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<バイデン襲来>火達磨水牛は、俺達がやる!


 この世界には月が三つある。
 三つ目の月が地平線から現れた頃。
 はるか先にある緑の森も今は闇に沈んでいる。
 森から吹いてくる風は柔らかく、深々と吸い込めば渇いた喉も癒されるようだ。
 その森を守るための拠点作りも着々と進んでいる。
 物見櫓も日々高さと強度を増し、拠点のあちこちで作業をし、哨戒する仲間が、篝火の下に見て取れる。
 日々、小競り合いはあるけれど。
 ずっとこんな日々が続くような。
 はかない幻想は、小さな、しかし、切実な叫びが叩き潰した。
 闇に沈んだ荒野。
 動く光点。
 警戒中の仲間だ。
 監視塔からは見えた。
 仲間が必死の形相で拠点に急いでくるのを。
 その口が。
『敵襲だ』と動いているのを。  
 
 地平線が、砂塵でけぶっていた。
 

 砂塵は近づいて来ない。
 だが、動きが静まることはない。
 怒りしか知らない種族が、戦闘への期待と興奮で踏み鳴らす足が乾いた大地を沸き立たせる。
 鬨の声が、大地を震わせる振動が、今までの小競り合いとは比べ物にならぬ規模だとリベリスタに伝えている。
 そこには純然たる統制がある。
 今にも襲い掛からんとしている凶暴な衝動を束ねている意思がある。
 この場所ごとリベリスタを蹂躙するつもりなのだ。
 バイデンたちと言葉を交わすことは、技を駆使する者達がいれば可能だろう。
 だが、戦闘に特別な興味を示し、リベリスタという強敵との戦いに心を躍らせる彼らに話が通じるとは到底思えない。
 交渉など、そもそも概念にあるのだろうか?
 ここが陥落すれば、フュリエが危機に晒されるのは言うまでもなく、リンクチャンネルからボトム・チャンネルにこの戦闘種族がなだれ込むのだ。
 そんなことはさせない。
 そのために築いた橋頭堡だ。
 ここで、全てを終わらせなくてはならない。
 押し寄せるバイデンをこの場で押しとどめ、押し返さなければ。
 ふと、鬼の城攻防戦が頭に浮かんだ。
 あの時、鬼達は城の中からこんな気持ちでリベリスタを見ていたのだろうか。


 防御壁の上に陣取って、バイデンを待ち構えて準備行動をしているリベリスタたちは、前方を指差した。
 口々に目視した情報を交換し合う。
「ここにつっこんでくるの、あの辺りだろうな」
「牛?」
「バッファローとかじゃない、あれは水牛っぽいね。 サイズしゃれにならないけど。バイデンが二人くらい乗っている」
「角に松明くくりつけられてる。火をかける気か」
「かごに松明たくさん入ってるから、あれ火をつけてこっちに投げ込む気満々だね」
「防護壁につっこんできて、筏兼梯子兼攻城槌か」
「何匹だ?」
「二匹というか、二頭。堀、泳いできたぞ」
「よし、逆に向こうを丸焼きにしてやろうぜ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月26日(木)23:23
 田奈です。
 頭に松明くくりつけた水牛型巨獣を叩きのめすお仕事です。
 更にその背にバイデン投擲部隊が乗ってるよ。

 バイデン巨獣部隊
 水牛型巨獣×2
 *口から火炎放射:神近範 獄炎付与
 *前足で立って壁に突進すると、頭部が防御壁より高くなります。
  バイデンが防御壁内部に進入可能になります。
 *一頭のデフォルトで二人乗っています。
  時間がかかるほど、バイデンの数が増えます。
  2ターンで一人巨獣の背を上ってきます。
 *倒すと、横倒し、もしくは仰向けにひっくり返り、足場としての役に立たなくなります。
 
 バイデン投擲部隊(二人×2、2ターンごとに一人補充)  
 *豪速松明:ジャベリンみたいな松明が豪速で飛んできます。
       物遠範 業炎付与
 *バイデンはパワフルで、命知らずです。強靭で、外傷への耐性もあります。
  決して雑魚ではありません。
 *陣形などは分かりません。
  自分たちの有利になるように、どう誘導するかがポイントになるでしょう。
 *言葉は通じません。

