● その穴は、別の世界に通じているのだという。 もし叶うものなら、この目で見てみたい――ここ数日、アルティナはそればかり考えていた。 あくまで、考えるだけ。頭に思い描くだけ、である。 その穴がある場所は危険なのだと、彼女は知っていた。 野蛮なバイデンや、凶暴な生き物たちが闊歩する不毛の荒野――。 彼らと相対するなど、想像するだに恐ろしい。 だから。だから――アルティナには、そんなつもりはなかったのだ。 考え事をしているうち、ついうっかり、道を外れてしまっただけなのだ。 あれこれ考えこむと、周りが見えなくなる自分の悪癖は自覚していたが―― まさか、世界樹の森の外に出てしまうだなんて。 異世界の穴のことを考えるあまり、無意識にそちらに足が向いたのだろうか。 呆然と立ち尽くすアルティナに、岩の塊のような巨獣が迫る。 自分を気遣うように周りをぐるぐる飛び回るフィアキィの姿すら、今は目に入っていなかった。 こんな怪物から身を守る術など、彼女は持っていない。 竦みきった足は、とうとう己の体すらも支えきれなくなった。 腰を抜かし、ぺたんと地面に座り込んだアルティナの視線は、岩の巨獣に固定されたまま動かない。 数瞬後、自分を襲う運命を想像した彼女は――高く、悲鳴を上げた。 ● 「世界樹の森から出てしまったフュリエを一人、救っていただきたいのです」 フュリエの長、シェルンはそう言って、やや申し訳なさそうな表情を見せた。 聞けば、アルティナという名前のフュリエが、警戒域に入り込んでしまったらしい。 内気な性格であるため、彼女が自分の意思で森を出るとは考えにくい。 おそらくは、考え事をしているうち、無意識に警戒域まで歩いていってしまったのだろうと、シェルンは言う。 「アルティナは、何かに集中すると周りが見えなくなることがありますから。 異世界に続く穴について興味を抱いていましたし、それについて考えていたのでしょう」 それにしたって、移動距離を考えると些か度が越しているように思えるのだが。 まあ、警戒域に出てしまったものは仕方がない。放っておくわけにもいかないだろう。 「アルティナが迷い込んだあたりは、巨獣が棲んでいます。 体の表面を無数の石で覆われた――『岩石巨獣』とでも言いましょうか。 石と炎の力を操る、危険な存在です。 このまま見過ごせば、大きな災いの種となりえるでしょう」 アルティナを保護すると同時に、『岩石巨獣』を倒してほしい。 これが、今回の依頼の内容だった。 「世界樹を通して、私が得られる情報は完璧ではありません。 ですから、確かなことは申し上げられないのですが……悪い予感がするのです」 くれぐれもお気をつけて――と言って、シェルンはリベリスタ達に頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月08日(日)23:01 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 「異世界いっせかーいっ!! どんなとこかな楽しみ楽しみ!」 初めて訪れる異世界『ラ・ル・カーナ』――期待に胸を膨らませていた『極黒の翼』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が彼の地で目にしたのは、どこまでも灰色にくすんだ空と、その下に広がる荒野だった。 「ここが異世界……」 乾いた土に石が転がるばかりの不毛の地を駆けながら、『森羅万象爆裂魔人』レナ・フォルトゥス(BNE000991)が呟きを漏らす。眼前の光景は、自分たちが今まさに見知らぬ世界を訪れているのだと、改めて認識させるには充分だった。 「まさか、別のチャンネルにまで活動範囲を拡げる事になるとは思わなかったがな……」 慎重に歩を進める『ナイトオブファンタズマ』蓬莱 惟(BNE003468)の傍らで、浅倉 貴志(BNE002656)が、物珍しげに周囲を眺める仲間達を見て口を開く。 「見知らぬ世界というのは好奇心を刺激するもの。 アルティナさんが興味をひかれるのも無理からぬことですね」 今回の任務は、世界樹の森を出てしまったフュリエ『アルティナ』を保護し、彼女を襲う危険な巨獣を倒すこと。 