●噴出 -Flash flood- 三つの月が、乾いた荒野をやわらかく照らしていた。 日中の荒野といえば、怒りを現したかのように赤々しく、呼吸をする度に土臭い風味すら覚える程、息苦しい。 長い日中が終わって夜となれば、激しい赤々しさも、怒りも、月光に隠れてしまったかのように荒涼とした雰囲気に包まれる。 日が沈んでしまうと、息苦しさはなくなるが、代わりにリベリスタ達の緊張感が強くなる。 リベリスタ達が『完全世界』に降り立ったのは数ヶ月前。 降り立った時からバイデンへの警戒を徹底していた。 拠点設営を重ね、ある時はフュリエの保護をして、周囲の治安維持等に努めた結果、バイデン絡みの大きな問題が発生するような事態は回避できていた。 嗚呼、今夜も何事もない。 「平和って事で何よりじゃねぇか」 誰かがそう呟いた。 小競り合いはあるものの、この状態が続くのであれば、それは良い状況なのだろう。 しかし油断など微塵も無い。 微塵も無いが故に、いずれ来るであろう平穏の終わりには、直ぐに動ける態勢も整っていたのである。 平穏の終わりは、この呟きの後からやってきた。 警護をしていた者が、荒野の彼方、地平線より巨獣を引き連れたバイデンの集団を視認した。 規模はこれまでとは全く違う。統制の取れた動きを見せるバイデン達は、やがてアークの拠点より暫くの位置で足を止め、此方の様子を伺う様子を見せた。 或いは、いまかいまかといわんばかりに、堰き止められた暴力の濁流のようにも見える。 堰き止められた濁流に渦まく気魄が、やがて『ラ・ル・カーナ橋頭堡』を飲み込むだろう事は想像に難くなかった。バイデンの気質からして、停戦交渉など不可能だ。 やがて咆哮響く。 鉄砲水のように吹き出した暴力。夜襲。 橋頭堡は、この状況を予期していたため、一定の防御力を保持している。 だが、もしも陥落した場合、制圧されたリンクチャンネルよりバイデン達がボトム・チャンネルに雪崩れ込むだろう。 堰き止めねばならない。 堰き止めねばならない。 堰き止めねばならない。 ●突入口 -Violent flood- 土煙が、月光を遮る。 堰き止めなければならない最先鋒の一角に、隻腕のバイデンが躍り出た。 巨獣の頭蓋骨で顔の上半分を隠し、その奥に月光は届かない。 失った腕は巨獣に落とされたのか、或いは私刑によるものか、経緯は定かではない。 しかし、残された腕は尋常ではない有様だった。 通常のバイデンでさえ、人類の目から見てアンバランスな印象を受ける程に鍛えぬかれた両腕を持つが、その隻腕は通常のバイデンより一回り、二回り、三回りも太かった。長かった。 異形になる程まで鍛え込まれた腕で、巨大な鉈の如きものを握る。 巨獣の骨から削りだされたと察するそれは、血液が染み込んで黒々とするほどに使い込まれ、夜の闇に溶け込んでいる。 馬のような巨獣に跨り、片腕が無いため手綱を口に咥えながら、巨鉈を軽々と振り回す様子は、まるで風車のようだった。 隻腕のバイデンを筆頭に、同じ巨獣に跨った者共が錐型の隊列で後から続く。 獣じみた唸り声を上げ、得物を振り回し、遊撃に回ったリベリスタ達を突破し、外壁へと迫る。 跨る巨獣は速い。 速い上に一歩一歩から重みのある振動が足へと伝わる。 多くが水分で出来ている人類には、想像もつかない程の質量と見られる。 まるで動く破城槌だ。 防御壁を砕き、突入口を開ける算段なのだろうか。 ぶつかればひとたまりもない。 だが防御壁の前には、まだ罠がある。架け橋もある。 罠を越えて防御壁に来たらどうするか。砕かれる前に出撃して倒すか。 或いは、あえて突入させて殲滅するか。 他に何かないだろうか。 或いは――。 意を決して、リベリスタ達は動く。 見据える先。