 場所:橋頭堡・防御壁上
 *夜襲です。月は出ています。
 *的の松明は視界に入りますが、射撃するなら準備は必要です。
 *防護壁上にのって戦闘する場合、足場不安定として判定します。
  

●拠点情報
 ラ・ル・カーナ橋頭堡には各種設備が用意されています。
 詳しくは特設コーポレーション『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の説明を参照して下さい。
 今シナリオの判定には『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の各種設備の存在や特殊効果が影響します。
 シナリオの内容に応じて利用出来そうな設備やロケーション等をプレイングに生かしても構いません。

●重要な備考
『<バイデン来襲>』はその全てのシナリオの成否状況により総合的な勝敗判定が行われます。
 勝敗判定の結果により『ラ・ル・カーナ橋頭堡』がダメージを受ける可能性や、陥落し消滅する可能性があります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816)
マグメイガス
シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)
ホーリーメイガス
カトレア・ブルーム(BNE002590)
スターサジタリー
那須野・与市(BNE002759)
クリミナルスタア
宮代・久嶺(BNE002940)
プロアデプト
アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)
クリミナルスタア
アーベル・B・クラッセン(BNE003878)
ソードミラージュ
鋼・輪(BNE003899)


 アーベル・B・クラッセン(BNE003878)は、様式美に徹した。
「わあい、 ここが噂のラ・ル・カーナかあー」
 ロマンチストなのだ。
(まあそんな呑気なこと言ってる状況じゃないのは承知してるけどね!)
 初めてきた日に、いきなり夜襲に巻き込まれる辺り、彼のうっかりっぷりが露呈しているのだが。
 そんな彼が年端も行かない少女達のチームに混じっているのは子供好きなだけで、いかがわしい発想はまったくない。
 だって放っておけないじゃないか。
「バイデンさんが攻めてきました。たいへんですぅ~」
とか言いながら、虫を集めたりしているのがいるんだから。
言っておくが、『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)は、けっして遊んでいるのではない。
 寸暇を惜しんで、虫爆弾の中身を製作中なのだ。
「虫の明るい所に集まる習性を利用して、燃えちゃってる巨獣に纏わりついてもらって邪魔して貰うんですー」
 言っていることはそれっぽい。
「きっと乗ってるバイデンさんも五月蠅くて鬱陶しいと思います。そのワサワサとウゾウゾでバイデンさんをイライラさせるのですぅ」
 だが、実際どの程度効果があるのか、はなはだ疑問だ。
 敵だけ襲うとは限らない。
 リベリスタに集中したら目も当てられない。
 なんと言って止めるべきか、アーベルは空を見上げた。
 ふと、視界になにやら大きな構造物が入る。
「――あの、大きいの……」
「対巨獣攻撃用の発射台があるみたい……。りんは接近攻撃しか使えないから、下手に近づくよりは、こっちで対応した方がいいかなー」
 アーベルは大きく頷いた。
「素晴らしい考えだよ」
 虫爆弾よりは、ずっと建設的だった。
「そうしよう。君は発射台担当」

(喧騒、怒号、何か判らない生き物の声)
 依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816)は、その胸に、もはや物言わぬ魔道書を抱きしめる。
(幾つか大きな戦いにも参加したけれど、やっぱり、戦争、怖い)
 こうしている間にも涙がこみ上げてきそうだ。
 防御壁の向こうでも、赤い噴炎が上がっている。
 すでに戦は始まっているのだ。
(でも、がんばらないと、誰かが死ぬのは嫌だから)
 眼下に水を満々と満たした堀。
「敵」は、その中を泳いで渡ってくる。 
(私は治す人なんだから)
 だから、どんなに怖くても、どんなに恐ろしくても、ここに立っているのだ。

