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<Lost World>異世界の勇者達へ


 切っ掛けは、ラ・ル・カーナ橋頭堡周辺での哨戒任務に当たっていた『Beautiful World』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)が見つけたモノである。
「超直観ならまかせろー(ばりばり)あーーーーーーーー!!!!!! 100円落ちてた! と思ったら石だった! クソ!」
 ズサー! とでも擬音が付きそうな勢いでスライディングしてゲットした100円玉……ならぬ石ころ。
 が、彼が見間違えたのは無理からぬ事であって。
「……にしても珍しいな。銀色の石って。いや、もしかしてこれ銀?」
 見渡す限り荒野のラ・ル・カーナ橋頭堡地点に於いて、凡そお目にかかれない代物。それが、今回の任務の発端となるのであった。


「……割合、珍しくはあるのですが」
 そう端を切って、話し始めたのはフュリエの族長、シェルンであった。
 アークの橋頭堡のほど近くに於いて、天幕の張られた応急のブリーフィングルーム。何名かのリベリスタと相対する彼女は、先ほどユーニアが拾ってきたという銀色の小石を片手に見つめながら、話を続ける。
「皆さんも知っての通り、我々フュリエは皆様が来る以前、バイデン達に抗する力は殆ど無く、故に彼らに殺された者、連れ去られた者も数多く居りました。
 そういった者達と特に交流が深かった者などは、その……彼らに対する報復行動を取ろうとする事も、ごく稀にあるのです」
「……まさか、正面切って戦う、何てことはないよな?」
 恐る恐ると言った体で聞くリベリスタに対し、シェルンはふるふると首を振って否定の意を返す。
「私たちは、自分たちが如何に非力であるかを理解しています。流石にそのような無意味な行動は取りません。
 そうではなく、私たちの領域に踏み込もうとしているバイデン達の糧食などを奪ったり、武装に大きな傷を付けて、それ以上の行軍を困難、若しくは不可能にする、と言った事が殆どです」
 ――それとて、危険に過ぎる行為に変わりはないのですが。そう語るシェルンの表情は、正しく自らの身を傷つけられるが如き痛みに歪んでいる。
 同族同士の感応能力。長としてそれを更に強められているシェルンからすれば、そうした復讐の怨嗟や慟哭も、自身のことのように如実に感じられるのであろう。
 リベリスタはこれ以上は触れまいと、話を事務的なそれに戻した。
「大体の事情は解った。それで? この石がその話にどう繋がるんだ?」
「我々フュリエは、森の中に於いては自身の家のように自在に動き回れますが、バイデンの領域たる荒野ではその感覚も上手くは働きません。
 これは、私たちの誰かが行き帰りの目印として、此処に置いていったものです」
 言いながらシェルンが石を軽く引っ掻くと、銀色が剥がれて中から灰の色が覗く。塗装だ。
「本来来る必要の無い彼らの領域に、わざわざこんな物まで置いていくと言うことは……」
「……成る程な」
 頷くリベリスタ。どうやら、状況は既に悪い方向へと転がり始めているらしい。
「……実のところ、既に世界樹に通じて、ある程度の情報を得てきました。
 あなた方が建てている橋頭堡地点の直ぐ近くに於いて、私たちの仲間であるフュリエが、ある巨獣と交戦状態に入る直前まで来ています」
 ――リベリスタ達に、緊張が走る。


「はっ……はっ……!」
 枯れ落ちた巨木のうろに隠れる。
 周囲にはミミズのお化けの群れ。ずりずりと這いずる音が此方に近づいてくる度、噛み合わない歯がかちかちと音を立てようとする。
 怖い。怖い。何度も口の中でそれを叫び、ぼろぼろと涙を零しながらも、私が唯一持ってきた短弓と小剣を持つ手は、それだけはと決して離す様子はない。
 憎しみと、怒りと、悲しみ。そんなものを持っていても、何の役にも立たない。心を同じくする私たちに、唯の傷を生むだけと解っているのに。
「……どうして、かな」
 小さく、呼気が零れた。
 力もなくて、意志はねじ伏せられて。私たちはあのバケモノ達に何一つ勝る物がない。
 それでも……それでも、せめて、足を引っかける程度の悪戯でも良いからと、震える身体を御して、必死で此処までやってきた。
 ――その結末が、此処で死んでしまうことなんて。
「……ルン、さま……」
 ああ、這いずる音が近づいてくる。
 逃げられない。もう、逃げられない。
「死にたくないよ……怖いよ……助けて、シェルン様、世界樹様……!」
 それでも、私は。
 届かない祈りを、必死になって、呟いていた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月05日(木)23:25
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
『フュリエ』の救出。

