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尽きせぬ憎悪、断罪の槍


 ――奴らに故郷が滅ぼされたあの日を、忘れたことはない。

 両親も、友人も、あっという間に奴らの餌食になった。
 俺と妹だけが、命からがら逃げ延びることができたのだ。

 絶望と怒りの中で、俺は革醒し、運命(フェイト)を得た。
 この力をもって奴らを根絶することを、心に誓った。

 奴らが憎い。その存在そのものが、俺にとって許しがたい。
 だから。この身を断罪の槍と化すことに、迷いはない。

 無関係の人間をも巻き込む仲間のやり方には、疑問をおぼえなくもないが――
 奴らを残らず狩り尽くすためには、そのくらいの覚悟が必要なのかもしれない。
 俺も、まだまだ甘いということか。

 槍を両手に構え、憎きエリューションどもを見据える。
 奴らを滅ぼすその時まで――背を向けるわけには、いかないのだ。 


「今回の任務は、E・フォースの撃破……ではあるんだが」
 ブリーフィングルームに集ったリベリスタ達にそう告げた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、いったん言葉を切ると、眉を寄せて難しい表情になった。
 何かイレギュラーな事態でも発生しているのだろうか。
 リベリスタの一人が問うと、数史は黙って頷き、再び口を開いた。

「現場に偶然居合わせた革醒者が一人、先にE・フォース達と戦いを始めている。
 こいつは――『断罪の刃(エクセキューショナーズ)』という革醒者グループの一員なんだ」
 どこか苦い表情で、数史は『断罪の刃』について説明を始める。
「簡単に言うと、『世界を守る』という大義名分で好き勝手やってる自称リベリスタの集団だ。
 敵性エリューションやアザーバイドを狩るためなら平気で一般人を巻き添えにするし、
 邪魔をしようものなら誰だろうと殺しにかかる。
 ……それが、同じリベリスタであったとしてもな」
 先日、『断罪の刃』が一般人を巻き込んでノーフェイスを殺害しようとした時、一般人を守るためにアークのリベリスタが介入したことがある。
 凶行を止めるべく、先に攻撃を仕掛けたのはアークの方だったが――彼らはアークのリベリスタと知ってもなお、反撃を躊躇いはしなかった。
「正面切ってアークに喧嘩を売るっていうのも、随分と強気な話だ。
 何か後ろ盾があるのかと調べてはいるが、今のところ他のグループとの繋がりは見つかってない。
 単純に向こう見ずな人間の集まり……と考えられなくもないが、な」
 少なくとも十人以上の革醒者が所属しているらしいが、『断罪の刃』の全体像はまだ掴めていないのが実情だ。

 まあ、それはそれとして――と、数史は言葉を続ける。
「現場で戦ってるのは、メタルフレームのダークナイトで『ティール』という名前の男だ。 
 こいつは『断罪の刃』としては珍しく、無関係な人間を巻き込むことをあまり良しとしていない。
 エリューションを憎む気持ちは人一倍強いから、邪魔をした場合は容赦はしないだろうが……
 逆に言えば、それに反しない限りは交渉の余地があるということだ」
 アプローチの仕方によっては、一時的な共闘を持ちかけることも可能かもしれない。
「『断罪の刃』のやり方を考えれば、共闘どころか、助けてやるのも癪だろうけどな。
 今回の敵は、放っておくとどんどん数が増えていくんだ。
 共倒れを狙って様子見なんてしてたら、手がつけられない状態になる可能性が高い」
 目的は、あくまでもE・フォースの撃破が最優先だ。巻き添えになる一般人もいない。
 そこだけを判断する限り、今回は『断罪の刃』とも利害は一致していることになる。
「実際にどう立ち回っていくかは、皆に任せるが――どうか、気をつけて行って来てくれ」
 黒翼のフォーチュナはそう言って、リベリスタ達に頭を下げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月16日(月)23:54
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 E・フォースの全滅。

