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【桜ロマネスク】首無し番犬ぜるうぇいん

●三千世界にひとつ在る
 夜。夜である。闇と暗躍の象徴であるこれ。やはり、事の始まりとは、悪意の始まりとは夜であるべきなのである。
「あららる・ぱ、縊いて参れ」
 その男は、誰かのそれを真似するかのような口調で呟いた。その仕草には、敬意と尊敬と、忠誠が見て取れる。
 奇妙な男だった。純白の軍服、この暑いのにコートまで着込んでいる。本当に寒気を感じているのだろう。呼気から漏れるそれは確かに白くぼやけていた。
「ぎしき、じゅもん、しょうかん。小生には咒士の言うことはてんで理解できぬのであり〼が、桜帝よりの勅命とあれば。この、いち憲兵。底国人は千と八十の死屍累々、並べるに些かの反心も浮かばぬわけであり〼な」
 妙に、古い。そんな言い方をする男は、ついと手前の獣に目を向けた。
 犬。犬だ。少なくとも、身体は犬で出来ている。四足獣のそれだ。身体のそこかしこから触手が生え、それらの先に大刃のついた様はこちらのそれとは似ても似つかぬが。
 そして何より、首がない。正しくは、犬の首はないのだが。そこには人の首が植わっていた。女の顔だ。苦悶に満ち、苦痛に満ちた女の顔だ。
 ばり、ごり。異音と共に、女の顔が首に沈む。ばり、ごり。失礼、異音というには身近である。それは間違いなく、咀嚼音なのだから。ばり、ごり。植わる。涙を流して女の顔がいっそうと歪んだ。悲鳴を、あげたいのだろう。だが、肺がない。帯がない。それらはもう切り離されている。ばり、ごり。嗚呼、食われている。食われているのだ。犬の身体に、彼女は狂うことすら許されずに食われているのだ。延命されながら、正気を保たされながら。きっと頭部の先まで彼女は死ねずに居るのだろう。
 ごくん。嚥下音。どさり、首のない女の身体が倒れた音。今になって、死ねたのだろう。切り離されても、なお失われるまで生かされているのだろう。
「腹は満ちたであり〼か? ぜるうぇいん」
 ぜるうぇいん。そう呼ばれた犬が身体ごと、身体だけで振り向いた。
「少し、食事に時間をかけすぎたであり〼な。まだまだ勅命の数には程遠い。急ぐに越したことはないでしょう」
 主の命令を、聴く前に理解したのだろう。犬は駆け出した。正しく忠犬。黒い身体は夜に紛れて、闇に消える。
「さて、そろそろ邪魔の入る頃であり〼な。ふむ、それで。なあ、小娘」
 そこで、目が覚めたのだ。

●最低世界にしかと見る
 布団を跳ね除けた。
 上半身を起こし、胸と口元手を当てる。激しい動悸。強烈なむかつき。その違和感が現実のものだと気づいて初めて、自分が目覚めたことを悟る。
 大きく、呼吸を、ひとつ。
 寝汗が酷い。寝間着の生地が肌に張り付いて不快だ。暑さのせいばかりではないだろう。あんなものを。見たのだから。あんな。あんな?
 首を、傾げた。はて、何を見たのであったか。否、そう。犬。犬だ。あの異常で異形な犬を見たのだ。そう、それだ。あんな、悍しい。だが、何か。
 膨れ上がる疑問を拭い去れぬまま、少女は戦士を呼ぶためと準備を始めた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月13日(金)23:58
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

異形の獣をしたアザーバイドが出現しました。
一般人を襲い、殺害を繰り返しています。直ちに討伐へと向かってください。


※エネミーデータ
首無し番犬ぜるうぇいん
・黒い大型犬の身体に、刃先のついた触手を何本を蓄えたアザーバイド。頭部に当たるパーツが存在せず、そこに刈り取った人間の首を置いて捕食する。食事の間、獲物は死ねず、狂えず、身動きできない。