場所:
ラ・ル・カーナ橋頭堡付近。目視、周辺警戒ではギリギリ確認できない地点です。急げば容易に間に合うでしょう。
時間帯は昼。戦場には『フュリエ』が隠れる巨木のみで、あとは見渡す限りの荒野です。

敵:
『巨獣:ミミズ』
巨大なミミズのバケモノです。数は合計五体。『フュリエ』の隠れる巨木を取り囲むように位置しております。
YAMIDEITEI STのシナリオ「<Lost World>La-lu-carna」にて登場したものと同種で、既にアークの研究班によって能力とステータスは割れています。
基本的に防御、回避能力には余り長けておりませんが、耐久性とウィルパワーに優れ、口から溶解液を出して相手を溶かす能力を持ちます(物近単、物防無、[毒]有り)。

その他:
『フュリエ』
救出対象となるフュリエの少女です。勿論言葉は通じません。
バイデンに対する報復行為を行おうとする途中、ミミズの巨獣に見つかり、現在に至ります。
一応、バイデンに報復しようという事もあって、或る程度の戦闘訓練はしております。
が、巨獣を見る経験と実戦経験がこれで初めてのため、脅えによって本来の戦闘能力を引き出せていません。何らかのフォローを行わないと、直ぐさま劣勢、最悪戦闘不能にまで追い込まれます。
また、彼女は皆様リベリスタがラ・ル・カーナと接触を持つ前に報復行動に出たため、皆様に対する知識がありません。
族長・シェルンとの感応能力による感情の繋がりもあり、初対面から否定的な反応はしませんが、それでも対応次第では信用を無くす可能性も考えられます。



それでは、参加をお待ちしております。


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
風芽丘・六花(BNE000027)
ナイトクリーク
瀬伊庭 玲(BNE000094)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
ソードミラージュ
佐倉 吹雪(BNE003319)
ホーリーメイガス
ブランシュ・ネージュ(BNE003399)
ダークナイト
アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)
★MVP
ダークナイト
ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)
スターサジタリー
椎名 真(BNE003832)


