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<バイデン襲来>破壊者たちの進撃


 アークのリベリスタ達が『ラ・ル・カーナ』に橋頭堡を築き始めてから、早くも半月以上が過ぎた。
 拠点の設備は順調に充実しつつあり、常に有事に備えて警戒を続けるリベリスタ達の働きもあって、しばらくは平穏ともいえる日々が続いていたのだが――。

 この夜――とうとう“それ”は訪れた。

 見渡す限り砂と土ばかりが続く荒野の彼方から、赤き巨腕の戦闘種族・バイデンの一団が姿を現したのだ。これまでの小競り合いとは比較にならぬほどの数で、しかも多数の巨獣を連れている。
 警戒にあたるリベリスタがバイデン達を発見できたのは、そもそも彼らに隠れるつもりがないからだ。首領と思われる者に率いられたバイデン達は、統制の取れた動きで陣を敷き、こちらの拠点から少し離れた場所で様子を窺っている。

 無論、この沈黙が長く続くはずはない。
 遠からず、バイデン達は拠点に総攻撃を仕掛けてくるだろう。
 『タワー・オブ・バベル』の能力を有する者ならば彼らとの会話は不可能ではないが、力を好み、戦いを愛する彼らが、大人しく交渉に耳を貸すとは考えにくい。
 仮に拠点がバイデン達の手に落ちた場合、彼らが『閉じない穴』を介してボトム・チャンネルに殺到する危険もあり、アークとしてはこれを許すわけにはいかなかった。

 幸い、アークのリベリスタ達は以前よりこの日が来ることを予想しており、拠点はある程度の防御力を保持している。
 選択肢は一つ。
 バイデン達の攻勢を凌ぎきり、拠点を死守するより他にない。

 ――天に輝く三つの月が地上を照らす中、リベリスタとバイデンの戦いは幕を開けた。

● 
 危険を冒し、敵の戦力を削ぐために出撃したリベリスタ達。
 そして、拠点の外周部で敵の猛攻を食い止めるリベリスタ達。

 彼らの奮戦にも関わらず、バイデン達はとうとう、拠点の内部にまで侵入を果たしていた。
 迎撃に出たリベリスタ達は、兵舎や食堂、医療施設として使われている大きな建物に迫るバイデンの一団を目にする。彼らの半数以上が、いかにも破壊力の高そうな巨大な武器を手にしていた。
 巨獣は連れていないとはいえ、あれで建物をまともに攻撃されたら損害は免れないだろう。

 バイデンの一団を阻止すべく前に立ち塞がったリベリスタ達を見て、リーダーと思われる男が口を開く。
 『タワー・オブ・バベル』の能力を持たぬ者にも、彼の言わんとするところは何となく伝わった。

 ――“外”の連中か。
 ――貴様らを壊すのは、この“奇妙な天幕”を壊すより愉しいのであろうな?
 ――力を示せ。俺を愉しませてみせるがいい。

 ぶ厚い巨獣の骨を削り出した、自らの身長ほどもある大剣を構え、リーダーが凶悪に笑う。
 壊すバイデンと守るリベリスタ。二者の戦いが、いま始まろうとしていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月28日(土)23:24
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 全てのバイデンの撃退(撤退させても成功)。

●敵
 ラ・ル・カーナ橋頭堡に侵入したバイデンの一団。 
 異常に発達した両腕と、大柄な体格を誇る戦闘種族です。
 彼らを撤退に追い込むには全滅させるのと同様の覚悟が必要になります。

 全員が巨獣の骨などで作った武器を装備しており、自己再生能力を有しています。
 外見の通り力に頼った戦い方をしますが、戦術をまったく用いないわけではありません。
 『タワー・オブ・バベル』のスキルがない限り言葉は通じません。

 構成は以下の通り。

 【バウザイル】
  一団のリーダー。凄まじい重量の大剣を軽々と操る実力の持ち主です。

 『戦って破壊する』ことに強い拘りを持っており、
 『大きなもの』あるいは『(心身を問わず)強いもの』を壊すことに喜びをおぼえます。

   ※攻撃に[必殺][ノックバック]を伴うことがあります。

 【斧の戦士×2】肉厚の大斧を装備した戦士です。  
   ※攻撃に[致命]あるいは[失血]を伴うことがあります。
 【槌の戦士×3】巨大なハンマーを装備した戦士です。
   ※攻撃に[ノックバック][ショック]を伴うことがあります。
 【ジャベリンの戦士×4】投槍を装備した戦士です。他に比べるとやや実力が劣ります。
   ※攻撃に[弱点]を伴うことがあります。