聞けば、アルティナはボトム・チャンネルに繋がる穴に興味を抱き、それについて考え事をしているうちに道を外れてしまったのだという。 故意ではないにしても、彼女の好奇心が災いしたことは疑いようがない。 「考えこむと、周りが見えなくなるってよくありますよね……」 うんうんと頷く『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)の言葉に、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)はしかし、と思った。 (思慮に耽ると言えば聞こえは良いけれど――) 心の中で言いかけて、即座に首を横に振る。 直情的で、夢見がちで、争うことを知らないフュリエの気質は、前から分かっていたことだ。 木に登ったまま、降りられなくなって鳴いている仔猫を見つけてしまったような、そんな気持ちを覚える。 「きっと今頃、巨獣を目の当たりにして怯えているわ。 可哀想に……早く助け出して森へ帰してあげないと」 氷璃に頷きを返したアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)が、それにしても――と言った。 「――また救出依頼か、フュリエには狙われやすい何かでもあるのだろうか」 アークのリベリスタが『ラ・ル・カーナ』に赴いて日が浅いにも関わらず、同様のフュリエ救出任務は既に何件も耳にしている。単純に危機感が足りないのか、それとも。 「好奇心が強いのは結構なことだが、これからもしばらくは苦労しそうだな」 丸いサングラス越しに荒野を見据える『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が、嘆息交じりに声を返した。 進むごとに、地面に転がる石が増えていく。躓かぬよう足元に気を配りつつ、『刹那たる護人』ラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576)が口を開いた。 「岩石巨獣か、どういう生き物なのかなあ……食べられないとは思うが」 フュリエの長であるシェルンの話によると、体表が無数の岩石で覆われた巨大な獣で、石と炎の力を操るらしい。 「こんなところに出てくるのは、まさしく化け物というところでしょうか」 レナの言葉に、『アリスを護る白兎の騎士』ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)が表情を引き締めた。 「巨獣と一戦交えるのはわたくしも初めての経験ですが、 フュリエの方に危険が迫っているとなると、悠長な事も言っていられませんわね……!」 「こんな不運な状況、絶対阻止したいですしね」 戦車用の機関砲を改造した大型重火器を携えたドーラが、頑張っていきましょうね――と声を上げた。 蒼い髪のポニーテールを揺らし、惟は茶の瞳で前方を凛と見据える。 (ここが何処だろうと関係は無い。これはこれのすべき事を成すだけ) 弱者を護るのは騎士の義務。それがアザーバイドであっても、何も変わりはしない。 ● 岩の塊の如き巨獣が、ゆっくりと迫る。 全身を震わせてへたりこむアルティナは、もはや悲鳴を上げることすら叶わない。 その時――恐怖に塗り潰された彼女の前に、救いの手が舞い降りた。 白き翼を羽ばたかせた氷璃が、誰よりも速くアルティナと巨獣の間に自らの体を割り込ませる。 『貴女がアルティナね? シェルンに頼まれて助けに来たわ』 タワー・オブ・バベルの能力を有する氷璃が優しく呼びかけると、アルティナは驚いたように彼女の顔を見上げた。 『シェルン、様が……?』 後に続いた前衛達が、二人を追い越して岩石巨獣を抑えにかかる。 足元から意思ある影を伸ばす鉅が正面に立つと、流水の構えを取った貴志が少し距離を置いて側面についた。 全身から漆黒の闇を呼び起こすアルトリアが、素早く巨獣の背後に回り込む。 三人に接敵されてもなお、その巨体は威容を誇っていた。 