●敵
■E・フォース(本体)
 犯罪被害者の怨念が集まって生まれたE・フォースです。
 無数の巨大な目玉を一塊にしたような外見で、常に血の涙を流しています。
 背後にも目があるため、360度全てを視界に収めることが可能です。

 高火力、ダブルアクション高め(2ターンに一度くらいの割合で二回行動)。
 この『本体』が健在である限り、3ターンが経過するごとに2体ずつ『分身』が増えます。
 (3の倍数のターン終了時に分身が2体追加) 

 【尽きぬ怨念】→P:行動不能系バッドステータスを無効化。
           (ダメージや他の能力値低下を伴うものは、その効果のみ有効)
 
 【眼力】→神遠単[必殺]/高威力
   無数の目玉から放たれる不可視の殺意を収束し、対象一体を撃ち抜きます。
 【怨嗟の散弾】→神遠複[呪縛]
   無念を込めた呪いの弾丸で複数対象を同時に攻撃し、同時に動きを縛ります。 
 【血の雨】→神遠全[致命]
   禍々しい血の雨を降らし、全ての敵を攻撃します。
     
  ※他、『暗視』『精神無効』のスキルと同等の能力を所持

■E・フォース(分身)
 『本体』から生み出されたE・フォース。
 外見は充血した巨大な目玉で、常に低空飛行で宙を浮いています。

 リベリスタ達が最短で現場に辿り着いた場合は4体からスタート。
 (事前に何か行動するのであれば、経過した時間に応じて数が増えます)

 【体当たり】→神近単[弱点][怒り]
   空中から襲いかかり、対象一体の弱点を狙って攻撃します。
 【怨嗟の弾丸】→神遠単[麻痺](ダメージ0)
   無念を込めた呪いの弾丸で対象一体の動きを封じます。 

  ※他、『暗視』『飛行』のスキルと同等の能力を所持。

●『ティール』
 革醒者グループ『断罪の刃(エクセキューショナーズ)』のメンバーの一人です。
 23歳の男性、両腕が肩の付け根から機械化したメタルフレーム。
 目的のために手段を選ばず、人を人とも思わない『断罪の刃』メンバーの中では珍しく、過剰な殺戮を好まない人物で、比較的『話せばわかる』タイプです。
 (それでも、必要とあれば罪のない一般人を手にかけることを躊躇いませんが)

 エリューション事件で妹を除く全ての家族と友人を殺され、故郷を滅ぼされた過去から、敵性エリューションに対して激しい憎しみを抱いています。
 敵性エリューションが戦場にいる限り、どんなに不利な状況であっても逃げようとしません。

 それなりに高い実力を有していますが、彼一人でE・フォース達を全滅させるのはまず不可能です。
 ある程度は持ち堪えるものの、最終的には負けます。

 《メタルフレーム×ダークナイト》
 【武器】ランス
 【所持スキル】
  ・暗黒→物遠複[不吉][反動40]
  ・奪命剣→物近単[HP回復40][致命]
  ・漆黒解放→神自[リジェネレート30]
 【戦闘スキル】高速再生・錬気法・麻痺無効
 【非戦スキル】暗視
 【種族スキル】無限機関

●『断罪の刃(エクセキューショナーズ)』
 敵性エリューションとアザーバイドの殲滅を至上の使命とする革醒者グループ。
 本人たちはリベリスタを名乗っていますが、目的のために一般人の犠牲を厭わないばかりか、邪魔をする者を積極的に排除しようとする過激極まりない集団です。

 ※拙作『月と太陽の別離』にて、3名の『断罪の刃』メンバーがアークのリベリスタと一戦交えています。

●戦場
 あまり治安の良くない地域の路地裏。戦うのに充分な広さがあります。
 時間帯は深夜で、照明などが必要です。一般人の対策は不要。
 事前の付与スキル使用や集中などは不可とします。