●戦場
 ラ・ル・カーナ橋頭堡、兵舎や食堂、医療施設として使っている大きな建物の前。
 事前に陣形を整えることが可能ですが、付与スキルの使用や集中などは不可とします。
 時刻は夜。3つの月が全て出ているため、照明などは不要です。

●拠点情報
 ラ・ル・カーナ橋頭堡には各種設備が用意されています。
 詳しくは特設コーポレーション『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の説明を参照して下さい。
 今シナリオの判定には『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の各種設備の存在や特殊効果が影響します。
 シナリオの内容に応じて利用出来そうな設備やロケーション等をプレイングに生かしても構いません。

●重要な備考
『<バイデン来襲>』はその全てのシナリオの成否状況により総合的な勝敗判定が行われます。
 勝敗判定の結果により『ラ・ル・カーナ橋頭堡』がダメージを受ける可能性や、陥落し消滅する可能性があります。

 情報は以上となります。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
デュランダル
飛鳥 零児(BNE003014)
スターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
マグメイガス
羽柴 双葉(BNE003837)


 ラ・ル・カーナ橋頭堡は、未曾有の喧騒に包まれていた。
 防壁を突破したバイデンの一団が、最も大きな建物である兵舎に向かって駆ける。
 迎撃に集まったリベリスタ達は互いに連携し、兵舎を背にして素早く陣形を組んでいった。
「バイデンの奴らもやってくれるじゃないか」
 後衛に立った『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)が、迫り来るバイデンの一団を見て拳を握る。前方に障害物あらば砕き、罠すら踏み潰す勢いで突き進むさまは、まさに驀進という言葉が相応しい。
「ったくー。壊し方に品が無いですよねえ」
 周囲を見回し、付近に存在する設備の位置関係と被害状況を確認した『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が、そんな呟きを漏らす。彼らの野蛮なやり口からは、美意識というものがまるで感じられない。
 白の上衣と黒袴、白無垢の羽織――戦場の正装に身を包んだ『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)が、愛刀の柄に手を添えて表情を引き締めた。
(……凄い圧力。あの鬼にも匹敵するくらい、圧倒的な力)
 バイデン達の放つ殺気が、ここまで直に伝わってくる。羽柴 双葉(BNE003837)の身を微かに震わせたのは、初めての大仕事に臨む緊張感だけではなかった。
「これが戦場、かぁ……」
 姉はずっと前から、この空気を何度も味わってきたのだろう。それを思うと、姉のことを少し見直す気持ちになる。
 最前列で敵を待ち受ける『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が、凛と声を響かせた。
「苦しい戦いですが、この世界のためにも、
 私達の世界のためにも……此処を落とされる訳にはいきません」
 決して退けないし、退かない。その覚悟を受けて、ラヴィアンが答える。
「ここがボトム・チャンネルへの最終防衛ライン。燃えて来たぜ。
 ぜってー抜かせねえ! 一人残らず叩き返す!」
「――必ず、ここで止めてみせましょう」
 『不屈』神谷 要(BNE002861)が頷き、そこに言葉を重ねた。
「本当は、争わずに何とかできれば良いのですけれどね……」
 ほぼ最後列に位置する『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が、僅かに視線を伏せる。
 それが叶わぬ願いであることは、彼女自身も承知していたが。

