●枯渇庭園 枯れ果てた野に佇む異物をその男は眺めていた。 隆々たる肉体は素晴らしく、轡を並べる多数の戦士達さえ圧倒している。 三メートルはあろうかというその身程に巨大なる戦斧は『憤怒と乾きの荒野』で最強と呼ばれていた――ある巨獣を倒してしつらえたもの。 豪放そのものといった彼の纏う戦気とも言うべき雰囲気は昂揚に昂揚を重ね、まさに最高潮を迎える軍団の中でも異質なる存在としてそこに在る。 「プリンス。連中は撃って出たようだぞ」 傍らの巨獣の足に手をかけ『始まった』喧騒を眺める彼に――バイデンの族長であるプリンス・バイデンに話しかけたのは彼の信頼する一人の戦士だった。 「イゾルゲか。いい風が吹いているな。気分も盛り上がっている所だぞ!」 「プリンスの言った通りだ。“外”の連中はなかなか腹が据わっている。 何かあればすぐに森に逃げ込む軟弱連中(フュリエ)にも見習って欲しいものだ」 「ガハハハハハハハハハ! そうでなければ俺はこんな所まで来ん!」 『外』の連中――つまりはリベリスタを評価した戦士イゾルゲの言葉にプリンスは呵々と大笑した。人間とは比べ物にならない程の肩幅が――発達した腕部を支える強烈な『いかり肩』が腹の底を揺らすような重低音で大きく揺れる。 「いいぞ、連中は。匂うのだ、イゾルゲよ。俺の鼻はこんな時最高に利くのだ」 プリンスの言葉にイゾルゲは同じように獰猛な笑みを浮かべて頷いた。 バイデンは生物の基本的な本能を色濃く残す種族である。唯只管に純粋に――高度な知的生命体が数限りない進歩と進化を遂げていく中で、多数に枝分かれした価値観が彼等の中では全く正当に一つのモノとして纏まったままなのだ。 即ち、彼等の至上とは――唯只管に強い事。 此の世に生まれ落ちたからには戦わねばならない、バイデンとは強くあらねばならない――そう考える彼等である。たかだか十余年の種族史はまさに彼等が最良とする戦いの中のみに存在していた。 厳密な『始まり』が何時かをバイデン達は知らない。『初めて生まれた』バイデンは既に一人も生きてはいない。彼等の経歴は唯、戦いである。戦いであった。僅かに残るプリンス、イゾルゲを含む『古株』とて安定等を望んではいない。憤怒と戦いの中に、身を焦がす自身の炎に焼き尽くされる事を真実望んで已まないのであった。 「戦いはいいなあ、イゾルゲ!」 「ああ。戦いのみが俺達を熱くする。生まれてきた意味を肌で知る事が出来るのだ」 バイデンの中に滾る理由すら分からない憤怒が戦いの瞬間だけは影を潜めるのだ。或いはフュリエや他の生物からすれば『怒りの火だけを抱いて生まれ落ちた』バイデンは同情するべき存在なのかも知れないが――当の彼等はそれを何ら疎ましくも思っていない。 「血が流れている。戦士が倒されている。アレを取り除くのは簡単な仕事にはなるまい。 ……フフ、フハハハハハハハ! だが良い。バイデンは怯まない。 死を畏れる者は無い! これが戦争。それでこそ戦争よ!」 プリンスの高らかな声に傍らの巨獣が大きな声を上げた。 角を備え、全身を鎧のような外皮で包んだ黒く大きい獣はボトム・チャンネルにおける『トリケラトプス』を思わせる姿をしていた。 全高ならば五メートル、全長ならば二十メートル以上にも及ぶその巨獣こそバイデン・オブ・バイデンの乗騎である。立ち塞がる敵の全てを貫通し、破壊するその存在はまさにバイデン軍の破城槌。 ――グレイト・バイデンと呼ばれるソレを過去に阻んだ者は無い。 ●死守せよ! 猛烈なる勢いで彼方より『何か』が走ってくる。 夜の闇を裂き、一直線に。死と破壊の香りを纏う風に遊ばせて。 遊ばせて――つまり、それは遊んでいるのだ。誰よりも闘争を望む者は命を運命の天秤に掛ける――掛けなければならない機会に酔っている。 「……来る」 小さな声で。 掠れた声で。 明かりに照らされた夜に赤く蠢く闘神の子達とは裏腹に『戦う為の精神を、激しい怒りを持ちあわさずに生まれついた』森の子――エウリス・ファーレ(nBNE000022)は呟いた。 「アレを何とか止めないと。何とか勢いだけでも弱めれば……」 橋頭堡の備えも目前の罠も踏み潰されてしまうだろう。堀も壁もまともにそれを防ぎ切る事等不可能だ。ならば、どうするか。運命のコインの裏表は外壁でその猛攻を止めんとするエウリスとリベリスタ達の手腕にかかっている。 「皆、頑張ろう!」 『本来』は戦いを知らぬフュリエの少女。 故郷の夜、三つの月の下――彼女は戦いに赴くのだ。 ――『外』で出会った大切な友人達を信じて。そして彼等を守る為に。