「夜襲か……只の脳筋という訳では無いようだが、些か派手過ぎる」
『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)は、一人ごちる。
 導師服の裾を戦場の熱気と下から吹き上げてくる風が煽る。
 あえて穿いていない彼女は、これから赤く火の粉舞い飛ぶ闇に飛び立とうとしている。
 
「バイデンに巨獣ですか、一筋縄ではいかない相手ですね。橋頭堡の安全を守る為に、ここで負けるわけにはいきません」
『サイレントフラワー』カトレア・ブルーム(BNE002590) は、暗視ゴーグルを装着する。
 粛々と進んでくる水牛型巨獣の上にバイデンが二人。
「ついこの間、城攻めをしたと思ったら……今度は籠城戦かぇ? まさか、現代でやるとは思わなかったのじゃが」
『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は因果の不思議を実感する。
 あの時、鬼の城の防御壁に焼き討ち夜討ちを仕掛けたのは、与一達だ。
 やったことは自分たちに返ってくる。
 因果応報。
 しかし、はい、そうですかと落城の憂き目まで運命を共にする気はない。
(……射るべきものが沢山あって、大きければわしも矢もあたるじゃろうか?)
 腕に仕込まれたカラクリ弓をじっと見る。
(いやいや、わしの矢じゃ。この矢はどうせ当らない)
 こと、この言霊に関する限り、世界はいつも与市を裏切る。

「あるときは可憐な美少女、あるときはアークの職員、そしてその正体は……遊撃少女ってヤツよ。呼ばれれば、異世界でも、どこでも助けに行くわ」
『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)は懐中電灯を腰にぶら下げた。
 闇に浮かび上がる白光。
(これで最初、アタシに攻撃が集中してくれるといいのだけど)
「あ、アタシのことは最初の方は回復から外してくれる? 知らせるからそれまでは」
 大丈夫と請け負う。
「痛みがアタシを強くするのよ……!」
 確信犯だ。
「わかった。久嶺ちゃんだけは別枠だね」
『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は、頷いた。
 癒し手の依子とカトレアのバックアップもするつもりでいた。
 咆哮が、迫っていた。
 丸太のような松明がリベリスタに向けて投げつけられ、水牛のひづめが、防御璧を揺らす。
 四つ足の獣が少しずつ立ち上がり、防御壁から首を出そうとしていた。
「燃えた牛を突っ込ませるなんて……火牛の計ってヤツかしら」
 久嶺は、博識なところを見せる。
 堅苦しい家でそんなのを無理やり読まされた。
「カギューノケイ?」
「中国の戦国時代の戦法だって。あんな感じにした牛を敵陣につっこまさせるの」
 ズズ……ンと、地面が揺れる。
「スケールが全然違うけど」


「バイデン共、かかってらっしゃい。アタシ達が相手よ!」
 久嶺の声が、戦場騒音を蹴散らして響き渡る。
(さぁさぁ、どんどん攻撃してらっしゃい!)
 同じく、懐中電灯の光を帯びてシルフィアが宙に舞い上がる。
 最前線が防御壁である以上、後ろに陣取るなら飛ぶしかない。 
「さて……殺るとするか」
 目つきが、顔つきが、姿勢が。
 インドア派の「通常モード」から、戦闘するための人格に変わる。
「貴様、誰の許しを得てここに居る……?」
 声音も変わる。
「疾くと往ね! 唸れ雷鳴……ライトニング!」
 魔道書から引きずる出される雷の鎖が、双角に松明をくくりつけられた水牛目掛けて叩きつけられる。当然、その背にいるバイデンも道連れだ。

 依子は、歯の根の震えが止まらない自分を自覚していた。
 震える舌で詠唱を続ける。
 空気から、血と火の匂いがする。  
 防御壁の目立たないところで余市、カトレア、アーリィ、アーベル、輪が依子の詠唱が終わるのを待っていた。
 六人の背に仮初の小さな翼。
 防御壁の上からの攻防では、これが頼みの綱となる。
「依子と私は、投擲バイデンの視界に入らない防御壁内側に隠れておく」
 カトレアが言った。
 癒し手二人が倒れることは、全員の危機だ。
「わたし達は巨獣担当だね……戦局有利に立てるように、ここで頑張ろうね!」 アーリィが地面を蹴る。
「巨獣優先。1体ずつ集中砲火――うまくいくといいなあ。【発射台】の人も頑張ってね」
 アーベルが重火器を取り回す。
「任せろ、ですよ!」
 輪が防御壁伝いに発射台に向かって飛んでいく。
 一生懸命考えて用意したのは、油袋と虫袋。 
 小さな肩に重責がのしかかっていた。 
 