●補足
 拙作『月と太陽の別離』とリンクしたシナリオになります。
 (本シナリオは独立した内容であり、上記リプレイを読まなくても参加に支障ありません)

 情報は以上となります。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ソードミラージュ
坂本 ミカサ(BNE000314)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
デュランダル
飛鳥 零児(BNE003014)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
ダークナイト
ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)
スターサジタリー
ティセラ・イーリアス(BNE003564)


 闇の武具を纏う男が、E・フォースと戦っている。
 既に傷を負っているが、それを気にかける様子はない。E・フォースの本体、血涙を流す無数の目玉に、赤く染めたランスを繰り出す。
 そこに、『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の声が響いた。 
「アークだぜ! 助けにきたぜ」
 それを聞き、男――ティールは眉を寄せる。
 先日、仲間が『アーク』と交戦した一件は、彼も知っていた。
「アークが何の用だ!」
「私達の目的はE・フォースの撃破です」
 癒しの微風をティールに届けながら、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が答える。
 敵対の意思がないことを行動で証明した後、彼女は共闘を申し出た。
「お互いの組織に思うところが無い、ということはないでしょうけれど……
 少なくとも今回は共に戦う事に利が無いとは思えませんが、いかがでしょうか?」
 返答を待たずに、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)がE・フォースの本体に迫る。この状況で即座にアークを攻撃するほど、短慮な男ではないだろう。
(妙に強気な理由は気にはなるが……)
 ティールを一瞥しつつ、目玉に牙を立てて活力を啜る。今は、眼前の敵に集中することだ。
 『不屈』神谷 要(BNE002861)が、E・フォースの分身――巨大な目玉の一体を抑え、敵を挑発する。分身四体のうち三体が、怒りに染まった。
「あんた達は無茶すんのが好きだよな」
 ティールのフォローに入った『銀の盾』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)が、そう言って苦笑する。昔の自分が重なるだけに、あまり人のことは言えないが。
「何のつもりだ」
「今はぐだぐだ言ってる場合じゃねーだろ」
 疑念を強引に封じ、ユーニアは盾を構える。そこに、『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)が言葉を重ねた。
「あの目玉は中々厄介でね、だからこんな大人数で来たんだよ」
 瞬く間に本体との距離を詰め、指先で紫の軌跡を描く。鋭い爪が目玉を抉り、二つの傷を刻んだ。
「君は強いだろうけれど……全部、言わなくても解るだろ。
 一緒に戦わせて欲しい、頼むよ」
 ミカサが言う通り、ティールは己の不利を承知している。ここは、仲間の因縁を一時忘れてでもアークと共闘するべきだ。
 敵性エリューションを滅ぼすため、『断罪の刃』は手段を選ばない。
 時には一般人すら犠牲にする彼らの信念は、夏栖斗にとって決して相容れないが――それでも。
「リベリスタは助け合いだよねっ!」
 夏栖斗は彼の信念のもと、虚空を奔る蹴撃で分身もろとも本体を切り裂く。『翡翠の燐鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)が、怒りを免れた分身をブロックすると同時に、射撃手としての感覚を研ぎ澄ませた。
 彼女は先日、ユーニアやミカサと共に『断罪の刃』と交戦した一人。思うところはあれど、ティールと共闘することに異存はない。
(気に入らない組織にいるから個人の思想に関係なく潰すなんて、短絡的だもの)
 もっとも、わざわざ気を遣ってやるつもりも無いが――。
 後衛に立った『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が、周囲の魔力を取り込んで自らの力を高める。『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が、槍を構えて本体に駆けた。分身たちの脇を抜け、鮮烈に輝く槍の穂先で目玉を貫く。
 直後、禍々しい呪いを秘めた血の雨がリベリスタ達に降り注いだ。三体の分身が要に群がり、残る一体が怨嗟の弾丸でティセラを撃つ。
 本体に肉迫した『紅炎の瞳』飛鳥 零児(BNE003014)が、ティールに声をかけた。
「あの敵は増殖能力があり、速やかな排除が必要だ。
 ――力を合わせてあいつを滅ぼすぞ!」
 言うが早いが、裂帛の気合を込めて鉄塊の如き大剣を振るう。激しく爆裂する零児の闘気が敵を穿った瞬間、ティールがランスを深く突き入れ、追い打ちを加えた。
「邪魔をしないのなら、拒む理由はない」