 荒涼とした世界が唯広がっている。
 黒灰色の地面。乾燥した風に混じる砂礫が肌を掠める度、言い様のない不快感が広がる。

 ――『完全世界』ラ・ル・カーナ。

 平時、アーク本部にて活動する彼らにとって、今見える光景は未知のものならば。
 それは比喩的な意味に於いても、此の地を『異世界』たらしめるには十分なものだろうか。
 ……見える光景が、完全の二つ名に相応しいものであるか、否かは、別として。
「んー。異世界に居るって、何だか不思議な気分だなぁ」
「こんな形で異世界と関わるなんて思いも寄らなかったですね。
でも、やるべき事はどの世界でも変わりませんし、相手が誰であろうと同じです」
 見渡す限りに曇天と黒土。変わり映えもない光景の中を走るのは八人のリベリスタ。
 片や気怠げな雰囲気を醸し出す椎名 真(BNE003832)、片やおっとりとした表情に吃とした意志を覗かせる『白の祝福』ブランシュ・ネージュ(BNE003399)をして、その挙動には一切の無駄が見られない。
 ――此度、彼らリベリスタに言い渡された任務は、あるフュリエの救出。
 復讐心に走った末に敵に見つかり、今は唯助けを待つのみの少女。同族からすれば愚かな行いの末と言えようが……
「……俺、正直フュリエが滅びようがどうでもいいって思ってたんだ」
 『Beautiful World』 ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)が、他を瞠目させるような言葉を平然とした口調で語る。
「戦う必要がある時に戦えない奴はどっちにしろ滅びるしかないだろ。バイデンとか関係なく。でもさ」
「ああ、ああいう血の気の多い奴が居て、ある意味俺は安心したよ。怒りも悲しみもあってこその感情って奴だ」
 被せるように言った『赤い墓堀』ランディ・益母(BNE001403)の言葉に、ユーニアも小さく頷いた。
 種族間で感情を共有できるというフュリエ。彼女らにとってそれが当たり前のものであろうと、取るものにとっては昆虫のような群体意識と大差ない認識を抱く者も居り――何より、その能力によって為すべき事を成せない者もあるというのなら、そのような能力はともすれば不要にすら映る。
 故に、故に。それらを逸脱して動く者が在るというならば、それは確かな一人一人のココロの証左。
 闘争を奨めるわけではない。彼らが望むのは、他に縋る従順さのみではなく、己の意志を示して欲しいという、それだけ。
 その叫びが、猛りが、蒼穹の彼方より届く先が――
「異世界に行って弱きを助ける。まさにゆうしゃなのだーひーろーなのだー!」
 ――そう、彼女、『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)が言う、『英雄』なのだ。
「……っと、見えたな」
 駆けるリベリスタ。その先頭に立つ『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319)の言葉が聞こえれば、一同には緊張が細波のように広がる。
「戦いなれてねぇのにいきなり囲まれちまったりしたら不安だろうし、急いで助け手やらねぇとな」
 その最中を、飄々とした口調で語る彼の胆力は流石と言うべきか。
 苦笑、嘆息、無駄に凝り固まった気勢を崩されたリベリスタは、そして、相対する。
 巨木の内に震える少女、それを取り囲む幾重もの巨大なミミズたち。
 異様な外見よりも、窮地を救わんとする意志に殉じた立花が、其処で大声と共にポーズを取った。
「アタイたちはあーくのりべりすただ! 今からお前をたすけるのだー!」


「ここがフュリエたちの世界……。そこにこんな生き物が棲みつくようになった、か」
 アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)は整った柳眉を幾らか歪ませる。
 橋頭堡に於いても見えた世界樹の絢爛足る姿。勇壮且つ生命の息吹すら感じられそうな暖かさを感じたあの光景に対し、此方はどうだ。
「……完全世界が泣くな、これでは」
 一手。挙動はフュリエを囲う巨獣の一体へ即座の肉迫を可能とし、相手方が気づくよりも早く、彼女の身体には黒気が纏われる。
 他の面々も同様だ。フュリエの確保に回るブランシュとユーニア、そして後衛の真を除いた五名がそれぞれの個体の抑えに回り、尚かつ。
「にゃっはっは! 4人じゃ足りなかろう!」
 『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)が巨獣達の気を引くために呼び出した九人目――式神を大騒ぎさせ、戦場全体を攪乱させた。
「しかしまあ、良世界での初戦闘か……がミミズとはなんてこった……」
 これらに追われるフュリエの胸中は察して余り有ろう。何とも趣深い表情で頷く玲の脳内を、しかし最も占めていたのは『ミミズステーキ』なる恐ろしい単語であったりしたのは別の話として。
 瞠目したのは、知性の鈍い巨獣よりもフュリエの側だろう。整った容貌を驚きに染めるその間に、ユーニアとブランシュが巨獣の囲みを抜け、彼女の傍に立った。
「バカ野郎! 死にたいのかよ!」
『……っ』
 感情が故の叫び。身振り手振りで救助の意を示そうと、やはりその態度にフュリエの少女は怯えをより一層強くする。
 先走った自身に小さく舌を打つユーニアに代わり、ブランシュもまた彼のフォローに回る。
「私達はシェルン様からのお願いで、彼女を助けに来ました」
『……え……!?』
「貴方の祈りは届いてますから、後は私達に任せて下さい」
 彼女の言葉に安堵の表情を浮かべたフュリエは、しかしその末尾を耳に入れて、僅かに身を強張らせる。
 怪訝な顔を浮かべるよりも早く、彼らが気づく。短弓と、小剣を持つ双手が震えていることを。
 闘争を望まぬ種族をして、今此処に在るほどの激情。それを為さぬが侭に終わる、彼女の決意の果ては如何なる形に歪むだろうか。
 逡巡。対処に惑うブランシュの肩を叩き、通訳を頼むと言ったユーニアは、うずくまるフュリエに視線を合わせ、確たる声を以て言う。
「戦いたいか?」
『……私は』
「どうしても戦いたいって言うなら、俺が守ってやる」
 その言葉に、はっとした表情で彼に目を合わせるフュリエ。
「その代わり、足手まといにはなるなよ。武器を持って戦え」

