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<バイデン襲来>Defensive Attack!

●バイデン来襲
 三つの月が登る夜空。森で冷やされた風が肌を撫でる。
 ラ・ル・カーナ橋頭堡、その外壁。その時間。この場には2人のリベリスタが鉢合わせていた。
「こんばんは、状況はどう?」
 掛けられた声に監視を行っていた方のリベリスタが肩を竦める。
 至って何事も無し。この地に人の目より優れる索敵装置は存在しない。
 元より見晴らしの良い荒野だ、多数の戦力を伏せる事は難しい。
 其処に来て昼夜を問わず監視の目が行き届いていれば、尚更である。
 この世界に来て暫く経つが、橋頭堡として設置されたリベリスタ達の拠点は至って平和その物。
 今宵も変わらぬ静かな夜。そうであった物。そうであった筈の物。
 けれど、そんな繰り返される“いつも”等と言う物はいとも容易く瓦解する。
「……ん? 何だあれ」
 どちらからか、ゆるりと流れる時間を切ったのはそんな声。
 互いに彼方へ視線を向けたか。其処にぼんやりと浮かび上がる白い影。
「……えっ?」
 何かの見間違いかと思えたのは、距離も去る事ながらそれが月光を反射しぼんやり光を帯びていたから。

 だが、そうではない。それは角だ。大きな。いや、むしろ巨大と言うべきか。
 巨大な角を生やした犀のような獣。巨獣、と言う単語に意識が至った段階で、
 監視のリベリスタ達の脳裏に最大級の警鐘が鳴る
「まさか……!」
 この世界で、巨獣が10体近いほどの大規模な集団を作る事等殆ど無い。
 それも、選りに選って橋頭堡の付近で。有り得るだろうか、いや――
「バイデン、か!」
 うっすらと白く光る影はどんどんその数を増やして行く。
 その背には確かに極々小さな赤い人影。間違いも無い。見間違える筈も無い。
 考えてみれば、戦闘種族であるバイデンが伏兵等と言う賢しげな真似をする所以も無かったのだ。
 憤怒と渇きの荒野の彼方、地平線よりゆっくりと迫り来るその無数の影に
 ぴりぴりとした緊張感と息苦しい様な圧迫感を覚える。小競り合いの時は、終わったのだと。

「報告を。俺は敵の情報を集める!」
「わ、わかった!」
 犀。サイ。様々な獣の中でも猪等と並び称される突破力を重視したフォルム。
 であればこれは明確に、分かり易過ぎる程に、敵はこの拠点を壊す気で来ていると見て間違い無い。
 ――既に状況は、一刻一秒を争うと言えた。

●狂騎兵
 巨獣『ヘビーライナス』と呼ばれるそれを駆るバイデン達。
 実に10を数えるその集団の先頭を行くのは一際濃い、赤黒い肌を晒した男。
 決して他のバイデンより巨大である、精悍である、と言った特徴がある訳ではない。
 強いて言えば、頭部に被ったヘビーライナスの骨が異色と言えば異色だろう。
 だが、その男こそがこの“群”の長である事を、疑う者はこの場には誰も居ない。
 他のバイデン何が違うと言うのか、外見では無い。易い物でそれを測る事は出来ない。
「あのイザークが退いたと言う“外”の者か」
 身に纏った血の香り。この場の誰よりも濃い、密なる死の気配。瞳には理性と鬩ぎ合う狂気の色。
 狂戦士と称される事も多いバイデンに在って、一度狂乱したら手が付けられないと言う意味で。
 『狂』と言う語がこれ程そぐう者も無い。バイデン『ベルゼド・デーヴァ』とはそう言う類の男である。
 故に、彼は文字通り狂喜していた。手折れば容易く朽ちるフュリエ等ではその闘争本能は満たされない。
「面白い、実に面白い。嗚呼、そうだ。バイデンは戦士だ。戦士は戦わねばならん。そうだな?」
 声を掛けられた隣のバイデンが大きく頷く――刹那その男の、頭部が血飛沫と共に宙を飛んだ。