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月27日(金)23:36 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●黒き衝撃 闇の中に赤々と燃える数々の明かりは外壁の上から見下ろすその風景が非常のものである事を教えていた。 戦場にかき鳴らされる怒号。 熱狂と悲鳴と痛みと昂揚の混ざり合った熱い空気を漆黒の衝撃が切り裂いていく。 それは――一度走り出したならば止まる事を知らなかった。 それは目前で自身を阻まんとする全ての愚か者に『現実』を知らしめるだけの力を持っていた。 その愚直な猛進を何と表現すれば良いか、多くの人は知らないだろう。ひとかどの文士ならば何とか表現するのかも知れない。さりとて、どんな筆舌を尽くした所で今、この瞬間現実に差し迫る角のある巨獣――グレイト・バイデンを見るよりも正確に語る事等出来はすまい。 「闘争心に満ちたこの空気――これが、バイデンか――」 夜の闇と全ての戦場を貫いて真っ直ぐに橋頭堡に迫る巨影を彼方に認め、小さく独白するように言ったのは『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)だった。彼の紫色の瞳がモノクル越しに見つめる異世界の大地は奇妙なる三つの月に照らされている。 「敵の総大将自ら出陣とは、流石は戦闘民族。 その骨頂たる存在であるプリンスとそれが率いる精鋭達。そして何より見るからに強さを疑う意味は無いグレイト・バイデン。 相手にとって不足はなし……と言うのも少し胸焼けする位でしょうか」 僅かばかり冗句めいた『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)の言葉に応えたのは仲間達の苦笑いだった。リベリスタ達が『完全世界』ラ・ル・カーナの異変と因縁深き『巨人』の忌み子であるというバイデン達に関わると決めたその時から、或いは今夜という時間の訪れは約束されていたのかも知れなかった。状況上、フュリエ達の側に立ち、ラ・ル・カーナの治安維持に従事したリベリスタ達は案の定と言うべきか『闘争を第一の喜び』とするバイデン達の強い興味を引く事となったのである。リベリスタ達の活動は安定した状態で世界同士を接続している『リンク・チャンネル』を守る事であり、『人道上の理由から』フュリエ達を保護する事であり、ひいてはボトム・チャンネルに現れる新たなる危機を未然に防ぐ為の当然の防御策ではあったのだが――手段と目的の優先順位がしばしば入れ替わる様子のバイデンにとっては関係の無い事だったのだろう。 リベリスタ達と彼等の小競り合いは幾度か。それは十分な試金石になったのだ。 その結果としてラ・ル・カーナに築かれたアークの橋頭堡はバイデンの大襲撃を受けている。しかし、これを攻撃する彼等は『自らの生存圏を賭けて』攻勢に出た訳では無い。『恐らく』彼等の思考は何処までも単純なのである。 「ははっ、解り易い奴は好きだぜ。正直、真正面から殴り合ってみてぇとは思うが……」 ――バイデンの行動論理は笑った『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)の言及と同じなのである。違う事と言えば猛はその『個人的所感』はさて置いて、この夜に勝利を目指し、総じての目的の達成に目を向けている事。一方のバイデンは何処までも真っ直ぐに『楽しいから』。解り易くフュリエよりも相手に相応しい事が確実なリベリスタ達を恰好の相手と決めているだけの話なのだ。 「果たしてどっちが侵略者なのか、少し悩むところだけど…… 守りたいものを守るし、火の粉は振り払う。ただそれだけの事……守って見せるわ、絶対に」 「吾輩には異世界より他に守るものがあるのダ。こんな所では死ねなイ。必ず生きて帰るのダ!」 すぐ其処に差し迫る戦いを前に緊張しない者は無い。しかし、時には『敵の理屈』にも見習うべき所はあるという事なのだろう。来栖・小夜香(BNE000038)、『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)の決意は単純明快なる論理を振りかざすバイデンにも負けぬ位にシンプルだった。 元より何が正義で何が悪かを人の身が完璧に定義する事等不可能なのである。全ての知的生命体にはそれ相応の行動原理が存在するものであるし、それは『盗人にも三分の理』程度で万事片付く程度の問題では無い。