●テストケース 廃校を元に建築されたという頑丈さと、セキュアさが売りの新築マンション。その一室。 桃色の髪の少女が向かうのは自室の学習机である。少女の部屋としては妙に大人びた、心持ちオフィスデスク然とした風情ではあるが、並んでいる本のほとんどは教材だ。 これまで勉強のほとんどは家庭教師や義理の父に教わっていたから小学校に通ったことはないが、今年度からは中学生だった。 人と接する事が不得手な彼女は未だに緊張が解けず、アークでの仕事とも相まって疲労困憊してしまうことも多い。 そんな時は、ランプの横にぶら下がっているサシェの香りで心を落ち着かせている。親友とお揃いの宝物だ。 時刻はいつの間にか深夜にさしかかろうとしていた。 生真面目な彼女はいわゆる『お勉強』が得意なタイプだが、とりたてガリ勉という程でもない。 それがこんな時間まで学習机に座っているには訳がある。母国イタリアの言葉が思い出しづらくなっているのだ。 例えば履物を見れば、彼女はそれを日本語で『靴』だと認識する。そして考えるのだ。『靴って何て言ったっけ』と。 いつの間にか日本語で思考するようになってから、もう何年も経過している上に、ここ暫くは海外に行くこともなかった。要は使う機会がないのである。 母国語を聞き取ることは出来ても、咄嗟に言葉に出来ない。筆記のスペルに至っては破滅的な惨状だ。 ゆえに彼女が今取り組んでいるのは、イタリア語の教材だったりする訳で―― ●ぐう。 映像が途切れる。最後に響いたのは、少女のお腹の音だった。 桃色の髪の少女の頬がみるみる赤く染まってゆく。 彼女としては、まさかこんな映像が流れるとは予測もしていなかったのだ。 ブリーフィングルームのモニタに表示されたのは、数日前の彼女が自室に居る様子であろう。 なんのこっちゃとリベリスタが問う。 「え、と……同時多発系事件に対するカレイドシステムのフォーカス精度、速度等を試験することになりました」 どういうことだろうか。 「試験として、万華鏡で有志の部屋を覗く……らしいです」 静謐を湛えるエメラルドの瞳を伏せ、どこか歯切れ悪く『翠玉公主』エスターテ・ダ・レオンフォルテ(nBNE000218)が答える。 事前にモデルケースを承諾していた彼女の映像の完成を、彼女自身が知らされて居なかった事など、この時のリベリスタ達は知る由もなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月02日(月)21:03 |
||
|
||||
|
●伏魔殿 「いらっしゃい、御厨くん。この伏魔殿へ。歓迎するわ」 彼女が呟く物騒な言葉に微かな違和感を感じながらも、夏栖斗はその部屋に足を踏み入れた。お呼ばれすればホイホイでかけるのが彼である。 カチャリと音が聞こえる。こじりが後ろ手に部屋の鍵を閉めたのだ。 なぜという一瞬の疑問は、彼女の部屋に居る胸の高鳴りと、渡したい手荷物のことに覆い隠され、すぐに消えてしまう。 「おみやげにゼリー買ってきたぜ、スプーンとかある?」 小洒落た手提げの紙袋にはお土産のゼリーが入っていた。 「紅茶も入れるけどキッチン借りていい?」 矢継ぎ早に質問を繰り返しながら、こじりの返答を聞く前に振り返る夏栖斗の視界が揺らぐ。 なぜ。つい先ほどの疑問が再び鎌首をもたげる。 「それはね――」 襲い来る突然の衝撃に呼吸が出来ない。歪む視界が暗く閉ざされた。 「―-誰にも邪魔をされたくないからよ」」 鳩尾には微笑むこじりの拳がめり込んでいた。 それは御厨・夏栖斗に為さねばならぬ業。所謂様式美(生死を分かつ腹パン)であった。 いきなり飛び出すヘヴィなDVその他あれこれに、アークのスタッフが呻く。風の噂によれば、これが普段通りらしい等という声も聞かれた。 ブリーフィングルームのモニタの中で崩れ落ちる夏栖斗の姿。 「つ、次に行って見ましょうか」 「え、ええ」 これは万華鏡の精度を試験するために、同意を得たリベリスタの部屋を、過去、現在、未来問わず覗くという企画であった。 次に映し出されたのは、妙齢の女性のくっそだらしn――しどけない寝姿である。なんかへそとか出てるし。 「あら、アタシね」 きょとんと呟いた杏は、なんでここに居るのか。企画を説明された後、帰ってなかったのか。 この日、彼女が用があったのは眼前に立つ桃色の髪の少女――エスターテである。 思えば丁度一年ほど前、彼女とエスターテは出会っていた。味方ではなく、敵として。杏は先ほどそれを思い出したのだ。 「仕事のほうはどう? もうすぐ半年経つけど慣れた?」 とはいえ敵だ味方だと、そんなことはどちらでもよかった。ただ、なんとなくこの少女のことが気になったのだ。 「はい……」 エスターテの小さな答えに杏が笑った。慣れたつもりで慣れてないのだろう。子供の想いなど透けて見えてしまうものだ。 「ま、これからもよろしく頼むわね」 ここ最近は、彼女が他のリベリスタと仲がよさそうにしている姿を見かけることも多くなってきた。 ゆっくり慣れていけばいいだろう。 所で、ブリーフィングルームのモニタ、スクリーン等には所狭しと杏の寝姿が映されたままである。つか、きったねぇ部屋だなあ。 「アタシの日常なんか見ても面白くないでしょ? まこにゃんの映像はどれ?」 ●まこにゃんの映像から 広いリビングにポツンと残された美少女(注:略)は、少々むくれた表情で大きなソファに寝そべる。どこか寂しげだ。 (……むぅ。今日はずっとパパと二人っきりでいられると思ったのにな……) 普段ならパパと一緒に見ているDVDを再生してみるが、なんだか気が乗らない。今日は一人なのだ。 やりかけの携帯ゲーム機を再開したりしてみるも、なんだかごろごろとやるせない。 突然のメール着信に携帯を手にとるも、内容はただのダイレクトメールだ。 「もぉ……パパのバカっ。知らないんだから……」 それでも眠気はやってくるもの。手から落としかけた携帯を懸命に握りなおし、真独楽は睡魔と闘いながら一生懸命メールを打ち込んでいる。 『……うめあわせにデートしてくれなきゃ、ゼッタイ許してあげない! パパ、大スキ。だから早く帰ってきてね。 PS お土産はフルーツのタルトがいいな』 リビングには静かな寝息だけが聞こえる。無事送信出来ただろうか。 『雲野さん、雲野さん、モニタ舐めないでくださいっ!』 そあらはテストとは言え、部屋を覗かれるのは恥ずかしかった。 だが、さおりんの専属秘書としては断る訳にも行かないから、テストに参加したのである(←実はさおりんはあまり関係ないことはヒミツ)。 ともかく今日は大人しく過ごして、自身がどれだけ物静かで女の子らしくすごしているのかをアピールしてやるのだ。 唐突な着信。 「あ、さおりんから電話なのです」 何を話しているのだろうか。盛大に尻尾がぱたぱたしている。 「デートするです! デートするです! 明日楽しみなのです!」 内容は知れないが、アポイントの約束である。ともあれ彼女は有頂天。さおりんとデートなのです。ぴゅあわんこごろんごろんごろん。 とにかく今日はこれから忙しい。やらなくてはならないことが盛大に増えてしまった。 服はどうしようとか、これはこの間着たし、こっちは気分じゃないし、これは派手すぎるかしら、だとか。 「これは地味かなぁ? あれでもなくてこれでもなくて迷うのです。顔パックしていろいろあちこちお手入れしなくちゃ!?」 ぴゅあわんこも大変なのだ。 「あーん、忙しいのです!!」 普通の少女は、散乱していた本をそれなりに片付けたつもりである。まあ最低限、見た目はどうにかなっているはずだ。 そこにあった普通に危険な物も片付けた。はずだ。といっても、元々汚れているといった手合いの部屋ではない。うーん、そのまあ、なんというか。いや、普通だ。 とそんなわけで、ユーヌは恋人の竜一(ロリコン)を部屋に招いたのである。 スーハー! スーハー! 部屋に突撃した竜一。まずは深呼吸だ。胸いっぱいにユーヌたんの香りが満ち溢れてすがすがしい。たぶん古書の香りがかなりするけれど。 嘗め回すように部屋を観察する竜一。そんな姿もどこ吹く風、涼しげな表情で扇風機のスイッチを入れる。まだ夏本番ではないから、これで十分だろう。 「うひょーっ!」 その隙に竜一はユーヌのベッドにダイブする。枕に顔を埋める。 くんかくんか! 足バタバタ! すんすんすーん! たまらねえ時間だ。万華鏡で覗いてるとかいう奴に変態とか抜かされたらドラゴンフルーツ投げつけてやろう。 振り返るとそこにはユーヌの視線。 「別に構わんが」 「……うん、ごめん、大人しくする」 ベッドにあがるユーヌは、自身の膝に竜一の膝を招く。ユーヌたんの膝はすべすべだ。ぺろ。僅かに眉をひそめるユーヌ。 ユーヌはそのまま姿勢を崩さず、時折恋人を団扇で扇いでやっていると、やがて寝息が聞こえ始めた。 分厚い本を手に取り読み始める。この光景は本の山が出来るまで続くことになるのだが。さて、起きたらどうしてやろう。 口付けでもして起こしてやろうか―― 未明の部屋は一階北側の少々薄暗い場所にある。元はといえば祖父母の部屋になるはずだった六畳の和室だ。 祖父母はと言えば小さな拝み屋を営んでいたらしいが、彼女自身はそのことをあまり良く知らない。 十七歳という年齢相応に、学習机に本棚、ドレッサー等がある小奇麗な部屋である。 未明は少々頬を染め、部屋を後にした。食料品を台所に運び込んだ恋人のオーウェンが手料理を作ってくれているから。 それと……内緒だけれど普段はこんなに綺麗には片付いてはいないのだ。 丁度台所の方は良い香りに包まれている。未明が姿を現すとテーブルの上には野菜と肉を煮込んだものが丁度並べられた所だった。 思えばオーウェンがかつてスラムに住む孤児だった頃は、こんなものを手に入れることは出来なかったものである。 未明にはなじみのない料理である。そもそもどんな料理を作ってくれるのかも教えてもらっていなかった。 「お前さんは海の物を余り好まない覚えがあるので、な。川の物ならば‥‥と思った次第だ」 そう言いながら次に並べられたのはサーモンのクリーム煮込みである。大学時代に良く食べたことを思い出しながら、オーウェン自身も着席した。 なんだろうか、中華だろうか。ものすごく辛い料理なんかが来るんじゃないかと、内心心配もしていたのだが、これも大変美味しい。 「西洋風料理は余り普段食わないであろう?」 未明の猫が親しげに、オーウェンの膝に前足を乗せてくる。 