさっさと落ちて貰おうかいな――!」 他の者でカバーするつもりだ。仁太の放つ銃弾はボルギレルドへと向かい、再度着弾する。 「まぁ、だ、まだぁ――!」 だが終わらない。次弾の引き金を絞れば連撃だ。 ――連射する。 『ぬ、ぅぅう! やるな! だが多人数戦など我にとっては得手の範疇よ!』 範囲攻撃を得意とするボルギレルド。 その観点から多人数戦に特化、とまでは言わない物の闘いやすい性質だった。故に、 『砕けぇ!!』 監視塔の床ごと叩きのめさんと、範囲を打撃する。 直上より訪れる重圧がリベリスタ諸共床を剥いだ。一部の者はその衝撃に後方へと飛ばされんとするが、その勢いを僅かでも止めようとした者が居る。 「護るべき人がいるんですよ私達には――!」 京子である。 ハンマーが振り下ろされる寸前に彼女は集中した一撃を敵の手首へと撃ち込んだ。面で押そうとする勢いを点で穿てば、一瞬であろうと速度と威力の減衰を果たす。 「やり合おうぜ思いっきり! 何も気にせずに、さ!」 さらに夏栖斗が黒鋼で造られたトンファーの先端を打ち鳴らす事で戦意を伝えれば即座に動く。 不安定な床を己がバランス感で乗り切り、ステップを踏んで接近して――ボルギレルドの腹に一撃を叩き込んだ。 『ぬ――ぐッ!』 さすれば一瞬、奴の顔に苦悶の顔が浮かぶも、まだまだ体力に余裕はありそうだ。 こちらの闘いはまだまだこれから……で、あるが。 「……さてどうしたもんかの」 ポトガルを抑えている方は――少々雲行きが怪しくなっていた。 ●闘争の喜び 迷子は正直楽しんでいる節はあった。 闘いのみを求めて生きてきた。それは“奴らだけでは無い”。 闘い以外を忘れ、闘いのみしか覚えていなかった彼女も同様だ。故に、ああ、楽しくはある。 「とは言え流石にこれは分が悪いのう――なんでお主素で反射持ちなんじゃ」 『……』 言の通じないポトガルは何も答えない。 否、そもそも理由は無いのかもしれない。スキルなのか奴の固有なのか――ともあれポトガルは要の付与と同じく“反射”を所有していた。氷を纏った拳で攻撃した迷子がその身で直に味わったのだ。間違いない。 「まぁ暫くは耐え忍ぶ方向性なので私に問題はありませんが……結構厳しいですね……!」 そして要はとにかく防御の一手だった。 ボルギレルド撃破まで耐えきれば八対一だ。圧倒的優位で闘いを進める事が出来る。 が、“出来なければ”不利だ。多人数が得意な敵に多数を当て、少人数が得意な敵に小数を当てれば、バイデン達はつまり全力を出せる機会を与えられているに等しい。もっとも、優先撃破する方に多数を当てるは当然の事。吉と出るか凶と出るかは――終わりまで分からない。 『往く――ぞ!』 その時だ。ポトガルが呟きと共に加速した。 戦闘の余波で崩れている椅子を掴み取り、斜めから振り下ろせば、 「――ッ!」 要が剣にて受け止める。 木製の椅子が砕け破片が顔に降り注ぐも目は逸らさない。敵が大振りする様ならば隙を突いて攻撃するつもりなのだ。防御と言う殻に閉じ籠るだけではない。 「要、むっ!?」 瞬間。要の方に意識を向けた迷子の眼前に、赤き拳が放たれた。 一秒に満たぬ時を経て拳は接近し、まるで巨大化しているかのように視界を埋める。だが、 「わしを、舐めるでないぞォ――!」 上半身と首を捻り、強引に直撃ルートから顔を逸らす。 直後。頬に熱が走った。拳と頬の摩擦熱だ。 肉を引っ張る勢いで過ぎ去る拳の被害を極小に抑え込んで、 「――!」 氷を纏う拳をお返しとばかりに仮面へぶち込んだ。 動きを縛るには至らない物の、ダメージは確かに通った。耐性でも高いのだろうか。 『ク――ッ!』 「ハ、ハハ! やはり楽しいなぁ闘いは! 