さりとて、バイデンに同じく。人間も『自分が何をどうしたいか』位は見失うべきでは無いのだろう。 小夜香は自身等の存在がある種の『お節介』である事を理解しながらも『守りたいものを守る』事を選んだ。 カイは自身にとっての『異世界(ラ・ル・カーナ)』は最優先では無い事を自覚しながらも、それを見捨てられなかった。或いはその先にある『守らなければならないものの為に』この場所を戦場と選んだ。 何れもエゴと言えばエゴなのだろう。 「そんなに戦いが好きなら、身内でやりあってろ! 他者を巻き込むなっ――!」 『外』の世界に介入するリベリスタも、青く――謂わば『招かれざる客』である自身の正義を疑う事をしない『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)の怒りの声も。 さりとて全てのエゴを飲み干すものこそ戦争に違いない。 「『王』は世に覇を唱え征服の『戦』を行う者。 続く民の為、築き上げんとする世界、その為に斬り開く道。血道。即ちそれこそ『王道』よ。 だが……この世界の有様は如何した事か。奴らの『戦』とは一体、何なのだ――?」 厳しいその顔立ちに憤りにも似た疑問にも似た複雑な色を浮かべながら『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)は橋頭堡に刻一刻と近付いてくる黒い小山を眺めていた。かの巨獣の背にバイデン達が騎乗している事を彼は――リベリスタ達は知っている。その内の一人が一体が言うなれば彼等の王と呼ぶべき人物である事を知っていた。 「解せぬ。否、認めぬ――」 刃紅郎は肌をひりつかせる死闘の予感にも武者震いの一つもせず、傲然と言い切った。 心無い刃が一体どれ程のものか。誇り無き覇道に如何程の意味があるのか――降魔家の帝王学は何れにも意義を見出していない。骨の髄より、心の底より貫く一本気を今日も微塵も疑わぬ彼は頬を撫でる温い風に構わず、耳奥に滑り込むノイズに構わず、悠然と立っている。 おおおおおおおおおお……! ――咆哮に空気が揺れた。戦場が震えた。 戦場に散るリベリスタが、バイデンが。死闘を繰り広げる誰もが格別の存在感を湛える黒い衝撃に一瞬だけ注意を奪われた。 足元の小賢しい罠を踏み潰しながら直進する獣。彼我の距離は凡そ数十メートル。迎え撃つ防壁がどれ程の頼りになるかも分からない。 「えっと、これをこうして――」 「――準備は万端で御座るな」 カイより合図。『射程』に入ったグレイト・バイデンをエウリス・ファーレ(nBNE000022)と『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)の意識が捉える。敵を知り、己を知れば百戦危うからず、とは孫子の兵法が説いた言葉だが――まさにそれはその通りであった。バイデンが巨獣を使役し、強力な戦力にする事は兼ねてより知れていた。なればこそリベリスタ達はこの橋頭堡に大型の武装をしつらえたのである。投石台、ないしはバリスタの類は小型の敵を相手にするには機動性の面で有効性を失うが、的があれ程までに大きいならば全く効率的な攻撃手段に違いない。 「その鼻っ面に一撃、お見舞いすると致そう……」 「うんっ!」 『兵器』を任された幸成とエウリスに求められるのは『直進するグレイト・バイデンの勢いを弱める事』である。 射程内で首尾良く足止めを出来たならば城壁の上に陣取る仲間達がそれに集中打を浴びせるチャンスにもなる。よしんば足が止まらなかったとしてもその威力を多少でも削ぐ事が出来たならば衝角(ラム)に直撃される防壁も多少は持ち堪えるというものだろう。 ぶん、と低い風切り音を立てて巨石が暗闇の中を舞う。強烈な勢いのままに放たれた破壊的なつぶては果たして愚かな直進で迫るグレイト・バイデンに直撃する。盾のように前方に広がった骨格はこの一撃さえ砕いたが、それが衝撃に幾らかとは言え怯んだ隙をリベリスタ達は逃さない。 「来い……貴様らが目指すべきは此処だ」 「さあ、来い! 俺の――俺達の力を見せてやる!」 小夜香の発光を背に迫り来る巨獣を見据え、刃紅郎の獅子王『煌』が獣牙の如く閃いた。 勇猛なるデュランダルが――風斗の裂帛の気合を意気に感じて風を巻き込み切り裂いた。 直撃。直撃。 「……そうね、恐怖を覚えているわ。力ではなく、その心に」 ふ、と唇の端を歪めた『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の論理演算機甲『オルガノン』――構えた彼女の指先に光が点る。 