「俺が必ず、守ってやるから」


「さあて、一仕事するかね……!」
 相互の移動を阻止して刹那ばかり。
 やはりと言うべきか、誰よりも早く再始動を為したのは吹雪。
 不規則にうねる巨獣の身に、幻影によって拡散したナイフが突き立てば、それに刻まれた神秘がより深く傷を拡大させる。
「アタイの必殺技をくらえー! みらくるなっこー!!」
「……わー、これ絶対夢に出てくるわー勘弁してよー」
 他の面々も同様である。当てた拳を起点に爆発を零距離で叩き込む立花、命中に主軸を置いて試作型のアサルトライフルを連射する真と、動き始めたパーティは瞬く間に巨獣に傷を増やしていった。
 攻撃手には特に事欠かないパーティは、足止めと戦闘を同時に行える程の力量を有している。瞬く間に劣勢に追い込まれる相手方では在るも、身の丈に比する程度の体力は易々と身を横たえる無様を見せはしない。
「にゃー!? 何をするかこのミミズめが!」
 フュリエに見せつけるような角度で、ドヤ顔ポーズと共にスタイリッシュな射撃を放つ玲。
 その反撃と言わんばかりに、強酸に似た溶解液が、衣服ごと玲の肌を焼く。歴戦に至る肉体は些少の痛みをものともしないが、それが不快感に繋がらないかというとまた別の話だ。
 怒りの言葉と共に、大口径の銃から、対アザーバイド専用弾がバラ撒かれる。が、
「げー、なんだか体に悪そうなモノ出してるミミズって、いやなのじゃー……」
 空いた複数の風穴を埋めるように出でた体液がびちゃびちゃと零れる度、撃った当人が渋い顔でそれを見つめていた。
「見たとおり、頭は虫並みではあるんだが……」
 対し、戦況を冷静に見つめるのはランディだ。
 豪気と豪剣。両者が為す神秘が知性無き巨獣に重圧を与えるが、それを見ても彼の表情は明るくない。
「……お陰で此方の誘いにも気づきゃしねえ」
「致し方ない。一体ずつ潰していくしかないだろう。こちらも支援に回る」
 苦笑混じりのアルトリアが、スケフィントンの娘で自身が相手する巨獣を拘束した。
「闇の枷を受けよ。貴様の自由は私が決める!」
 言の葉を紡げたならば、咆哮でも上げていただろうか。幾重もの呪詛に巨躯を喰われる巨獣が身もだえるとの同様、反動によって白磁の肌を朱に染めるアルトリアも、僅かばかり顔をしかめた。
 戦況は五分か六分、相手方の耐久性能を伺えば未だ安心できはしない範囲。
 ブロックに回る面々の体力に気を配りながらも、囲いを安全に抜けるための翼の加護に、万一のフュリエのカバーにと動くブランシュは、この時が最も忙しい。
 実際――巨獣達の興味は明らかに眼前のリベリスタに向けられているのだが、それが何処まで耐えうるのかは彼女とユーニアの動きに掛かっている。リソースの消耗はなくとも、精神的なプレッシャーは否応なく彼女の集中力を削っていく。
 そして、その最中にも、攻防は止むことなど無いのだ。
「ええい、ミミズ風情が生意気な……!」
 気糸の拘束を逃れた巨獣が、玲の身体を更に焼いていく。
 元より体力も低くない前衛である彼女だ。時と共に傷は視界の歪みを喚び、運命の補填を外したその身が往く先は地に伏す自身だ。
「さ、せる……ものかぁ!」
 体液の滴る傷口に牙を突き立て、衰えた肉体を賦活していく。
 後に「焼くより生の方が好きだったのか」と言われる未来は別の話。直後に飛ぶ癒術のフォローを受けながら、彼女は未だ倒れない。
 ――玲の状態は極端な例だとしても、実質、防護を抜ける傷と毒はリベリスタ達にとっては確かに有難くない。
 特にブロック中は攻撃目標を絞ることも、防御……否、回避に専念することも選ばなかったリベリスタ達だ。散逸した攻撃は耐久に優れた巨獣に如何ほどのダメージを与えられたか、知ることも出来ない。
 一進一退。じりじりとした攻防に息を詰まらせる両者の空気を破壊したのは、ユーニアの声。
「離脱完了だ! 序でに……」
 それと、同時に。
 業炎。巨獣の肌をじりじりと焼く炎の元に視線を向ければ、其処にいたのは怯えるフィアキィを肩に乗せ、ユーニアの背後から手をかざすフュリエの少女。
 荒いだ呼吸を必死で整えつつ、それでも決然とした瞳は揺らがない。
「……よーし、負けてらんないな!」
 それを見て、立花も満面の笑みで、拳を構えた。