 アーリィの小さな頭の中で、恐るべき戦闘計算が展開されていた。
 巨大な牛のどこを突けばもっとも効果が高いのか。
 答えは、目には見えない微細な気糸が知っている。
 細く白い指先から放たれた糸は、巨大な水牛の眉間に吸い込まれる。
 一拍おいて、咆哮。
 狂ったように前肢を壁に叩きつけ、頭を振り回す。
 背に乗っていたバイデン達も振り落とされないように、その背にしがみついた。

 巨獣のひづめが防御壁を打つ。
 双角が防御壁を突く。
 角につけられた巨大な松明が、防御壁を焦がす。
 空気に耐え難い臭気と炎の臭いがこもっている。
 気を抜いたら吐き気がこみ上げてきそうだ。
 その水牛の背を駆け上がってくるバイデン。
 戦場の熱気に狩られた喜びを全身からほとばしらせた若いバイデンが、赤々と燃える投槍のごとき松明を闇に光る光――シルフィア目掛けて投擲する。
 先ほど飛んできた雷の鎖。
 あそこに敵がいる。
 バイデンの闘争本能は、敵に向けられるのだ。
 腹部を貫く鈍痛がシルフィアを襲った。
 苦鳴をかみ殺す。
 松明の火が、シルフィアに燃え移る。
 依子の見開かれた目からぼたぼたと大粒の涙が転げて落ちる。
 頬は透き通って見えるほど血の気がひき、カチカチと歯の根が合わなくなっている。
 壁の影から唱えられたカトレアの福音召喚詠唱がシルフィアを癒すが、炎は消えない。
 体から炎を上げるシルフィアは冒涜的なほど美しく見え、その分余計に恐ろしかった。
「攻撃するならアタシにしろっつってんでしょーが!!」
 久嶺が挑発する。
「アタシが戦えないとでも思ってんの!? ふざけんじゃないわ。あんた達を倒しにここにいるのよ!」
 言葉など通じない。
 いうなれば、気迫だ。
 敵意と戦士の矜持だ。
 それならばと、ジャベリンが次々に久嶺に刺さる。
 喉元に赤い血の塊。
 にやりと不敵に笑うのは、幼いながらクリミナルスタアの面目躍如。
「そっくりそのままって訳じゃないけど、たんまりお返ししてあげる。受けた痛みは三倍返しよ!!」
 理不尽だ。
 だが、そんなのは当たり前だ。
 久嶺はクリミナルスタアだから。
「あんたたちじゃなくて、あんたたちの大事なもの。攻城兵器からよ!」
 ライフルから放たれる弾丸は、たった一発。
 しかし、その弾丸は水牛の急所に食い込み居座り続ける。
 「呪ってやるわ。この痛みの分。落とし前つけてもらうわよ!」
 壁の上の久嶺は唇を吊り上げる。
 凄惨な笑みは、幼いながらデスペラードを名乗るに相応しい。
 水牛の目がドロリと濁り、死んだ魚のようになった。
「あ、でも、ごめん。次から癒して」
 防御壁の陰、カトレアが無言で頷いた。  
 