「この世界には愛着とかないけど。だからこそ分かる事もある。だから私は、戦う事を選ぶわ――」 集束し、放たれた光が迫るグレイト・バイデンの分厚い瞼に命中する。 「信じられない化け物ね」 呆れたように言うのは彩歌。 鎧のような強度を誇るその外皮は彼女の精密な――威力ある一撃さえ弾き飛ばしたのだ。効いていない訳では無いだろうが―― 「俺にとって、赤い強ぇ奴は一人だけいりゃあ良い! テメェにはとっとと舞台から降りて貰うぜ、プリンス!」 「流石にその勢いのままには――ぞっとしないからね」 流水の構えより、右足を鮮やかに振り抜いた猛の視線は姿勢を低く黒獣にしがみつく赤い巨人の影を捉えていた。 唸りを上げたクルトのヘビーレガースは『飛翔し貫通する蹴撃』となりて虚空を強かに叩きのめす。 空気が渦を巻き、不可視の刃、暴力的威圧となって突き刺さる。 直撃、これも直撃。血を噴いても猪突猛進するグレイト・バイデンは止まらない。 もう一撃。幸成等の強烈な一撃が降り注ぐがこれにも幾らか暴れたまで。バイデン兵の一人が衝撃にバランスを崩し、その背より転がり落ちたが――グレイト・バイデンはその彼を後ろ足で踏み潰し、それでも突撃を辞めていない! 水音が立ち、飛沫が上がる。歩兵を阻む堀も自走する巨大破城槌の前には無力。 「来るわ……!」 乾いた戦場に息を呑み、小さな声を零したのは白い羽を広げた小夜香だった。 最早目前に迫ったグレイト・バイデンの赤い大口から生臭い息が臭ってくる。怒りに満ちたその目は血走って目前の敵を見据えていた。 不可避の直撃にリベリスタ達はめいめいに態勢を整えた。それは刹那の反射である。小夜香の台詞の終わりも待たず、一瞬後に訪れた『破滅的衝撃』は轟音と共に彼等が拠る足場を揺らし、辺りに混乱を撒き散らす。 「止まっタ……ノダ!?」 目を見開いたカイが声を上げた。 正面に伸びた衝角(ラム)は防壁を突き崩し橋頭堡の内部まで侵入している。しかし、直撃の前に大きく勢いを削がれたグレイト・バイデンは足を動かすも辛うじて健在な防壁部分と水堀に阻まれそれ以上の進撃を果たせては居ない。しかしそれも一時の事だろう。 「橋頭堡を守るため、私の全力を以って――戦いましょう」 乱れた姿勢を何とか短時間で建て直し、真琴が言う。 「アハハ。盛り上がってきたデスね!」 一方で『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の圧倒的に優れたバランス感は此の世の終わりの如き足元の揺れさえものともしていない。 崩れかけた城壁の『側面に立った』彼女はその可憐な外見からは信じられない程、禍々しい笑みを見せていた。 「バイデンの王! 野蛮の頂点というわけデスカ! 尊野蛮、強者の理。それならば、都市にあらずとも都市伝説の理によって応じるのみデスヨ。 つまり力技デス。さあ思う存分刻み合い殺し合うデスヨ。アハハハハハハハハハ!」 哄笑する彼女の視線の先には、 『――さあ、この俺を楽しませて見せろ! “外”の者―――!』 野獣の一声を上げ、巨体をもたげる赤黒い巨人の姿がある。 プリンスとバイデンの二つの名を冠する、バイデンの中のバイデンが居る。 骨の戦斧を備えたそれは、彼に続く野蛮なる者共は早々に強烈な衝撃から立ち直っていた。 旺盛な戦意と並び立つ愉悦をまるで隠さずに構えを取るリベリスタ達に飛び掛かってくる。 「言葉は解らねぇが――まぁ、良いか。面白い喧嘩をやろうぜ…バイデンさんよぉ……!」 指先をちょいと曲げて挑発する猛が不敵に笑う。 猛進、猛撃、そして猛攻。これが恐るべき二つの『バイデン』が織り成す夜の、始まり……! ●プリンス・バイデン 『この俺を――プリンス・バイデンを退屈させるな!』 吠えたプリンスが巨獣の背を蹴る。彼の動きに咄嗟に『側壁を蹴った』行方をその怒号が弾き飛ばす。 「……耳に痛い大声デスね……」 強かに元来た壁に叩きつけられた行方が嘯く。 「バイデン族の英雄デスカ。ここは都市にあらずとも、刃交えて刻み合うには場所問わず。思う存分切り潰し合うデスヨ! アハハハハ!」 ぎょろりと目を見開いて狂ったように高く笑う。 圧倒的な個の武威を強みに攻めるバイデンに対してリベリスタ側が頼みにするのは手数と連携である。 グレイト・バイデンの肉薄の途上で脱落した者を覗けばバイデン側の戦力は精鋭が三、戦士イゾルゲ、プリンス・バイデンの編成である。一方でパーティ側の戦力はアークの精鋭と呼べる十人のリベリスタ達なのだから一定の分はあると言えるだろう。 