向かってくる隻腕のバイデンは、咥えた手綱を噛み千切らんばかりに笑っていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月27日(金)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●鬨の螺旋 -Storm blood- 周囲の喧騒は、徐々に増す。 あちこちから金属のぶつかる音、怒号に大呼。鈍い音が響いて止まらない。 遠くにはグレイト・バイデンの巨体が悠然とそびえ立って、橋頭堡へ迫る。 あれは危険だ。 危険だが、ここも危険だ。 いや、どこも危険だろう。 リベリスタ達は動きだす。 「へへっ、ついに来やがったな?」 「みんなが一生懸命作ったこの施設。あたし達が食い止めてやるのですぅ!」 巨大な矢が放たれた。 発射台に在る『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)と『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)が放った二つが、青墨色の闇を切り裂いて騎兵達めがけて一直線に飛んだ。 スターサジタリーであるマリルが放った一本は、グバルグバンを頭を串刺しにする。 ヘキサが放ったものは隻腕のバイデンへと行く。 隻腕は巨鉈の腹を使って軌道を逸らすと、逸れた矢は後方のバイデンを薙ぎ払った。 よし、とヘキサは笑う。マリルも拳をグっと握る。 「やっぱり隻腕の奴! 蹴り応えありそうだな!」 「このちょうしで、赤くて野蛮なやつらをやっつけてやるですぅ!」 迅速に次の矢を番えていると、隻腕が吠えて騎兵達は二手に分かれた。 二手に分かれた様子を見て、離宮院 三郎太(BNE003381)もまた想定通りと短く呟く。 密集隊は戦列が乱れることに弱い事が欠点。 機能を麻痺させ一人ずつ確実にしとめて行くのが定石。戦い慣れたバイデンならば、遠距離攻撃の為に分断するだろう事も想定の範囲だった。分断させたかった思惑が実現した。 「この戦い、勝たせていただきます」 次の一手。集中、戦闘指揮。 罠地帯が近い。三郎太は合図と共に駆け出した。 三郎太の合図に『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)と『百花乱舞』桜乃 彩音(BNE003884)が前に出た。橋を駆け荒野を踏みしめて、リセリアが二手の一方を見据える。 細かな想定は無かったが、戦闘指揮を持つ三郎太が想定している。大局を見ている。 であれば、些事。 「彼らバイデンに教えてあげましょう――」 砂埃で喉が乾く。夜闇が纏わりつく。一呼吸。 リセリアが唾の塊を飲み込んで片手半剣を構えれば、呼応する様に蒼銀の輝きが剣を伝う。 「――私達の力が劣るものでは無いという事を」 「いきましょ。肩の力は抜いてね」 彩音は斜に構えながら、二手に分かれたもう一方のバイデン達を見る。 胸裏に浮かぶのは、フュリエ達。 「蹂躙させるわけにはいかないわ」 いい関係を築いていける友人であり、短い間ながらもそうあった。 守らなければならない、と胸裏に響かせながら、片脚の踵を脱力と共に浮かせる。 鯉口を切る直前の抜刀の如きもの。合図があれば即、斬風脚を放てる。滞りなく。 続いて『極黒の翼』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が橋から出て前線に征く。 フランシスカは得物を構える。 華奢な自身。おそらく他者がみればアンバランスと捉えられるであろう無銘の大太刀。 三つの月のどれかが刀身に映る。 「どんだけ強いのか分からないけどさ、強い相手と戦うのってなんだか楽しみだよね!」 良き戦日和。 フランシスカは微笑を禁じ得なかった。 不謹慎なのは分かってる。と自身に言い聞かせるが、高揚は止まらない。 強い相手と戦う楽しみは、あのバイデン達とも同じなのかもしれない。 「何を考えているかは剣で語りましょう」 フランシスカに応じるように、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が抜剣した。 