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<剣林>鞘無き刃


『人殺しの技術に礼儀は関係ないだって?
 ああ、其の通りさ。これっぽっちも間違っちゃいねえ。
 でもよ。礼儀のなってねぇ餓鬼にモノ教えるほど、俺ァ人間出来てねぇんだよ』


 生意気を言った俺に、師は判り易い理由を返してくれた。拳と一緒に。


『良いか? 九朗。
 技ってのは、抜き身の刀と一緒なんだよ。
 振るえば他人を傷つけ殺す。何も変わりはねえ。
 けどよ。刀に鞘があるように、技にも鞘を持たせなきゃなんねえ。
 抜いた刀を常に引っさげて歩く様な馬鹿は、裏野部の連中だけで充分だ。
 俺等はそうあっちゃならねえ。収める鞘のねえ刀は、他人どころか自分まで傷つける。
 だからよ。九朗。俺等は心を鍛えて鞘を作るんだよ。自分を戒めて自制する鞘をな』


 師は、色々教えてくれた。自分が生き残る為の方法、他人を殺す為の方法、そして其れ等を振るわないで済む方法。


『所詮は悪党さ。フィクサードって分類されちまや、裏野部や黄泉ヶ辻の連中と一緒くたの扱いだ。
 其れはしゃーねぇ。奴等も俺等も悪党さ。
 でもよ。俺ァ奴等と自分は違うって思ってる。
 リベリスタの連中に一緒だって言われようとよ。俺等は、少なくとも俺とお前は、絶対に違う。
 人殺しの技を振るう悪党に変わりはねえさ。でも、俺等は自分で定めた道からは外れない。
 なぁ、そうだろう? 九朗。
 つまらない物を切ってしまったなんてのはさ、言い訳にもなんねえんだよ。
 つまんねぇ物は、俺等は切らねぇんだ』


 師よ。すまない。
 俺は貴方の教えを破る。貴方の心を裏切る。
 それでも貴方の命を救いたい。病の貴方を救うには、例え貴方が忌み嫌う外道に落ちようとも金が必要なのだ。

 振るう手刀は全てを切り裂く。
 其の為だけに鍛え、其の為だけに練り上げた。
 九朗の一閃の前には、銀行の大金庫の扉すらもが障害とはならぬ。
 開かれた扉に歓声を上げる外道達。九朗は唯々苦虫を噛み潰した様な表情で、己の手を見詰めている。


「諸君等は自らの大切な者が危機にある時、其の大切な者を裏切れば助けられるとするなら、どうするだろうか?」
 まるで眼帯に隠れた右目で集まったリベリスタ達の心を覗き込むように、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は問い掛ける。
「武闘派『剣林』に、己が手刀で鉄をも断つと言う技を振るう師弟がいた。師の名は一刀、弟子の名を九朗と言う。所謂武人タイプのフィクサードだったらしい」
 バサリと、机の真ん中に放られるは剣林フィクサードの資料。
「だが師、一刀は現代医学では治せぬ病に倒れ、弟子、九朗は八方手を尽くして師を救う道を探したが、治す為には『六道』に高額の謝礼を支払いあるアーティファクトを借りるより他ないらしい」
 追加で左に置かれたのは、六道が最下層地獄一派のフィクサードの資料。
「九朗にそんな金は無く、首領である剣林百虎に縋ろうにも、一刀は自分の窮状を剣林内に漏らす事を九朗に禁じている。剣林百虎も一刀の現状は薄々察しているだろうが、一刀が頑とした態度を取る以上救いを無理強いする事は出来ぬのだろう」
 机の上に並ぶ資料。央に剣林、左に六道。……不自然にあいた右のスペース。
 逆貫は一つ溜息を吐き、右に、もう一部の、『裏野部』のフィクサードの資料を並べる。
「八方手詰まりとなり、衰え死に行く師を見守るだけしか出来なかった九朗に声をかけたのが、……そう、裏野部のフィクサードだ。『金に困ってるなら良い手がある。丁度人手が足りなかった。何でも切れるんだろう? 銀行の大金庫を切って欲しい。中身は山分けだ。何、折角師匠が鍛えてくれた技だろう? 師の為に振るわないなら男が廃る……だろう?』とな」
 3つの組織のフィクサードの資料が机には並んでいる。