戦場は自由に動き回るには狭小なる外壁の上と、頭を防御壁に突っ込んだ状態で半ば停止したグレイト・バイデンの背の上である。何れも十分な場所とは言えないが戦力の過半数が飛行能力かハイバランサーを備えるパーティにとっては大きな問題では無いだろう。とは言え、それは『こんな手段』で攻め入ったバイデン側にも言える事である。彼等にもそれなりの成算はあると考えるのが妥当な所であろうか。 「クルト・ノイン。宜しくね」 言葉は通じずとも名乗る意味はある―― (こいつらは理知もない化物ではない。名乗るに値する相手だ) ――そう考えたクルトが巨獣の背に飛び乗りながらそう言った。 (しかし、手強いね) 手近なバイデン兵に土砕掌を一撃を繰り出すクルトは内心で小さく舌を巻いた。 バイデン側は少ないなりに精強である。済し崩し的に始まった乱戦は早々に荒れた展開を見せていた。リベリスタ側の作戦は行方、風斗、刃紅郎等、デュランダル勢のノックバックを頼りに狭小な戦場の上からバイデン達を追い落とすというものであった。彼等の作戦行動目的はグレイト・バイデンの破壊阻止とプリンスを撤退に追い込む事であって彼等を倒す事では無い。否、仮に倒さねばならないと考えたとしても豊富な手数を利用し戦力を削ぎ落とすという考え方はこの戦いにおいて理に適っていると言えるだろう。 しかし、敵もさるものである。 面接着を有する行方は辛うじて水堀への落下を避けたが、少なくともプリンスは同じ手段を有している。 そして彼等の戦闘力はリベリスタ側の思惑を簡単に達させる程には甘くは無いのだ。 「喰らえ」 エネルギーの球体を溜めた刃紅郎の打ち込みがバイデンの一人を叩く。 大きな盾を有したそれは彼の鋭い一撃にも両足を踏ん張り何とか堪えてみせる。すかさずこれに追撃した風斗の一閃も彼を巨獣の背より追い落とすには至っていない。 「まとめて行くぜ!」 バイデン兵とイゾルゲ、正面に二体の敵を見据えて飛び込んだ猛が気を吐いた。 暗闇に咲く雷花は何時も通りの冴えを見せたが、みっちりと詰まったゴムを殴っているようなその手応えは彼に小さく舌打ちをさせるに十分だった。 「堪えない連中だな、全く……!」 『感謝しているぞ、“外”の者』 それでも小さな呻きを上げたイゾルゲは『互いに伝わらぬ言葉』を猛に返す。 『今、我々はまさに昂揚している。我々は我々を脅かす貴様等に最大限の敬意を払おう!』 ぐるんぐるんと頭上で回された巨大なハンマーが遠心力を武器に――否、それ以上の脅威となってリベリスタ達に襲い掛かる。 繰り出されるなり自身の周囲に破壊的な衝撃を撒き散らした一撃に数人のリベリスタ達の姿勢が乱れていた。 「――戦うのが只一つの目的になってるようなモノに負けたくないわ」 緩みを見せた味方側の隙を後衛の彩歌が素早く埋める。 今夜この場で相手取るバイデン達は何れも近接を自身の距離とするインファイターばかりである。少しだけ後退のステップを踏み、複数の敵を自身の射程と射線に確実に収めんとする彩歌もその全てを同時に捉える事は出来なかったのだが―― 「だって、それは何も選んでないのと同じだもの――」 枝分かれした光線をスプレーのようにばら撒く彼女の青い瞳はまず最初の打ち合わせ通りに『比較的』御しやすいと考えられる三体のバイデン兵達を貫いていた。致命と重圧を伴い弱点を抉るプロアデプトの得意技は『大いに物理に寄った』バイデンにはやや痛打となる。尤も彼女が繰る光はそうでなくとも高い殺傷力を持ってはいるのだが―― 「――癒しよ、あれ」 「簡単に流れは渡せませんからね――」 敵のフロントで脅威を受け止め続ける前衛、砲撃する彩歌と同じように小夜香も、真琴も自身の戦いを始めていた。 たった数回の攻防で瞬く間に傷み始めたリベリスタ陣営を支えるのはまさに彼女達の献身。バイデン達がもう少し頭の回る――否、『そういう』戦いの出来る連中だったとするならば狙われてもおかしくない生命線である。 (それにしても信じられない威力だわ――) マナコントロールから聖神の奇跡を夜に降らせる小夜香の選んだその手段が敵の質をいとも簡単に物語る。 「ここからは――吾輩の相手をして貰うのダ!」 素早く状況を立て直したカイがイゾルゲに向けて吶喊する。 上段より振り下ろされた彼の一撃は抜群の反応を見せた戦士に軽く避けられるが、注意を引きつけた事に違いは無い。 『俺の相手は貴様か!』 「付き合って貰うのダ!」 通じぬ言葉が偶に通じ合っている。拳を交わせば分かる事もある――では無いが。 この上なく分かり易いバイデンの実に短絡的なる思考を追う事は必ずしも難しい事では無いだろう。 