 離脱を終了させた後、リベリスタ達の動きは一気に精彩を濃くする。
 ブロックに回していた陣形を即座に解体、最も傷の深い個体を狙うリベリスタ達と、そうして群がったリベリスタ達を同様に追う残りの巨獣。
 僅か数十秒の内に、状況は一対一から大混戦へと変化した。
「ま、集まってくれるのは嬉しいことだけどね……っと!」
 言うと共に、『頼りになる先輩』の名を借りた真の軽機関銃が咆哮を上げる。
 ハニーコムガトリング。群がった巨獣を次々撃ち抜くそれらを以てして、未だ巨獣は一体も倒すことは出来ていない。
「ったく、しぶといなあコイツら!」
「とっとと全部ぶったおすのだ! 覚悟は出来てるかー、アタイはかくごかんりょーなのだー!!」
 それでも、軌道の残像すら残す吹雪の高速の斬撃と、着撃地点から紫電の縛鎖を舞い散らす立花の蹴撃が与える傷は、確実に巨獣達に死をもたらしてきている。
 ふらつく身を、それまで庇い手に回っていたユーニアが駄目押しした。手に握る『痛みの王』の残滓を象った黒気が次々と巨獣達に突き刺されば、一挙の内に二体が地に伏すこととなる。
「……ふむ、こうなると、私が貧乏くじにも思えるが」
 その最中にもブロックを継続していたアルトリアが、嘆息を交えつつ、華麗な体さばきで溶解液を回避した。
「なれど、やらせはしない。何故なら、私は弱きを助く騎士だからだ!」
 一手、また一手。じわじわと敗北の気配を敵方に与えるその状況に、フュリエの少女も覚束ない腕を必死に押さえて、敵に向けている。
「お前、何故態々1人で戦おうとしやがる?」
 それを、違った意味でぴたりと止めさせたのはランディの言葉。
 あくまで相手の攻撃が届かない程度の距離だ。良く通る声はブランシュの通訳の元、フュリエの少女に確たる惑いを与えた。
「だが解ったろう? 戦いってのは怖いもんだ、相手を倒すだけじゃなく自分がやられる事も、そして自分がその手にかけるのは命って事を忘れんな」
『……私は』
 激闘の世界。それでも言葉の応酬は、静寂の中に響くそれのようで。
『解らなかった。全部拒んでた。大切な仲間を奪った敵が憎くて、だから仕返しをしてやるくらいにしか、思ってなかった』
「……」
『でも、もう、それじゃ駄目なん……ですよね』
「ああ」
 三体目。轟音と共に地に伏した巨獣を見やりながら、ランディはにやりと笑みを浮かべた。
「それが解ったんなら戦っていい、お前だって憎しみや怒り以上に戦わなければ守れないって事を根っこで解ったからこそ無茶やってんだろ?」
『……そう、ですね。もう、失いたく、ないです』
 同じく、くす、と笑ったフュリエは、短弓に矢を番える。
「一矢報いてみな? このままじゃ悔しいだろう? 俺が切り開いてやる……行け!」
『はい……!』
 死した巨獣が、四体。
 残るは、アルトリアが相対する一体のみ。即座に肉迫したランディが、フィアキィに頼らず、自身の手で命を奪う決意をした少女が、幾重の攻撃を受け、瀕死の身をして尚黒気の箱を形作るアルトリアが、全て全て、同時に一撃を為す。

