● 緑色にきらめく森の中。 それは、乾いた地域から流入してきた大型の異形の獣に追われていた。 ほっそりと伸びた足、幼体特有の保護色、黒目勝ちの瞳。 ボトムチャンネルで言うところのいたいけな小鹿のようだ。 それの動きは、すばやい。 地面の上を跳ねる。 しかし、後ろの獣を振り切るだけの速度はない。 持久力からいけば、軍配は獣の方に上がる。 押さない背に獣の爪が追いすがる。 獰猛な食欲をあらわにした爪が、柔らかな背中に追いすがる。 追いかけっこは森の外まで。 緑が途切れ、足音は草ではなく渇いた砂地に変わっている。 小鹿の足が時々かすかに滑る内に、獣は距離を縮めた。 目の前を走る小鹿を捕まえて食うのは、簡単に思われた。 小鹿が跳ねた。 細い脚。 あれに食いついたら、口の中で芳醇な肉がはじけるのだ。 足、あの瑞々しい脚。 小鹿が地面を蹴った。 空中で四肢を大きく広げる小鹿。 獣の鼻先を掠める爪先。 大きく広げられたあぎとから突き出された舌が、それに触れる。 その下が、割られた。 偶蹄目めいた小鹿の爪が、割れたのだ。 爪だけではない。足が、脚が。膝が。腿が。 割れる、割れた。四肢の全てが割れる。 細かった足が、更に細い八本脚に。 獣の頭を蹴り、地面に開いた穴の中に獣を突き飛ばす。 平衡を失って地面に転がる獣の鼻先に、べとりと張り付く膜が張り付く。 反射的に身を引こうとした瞬間、焼けた石を鼻の穴にねじり込まれたような灼熱感が獣を襲う。 破れた膜の中から、小鹿のつぶらな瞳。 獣は気がついていなかった、 そのつぶらな瞳は複眼で構成されていたことを。 その口から糸を吐き、獣を絡めとろうとしていることを。 破れた穴から足が伸び、爪の先で引っ掛けて膜の内側に取り込もうとしていることを。 もんどりうって逃げを撃つ獣の背に、鋭い痛み。 獣をここまでいざなった小鹿が、その瀬を八本の爪を供えた脚で切り裂いていた。 ● フュリエ族長シェルンは、沈痛な面持ちだ。 「申し訳ありません。危ないところに近づいてはいけないと言い聞かせてはいるのですが……」 エリス・トワイニング(ID:BNE002382)が収集していた動植物データの中にあった、小鹿に似た生物。 それが擬態で、実はジクモのようなものだとは。 「一人……今、それを追いかけています。このままでは『巣』におびき出されてしまいます」 世界樹と交信しているシェルンの声に小さな悲鳴が混じる。 フュリエは繋がっているのだ。 「砂地に、『巣』があります。土の感じが変わるので分かりやすいかと思います。そこから、彼らの領域です。兄弟単位……5匹でその『巣』を共有しています。その『巣』を駆除して頂ければ――」 境界域にあるその『巣』さえ駆除すれば、フュリエの生存圏と競合することはなくなるという。 「お願いいたします……。どうか……」 最後の方が声にならなかった。 ● 「待って、待ってよ、その子を放して……」 連れだって走る五匹の小鹿。 一匹の口にはフィアキィがくわえられている。 「その子は食べられないよ。かえしてよぉ」 フュリエの少女は気がつかない。 いつの間にか、来てはならない領域に踏み込んでいることを。 足元が、熱い砂にかわったことを。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月21日(土)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 五匹の小鹿の後ろをフュリエの少女が追いかけている。 軽やかに跳ねるように走る小鹿。 つぶらな瞳に愛らしい顔立ち。 繊細な肢体。 つややかな毛並み。 遠くから見れば、牧歌的な光景に見えるかもしれない。 小鹿の口に、きらめく妖精がくわえられていなければ。 フュリエが、泣きながら叫んでいたりしなければ。 「あたしのフィアキィを返してよぉ!」 ● 悲痛な叫び声に、リベリスタ達は戦闘が近いことを知る。 『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)の詠唱により、リベリスタの背には仮初の小さな翼が生えている。 「いかな、荒地、山地、沼地、砂地であろうと飛んでしまえば何の意味もなし、たとえ罠が仕込んであろうとな」 この先に待ち構えているのは、スパイダーバンビーナの巣だ。 穴に落ちることがあってはならない。 「やれやれ、異世界で待ち受けているのがどんな奴かと思いきや、蜘蛛かよ。 しかも子鹿に化けてるとか、どんな蜘蛛だよ」 『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)としては、つっこみどころ満載だ。 「事前情報がなければ、私は釣られていたかもしれないです……」 風見 七花(BNE003013)が、少しうつむき、ぽそぽそっと呟く。 だって、どう見ても、鹿だ。 とても見破れる自信がない。 「自然の摂理と言えば聞こえは良いが、この世界の摂理は激しい。その攻撃性の高さが巨人襲来以降の変異だろうか」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の瞳は、空と森の色だ。 13年前、急遽変わってしまった世界のありようはフュリエにとって今リベリスタが感じている異常の不条理を感じているだろう。 「ま、どんな敵だろうと倒さないといけないんだがな」 (以前……たまたま……見かけた……小鹿に……似た……生物の……正体が……ジグモ……みたいな……ものとは) エリスは、自分がデジタルカメラで撮影していた生き物が擬態であったことに驚愕を覚えていた。 (エリスたちが……住む……世界の……知識と……同じに……扱うと……怖い……結果に……なっていた) 「異世界の化物どもも、私達の世界の生物とサイズや能力は別にしても姿は似通っているのだな」 瞳としては興味は尽きない。 正確に言えば、「ボトム・チャンネル」の生物が他の高位世界の影響を受けていると考えた方がいいかもしれない。 (出来るものなら死体を解剖して詳しく調べたいものだ) 探究心に火がつくが、それも今は後回しだ。 (フュリエとも色々会話をしてみたいがタワーオブバベルを活性化出来ない以上諦めるしかないな。まぁ、こちらで活動していればいずれ機会は来るだろう) 『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)の勘がささやいた。 今こそ叫ぶときだと。 「待って、そこのフュリエさん! そっちは危険なの、一人じゃ危ないの! ルメはルーメリア、アークのリベリスタなの。シェルン様にお願いされて貴方を止めに来たの!」 異なる言葉を繋ぎ合わせる異能は、異世界でも発揮される。 ルーメリアの前を走るフュリエは、背後のリベリスタを振り返ったけれど、また前を向いて走り出した。 「だって! あたしのフィアキィが!」 誰にも増して、何より増して、大事な片割れだ。 危険なのは分かってる。 だけど「はい、そうですか」と、どうして止まれようか。 たすけなくてはいけないのは、「彼女の」フィアキィなのだ。 シェルン様には申し訳ないけど、止まることなんてできない。 「ま、待って下さい。突入しないで……!」 七花がフュリエの前で進路妨害。 そうでないと自分からスパイダーバンビーナの巣に飛び込みかねない。 (説得って、普通に足を止めてすると思ってたのに……) 集中を重ねられたら良いと思ってたのに、予想外だ。 「私が護衛する。安全圏に避難して欲しいがな」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が請け負った。 フィアキィの無事を祈るフュリエの祈りを無碍にすることは出来ない。 宗一は疑問に思っていたのだ。 (捕らえた獲物は皆で仲良く…というにはフェアキィは小さすぎやしないか? 何でこいつはフェアキィを狙ったんだか) フュリエは、フィアキィを見捨てない。 