●黒猫 闇に落ちた町を駆ける影が二つ。 一つは列記とした人間。牧師のような聖職者の服装をした男が首から下がる銀のロザリオを握り締める。 一つは明らかなる異形。素体となった犬の姿を一度粘土の様に潰され適当に修復されたような、そんな醜い姿。 二つの影は一つの空き地へと辿り着き相対する。 「不浄なるモノよ。ここは汝の在るべき世界ではない」 牧師の男が銀のロザリオを輝かせるとその手には何時の間に儀礼短剣が握られていた。 異形の犬は一つの遠吠えと共に跳躍、目の前にいる生き物の首筋を食い千切らんと常軌を逸した速度で迫る。 だが、牧師の男の目前まで迫ったところで異形の犬は突然に横合いから放たれた白い弾丸に撃たれ直角の方向に弾き飛ばされた。 地面を転がった異形の犬が起き上がろうとすればさらに十数の白い雨が降り注ぎその身を削る。 よろめく異形に犬に牧師の男はゆっくりと近づき儀礼短剣を一瞬ブレさせる。次の瞬間には四肢を解体され首をも刎ねられたナニカの遺体だけが残った。 「お疲れちゃーん。今日も楽な仕事だったな」 異形の犬の遺体へ向けて祈りを捧げている牧師の男の背後に現れたのは迷彩服に身を纏う傭兵風の女性だった。 「楽な仕事などありません。今日もこうして一つの命が……」 「あー、はいはい。お前さん腕はいいけど会話は固くててんで駄目だよな」 くどくどの説教を始める牧師の男に、手にしたライフル銃をくるくると回して傭兵の女は溜息を吐く。 その時にざあっと風が吹き、空に浮かんでいた雲が流れて隠れていた月が顔をだす。何もない空き地に僅かな明かり。そして伸びるは三つの影。 「っ! 誰だよ」 在り得ない三つ目の影にライフルの銃口を素早く向ける傭兵の女性。しかし、そこには予想したようなナニカの姿はない。 疑問符を浮かべる傭兵の女性に牧師の男がちょんとその肩を叩く。そして女性の視線より大分下の方を指差した。 「……猫か?」 「ええ、黒猫ですね」 そこに居たのは一匹の黒猫。今まで見えなかったのは暗闇にその体の色を同化させていたからだった。 そしてこの黒猫からは害意やら何かは全く感じられない。傭兵の女性は溜息を吐いて銃口を下ろす。 黒猫はもとより二人の人間の存在など気にしてない様子で我が物顔で空き地を歩き、解体された異形の犬の遺体の前でぴたりと止まる。 「ああ、それは流石に――」 もしかしたらと思うがエリューションの遺体を食べてこの黒猫がどうにかなっては困ると牧師の男がそれを止めようとする。 だが、それよりも前に黒猫は一つ鳴いた。 ――リイィン 猫の声に合わせて鳴る鈴の音。それが聞こえたと思った瞬間に二人は目を疑う。 「おいおい、どうなってんだよ」 気づけばそこには何もなくなっていた。黒猫の姿も、あったはずの異形の犬の遺体すらも。 ●噂話 最近、アークの一部で話題になっている噂がある。 何でもエリューションを倒し終えるとひょっこりと現れ、鈴の音と共にその遺体を持ち去るおかしな存在がいるのだと。 「死体攫いの黒猫か」 その噂はフォーチュナである『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の耳にも届いていた。同じ黒猫としては思うところもあるのか難しい顔をして唸っている。 ふと、リベリスタ達の視線に気づいたのか伸暁は誤魔化す様に一つ笑みを浮かべてそれぞれの端末へと情報を送る。 「今回の仕事はどうってことはない。お前達なら簡単な仕事だよ」 端末に映された情報は敵の詳細、出現時刻、戦域区画など細かなデータが揃っている。 リベリスタ達がそれぞれの装備を揃えたりする為にブリーフィングルームを退室するのを見送り、伸暁は今一度あの噂話を思い出す。 