「飛鳥さん、どっちにします?」
 『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)と並んで前に出た雪白 桐(BNE000185)が、大斧を手にしたバイデン二人を指して問う。零児が左の斧使いを示すと、彼はマンボウを模った巨大な剣を右の斧使いに突きつけ、手で首を刈るジェスチャーを交えて挑発した。
 気色ばむ斧使いを制して、一団の主将と思しきバイデンが口を開く。
『“外”の連中か――我が名はバウザイル』
 彼は兵舎を背に立ち塞がったリベリスタ達を眺め、唇の端を歪めた。
『貴様らを壊すのは、この“奇妙な天幕”を壊すより愉しいのであろうな?』
 『タワー・オブ・バベル』の能力を持つカルナの通訳を介さずとも、言葉の意味は何となく伝わる。
「壊せるものなら壊してみやがれ、です。バイデンの隊長さん」
 真っ先に言い返したユウに続いて、霧香が決然と声を上げた。
「お前達が破壊者なら、あたし達は守護者となって戦う。必ず守り通してみせる!」
 自分達の後ろには守るべき世界があり、協力を約束したフュリエ達が居る。絶対に負けられない。
『力を示せ。俺を愉しませてみせるがいい』
 自らの身長に匹敵する大剣を軽々と構え、バウザイルが凶悪に笑む。『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が、金色の瞳で鋭く彼を見据えた。
「強者を求める――か。成程、単純にして明快な理論だ」
 バイデンが望むは血湧き肉躍る闘争。何よりも、彼らは強き“敵”を欲しているのだろう。
「なに、退屈だけはさせんさ」
 先祖伝来の火縄銃を携え、龍治は不敵に言い放つ。
 バウザイルの視線を真っ向から受け止め、ユーディスが剣を構えた。
「――応えましょう。存分に闘いを楽しみなさい」
 静かな闘志を瞳に込めて、彼女は「そして」と言葉を続ける。
「一兵たりとも、逃げられるとは思わない事です」
 壊す者と守る者――バイデンとリベリスタの戦いが、ここに幕を開けた。


 バイデンはリベリスタと同数の十人。バウザイルを除くと、斧使いが二人に槌使い三人、投槍使い四人という構成である。
 霧香は槌使いの一人に狙いを定めると、駿足をもって瞬く間に距離を詰めた。
「まずはお前が相手……って、言葉が通じなくても分かるだろうけど!」
 “妖刀・櫻嵐”を鋭く抜き放ち、白銀の刀身を煌かせる。桜花の如く咲き誇った光の飛沫が、武骨な槌使いを幻惑した。
「魔力充填完了っと」
 双葉が詠唱を響かせ、自らの体内を魔力で満たす。前衛に回復が届くギリギリの距離を測るカルナが、周囲に漂う神秘の力を取り込み、己の力を高めた。
 龍治が、火縄銃を構えて引金を絞る。銃口から飛び出した光弾が、輝く軌跡を描いた。
 アークでも屈指の射撃手である彼の初撃を避けうる者が、果たしてこの中に居るだろうか。
(もし居るとするならば、ここまでやって来た甲斐があったと言うものなのだがな)
 しかし、巨腕の狂戦士達はそれを避ける素振りすら見せなかった。
 肩に、腕に、脇腹に。光弾の直撃を受けながらも、怯むことなく向かってくる。
 ラヴィアンが、負けじと名乗りを上げた。
「俺の名前はラヴィアン! お前らに魔法の怖さを教えてやるぜ!」
 高速の詠唱で魔術を組み立て、自らの血液を媒介に黒鎖を生み出す。濁流の勢いで解き放たれた鎖が、投槍使い二人と、槌使い一人を絡め取った。
 呪縛を逃れた残りの投槍使いが、後衛目掛けて槍を投擲する。巨獣の骨を削った穂先が、ユウの太腿を抉った。痛みに一瞬眉を顰めながらも、彼女は改造小銃“Missionary&Doggy”の銃口を天に向ける。銃声が響くと同時に、燃え盛る火矢がバイデン達の頭上を強襲した。

