● ――奴らに故郷が滅ぼされたあの日を、忘れたことはない。 両親も、友人も、あっという間に奴らの餌食になった。 俺と妹だけが、命からがら逃げ延びることができたのだ。 絶望と怒りの中で、俺は革醒し、運命(フェイト)を得た。 この力をもって奴らを根絶することを、心に誓った。 奴らが憎い。その存在そのものが、俺にとって許しがたい。 だから。この身を断罪の槍と化すことに、迷いはない。 無関係の人間をも巻き込む仲間のやり方には、疑問をおぼえなくもないが―― 奴らを残らず狩り尽くすためには、そのくらいの覚悟が必要なのかもしれない。 俺も、まだまだ甘いということか。 槍を両手に構え、憎きエリューションどもを見据える。 奴らを滅ぼすその時まで――背を向けるわけには、いかないのだ。 ● 「今回の任務は、E・フォースの撃破……ではあるんだが」 ブリーフィングルームに集ったリベリスタ達にそう告げた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、いったん言葉を切ると、眉を寄せて難しい表情になった。 何かイレギュラーな事態でも発生しているのだろうか。 リベリスタの一人が問うと、数史は黙って頷き、再び口を開いた。 「現場に偶然居合わせた革醒者が一人、先にE・フォース達と戦いを始めている。 こいつは――『断罪の刃(エクセキューショナーズ)』という革醒者グループの一員なんだ」 どこか苦い表情で、数史は『断罪の刃』について説明を始める。 「簡単に言うと、『世界を守る』という大義名分で好き勝手やってる自称リベリスタの集団だ。 敵性エリューションやアザーバイドを狩るためなら平気で一般人を巻き添えにするし、 邪魔をしようものなら誰だろうと殺しにかかる。 ……それが、同じリベリスタであったとしてもな」 先日、『断罪の刃』が一般人を巻き込んでノーフェイスを殺害しようとした時、一般人を守るためにアークのリベリスタが介入したことがある。 凶行を止めるべく、先に攻撃を仕掛けたのはアークの方だったが――彼らはアークのリベリスタと知ってもなお、反撃を躊躇いはしなかった。 「正面切ってアークに喧嘩を売るっていうのも、随分と強気な話だ。 何か後ろ盾があるのかと調べてはいるが、今のところ他のグループとの繋がりは見つかってない。 単純に向こう見ずな人間の集まり……と考えられなくもないが、な」 少なくとも十人以上の革醒者が所属しているらしいが、『断罪の刃』の全体像はまだ掴めていないのが実情だ。 まあ、それはそれとして――と、数史は言葉を続ける。 「現場で戦ってるのは、メタルフレームのダークナイトで『ティール』という名前の男だ。 こいつは『断罪の刃』としては珍しく、無関係な人間を巻き込むことをあまり良しとしていない。 エリューションを憎む気持ちは人一倍強いから、邪魔をした場合は容赦はしないだろうが…… 逆に言えば、それに反しない限りは交渉の余地があるということだ」 アプローチの仕方によっては、一時的な共闘を持ちかけることも可能かもしれない。 「『断罪の刃』のやり方を考えれば、共闘どころか、助けてやるのも癪だろうけどな。 今回の敵は、放っておくとどんどん数が増えていくんだ。 共倒れを狙って様子見なんてしてたら、手がつけられない状態になる可能性が高い」 目的は、あくまでもE・フォースの撃破が最優先だ。巻き添えになる一般人もいない。 そこだけを判断する限り、今回は『断罪の刃』とも利害は一致していることになる。 「実際にどう立ち回っていくかは、皆に任せるが――どうか、気をつけて行って来てくれ」 黒翼のフォーチュナはそう言って、リベリスタ達に頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月16日(月)23:54 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 闇の武具を纏う男が、E・フォースと戦っている。 既に傷を負っているが、それを気にかける様子はない。E・フォースの本体、血涙を流す無数の目玉に、赤く染めたランスを繰り出す。 そこに、『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の声が響いた。 「アークだぜ! 