「……黒猫ね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:たくと | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月02日(木)22:23 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●路地裏片付け 現場に到着したリベリスタ達はまずは東西北の出入り口を封鎖する作業を始めた。 路地裏に転がっていた看板や、自前で持ち込んだ物品をもってテキパキと路地を塞ぐ。 「よし、これで完璧ね」 目の前に完成したバリケードに『ガンナーアイドル』襲・ハル(ID:BNE001977)は満足げに頷く。 そこには縦にされた真っ白なスワンボート。そう、公園の湖とかに浮いてるアレだ。普通なら持ち運ぶというレベルではないのだが、そこは幻想纏い(アクセス・ファンタズム)様々と言ったところである。 っと、そこで腰に備えていたトランシーバーに通信が入る。 『付喪だ。東の封鎖は完了したぜ』 『西側も今しがた完了した』 トランシーバーの向こう側にて『黒腕』付喪 モノマ(ID:BNE001658)が報告を行う。それに少し遅れて『夜より暗い闇』八雲 蒼夜(ID:BNE002384)からも連絡が入った。 これでこの路地裏は封鎖されたと言っていいだろう。 「それじゃ、一匹も逃がさないように頑張るわよ!」 ハルの言葉にモノマと蒼夜はそれぞれに了解の意を返す。 その様子を高くから見下ろす影が一つ。また人知れぬところで語られぬ物語が始まった。 路地裏を進む側のリベリスタ達は早速一つの分岐点に辿り着いていた。 迷路のようになった路地裏を地図で確認し、行き止まりである方向へと探索班が進む。 「見つけたよ。見た感じ鼠かな」 『食堂の看板娘』衛守 凪沙(ID:BNE001545)が告げる。その紫色の瞳には普通ではとらえ切れない視界の熱情報を受け取り視覚化する力が宿っている。 凪沙の言葉通りに奥まった路地からゾロゾロと小さな鳴き声を上げながら数十匹の鼠が迫ってきた。 「鼠が相手なら任せてっ」 両腕に装着した刃付手甲を構え『臆病ワンコ』金原・文(ID:BNE000833)は一歩前に踏み出す。 前に出てきた文に向かって一斉に飛び掛る鼠達。文は慌てずに体全体に力を流し込み、その体が動くがままに手甲を振るい刃の陣を形成する。 その陣に飛び込んだ鼠達は瞬時に細切れにされ、ボトリベチャリと音を立てて床に落ち壁へと当たりその場を赤く染める。 「へへん、どんなもんだい!」 粗方の鼠を吹き飛ばした文はえへんと胸をはりふさふさの尻尾を大きく揺らす。 と、突然に頭上が明るくなり二つの青い光弾が路地の奥へと撃ち込まれる。そして僅かながら小さな鳴き声が聞こえた。 文と凪沙がそちらを見ればゴスロリ服を身に待とう『運命狂』宵咲 氷璃(ID:BNE002401)が背にある翼を羽ばたかせながら軽く正面へと手を翳していた。 「駄目よ。鼠は一匹でも逃したらすぐに増えてしまうわ」 氷璃はにこりと微笑み日傘をくるくると回す。それに文はたははと苦笑いを返した。 三人はここにはもうエリューションはいないと確認して分岐路まで戻ることにする。 「怪我はないな。なら任務を続行する」 分岐路で待機していた『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(ID:BNE000680)は三人の様子を確認し先へと進む。 「あら、死体回収の方はされなかったのですか?」 三人が持っていった死体袋が膨らんでいないのに気づき『蛇巫の血統』三輪 大和(ID:BNE002273)が小さく首を傾げる。 