鞘から剣を引き抜くと、鞘は拡散するように力場を生む。 戦闘種バイデンは初見。初見ながら只事ならぬ重騎兵。 「奴は、私が相手をした方が良いかもしれません」 視線の先は隻腕。 何処まで耐えることができるか――まなじりを決する。 最後に『持たざる者』伊吹 マコト(BNE003900)が、のんびりと構え出る。 戦場の熱気に気合を充足させる皆を見ながら、脳内嫁と独り言つ。 何とも心苦しい。 「あぁ、うん。この業界は年功序列って考えが無いってのは分かるんだけどね」 脳内嫁からの返事に対して、呟くように応答する。短くなった咥えタバコを捻り、新しいタバコへ着火する。 三郎太がこの場を盤上と捉え、大局を見ている。 ならばレイザータクトとして、できる事は自明。紫煙を吐く。嫁が急かす。 マコトはレールガンを起動させた時、バイデン達が射撃の射程内に入る。罠地帯へと突入する。 バイデンや巨獣用に掘られた落とし穴等の罠の数々が発揮される。 「今です!」 鬨の声。 三郎太のピンポイントが脚部を狙う。 フランシスカの暗黒が青墨色の闇ごと薙ぎ払う。 アラストールのジャスティスキャノンが十字に穿つ。 彩音の斬風脚が風を切る。 マコトのレールガンより、様々な効果を伴う魔弾が撃たれる。 マリルの発射台からの巨大な矢。 続くヘキサからもう一本。 リセリアがソードエアリアルでもって空を舞い、次々と斬っていく。 一斉射撃が注がれた。 ●狂奔の橋上戦 -Narco bridge- 一斉射撃で舞い上がった土煙が、月光を遮る。 しかし、地を伝い、足へと伝う震動は止まらない。リベリスタ達が第一段階を終えて橋まで後退した。 橋での迎撃体制。三郎太のインスタントチャージが施される。 ここへ、土煙の中から隻腕のバイデンが躍り出た。 後ろに二人のバイデンが続く。馬の如き巨獣も在る。 しかし、ソードエアリアルによる混乱。同士討ちの跡がある。全く無傷ではない。 更に、マリルの発射台から飛来したものが、バイデン一人を落馬させる。 バイデンが三つ、巨獣が三つ。そのうち一対は落馬し、手負い。 残りは六。第一段階は成功といえた。 「―ッ―ッ―ッ!!!」 隻腕が、豪胆な笑いを上げた。率いていた部隊の有様を見る。 唸るような雄叫びと共に、落馬していない者と共に突撃を再開する。 リベリスタは各々の自付でもって備える。 マコトはレイザータクトとしての思考を巡らせる。この場に回復の使い手がいない。 いかに被害を抑えるか、分散するか。ディフェンサードクトリン。防御の分析。 「ああ、そうしよう」 嫁が言う。いざとなれば、自身を狙わせる事も寛容しなければならない。 「ここからが正念場だぜ……!」 ヘキサが風のように発射台を離れ、後衛位置へと次ぐ。 ここに二騎のバイデンが濁流のように突入した。 リセリアに。 アラストールには隻腕が。 衝撃。 「……っ……!」 全身が軋む。全身が軋む。全身が軋む。 リセリアがうめき声混じりに、自身の得物の銘を呟く。 剣を纏う蒼銀のオーラが、粒子のように散る。折れまいと耐えているかの様だった。 「その歩み、倒れず止めて見せよう!」 アラストールが超重巨獣の鼻先を打ち据える。打ち据えるが胸部へと押し込まれる。 衝撃が身体を突き抜けて、後ろへ抜けるような感覚。 口までせり上がってくるものを飲み下す。 後列への被害は薄い。 突貫に備え、直撃を避けんとした甲斐あったか。 受けきる。 しかし終わらない。即座、隻腕のバイデンが動く。 他の前衛、フランシスカと彩音を巻き込む様に、異形の風車が回る。 アラストールが受け流し、威力が削がれたものをフランシスカが大太刀が迎える。 迎えるが身体ごと持っていかれて、彩音へと叩きつけられた。 喀血。 「出した分は貰わなくちゃ……よね?」 「同じく」 血を拭いながら彩音とフランシスカは立ち上がる。 