「飼い主を取られて嫉妬しているのかね?」 からかうように少し撫で、シャケの切れ端を与えてやる。 「ヒィも美味しいのを貰えて良かったわね」 未明は満足気に顔を洗う猫に声をかけた。 「うん、ついでに遊んでもらうといいわ。いつもあたしとじゃ飽きたでしょ」 その内目新しさも無くなるんだから、今のうちよ――と内心加える。 彼自身にも慣れて貰わなければならないのだから。と、そんなことを考えていると、ふと体を抱き寄せられる。 「ん、呼んで頂き、感謝である」 唇に軽いキス。心配は無用なようだ。 「杏子、遊びに来ましたよー。」 遊びに来たと言いながらも、櫻子は勝手に鍵を開けて杏子の家に入る。 「櫻子お姉様、いらっしゃいませですわ。」 それもそのはず、ここは彼女が元々住んでいた家であり、たった今、尻尾もぱたぱたと出迎え抱擁してくれたのは双子の弟(?)であるから。 杏子はと言えば、名前も名前なら容姿も容姿。女性のようにしか見えないが、恋人が出来たのを機に男らしさの訓練中であるとかなんとか。 櫻子にも愛しい恋人が居り、話題は自然にそのような方向に移ってゆく。 「私はこの間、一緒に沢山お出掛けしましたのよ♪」 「お出掛けですか、杏子も今度誘ってみようかしら。」 そんな姉弟なら、櫻子のお土産のケーキを肴にガールズトーク(?)が花開くのも致し方ない。 「お姫様抱っこもして貰いましたし~」 「お姫様抱っこは女の子の憧れですよねぇ~」 「結婚式の予行練習もしましたわ♪」 「まぁ、櫻子お姉様ったら……気が早いんですから~」 勿論自分の恋人自慢も忘れない。 「勿論ですのよ♪とっても大きくて、とってもふかふかで……自慢の恋人なんですの♪」 「ふふっ、杏子の彼女さんは尻尾が素敵ですわ。ふわふわのもこもこーですぅ」 うっとりしてしまう双子さん達であった。話題は夕方になっても尽きなかったが、そろそろ暇せねばならない時間でもある。 「また、明日図書館で会いましょうね♪」 「えぇ、また明日図書館で♪」 三高平市中央図書館で、明日も仲良く―― ●自室等々I こちらはうってかわって大御堂重工にある居住用の一室。 少し前まで陽菜は、この部屋に帰っても一人だった。 だけど今は違う。愛猫チャチャが帰りを待っていてくれるのだ。今も猫じゃらしを前足で叩いている姿が愛らしい。 たまに前足を持ち上げて、二足歩行の練習(まあ……ええ、やりますよね)をさせたりもする。 食事をとろうとすれば、膝に飛び乗って横取りしようとしたり、ベッドで一緒に寝れば髪の毛に絡まっていたりと、気苦労も耐えないが。それでも可愛いから許せてしまうのが猫というものでもあったりするのだ。 それにしても。ふと陽菜は考える。これも覗かれているのかな、等と。 それにエスターテは、男性の入浴シーンとか間違って覗いてしまったらどうするのであろうか―― そう、たとえばこんな風に。 夕食を共に下友人に別れを告げ、亘は鼻歌まじりに玄関を開ける。 白い壁にフローリングが敷かれており、家具もきちんと置かれているから、ごく普通の部屋に見える。 亘はそのまま、コンビニのビニール袋からアイスを取り出して冷凍庫にしまう。 す、すごい、普通だっ。ちゃんとしてるっ。兎も角、亘はお風呂の時間だ。リフレッシュだ。 この辺りの映像は流石にわきまえたアーク職員である。一部の方からブーイングが聞こえてきそうではあるが、カメラは美少年の貴重な入浴シーンは映さずに窓の方へスライドして行く。 ここまでは小奇麗だがありきたりな部屋かと思いきや、ここから見える景色こそが彼の愛する光景なのである。 この部屋からは三高平の街並みと空が一望出来るのだ。廃ビルの一室を改装したのである。 入浴後は羽を丁寧にグルーミング。なにぶん時間がかかるため大変なひと時ではあるが、この翼は彼の誇りであり、大切なものであった。 それにこうしていると、心も安らいでくる。それから終わったら冷凍庫で眠っているチョコミントアイスも待っている。 「ん~~、チョコミント最高!」 お気持ち分かります。食べたら後は寝るだけだ。明日も良い一日であるように―― 今度は女の子らしく小奇麗に、ファンシーな――と思いきや、矢張りそうではないのが彼女の部屋である。 決して汚いとか、ゴミがあるとか、そういうわけではない。小奇麗であることは小奇麗なのだが、部屋を飾っているのは乗用車やトラックのプラモデルだったりする。 ともあれこれだけならば車が好きなのであろうと思われるかもしれない。 が、並んでいる雑誌はトラック関連のものであり、ホンモノのタイヤを使ったテーブルがあり、傍らに車のマフラーやサスやらパーツが転がっているのだ。 さすがの25tのデコトラ『龍虎丸(二代目)』を駆る、まさに走り屋の部屋でもある。 「ひひひ……新しいプラモデルだぁ!!」 本人も部屋の片隅でなにやら作業に忙しい。 「これをこうしてぇ、こんな感じぃ」 トラックのプラモデルを作成しているのだ。器用で丁寧な手つきに、表情は本当に嬉しそうなのだが、スプレー塗装中の咥えタバコは大変危険です>< 一部始終を見ているアークの職員は気が気ではないのだった。 「んー、今日もフロントガラスが眩しいぜー♪」 こちらの狄龍も車磨きに余念がない。 『三高平紅虹的士服務公司! 