 資料


『剣林』

 フィクサード:『斬手』九朗
 剣林派のフィクサード。武人タイプの青年だが、敬愛する師を救う為に裏野部の口車に乗った。
 好きな漫画は北斗の拳と、聖闘士星矢。理由は自分の技に良く似た技を使うキャラクターが出るから。
 ジョブは覇界闘士。所持するEXスキルは『斬手』。
『斬手』
 手に高密度に圧縮した気を利き手に纏い、全てを断つ一撃を振るう。物近範、物防無で物攻1/2ダメージ、流血、失血。




『六道』今回の六道は金を受け取る為に現場に来ている。戦意は然程高くは無いが、自分たちに支払われる金の為なので程々の手伝いはする様子。件の一刀を救うためのアーティファクトは、九朗の戦闘力を警戒してか、奪われないよう現場には持って来ていない。

 フィクサード1:叫喚
 六道派フィクサード。老年の男。死と死後に関することを探求する事でそれらを操り、自分を死から遠ざける事を目的とする地獄一派の、一人。八大地獄の其の四。

 ジョブはホーリーメイガス。非戦スキルはいざと言う時の逃走に役立つ物を。
 所持するEXスキルは『叫喚地獄』。所持するアーティファクトは『地獄輪廻の珠』と『死繰り其の死』
『叫喚地獄』
 八大地獄の第四層、叫喚地獄で苦しむ亡者の声を呼び出す。神遠全、混乱、Mアタック。
『地獄転生の珠』
 数珠型のアーティファクト。この数珠に念じれば、死亡後6分以内の死体をE・アンデッドと化す事が出来る。E・アンデッドの能力は生前の能力に比例する(一般人死体だとフェーズ1、革醒者の死体だとフェーズ2になる)。ただしE・アンデッドは生前の記憶等を保持しておらず、ただエリューションとしての本能のままに暴れる。
『死繰り其の死』
 指輪型アーティファクト。この指輪に1ターンかけて念じれば、半径50m以内にいるフェーズ2以下のE・アンデッドを大雑把な命令に(自分達を襲うな。あいつを殺せ等)従わせることが出来る。


フィクサード2:大吼処
 叫喚の配下。性別は女。ジョブは覇界闘士。
 所持するEXスキルは『白蝋手』
『白蝋手』
 物近単、死毒、Mアタック。



『裏野部』

 フィクサード1:『マンドラゴラ』歪螺・屡
 絞首刑になった男の精液から生じる植物の名前を称号に持つ、今回出てくる裏野部派のフィクサードのリーダー。
 20代後半の男。其の言葉は甘い毒。
 ジョブはマグメイガス。所持EXは『マンドラゴラの悲鳴』。所持アーティファクトは『虚弱の指輪』と『貪欲なる鞄』。
『マンドラゴラの悲鳴』
 聞けば死に至ると言われるマンドラゴラの悲鳴。神遠全、麻痺、崩壊、Mアタック。
『虚弱の指輪』
 このアーティファクト所持者を除く、アーティファクト所持者の近接範囲に入った者は、虚弱の付与を受ける。
『貪欲なる鞄』
 金銭的価値が一定以上の物ならば質量、重量を無視して詰め込めるアーティファクト。中身の重量の影響も受けない。

 フィクサード2:睦月・一
 歪螺の配下の裏野部派フィクサード。ジョブはナイトクリーク。1月1日生まれ。
 20代前半の男。

 フィクサード3:衣更着・憎
 歪螺の配下の裏野部派フィクサード。ジョブはスターサジタリー。2月29日生まれ。



「諸君等が到着する頃にはフィクサード達は金を積め終わり、逃げ出そうとしているだろう。奴等に金を持ち逃げされぬ事が諸君等の任務だ。尚多くの一般人が銀行内に取り残されて捕まっているが、……諸君等の判断に任せよう。では、私は諸君等の健闘を祈ろう。よろしく頼む」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月10日(火)23:03
 勝利条件は金の持ち逃げを防ぐ事。金はアーティファクト『貪欲なる鞄』に全ておさめられています。
 10名程の一般人が銀行内で捕まっていますが、九朗に気遣ったのか、歪螺の命令で裏野部派のフィクサード達は一般人に危害を加えては居ません。
 ……が、殺したいと思っているのも事実なので、切欠があれば遠慮なく殺害するでしょう。
 歪螺の本当の狙いは、九朗を堕落させて裏野部派に引き込むみ、自分の手駒とする事です。
 九朗の本来の性格は好きな漫画や漫画を好きな理由から察せられる、要するに殴りあわないと分かり合えないタイプなのですが、今は師を救った後なら師に破門される覚悟を決めてしまっており、このままならば歪螺の目論見通りに新たな裏野部フィクサードが誕生する日も遠くないかもしれません。