立ち上がる即座、隻腕の乗騎へと躍りかかった。 「どんな味がするのか楽しみね」 「奪命剣!」 反撃とばかりに吸血と奪命剣を注ぐ。 隻腕は抗う。 いつの間にやら咥えていた手綱を放している。しかし落馬の気配は微塵もない。 突如、フランシスカの眼前に黒い平面が現れた。 大太刀が妨げられる。見ればその平面は巨鉈の側面。 隻腕を見る。 嗚呼、嗤っている。 フランシスカの脳裏に、ふと"自分も似た貌をしているのだろう"という考えが過ぎった。 「……ふふ」 彩音が回りこむ。彩音も強気を崩さない。 護るべきもの、良き隣人たちの笑顔を胸裏に浮かべ―― 「いただきます」 ――硬い鱗ごと噛み千切る。 苦痛を覚えた巨獣が、嘶きとともに前足を宙に泳がせた。 「バイデンの血で口直しができるといいわね」 その血は美味くなかった。 リベリスタ達は各個撃破を念頭に迎撃した。 最も傷ついているものを最優先。目標として注がれた者は、隻腕の乗騎。 もう一対のバイデンへの攻撃は薄い。 バイデンが乗騎の脇腹を踵で蹴れば、嘶きが起こって再突撃の態勢に入る。 「ワリィな、今ここ通行止めなんだ、よッ!」 ヘキサの赤い脚甲が軌跡を描く。 「も、一回!」 ヘキサの狙いは最大限に隻腕。 しかし、後衛から前衛へと切り替える際に進路上にいた者は、名も無き騎兵だった。 だが野放しにする理由はない。ここで麻痺を施せば隻腕を叩く邪魔にはならない。 「止まりましたか」 リセリアが立ち上がる。赤い軌跡の後に蒼銀が舞えば、一対のバイデンの動きが完全に止まる。後は各個撃破のみ。 前衛を固めるリベリスタ達の思惑が一致する。 ――まずは落とす。 三郎太とマコトは被害軽微であった。この故に一歩引いた目線で観察に徹することができた。 眼前には気魄が渦巻いている。 「次の課題です」 三郎太が、もう一対の騎兵の存在を見る。 一度落馬させていたバイデン。時間差での突貫。 「弱ったものだね」 マコトも応じる。 リセリアとヘキサが一対を対処。 アラストール、フランシスカ、彩音は隻腕を囲んでいる。 あの威力。突貫を許せば、突破される可能性が出てくる。 思索―― ――巨大な矢が飛んだ。 時間差で迫る騎兵の乗騎に突き刺さる。 突進を止めるには至らないが、動きは弱まった。 「にゅっふっふ……かしこいねずみ、たくみなねずみ、これくらい出来て当然なのですぅ!」 発射台を、使える限り使いたいと粘っていたマリルだった。 その心持ちは純粋に一つ。野蛮なやつをやっつける。皆が一生懸命作った施設を守る。守りたい。 マリルは魔力銃を持ち、急いで合流へと動き出す。 「良し」 マコトは予め巨獣を水堀りに落とす事を考えていた。一体は麻痺。一体は囲みができている。策の使い所はここだと決する。 気魄の渦の端をすり抜けて水堀りを背に、式符・鴉を放る。 鴉が舞い、時間差で迫るグバルグバンを穿つ。 巨獣が標的を変える。 突撃の衝撃がマコトを襲った。 そして時間差で来た騎兵と共に、マコトは水堀りへ落下する。ダメージは大きい。 着水と同時に、グバルグバンに刺さっていた発射台の矢が、巨獣自身の重みで押し込まれる。 これが決定的な所を貫いた様子だった。 騎乗していた者が立ち上がり、マコトへ襲い掛かる。 「腕が大きく発達した彼らも、足は見たところそれほどでもないようです」 三郎太がピンポイントを放つ。 「で、あれば足へのピンポイント攻撃で機動力を落とすのは――」 淡々とした調子で、バイデンの脚部を攻撃する。 「――有効性が高いのではないかと考えます」 水堀りの内。 這い上がろうとすればマコトの鴉が舞う。 マコトを狙えば三郎太のピンポイントが飛ぶ。 「破滅のオランジュビームなのですぅ!」 マリルが追撃のようにアーリースナイプを撃ちこむ。 水堀りに落ちたバイデンが耐え切れずに膝を着く。 ほぼ同時に、隻腕の乗騎も崩れ落ちた。 ●果てる時は戦場、我が剣の下 -Avala- ついには水堀りの中での戦いと至る。 