三高平の隅から端までひとっ飛び! 貴方の時間を縮めてみませんか?』 思い浮かぶフレーズに首をかしげ、イマイチだと呟く。 彼が営む会社といっても、今は個人タクシー状態ではあった。しかも白タk……とっとっ、それ以上いけない。 宣伝は営業に頑張ってもらうとして、己は車の整備をするのだ。優雅にっ! こちらはジョンが借りているマンションだが、一室が完全に書斎となっている。棚は古今東西の書物で埋め尽くされていた。 これ以上は居住空間さえ圧迫してゆくことだろうから、そろそろ処分も考えなければならない。ビブリオマニアというのも困り者だ。 大学に寄贈するもの、古書店、ネットで処分するもの。彼は半分を手放すことを決意していた。背に腹は変えられぬとは言え、どこかうら寂しいものだ。 ある程度の進捗があったら、午後になっていることだろう。その時はアールグレイとスコーンでティータイムを楽しもう。クロテッドクリームは欠かせない。 一人厨房でカレーを作る怪人九十九。 肉やら野菜やらを切って鍋に入れたり、トンカツやてんぷらを揚げたり、ソーセージを焼いたりしている。 決して暗黒の儀式が行われているわけではない。 時々冷ましたプリンを冷蔵庫に入れたり等もしているが、これら全てあのフェーズ3的な服装で行っている。 動きづらそうなものであるが、妙に機敏で気持ちわr――もとい、気のせいである。 そして早速、煮込みあがったカレーで自分の腹ごしらえもしておくのだ。 万華鏡が捉えた九十九の様子をアーク職員が観察していると、突如彼と目が合う。 「貴様、見ているな?」 討伐依頼出ないように気をつけてっ! ここは街の小さな製作所。個人で営むサイズである。 並ぶ工作機械はどれも良く手入れされているが、昼間だというのに薄暗く、工員の姿は一人も見えない。 階段を上がればパーテーションで区切られた一角に彼女は居る。そこは応接室兼オフィス。奥にはデスクとPC。 手前に置かれているのはテーブルと客用の長椅子だ。彼女はその椅子にじっと座っている。 まるで電源を切られたロボットのように、表情一つ変えず微動だにしない。 写真のような風景だが、時計の針と、奏でられる微かな秒針の音だけが、そこが実存する空間であることを示していた。 彼女はいつもこのままだ。来客があるまで、イドは虚空を見つめたままそこにある。 高層賃貸マンションの一室。少々優雅な一人暮らしを意識した2DKの部屋にアルフォンソは住んでいる。 休日と言えばワインとつまみ、それから本があれば一日などすぐに過ぎ去ってしまう。 今日はモッツァレラやリコッタのスライス、同じく南伊産の白ワインが読書の充てになっている。 どれも母国のものだが、今回はたまたまそういう気分だったのだ。濃厚なチーズの風味と、爽やかな白ワインの酸味が休日を心地よいものにしてくれる。 開く本は何度も読んだ古典――ダンテの神曲だ。読み古したつもりでも、読むたびに新たな発見が見えるのも名書の醍醐味であろう。 それでも刻々と過ぎ去る時間、一日が有限たることだけが、この日、唯一つの憂いであった。 ここは麻衣の勤務先である三高平学園大学部付属病院から歩いて三十分ほどにある、ワンルームマンションの一室だ。 小奇麗なあっさりとした室内で、女性らしさはむしろ、このこざっぱりとした清潔な空気に現れているのかもしれない。 くつろぐ麻衣は久しぶりの休日である、今日は一日部屋で過ごすつもりだ。 とはいえ、片付け仕事や溜まった洗濯等、やらなければならないことも多い。ならば食事は何か宅配で頼んでしまおうかと思っている。 折角の休日がそれで全てつぶれてしまっては、流石に殺生というものだ。 「さて」 録画したままのドラマなんかも消化してしまいたいから、彼女は出来るだけ早く片付けようとソファを立つ。頑張ろうと気合を一ついれた。 ●義心館 「成人おめでとう。新城さんなら絶対日本酒だと思ってね。とびきりの純米大吟醸。今年の金賞受賞酒だ」 快が拓真の為に用意した一本である。 「……ありがとう。新田が選ぶ酒に間違いは無いと聞く、これは楽しみだ」 六月の終わりに差し掛かる頃、拓真も二十歳を迎えたのだ。 とはいえ付き添う悠月は秋まで十九。この日ばかりは申し訳ないが、お茶でお付き合いしてもらうつもりだ。 まずは笑顔で乾杯。舌触りは甘く優しく芳しく、後味はきりりと爽やかだ。 瑞々しい林檎を思わせるような吟醸香の奥から、優しく、されど力強く米が語り掛けてくる。 逞しくも爽やかであり奥深い、日本酒の良さが凝縮された一本だ。 つまみなど不要といわんばかりの酒ではあるが、あてが水と塩では不健全に過ぎるし、それだけを飲みすぎれば水と変わらなくなってしまう。それでは惜しい酒だ。 ここはきゅうり大根ニンジンの浅漬け、さっぱりと作った牛蒡の胡麻和え、梅肉のディップをつけた野菜スティック等はどうだろう。 この酒であれば熟成の進んだミモレットにも負けまい。勿論季節の刺身でもいいだろう。ともあれ、今日の所はそんなものが用意された。 「戦場では何度も肩を並べたけれど、こうして語らうのは初めてかもしれないな」 「……そうだな。少し語らうのも、悪くはない……」 「戦場や作戦卓を離れて、こういうのも悪くないですね」 今日の悠月は聞き役に徹するつもりだ。 