「“違う”」
 発達した犬歯の様な牙を向き出しに、ベルゼドが笑う。
「戦わねばならんのではない、勝利せねばならんのだ。敗北するバイデンに意味が在ろうか。
 無い。無い! 無い!! そんな物既にバイデンでは無い! 生きるなら勝て! 敗けるならば死ね!」
 血を、死を、悪戦を、苦闘を、そして勝利を。
 そう掲げ、そしてベルゼドは事実勝ち続けてきた。バイデンの世界では力こそが正義。死とは敗北だ。
 彼がプリンスに従っているのも戦わずして、相手の格上を認めたからに過ぎない。
 戦っていたならば死ぬまで挑み、死んでいただろう。そして自らの死すらも呵呵大笑して見せただろう。
 故に、今首を落とされ何の意味も無く逝った1人のバイデンを、他の騎兵らが斟酌する事は無い。
 弱いから死んだのだ。敗北したから死んだのだ。そしてベルゼドは、この場の誰より“強い”。
 強い者は正しいが故に、畏怖の視線は拒絶と同義では無い。狂える戦士はされど偉大なる戦士なのだ。
「一切微塵に蹂躙せよ。飢えを満たせ! 命を尽くせ! 我らはバイデン、戦士である!」
『――応!!』
 怒涛の如く迫り来る。それは赤く赤く灼熱した、狂える騎兵の大行軍。

●橋頭堡外壁防衛戦
 異世界の拠点とは言え、アークの人員は決して過剰に余裕がある訳ではない。
 十分なリベリスタを常鎮させる事が出来ない以上、三高平と橋頭堡間には当然連絡員が必要になる。
 『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)がこの時、この場に偶々居たのはまるきりの偶然である。
 三高平からの補給物資他諸々と共にやって来た彼女は、今丁度帰路に着こうとしていた所だった。
 其処に――告げられる急転直下、バイデン来襲の報である。
 空を飛ぶ事に慣れたエフィカは、先ずその機動力を生かし慌てて外壁へと飛翔した。
「わっ、わっ、き、来てますよっ! 皆さんっ! こっちこっちっ!」
 巡り会わせと言うべきだろう。同様にその場に向かったリベリスタは彼女を含め計9名。
 迫り来るのは地響きを立てて駆ける犀の巨獣。その数やはり9。
 だが、よくよく眼を凝らせばそうでない事が知れる。巨獣を駆るのは赤い狂戦士。
 9人のバイデン、9体の巨獣。となれば倍する。数が足りない、圧倒的なまでに。
 更に聞こえる戦火の音。方々より響くのは鬨の声か。外壁は、橋頭堡は、この地点が全てでは無い。
 果たしてどれだけの数が強襲を仕掛けて来たのか知れねど、増援が期待出来る気配も無い。

 ――であれば、やるべき事など一つである。
「せめて、外壁だけは守らないと……」
 エフィカがぎゅっと、唇を噛む。悟ったのだ。今必要なのは勝算では無い、覚悟だと。
 迫る巨獣の影が実像を結ぶまで後どれだけの時間が有るか。
 既に言葉でどうこう出来る機はとっくに逸している。
 バイデンの気風を加味すれば、それは無意味以下の結果しか招くまい。
 巨獣の重量に犀の突破力まで考慮すれば、外壁に無事辿り着かれた時点で甚大な被害は免れない。
 外壁、高所、そしてバイデンの騎兵が外壁に到達するまでの時間的猶予。
 監視の成果である。与えられた利は決して少なくは無い。だが、それで十分かと言えば答えは否。
 ならその不足を埋めるしかないだろう。力と、知恵と、命を賭けて。
 見回すエフィカに、誰とも無く首肯する。守るべきは唯の防壁それだけではない。
 この地が制圧されたなら、次にバイデンが向かうは“外”。ボトムへ雪崩れ込む危険性は極めて高い。
 背に圧し掛かるはこのラ・ル・カーナの地のみならず、彼我の趨勢その物である。

 アークの一員として、リベリスタとして、それを見過ごす事など出来よう筈も無い。
 三つの月が見下ろす夜。静夜を裂くは忌み子達の咆哮。
 開戦の狼煙は、上げられた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月29日(日)23:44
 68度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 エフィカさん同行シナリオ初HARD。気合を入れて御参加下さい。以下詳細。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

●作戦成功条件
 外壁を突破されない。
 バイデン騎兵隊を撤退させる。

●バイデン
 赤い肌、剥きだしの牙、太い腕の巨人です。体長は平均二メートル程度。
 総じて高い戦闘能力を持ち、力任せの戦い方を好みます。
 非常に強靭で、自己再生能力を持つ事が確認されています。
 なお、『タワーオブバベル』がない限り、言葉は通じません。
 過去の遭遇記録から得られる情報は勿論有効ですが、
 万華鏡が使えない為どの様な攻撃を行って来るかは仔細不明です。