『ガハハハハ! イゾルゲ、いい相手が出来たな。この俺も――』 「――拙者の出番で御座るな」 『――――!?』 笑い声を上げ戦場に仁王立つプリンスの台詞を途中で阻んだのは防御壁を『垂直に』駆け上がり跳んだ幸成である。 発射台の操作から戦場に到着するのは若干遅れたが、パーティの作戦の中でまず序盤のプリンスを相手取る役目は彼が勤める事となっていた。 「この二人、何としても抑えねばならぬ相手。なれば――」 死角より飛び出した黒衣の影はまさに夜闇を舞い、統べる演者の如き軽やかな身のこなしで黒い刀身をプリンスに向けた。 「――格上相手の時間稼ぎは慣れて御座る……我が体術の真価、見せてくれよう!」 影が交錯し、軽い音を立てて巨獣の背に着地した幸成は自身の影を追った大戦斧の一撃を転がる事で何とか避ける。 『ほう、中々の動きだ。“外”の戦士。そのか弱き刃で俺の首を取ろうとは随分と甘い考えだがな!』 当たれば容易に致命に足る一撃も喰らわなければどうという事も無い。成る程、このメンバーの中でも――数多いリベリスタの中でも『プリンス・バイデンを抑える人間』として彼は向いた技量の持ち主と言えるだろう。しかし、それも紙一重。 (……果たして長く持つかどうか……) 幸成の思考と、本能の両方が強い警告を飛ばしていた。 まず、交差した瞬間に叩き込んだ一撃が何ら効果を上げていない。それは幸成の攻め手がプリンスに無力だという現実を示している。 肩を怒らせて笑い、見事な技と身のこなしを賞賛するプリンスは出現した新たな戦士に上機嫌だ。だが、鍛えに鍛え練り上げた幸成の技量と集中力も彼を長い間釘付けにしておくには不足である。かわせるかどうかは刹那のギャンブル。実力は幸成の得手にしても伯仲にあらず『プリンスの方が上』なのだから運命の天秤が僅かにも相手側に傾けば彼の命は保証されまい。じとりと首筋を濡らす嫌な汗は『死』そのものとの距離である。決まって命のやり取りをする時に流れ落ちる冷たい感覚だった。 ともあれ、全員の覚悟と奮戦とひとすじの運を代償に『バイデンの望む』闘争は続く。 「もウ何なのダこいつらはハ! 打たれても傷ついても引かないとハ!」 「アハハハハ! きっとだからこそのバイデンなのでショウ!」 リベリスタ達が傷むのと同じようにバイデン達も傷付いている。たとえ精強な彼等とて――剛毅を誇るイゾルゲ、プリンスとて。壮絶な戦闘の最中に居るならば傷付かぬ筈は無いのだ。さりとて彼等は怯む事を知らない。怯まない彼等を見る感想がカイと行方で分かれていたとしてもである。 「今デスヨ!」 「いい加減落ちろ――」 行方の繰り出した荒れ狂う闘気の一撃に弾かれ数歩後退したバイデン兵の一人に目を血走らせた風斗が肉薄する。 「――ここから、出ていけぇぇぇぇぇっっっ!!!」 喉も裂けよと叫んだ彼は全身の膂力の全てをその大振りな剣に込めて一閃する。 重く鈍い音が響き、連携に防御姿勢がすんでの所で間に合わぬバイデンの巨体が軽々と吹き飛ばされた。 戦場は全長二十メートル、全幅十メートルに満たぬグレイト・バイデンの『上』である。宙空に投げ出されたバイデン兵は一瞬の時間の後にグレイト・バイデンが鼻先を突っ込んだ防壁の周りを囲う水堀に高く水飛沫を上げて墜落した。 『プリンス!』 『ほう、そういう手を使うか。“外”の戦士!』 元より手数と人員でバイデン側を上回るリベリスタ側に比べてバイデン側の戦力は替えが効かないものである。 水堀に落下した程度で脱落するバイデン兵では無かろうが、彼等が復帰するまでの時間戦力比はリベリスタ側有利となるのは当然だ。行方と風斗と刃紅郎、三人のノックバック攻撃によるアタックは闘神の如きバイデンの王を感嘆させるだけの鮮やかさを戦場に見せ付けていた。 「ここからか――」 同時に敵の数が減るや否やグレイト・バイデンの背を蹴りその頭部へ到達したのはクルトである。 「技、借りるよ」 以前見た誰かの器用な真似の通り。まるで震脚のように足技で土砕の一撃を放つ彼は堅牢な巨獣への大きなダメージを狙った。 (倒しきれずとも、止めてみせる……!) もぞもぞと動くグレイト・バイデンが勢いを取り戻したならば橋頭堡の命運は風前の灯だ。 させじと、それだけはさせぬとクルトの戦い。 リベリスタ側の動きが戦場に躍動している。蝮原咬兵、後宮シンヤ、ジャック・ザ・リッパー、或いは温羅。幾多の強敵と刃を合わせてきた彼等はバイデン以上に『自身よりも強い敵』をどうあしらうかに長け、どう破るかに長けていた。 しかし。