酒が進めばこんな話も出てくる。 「……なあ。正義って、なんだろうな」 「……答えは一つじゃない。俺達自身が正しいと思った選択こそが、正義足り得るのだろう……が」 ――その正義には届き得ない。拓真は心の中で加える。 僅か一年少々という時間の中なのに、多くの戦場で激戦を繰り広げてきた三名である。 華々しく輝かしい実績を多量に残せど、出撃が重なれば目指す正義に及ばなかった事も多くなってくる。 救いたかった者こそを切り捨て、世界の為だと言い捨てるそれが正義であって良い筈はないと想う。 仕方がないと、言い訳をしたくない。それは理想を諦めるに等しいと拓真は思うから。 ともあれ悩んでも前に進むしか無いのだが。 救った命に応え、救えなかった命に報い、救いを求める声に手を伸ばす。快はそう在ると決めていた。 二人の語らいに、じっと悠月は耳を傾けている。 (――正義について口にする資格は、私には無い。志して命を懸け戦い続けている彼らだからこそ……その資格がある) 悠月が湯のみに茶を注ぐ。 (……見果てぬ夢、私はそこまで強く想えない。故にこそ、眩しいその姿を応援したいと――) 三杯目は、かなり渋かった。 そうこうしているうちに酔いつぶれ、いつしか頭を悠月の膝に預ける拓真。 「……済まない、二人とも……迷惑を……」 酔ってまで生真面目な拓真に快が笑いかける。 「しかし二人共、いい意味で所帯じみてるね」 暇を告げる快の言葉に頬を染める悠月は小さく会釈した。 ●はちまるいちや 「先輩と! 先輩とお部屋デート! 色々隠して綺麗に片付け、わたしの部屋は完璧!」 くるくるきらきら! 「先輩の好きな緑茶とケーキも用意しておきましたっ!」 というわけで、壱也はお茶を淹れに行く。行ってしまった。 モノマはPCを起動してしまった。してしまった。大切なことなので二回描写した。 許可は取ってあるから問題はないのだ。そして彼には為さねばならない使命があった。 それは――神秘の秘匿である。つまり、BLフォルダの消去であった。 「正直、俺には拷問にしか見えんのだが、人の好みはわからんのう」 あいつやら、こんな奴まで毒牙にかかり、なんだか大変でいやんでうふんなイケメン同士のあれやこれやを、消去。 「わっ!!!! せせせせんぱい!!?? ななななな!!!」 王道も、覇道も。心情も、純戦も。きわどいものも、やさしいものも。 「ん? 掃除中」 やおいもジュネも耽美もBLも。掛け算の様々なありようも。着実に消えて行く。 「ひょわあああああ先輩がPCをうわああああああ!?!?!?!? PC触るのはいいって言いましたけどそれそのフォルダはあぁぁああああ!!!!」 「ゴミ箱も消去」 「せ、先輩! あの! あわわああ!! あのそれ!」 「完全消去ツールも起動して」 腰から崩れ落ちる壱也は溢れる涙と共にモノマの腕を掴むが。イヤイヤするが。 「モノマさんはあまくねー!」 「けけけ消す…うわわ!! ふえええん!!」 これで全て消えてしまった。すっからかんだ。 「先輩フォルダは見てもないからいいじゃないか」 だけど、先輩フォルダだけは残っていた。一縷の希望だ。 「掃除……終わったので、甘い先輩に戻ってくださいね?」 モノマは優しく壱也を抱き寄せながらふと考える。あっちから消すべきだったのだろうか、と。 いちやいちや。 ●自室等々II 夕日も落ち、辺りが少しずつ宵に包まれ始めた頃。 「ただいまー」 ごく普通の2LDK賃貸マンションの戸があけられ、エルヴィンの快活な声が響く。 今日はデート等の予定もなく、まっすぐに帰ってきたのだ。外から窓の明かりが見えると、なんだか心が温かくなる。家族の気配だ。 「おかえり、すぐご飯に出来るからね」 二人暮らし向けの建物で新婚さんが多いが、この二人は兄妹であった。 すぐに料理が準備されるだろうから、急いで荷物を置き、手を洗ってリビングに。予想通り良い香りが広がっている。 「いただきます、今日はイタリアン風か」 レイチェル(黒)もテレビの電源を入れて食卓に向かう。 「いただきまーす」 妹の料理は最近レパートリーが増えてきて兄は毎日が楽しみだ。 彼女にとってみれば、何時もどおり、特に変わったことのない普通の料理のはずだが、美味しかったと言われれば頬も緩む。 「ごちそうさま、美味しかったよ。」 妹に準備をしてもらったなら、片付けは兄の仕事だ。レイチェルがソファでくつろいでいると、食器を洗う小気味良い音に混ざり、兄の鼻歌が聞こえてくる。 終わったら一緒にゲームをするのだ。のんびりとした毎日の些細な一コマ。だけどくつろぎの一時だった。 場面は変わり、そこは冒頭に登場したマンションの一室。隣になるリビングダイニングである。 少女一人には少々広すぎるエスターテの家だ。この日ここに招かれたのはエリス。ケーキを持って遊びにやってきたのだ。 他に来る人も居るかもしれないと、ちょっと多めに持ってきたのだが、この日エリスを出迎えたのはエスターテ一人だった。 ベイクドチーズケーキに、ガトーショコラ、モンブラン、エリスはイチゴのタルトを食べようと思っている。 後は――数はあるが女子二人。甘いものなら、きっと大丈夫だろう。 「紅茶で……いいですか?」 