●バイデン『ベルゼド・デーヴァ』
 騎兵隊のリーダーである犀の骨を被ったバイデンです。
 長い棍棒を武器とし、他のバイデンと一線を隔した凶悪な戦闘能力を誇ります。
 騎兵隊は『ベルゼド』が討伐or撃退されるか、
 標準的なバイデン8名の内5名以上が討伐される事で撤退に移ります。

●ヘビーライナス
 高さ四メートル、体長六メートルほどもある巨大な犀。
 バイデンに飼われておりある程度『馴れて』いますが、元々闘争本能に溢れた種です。
 一旦興奮すれば乗り手の意志すら超えて突撃し、その角で敵を抉ります。
 また、乗り手が死亡した際も制御不能の状態に陥る様です。
 突進には貫通及びノックバック効果、角での突き刺しには圧倒効果があり、
 直進に限り全力移動で1ターンに30m移動する事が出来ます。

●エフィカさん 
 命中特化型神秘系スターサジタリー。
 指示等頂ければその様に。放っておいても一生懸命支援攻撃をします。
 但し、指示が無かった場合最後の最後まで諦めず戦場に残ります。

・保有戦闘スキル
 1$シュート、シューティングスター、スターライトシュート、アーリースナイプ

●戦況情報
 騎兵の敵影と橋頭堡外壁間の距離は約100m。
 橋頭堡の外壁に到達するまで30秒(3ターン)程の猶予が有ります。
 また、外壁上からの遠距離攻撃は射程が倍加する物として扱われます。
 外壁の上に登っている限り、近接攻撃で敵を攻撃する事は出来ません。
 
 外壁はヘビーライナスの突撃を計10回受けると小破。
 20回受けると中破、30回受けると大破します。
 中破した時点で依頼は失敗となり、大破した場合以後に大きな影響が残ります。

●拠点情報
 ラ・ル・カーナ橋頭堡には各種設備が用意されています。
 詳しくは特設コーポレーション『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の説明を参照して下さい。
 今シナリオの判定には『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の各種設備の存在や特殊効果が影響します。
 シナリオの内容に応じて利用出来そうな設備やロケーション等をプレイングに生かしても構いません。

●重要な備考
 『<バイデン来襲>』はその全てのシナリオの成否状況により総合的な勝敗判定が行われます。
 勝敗判定の結果により『ラ・ル・カーナ橋頭堡』がダメージを受ける可能性や、
 陥落し消滅する可能性があります。
参加NPC
エフィカ・新藤 (nBNE000005)
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
デュランダル
ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)
スターサジタリー
リィン・インベルグ(BNE003115)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
ダークナイト
ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)

●外壁の下で
 血の香りが混じった風が吹く。彼方より、此方より響く鬨の声は止む気配すらない。
 遠く見える巨大な影は、何だろう。あれも巨獣であるとするなら一体、この場所にどれ程の戦力が――
「これ程緊迫感のある戦場は初めてですか?」
 柔らかく響いた源 カイ(BNE000446)の声に、エフィカが僅かに強張った表情で小さく頷く。
 彼女とてプロトアーク時代からアークに関わっている歴戦のスターサジタリーである。
 交戦経験はそれ相応に、危険な仕事を請け負った事も無いでもない。
 が、昨今それらリベリスタ本来の業務から離れて久しく、その間アークがどれ程の苦境を経て来た事か。
「せっかく皆で作った橋頭堡ぉ。そう簡単にはぁ壊させゃぁしないさぁ」
 『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)が普段の調子で飄々と口にする、その様こそが脅威である。
 明らかに緊張した体を隠す余裕も無く視線の泳ぐエフィカを眺め、御龍が笑む。
「エフィカちゃんもぉそんな緊張しないでぇ、りらっくすぅりらっくすぅ」
 そうは言われても。遠く上がる砂煙、時間的猶予は然程ない。
 焦った頭が空回るも、それを見て取ってかカイが緊張を解す様に笑い掛ける。
「大丈夫、僕らも頑張りますから落ち着いていきましょう」
 仕事が終わったら、珈琲とスイーツをご馳走しますよ、と思いも掛けない言葉に少しは気持ちが解れたか。
 期待してます、と頷けばその背をちょんちょんとつつく指。
「ひゃっ」
「新藤嬢、時間も無いからそろそろ行こう。出来ればその羽を有効活用してくれると嬉しいかな」
 『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)の言葉に我を取り戻せば、確かに。
 歓談している余裕は然程無い。お互いの武運を祈りながら、翼を広げたエフィカがリィンの肩に手を掛ける。
「分かりました、行きます!」
 羽ばたく、その瞬間。手を挙げたのはツァイン・ウォーレス(BNE001520)
 更にはその後ろに控えた『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)より掛かる声。
「悪い、俺も頼めるか」「すまないが俺も頼みたい」
「……えっ?」
 両者とも、その風体は明らかに射手のそれではない。恐らく何らかの意図が有っての事だろうが、
 流石にエフィカも面食らう。その上フライエンジェが運べるのは大人1人が限界だ。
「じゅ、順番で宜しければっ!」
 しかしそれでも、階段を探して上がるよりは多少早いだろう。
 若干のタイムロスは覚悟の上か、まずはとリィンを連れたエフィカの影は遠く外壁の上へ。
 そして下に残された銘々、既に敵影は肉眼で見える距離。迫る足音は重く、低く。
「此処は彼らの世界だ。彼らの流儀で退けるのが、礼儀って物なのかね」
 重厚な散弾銃を背負い、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が門を潜る。
 此処は地獄の三丁目。血風吹き荒れる――戦場である。

●弓を射る者
 外壁の上、見下ろす世界は一面の荒野。其処に設置された大きな弓を見留め、エフィカが目を丸くする。
「君も立派なリベリスタだもの、ここから先は一々細かく指図しなくても出来るよね?」
 突然に降ったリィンの言葉に、慌てて其方へ目線を向ければ彼は彼とてその瞳は周囲を巡る。
 拠点に於ける射手の役割、その際たる物が外敵の接近を妨げる事に有るのは言うまでも無い。
 エフィカもまた、戦場に立つ以上覚悟は決めている。こくりと頷く仕草を見て、悪戯っぽくリィンが笑む。
「……なんてね、ほら、下をご覧よ」
 けれど、同時にその辺りが手馴れなさでもあるのだろう。リィンは其処で敢えて下を指差す。
 壁内から外へと歩みだす人影は小さく、巨獣を前にあまりに頼りなく。けれど――
「彼等は、これからやってくる力の暴風をその身を挺して食い止める為に下にいる。
 その頑張りを無駄には出来ないよね?」
 視野の広さは、射手に必要な資質だ。その言葉に、真剣な眼差しでエフィカが応える。
「はいっ、必ず皆で、無事に帰りましょうっ!」
「良い返事だ。さあ、シューターの腕の見せ所だよ」
 らしくもない、と自嘲しながら。それもまた、齢の成せる業だろうか。
 エフィカと、そしてハーケイン。2人の射撃手が配置に着く。
 射程圏までもうほんの僅か。それでも躊躇も不安も一握の恐れも、その全てを覚悟へと換えて。
 発射台より放たれる一矢は人が射るそれより遥かに大振りな物。
 その一本が、巨大な犀――ヘビーライナスの重厚な皮膚を狙い違わず貫き、穿つ。
『何だ! 右翼どうした!?』
『撃ってきたぞ、何だこれは!!』
 突然の衝撃、暴れだした乗騎の制御を誤り一人のバイデンが地上へと転がり落ちる。
 当然それで致命傷を負ったりはしないが、戦場へ到達するタイミングが遅れる点は間違い有るまい。
『鎮まれ! 恐らくは“外”の者らの武具だろうが、先じて撃って来た事こそ我らを恐れる証に他ならん!
 迷うな! 惑うな! 猛進せよ! 木っ端の如き抵抗など一切等しく蹂躙する!!』
 ベルゼドの鼓舞に一瞬の混乱はすぐさま、元の荒々しい秩序を取り戻す。
 突貫を再開するヘビーライナス達の足取りは鋭く、猛々しく――されど。
「――やったな!」
 手を打ち合わせたツァインとエフィカに、揺るがぬ視線を外へ向け続けるのリィン。
 その声、その様、外壁上よりよくよく見れば見て分からない筈もない。
 頭部に被った犀の骨も相俟って、リィンにとってその姿は一目瞭然だ。
「ふふ……じっくりねっとりと苛めてあげるよ」
 小柄な体躯にそぐわぬ大きな弓から放たれるのは長射程を誇る呪いの魔弾。
 風切り音と共に放たれた一射に撃たれ、犀を被ったバイデンの体躯に血の花が、咲く。