さりとて。 『それを出来るのが自分達だけと思うなよ!』 『――ッ!?』 彼等は『強敵』である。強き者共である。 例えリベリスタ側に比べ寡兵であったとしても――バイデン側の戦力は決して彼等に劣るものではないのである。 『仕掛け』にやや突出した行方をバイデン兵の一体が強襲した。ブロックは甘く、同様に『仕掛けた』クルトが相手にしていたその戦力はこの瞬間フリーになったのだ。有機的連動で戦闘を進めるべきリベリスタ側の見せた僅かな乱れは戦場に小さくない意味をもたらした。 強烈な得物による打ち込みを華奢な少女は受け切れない。 「歪崎――ッ!」 叫んだ風斗の声、伸ばしかけた手が虚しい。圧倒的な威力に紙くずのように吹き飛ばされた行方は一瞬の攻防の前、水堀に落下したバイデン兵と同じ運命を辿っていた。寄せ手とあらば強力な行方ではあるが、その守りは同様に作戦の中核を成す風斗や刃紅郎に比べ劣っていたのだ。戦闘のみを自らの信条とし、その勘を大いに働かせるバイデンという種族はその『歪な』隙を見逃さない。 「……やってくれる……!」 自身も大剣を縦横無尽に振るう流石の刃紅郎も臍を噛む。 リベリスタ側の必死の連携の結果を彼等は一兵で達成しているのだ。それもイゾルゲでもプリンスでも無い唯の一兵がである! 岩が坂道を転がり落ちるように――状況は一度動き出せば間を置かずに加速していくものだ。 それが僅か数瞬の間に命と命を奪い合う戦場であれば尚の事。絡み合う思惑と意志が強ければ強い程、止め処なく止め難い。 「さあさあ名誉も誇りも何もかも投げ捨てひたすら殺し合うデスヨ!」 濡れ鼠の行方が声を張る。哄笑を放ち、凄絶な笑みを浮かべ。両手の無骨な刃を振り回すその姿は彼女が自認する『ホラー』に負けはすまい。 「負けるかよ!」 勢いの良い啖呵を切った猛が次々と蒼光を帯びる武闘でバイデン達を押し返す。 「祝福よ、あれ――!」 「っ、助かったのダ――!」 濃密さを増す死戦の時間を幾ばくかでも薄めんとする小夜香の声が凛と響いた。 大いなる存在の吹く清かな風はイゾルゲの抑えに大きく傷んだカイを強力に賦活し、拾い上げるが―― 「……くぁっ……!」 ほぼ同時にプリンスの猛威に遂に屈した幸成を救出する事は不可能だった。 まさに小さな刃を持ちて大砲に相対する彼はこれまで良く敵を止めたと言えるだろうが――グレイト・バイデンの背に叩きつけられ、外壁の向こうまでバウンドして弾き飛ばされた幸成はほぼ一撃で体力のあらかたを奪われている。リベリスタの常識からは考えられないその戦斧の威力は隆々と盛り上がるプリンスの両腕、その肉体から繰り出される悪夢めいた一撃に違いない。 『次はどいつだ! 誰が来る!』 幸成へのトドメ、彼がどうなったか等を気にするような男では無い。 大きなその目を爛々と輝かせ、牙の生え揃った大口から獣のような吐息を漏らす。 隆々と盛り上がるその素晴らしい肉体は湯気を立てる程に熱を帯びている。彼から揺らめき立ち上る戦気は尋常のものでは無い。 互いの戦力は大きく疲弊を始めていた。意気盛ん、軒昂なるプリンスやイゾルゲは兎も角、バイデン兵はある者は堀に落とされ、ある者は執拗なる彩歌の一撃に撃たれ倒され――その数を減じている。リベリスタ側もそれは同じである。フロントで戦い続ける戦士達は運命に縋る事で辛うじて戦闘を続けている。支援する後衛にしてもその余力は薄れ、一度突破されたなら脆い彼女等がどうなるか等言うまでも無いだろう。 「わ、私だって……戦えるんだから!」 闇夜に炎の球が投げ出された。声の主に視線をやれば、そこには外壁の上まで上ってきたエウリスが居た。 弓を片手に些か『なっていない』調子を見せた彼女の目にはそれでも――フュリエに不似合いな闘志が見えている。 「チッ、あの馬鹿……!」 赤々と炎を帯びたフィアキィが虚勢を張るエウリスの周りを飛んでいる。悪態を吐く猛の口元はそれでも幽かに笑っていた。 「戦うよりもナ、もっと面白い事、他にあるだロ!」 言葉は通じぬ。しかし、カイは問い掛けた。 「お前達の世界には無いのカ? 他に喜びガ! 美味しいもの食べたリ、他愛もない事で仲間と笑い合ったり、美しい風景見たリ、そして愛する者ト…… 何か、何かあるだろウ!?」 全力の打ち込みさえ虚しい。イゾルゲの武技は彼の言葉には答えず、『バイデンの意味』を知らしめるまで。 「ここは私に任せて下さい――!」 ここで粘り強いバイデン兵を相手に専ら支援と防御にその役目を置いていた真琴が動いた。 強靭な防御を身に纏った彼女は猛攻にも簡単に折れる事は無い。