「手伝いは……する」 ぼそぼそと話し合う二人であったが、なんとなくどうにかなるようだ。両者のテンションは低いが、気は合うのかもしれない。 エスターテは花柄のポットにお茶を注ぐ。英国の名窯が作るお気に入りのポットだった。良く淹ったらクリームダウンが起こらぬよう一気に冷やすのだ。 楽しい一時が始まる。 ここものんびりとした日常の一コマである。 同じくよく整理された清潔な部屋であるが、こちらは学習机等もあり少女らしさが垣間見える。 アークから貸し出された部屋だ。ミリィはここに猫のココと一緒に住んでいる。 いつも通り、学習机に向かいノートを開く。といっても、きっとすぐに構って欲しそうに見つめているココに邪魔されてしまうのだ。 そんなことは分かりきっているけれど、ついつい考えてしまう。 それでも彼女がめくるノートの中に書かれているのは、年齢相応の学習内容ではなかった。 国語でも、数学でもない。戦奏者手製の楽譜。使い込まれた古いノートに書かれているのは、彼女が経験してきた戦闘の考察、次に生かすための記録である。 アークに参加して日が浅い彼女であったが、みるみるうちに力をつけ高い評価を得ている。つい先日は仲間と共に難しいとされる依頼を成功にも導いた。 このノートはその賜物でもあるのだが、それでも、肉薄すれども、トップクラスのリベリスタ達には僅かに及ばないと彼女自身は思っている。 一面では、事実でもあるのだろう。だから――だからこそ今日もこうして彼女は頑張っているのだ。 あの人たちと、本当の意味で肩を並べる為に…… 次は何でも屋『JaneDoeOfAllTrades』の奥にある自室。 六畳程度の洋室にはハルキゲニアやら、謎の鼻であるく生物やら、卓上RPGに登場したんだかどうなんだかな謎生物なんかのぬいぐるみが並んでいる。 エナーシア本人は可愛いと思っているが、これまで誰かに同意を得られたことはなかった。 それから様々な口径の銃、整備用器具、大量の弾丸等の実用品から、ミクロネシアの人形やらイヌイットの帽子、世界各国の珍妙なアイテムが勢ぞろいしている。 彼女が日本に来るまでに巡ってきた地方のものであるらしい。 そんな部屋の中で彼女が行っているのは数々の写真の整理だった。去年の夏、アークの計らいで南の島にリゾートした辺りから撮り溜めてきたものである。 紅葉、初日の出、桜と、季節の折々から、赤い月のこと、鬼ノ城といった仕事のこと、最近ならかの異世界の物もある。 彼女はそれらを一枚一枚眺め、呼び覚まされる思い出と共に纏め直しているのだ。 『むしゃぶりつきたくなるようなナイスバディーに!』 『誰! でも! なれる!』 『魔法☆の有酸素運動!!』 それが体幹トレーニングなのだと、ユウ(むちむちバディ)がこの前お世話になった人が言っていた。 継続は力と、今日も今日とて自室で――ぐぐぐ、うーん、うー…… はふん。 ダメなようである。インドア派だから仕方がないのだ。 「ま、自分で決めたノルマを果たせればおっけーでしょー!」 四畳の部屋に飾り気はない。電気もガスも通っていない。 洗濯物が部屋干しされている。そこかしこには食べ散らかされたお菓子のゴミが散らかる。 シェリーが住むのはそんな部屋だったが、異質なのは部屋のあちこちに呪術的な魔方陣やら紋様が描かれていることだった。 その中央で少女は静かに瞑想している。 今の自分に足りないものは何か、と。いくら精神統一すれども答えは見えない。昔なら見えていたのにと思う。 それはいつの記憶だったろう。だが、いまはそれでいい。すべてやり直すことは己自身が決めたこと、もう昔の自分ではないのだと。 時は流れ、やがて呟く。 「これも一興、楽しむとしよう。妾が歩む道こそが魔道の道なのだ」 実は三高平大学一年生だったりするベルカである。ちなみに文学部である。 学生といえば勉強であるからして、勉強と言えばテストだ。 それもそうだが、今回彼女はレポートに追われている。 提出期限はエリューションの討伐より恐ろしいものだった。なんというかこう、フェーズ3のHARDぐらいだ。なんかまだこう、挑んだことがない領域だ。 「くうっ、埋まらない! 集中できない!」 こんな時にはどうするべきか。パブロフの家! スターリングラードだ。ロシアの魂。そう、コサックダンスだー!! わーい!! 「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ……」 ここで数行前を見返して欲しい。学生と言えばのあたりである。この日、これが何度も繰り返されることになるのだ――たぶん夏の夜の暑さにへばるまで。 所変わって、こちらは瀟洒な佇まいのデザイナーズマンション。 どこか洋館を思い出させる建築を好んでか、オルクス・パラストからやってきたリベリスタが多い。ターシャもそんな一人である。 部屋は内装もクラシカルに、家具もシックなアンティークが並んでいる。華美ではないが優雅に、品良く纏められていた。 学校から帰れば、どこか王子のような少女は男子制服を脱ぎ捨て、ワンピースの部屋着に切り替わる。髪もレースのカチュームで留め飾れば、内装とも相まって一転どこか姫君のようだ。 