 敵の数もそれなりで、厄介な実力者も混じっています。
 ただ真っ直ぐにぶつかるだけでは非常に厳しい戦いとなるでしょう。

 では、お気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
★MVP
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)


 サタデーナイトスペシャルと仇名された銃が在る。
 ……いや、在ると言うのは正確ではないかも知れない。
 サタデーナイトスペシャルとは、粗悪としか言いようが無い低品質かつ安価な、Junk Gunsの事をさす言葉だからだ。
 其の大きな特徴の一つに、粗悪さ故に暴発の可能性の高い事が上げられる。
 土曜の夜に、無軌道な若者が、食い詰めた者が、粗悪な拳銃を片手に強盗を繰り返し、土曜の夜に負傷者が集中した事から医師達が土曜の夜の忙しさを揶揄して名付けたと言われる、サタデーナイトスペシャル。他人も、己も、無差別に傷つける愚者の銃。
 其れはそう、正に彼等、裏野部の中でも代わり映えのしない、名前が誕生日を主張している事以外にはさしたる特徴も無い、一般的裏野部メンバーである、睦月・一や衣更着・憎の在り方に良く似ている。

 暴発寸前の粗悪品。なのに、人を傷つける為だけの力は一人前以上で。

 引き金を引いたのは、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。
 人質を逃がす為に、裏野部メンバーの注意を引く為に、アッパーユアハート。快は己に向けて、其の粗悪な銃の引き金を引く。
「砂蛇一派に比べれば雑魚だろ? 来いよ、裏野部(クズ野郎)」
 言の葉に魔力をのせた挑発。
 愚かにも程が在る。快が、では無い。快は聡明だ。だが聡明だからこそ快には理解し難いのだろう。愚者の思考が。
 六道には、剣林には、そして裏野部でも自らの力に自信を持つ歪螺・屡には、其の言葉は届かない。
 だがそう、睦月や衣更着には、快の挑発は確実に届き、そして粗悪な銃は暴発する。
 怒りに捕らわれた二人が行ったのは、快を巻き込んだバッドムーンフォークロアに、ハニーコムガトリング。
 不吉を告げる赤き月の光が、快を、快の仲間のリベリスタ達を、そして快が守りたかった筈の人質にされた一般人達を、次々に貫き、更には降り注ぐ無数銃弾が身体に、其の名の通りに蜂の巣の様な穴を穿って行く。
 人質の中で助かったのは唯一人。助けに向かっていた『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)が咄嗟に身体で庇い得た、たった一人の女性行員のみ。
「ちょっと、君、君、大丈夫。え……、血……? が、え、皆、……死んで? い、いやあああああああああ!?」
 自分を守った俊介の身体を揺すり、手についた血と、そして気付いた周りに広がる死に彼女の喉から恐怖が溢れ出す。其の叫び声はリベリスタとフィクサードの本格的な戦いの幕を切って落とす合図。
 響き渡る悲鳴に、『斬手』九朗は重い、重い、溜息を吐いた。


 九朗とてフィクサードだ。無意味な死を哀れには思うが、無力な一般人に情けをかけて態々助けようとは思わないし、無力な人を助けようとするリベリスタにも何の感慨も沸かない。
 邪魔をする気も無いが、応援する気も無かった。
 だが無力な一般人を虐殺し、怒りの中にも悦楽に満ちた表情を浮かべる睦月や衣更着の姿に、自分がもう既に其の同類であるのだと突きつけられた様で、拳が僅かに震える。
 そして実際にこの場にこうしている以上、既に大差が無い事も判っていて……。