凪沙が鼠が相手で攻撃によって回収できないくらいにバラバラになったり消し炭になったことを説明すると、大和はなるほどと小さく笑って納得した。 その時、突然に大和は片手を頭上へと向けて振るう。それと同時に放たれた飛刃が柔らかいナニカへと突き刺さる。 大和の行動にすぐに合わせたウラジミールは闇夜にて突き刺さった刃の閃きを見つけ銃口を向けると同時にすぐさま引き金を引く。 銃声が鳴り止むと同時に地面へと灰色交じりの猫が地面へと落ちてきた。 「回収を頼む」 言葉身近にウラジミールそう告げて正面の警戒へと入った。 路地裏にて捜索班がエリューションと戦っている頃に出入り口側にも襲撃があった。 「ふふっ、まさしく私の腕の見せ所ね」 ハルは路地裏の向こうからこちらに向かってくる気配に気付き、両手にハンドガンを顕現させる。 現れたのは数匹の鼠。転がっている潰れたダンボールやゴミ箱の裏へと隠れながらに接近してくる。 しかしその程度で目標を見失うハルではなかった。 両手を前に突き出し同時に引き金を引く。弾き出された弾丸は寸分違わず鼠の胴体を捕らえその命を砕く。 瞬く間に弾倉を撃ち尽くし、銃身からは僅かな熱が伝わってくる。 「アンコールならお答えするわよ」 さらに迫ってくる気配に両銃の弾倉を交換しながらハルは鋭い犬歯を見せて笑った。 そしてハルとは違う東口を守るモノマにも何者かが近づいてくる。 「ワンコロか」 牙をむき出しにして唸りを上げる犬エリューション、数は二匹。モノマはゆっくりを構えを取り迎え撃つ。 犬は前後に分かれてモノマへと襲い掛かる。それに対してモノマはニヤリと口元を歪ませた。 「斬り裂けえっ!」 脚に風が絡みつき振り抜くと同時に疾風の刃となって犬に迫る。前の犬は飛び上がり、地面を削る風の刃に後ろの犬は急停止を余儀なくされる。 モノマは一足のうちに飛び上がると空中で姿勢の制御もままならぬ犬エリューションの腹を抜き手をもって刺し貫く。 「さあ、かかって来いよ!」 手甲を燃え上がらせ付着した血を焼き飛ばしながらモノマは残る犬に獰猛な笑みを見せた。 ●鈴の音 暫くの時間が経って、それぞれの出入り口を守るリベリスタ達の下にも時折襲撃が行われていた。 「鼠一匹通すつもりはないが。本当に一匹しかこないとはな」 中で暴れている探索班の取りこぼしだったのか、蒼夜は一匹だけ現れた鼠をちゃちゃっと潰して死体袋へと入れる。 と、その時に路地の奥でまた何かが動く気配があった。蒼夜は手にした杖を構えるが、すぐにそれを下ろすことになる。 「蒼夜さーん、これお願いしますっ」 駆け寄ってくるのは犬耳を揺らす文。頭の上に掲げるようにして運んでいる黒い袋の中には恐らくエリューション・ビーストの死体が詰まっているのだろう。 蒼夜は受け取った死体袋をバリケードの傍に置き、戻っていく文の姿を見送る。 特に襲撃もなく、その時にふとアークで耳にした噂が思い浮かぶ。死体攫いの謎の黒猫。黒猫は不幸や災厄を呼ぶとも言われれば、幸福や祝福の象徴とされることもある。 「噂の黒猫はどうなのだろうな」 ぽつりとそう呟いたところでトランシーバーの通話ランプが点滅して声が聞こえてくる。 相手はどうやらハルのようだが少し慌てている様子だ。 『ごめん、やられちゃった。猫を相手にしてたらいつの間にかエリューションの死体が持ってかれちゃったわ!』 それが黒猫の仕業だということは直ぐに察しがついた。話を聞けば猫エリューションを相手にしていると鈴の音が聞こえ、戦闘を終わらせて調べてみると死体袋の中身が空っぽになっていたらしい。 黒猫の噂は本当であった。そして今、この場に現れている。 ――リイィン 蒼夜が頭で情報をまとめようとした瞬間に小さな鈴の音がその耳に響いた。素早くバリケードに振り向きそこにある死体袋を見るが膨らんでいた袋が平たくなっている。 「こっちもやられた。