 ――終幕は、五度目の轟音と共に。
 腰を抜かしたフュリエの少女に向けて、ブランシュがそっと、手を差し伸べた。


「だいじょーぶか、あんしんするのだ、アタイ達が着たからには安心だからなー」
『あ、ありがとうございます……!』
 戦闘終了後。
 ブランシュによる治癒もあって、さしたる傷もなく帰路に着くリベリスタ達は、フュリエとささやかな会話をしながら荒涼とした地を歩いていた。
「……ラルア? それがお前さんの名前か」
『はい。シェルン様が考えてくれて……あの、それ本当に食べるんですか?』
「ダメか?」
 恐る恐ると言った表情でフュリエの少女……ラルアが指さしたのは、吹雪とランディが持っているミミズの肉である。
 流石に人の身を超えるサイズの巨獣の肉を全てとは無理だったが、それでも彼らが持っていた量は十分に多い。玲や真に至っては「食べたくない。見たくもない。今日戦った分だけでも夢に出る」といったレベルである。
 あはは、と乾いた笑いだけしか返せなかったラルアの肩を、其処でとんと叩いた者が居た。
 その相手に、眼を向ければ。
『……、あ』
「お前のだろ、返す。さっきはきついこと言って悪かったな」
 彼女が目印に利用していた銀の石を差し出し、バツの悪そうな顔をするユーニアだった。
「今度外に行く時はまず俺に言え。他の奴は止めるかもしんないけど付き合ってやるよ。
 その代わり、一人で無茶は絶対すんなよ」
 約束しろ、と強い口調で言うユーニアをじっと見たラルアは、次の瞬間、意を決した表情でユーニアの手を強く握りしめた。
『あ、あの! 私にあなた方のような戦い方を、教えて貰えませんか!?』
「……は?」
 唐突な申し出に思わず目を丸くするユーニア。
「しかし、諸君らは闘うのは苦手だと聞いている。
 今後は我々が諸君らの助力に回る以上、無理をする必要は……」
『……友達とか、家族みたいに思ってた人を、殺された憎しみは、未だ否定できません』
 代わりに言いかけるアルトリアの言葉を抑え、ラルアは訥々とした言葉で心情を吐露する。
『……でも、それだけじゃありません。
 私は世界樹様を守りたい。皆さんに頼り切って、此の世界に私を産んで下さった御恩を返す機会を、失いたくないんです』
「……」
『だから、その……』
 語ると共に気勢が落ちていく様が、傍目に見ても解る。
 おずおずと頼み込むラルアを見て、ブランシュは困った表情をしながらも、彼女に人差し指を立てる。
「それじゃあ、私からも、お願いしたいことがあります」
『……?』
「私たちの、お友達になってくれませんか?」
 次いで、にっこりとした笑顔を。
 きょとんとした表情のフュリエは、その言葉に対して、同様に笑顔を浮かべ――はい、と呟いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談お疲れ様でした。
大凡に於いて成功です。強いて言うならばブロック中の序盤で範囲攻撃を放つ為の誘導には仲間同士の連携が少し足りませんでした。
MVPはランディ・益母さんと迷いましたが、此方に。フュリエの少女を真の意味で助けるフラグを見事ゲットしてくださいました証に。
次回以降も、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました。