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<恐山>万馬犬


「ねえ、兄ちゃん」
「なんだ。弟よ」
「このキャロットパイうめーよ。でも俺、ミートパイが良いな」
「だったら兄の間食を勝手に取らないでもらえないか」
 …………。

「ねえねえ、兄ちゃん兄ちゃん」
「なんだ。弟よ」
「兄ちゃん字ーうまいよねえ。俺もペン習字とかした方が良いかな?」
「お前が字を習おうが習うまいが好きにすれば良いが、書類に食べカスをなするのは止めてくれ。兄は忙しいんだ」
 ………………………。

「ねえねえねえ、兄ちゃん兄ちゃん兄ちゃん」
「あのな、弟よ。兄は今、お前が毎度毎度やらかす不始末の隠蔽をしてるんだ! 判ってるのか!」
「知ってるよぅ。兄ちゃん愛してる。それよりもさ、最近千堂さん、『一杯いかない?』って言ってくれないね」
「そりゃ千堂君は今一番忙しい時期だろうしな。……と言うかまさかお前、彼の関心を引きたくてあんな事したんじゃないだろうな?」
「えへへ」
「……はぁ、お前、あれで何人死んだと思ってるんだ。若手幹部を唆して賢者の石の実験の為に無理な輸送をさせやがって」
「えー、違うよう。あれは千堂さんの手柄に嫉妬した若手幹部が勝手に、しかも杜撰にバレバレにやったんだよ? そゆ事になったじゃん。其れに火種が色んな所で燻ってた方が、謀略は練り易いって言うし? ばら撒くのは必要な事だったんだよ。この先の計画にさ」
「私が其の隠蔽にどれだけ苦労したと思ってる……。で、本当の用は何なんだ? さっきからじれったく絡んで来ているが」
「俺、兄ちゃんのそう言う切り替えの早いトコ好きだな。えっとね、そろそろ俺も箱舟であそんでみたいなーって」
「そうか。……ふむ、鼻の効くお前が言うならそろそろ良いタイミングなのかも知れないな。私も試してみたい事があったところだ」
「え、マジ? やった、兄ちゃん物分り良い。愛してる。でも俺もやりたい事あるんだよ。どうしよ、どっちの流儀で行く?」
「……『勝ち馬』に乗るか、『負け犬』として遠吠えるか、まあどちらでも構わんよ。面白そうな方にしよう」
「よーし、じゃあ俺の計画はね……」


「さて、御機嫌よう諸君」
 言葉ほどには機嫌が良さそうには見えない『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)がリベリスタ達を出迎える。
 逆貫はほんの僅かに、話し出しに迷った素振りを見せ、
「時間も無いから手短に行こう。ある場所でフィクサード同士の争いが起こる。争いとは言っても一方は逃げようとし、もう一方は殺そうとする逃走劇ではあるのだが」
 けれども迷いは一瞬で、簡潔に切り出した。
「ああ、判っている。アークがフィクサード同士の争いにわざわざ首を突っ込まねばならない理由は無論無い。……其処が無関係の一般人が多く行き交う地下鉄の駅で無ければな」
 コツリと、逆貫の指が机を叩く。苛立たしげに。
 机の上には二組の資料。
「逃げようとする連中は恐山のフィクサード兄弟だ。詳しい事は資料を見て欲しい。追い手の所属は謎だが、……そう、恐らくは海外の組織だろう。恐山の2人組は、追っ手を振り切る為に人混みを利用しようと人の多い方へ多い方へと逃げ、追い手は躊躇い無く銃をぶっ放す」
 そうなれば多くの一般人が巻き込まれる惨劇は避けられない。
「追い手の狙いは2人組がそれぞれ持つケースだ。2人組は其れを何かに、恐らくは何らかの策謀にだろうが、使用しようとしており、追い手は其れを2人を殺して奪取しようとしている」



 資料

 恐山
 フィクサード:『勝ち馬』瑪瑙・竜馬
 恐山派フィクサード兄。20代男性。勝利する事で策謀の種をまく事を好む。
 理論型。
 スキル構成不明だが、高速再生を所持しているのは判明。
 EXP『赤い跳ね馬』:HPが7割以上残っている場合、速度、回避、物防、神防が大きく上昇。 

 フィクサード:『負け犬』瑪瑙・犬策
 恐山派フィクサード弟。20代男性。敗北する事で策謀の種をまくことを好む。
 感覚型。
 スキル構成不明。
 EXP『負け犬の遠吠え』:逆境時、速度、WP、DA、DR、大きく上昇。