助けにきたぜ」 それを聞き、男――ティールは眉を寄せる。 先日、仲間が『アーク』と交戦した一件は、彼も知っていた。 「アークが何の用だ!」 「私達の目的はE・フォースの撃破です」 癒しの微風をティールに届けながら、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が答える。 敵対の意思がないことを行動で証明した後、彼女は共闘を申し出た。 「お互いの組織に思うところが無い、ということはないでしょうけれど…… 少なくとも今回は共に戦う事に利が無いとは思えませんが、いかがでしょうか?」 返答を待たずに、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)がE・フォースの本体に迫る。この状況で即座にアークを攻撃するほど、短慮な男ではないだろう。 (妙に強気な理由は気にはなるが……) ティールを一瞥しつつ、目玉に牙を立てて活力を啜る。今は、眼前の敵に集中することだ。 『不屈』神谷 要(BNE002861)が、E・フォースの分身――巨大な目玉の一体を抑え、敵を挑発する。分身四体のうち三体が、怒りに染まった。 「あんた達は無茶すんのが好きだよな」 ティールのフォローに入った『銀の盾』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)が、そう言って苦笑する。昔の自分が重なるだけに、あまり人のことは言えないが。 「何のつもりだ」 「今はぐだぐだ言ってる場合じゃねーだろ」 疑念を強引に封じ、ユーニアは盾を構える。そこに、『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)が言葉を重ねた。 「あの目玉は中々厄介でね、だからこんな大人数で来たんだよ」 瞬く間に本体との距離を詰め、指先で紫の軌跡を描く。鋭い爪が目玉を抉り、二つの傷を刻んだ。 「君は強いだろうけれど……全部、言わなくても解るだろ。 一緒に戦わせて欲しい、頼むよ」 ミカサが言う通り、ティールは己の不利を承知している。ここは、仲間の因縁を一時忘れてでもアークと共闘するべきだ。 敵性エリューションを滅ぼすため、『断罪の刃』は手段を選ばない。 時には一般人すら犠牲にする彼らの信念は、夏栖斗にとって決して相容れないが――それでも。 「リベリスタは助け合いだよねっ!」 夏栖斗は彼の信念のもと、虚空を奔る蹴撃で分身もろとも本体を切り裂く。『翡翠の燐鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)が、怒りを免れた分身をブロックすると同時に、射撃手としての感覚を研ぎ澄ませた。 彼女は先日、ユーニアやミカサと共に『断罪の刃』と交戦した一人。思うところはあれど、ティールと共闘することに異存はない。 (気に入らない組織にいるから個人の思想に関係なく潰すなんて、短絡的だもの) もっとも、わざわざ気を遣ってやるつもりも無いが――。 後衛に立った『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が、周囲の魔力を取り込んで自らの力を高める。『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が、槍を構えて本体に駆けた。分身たちの脇を抜け、鮮烈に輝く槍の穂先で目玉を貫く。 直後、禍々しい呪いを秘めた血の雨がリベリスタ達に降り注いだ。三体の分身が要に群がり、残る一体が怨嗟の弾丸でティセラを撃つ。 本体に肉迫した『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)が、ティールに声をかけた。 「あの敵は増殖能力があり、速やかな排除が必要だ。 ――力を合わせてあいつを滅ぼすぞ!」 言うが早いが、裂帛の気合を込めて鉄塊の如き大剣を振るう。激しく爆裂する零児の闘気が敵を穿った瞬間、ティールがランスを深く突き入れ、追い打ちを加えた。 「邪魔をしないのなら、拒む理由はない」 ● カルナの呼び起こした聖神の息吹が呪いを消し去り、全員の傷を癒す。鉅が、大胆に踏み出して本体の懐に飛び込んだ。死角がないなら、敵に自分を狙わせて仲間を守るまで。 