・触手による斬撃。5メートル程の長さを持つ触手による攻撃。刃は非常に鋭く、出血と致命効果が付随する。

・こちらの世界での犬に近い形状から、非常に素早く、また力強いのだと予測されます。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)

高木・京一(BNE003179)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)

●心情世界にふらと立つ
 千と八拾。咒士らの言うには、それだけの死が必要なのだとか。かと言って、自国民をその代償に選ぶわけにもいくまい。その点において、あれらは反対をしていたが。これだから、ぎしきだなんだばかりを探求した連中は困る。戦の意味を、損益の価値をまるで理解していない。あいつらには、端から勝利しか見えていないのだろう。

 暗い。暗い。黒いのかもしれない。闇と黒の区別はつきづらい。見えていないのか、見えていてそれであるのかは理解しがたい。だが、いつだってそのふたつは大きく異なるのだ。
「悪趣味で気持ち悪い敵ね」
 率直。『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の抱いた感想は、平常な人間であれば感じてしかるべきものであった。首から上を主食とし、食い終わるまで苦痛の中を生かし続ける悪獣。そんなものに好感を持ってよいわけはない。それを甘受できるほど、マゾヒズムに身を落とした覚えはないのだ。溢れ出る嫌悪感。そのお陰で、心的な遠慮などまるでなく始末してしまえるのだろうが。
 口から吐き出した温度差の白。余程暑い世界から来たのだろうか。黒い猟犬と、白い番犬。こんこんと。はしゃいで駆けまわるのも無理はない。生憎と、季節違いではあるのだが。それとも、洒落た玩具でも用意したつもりだろうか。通じると感じたならば神経を疑うが、楽脳さが知れるというものだ。生温い夜へと『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は呟く。
「まぁ、見世物のお代はくれてやる。六文銭で十分だろう?」
「ただアザーバイドが暴れている、という訳では無いようですね」
 目的がある。そのために行動し、そのために虐殺している。話を聞いた上で、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)の分析はそれだった。食い荒らし、食い散らかしている殺人行動。向こう側から行き着いて、ただただ本能と狂気に苛まれたわけではないのだとするならば。できればなにか情報を。だがまずは、目前の危機を排除することが優先される。
「桜帝とやらの勅命とあらば、向こうさんも違える訳にはいかないのだろうがね」
 それが何者であるのか。『足らずの』晦 烏(BNE002858)にはわからない。だが、きっとこちらに来たそれよりも遥か高みに位置する何かなのだろう。王。皇帝。それに属する何かであるはずだ。だからと言ってそれを叶えてやるわけにもいかないのだが。紫煙の元を潰し、人払いを撒いた。
「願わくばこのボトム・チャンネルからお引取り願えれば幸いかねぇ」
「獣の首のかわりに犠牲者の首をもつ犬のようなアザーバイド、ですか」
 なんとも悪趣味な話だと、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)。否、この世界のモノではないのだから。こちら側の美意識で勘定しても仕方のないことなのだろう。そうでなくとも、常軌を逸した現象には事欠いた試しがない。憲兵。桜帝。咒士。気になる情報はあるが、犠牲者が多数出ているのであれば捨て置くことは出来ない。早々に、打ち倒してしまわねば。
 まったくもって、時代錯誤な話だ。話を聴くに、帝国主義的な飼い主。無闇に食い荒らす、躾のなっていない駄犬ときている。目的は不明。理由は不明。行動は殺人。放置すれば、喰うだろう。喰って、喰って、喰って喰って喰って喰って食い散らかすだろう。誰も彼もを殺し、何の痛みもなく笑って帰るだろう。『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は言う。
「許し難い、度し難いな!」
「まーた随分悪趣味なワンコを連れて来たっすね」
 底国だとか、桜帝だとか。そんなこと、『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)には知ったことではない。言えば余所者。そんな奴が、自分達の領域内で好き勝手するなど腹立たしい。ぎしき、じゅもん、しょうかん。だか何だか知らないが、わかってやるつもりもないが。そんなもの、そっちのセカイでどうぞ勝手にやればいい。こちらを巻き込んで、自分勝手。嗚呼、面倒な。