 カルナの呼び起こした聖神の息吹が呪いを消し去り、全員の傷を癒す。鉅が、大胆に踏み出して本体の懐に飛び込んだ。死角がないなら、敵に自分を狙わせて仲間を守るまで。
 ぴったり張り付いて牙を立てる鉅を、血涙を流す目玉が睨む。
 指先の鉤爪から二連の攻撃を繰り出すミカサが、作戦の概要をティールに告げた。
「合わせるかどうかは君の自由だけどね」
「拒む理由はないと言ったろう。……正直、解せないがな」
 怒り狂う分身たちを巧みに誘導する要が、ティールを含む全員に十字の加護を与える。アークが自分を完全に“味方”として扱う理由が、ティールには理解できない。
「恩を売るつもりはないし、利害の一致だろ?」
 要と入れ替わりに前に出た夏栖斗が、獣を宿した黒鋼のトンファーを振るう。激しい炎で分身たちを薙ぎ払った後、彼は続けた。
「僕達も任務、君も任務。邪魔をする気はないぜ、僕ら利用しちゃいなよ。
 そのくらいなんとも思わないお人好しばっかりだからさ」
「……成る程」
 ティールが暗黒の瘴気を呼び起こし、分身も巻き込んで本体を撃つ。両手剣の刀身を用いた大型銃剣“トゥリア”を構えたティセラが、その銃口から幾つもの光弾を放って二体の分身を屠った。
 破邪の輝きを纏った槍で本体を貫くユーディスが、ティールに視線を走らせる。
(まあ、彼らも『リベリスタ』には違いないのでしょうね)
 世界を守るべく敵性エリューションを討つという、根底の目的は同じ。違いがあるとすれば、そこに至る方法と、行動を起こす理由だろう。
 滅ぼすための犠牲を厭わぬ『断罪の刃』と。
 零れゆく命を、一つでも多く救おうと手を尽くす『アーク』。
 ティールは組織の方針に疑問を抱いているようだが、それを己の弱さと解釈している節がある。
(願わくば――迷える刃には、覚悟などという物の為に、
 最後の一線を踏み越えたりしないでほしいものですが……)
 ユーディスの思考は、敵の攻撃で中断された。不可視の殺意で鉅を射抜いた本体が、動きを縛る呪いの散弾を放ったのだ。続いて、分身たちが怒りに任せて要を襲う。
 仲間達の多くが足を止めたのを見て、ニニギアが動いた。
「回復するね」
 優しげな詠唱が、聖なる癒しの力となって呪縛を払う。体勢を立て直した鉅が、再び本体へと喰らいついた。血を啜って自らの傷を塞ぎつつ、視界の端にティールを映して眉を寄せる。
(『断罪の刃』とやらの中ではマシな方らしいが……)
 いかに疑問を抱こうと、蛮行を止めないのであれば所詮は同じ穴の狢に過ぎない。ここで喧嘩を売るつもりもないので、わざわざ口に出しはしないが。
 全身のエネルギーを防御に特化させた要が、赤い瞳でティールを見つめる。エリューション事件で弟を失った彼女にとって、彼はかつての自分が選ばなかった『もう一つの道』を歩む者と言えた。
 だが、その道は――遠からず、誰かの命を犠牲にすることを要求するだろう。
 罪無き人々の命か、あるいはティール本人の命か。
(そうなる前に、何か出来る事があれば……)