「さて、全力で血舞踏を舞いましょうか」
 先に挑発した斧使いに向かって駆けた桐が、肉体の枷を外して己の戦闘力を高める。あらゆる攻撃を跳ね返す防御のオーラを纏ったユーディスが、バウザイルの前に立ちはだかった。
 バウザイルが、大剣を無造作に振るう。風を切る音とともに、超重を乗せた強烈な斬撃がユーディスを襲った。寸前で受け止めた盾を通して、衝撃が全身を震わせる。
『これで吹き飛ばぬか』
 歯をむき出し、バウザイルが獣の笑みを浮かべた。攻撃の反射で頬を裂かれていたが、それを気にかける様子はない。
 フリーの槌使いを抑えに回った要が、全身のエネルギーを防御に特化させる。槌の一撃を盾で受ける彼女の視界に、霧香に魅了されたバイデンが同族に打ちかかるのが見えた。
 二人の斧使いが、行く手を塞ぐ桐と零児に攻撃を仕掛ける。肉厚の大斧が桐の肩を割り、零児の肋骨を砕いて脇腹を抉る。口中に血の味がこみ上げる中、零児は鉄塊の如き大剣を構えた。彼の得物もまた、バウザイルのそれに勝るとも劣らない。
 無限機関が唸りを上げ、右の瞳に紅き炎が宿る。破滅を秘めた一撃が、眼前の斧使いに炸裂した。
「はい、ストップストップー!」
 双葉が、四色の光が奏でる魔曲で追い打ちをかける。動きを封じることはできなかったが、四魔術の連続攻撃は屈強なバイデンに確実に傷つけていた。
 早くも我に返った槌使いに向けて、霧香が再び桜花の輝きを散らす。続けて同じ手は食わぬと、槌使いは腹の底から吼えて魅了を振り払った。
「槍使いの方々が、後衛に接近しようとしています」
 バイデン達が交わす言葉を聞いていたカルナが、聖神の息吹を呼び起こしながら仲間達に警告する。直後、ラヴィアンが再び血の黒鎖を放った。
「必殺! ブラックチェイン・ストリーム!」
 直線的に飛ぶ鎖の軌道を変えることは難しいが、発射のタイミングを一拍ずらして虚を突くことはできる。彼女の鎖は再度、半数の投槍使いを封じた。
 バイデンの回復力は高く、呪縛もそう長くはもたないだろう。本物の鎖のように、掴んで振り回すことができればどんなに楽だったか。
「俺はこちらに来る敵を止める。喰らわずに済むなら、それに越した事はない」
 龍治の言葉に、ユウが頷く。天から落ちる炎の矢がバイデンを狙い撃つ中、龍治の展開した気糸の罠が投槍使いの一人を捕らえた。
 唯一拘束を免れた投槍使いが、後衛に迫る。回復役を守ろうと咄嗟に前に出た双葉を、鋭い槍が貫いた。
「あいたた……もう怒ったよー!」
 激痛に顔を顰めつつ、双葉は運命を代償に己の身を支える。要が挑発の言葉を投げかけ、投槍使いの意識を怒りに染めた。これ以上、後衛を攻撃させるわけにはいかない。

 バウザイルの大剣とユーディスの剣が、激しく火花を散らす。彼女の剣技をしても威力を完全に殺すことは難しいものの、致命傷だけは辛うじて避けていた。
「……そう簡単に、破壊できるとは思わない事です」
 防御に徹するばかりでなく、鮮烈に輝く破邪の剣で反撃に転じる。バウザイルの面が、歓喜に歪んだ。
『お前はフュリエどもとは違うな。いいぞ、俺が壊してくれる!』

 二人の攻防を視界の隅に映し、零児は思う。
 強敵との“戦い”ではなく、その“破壊”に喜びを覚えるということは――バウザイルは己の勝利を動かぬ前提と見ているのか。
「俺らの世界には、窮鼠猫を噛むって言葉があることを教えないとな」
 零児はそう呟くと、“生死を分かつ一撃”を眼前の敵に叩き込んだ。


 序盤における攻防は、概ねリベリスタ達の思惑通りに展開していた。
 一撃の威力が重いバイデンとの戦いでは、一手のロスが致命的な隙になる。たとえ一瞬であっても、敵の行動を縛り、攻撃の矛先を逸らした影響は大きい。
 とはいえ、個々の実力はバイデンが上だ。搦め手は繰り返すほどに効果が薄くなるし、最後は力と力のぶつかり合いになるだろう。
「おっきいのいくよー!」
 双葉が、空中の一点に召喚した魔炎でバイデン二人を同時に呑み込む。彼女と零児の目の前で、炎の壁が上がった。
 それにしても、バイデン達の戦いぶりは無粋だ――とユウは思う。
 整った姿を充分に愛でてから壊すのが良いのだ。いきなり粉々にするのでは余韻が得られないではないか。
「私なんてもう、ドミノとか並べるだけ並べて結局壊せないんですから」
 すっかりアークに染まってしまった自分を思い、ぼやきながら愛銃を構える。このまま、お人良しの側に居座るのも案外悪くはないが。
 降り注ぐ火矢が、斧使いの一人を撃ち倒す。残る斧使いと打ち合う桐が、薄い唇に不敵な笑みを湛えた。
「戦闘が好きなのでしょう? 私もですよ、一番生を実感できる時間じゃないですか」
 橋頭堡を守らねばという思いはあるが、闘争と破壊を信奉するバイデンとの戦いに血が沸き立つ。激しい攻防の末、彼は全身の闘気を込めた一撃で斧使いの胴を横薙ぎに断ち割った。