だから、フィアキィを捕らえれば、フュリエが苦もなく巣に飛び込んでくるのだ。 半狂乱のフュリエの様子を見て、宗一はようやく合点がいった。 ● スパイダーバンビーナのうち、先を走っていた二匹が穴の中に飛び込んだ。 その巣穴に立ちふさがるように、三匹の小鹿に踏ん張る。 その内の一匹が、フィアキィをくわえ込んでいる。 穴の奥から、柔らかくて汁気たっぷりのものを無理矢理へし折るような異音が響いてくる。 「うぅ、気持ち悪い……グロいの……生き残るために身に着けていった進化なんだろうなぁ……」 ルーメリアの顔から、血の気が引いていく。 それは、フュリエも同じことで、口元に手を当てているのは吐き気をこらえているからだろう。 「スパイダーです、異世界の蜘蛛さんですよ。もう、ドキドキハァハァものです。折角の機会ですので、じっくり観察したいですぅ」 何で巣穴の中でモードチェンジですかぁ? と、『純情可憐フルメタルエンジェル』 鋼・輪(BNE003899)は、ブーイングだ。 「いえ、願ったり適ったり。巣ごと燃やしてやります!」 自らを鼓舞するようにそう叫ぶと、早速七花は爆炎召喚呪文の詠唱を開始する。 「ですので、ちょっとだけ皆さん巣穴には近づかないように――」 それぞれの頭の中に、瞳の透視した結果が流れ込んでくる。 巣穴がどうつながっているのか、今どのあたりにモードチェンジ中のスパイダーバンビーナが潜んでいるのか、諸々の情報が怒涛の勢いだ。 火に対する耐性がないリベリスタも炎に巻かれればただではすまない。 宗一の脳裏にもそんな考えがよぎる。 しかし。 「張り巡らされたままよりはよっぽどいい。俺らに構うな、燃やしてしまえ!」 フィアキィだけは燃やすな。と、宗一が叫んだ。 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は、点在する五つの穴のうち、スパイダーバンビーナから最も遠い穴に腕をつっこんだ。 「ぅおらッ! 派手に燃え尽きやがれ!」 指にべっとりとまとわりつく巣をつかんだ先からめらめらと炎が上がり、それはやがて火柱となる。 リベリスタにとっては、戦闘開始の狼煙だ。 「気持ち悪がってる場合じゃないのぉ!」 ルーメリアのクロスから、フィアキィをくわえたスパイダーバンビーナの鼻先目掛けて魔法の矢が打ち出される。 命中精度はともかく、威力は高い魔法の矢は、急所からずれたとはいえ、ごっそりと擬態した外骨格を破壊する。 たまらず、口を開いたスパイダーバンビーナから、これ幸いとフィアキィは逃げ出した。 逃がしてなるものかと残った二匹が殺到するが、すでに宗一が間合いに入っている。 「悪いな。邪魔すんな!」 肉体の限界を解き放ち、赤く輝く刃で練り上げられた闘気の塊が、かわいい小鹿の横腹に叩きつけられる。 始まった戦闘に、フュリエの悲鳴があたりに響く。 両腕を前に突き出し、押さえつけるアラストールからどうにか逃れようとする姿は、ただ、ふらふらとこちらを目指して蛇行飛行している自分の半身のフィアキィのことしか考えていない。 自分が飛び込んでいったら、諸共というのがわかっていない、いや、どちらか片方がやられたら、もう片方もあとを追ってしまう勢いだ。 しかし、アラストールは、その思いを受け止めた。 (誰でも大事な者は助けたい守りたい、だから、この娘が悲しまない様に全力で戦おうと思う) 言葉は通じない。 こうして、互いの鼓動を感じる距離にいるというのに。 それでも、発する音に心が宿るなら。 フュリエに「安心」を、リベリスタに「信頼」を、フィアキィに「救出」を。 もたらしたいと、切に願った。 (ちょっぱやで奪還すれば落ち着いて貰えるかも~) 輪は、足をとられやすい骨片だらけの砂地の上を、鍛え上げられたバランス感覚を頼りに駆け抜ける。 速さを刃に乗せて、レイピアを振りかざす。 エリスは、小鹿の形をした蜘蛛を凝視する。 「……この姿、かなり、体に負荷がかかる……みたい。いうなれば、そう、ブリッジしてるみたいな……」 エリスのねむたげな目が見開かれる。 「気をつけて……! でも、こっちが戦闘形態……っ!!」 たわめられた両脚からくりだされるキック。 とっさの対応力と行動の先読みをもってしても、元が蜘蛛とは思えぬトリッキーな動きから繰り出されるそれは、輪の内臓に直接ダメージを叩き込む。 臓器への強烈な血流障害により、一気に目の前が暗くなり、体を二つに折るより他ない。 瞳によって、癒しの風が輪を包み、腹部の鈍痛を和らげるが、手足の先まで浸透した痺れはまだ抜けそうにない。 その上から振りかぶるように、もう一匹のスパイダーバンビーナが襲い掛かる。 小鹿の間接稼動息とは明らかに違うモーション。 輪は、吹き飛ばされる。 まだ火の手を揚げていない巣穴方向に蹴り飛ばされる。 その巣穴から、モードチェンジを果たしたスパイダーバンビーナが姿を現した。 先ほど、エリスは小鹿形態がブリッジした状態と言っていた。 蜘蛛形態は、 (――折角の機会ですので、異世界の蜘蛛をじっくり観察したいところ) 手足が痺れて、逃げを打つのが精一杯の状況でなければ。 (ですけど、あまりゆっくりもしていられないので、ハイスピード観察です) 荒い呼吸の下、輪は目前の自分に向かって糸を吐き出そうとしている蜘蛛の本性をあらわにしたスパイダーバンビーナを凝視する。 脆弱な部分を見極め、仲間の攻撃をたすける為に。 スパイダーバンビーナの可憐な口が、横にがばりと広がった。 「全部倒せたら、脚の一本くらい持って帰りたいですねー」 戯言だ。 異世界の生き物は、ボトム・チャンネルにとってはアザーバイド。 その死体の一部でも、崩界への引き金になりかねない。 だから、戯言だ。 だって、それくらいのごほうびがあってもいい程度に、不気味な眺めなのだ。 吐き出される蜘蛛の糸で、輪の視界が白に染まった。 こみ上げてくる吐き気の中、肌に糸から毒が浸透してくるのを感じた。 ● フュリエの手の中に、フィアキィが戻った。 喜びをあらわにするフュリエに、アラストールは森を指差す。 「あの鹿さんはとっても危険なの、ここはルメ達に任せて、安全な所で待機してて欲しいの! 貴方がいなくなったらシェルン様も悲しむの」 ルーメリアの言葉が、次元の壁を超越する。 フュリエは、きびすを返すと後ろに向かって駆けていく。 アラストールは、宗一に吹き飛ばされた小鹿形態のスパイダーバンビーナに鮮烈な十字光を放つ。 巣穴に入って、連携攻撃されては面倒だ。 怒りに目を異様に光らせるスパイダーバンビーナと相対する。 手の中の幅広の刃を握り直した。 瞳は、戦闘中、無言だ。 学究の徒としての好奇心も探究心も一切封印して、戦闘情報を仲間に送信することに徹する。 鋼を宿す身をいといながらも、それから脱却する為の戦いの中、一個の機械のように行動する。 エリスは、より高度な癒しの風を呼ぶ。 輪の傷は癒え、手足の痺れもだるさも嘘のように洗い流されていく。 「ちっ、コソコソしやがって……オレはこっちだぜ! さっさと出てきやがれ!」 ヘキサは、意識の片隅に投影される蜘蛛の現在位置を参考にしながら、巣の中のスパイダーモードを挑発する。 巣穴の中から、黒い影が飛び出す。 蜘蛛だと脳が理解するより前に、脊髄反射で体を全力で防御しながら後方に飛び退る。 掠めた糸で、腕が避けるがたいした傷ではない。 ヘキサの背中から飛んでくる魔法の矢と火球が、糸と交錯するように巣穴の中に吸い込まれる。 閃光と、火柱。 「――ざまあみやがれ!」 後衛の攻撃力を信じたヘキサの勝利だった。 ● いびつな八角手裏剣がリベリスタの間を通過していく。 曲がった爪の先が、宗一の肩を割り、輪の腕を裂き、ヘキサの腿から血を吹き出させる。 辺りににわかに漂う血の臭い。 白い骨の砂の上に、鮮血がしみこむ。 しかし、リベリスタは止まらない。 福音召喚詠唱が聞こえるから。 仲間がこの傷を癒してくれるから。 手厚い回復と情報があってこそだった。 炎を吹き上げる巣穴から執拗に伸びる糸は幾度となくリベリスタを火の恐怖にさらした。 本能的に感じる圧倒的恐怖。 しかし、リベリスタたちは果敢だった。 敵の状況を見透かすエリスにより、スパイダーバンビーナのもろい部分が次々と暴き立てられた。 擬態を最大の武器とするスパイダーバンビーナにとっては天敵だ。 「もう、残りも倒しちゃいますよ!」 輪の幻が砂地を駆け回る。 「一体ずつ片付けるぞ。弱ってるのから集中攻撃だ!」 アラストールが自らの身をさらして引き寄せるスパイダーバンビーナを、宗一は自分の体力をチップにして、生死を賭けるギャンブル地獄に叩き込む。 「これは、巻き込んだりしませんから、安心してください!」 七花は、高位魔道書からほとばしる雷の鎖を、鋼の右手で巧みに操り、スパイダーバンビーナだけを焼き焦げさせる。 癒しが足りなくならないように、さりとて過剰にならないように。 エリス、瞳、ルーメリアは、時折詠唱を癒しではなく、矢に変えながら。 神秘の器が育ちきらぬ仲間のため、癒し手達は福音召喚詠唱を高らかに歌い上げる。 フュリエには言葉の意味は分からない。 けれど、それは、この世界で言うところの世界中の恵みのように優しく、体を癒す神秘のみ技であるのと同時に、リベリスタの心に染みて、鼓舞していくものなのだと、フュリエは理解した。 やがて音がやむ。 隠れていたフュリエがそっと顔を出すと、焼け焦げた蜘蛛が巣穴や、砂地に点在していた。 数は五つ。 瞳が改めて透視をし、蜘蛛の完全殲滅を確認した。 ● 「ふふん、どんなもんだーいなの」 ルーメリアが勝どきを上げる。 巣穴から煙が吹き上がっている。 七花は、懇切丁寧に巣穴の一つ一つに炎を落として完全に燃やし尽くした。 万が一卵や幼虫がいたとしても、これでこの巣に関しては根絶やしだ。 フュリエはフィアキィの無事を喜びながらも、リベリスタ達を心配そうに見ていた。 しかし、回復手の詠唱によって傷はないに等しい。 それでも激戦を物語るように、その装備は激しく損傷し、煤で汚れている。 だが、ルーメリアを筆頭に笑顔で近づいてくるリベリスタの様子を見て、うやくがちがちに緊張していたからだから力を抜いた。 「フィアキィもちょっと虫っぽいんでしょうか。観察させてもらいます。うへへ♪」 何もかもを全て台無しにする欲望に彩られた笑いを漏らす輪がずりずりとフュリエの手の中のフィアキィに向かってすり足で近づいていく。 たすけてくれたから悪い人ではないのはわかっているが、ちょっと怖い。 じりじりと非言語異文化コミュニケーションが進行しつつあった。 「オレが言えたことじゃねーけど、危険ってのは実際に体感しねーと理解できねーモンだ」 ウサギのレガースと二つ名を持つヘキサは、ニカッと笑った。 しゃがみこみ、フュリエにぽんぽんと自分の背を叩いてみせる。 背負って帰る気でいるのだ。 (怖い思いしただろうからな、さっさと連れ帰ってやんねーと) しかし、フュリエは何をしろといわれているのかさっぱり分からない。 ヘキサは、使命感に突き動かされ、フュリエの腕を自分の首に回させると、さっさと背負って、すたすた歩き出した。 14歳男子はなかなか男前だった。 それにあわせてリベリスタたちも歩き出す。 「族長さんに巣の駆除完了の報告です」 七花は、成果にご満悦だ。 「説教はオレたちより族長が適任だろ? しっかり絞られて来いよー」 ヘキサが何を言っているのか分からないので、フュリエはきょとんとしている。 しかし、リベリスタの陽性の沈黙に巻き込まれ、やがて声を上げて笑い始めた。 フィアキィが、そんなフュリエの周りを舞い飛ぶ。 緑の森、フュリエの領域はすぐそこだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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