『何騎撃たれた』
『2騎です、戦士ベルゼド』
 駆ける。駆ける。立ちはだかる者等何する物ぞと言わんばかりに駆け抜ける。
 先行する7騎の巨獣の群。だが、発射台から巨獣を射る事が出来たのは此処までだ。
 眼下、騎兵隊の直線上。外壁前に立ちはだかる、影もまた計7つ。
「……この橋頭堡を守る戦いが私たちの世界を守る戦い」
 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)がネクタイを緩め、対するバイデンらをひたと見据える。
 虚空を舞った光は翼を象り、彼の仲間達に飛翔する術を与えたか。
 けれど本来後衛たる彼とて、一歩たりと譲らぬと示す意気に、覚悟に劣りは無く。
「私の家族やその他の人々が暮らす世界を守るため、私は戦います」
「ああ、所謂背水の陣って奴だな。良いぜ、死力を尽くして……やってやろうじゃねえか!!」
 『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)が一歩前へと踏み出した、その瞬間。
 ず――と。響く轟音。それは地面が沈み込む、音。
『『な――!?』』
 塹壕の様に砦の壁外に設置された罠、其処に足を踏み込んだヘビーライナス2頭が姿勢を崩す。
 だが、全力疾走の最中である。姿勢を崩したからと言って即リカバリが効く訳も無い。
 足を取られ盛大に転んだ巨獣以上に、影響が大きいのは上に乗っていたバイデンである。
 慣性に従い放り出された彼らは荒野の大地で強かに体を打ち付ける。今直ぐ戦線に戻る事は出来はしまい。
「只管に敵である俺達に真っ直ぐ向かってくる……か。なるほど、余程腕に覚えが有る様だ」
 その様を、外壁上より見ていたハーケインがぽつりと呟く。
 少しでも迷いがあればあれ程見事に罠に掛かりはしない。だが、それは自信のあり様とも取れるだろう。
「――是非も無い、受けて立つ」
 外壁より跳び下りる。その手には愛用の片刃剣。彼にはやるべき事があり、彼にしか出来ない事がある。
『おのれ! おのれ! 小賢しい真似を!!』
 見るからに怒り狂うベルゼドに、けれどこのタイミングを待ち続けていた者が居た。
 彼からすればこの状況は正に好都合だ。相手が端から精神の均衡を崩しているのであれば――是非も無い。
「エフィカが受付にいなかったら皆寂しがるからな……」
 呟いたその言葉に、発射台を操作していたエフィカが目を丸くしたか、
 けれど聞いてか聞かずか、ツァインはもう一つ。彼女の気質を知ればこその無茶を振る。
「だから何があっても弓を引く手を止めないでくれ……信じてるぜ?」
「えっ? あのっ!」
 放たれたる十字の閃光は、この外壁を護る者達にとって号砲にも等しいそれ。

●立ち塞がる者
「小細工一切なし――我は力で語るのみ!!」
 御龍の振るった鉄塊が、ベルゼドの乗る巨獣の頑強な皮膚に突き刺さる。
 的が大きければ当て易い。道理であろう、命中に欠ける御龍にとって両者の相性は抜群と言って良い。
 巨大な犀の前足が撓む。一方で事火力に関して、彼女を凌ぐ者はアーク広しと言えどそうは居ないのだから。
「主らが狂戦士というなれば、我は凶戦士だ! 一騎残らず鏖殺する!」
『面白い! やってみせろ“外”の者!』
 互いに通じぬ言葉で以って、けれど両者どちらも戦と血に狂う者同士相通ずる所でも有ったのか。
 犬歯を剥き出しにバイデンらが猛る。その頭上、面接着を生かし巨獣の脚部を駆け上がり、
 跳び出したのはカイ。機械義手から放たれた銃撃で足を止めた一瞬の間に、騎乗するバイデンへと接敵する。
「腕に自信が有るのなら僕を叩き潰して見なさいな」
 手の甲を相手へ向け、招く様な仕草。それが挑発であると伝わったかは怪しい物の、
 けれど強者が前に在り挑まぬ。等と言う選択肢はバイデンにはない。
 交差する鉄甲と棍棒。極めて重い一撃を、カイもまた全身を用いて受け流す。
「やあ……まあ案の定こうなるわな」
 他方、罠によって騎乗したヘビーライナスより落下したバイデン2人。
 だが当然それで戦闘不能になるほど彼らは貧弱では無い。其処に追い討ちを駆けたのは重く響く銃声である。
「これでも未だトンデモない展開、とは言え無いんだろうね、世知辛い世界だよ全く」
 散弾銃の一射を全身に浴びてもけろりとしているバイデンらを嘆息交じりに眺めながら、
 喜平が一足距離を詰める。相手も体勢を立て直しつつある状況下、戦力的には端から劣勢なのだ。
 余り戯れている余裕も無い。再度放たれた弾丸は、他者を魅了し得る程の鮮烈さを以って――
 けれどそう。
『お前達は俺達と戦いたいのだろう?』
 各所で始まった死闘は、この一点の空白を生み出す為の布石に他ならない。
『ならば降りて来い。それともその巨獣を頼みにせねばならない程、俺達が怖いのか?』
 自分達と同じ言葉を使う事に、面食らったのはほんの一瞬の事。
 言葉が通じるかなどそんな物は瑣末事だ。強いか、弱いか。バイデンにとっての尺度はそれだけで良い。
『怖い? 笑わせるわ!!』
 跳び下りたベルゼドが周囲を見回す。対する敵影は四人。
 そう、四人だ。全メンバーの内実に半分が、此処に割り振られている。