 それでも快に対して引き付けられた裏野部の面々をスルーし、この事件の元凶であり、またこの銀行の金を全て納めた『貪欲なる鞄』を持った歪螺へと向かうリベリスタ達。
 けれど多勢に不利を感じたか下がる歪螺を、更に追おうとした彼等の眼前に立ちはだかるは、そう、先程死んだばかりの、E・アンデッドと化した一般人達。
「叫喚」
 名前を呼ぶ其の声は、決して強くはなく、けれど不思議と良く通り、そして凍て付く様な冷たい怒りを帯びている。声の主、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)の瞳が叫喚を貫く。
 だが叫喚は悠月の視線を肩を竦めてやり過ごし、
「やれやれ、そんな目で見ないでくれないか。美しいお嬢さん。私とて無駄な労働は嫌なのだがね。仕方ないだろう? 其処に死体が出来たのだから。文句があるなら私ではなく殺した彼等と、不用意な挑発をしたお仲間に向ける事を勧めるが?」
 自らの手に嵌めた指輪、E・アンデッドに命令を下すアーティファクト『死繰り其の死』を弄びながら、そう嘯く。
「今回は君が最優先目標ではない、早々にお帰り願おう」
 体裁きで襲い来るE・アンデッドを受け流し、道を切り開こうとする『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)が促すは退場。
 無論救うべき人々のE・アンデッド化に、ヴァルテッラとて思う所が無いわけでは決して無い。だが感情では無く理屈で、この難敵が去ってくれるなら、今だけはその感情は胸の奥に仕舞い込む。
「なるほど。狙われないのならば安心して見届けさせて貰うとしよう。君等に睨まれるのは心竦む思いだが、悪いが私も仕事でね」
 そんなヴァルテッラの考えを知ってか知らずか、叫喚は哂う。
「……第四地獄は殺生、盗み、邪淫、飲酒の罪人が墜ちるという。殺し、奪い、辱め、弄ぶ者……、『叫喚地獄』に本当に墜ちるべきなのは――あなただ、叫喚」
 悠月の言葉は静かではあれど、情念に満ちて。
 けれど、だ。そう、先程のヴァルテッラの言葉にもあった通り、最優先目標は、最も叩くべき対象は、叫喚では無い。
 判っていた筈なのに、其れでも叫喚の死者を弄ぶ行いが、嘲るような言動が、心に隠し切れぬ感情を持つ彼等の注意を引き付けてしまう。
 故に、不意に響き渡った歪螺の、声に成らぬ声無き叫び、人の耳では捉える事も出来ぬ音が、狂気を伴って、避ける暇も与えずに彼等の身体を打ち据えた。


「リベリスタ、新城拓真。『斬手』九朗、俺と戦え」
 澱んだ空気を変えたのは、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)の一言。
 優勢に戦いを進める裏野部のフィクサード達を、手伝うでもなく己が手を見詰めていた九朗が、訝しげに顔を上げる。
「二度言わなければ判らないほどにもうお前は曇ってしまっているのか? 『斬手』九朗、一対一で俺と戦え」
 拓真の強い言葉に、彼と九朗の視線が絡む。
 二人の間に流れる沈黙は一瞬。
「九朗ちゃんよぉ。お疲れなら其れも無視して休んでて良いぜ。こいつ等の相手は俺等で充分さ。九朗ちゃんは俺等の為に金庫を切ってくれた後だしなぁ!」
 快の言葉の魔力を抜け、冷静に戻った睦月がリベリスタ達を嘲り、そして九朗にもう後戻りできる道は無いのだと知らしめんとする言葉を投げる。
 けれど九朗が従うのは、脳裏に響いたもう一つの声。
『良いか。相手が名乗り、名指しで一対一の戦いを挑んできた時はよ』
 其の声に、教えに、従う資格等もう自分にある物かと、思う気持ちと、圧倒的に、それこそ本能の様にそれを求める気持ちがぶつかり合う。
 其の葛藤に終止符を打ったのは、
「その手に断てぬ物無し……そう謳われた男。その技を受け継いだお前に言いたい事がある」
 やはり拓真の言葉。
 嗚呼、良いだろう。良い度胸だ。其処まで判って挑むのならば、師の弟子としての俺に言いたい事があるのならば、
「良いだろう。お前の言いたい事は其の技に聞こう。だが名乗り、俺を『斬手』と呼んで一対一を挑むのならば、例え貴様がどれ程圧倒的に強くても、例え貴様がどれ程圧倒的に弱くても、寸分の違いなく俺は全力だ。覚悟を決めろ」
 九朗の瞳に光が宿る。

「ねえ! 貴方大丈夫なの! 動いちゃ駄目よ!」
 自分を背に隠して庇ったまま立ち上がる俊介に、辺りの満ちる死への恐怖すら忘れて女行員が彼を押し留めんとする。
 実に優しく、実に愚かな、状況を理解せぬ其の行動に、けれど俊介は唇に笑みを浮かべ、
「大丈夫だってー。でも姉ちゃんは絶対に動いちゃ駄目だぜ?」
 派手な攻撃の飛び交うこの銀行内を、既に自分で動いて逃げてもらう事は不可能だ。
 女行員に動かぬように言い含め、また自分もこの場を動かぬ事を決め、詠唱を始める俊介が願うは癒し。