「……えーと、楽しむ」 黒い翼で低空を舞うフランシスカが、いまいち彩りに欠ける岩石巨獣の姿に鼻白む。彼女は腰を抜かしたままのアルティナを視界に映すと、たちまち気持ちを切り替えた。 まずは、ここで危機に陥っているフュリエを助けてやらねば――。 「兎に角頑張ろう!」 身体能力のギアを上げて反応速度を高め、愛用の大太刀を構える。 前衛達の少し後方に立ったミルフィが、魔法金属で鍛えた打刀【牙兎】を鋭く抜き放ち、岩石巨獣に真空刃を浴びせた。 「大事はございませんか……? フュリエのお嬢様」 肩越しに声をかけた後、きょとんとするアルティナを見て苦笑する。 「……と申しても、わたくしの申す言葉は……解りませんわね……」 にこりと微笑んで敵ではないと示した後、ミルフィは岩石巨獣に向き直った。 「大丈夫だろうか、怪我はないか?」 ラシャが、アルティナを庇いながら声をかける。射撃手としての感覚を研ぎ澄ませるドーラもまた、彼女に呼びかけた。 「アルティナさん、貴方を助けに来ました」 通訳を介さずとも、守ろうとする思いは行動で示せるはず――。 闇から生み出した無形の武具を身に纏う惟が、岩石巨獣に接近してアルティナ達への射線を遮る。 詠唱で体内の魔力を活性化させたレナが、全身を無数の石に覆われた敵の姿を見て僅かに眉を顰めた。 「……それにしても、硬そうですわね」 あんな怪物に好き勝手暴れられては危険極まりない。早急に何とかしなくては。 岩石巨獣の全身がにわかに赤みを帯び、衝撃波が激しい高熱を伴って前衛を襲う。 続いて、見開かれた金色の瞳から幾本もの光線が放たれた。 巨獣の背後にいたアルトリア、前衛に射線を遮られた氷璃とラシャを除く全員が攻撃を受け、フランシスカ、ミルフィ、レナ、ドーラの四名が石と化す。 一刻も早く、アルティナを安全な場所に逃がさなくては。 自らを中心に魔方陣を展開した氷璃が、高速詠唱で血の黒鎖を実体化させながらアルティナに声をかける。 『立てるかしら? さぁ、私達を信じて勇気を出して逃げるのよ』 諦めを許さぬ彼女の声に励まされるように、フュリエの少女は震えながらも頷いた。 厄介な石化を封じるべく、貴志が巨獣の片目を斬風脚で切り裂く。鉅が破滅の影を伸ばし、もう片方の目を狙い撃った。 アルトリアが、氷璃の黒鎖に絡め取られた巨獣を漆黒の霧で包む。 「闇の枷よ、内からその身を蝕め!」 あらゆる苦痛を秘めた黒き箱――“スケフィントンの娘”が巨体を捉えた瞬間、彼女は叫んだ。 「――惟、続け!」 惟の手に握られた黒銀の片手剣が、冥きオーラを纏って禍々しい光を放つ。 「我等が半身、ペルセフォネの刻む告死の呪を見よ。貴様の相手はここにいる」 “冥界の女王(ペルセフォネ)”の名を冠した剣が、その呪いをもって岩石巨獣を貫いた。 『ラシャが貴女を後方まで連れて行くから誘導に従って頂戴』 未だ思うように動けずにいるアルティナに、氷璃が退避を促す。ラシャがアルティナの華奢な体を抱え、彼女を庇いながら岩石巨獣の射程外――20メートル超の距離まで逃がしにかかった。 『自分で立ち上がれたら御褒美をあげるわ』 肩越しに言って、氷璃は巨獣に視線を戻す。 ● アルティナは無事に退避させることができたものの、序盤の戦況はあまり芳しくなかった。 メンバー中で唯一ブレイクフィアーを使えるミルフィが石化したことで立て直しに時間を食い、回復を待つ間に動けぬ後衛達のダメージが重なってしまったのだ。 前衛達で射線を遮ったところで、弾丸のように降り注ぐ岩石の嵐だけはどうにもならない。 幸い、目に対する部位攻撃が功奏してか、石化光線については命中精度がかなり落ちている。視力を完全に奪うのは現実的に厳しそうだが、一定の成果は得られたと考えるべきだろう。 回復の技に乏しい今回のチームにとって、長期戦は不利だ。全員が再び動けるようになった今、一気に畳み掛けていかねばならない。 「どんなに守りが堅かろうと――」 貴志が、破壊の気を込めた掌打で岩石巨獣を叩く。内から肉体を砕くこの技の前には、いかなる装甲も薄紙の如くだ。赤い炎が僅かに覗く岩石の隙間を目掛けて氷璃が魔弾を放ち、鉅が影のオーラで追い打ちをかける。 