『戦士に恐怖は無い、勝つか、負けるか……それだけだ!!』
 一瞬の憂慮も無い。距離を詰める、棒を振るう。其処に込められた莫大なまでの破壊力が炸裂する。
「――――っ!!」
 一閃は御龍の一撃にすら勝るとも劣らない。受け止めたツァインの体躯が弾き飛ばされ大きく後ろに下がる。
「こい……つは、冗談きついぜ」
 大型トラックに衝突しても此処まで全身が軋む事はあるまい。
 耐え切れたのは正に、元より護りに長ける練達のクロスイージスであればこそ。
「だったら次は――」
「こちらから行かせて貰う!」
 だが、それで動きが鈍るほど、彼らとて安穏とした日々を送って来た訳ではない。
 両手を剣に添えたディートリッヒが膂力の限界を超えて斬り込み、
 闇の魔力をこめたハーケインの一撃がベルゼドの精神を確かに切り裂く。
 吹き出す血飛沫を、けれど目視の範囲ですらはっきりと。徐々にその傷が癒されていく。
 バイデンの持つ自己回復能力。それを見聞きしていたとしても、べゼルドのそれは一際強い。
『どうした、“外”の者とはこんな物か!』
「上等だ……さぁ殺し合おう。喧嘩祭りの始まりだ!」
 ……だが、しかしだ。これに更に御龍が踏み込んだ瞬間。予期せぬ事態がリベリスタ達を襲う。
 地鳴り。動き出すのは騎者を持たぬ3騎のヘビーライナス。
 外壁上にはこれを居る発射台と、それを繰る緑髪の天使の姿。それは――巨獣らにとって外敵に他ならない。
「……! そうか――まずい!」
 一際早く“射手の射程圏でバイデンを抑えるように”注意を向けていたハーケインが気付く。
 バイデンと巨獣を分断するまでは良い。騎兵を騎兵のまま相手にするのは相応に骨が折れたろう。
 罠も、発射台も有効に作用している。だが、騎者を失った巨獣が暴走する前に、
 明確なターゲットを用意してしまった事。これは失策に他ならない。
「これはっ……あんまり、っ」
 何かを言おうとしたリィンの手元が大きく狂う。ヘビーライナスは壁へその角を打ち付ける。繰り返し、繰り返し。
 揺れる外壁。騎者を残すヘビーライナスは僅かに4騎。
 しかもその内1騎は背の上でカイと騎者が交戦しているが為に、その動きを止めている。
 であれば本来であれば十分あった筈の時間的猶予。けれど想定外の事態により、これが大幅に削られる。

「させません……此処は、通しませんよ!」
 京一の放った呪いの縛鎖が更に1体巨獣の足を縛り止めるも、
 其処へ発射台からの射撃で落とされたバイデン達が追い付いて来る。
 喜平は2人、カイは1騎、いずれも其々バイデンを食い止めている為に身動きが取れない。
「……まずいな」
 状況を把握したツァインの視線が、一瞬。外壁上の発射台を振り仰ぐ。