 投槍使い達が怒りに任せて投じた槍が、要の全身に突き立つ。
 彼らは他のバイデンに比べるとやや実力は劣るものの、それでも凄まじい火力だ。メンバーの中で随一の耐久力を誇る彼女でなければ、到底耐え切れなかっただろう。
「その様な小雨で私の膝を折れるとは思わない事です」
 浅からぬ傷を負いながらも、要は剣を投槍使い達に突きつけて挑発を続ける。後衛から、敵を遠ざけなければ。
『砕け散れッ!』
 バウザイルが、咆哮とともに大剣を上段から振り下ろす。鮮血が、地に赤い花を咲かせた。
 必殺の一撃で肩から胸部にかけて無残に潰されたユーディスが、自らの運命を燃やして立ち上がる。全てを護り抜くために、ここで倒れるわけにはいかない。
 カルナの詠唱が、癒しの息吹となってリベリスタ達を優しく包む。黒鎖を振り解いた槌使いを抑えに回った零児が、鉄塊の如き大剣を軽々と振るって破滅の一撃を見舞った。
 ほぼ時を同じくして、霧香が白銀の太刀を閃かせる。魅了が通じぬのなら、剣技をもって打ち破るまで。光の花弁が華麗に舞う中、極限まで研ぎ澄まされた突きが槌使いの急所を貫いた。

 ユーディスの救援に駆けつけた桐が、バウザイルに“まんぼう君”の超重量を叩き付ける。マンボウの形はしていても、れっきとした大剣の一振りだ。
「同じ大剣使い――どっちがより使いこなせているか、やりあいましょうか」
『俺は二対一でも構わん。かかってくるがいい』
 桐の言葉に、バウザイルが凶暴に笑う。数の上ではリベリスタが有利になりつつあるが、戦況はまだまだ予断を許さない。敵の攻撃力は高く、積み重なった味方のダメージは深刻になる一方だった。
 槌使いの打撃が、要の小柄な体を吹き飛ばす。骨の砕ける嫌な音が、彼女の全身を軋ませた。
 強い意志をもって運命を引き寄せ、遠のきかけた意識を繋ぐ。
「皆が築いた、この世界での足がかりを……破壊されるわけには……!」
 再び立った要を援護するように、ラヴィアンが血の黒鎖を伸ばした。彼女と同様、複数の敵を射線上に捉えた龍治が、火縄銃の引金を絞り込む。
「この一撃――その身を以て知れ」
 同時に放たれた光の弾丸が、要を打った槌使いを含め、三人のバイデンのこめかみを撃ち抜いた。


 最後に残った槌使いを指して、双葉が叫ぶ。
「次、あいつ! いくよー!」
 彼女は僅かな時間で集中を高めると、四色の光を輝かせて魔曲の旋律を奏でた。できれば一人ぐらいは生け捕りにしたいが、そのような加減をする余裕はない。
 直撃を受けた槌使いが、ゆっくりと地に崩れ落ちる。
 後は、バウザイルと二人の投槍使いを残すのみだ。霧香が、真っ直ぐバウザイルに駆けた。
「強いものを壊したがる奴! あたしが強いかは分からないけど――
 あたしの剣を見て、受けて、お前自身で決めてみせろ!」
 桜花の光を纏った鋭い突きを、バウザイルが大剣で弾く。闘気を爆発させた桐が、すかさず破滅の一撃を叩き込んだ。
 一瞬生じた隙を逃すことなく、ユーディスが輝きを纏う剣で彼の腹部を切り裂く。
 立て続けに痛打を浴びたバウザイルが、ユーディスを見て満足げに笑った。
『お前は壊し甲斐のある戦士だったぞ』
 賞賛の声とともに繰り出された大剣の一撃が、騎士の末裔たる彼女をとうとう打ち倒す。
 要は、怒りから醒めた二人の投槍使いをもう一度引き寄せようとしたが、その挑発はここに来て充分な効果を発揮することができなかった。
 強靭な肩から投じられた槍が、ユウを、ラヴィアンをほぼ同時に貫く。二人が膝を折った瞬間、龍治の火縄銃から流星が奔り、バウザイルと投槍使い達の身を深く抉った。
「まだだ……まだ、戦いは終わってねぇんだよ!」
 力尽きて倒れたユウの前で、ラヴィアンが立ち上がる。
 血を大量に失った体を自らの運命で支え、彼女は腹の底から叫んだ。
「俺は――リベリスタなんだからなっ!」
 捨て身の覚悟で放たれた黒鎖の濁流が、二人の投槍使いの命を喰らい尽くす。倒れたユーディスを庇いつつ、他の前衛と連携してバウザイルを包囲する零児が、全身の闘気を込めて鉄塊の如き大剣を振り下ろした。