鈴の音が聞こえて振り返ったら持っていかれていた」 眉を顰め蒼夜はすぐさまトランシーバーを口元に運び報告を行った。 一方で内部の捜索班はいよいよと路地裏の最後の袋小路の調査に向かうこととなった。 黒猫の出現はトランシーバーより聞こえているが今はそれに応えている余裕はない。 「全兵力を纏めての防戦か」 袋小路に入るための分岐点にたった時点でそれは見えていた。暗闇の向こうで輝く目、目、目……全てが敵意を持ってこちらを見ている。 最後の袋小路も待機のつもりだったウラミジールだが今回はその考えを捨てた。 「汚いわね」 手にした日傘をくるりと回して浮かび上がると氷璃は魔力を高め触媒とし、詠唱を持って現世の理を改竄する。 「まずは消毒してあげるわ」 袋小路の奥にていくつも浮かび上がる幾何学模様を交えた魔方陣。それが青い輝きを持って魔炎の柱を天へと吹き上げる。 闇に覆われていた袋小路は炎に照らされまるで真昼の如く明るさを取り戻す。 「あたしも負けていられないわ」 凪沙が手甲を一つ打ち鳴らすと飛んだ火花は急速に燃え上がって絡みつきその手甲に灼熱を纏わせる。 魔炎の柱を抜けて躍り出る二匹の犬エリューション、だが凪沙が狙うのはそのうちの一匹でいい。 飛び掛る犬に合わせて一歩踏み出しドンピシャのタイミングで拳を叩きつける。犬エリューションは骨が砕ける音と共に路地裏へと殴り飛ばされる。 そして迫っていたもう一匹の犬は床に這い蹲っていた。まるで地面に縫い付けられたように悶える。 「お痛は駄目ですよ」 そう告げた大和の影から突然に黒い何かが現れる。それはまるで鎌首をもたげた蛇のように獲物を睨みつけ、大和が腕を振るうと同時に犬の頭を喰らい潰した。 さらに次は鼠の大群が押し寄せる。百は超えるのではないかという鼠が路地の横幅一杯に広がりリベリスタ達へと襲い掛かる。 「わっ、流石にちょっと多いよ。って、うわわっ!」 文は刃の陣を持って範囲内の鼠を切り刻むが殆どがそのまま脇を抜けて行き、腕を止めればその瞬間に後ろに残っている鼠が飛び掛ってくる。 飛び掛った鼠は銃声と共に頭を無くし腹に穴を開けてボトリと落ちる。文の後ろではウラミジールの銃が煙を上げていた。 「皆、下がりなさい。一掃するわ」 氷璃の詠唱が路地裏に流れる。しかし、その詠唱を突き頭上より迫る襲撃者が現れた。 猫エリューションが外付けの室外機の上から氷璃のその背中を爪で裂く。氷璃は意識外の攻撃と翼を傷つけられ地面へと落ちる。 「この、邪魔しないでよ!」 一撃を当て逃げる猫の背に向けて凪沙は脚を振りぬく。その動作に瞬時に風は集まり刃となり、襲撃者を獲物へと変え襲い掛かる。 「立てるな?」 「ええ、大丈夫よ」 ウラミジールは地面に屈んだままの氷璃の背に手を翳す。そこから送り込んだ力が変換され徐々に傷を癒す。 氷璃は落ちた日傘を拾い上げ今一度詠唱を開始する。それを邪魔させないためにウラミジールは迫る敵を撃ち落としていく。 そして二度目の魔方陣が展開される。天を突く炎が次々と上がり群れを成していたエリューションを次々と焼き払う。 「もう少しね。さっ、頑張りましょ」 燃える拳を振りかざした凪沙の声に応え、リベリスタ達はエリューションは一気に攻勢に出た。 ●黒猫は鳴く エリューションは全て倒し終えた。本来の依頼はここで終わりなのだが、リベリスタ達は路地裏の一角にて集まる。 「不甲斐無いな。遅れを取ってしまった」 蒼夜は何も入っていない死体袋を地面に下ろす。 鈴の音が聞こえたと思ったら、死体袋の中に詰まっていたはずの死体が根こそぎ消えていた。ある意味で予想通りであり、ある意味で予想外である死体の消失。 「けど、これで噂は本当なんだって分かったわね」 凪沙は目の前にある中身の詰まった死体袋を眺めながらそう言う。 