 それぞれの思いをよそに、戦いは続く。
 360度全てにバラ撒かれる怨嗟の散弾を受けて、半数近いリベリスタが動きを封じられた。ニニギアが聖神の息吹で傷を癒すも、呪縛を解くには至らない。すかさず、ユーディスが邪を退ける光で仲間達を解き放った。
 散弾を浴びながらも果敢に敵に打ちかかるティールを見て、ティセラは思う。
 あの底知れぬ戦意は、彼が持つ憎しみから生まれるのだろうか。
 ティセラは任務に感情を挟まない主義だが、他人にそれを強いるつもりはなかった。
 強い思いが戦う力になるのなら、その方が良い。
(……少し羨ましいけれどね)
 放たれた光弾が、さらに一体の分身を落とす。敵の攻撃から零児を守り続けるユーニアが、肩越しに声をかけた。
「ダメージディーラー、頼んだぜ」
 本体から目を逸らすことなく、零児が大きく頷く。肉体の枷を外した彼の闘気が唸りを上げ、紅き炎を宿す瞳がひときわ強く輝いた。
 狙うは、本体を構成する目玉の一つ。
 真正面から炸裂した“生死を分かつ一撃”が、巨大な目玉を風船の如く割り砕いた。


 傷ついたE・フォースが、新たに二体の分身を生み落とす。
 周囲の魔力を取り込むカルナが、厳然たる意志を秘めた光で一帯を包んだ。
 要が挑発で新手を引きつける隙に、ミカサが鉤爪を閃かせる。神速の突きが二つの傷を穿つと同時に、鉅が本体に組み付いて血を啜った。
 自分を睨む目玉を見返しながら、それにしても――と鉅は思う。
(エリューションへの復讐を願う者が、犯罪被害者の怨念と戦うというのも皮肉な話だな)
 放たれた不可視の殺意に対し、彼は僅かに身を捻って直撃を避けた。
 癒しを封じる血の雨が、リベリスタ達を激しく叩く。巨大な目玉の一つと視線が合ってしまったニニギアが、怯みそうな己の心を叱咤しつつ詠唱を響かせた。
 彼らが流す血の涙には限りない悲しみや怒りも感じるけれど、でも――。
「恨む相手と同じことしちゃいけないのよ……」
 癒しの息吹を全員に届けながら、ニニギアはティールを見る。それは、彼にも言えること。
 虚空を切り裂いた夏栖斗の蹴撃が、本体を突き抜けて分身の一体を両断する。執拗に要を狙う残りの分身たちを、ティールが暗黒の瘴気で打ち据えた。
 防御を殆ど行わず、ひたすら攻撃を続けるティールの戦いぶりを見て、ユーニアが彼を窘める。
「怪物と戦う時は、自分が怪物にならないように気をつけないとやばいらしいぜ」
 傷つき倒れ、運命に見放されたら。次に怪物(ノーフェイス)になるのは、他ならぬティール自身だ。
「……だからと言って、奴らに背を向けられるか」
 僅かな沈黙の後、ティールが答える。そこに、零児の声が重なった。
「俺も、退くつもりはないな。――でも、それは憎しみの感情からじゃない」
 エリューション事件が切欠で革醒した零児には、ティールの気持ちが少し理解できる。だからこそ、彼はそう付け加えた。
 仮に自分達が撤退してしまえば、E・フォースの増殖を阻む者はいない。
 際限なく増え続ける彼らは、戦う術を持たない人々を無差別に殺して回るだろう。
「戦うことで、一人でも多くの誰かを護りたいんだ」
 曇りなき不退転の決意が、漲る闘気となって零児の全身を伝う。
 鉄塊の如き大剣が振り下ろされた瞬間、また一つ、巨大な目玉が爆ぜた。

 癒しをもたらす福音を響かせながら、カルナは思う。
(心を整理する意味では、復讐という行為は必要な事なのかもしれません)
 だが、常に上位世界の影響を受けるボトム・チャンネルにおいて、エリューションの根絶は不可能に近い。彼らを滅ぼすまで戦い続けるのだとしたら、それは緩やかな自殺と変わりないのではないか。
 黒鋼のトンファーに冷気を纏った夏栖斗が、本体を強かに打つ。彼もまた、ティールの行く末を案じていた。
 復讐そのものは否定しない。でも、ティールの覚悟に僅かな揺らぎがあるなら。
 いつかどこかで、大事なものを失うかもしれない――。