 仲間達をひたすらに癒し続けるカルナが、この戦闘で息絶えたバイデン達の亡骸を見て悲しげな表情を浮かべる。
 バイデンは、皆がこうなのか。ただひたすらに、死ぬまで戦い続けるのか。
 カルナは、バウザイルにそっと問いかける。
「戦いそのものは否定しません。
 ですが、命を奪い合う所まで行う必要はあるのでしょうか……?」
 闘争を欲することと、殺し合うことは必ずしもイコールではないはず。
 しかし、彼女のそんな思いを、バウザイルは一笑に付した。
『命を、魂を懸けぬ戦いに何の意味がある! 全てを叩き壊すからこそ愉しいのだ!!』
 大剣の一撃に全身を砕かれ、桐の体が宙を舞う。彼は運命をもって自らの命を繋ぐと、優れたバランス感覚をもって見事に着地してのけた。
「楽しいですね」
 人を超えた再生力で傷を塞ぎ、再び距離を詰める。
 高火力の打ち合いを実現する武器、強力な自己治癒力――ある意味で、一番バウザイルに近いのは桐かもしれない。
 突進の勢いを乗せた渾身の斬撃が、バウザイルの身を大きく削る。盾を掲げた要が、桐の守りについた。
「あたしを壊してみせろ、バイデンの戦士」
 バウザイルの正面に回った霧香が、鋭く声を放つ。
「リベリスタに戦いを仕掛けたことを後悔させてやる!」
 音速を纏う白刃が、淀みなき連撃でバウザイルの足を止めた。そこに、双葉と龍治が相次いで追い撃ちを加える。
 全身から血を流して立ち続けるバウザイルに、零児が大剣を突きつけた。

 ――必殺の一撃を、俺と打ち合ってみないか。

 一騎討ちを望む思いを、ここまで抑えてきたのだ。この決闘だけは、譲れない。
 バウザイルもまた、己の大剣をもって零児に応える。
 同系の武器を扱う者として、戦士として、余計な言葉は不要だった。
 材質の異なる二振りの大剣が、同時に唸りを上げる。
 バウザイルの剣が、上体を断ち割る勢いで零児の肩口に食い込んだ瞬間。
 彼は、自らの運命を燃やし、裂帛の気合とともに全闘気を爆発させた。
 巨獣の骨を削った刀身が半ばから断ち割られ、夥しい量の鮮血が舞う。

 生と死が分かたれた後――全身を互いの血で染め上げた零児が、崩れ落ちるバウザイルを見下ろしていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 役割分担や連携がきちんとなされており、それぞれの意気込みが感じられる良いプレイングが多かったと思います。初手から序盤の流れをしっかり固め、敵が全員揃っている段階での被害を最小限に抑えたのが今回の勝因でしょう。

 ただ、HARDで敵味方の数が同じということは、個々の実力は敵方が上回る、ということです。
 他に比べると実力が劣るとされたジャベリンの戦士も、決して雑魚と呼べるレベルではありませんでしたし、格上の敵にそう何度も同じ手は通用しません。あと一つ何かをかけ間違えていたら、中盤から後半にかけて押し返されていた可能性もゼロではなかったと思います。

 リベリスタ側の被害も相応に出ていますが、兵舎正面における戦いは守り手たる皆様の勝利です。 
 重傷の方々は、どうかご無理をなさいませんよう。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。