ぴったり張り付いて牙を立てる鉅を、血涙を流す目玉が睨む。 指先の鉤爪から二連の攻撃を繰り出すミカサが、作戦の概要をティールに告げた。 「合わせるかどうかは君の自由だけどね」 「拒む理由はないと言ったろう。……正直、解せないがな」 怒り狂う分身たちを巧みに誘導する要が、ティールを含む全員に十字の加護を与える。アークが自分を完全に“味方”として扱う理由が、ティールには理解できない。 「恩を売るつもりはないし、利害の一致だろ?」 要と入れ替わりに前に出た夏栖斗が、獣を宿した黒鋼のトンファーを振るう。激しい炎で分身たちを薙ぎ払った後、彼は続けた。 「僕達も任務、君も任務。邪魔をする気はないぜ、僕ら利用しちゃいなよ。 そのくらいなんとも思わないお人好しばっかりだからさ」 「……成る程」 ティールが暗黒の瘴気を呼び起こし、分身も巻き込んで本体を撃つ。両手剣の刀身を用いた大型銃剣“トゥリア”を構えたティセラが、その銃口から幾つもの光弾を放って二体の分身を屠った。 破邪の輝きを纏った槍で本体を貫くユーディスが、ティールに視線を走らせる。 (まあ、彼らも『リベリスタ』には違いないのでしょうね) 世界を守るべく敵性エリューションを討つという、根底の目的は同じ。違いがあるとすれば、そこに至る方法と、行動を起こす理由だろう。 滅ぼすための犠牲を厭わぬ『断罪の刃』と。 零れゆく命を、一つでも多く救おうと手を尽くす『アーク』。 ティールは組織の方針に疑問を抱いているようだが、それを己の弱さと解釈している節がある。 (願わくば――迷える刃には、覚悟などという物の為に、 最後の一線を踏み越えたりしないでほしいものですが……) ユーディスの思考は、敵の攻撃で中断された。不可視の殺意で鉅を射抜いた本体が、動きを縛る呪いの散弾を放ったのだ。続いて、分身たちが怒りに任せて要を襲う。 仲間達の多くが足を止めたのを見て、ニニギアが動いた。 「回復するね」 優しげな詠唱が、聖なる癒しの力となって呪縛を払う。体勢を立て直した鉅が、再び本体へと喰らいついた。血を啜って自らの傷を塞ぎつつ、視界の端にティールを映して眉を寄せる。 (『断罪の刃』とやらの中ではマシな方らしいが……) いかに疑問を抱こうと、蛮行を止めないのであれば所詮は同じ穴の狢に過ぎない。ここで喧嘩を売るつもりもないので、わざわざ口に出しはしないが。 全身のエネルギーを防御に特化させた要が、赤い瞳でティールを見つめる。エリューション事件で弟を失った彼女にとって、彼はかつての自分が選ばなかった『もう一つの道』を歩む者と言えた。 だが、その道は――遠からず、誰かの命を犠牲にすることを要求するだろう。 罪無き人々の命か、あるいはティール本人の命か。 (そうなる前に、何か出来る事があれば……) それぞれの思いをよそに、戦いは続く。 360度全てにバラ撒かれる怨嗟の散弾を受けて、半数近いリベリスタが動きを封じられた。ニニギアが聖神の息吹で傷を癒すも、呪縛を解くには至らない。すかさず、ユーディスが邪を退ける光で仲間達を解き放った。 散弾を浴びながらも果敢に敵に打ちかかるティールを見て、ティセラは思う。 あの底知れぬ戦意は、彼が持つ憎しみから生まれるのだろうか。 ティセラは任務に感情を挟まない主義だが、他人にそれを強いるつもりはなかった。 強い思いが戦う力になるのなら、その方が良い。 (……少し羨ましいけれどね) 放たれた光弾が、さらに一体の分身を落とす。敵の攻撃から零児を守り続けるユーニアが、肩越しに声をかけた。 「ダメージディーラー、頼んだぜ」 本体から目を逸らすことなく、零児が大きく頷く。肉体の枷を外した彼の闘気が唸りを上げ、紅き炎を宿す瞳がひときわ強く輝いた。 狙うは、本体を構成する目玉の一つ。 真正面から炸裂した“生死を分かつ一撃”が、巨大な目玉を風船の如く割り砕いた。 ● 傷ついたE・フォースが、新たに二体の分身を生み落とす。 周囲の魔力を取り込むカルナが、厳然たる意志を秘めた光で一帯を包んだ。 要が挑発で新手を引きつける隙に、ミカサが鉤爪を閃かせる。神速の突きが二つの傷を穿つと同時に、鉅が本体に組み付いて血を啜った。 自分を睨む目玉を見返しながら、それにしても――と鉅は思う。 (エリューションへの復讐を願う者が、犯罪被害者の怨念と戦うというのも皮肉な話だな) 放たれた不可視の殺意に対し、彼は僅かに身を捻って直撃を避けた。 