そのままベッドに寝転び、煙水晶の原石を夕日に透かして眺めてみる。硬質な煌きの中にどこかフワフワとたゆとう微妙な加減が美しかった。まるで煙る心を写し取るような―― ふと思い立ち、口紅やアイラインを引く。 「ボクはお姫様になれるだろうか」 ――王子様でなく。 あの日、遠い日。ドイツのあの場所で家族を失ってから、彼女は男のように生かされて来た。そんな事が脳裏を過ぎる。 もう。身に染み付きすぎて、このまま戻れないかもしれないとたまに思えど。 眼前の鏡の中に写る姫君になれるのだろうか、と―― ●りりかる☆ゲーマーズ 弐升の隠れ家はコンクリート打ちっぱなしの一室。朝ではあるが暗く、所々朽ちており、どこか生活感に乏しい空気を漂わせている。 人を感じさせるのは飲み終えたビールの空き缶と、多量の吸殻を戴いた灰皿、それからゲームの画面が放つ光である。 徹ゲーにコーヒーとタバコは欠かせない。 「……ん、もう朝か。もうちょっと進めて寝よ」 目は充血し、回りにはヤバいクマが出来ているというのに、もう少し続ける心算らしい。 レイチェル(白)の家はデカい。ここも結構広い洋室であり、ここが彼女の部屋でもある。 今日は遊びに来た暁穂とゲームをするのだ。 といってもレイチェルが持っているのはRPGばかりで対戦ゲームは――と探していると、あった。どりどりだ。 このゲームはなんだか(´・ω・`)こういうのが2つくっ付いた状態で降って来て、色を四つそろえると消える。単純だが奥が深いゲームだ。 「まずこれやろっか~」 コメット! ターディオン! セイファート! ブレイクフィアー! 手際よく連鎖させて消して行くレイチェル。操作は素早いながらもゲームへの不慣れから、ちまちまと消して行くしかない暁穂。 「くっ、中々やるわね……」 どりり~ん、どりり~ん、どりり~ん。どどん! 画面に大量の(´・ω・`)が降って来る。今回はレイチェルの勝ちだ。 次は暁穂が持参した格闘ゲーム。この手のゲームをあまりプレイしないレイチェルにも配慮して、コマンドが簡単なものだ。 「て、手加減なしっ」 「手加減はしないわよっ!」 「操作は難しくないけど、暁穂強い……」 と、色々なゲームに遊び疲れた頃、ふと暁穂に寄りかかるレイチェル。少女達の白い指と指か重なり、絡み合う。すこしこそばゆい。 「ん? え、ちょっと、レイチェル?」 「……えへへ」 「……仕方無いわね、もう」 百合! 百合! こちらは必要最小限の家具しかな殺風景な部屋。目立つのは冷蔵庫と衣類の収納スペースにゲーム機程という糾華の部屋。 「冷蔵庫の中のジュース自由に飲んでもいいし。ご飯まだなら何か作るわ」 淡々と述べる糾華は少々舞い上がっている。友人を泊めることなどほとんどないからだ。とはいえ。 「いえ、正直助かりました……いつものお泊りする所(ネットカフェ)が改装工事中で……野宿になる所でした……」 リンシードには定まった宿がないらしい。それはなんというか、色々と危ない。と、飲み物でも準備していると、どんどん部屋に隅に寄っていくリンシード。 「あ、隅っこに要られても、困るから真ん中に来なさい」 「う、あ……えと、いたれりつくせり、ありがとうございます……」 「パジャマある? 洗面具は? ベッド1つしかないけれど、それで良い?」 次々に用意されていくお泊りセットに、なんだか心の底にじわりとした暖かさを感じる。 「なんだか、ここは落ち着きますね……お姉さまの香りがいっぱいで。ずっと、ここにいたくなります……」 つい口に出てしまった言葉に、リンシード自身が慌てる。 「い、いや、迷惑になりますし。それに、なんだか、色々依存してしまいそう……あまりに、居心地がよすぎるので……」 だけどまた来たいというのは正直な気持ちだった。てきぱきと準備を終えた糾華がぽつりと口を開く。 「さっきの話だけれどウチ使っても良いのよ? 貴女なら変な事にはならないと思うし、野宿とかで変な事になったら大変じゃない。依存とかは良くわからないけれど、私は構わないのよ?」 ●宇宙鴎 「うぇるかむとぅまいるーむ!狭いところで恐縮ですけど、寛いで下さいねっ!」 「友達の家に招待されるなんて生まれて初めてじゃ……き、緊張するのう」 菓子折り菓子折り、そうだ、菓子折りを持ってきたのだ、きつねこばーちゃん。見た目はなんかすげえキュートな美少女で巨乳なんだけど、ばーちゃん。 「お、お邪魔しますなのじゃ! 今日はご招き頂きまことにありがと……え、硬い?」 ここはチャイカの部屋。シンプルではあるが、様々な基盤や謎のパーツ、小型工具等が所狭しと配置されている。それから手元にはいつものタブレット。 飾り棚やデスクには航空宇宙関係の小物やロケット、探査機等の模型が並んでいる。趣味も仕事も技術者然とした雰囲気だ。 僅か十歳にして大御堂重工で実務経験を詰む彼女だったが、将来は宇宙開発の方面に進みたいと子供らしい夢も持っている。 そんな中にチャイカはセラフィーナとレイラインの二人を招待した。 セラフィーナは元々こういうものに興味を持っているし、レイラインは外見は兎も角実年齢を考えれば滅多なことはしないと考えている。 「あ、そうそう、お土産にとっておきの和菓子と玉露を持って来たのじゃ! お湯を沸かしたいので台所借りるぞよ」 台所へと消えて行くレイライン。 