●底辺世界にいまおもう
 しかし、勝利という二文字がそれ程にまで魅力的であるというのは認めざるをえない。誰も、敗北したいがために生命を投げ打つなどできはしない。無論、それによる代償を自分達に向けるなど論外である。利益の為に失う必要など無い。意味が無い。ならばその代替を、他に見出すしかないだろう。

 それを、見つけることは容易ではなかったが。確信を持つには一瞬であった。近づけば、分かる。耳に残る咀嚼音。ばり、ごり。一度聴けば二度と聴きたくもない。皮と肉と骨と神経を同時に噛み砕いている。同時に食い荒らしている。思わず耳を塞ぎたくなって、続いた目の覆いたさに後悔した。
 苦悶、苦痛。悲鳴をあげたくてもあげられない。身を悶えさせたくとも動けない。狂おうにも頭が澄んでいく。死ぬことが確定しているのだと理解しながら致死の痛みを味わいつつゆっくりとゆっくりとその終着が見えないままそこに向かっていく恐怖。
 フラウが飛び出した。首の食事面。そこにナイフを潜り込ませ、上下を切り離す。別れたと同時に首は主人のそれに戻り、悲鳴が劈いた。
 恐怖と恐怖と苦痛と苦悶と苦悶と愉悦と恐怖と狂気をないまぜにして、目は虚ろなまま。自由は、耐えきるだけの束縛を与えてくれない。

●劇場世界に其がわらう
 安易さ。それは行動するにおいて求められる指針である。難度が低いということは、その分効率が良いということだ。ならば、死への抵抗が薄いほど都合が良い。自国民ならば勅命の下、喜んで生命を投げ出すのだろうが、そういうわけにもいかないのだから。計画は次、自然。瞳は底国人へと向けられるのだ。

『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が胸を貫かれた時、その惨状に誰もが青ざめた。死。唐突なそれを感じ、急ぎ駆け寄る。仲間が犬を突き飛ばし、その中に己を割りこませていた。
 触れて、安息。生きている。危険なことに変わりはないが、生きている。心臓を通り過ぎたわけではなかったようだ。それが、幸運によるものか食欲によるものかは区別がつかなかったが。

 突き飛ばしたそれで気を抜くことはなく、佳恋はぜるうぇいんとの距離を詰めた。負傷した仲間の傍によらせるわけにはいかない。誰かが守らなければ、これは遠慮なく殺すだろう。否、喰うのかもしれない。ああして、死にながら生かされている惨状に陥らされるのかもしれない。
 彼女は、自分達が集められた意味を強く受け止めていた。リベリスタは、一般のそれと比べて遥かに強固な存在だ。仲間を意識する。彼らとて、その中でも強力な部類に入るだろう。だが、自分達は数を集められた。その意味。それは何よりも、この獣の強靭さを表していた。
 自分の横を、触手が通り過ぎた。それに反応し、渾身のそれを犬へと打ち付ける。クリーンヒット。向こうへと突き飛ばされれば、自然。その刃も引き戻されるだろう。こちらを向く獣。照らした明かりが、悍ましいものを見せた。首の断面に並ぶ。大小の白い歯を。牙を。擦り合わされたそれらを。
「犬と呼ぶのすら犬への冒涜ですね……もはや、倒すのみです……!」

 旋律。思わず喉を掻き毟りたくなるほどの罅割れた調べ。恵梨香の奏でたそれの影響が、指向性を持ってぜるうぇいんへと襲いかかる。犬の聴覚と嗅覚が優れていることは有名だ。どうやら、首から上がなかろうとその特性に関係はないらしい。身悶えする。そういうところも、犬であるからなのだろう。そういうものだから、そういうふうにできているのだ。
 物陰から物陰へ。小さな体を移らせる。音は、射線よりも剣線よりも目立つ。同じ場所に居ては自分を知らせるようなものだ。刃のついた距離。それは自分に触れれば容易く生命を削るだろう。
 姿を隠し、周囲へと意識を張り巡らせた。憲兵。白い服の男だという。それがこの近くにいないとも限らない。警戒を、そうしていて損はないと、思っていたのだが。眼前に刃筋。思わず首を引っ込めれば、刹那の過去場を殺意が通り過ぎた。あれこれと配る余裕はないようだ。任務の完遂を。そこへと脳髄をシフトさせる。