「図体がでかい奴は鈍いものと相場が決まっていると思っていたが…… 与える被害には鈍いくせに攻撃は激しいとは、また面倒くさい相手だな」 続いてフランシスカが魔閃光を撃ち、アルティナをいつでも守れる位置についたラシャが剣の抜き打ちで真空刃を生み出すも、二人の攻撃は僅かに狙いを逸れ、岩石の鎧に阻まれてしまった。 「本当に巨大な岩石そのものといわんばかりの巨獣ですわね……」 世界から借り受けた生命力で傷ついた仲間を癒しつつ、ミルフィが可愛らしい眉を寄せる。 「弱点は、どこよ!」 四色の光で魔曲の旋律を奏でるレナが、急所を探るべく赤い瞳で巨獣を睨んだ。 アルトリアが、凛と声を響かせる。 「真っ向から挑んだところで効果が出ないのは分かりきったこと。 ならば我等闇の騎士が、内から食い破るまでだ」 惟が、彼女に大きく頷いた。呪殺によるダメージは防御力で軽減できず、当たりさえすれば効果を発揮する。 わざわざ状態異常を無効化する能力を持つことからも、素の回避力はそう高くはないはずだ。 拷問具の名を冠した黒き箱が、黒銀に輝く冥界の剣が、巨獣を取り巻く呪いを刃に変え、その身を蝕む。 岩石巨獣が怒り狂ったように咆哮を上げ、立て続けに無数の石を弾丸の如く撒き散らす。 直撃を受け、全身を石で打たれたレナとドーラが、それぞれに運命を燃やして己の意識を繋いだ。 「そんなことでやられるわけにはいきませんわ」 立ち上がったレナに続き、ドーラが巨大な35mm機関砲を両手で抱え上げる。彼女は石の届かぬ距離まで後退すると、“Oerlikon cannon”のマズルを岩石巨獣に向けた。 岩の隙間を狙った砲撃が、巨体を大きく揺らがせる。 巨獣に絡みついていた黒鎖が消滅したのを見届けると、氷璃は再び自らの血を媒介にして呪いの鎖を生み、即座に放った。 土砕掌で追い打つ貴志が、岩石巨獣の赤熱化が次第に進みつつあることに気付く。熱感知で視ると、巨獣の体内はかなりの高温に達しているようだった。 悪い予感がする、というシェルンの言葉を思い出す。 敵は未知の存在であり、この異世界に『万華鏡』の目は届かない。何が起こったとしても、おかしくはないのだ。 ――早く、決着をつけねば。 ● 敵の攻撃を引きつけて後衛のダメージを少しでも抑えるべく、鉅が巨獣の顔面を狙って破壊の影を伸ばす。しかし、地面に転がる石に足を取られ、惜しくも直撃に至らない。 黒い翼を羽ばたかせて低空飛行を維持するフランシスカが、空中から慎重に狙いを定めて魔閃光を撃った。 「堅い表皮では通らないかもだけど、こういう隙間なら効くよね、きっと。 ――いや、効いてくれないと困るけど!」 暗黒衝動のオーラが、赤い炎がちらつく岩石の隙間を貫く。 苦痛の黒霧を呼び起こすアルトリアが、未だ揺らがぬ巨体を鋭く見据えた。 (正面から打ち破れるだけの力を、羨ましく思ったこともある――) 純粋な威力の面では、自分の攻撃は仲間のそれに及ばない。 かつては、この身に宿る力に失望して呪いもしたし、今でも戦法ゆえに力不足を覚えることは多い。 だが、それでも――。 「これが私なのだ。ならば、自らの力に誇りを持って戦おう。 非力なこの私でも、これだけ強大な敵に傷を与えることが出来るのだから!」 堂々たる叫びとともに、アルトリアはスケフィントンの娘を解き放った。 箱に秘められた呪いが、岩石巨獣の身を着実に削っていく。 それを援護せんとするラシャが、疾風の居合いで岩を切り裂いた。生じた亀裂から、どろりと溶岩が流れ出す。 四属性の魔術を連続で組み上げたレナが煌く光の旋律を放ち、ドーラの砲撃が巨獣の体表を覆う岩石を砕いていく中、惟が前に大きく踏み出した。告死の呪いを込めた一撃を正面から浴びせ、岩石巨獣の注意を引く。 直後、力任せに体当たりを仕掛ける巨獣に対し、惟は鞘にして盾たる“洸鏡盾鞘エーオ・フォレース”を掲げ、己の全身をもって攻撃を受け止めた。安全靴の底が地面をしっかりと噛み、惟を支える。 しかし――苛立った岩石巨獣は、次に岩石の嵐を巻き起こした。弾丸にも等しい威力を秘めた無数の石が、見境なくリベリスタ達を打ち据えていく。 