「ターゲットロック。フルファイア! あはっはっはっはははハハハッハはハはハ!!!」
 壊れたような笑い声を上げ、神速の抜き撃ち連射、B-SS、バウンティショットスペシャルで周囲に銃弾をばら撒くは『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)。
 頭を穿たれ、足を砕かれ、E・アンデッドの幾つかが地に倒れる。
 銃弾を放つエーデルワイスに躊躇いは無い。彼等が元生きた人間であった事は判っている。罪の無い、巻き込まれただけの、非道のアーティファクトによって死すら弄ばれた哀れな存在である事も。
 けどけどけど! 仕方ない。もう遅い。どうしようもない。
 だから彼女は躊躇わない。優先すべきは鞄の確保。1円たりとも持っては逃がさない。
 怒りに、苦痛に、叫んで。もっと、もっと、其の叫びが欲しいの。殺したいから。
 本能と理性が疼いて訴えるのよ。皆の死を命を断末魔を!
 激しい銃撃に、E・アンデッドの壁にも僅かな綻びが生まれる。それを見逃さず叩き込まれたのは、悠月の指先から弾ける雷光、チェインライトニングとヴァルテッラの業爆炎陣、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)のブレイクフィアーによって叫びの影響を抜けた2人が放つ範囲攻撃。
 焼け焦げ、炎に倒れる死体、死体、死体。
 それでも穴を埋めんと蠢く死体達を、けれどもは再び快の口から放たれる魔力を秘めた挑発、アッパーユアハートが引き付ける。
 生じた間隙、ブロックの隙間を、走り抜けるは『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)。
 誰よりも速く、速く、速く、速く、何時か自分が速さを極めると信じ磨き続けた其の速度で、向かい来る叫び、音よりも速く!
『私の世界ハ私ダケノモノダ』
 自らの口から出た言葉すら置き去りに、迫った歪螺へ繰り出す一撃は、其の速さこそを活かしたハイスピードアタック。


 手刀と刃がぶつかり火花を散らす。互いが繰り出した返しの刃に、再び硬質の音が響く。
 鋼の刃とまともに打ち合い噛み合える九朗の手刀の技は、既に剣技、刀技と呼んでも差支えが無い。
 けれど圧倒的に其れ等と違う物、それは間合いだ。
 間合いに勝る拓真の攻撃を手刀で弾き、更に踏み込む九朗。
 其の脅威的な戦法に集中力を削られていく拓真の額を汗が伝う。だが拓真の唇が象るは微笑。
「何故、剣林百虎を頼らなかった。師が禁じているのは解る、面子もあろうよ! だがそれ以上に、貴様の行為は貴様の師を裏切っている!」
 一太刀振るい交えるごとに、九朗の、そして拓真の動きにキレが増す。
「貴様にとって彼がどれだけ大切な人間か、俺にも解る! その教えこそが、全てだった! あの人の様にと、その背中を追い続けた!」
 交わす言葉の真偽を、其の技で確かめる。
 拓真が胸に想う祖父、新城弦真の在り方が、其の技に込められる。

 死体を乗り越え、歪螺へと迫ったリベリスタ。
 けれども、だ。足止めに手間取った間に蓄積されたダメージは、俊介の、フツの、二人掛かりの癒しの願い、天使の歌を持ってしても拭い去れぬほどに根深い。
 再び響く歪螺の叫び、『マンドラゴラの悲鳴』によってリベリスタの何人かが動きを止める。さらに降り注ぐは炎を纏ったインドラの矢。
 そして其れ等二つが前にあるからこそ、真に恐ろしい輝く不吉の赤い月、バッドムーンフォークロアー。
 其の一撃に倒れぬ事、次の一撃に耐え抜く事に、全ての集中力を要求されてしまう現状。
 叫喚への、歪螺への、技の模倣を企んでいたヴァルテッラやエーデルワイス等も、既にそんな余裕は何処にも無い。
 フツの翼の加護で得た飛行の力も、吹き荒れる技の範囲から逃れるには広さが足りない。
 リュミエールの速度を持ってしても、鞄を奪いに行けぬ程の地獄。
 女行員が、再び大きな傷に揺らぐ俊介に涙混じりの悲鳴を上げる。
 悠月の苦戦を叫喚が哂う。
 リベリスタの姿に、歪螺が、睦月が、衣更着が、嘲り、謗り、さもおかしそうに、嘲笑う。
 一人、二人と、倒れ行く。