あとは待つばかり。死体袋を囲ってそれぞれに噂話の補完を行い、黒猫の存在に注意しているそのときに。すっと辺りが明るくなる。 空の天辺に到達した月が路地裏にいるリベリスタ達を見下ろし己の放つ光を降り注がせる。 ――ニャアォ そして、黒猫は現れた。首に銀色の鈴をつけてその黒い尾を揺らしながら。 突然にというわけでもなければ、驚くべき方法をもってというわけでもなし。ただ、路地の向こうからトコトコと歩みを進めてこちらへと近寄ってくる。 その自然すぎる姿にリベリスタ達はこれが本当に噂の黒猫なのかと判断に迷った。 「気をつけて。ただの猫じゃないわ」 そう告げたのは氷璃だった。その氷のような青の瞳を持って黒猫の存在を解析しようとしたが視えないのだ。 視えないということは即ち、この黒猫は氷璃では解析しきれない力を保持しているということだった。 しかし黒猫からは一切の敵意などを感じない。ただ本当に散歩に出てきただけのように自然にリベリスタ達との距離を詰める。 「なあ、何でこんなことしてるか教えてくれるか?」 モノマは声に力を持たせて猫に問う。猫はぴくっと反応してその場で座りすっとモノマを見上げる。しかしモノマの問いには答えない。じっとその顔を見つめるだけ何も語りはしない。 暫くするとまた立ち上がりゆっくりと歩みを進める。リベリスタ達はどう反応すべきか迷う、このまま近づけさせていいものか、それともこちらから打って出るべきなのか。 そしてついにその足元までやってきた時に文が動いた。 「ねえ、どうして死体を集めてるの? 君はわたし達の敵じゃないの?」 黒猫の道を塞ぐようにしてその場に身を屈めて文は問う。黒猫はまた歩みを止めてじっと文の顔を見上げる。 そして黒猫はその黒いガラス球のような瞳を一瞬だけ揺らめかせた。 「……あっ」 その瞬間に文は突然に膝を突く。倒れるまでは行かない。だが、全くその体が動かなくなっていた。 さらに同じくしてモノマも膝を突く。体が言うことを利かない。特に四肢の感覚は完全になくなっていた。 その事態に敵性を感じリベリスタ達は動こうとする、だがその動きが著しく鈍い。気付けばその手にしていた武器も地面へと取り落としてしまっている。 「金縛り、だと」 気糸を練ろうとするがそれも上手くいかない。蒼夜は何とか動く首を動かしまた歩き出す黒猫の姿を追う。 全員がそのまま黒猫の動きを見続ける。黒猫はゆっくりとした足取りで死体袋の元に辿り着いてその前にちょこんと座る。 「逃がす訳には……」 大和は懐に忍ばせていたカラーボールを投げつける。しかし言うことを聞かない体で投げたボールは黒猫の尾で受け止められてしまった。 黒猫は前脚でころりとボールを転がし、軽く蹴ってそれを大和の足元へと返す。 そして黒猫は月を見上げて小さく鳴いた。 ――リリィィン そしてリベリスタ達の耳に残る鈴の音色。それが聞こえたと思った時には確かに視界にあったはずの黒猫が消え、そして死体袋の膨らみもなくなっていた。 「あれが黒猫か」 ウラミジールはまだ残る体のぎこちなさを引きずりながら死体袋を開く。中には当然ながら何もない、袋に付着していたはずの血痕も綺麗に消え去っている。 それを同じくして別の死体袋を覗き込んだ氷璃は自分の入れた携帯電話が袋の中に残っているのを確認した。本当に綺麗に死体だけを持ち去っている。 「時間のラグもなし。本当に一瞬で持ち去ったというのかしら」 ただ僅かながらに残る違和感。瞬間記憶の中にある景色とこの場所を見比べて感じる言いようのない感覚に氷璃は眉を顰めた。 かくして黒猫の噂は真と知れ渡り。また舞台は次の夜へと移り行く。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|