癒しを封じる血の雨が、リベリスタ達を激しく叩く。巨大な目玉の一つと視線が合ってしまったニニギアが、怯みそうな己の心を叱咤しつつ詠唱を響かせた。 彼らが流す血の涙には限りない悲しみや怒りも感じるけれど、でも――。 「恨む相手と同じことしちゃいけないのよ……」 癒しの息吹を全員に届けながら、ニニギアはティールを見る。それは、彼にも言えること。 虚空を切り裂いた夏栖斗の蹴撃が、本体を突き抜けて分身の一体を両断する。執拗に要を狙う残りの分身たちを、ティールが暗黒の瘴気で打ち据えた。 防御を殆ど行わず、ひたすら攻撃を続けるティールの戦いぶりを見て、ユーニアが彼を窘める。 「怪物と戦う時は、自分が怪物にならないように気をつけないとやばいらしいぜ」 傷つき倒れ、運命に見放されたら。次に怪物(ノーフェイス)になるのは、他ならぬティール自身だ。 「……だからと言って、奴らに背を向けられるか」 僅かな沈黙の後、ティールが答える。そこに、零児の声が重なった。 「俺も、退くつもりはないな。――でも、それは憎しみの感情からじゃない」 エリューション事件が切欠で革醒した零児には、ティールの気持ちが少し理解できる。だからこそ、彼はそう付け加えた。 仮に自分達が撤退してしまえば、E・フォースの増殖を阻む者はいない。 際限なく増え続ける彼らは、戦う術を持たない人々を無差別に殺して回るだろう。 「戦うことで、一人でも多くの誰かを護りたいんだ」 曇りなき不退転の決意が、漲る闘気となって零児の全身を伝う。 鉄塊の如き大剣が振り下ろされた瞬間、また一つ、巨大な目玉が爆ぜた。 癒しをもたらす福音を響かせながら、カルナは思う。 (心を整理する意味では、復讐という行為は必要な事なのかもしれません) だが、常に上位世界の影響を受けるボトム・チャンネルにおいて、エリューションの根絶は不可能に近い。彼らを滅ぼすまで戦い続けるのだとしたら、それは緩やかな自殺と変わりないのではないか。 黒鋼のトンファーに冷気を纏った夏栖斗が、本体を強かに打つ。彼もまた、ティールの行く末を案じていた。 復讐そのものは否定しない。でも、ティールの覚悟に僅かな揺らぎがあるなら。 いつかどこかで、大事なものを失うかもしれない――。 怨嗟を帯びた呪いの散弾が、リベリスタ達に襲いかかる。 零児の守りに専念するユーニアが、翳した盾で飛来する散弾を弾いた。 肩口を抉られたミカサが、鈍い紫色に輝く鉤爪を目玉に突き入れる。指先から吸い上げた血が、穿たれたばかりの傷を塞いだ。 ティールを援護するユーディスが、破邪の輝きを纏った槍で本体を貫く。 すかさず踏み込んだティールのランスが敵を捉えた瞬間、零児が裂帛の気合とともに“生死を分かつ一撃”を繰り出した。 断ち割られた目玉の塊が、おぞましい絶叫とともに消滅する。 残る分身のもとに駆けたティセラが、激しい烈風を巻き起こして彼らを殲滅した。 「私は憎しみとか正義感とか、感情で戦っているわけじゃない。 ――無くてもリベリスタはできるわ」 かつて手にかけた友人の名を冠した銃剣を手に、ティセラは誰にともなく呟いた。 ● 戦いを終え、夏栖斗が「おつかれっ!」とティールを労う。 「助けられた礼は言っておく」 最低限の礼を述べて踵を返そうとした彼を、夏栖斗は慌てて呼び止めた。 「少し、君たちの話を聞かせてもらいたい」 「敵になるかもしれん連中に、手の内を明かせと?」 渋い表情のティールに、鉅がカマをかける。 「答えられんのなら、やましい事でもあるんだろう」 ティールが、眉を寄せて鉅を睨んだ。ミカサが、とりなすように間に入る。 「断罪の事は何も知らないんだから仕方ないだろ。 でも強要する気はないよ、答えたくなければ構わない」 まったく悪びれない物言いに、ティールが初めて笑みを浮かべた。 「正直だな。……まあいい、お前らには借りがある」 俺に答えられることなら答えよう、と言うティールに、ミカサが問う。 「ラグ達は生きてるの」 「生きてる。ラグは微妙に危なかったらしいが」 「あの三人もそうだけれど、君も無謀だね。 一人で戦うだなんて、フェイトが尽きた時の事を考えなよ」 説教は止せ――と言いかけたティールに、ミカサはさらに突っ込む。 「それとも、強気でいられる素敵なアーティファクトでもあるの?」 