●バイデンは折れず
「もっとだ、もっと我を楽しませろ!」
 笑いながら刃を振るう、御龍の体躯が己の血と返り血で赤く染まる。
 その様は、あたかも戦に狂うバイデンその物。にやりと笑ったベルゼドが、応じて棒で受け止める。
『貴様、“外”の者等と言うのは嘘だろう。これ程の戦士がバイデンでない筈が無い!』
 喉を鳴らす様な仕草は、この状況を心底愉しんでいる事を証明する。
 だが、それを解すハーケインはこの状況をそれ程楽観視出来ては居ない。
「っ、時間が無いと言うのに……」
 リベリスタ達は明らかにベルゼドを押している。精神を刻むダークナイトの業はその動きを阻害し、
「おぉおおおおおお、ぶっとびやがれえええええ――!!」
 ディートリッヒの一撃が怒りを助長する十字の閃光を放ち続ける、
 ツァインへと接敵を試みるベルゼドを吹き飛ばす。火力も、そして継戦能力も申し分無い。
 時間さえ有れば、彼らは問題無く敵の首魁を討ちその役割を終えていたろう。
 だが――
「これで、どうですっ!」
『何だ、これは!?』
 その頃一騎の巨獣の上。動きを封じるは気糸の網、奔流の如きそれに体躯を絡め取られたバイデンがもがく。
 続けて叩きつけられるは致命の黒い影。カイの放った一撃に血を吐いたバイデンが動きを止める。
「やってくれるね、いや、本当――勘弁して欲しいんだけど」
 2名のバイデンを表に回し大立ち回りを演じていた喜平もまた、
 同士討ちの間隙を縫う様にバイデンの頭部へ銃口を押し当てる。重い銃声2つ。事切れたバイデンが荒野に墜つ。
 だが、本職の前衛である両者と異なり、片や追い詰められている者も居る。
「これは……いや、しかし」
 振り下ろされた木剣が荒事には向かないその体躯を強く強く打ち据える。

 けれど、京一の視線はそちらにはない。左右をバイデンに囲まれながら、
 彼は只管に仲間を癒し、そして巨獣の動きを縛る。だが如何せん、彼の狙いと仲間達の狙いが噛み合わない。
 対複数攻撃を主として用いる者は無く、呪印は何れ自然にでも解除される。
 1人に負荷が掛かり過ぎているのだ。この上戦闘に力を割く余地等有る物か。
「ですが、それでも……やらなければならないことも有るのです」 
 決意と共に、運命を削る。それで稼げた時間は、果たして幾許か。
「……18回……っ」
 ツァインが防壁を見る。やらなければならないこと。そう、彼もまたそれが必要であると決断する。
 駆ける。後背でぶつかり合う仲間達を背に、自分より遥かに巨大な獣達のその眼前へ。
「オオオォォォ―――ァァァアアアアッ!!」
 それは盾であり、同時に、殉教者の様ですらある。
 彼は信じた。きっと、仲間達は為してくれる。この数秒で、決着を付けてくれると。
 その身を貫かれ、身を捨てて、削られたのは運命のみでは無いだろう。
 発射台を動かしていた緑の少女の手が止まる。凍り付いた数秒間。ハーケインが――踏み込む。
『例え実力で劣っていようとも……勝利への執着でお前達には負けん!』
 振るった剣戟は文字通り、命を奪う為の一撃。だが、鮮血を撒き散らしながらベルゼドがにっと口元を歪ませる。
『――それでも、勝つが故のバイデンよ』
 死の淵で、直立つ。それが分水嶺。再度突貫を果たした巨獣が堅固な外壁に大穴を打ち空ける。
 上がったのはバイデンらの歓声か。どうっと倒れ伏したベルゼドには、それも聞こえてはいないだろう。
 戦士は勝利し、勝利し続け、勝利して死した。
 刀を手に、その亡骸を見つめ、御龍が奥歯を噛む。覚悟で、気概で、執念で、負けたとは思わない。それでも――
「我を前に……勝ち逃げか」
 その声は、静かに。けれど何処までも、悔しげに。悔しげに。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ハードシナリオ『<バイデン襲来>Defensive Attack!』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

外壁中破後ベルゼド討伐。惜敗です。
やや個々の認識がばらけていた物の、基本軸は決して間違っていませんでした。
この方針で成功することも十分有り得たでしょう。
ですが致命的に時間が足りませんでした。原因は作中に込めさせて頂いた心算です。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。