 怨嗟を帯びた呪いの散弾が、リベリスタ達に襲いかかる。
 零児の守りに専念するユーニアが、翳した盾で飛来する散弾を弾いた。
 肩口を抉られたミカサが、鈍い紫色に輝く鉤爪を目玉に突き入れる。指先から吸い上げた血が、穿たれたばかりの傷を塞いだ。
 ティールを援護するユーディスが、破邪の輝きを纏った槍で本体を貫く。
 すかさず踏み込んだティールのランスが敵を捉えた瞬間、零児が裂帛の気合とともに“生死を分かつ一撃”を繰り出した。
 断ち割られた目玉の塊が、おぞましい絶叫とともに消滅する。
 残る分身のもとに駆けたティセラが、激しい烈風を巻き起こして彼らを殲滅した。
「私は憎しみとか正義感とか、感情で戦っているわけじゃない。
 ――無くてもリベリスタはできるわ」
 かつて手にかけた友人の名を冠した銃剣を手に、ティセラは誰にともなく呟いた。


 戦いを終え、夏栖斗が「おつかれっ!」とティールを労う。
「助けられた礼は言っておく」
 最低限の礼を述べて踵を返そうとした彼を、夏栖斗は慌てて呼び止めた。
「少し、君たちの話を聞かせてもらいたい」  
「敵になるかもしれん連中に、手の内を明かせと?」
 渋い表情のティールに、鉅がカマをかける。
「答えられんのなら、やましい事でもあるんだろう」
 ティールが、眉を寄せて鉅を睨んだ。ミカサが、とりなすように間に入る。
「断罪の事は何も知らないんだから仕方ないだろ。
 でも強要する気はないよ、答えたくなければ構わない」
 まったく悪びれない物言いに、ティールが初めて笑みを浮かべた。
「正直だな。……まあいい、お前らには借りがある」
 俺に答えられることなら答えよう、と言うティールに、ミカサが問う。 
「ラグ達は生きてるの」
「生きてる。ラグは微妙に危なかったらしいが」
「あの三人もそうだけれど、君も無謀だね。
 一人で戦うだなんて、フェイトが尽きた時の事を考えなよ」
 説教は止せ――と言いかけたティールに、ミカサはさらに突っ込む。
「それとも、強気でいられる素敵なアーティファクトでもあるの?」
「他の奴は知らんが、俺は持ってない」
 ティールの口調に、嘘は感じない。次に、夏栖斗が尋ねた。
「『断罪の刃』ってどれくらいいるの?」
「確か、二十人と少しのはずだ」
 続いて、ユーニアが口を開く。
「誰が作った組織なんだ?」
「俺は新参で、組織の成り立ちは知らん。
 エリューションに憎しみを抱く者が自然に集まったと聞いている。
 リーダーは『ウィアド』という名らしいが、俺は会ったことがない」
 それでも不都合はなかったしな、とティールは付け加えた。