命を賭ける甲斐がある! お主もそうであろう? 先程から貴様の動きはわしと通じる所があるからのぅ!」 瞬間記憶をフルで用いつつ迷子は言葉を放つ。笑みを携え、頬の血を荒く拭えば戦意は充分だ。 仮面の奥の瞳は二人を睨みつける。が、望む所だ。 ここに釘付けにせんと要と迷子は己が武器を構えて再度応戦する。 そして、 「捉えましたよ……貴方の自由、奪わせて頂きます!」 レイチェルの放つ気糸が、ボルギレルドの身に纏わりついてその行動を束縛した。すると、 「はいはーい! ごきげんでいらっしゃい!」 ボルギレルドの視界の隅から夏栖斗が跳んだ。 動けぬ身に連動して動かせないハンマー。その比較的平らな所に着地すればさらに駆ける。 それは武器に羽が一枚乗った様な感触。されど、乗った者は無機質な羽では無い。 確かな戦意と意思を持って夏栖斗は往く。右脚を軸に、左脚を宙に浮かせれば、 「纏めて行くぜ――ボルとガル、覚悟しろよォ!」 ハンマーの柄を足場に、蹴りをボルギレルドの顎に轟音響かせてぶち込んでやった。 『ゴッ――』 『……何ッ?!』 呻くボル。 だが終わっていない。夏栖斗の蹴撃はそのまま空を切り裂きガルのいる地点まで届かせる。 驚きと共に右腕で弾くも、完全に防ぐには至らず。双方ともにダメージを与えた良い一撃だった。 「そぉろそろいい加減、往生せいやぁ――!」 仁太の構えた巨銃より放たれるは銃弾では無い。闇だ。 何もかもを呑みこまんとするソレがボルギレルドへと。押しつぶし、喰らい、彫るように削ぎ、傷と言う傷から切り込みを深くして――包んで潰す。 神秘の塊たる黒き影がバイデンを完全に捉えた瞬間だった。 『……ォ』 しかし、 『……ォォオ!』 それでも、 『足りぬ、ナァ!』 倒し切れない。倒れない。 「戻りました――参戦させて頂きます」 一足早く戻ってきた螢衣が戦線に合流する。 焦りは視えない。いや、見せない様にしているのだろう。平常心を保たねば細かな所からミスに繋がり、失敗を産む。それだけは避けねばならない故に。 だがその思いとは裏腹に、状況は深刻な方面へと向かっていた。 二十秒。 この離れた期間が結果として大きかった。 仲間を確実に助ける為に割いた時間ではある。その為、救助者は全員無事に救出成功した――ものの、バイデンへの備えが不十分と成ってしまった。 究極、任せてしまえば良かったのかもしれない。サポである八雲とまだ動ける二人の“三人”に救助した動けぬ“三人”を下層へと運ばせるのを。それならば階を往復するタイムロスはゼロだ。 仮に動けるモブ達の傷が深くて出来ぬとも、その時は一名誰かを割けば良い。どうあるにせよ主力の内から二名は割き過ぎてしまったのだ。 「まだだッ! 負けて、たまるかよぉ――!」 そして一手遅れてフツもまた戦線へ復帰する。 負けぬと。声を腹から絞り上げて吐き出す。気で負ければその時点で負けだ。 されど事態は進行し、挽回せしめるかは――実に、微妙なラインであった。 その時、 「もう一度、奪います……!」 レイチェルだ。気糸を己から発生させて、ボルギレルドを狙う。 ……まだ逆転は、出来ますッ! 思考する。奴から先手を取りつつ縛るのはこれまでの闘いから可能だと、結論を自分で出せている。 極論。行動不能で固め続ければどれ程強かろうが一方的に倒せるのだ。故に彼女は行動する。ここからでも縛れれば勝てる。だから、 「届けッ!」 射出した。 正確な狙いと確かな勢いで敵の胸部を穿たんと突き進めば、激突する。 そして敵の動きは―― 『――ォオ■■■■■!!』 止まらなかった。 