「他の奴は知らんが、俺は持ってない」 ティールの口調に、嘘は感じない。次に、夏栖斗が尋ねた。 「『断罪の刃』ってどれくらいいるの?」 「確か、二十人と少しのはずだ」 続いて、ユーニアが口を開く。 「誰が作った組織なんだ?」 「俺は新参で、組織の成り立ちは知らん。 エリューションに憎しみを抱く者が自然に集まったと聞いている。 リーダーは『ウィアド』という名らしいが、俺は会ったことがない」 それでも不都合はなかったしな、とティールは付け加えた。 質問が出尽くしたところで、ユーディスが前に歩み出る。 『断罪の刃』も気にかかるが、それ以上に心配なのはティールだ。 「一般人を巻き込む行いは、かつて自分の家族が受けた仕打ちそのもの。 ――憎むエリューションと同じ事をしているのだと、それを……解っているのですか?」 心を捨てた革醒者など、運命無きエリューションと何も変わらない。 手を下したのが人であれエリューションであれ、大切な人を奪われる痛みに違いはないのだから。 沈黙するティールに、夏栖斗が問う。 「いつか、君の妹を犠牲にしてエリューションを倒すことになったらどうする?」 ティールの表情が僅かに揺らいだのを、彼は見逃さなかった。そういう人間は、嫌いじゃない。 「復讐心を胸に戦うんじゃなくてさ、妹さんを護るため、平和で暮らせる世界を護るため、 そんな前向きな理由でもいいんじゃないか?」 零児が、半ば自分に言い聞かせるように言葉を重ねる。ティールの悲壮な決意は、彼にとって他人事とは思えなかった。 ねえ――と、ミカサがティールを見つめる。 「人の心も、情も絆も、平然と踏み潰していった存在を憎んだから戦ってるんだろ。 断罪の戦い方をもう一度思い返してみてよ。 それでも断罪を貫くのなら――俺はもう、何も言う事は無いよ」 ティールは『断罪の刃』の非道に何も感じていないわけではない。 己の復讐心をもって、それに蓋をしているだけだ。 だからこそ、ミカサは彼を突き放す。結論を与えず、自分で考えろと問いかけ続ける。 黙って拳を握り締めるティールに、ニニギアがそっと語りかけた。 「アークの、犠牲を少なくするべく全力を注ぐ姿勢は知ってほしいわ。 大義だけ見て、命の重さや、人と人との心の繋がりを軽んじたら 人じゃないものになってしまいそうじゃない……」 できれば、ティールには『断罪の刃』を抜けて欲しい。 それが叶わずとも、せめて協力関係を築くことができれば――と、要が彼に提案する。 「貴方はアークの情報網を利用し、私達は貴方の強さを利用する。 都合の良い関係も良いかと思いますが、どうでしょう」 彼女に続いて、ユーニアが真摯に言った。 「あんたの目的、俺が手伝ってやるぜ。アークに来ないか」 逡巡の後、ティールはゆっくりと口を開く。 「……アークを否定はしない。 だが、回り道を良しとしない俺の考え方は、アークとは相容れないだろう。 悪しきエリューションを根絶するまで、俺は止まれないんだ」 「エリューションに善悪も罪も無いわ、ただの現象だもの」 ティセラが、翡翠の瞳で真っ直ぐにティールを見た。 「それを倒しているだけで、正義の断罪者になったような気になるのは ただの勘違いで、不当な暴力は悪よ。 ……フィクサードなら、リベリスタである私は倒すだけ」 ティールは黙って唇を噛み、彼女に背を向けた。 そのまま立ち去ろうとする彼を、ユーニアが呼び止める。 「一応連絡先渡しとく。何かあったら、死ぬ前に言えよな」 強引にメモを握らせる彼を、ティールが困惑した表情で見た。 「あんたにちょっと似てる人も知ってるんだ。 その人無茶するから、何となくほっとけないんだよな」 ユーニアの言葉に「お人良しめ」と苦笑しつつ、ティールはメモを懐に仕舞う。 歩き始めたティールの背中に、カルナが静かに声をかけた。 「――どうか、戦う理由とその意味を考える事は止めないで下さい」 復讐を止める事はできなくても、彼が倒れると悲しむ人は居るはずだから。 「またお会い出来る事を祈っています」 「会わない方が、互いのためかもしれないな」 要の言葉にそう返すと、ティールは振り向かずに立ち去っていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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