 質問が出尽くしたところで、ユーディスが前に歩み出る。
 『断罪の刃』も気にかかるが、それ以上に心配なのはティールだ。
「一般人を巻き込む行いは、かつて自分の家族が受けた仕打ちそのもの。
 ――憎むエリューションと同じ事をしているのだと、それを……解っているのですか?」
 心を捨てた革醒者など、運命無きエリューションと何も変わらない。
 手を下したのが人であれエリューションであれ、大切な人を奪われる痛みに違いはないのだから。  
 沈黙するティールに、夏栖斗が問う。
「いつか、君の妹を犠牲にしてエリューションを倒すことになったらどうする?」
 ティールの表情が僅かに揺らいだのを、彼は見逃さなかった。そういう人間は、嫌いじゃない。
「復讐心を胸に戦うんじゃなくてさ、妹さんを護るため、平和で暮らせる世界を護るため、
 そんな前向きな理由でもいいんじゃないか?」
 零児が、半ば自分に言い聞かせるように言葉を重ねる。ティールの悲壮な決意は、彼にとって他人事とは思えなかった。
 ねえ――と、ミカサがティールを見つめる。
「人の心も、情も絆も、平然と踏み潰していった存在を憎んだから戦ってるんだろ。
 断罪の戦い方をもう一度思い返してみてよ。
 それでも断罪を貫くのなら――俺はもう、何も言う事は無いよ」
 ティールは『断罪の刃』の非道に何も感じていないわけではない。
 己の復讐心をもって、それに蓋をしているだけだ。
 だからこそ、ミカサは彼を突き放す。結論を与えず、自分で考えろと問いかけ続ける。
 黙って拳を握り締めるティールに、ニニギアがそっと語りかけた。
「アークの、犠牲を少なくするべく全力を注ぐ姿勢は知ってほしいわ。
 大義だけ見て、命の重さや、人と人との心の繋がりを軽んじたら
 人じゃないものになってしまいそうじゃない……」
 できれば、ティールには『断罪の刃』を抜けて欲しい。
 それが叶わずとも、せめて協力関係を築くことができれば――と、要が彼に提案する。
「貴方はアークの情報網を利用し、私達は貴方の強さを利用する。
 都合の良い関係も良いかと思いますが、どうでしょう」
 彼女に続いて、ユーニアが真摯に言った。
「あんたの目的、俺が手伝ってやるぜ。アークに来ないか」
 逡巡の後、ティールはゆっくりと口を開く。
「……アークを否定はしない。
 だが、回り道を良しとしない俺の考え方は、アークとは相容れないだろう。
 悪しきエリューションを根絶するまで、俺は止まれないんだ」
「エリューションに善悪も罪も無いわ、ただの現象だもの」
 ティセラが、翡翠の瞳で真っ直ぐにティールを見た。
「それを倒しているだけで、正義の断罪者になったような気になるのは
 ただの勘違いで、不当な暴力は悪よ。
 ……フィクサードなら、リベリスタである私は倒すだけ」
 ティールは黙って唇を噛み、彼女に背を向けた。
 そのまま立ち去ろうとする彼を、ユーニアが呼び止める。
「一応連絡先渡しとく。何かあったら、死ぬ前に言えよな」
 強引にメモを握らせる彼を、ティールが困惑した表情で見た。
「あんたにちょっと似てる人も知ってるんだ。
 その人無茶するから、何となくほっとけないんだよな」
 ユーニアの言葉に「お人良しめ」と苦笑しつつ、ティールはメモを懐に仕舞う。
 歩き始めたティールの背中に、カルナが静かに声をかけた。
「――どうか、戦う理由とその意味を考える事は止めないで下さい」
 復讐を止める事はできなくても、彼が倒れると悲しむ人は居るはずだから。

「またお会い出来る事を祈っています」
「会わない方が、互いのためかもしれないな」
 要の言葉にそう返すと、ティールは振り向かずに立ち去っていった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
数史「お疲れさん。まずは無事に終わって何よりだ。
    『断罪の刃』については気になるところだが、今日のところはゆっくり休んでくれ」

 プレイングを受け取った時の第一声は「崩せる気がしねぇ!」でした。
 戦闘以外に多くの字数を割いたのもあって、戦闘そのものは割とあっさり目に見えますが、あれでも敵はそこそこ強かったんです。本当ですってば。

 ティールとの対話も、下手に小細工を弄さずに正面からぶつかったのは正解でした。
 今回、彼の決断はあのような形になりましたが、少なからず心に響くものはあったのではないかと思います。
 字数がどうしても足りず、多くの描写を削らざるを得なかったことが残念でなりません。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。