 異界の犬が振り回す刃。力強く、また大きくしなるそれを避けきれるはずもなく。仲間の内には既に深い傷を負わされているものも居る。せめて止血してしまわねば、碌に回復も出来ぬ有様であろう。そうは思うものの、ユーヌにそれを打開する手段はない。それへの対処を可能とする味方も居たのだが、既に倒れた後だ。ないものねだりをしていても仕方がない。気持ちを攻撃へと切り替えていた。
 占い。ひとつ。それは本来、人の幸福を願うもののはずだ。否、これもその意味では何も間違っていない。間違いなく幸福を願い、幸福を請うてはいるのだろう。ただ、飽くまで人のというだけだ。
 罅割れに足を取られ、逃げる先には壁がある。偶然の連続性。彼女の占う幸福は、彼女の求める悪態は、そのパーセントを引き上げる。当不当も八卦と。口から出たものが、蔑みか煽りかは分からなかったが。
「大凶か、面白みがないな。出来の悪さを異世界にアピールしに来たのか?」

 獣の膂力、俊敏性に加え。食欲とそれを追求する悪意。その塊を抑えこむのにひとりで十分なはずもなく、フラウも早々に前線へと身を投じていた。手にしたふたふりの獲物。それを不規則に舞わせ、犬へと向ける。まともにあたりもしないのは承知の上だ。これが素早いなどというのは見れば分かる。だが、それで気の済むわけもない。意識を、ただ断ち切ることに、沈み込ませていった。
 人面犬。久しく聴かない都市伝説の類ではあるのだが、そんな言葉を思い出した。実際、目の当たりにしたいだなんて思ったことはなかったが。案外、事実として在るのならこれのカテゴリであるというのも否定はできまい。
 嫌悪感。だが、それと避けるのとでは話が別だ。殺意を刃に変え、刃を致命変え、フラウは決意の塊を振りかざす。
「番犬だかぜる公だか何だか知らないっすけど、さっさとブッ殺されてくれねーっすか?」
 極限まで研ぎ澄まされたそれを、獣といえ逃げる術を知らず。

 焦りと、不吉。否、不安か。レイチェルの表情に、それが見て取れた。ぜるうぇいんの異形についた刃。その鋭利さは、治癒の歌を否定する。戦闘において、安定したローテーションに持ち込むことは勝利することの定石といえる。言わば、相手をジリ貧にさせる状況を作り上げてしまえばそうそう勝ちが揺るぐことなどないのだ。確定した攻撃、減らない戦力。それらがなくなれば、いつまでも揺らいだ天秤だけが残るだろう。
 回復できないのなら、攻撃に転ずるしか無い。状況を見定め、獲物を睨む。犬。異界の犬。食事という生物の必要行動において、餌を長く苦しめるよう出来上がった獣。自然とそうなったとするにはあまりに不可解ではあるものの、向こう側がわからない以上そこに断定的な判断はできない。嗚呼でも。
 怖い。恐ろしい。悍ましい。気持ちが悪い。溢れ出る嫌悪感。零れ出る生理感。だから。殺そう。殺してしまおう。出来るだけ早く。一刻も早く。