一瞬確かに停止した様な感覚があったが、ボルギレルドは己が士気とバベルですら判別不能な程の言語とすら言えない、絞りだす様な咆哮で上回ったのだ。 動きを見せる。 『勝利を、勝利をォ……我が、剛にて、掴まん――!』 ハンマーが繰り出される。 半ば力任せに振るわれた一撃は、リベリスタ達を薙いで、しかし止まらず。 監視塔の壁に激震を与えた。 ●脱出 直後に来た。“揺れ”だ。 それは足元から――いや、違う。厳密には“上”から来ている。 床を伝って足元から来ている様に感じているのだ。その正体は、 「なん、だ――っておいおいマジかよ! 壁が……!」 揺れに対してもバランスを取る夏栖斗が見た。先の一撃で壁に裂け目が入っており、それが段々と大きくなっている。この階のダメージが許容量を超え始めているのだ。 塔の全損までには繋がらないだろう。故に下は安定しているが、裂け目が入った事により上が崩れ始めている。何にせよここに留まり続けるのは明らかに危険だった。 「ぐッ……これでは、運命を捻じ曲げたとしても……!」 先のボルギレルドの一撃で壁に叩きつけられた京子が、口の端から血を吐き出しつつも立ちあがる。 されど、間に合わぬものは間に合わない。運命を歪に曲げるは叶わず、撤退せざるを得ない状況だ。 「援護したる! はよう体勢を整えや――!」 仁太がボルギレルドのノックバックによって乱れた陣形の穴を埋めるべく前衛へと往く。 銃撃を余すことなく撃ち続け、少しでも被害を少なくしようと。 「ん!? バイデンの連中……退くつもりか?!」 フツが視るは、仁太の攻撃をハンマーで凌ぎながらも少しずつ後退するボルギレルドの姿だ。 そして、ポトガルの方も決着がつこうとしていた。 「――がッ!」 迷子の脇腹にポトガルの拳が直撃する。肋骨が数本折れたかのような激痛が彼女を襲えば、ノックバックの効果かそのまま壁へと叩きつけられて、 「迷子さ、くッ――!?」 さらには要の顔面に仮面の蹴りが直撃する。 揺れる脳が意識を断ち切ろうと――した所で、 「ま、だ……です!」 運命を燃やして強引に意識を手繰り寄せる。 まだだ。まだ倒れてなるものか。こんな程度で、 「膝をつく訳には、いかないんですよ――!」 剣に輝きを持たせ、ポトガルの首に叩き込んでやる。 さらにもう一撃。 「おぉぉおお――!」 身を捻じり、反動を持たせてから頭へと振り下ろした。激しい衝撃が剣を握る手から伝わってくれば、 『――ッ! ヌ、グ――!』 ポトガルが身を退かせる。 戦うことは未だ可能なれど、ボルギレルドに続いて脱出しようと言う訳なのだろう。 務めは果たしたと、勝利は得たと、そう言うことか。 「待、て」 瞬間。壁を背に倒れ込みつつも、迷子がある物を仮面に投げつけた。 それをポトガルは右手で受け止めれば、乾いた音が鳴り響く。 およそ攻撃とは思えぬ軽いソレを何かと思い見れば――煙草の箱であった。 「必ず取りに行ってやる。……それまで大事に持っておれ」 『……』 言葉は伝わっていない。それは確かだ。 が、ポトガルは捨てること無くそのまま背を向け、窓より脱出した。 「私達も一旦退きましょう。このままここにいるのは……危険です」 螢衣が負傷者へと癒しの符を張り付けつつ告げれば、リベリスタ達も下層へと避難を開始する。 警備リベリスタ救助完全完了。監視塔の損害多数。バイデンの撃退は……敵の自主的撤退と判断し、成らず。 監視塔の闘いは以上の結果と成ったが、厳しい戦いは未だ各地で続いていた―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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