その猛撃の前に、とうとうレナが倒れた。ミルフィとフランシスカが、自らの運命を削って踏み止まる。 ここで戦闘不能者が出てしまったのは痛い。掌打で破壊の気を叩き込む貴志の胸中に、嫌な予感が膨れ上がった。 見る限り、岩石巨獣のダメージは確実に蓄積している。このまま攻撃を続けていけば、いずれ倒せることは間違いないが――。 上昇を続ける巨獣の体温。隙間から覗く炎は次第に勢いを増し、体を覆う岩石を赤熱させていく。この敵にはまだ、隠された切り札があるのか。 「……急いだ方が良さそうね」 氷璃が、詠唱で魔方陣を展開する。そこから放たれた魔弾が赤き岩石の間を縫って突き刺さると同時に、鉅が巨獣に組み付いた。 「こんなのに噛みついて本当に回復できるかは微妙ではあるが……」 僅かに眉を寄せつつ剥き出しになった表皮に牙を立て、生命力を啜る。ドーラが“Oerlikon cannon”を構え、砲撃で巨獣の胴を深く抉った。 それでもまだ、岩石巨獣は倒れない。高熱で赤く染まった全身が振動し、低く地鳴りのような音が響く。 オートキュアーで癒しの力を仲間に付与するミルフィが、はっとして声を上げた。 「まさか……爆発……!?」 再び襲い来る岩石の嵐。巨獣の咆哮とともに、灼熱を孕んだ衝撃波が前衛達を打ち据えた。 「くっ……!」 全身を焼き焦がされたアルトリアが、運命を代償に己を支える。 視界の外にいても、範囲攻撃だけは届く――スケフィントンの娘を連発した反動は、漆黒の闇がもたらす再生力を越え、彼女を蝕んでいた。 それでも、ここで退くわけにはいかない。巨獣の切り札がどんなものであれ、まともに喰らえば傷ついた味方にとって致命傷になりうることは確実だった。 もう、一刻の猶予もない。リベリスタ達は、全力を振り絞って岩石巨獣を攻撃する。 苦境に陥ってなお感覚を鋭く研ぎ澄ませた惟が、“冥界の女王”で岩石の隙間を過たずに貫いた。 告死の呪いが巨体を大きく揺らがせたが、惜しくも倒すには至らない。 「ラ・ル・カーナも五割ではまだ逆境とはいえんか――」 半分を荒野に侵食されたこの地を思い、惟が呟く。 もはや爆発は避けられないと判断した貴志は、トンファーを両腕で構えて咄嗟に守りを固めた。 「守ってみせる――ここで倒れてなるものか!」 ラシャがアルティナを抱え上げて走り、氷璃がその二人を庇いに動く。 地を揺るがす巨獣の咆哮が荒野に響き渡り――瞬間、激しい爆発が起こった。 ● 爆発は巨獣自身にもダメージを与えていたが、リベリスタ達の損害はさらに深刻だった。 ドーラとミルフィ、フランシスカが倒れ、レナと合わせて四名が戦闘不能に陥った上、氷璃や惟の傷もかなり深い。巨獣の背面に立って直撃を免れたアルトリアも、既に自らの運命を削られている。 アルティナの護衛に一名を要することを考えると、ここが限界だろう。 「――撤退、だな」 まずは、アルティナの無事を優先するべきだ。鉅の声に、異論を唱える者はいない。 速やかに撤退を始めるリベリスタ達を、岩石巨獣は追ってこなかった。あちらとしても、追いかける余力は残されていなかったのかもしれない。 アルトリアに肩を借りるフランシスカがアルティナを見ると、ラシャに抱えられた彼女は顔色を失ったまま、がたがたと震えている。 できれば通訳を介して話をしたかったが――それも今は難しそうだ。 アルティナを安全な場所に送り届けることに専念しようと、ラシャは気持ちを切り替える。 (どうやら、御褒美はお預けね) 氷璃もまた、心の中で溜め息をついた。彼女が自分で立てていたら、自分達の世界の写真を見せてやろうと考えていたのだが……。 まずは、アルティナが落ち着いた後に、『考え込む前に座ること』を言い聞かせねばなるまい。 「ともかくとして、この世界は、いろいろとあるわね……」 肩を借り、重傷の身を引きずるように歩くレナが、ぽつりと呟きを漏らした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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