 夜を。黒を。刹那だけ顕にする。閃光。強烈な光を目の当たりにする器官こそ、ぜるうぇいんには見受けられないが。それでも、その身を焼く熱波には意識を刈り取られたのだろう。一瞬、動きが止まる。それを放心したのだと受け取り、烏の手にした火器が敵意を吐き出した。銃声。銃声。銃声。一方通行なキャッチボール。悲鳴はあがらない。それを垂れ流すための器官もこの猟犬には存在していない。
 触手が動き始めた。離心から立ち直ったのだろう。異界の獣が攻撃に移る前に白兵と場所を交代する。傷が治しきれないのであれば、危険度の高い役割を持ち前でやりくりするしかない。距離の開いた上で戦闘することに長けた自分の装備。背に腹は変えられぬ。傷と死を両端に置くのであれば、比べるべくもない。
 伸ばされた刃を捌ききる事ができず、獣性は自分の中に潜り込んだ。激痛。止まらない赤。それでも倒れるほどではなく。少なくとも本職が戻るまでは堪えなければならなかった。

 ベルカによる意識共有。技術ではなく性能ではなく知識としての最善性。実質、治療というサポートを元来あるべき単位未満に貶められている状況では。彼女による知識ダウンロードが戦闘への有効な対策を果たしていた。避けられないほど素早いのなら、癒せないほど流すのならば。守ればいい。倒れなければ死んでいないのだ。獣との戦闘、それも異形となればヒトからかけ離れ困難は増す。後方支援としての骨頂を見せていると言えた。
 呪魂の弾丸が牙を剥く。痛みよりも痛く、苦みよりも苦くその身を蝕む怨のそれ。放心し、不吉に見まわれ、それから抜け出せぬ地獄を作り上げる。
 ベルカの腕は震えていない。引鉄を絞るに何の躊躇いもない。それは信頼感からくるものだ。異形の触手より離れれば、それに見舞われる道理はない。侵攻は味方が阻んでくれる。きっとそうしてくれるだろう。全幅の信頼において彼女はその身を隠すことなく、さりとて功を焦ることもなく。悠然と呪式を紡ぐ。

●最終世界にまがまがつ
 依って。これは桜祖を栄えるに必要とされたものである。喜べというつもりはない。抗うなというつもりもない。これが我々の自己愛だということは十二分に理解している。だが、それがなんだというのだ。己を優先すれば他を蔑ろにして当然。なれば我々は、堂々と何の臆面もなく宣言できる。諸君らを犠牲にしよう。千と八拾の首。頂きに仕る。

 かしわ手が、聴こえた。
 犬はもう動かない。顔がないため判別しづらいが、もう生きてはいないだろう。一同は、その音源へと視線を向けた。
 白い。白い男だ。着ている服も、腰の鞘も、吐いた吐息までが白い。
「底国人への賛辞はこうして送るのだと聴いたであり〼が、小生何か間違っているのであり〼か?」
 敵意は感じられない。だが、けして友好的でもなかった。
「おや? 桜言葉は分からぬであり〼か?」
「……何が、目的?」
 ようやく、口を開く。その間にも思考を巡らせた。負傷、損害。連戦して無事に済むとは思えない。
「はて……嗚呼否、貴君らの桜言葉は聴こえているのであり〼が、目的……いち憲兵には難しい質問であり〼な」
「遠路遙々来たんだお茶会にでも付き合って貰おうか?」
「小生と? 異なことを。刃を交えられる風には見えぬのであり〼な」
「場合によっては、貴方も排除させていただきます」
「またの機会に願いたいものであり〼よ。お互いの為に」
 悔しいが、今戦闘に応じれば敗北するのはこちらだろう。最悪、全滅も有り得れば。退いてくれるという提案に乗るしか無い。
「後日、必ず討ちます……!」
「ではその時に。小生も次を考えねばならぬのであり〼。これにて失礼を」
 立ち去ろうとする白。歯がゆいが、ここで追いかけてもどうにもなるまい。だが、これだけは聴いておく必要があった。
「御身、異界と言えどやんごとなき方にお仕えする名の有る士と見た。名を頂戴して宜しいか」
 首だけで振り返る。現れてから変わらず、その胸中を読み取ることはできそうもない。
 ただ一言。それだけを残して男は消える。そのくらいなら、なんでもないのだという風で。その音が、これから続く連鎖の中で敵だけを明確にさせていた。
「あららる・ぱ」
 了。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
桜祖帝国ツアーペアチケット。