もう一対の騎兵への対応が難しく、突破されると判断した結果だった。 ――後は地力のみ。 堀の中の深い闇。喧騒と金属音が反響してこだまする。 切り結んでいた隻腕のバイデンが、突然巨大な鉈を堀に突き立て、高らかに声を張り上げた。 「――――!」 バイデンとのコミュニケーションは不可能。 奇妙なアクセントを伴った言葉は「A、V、A、L、A」と聞こえたような気がした。名だろうか。違うかもしれない。 「――戦士の言葉は、此れと、決まっている」 アラストールが高らかに剣を掲げると、隻腕は満足そうな笑みを浮かべた。 剣を構え直して飛び出す。隻腕が巨鉈を逆手に掴む。振るう。 反響する音は、金属同士の甲高いものではなく、ただ鈍い。 続く迫り合い。 隻腕が唸り声を上げる。巨鉈に更なる力が加わる。眼前の巨大な腕に血管が浮く。 アラストールは、剣ごしに凄まじい重圧が覚えた。 水上移動を行使しているにも関わらず、足元が、身体が沈む。 「雄ォォォォッォオオッ!!」 アラストールが隻腕の巨鉈を弾き返す。反射の光が隻腕を焼く。 光に乗る様にヘキサが動く。 「走って!」 「跳んで!」 「蹴ッ飛ばすッ!!」 ヘキサが放ったソニックエッジが隻腕の顔面、巨獣の頭骨を砕く。 現れた顔は、他の若々しいバイデンとは違い、やや歳を経ていた。 バイデンの気質を考えれば、おそらくは古参に分類されるであろう者。 欠けた腕。異形の腕が物語る。 風車が再び回って、ヘキサを襲い、周囲に居た者も全て薙ぎ払う。 回復手がいない状況。被害は累乗のように蓄積されていく。 「痛っ、力尽くなヤツは嫌いじゃねーぜ、シンプルでさ」 隻腕は、巨鉈の重さを感じさせない様に、次を構える。 ミヂリッッと異形の腕が更に太くなったような気がした。 「教えてあげましょう。勝って当たり前なのが戦いでは無いという事を」 ヘキサに続いて、リセリアもソニックエッジを放つ。 赤い軌跡が通った跡を、蒼銀の軌跡がなぞる。 「――生き残ったならば、またいずれ戦おう」 アラストールの、リーガルブレードが隻腕の胴を袈裟切る。 「破滅のオランジュ……。ああ! 考えてなかったのですぅ!」 マリルのアーリースナイプが、傷口を更に穿つ。 「キミ達には、もう戦況を覆す力はありません」 「何とか、やりきれたかな」 三郎太のピンポイントが脚部を狙い、マコトの鴉が舞う。 猛攻撃を受けつつも、隻腕は巨鉈を掲げるように上へ、上へ、腕を運ぶ。 最上段に達した瞬間――地が揺れた。 隻腕の視線の先は、およそ同じ高揚を共有したであろう者。 「――――ッ!!」 フランシスカ。 振り下ろされた全力の一撃に、堀の水が波紋を立てる。 受け止めた大太刀ごしに、衝撃が下る。 およそ三度、運命の助けを求めても、飽き足りぬ程の破壊力。 目から頬を何かが伝う。口角から顎下まで何かが伝う。 涙などではない。おそらく赤い。 「……疲れたぁ」 呑気な調子で、運命の一片を濁流へと注ぎ立ち上がる。奪命剣が隻腕の肩から胸部までを盛大に斬る。 「お仕舞い」 彩音が隻腕の喉元の肉を削りさった時、激流はあっけなく静かになった。 ●そして荒野に破壊の塊 -Graveyard- 最後まで生き残っていたバイデンがいた。 麻痺が解けると咆哮を上げ、得物を振り回したが、覆すには至らなかった。 遠くでグレイト・バイデンの突進音が響く。 橋頭堡の内部からは喧騒が鳴る。 既に突入が済んだバイデン達がいる様子だった。 勝敗の行方は未だ分からない。悠長ではいられない。 対隻腕へと集ったリベリスタ達は、各々次へと向かった。 この場。ここに残ったものは、立ったまま事切れた隻腕のバイデンと、その配下の亡骸のみである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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