攻撃を跳ね返し、粘り強く戦闘を支える彼女はこれまでもバイデン達に手を焼かせてはいたのだが――闇を切り裂く白光の輝きと共に振り下ろされる彼女の攻め手は一閃は『ここまで』以上の意味を持っている。 「さあ、次の幕デスヨ!」 「建物は壊れても建て直せばいい。だが、世界はそう簡単に直せない。だから俺は、立てる限り阻んでやる――!」 行方が嬉々と笑い、クルトが叫ぶ。遂に崩れ落ちたカイの代わりにイゾルゲの前に立つ。 「この力は癒す為のもの。こんな夜、運命を投げ捨てたって構わないわ」 「簡単に……やらせる訳にはいかないのよ」 肩で息をする小夜香は、彩歌は。この守備の境界線を退く心算は無い。 「後悔した人を知っているから。私はそんな後悔を、したくないから!」 それは心よりの叫び声。 「全て、任された――」 「おう!」 横合いから邪魔者の相手を浚い、撃った彼女等の声に応え、飛び出したのは刃紅郎と風斗の二人であった。 「黒部には――悪いくじを引かせたな」 「だが、ここからは……!」 バイデン兵の全てを片付けてプリンスに望む――それが最良だったのは言うに及ばぬ。 されど、イゾルゲと相対するカイの余裕を鑑みても既に時間が無いのは明白だった。 「貴様は今、闘争の愉悦に酔うておるのだろうな。 その結果がこの“憤怒と渇きの荒野”。破軍の将よ、我らの理は決して相容れぬようだ……」 戦いの舞台に睨み合う刃紅郎とプリンス・バイデン。 並び立たぬ両雄の囀る僅かばかりの『無駄口』を咎め立てる者は無い。 「己の強さこそが至上……貴様等の在り方か。 故に嗤っているのだろう……小さき者が肩を寄せ合い抗おうとする姿を。 だが、ならば――なればこそ。魅せてやる――我らの絆、その一握を!」 戦場の地を蹴った刃紅郎の目が見開かれた。プリンスに負けぬ程にビルドアップされたその肉体が溢れんばかりの膂力を炸裂させた。 「おおおおおおおおおおお!」 『カアアアアアアアアアアアアア――!』 刃紅郎とプリンスの咆哮が見事に重なる。 雷鳴の如く鳴り、闇夜をつんざくその轟音は繰り出される剛剣と戦斧の一閃にその意味を集束させた。 『いい、一撃だ! いいぞ、いいぞ! そうだ、もっとだ。もっと来い!』 「ぬ、あああああああああああああッ!」 その戦斧さえ砕かんと込められた裂帛の気合が、刃紅郎の全力が。 重く、硬く、鋭い音と共に弾き飛ばされる。彼の強靭な肉体が払いに『流される』光景等、滅多に見れるものではない! されど、バランスを崩したのは刃紅郎のみに非ず。それは無敵の将たるプリンス・バイデンも同じ事。 「楠か――」 「――分かってるぜ!」 風斗がぐんと速力を増してプリンスの間合いに飛び込んだ。 余りにも濃密な死を抱く闘神の懐に飛び込んだ。 王が――刃紅郎が認めし英雄『折れぬ剣』に期待するのは徹底なる一撃。慈悲容赦、遠慮の無き唯の一撃。破壊の一打。 その名を全て呼ばせる事も無く遮った風斗はその思惑を全て――この瞬間、文字通り全て理解する。 (プリンス、お前個人の武勇は確かに強力なんだろう。 オレら個人個人の力は、お前に到底及ばないだろう。だが、それが何だ。お前より強い相手と、オレたちは何度も戦ってきた! ただ戦いを楽しむだけのお前たちにはできない、同じ志で繋がった『連携の力』、たっぷり味わうがいい――!) 思考は刹那。姿勢を低く一撃を構えた風斗を見下ろしたプリンスの顔に笑みが浮かんだような気がした。 「止めてやる、しがみついてでも――絶対にッ!!!」 叫んだ風斗の繰り出したDead or Aliveが占ったその結末は―― ●グレイト・バイデン 防壁が無残に崩れ落ちる。暴れ始めた巨獣の中の巨獣を阻み、止め切る術は無い。 轟音と破壊に満ちたその戦場で、三つの月が無情に見下ろす戦場で骨の戦斧を備えた闘神が嗤う。 『最高だ。“外”を目指したならこの俺の……バイデンの悲願は報われるのだろうな! 最高だ。喜ぶがいい。死した同胞よ、生まれ出ずる同胞達よ! バイデンの求めるその先は――この運命に確かに存在していたのだ!』 ――結果としてプリンスさえ認めるリベリスタの奮戦はバイデン兵の全てを打ち倒した。 されど、グレイト・バイデンは止まらず。又、パーティと橋頭堡の受けた被害はそれ以上に甚大であった。 この結末が『戦争』とこの先にもたらす運命をまだ、誰も知らない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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