 謎の組織

 フィクサード:『信仰』イッズッ・ディーン
 ある部族の戦士。その部族は近接戦闘に無類の強さを発揮するが、イッズッ・ディーンは其の中でも高速連続攻撃を得意とする。
 武器はコンバットナイフのみ。
 特筆すべきスキルは下記。
 トップスピード 自付 回避速度上昇
 ソニックエッジ 物近単 麻痺 連
 ハイスピードアタック 物近単 重圧 連
 コンバットアサルト(EX) 物近単 圧倒、呪縛
 気配遮断(非戦)
 痛覚遮断(非戦)

 フィクサード:信仰の兵士×3
 個々の能力はそこそこですが、イッズッ・ディーンの指示の元に連携を取ります。
 武器はアサルトライフル。予備にシミターと拳銃(換装には手番を消費します)
 特筆すべきスキルは下記。
 ハニーコムガトリング 神遠全 連撃
 カースブリット 神遠2単 呪い
 コンバットアサルト(EX) 物近単 圧倒、呪縛
 気配遮断(非戦)
 痛覚遮断(非戦)


「双方共に何を企んでいるのかは判らんが、どちらにせよこのままにはしておけん。武力を持って介入し、騒ぎを鎮めてくれ。諸君等の健闘を祈る」




「ねえねえねえねえ! 兄ちゃん兄ちゃん兄ちゃん兄ちゃん!」
 開いた地下鉄のドアから転がり降り、飛び交う銃弾を掻い潜った弟が叫ぶ。
「なんだなんだなんだなんだ! 弟よ! 見ての通り兄は今非常に急がしっ、あ痛っ!?」
 右手に持ったステッキで、高速で繰り出されるナイフの連撃を捌く兄が、けれども捌き切れずに一撃を其の身に浴びる。
 真っ赤な血が、周囲に舞い散った。
「やばいよ兄ちゃん想定外! こいつ等結構強いよ……ってーかクレイジーだよこんなトコで仕掛ける普通!?」
「今身を持って実感した! やってられん。まともに噛み合うな。逃げるぞ!」
 兄弟の行動は唯只管に逃亡。少しでも人が多い方へ。
 木を隠すなら森が一番だ。すまない見知らぬ人々達よ。
「逃がさん! 簒奪者には死の裁きを!!!」
「ぎゃああああああーっ!?」
 兄弟の叫びが銃声に、次いで起こる一般人達の悲鳴に掻き消される。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月22日(日)23:29
 勝利条件は犠牲者を出来る限り少なく騒ぎの鎮圧する事。
 お馬鹿な兄弟や謎の組織のメンバーにどう対処するかは皆さんの自由です。
 話を聞いてくれるかどうかは難しかったりもするかもしれませんが。
 彼等はそれなりに高い実力を持っていますが、お互いに争っているため状況を加味してこの難易度となっています。
 侮れば痛い目を見る事もあるでしょう。

 戦場は地下鉄の駅。人は大勢居ます。リベリスタ達の到着時には既に戦闘は始まっています。

 では、お気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
クロスイージス
ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
デュランダル
ノエル・ファイニング(BNE003301)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ダークナイト
ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)


「ねえ、兄ちゃん……!」
「なんだ! 弟よ! だから今の兄に余裕はないと……」
 未だ追っ手と切り結ぶ兄に対し、声をかけた弟。
「マジやばいよ。囲まれた」
 何時ものどこかおどけた態度も捨て去り、下に隠す猟犬のような鋭い本性をチラリと見せる『負け犬』瑪瑙・犬策。
 犬策の視線の先には、逃げ惑う人混みを掻き分けて新たに現れた複数の能力者。
 けれど、……違う。
 明らかに中東系の風貌の追っ手とは違い、新たに現れた能力者達は無節操な、
「弟よ! 違うぞ! 彼等はアークだ!」
 兄の、『勝ち馬』瑪瑙・竜馬の言葉に犬策に浮かんだ剣呑な表情が薄れ消えていく。
 だが竜馬の言葉は弟よりも、寧ろ追っ手である『信仰』イッズッ・ディーンに向けてのものだ。