 その技を見に宿した射手は、すぐ分かる。
 何もかもを見透かすような深遠なまなざしに代わるから。
 いつも眉をハの字にしておどおどしている与一の目は、眼下の巨獣とバイデンを見下ろす。
 下から舞い上がってくる火の粉と煤が、与一の真白い足袋を汚す。
 小さな作動音を立てて与一の腕から表れたカラクリ弓が火を噴く。
「これだけすれば、いくらなんでも当たってくれると思うんじゃが……」
 自らを鼓舞するためテンションあげあげで声出ししてみるが、あれよあれよと声がしぼんで、最後はしり切れトンボになる。
「やっぱり、当たらんのじゃ。そんなもんなのじゃ」
 与一の矢は、いつでも与市を裏切る。
 番えられた矢は絶妙の機に放たれ、炎の雨となって二匹の水牛とその乗り手に降り注ぐ。
 黒い水牛が赤牛に変わり、背に乗るバイデンが悲鳴を上げた。 
そこに、子供の小指のような弾丸が降り注ぐ。
 アーベルが抱える銃は、彼と共に戦う少女くらいの長さがある。
 取り回しやすく洗練された造詣とは別にどこまでも苛烈にチューンアップされたそれは、泣き喚く子供のように手のつけられない弾幕を吐き出す。
 赤いバイデンに無数の黒い穴が開き、水牛から転がり落ちて、闇の中に落ちていく。
(……無理じゃろうかのぅ)
 与市が射掛けた矢でバイデンが落ちたのは分かっている。
 バイデンは強いので、手加減していたら彼らは与一の大事なものをみんな壊してしまうのだ。
 だから、止めなくてはいけない。
 でも、死んで欲しい訳ではないのだ。
(気絶しているバイデン様や大けがをしているバイデン様にも出来れば手当をして、どこかにかくまってあげたいのじゃが……無理じゃろうかのぅ)
 ふと後ろを振り返ると依子と目が合った。
 おどおどと見上げてくる依子の目に、与市は自分と同じ色を感じていた。
 やっつけなくてはいけないのは百歩譲るとしても、殺し合いたい訳ではないのだ。
 ひどいことをしに来ないで欲しいだけなのだ。 
 それが、少女達の本音だった。


 水牛の体を伝って、バイデンが防御壁を乗り越えんと、どんどん近づいてくる。
 戦闘の喜びにらんらんと目を光らせ、顔はいっそ無邪気な笑顔で満ちている。
 戦うことが何よりも楽しいのだ。
 恐怖をかみ殺しながら戦場に望む少女たちとはまったく異なる精神構造をもった、戦闘種族。
 素手で自分達を八つ裂きに出来そうな隆々とした体躯が近づいてくること自体が本能的恐怖をわきあがらせる。
 雷の鎖を放ち続けようとしたシルフィアの翼に大きな穴が開く。
 後方に、シルフィアの羽根を共にして、炎をまとったジャベリンが飛んでいく。
 かろうじて卓越したバランス感覚で、防御壁を蹴りつつ落ちたので幾分落下ダメージは緩和されたが、どこかで頭を打ったのか昏倒している。
 しばらくは動かさない方がいい。
 久嶺の体力もギリギリのところで推移していた。

 一度の挑発と巨獣への痛打は、バイデン達の心に火をつけた。
 フュリエより小さな生き物が、バイデンの巨獣を苛んでいる。
 向こうから来た連中は本当に面白い。
 だから、ジャベリンを投げる。
 アーベルと与市も、防御璧の上、遮蔽物はほとんどないため、水牛の吐く炎にさらされている。
 久嶺は焼き焦げと煤で真っ黒に汚れている。
 依子は、前衛たちが炎の洗礼を浴びている様子におびえていた。
 足元に投げ込まれたジャベリンが火をまとわせたまま突き刺さる。
「いやーっ!!」
 緊張の糸が切れた。
 詠唱の途中、頭を抱えてしゃがみこむ。
 高まりかけていた魔力が霧散した。 
「天使のご加護よ、仲間達を助けてあげて下さい……っ」
 カトレアは、ひっと喉を鳴らした。
 ぎゅっと目を瞑り、わきあがる恐怖を押し流すように高位存在に助力を請う。
 決められたごくではない。本気の祈りだ。
 そこに刺さっただけでも怖いのに、仲間たちはそれを身に受けているのだ。
 依子もそれに唱和するように詠唱する。
「お願い。みんなを助けて……っ!!」