 拓真と九朗、技をぶつかり合い、高め合い、何か大事な物を一つずつ取り戻さんとする二人の戦いにも終わりがやって来る。
「だからこそ、貴様に言える事がある! 貴様が行うべきは、本音で貴様の師と相対する事だ!」
 言葉と共に放たれるは、全身の闘気を爆発させた、拓真が己の全てを乗せた一撃、デッドオアアライブ。……否、正確には全てではない。唯一つだけ、其の攻撃には欠けたるが在る。
 さりとて其の一撃は現状の拓真が繰り出し得る最高の攻撃。故に、他ならぬ拓真によって高められた九朗が放つ一撃も同じく最高の……『斬手』。
 突き出された刃と、振るわれる一閃の手刀がぶつかり弾ける。
 しかし体崩れた拓真が逆手の刃による返しの一撃を放つ前に、ピタリと彼の喉元に突き付けられたのは九朗の手刀。
 二人の勝負の勝敗を分けたのは……、拓真が攻撃に込めなかった唯一の物。
「……殺らないのか?」
 動かぬ九朗に、問う拓真。
 絡む視線。
「殺気を刃に込めない相手を斬れるか。馬鹿にしやがって。つまらない。本当に、つまらない。俺は、俺と師は、つまらない物は斬らない主義なんだ」
 スッと手を下す九朗の顔には、けれども言葉とは裏腹に、憑き物が堕ちたかの様な笑み。
 その笑みと言葉の内容に、拓真の顔にも笑みが移る。


「おいおい、九朗ちゃんよ。今更それは無いんじゃねえか?」
「其れが通るとでも思ってんの?」
 睦月と衣更着の声が、九朗と拓真の間を遮る。
 勝敗は既に大方決している。睦月と衣更着も少なからぬ傷を負っている。そしてそれは歪螺も同様だ。
 だがしかし、それ以上にリベリスタ達の被害は甚大なのだ。
 そう、それこそこれ以上の継戦が不可能なほどに。
「通るとは思っていない。見逃せと言う心算も無い。唯、通らぬと言うのなら、押し通す。力で」
 其れは剣林派のフィクサードらしく、揺ぎ無い九朗の回答。
 構えと、眼光が語る紛れも無い本気に、睦月と衣更着は沈黙する。フィクサードであるからこそ、良く知る、剣林派の本気の恐ろしさ。
「良いね。判りやすくて非常に良いよ。九朗。俺はお前のそんなトコが気に入ってたのにな。……OK退こう。もうリベリスタの連中も戦えないだろうし、な。九朗、まさか邪魔はしないだろう?」
 堂々と、外に歩き去る歪螺は、けれども去り際に、
「お前、凄いな。お前でもいいんだけど、俺のところに、こ……ない目だな。ちっ」
 拓真の目に舌打ちをする。
「全く持って無駄足だったが、しかし歪螺君。手伝いの駄賃位は払って貰おうか。何、ほんの1/3程で構わないのだ」

 裏野部が去り、六道は金に付き纏い、剣林は師の下へと。
 別の救いの道を探し、首領に不始末の報告と師の窮状を知らせる為に。
 九朗は礼は言わなかった。所詮道は交わらぬ。リベリスタ達が守れなかった物も戻らない。
 どの口が礼を言えようか。
 けれど伝わる物もある。言葉ではなく、技と技、力と力を、交わしたことで。
 泣き疲れ、気を失った女行員にかけられた上着。
「――南無阿弥陀仏」
 戦いの傷跡に、廃墟に近しい姿となった銀行にフツの弔いの念仏が響く。
 パトカーのサイレンの音が、遠くから近付いて来る。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 見落としや、力を注ぐべき事以外への注意の分散が感じられました。
 結果はこうなりましたが、お気に召したら幸いです。
 参加有難う御座いました。
 お疲れ様でした。




 MVPは説得が凄かった方に。説得失敗なら殺すって割としがちなんですが、欠片もそんな様子がなかったのが、戦いを通じて伝わったのでしょう。