 真っ先に飛び出したのは今回集まったリベリスタ達の中では最も速度に秀でた、『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)。
「大事な物盗まれて怒るのは分かるけど、自分の不注意棚に上げて関係ない人達を傷付けてる事に気付いてる? 正直かっこ悪いわよ」
 ディーンの前に立ちはだかり、ぴしゃりと言葉を叩きつける。
 だが其の言葉にディーンが口元に浮かべるは侮蔑。
 愚昧。実に愚かな昧者の言だ。
 体制に飼い慣らされた資本主義に肥え太る豚が何匹死のうが、それに何の意味があると言うのだろうか。
 特にこの国の者は無知にも、そして無恥にも、自らを無神論者だと吐く屑だらけなのだ。共産主義者でもあるまいに。
 信仰とは心の支えであり、己への律であり、生き様である。
 それを持たぬ無節操なこの国の人間は、寄る辺の有難味を知らず、己を律する事できずに背徳に堕ち、クソの様な生き様を晒している。豚だ。豚以外の何物でもない。
 故にディーンがエレオノーラに返す言葉は唯一つ。
「邪魔をするならば論ずる言葉は持たぬ。この資本の飴に飼い慣らされた牝豚め!」
 一つだけ勘違いの入ったディーンの言葉に、信仰の兵士達が無数の銃弾を、ハニーコムガトリングによる死をばら撒く。
 けれど其の弾丸は逃げ遅れた人々に届く事はなく……、
「痛い痛いすげー痛い。やだー、俺様ちゃんご立腹☆」
「勘弁しろお前ら余所でやれ畜生」
 咄嗟に庇いに入った『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)と『銀の盾』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)の肉の壁に酔って遮られる。
「あのバカ兄弟に何とられたんだよ? よほど大事なもんらしーな。この国の奴らは不信心で有名だけどいいこと言ったぜ。魚の頭も信心から、ってな。あんた達が後生大事に拝んでる魚の頭がどんなもんか見せてもらうぜ」
 身体に銃弾で穴を穿たれながらもユーニアはディーンに指を向け、リーディング、其の思考を探り出す。


『アークだ。一般人を守りにきた。君たちの事は任務外だ。見ての通り精鋭が揃っている。君たち二人で『信仰』とボクたちを相手どるのは厄介だろう』
 竜馬と犬策、二人の脳裏に響くのは『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)がテレパスで送るメッセージ。
『そこで取引だ。一般人が逃げ切るまで留まってほしい。そうすれば信仰から守り、逃げるのを手伝うことができる』
 言葉足らずで判り難く、しかも長い、けれども心の篭った雷音の囁きに、
『一つでいいケースは置いていくのだ。奴らはソレを狙っている。持ち逃げも辛いだろう』
 2人は顔を見合わせる。
「兄ちゃん。すげえ。良い人だ。逃げて良いって! あとケースもってくのしんどいだろうから預かってくれるって!」
「違うぞ弟。あれは普通に脅迫だ。一般人が逃げ切るまで待って、尚且つケースを置いていかなければ攻撃するって言われてるんだよ」
 長いメッセージの内容を理解し切れなかった犬策に、竜馬が突っ込んだ。
「確かに脅迫とも言えるが、お互いに悪くない取引だと思うが? お前たちの仲間の言葉を借りるなら悪意と善意、双方のメリットにしてもバランスのいい取引だろう?」
 二人の反応に、さらりと『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)が追い討ちをかける。
 リベリスタ達にとってはケースは二の次、三の次ではあるのだが、言葉の足りない雷音のメッセージが生んだ誤解を活かすには多少の脅しは有効に働く。
 どうせ元より2人に選択の余地は無いのだ。
 犬策は多少ぶつぶつと零しながらも実にあっさりと、床に置いたケースを雷音の方へと蹴って寄越す。
 けれど其の仕草にはあまりに迷いが無さ過ぎた。まるでそれも想定の範囲内であるかのような其の迷いの無さに、
「それ、本物? やだー、誠意って大事しないと~フィクサードでも俺様ちゃんたちが裏野部以下の外道だからってひどい☆」
 冷酷残酷残虐鬼神モードの『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)がディーンへと突っ込んだ事で余裕の生まれた葬識が超直観でその迷いの無さを見咎めた。
「兄ちゃん、訳するとあの人何て言ってるの?」
「其れ偽物臭いよな。2つもあるならどっちか偽物だろう。そっちも置いていけよ。さも無きゃ俺等裏野部以下の外道だから何するかわからないぜ。……だろうな。多分」
「やだ何それ怖い。聞いてた箱舟と全然違う。恐喝とか本当に裏野部レベルじゃん」
 弟とは違い多少惜しげに、やはり床に置いたケースを蹴って寄越す竜馬。

「信仰の進行をおさえるってか? ふん、つまらぬ」
 下らぬ駄洒落を理解できず、一瞬怪訝な顔をしたディーンに御龍は刃を叩き付ける。
 舞い散る火花と金属音。其の重たい一撃をコンバットナイフで逸らしたディーンが睨みつけるは、けれども御龍では無くユーニア。
「ヒラール? 月? 三日月? 何だそれ?」
 ディーンの思考をリーディングで探るも、出て来た固有名詞が理解できずにユーニアは首を傾げる。
 ハイリーディングであればイメージを画として読み取れたのだろうが、生憎彼に可能なのはその時の思考を探る事のみ。
 そんな彼に向かって響く銃声。振るわれる刃。怒号が飛び交い、血飛沫が舞う。
 ハニーコムガトリングの弾丸の雨をエレオノーラは華麗に掻い潜るが、しかしディーンは彼を狙わない。
 ソードミラージュ同士で殴り合う事の不毛さは、誰よりもソードミラージュが知っている。
 煌めくコンバットナイフが己の体に刻んだ傷に、御龍の唇が笑みに歪む。しかし攻撃は一度では止まず、幾度も幾度も翻り、彼女を朱に染めて行く。
 一般人の避難、そして犬策と竜馬への交渉にと人手を取られたリベリスタ達は、『信仰』と其の兵士達の威の前に苦戦を免れないで居た。
 だが今回時が味方するのは彼等、アークのリベリスタに対してだ。



「約束は約束だ。だが、一般人を巻き込んだお前らを許した訳ではない。早く失せろ」
 ゲルトの言葉に、
「兄ちゃん、良かった。逃げて良いって。何か流れ的に、やっぱり命も置いていけって言われるかと内心一寸ドキドキだったよ!」
「弟よ……。そう言う台詞は逃げ切ってからにしてくれ。彼等の気が本当にそう変わったらどうするんだ」
 犬策と竜馬、二人のフィクサードが走り去って行く。
 既に一般人の退避は終わり、ケースも2つとも巻き上げ済みだ。既に彼等に用は無い。構う価値も無い。
 それよりも今は……、どさり、とコンバットアサルトにより動きを封じられていた御龍がトドメを受けて倒れ伏す。
 
「喰えない子達みたいね。喰う気も無いけれど」
 走り去る兄弟の後姿をチラリと見、『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)はディーンに対して無造作に引き金を引く。
 ピアッシングシュート、魔力の付与で貫通力を増した其の一撃は、回避に優れたディーンのトップスピードを解除させるには到底至らぬ物の、それでもその信仰心に満ちた身体に穴を穿って傷跡を残す。
 葬識の放った暗黒の、瘴気ごと貫き通さんと言わんばかりの白銀の騎士槍での一撃、『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)のデッドオアアライブが兵士の一人を貫いた。
「すぐに癒すのだ」
 駆けつけた雷音の傷癒術が限界寸前だったユーニアの傷を優しく癒し、更にはゲルトのブレイクフィアーが仲間の身を縛る危険、バッドステータスを除去していく。
 避難誘導を終え、交渉を終え、合流したリベリスタ達は数でディーンと其の兵士達を上回る。
 そしてそれは力でも。

 速度が在り得ないほどに遅いノエルが、どうしても後手に回る行動順序を活かして成るべく攻撃が集中した敵を最後に狙っている。其の遅さへの開き直りとも言うべき戦術は、癒し手を擁さぬディーン達には大きな脅威だ。
 とは言え回復が乏しいのはリベリスタ達も同じ事。雷音の持つ傷癒術が唯一の、単体にではあれど回復できる手段だ。
 傷癒術の使用には被術者に手の届く範囲まで近寄る必要があり、だがそうすれば当然の様に敵の攻撃は雷音に向かって集中する。
 クロスイージスであるゲルトが前に出た雷音をしっかりと庇いはするのだが、それでも敵の攻撃の手は緩まない。何故ならゲルトはゲルトで厄介なBS解除であるブレイクフィアーの使い手だ。どちらが倒れてくれても良い。彼等が居なくなればコンバットアサルトが真の力を発揮できるのだから。
 増えたリベリスタ達に対抗せんと苛烈さを増すディーン達の攻撃。
 だがそれでも、やはり数は、力は、総合力は、リベリスタ達が上なのだ。

 雷音を庇うゲルトが、更に其の二人を庇うユーニアが、運命を対価にした踏み止まりを余儀無くされた丁度その時、こじりが、ノエルが、デュランダルに相応しい桁ハズレの攻撃力と、其れを充分に活かせるだけの命中も併せ持つ二人の攻撃が、既に傷を負っていた兵士の一人を文字通りに肉塊へと変える。
 リベリスタ達と、ディーン達の総合力の差がまた一つ広がった。
 ディーンは選択を迫られる。屈辱に塗れて退くか、それとも胸を焦がす怒りのままに数名の敵を道連れに神の御許へ旅立つかを。


「兄ちゃん兄ちゃん。ほい、GoGo茶」
 自販機のミネラルウォーターで傷口を洗い、更には喉を潤す為のお茶まで購入する犬策。
「あぁ、すまん。しかし何だな。今回は随分アークに肩入れしてしまったな」
 傷口を布で縛り、痛みに顔を顰めながら竜馬がぼやく。
 傷を負って追い詰められてこそ真価を発揮する弟は違い、彼は痛みを非常に嫌う。
「だってオレ等ってアイツ等の言う体制に寄生するダニだもん。アークも怖いけど、アークが負けたらやっぱり後が面倒だよ」
 一方、弟、犬策が顔を顰めるのは飲んだお茶の苦味のせいだ。
「でも必要なかったかもなあ。アーク結構強いや。……贈り物、喜んでくれると良いんだけど」
 放り投げた空き缶は狭いゴミ箱の入り口を外し、音を立てて床に転がる。
 小さな舌打ち。弟は態々捨て直しには行かないけれど、
「骨折り損のくたびれ儲け。お前の流儀はやはり良く判らんな。早く帰るぞ。何だか殴られた所が本気で折れてる気がする」
 其れを見逃せない神経質な兄が拾いゴミ箱へと捨て直し、何処かせこく、マヌケな、兄弟のフィクサード達は逃げていく。

 ス、と上げられたディーンの手。合図に従い、生き残った2人の兵士はピタリと攻撃の手を止めた。
 屈辱に小さく震えるディーンの身体。だが、駄目だ。
 少佐より下賜されたヒラールを奪われ、更に奪還の為に動いた部隊が全滅したとなれば……、そう『信仰』の名を冠する自分以上に其れを重んじる、苛烈なあの方は聖戦を宣言しかねない。
 そもそも其れを恐れて独断で奪還を試みたのだ。
 自分の命で購えるなら構わない。けれど大儀の戦を目前としたあの方を、自分のミスで煩わすわけには、決していかない。
 せめて三日月の輝きがこの手に在れば、この程度の数の差は信仰心で跳ね返して見せた物を……。
 口惜しげに床に置かれたケースを見るも、其処に至るには眼前に立ちはだかるエレオノーラをはじめとしたリベリスタ達のガードが固すぎる。
 迷う時間は無い。判断が遅れれば、こじりとノエル、二人の殺戮者がまた部下を殺すだろう。
 兵士の一人が、死んだ仲間のシミターを回収したのを見届けたディーンは手を振り、撤退の合図を下す。
「顔真っ赤にして追いかけてた割には冷静なのね、それが信仰の形?」
 挑発と共に放たれたピンポイントは、けれどもディーンの動きを捉えきれない。
 そもそも今までの攻撃で、ディーンをまともに捉え得たのは葬識の放った暗黒のみなのだ。
 地下鉄の線路へと飛び降りて退いていく背中にリベリスタ達の攻撃が幾度も放たれるが、矢張り其の動きの速さの前に掠め傷付けるだけに終ってしまう。
 地下の暗闇と、彼等の持つ気配遮断がリベリスタ達に後を追わせない。
 下手な追撃は暗闇の中の奇襲を呼ぶだろうから。
「嫌いなのよ、宗教とか信仰とか。自分の行動全てを誰かの為みたいな顔しちゃって」
 消え行く背中に、エレオノーラの呟き零れる。

 最後に残されたケース。葬識の目でも中身を見通せなかった其れ等に収められていたのは、竜馬の物には幾許かの金と書類。
 そして犬策の残したケースには……。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 一般人への対応は非常にしっかりしていたと思います。
 その他ポツポツ気になる点もありましたが、結果はこうなりました。
 お疲れ様でした。お気に召したら幸いです。

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レアドロップ:『ヒラール』
カテゴリ:アームズ
取得者:エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)