 アーリィの気糸が水牛の脳幹を切断した。
 ぐるりと目玉が回転し、口から泡を吹く。
 ぐらりと水牛の一体がようやく沈んだ。
 足元のバイデンを巻き込みながら、防御璧に寄りかかるようにずるずると崩れていく。
 降り注ぐ水飛沫に、リベリスタ達は肩で息をしながらほくそ笑む。
 残るは一体。それも全体攻撃でかなり削っている。
「魔力、心もとないけどね……」
 アーベルがそんじゃ今度は狙撃でもと銃を構えなおそうとするのを、アーリィが片手で制した。
「へい、らっしゃい! 魔力供給いかがですかっ!?」
「……君って、そういうタイプなの?」
「友達がそう叫ぶといいって言ってました」
 明るい笑顔に癒される。
 子供っていいなぁ。未来への希望が見える。
「そうなの……お願いしてもいい?」
「はい!」
 アーリィは煤まみれになりながらも元気よく返事した。

 しかし、戦況は甘くない。
 防御壁にはすでにバイデンが何人も上っている同一平面状での松明による殴打は恐ろしい。
 リべリスタは仮初の翼を頼りに宙を飛ぶが、生来の翼ではないので空中戦等の勝手など分からない。
 姿勢制御に苦戦して、当てがたく、また避けがたくなる。
 久嶺の肩を松明が痛打する。
 ごきりといやな音がした。
 久嶺はぐらりと傾ぎ、地面に急降下する。
 依子の悲鳴が場に響く。
 地面と激突する直前、翼が大きく動いた。
「まだまだ、アンタ達を防壁から蹴落とすまで銃弾を込めるのをやめないわよ……!」 
 目が死んでいない。
 再び火の粉舞い散る夜空に上っていった。


「お待たせしましたー!!」
 激しくきしむ音がした。
 輪が発射台に取り付き、水牛に照準を合わせている。
 球のところがやけに盛り上がって見えるのは、特性油袋と虫袋も乗せているからだ。
(責任重大だね、しっかり狙うよ!)
 とはいえ、射手ではなく接近戦専門のりんとってはなかなか難しい。
 あせる手に、ひたりともう一つの手が添えられる。
「気負わずに。試しに使ってみましょう。だめなら、自分たちの実力勝負で行きましょう」
 カトレアの表情は大して動かない。
 励ましているようにも聞こえない。
 それでも、なんだか変な力は抜けた。
「そだね。それじゃ、いってみましょー。やっちゃえー虫さん。そのワサワサとウゾウゾでバイデンさんをイライラさせるのですぅ」  
 ばうんっ!!
 勢いをつけて飛んでくるカタパルト。
「みんな避けて! あの中、虫と油!」
 輪の準備を見ていたアーベルが叫ぶ。
 リベリスタは、着弾予想範囲から逃げた。
 突然頭上から振ってきた予想外のもの。
 割れた油袋でにわかに滑りやすくなった防御璧からバイデンの何人かが足を踏み外す。
 実弾も直撃とは行かないまでもちゃんと水牛に当たった。
 輪は射撃台でガッツポーズを決めた。

 バイデンの防御壁上の行動が阻害されたことで、リベリスタの攻撃はかなり有利になった。
 ここが押し時と、リベリスタは一気に攻撃に転じる。
 銃弾と光の矢と斬撃と気糸が水牛の息の根を止めた。
 依子は見上げる。
 空から、仲間が笑顔でもどってくるのを。
 地面が激しく揺れた。
 水牛が倒れたのだ。
「ひいっ!?」
 背中に何か冷たいものが当たる。
 大粒の水滴が降ってくる。
「水牛、堀に落ちましたー」
 輪が笑う。
 魔力はカツカツで、もう一歩も動けないが、リベリスタたちは何とか持ち場は守りきった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 遠距離攻撃してくる奴相手に、懐中電灯蛍なんて、無茶しやがって。
 回復手さん達、がんばりました。
 隠れていたのも偉かったです。 
 作戦手順も妥当でしたが、途中で火力不足になっちゃったのでちょっと苦戦しましたね。
 
 ゆっくり休んでいる暇はないと思います。
 次のお仕事、がんばって下さいね。