「わあ、チャイカちゃんの部屋、すっごい素敵だね。ロケットに人工衛星。宇宙が好きなんだね。私も大好きだよ! 軌道エレベーターとか夢がいっぱいだよね。作るのなんて夢物語って言われそうだけど、それは挑戦しない人の話だもん。機械と神秘を融合させれば可能性は無限大だよ!」 「はいっ! これからの時代は、私達の世代が作ってゆくのですよ!」 話題が花開き、盛り上がる二人。忘れられしきつねこばーちゃん。 「チャイカちゃん、いつか二人ですっごいもの作ってみたいね!」 そんな頃…… 「それにしても、色々な模型が飾ってあるのう…おや? こっちは機械かえ? 凄いもんじゃのう!」 「あ、ちょっと待って下さいそっちは高圧電流試験用のユニットがあって割と危け……」 「どれどれ……」 「おばあちゃあああああああん!?」 \にゃ、にゃばばばばぎゃー!!/ 「だ、大丈夫ですかレイラインさん!」 まさに還暦。年寄りの冷や水。ビカビカと点滅しながら骨が透けて見える演出にも年季を感じる。 「死なないでください、100歳まで生きてください! レイラインさーん!?」 最後になぜだかダブルピースまでキメてしまうレイラインであった。 ●白い家 「いらっしゃいなのっ!」 少女の笑顔が瑞々しい花のように綻ぶ。 「ご機嫌よう、楽しい一日になりそうだね?」 二人のお姫様の安らげる時のお手伝いを。 スケキヨが微笑み、こくりと頷くエスターテ。 「お邪魔、します」 初めて入る親友の家に、桃色の髪の少女には少し緊張の色がある。 今日はルアとジースが住まう家でお泊り会だった。勿論ルアの恋人であるスケキヨも一緒である。 「今日は私が紅茶を淹れるね」 丁度午後のおやつの時間、義心館で稽古を終えたジースも帰宅して来る。ずいぶん賑やかだった。親友と恋人に囲まれ、幸せそうな姉の姿が目に飛び込んでくる。 過日の依頼から帰ってきたルアの様子は酷いものだった。食事も出来ず、嘔吐を繰り返し、ずっと部屋で泣いていたのだから。 だけど今日は本当に幸せそうで、どこかほっとした気持ちもある。幼い頃から姉を守ってきたつもりだが、いまや互いにリベリスタであり、背負うものも大きくなってしまった。 彼自身も強くならなければならないから、今日も師と仰ぐ拓真の背を追いかけて来たわけでもあるのだが―― 「よう。いらっしゃい」 そんな様子を顔に出しても姉は喜ばないだろうから、悩む心をねじ伏せてジースは快活に挨拶一つ、席に座ってお菓子を口に放り込む。 「やあ、お義兄さんだよ!」 ジースはややっとスケキヨの足を踏む。机の下の攻防戦だ。なぜだかジースは結構必死に踏んでいる。 スケキヨとしては足を踏まれるなんてどうということはない、むしろジースのヤキモチ焼きな面を見れて嬉しいくらいだ。いや、さりげなく結構痛いが余裕の笑顔は崩さない。 「うん、凄く美味しい。良い香りだね、さすがルアくんのチョイスだ」 頭を撫でる大人の余裕。 「二人とも仲良しね!」 「仲良くねーし!」 声を張り上げるも、エスターテのきょとんとした顔に面食らったジースは、嫌というわけではないなどと、しどろもどろになる。 スケキヨは微笑みを崩さない。ルアがくすくすと笑う。エスターテすら、はにかむように笑っている。 「な、何でもねぇ! こっち見んな!」 顔が赤い。 そうして時は過ぎ去り。やがて夜を迎えた。 親友と一緒のお風呂。アヒルを浮かべ、背中を流し合う。後はぽかぽかのままぐっすり寝るだけだ。 ルアが枕等の用意をする為に寝室に向かった時、ジースはようやく想いを口にすることが出来た。 「2人とも来てくれてありがとな。元気が無いから心配だったんだ」 スケキヨも想う。きっとルアにとっても大きくて辛い事だったに違いないと。 その痛みや苦しみは、きっとルアにしか分からないのだろうと。 彼自身の前で泣いてくれても良いのだが、少女の心は複雑だということをスケキヨは知っていた。 だから彼は今日も気づかないフリで、いつも通りの笑顔を崩さなかった。 夜半。ふかふかのベッドで手を繋ぐ二人の少女は、ずっと眠れずに居た。 「エスターテちゃん、ありがとなの」 きっとエスターテも起きていることがわかっていたから、ルアは小さく呟いた。 エスターテが手の平をぎゅっと強く握った。こつんと額がぶつかった。別に痛くはなかった。胸の中以外は―― あの日、痛みを、涙を分かち、それでも送り出してくれた親友の暖かな手の平に、脳裏を過ぎるあの時の出来事に、また涙がこぼれた。 二人の少女の青と緑の瞳から、一粒ずつで一人分。 スケキヨには見せられない弱い自分を、少しだけ、今だけでも預かって欲しかった。ルアはそう願った。 「……はい」 口に出していなかったはずだが、親友は小さく返事した。今だけなんて思ってもいなかったから微かに笑んだ。 痛みも涙も、笑顔も喜びも。分かち合おうと誓い合う。小指を結ぶ。日本の風習らしい。 これでやっと二人は眠ることが出来た。 人はずっと弱いままなのかもしれない。ジースが目指す拓真でさえ。ジースが帰った後に道場まで酒を飲み交わしに来た快でさえも。 それでも戦い続けるのだろう―― ●家族へ 二階建て庭付き一戸建て。ローンは残り10年。アークの任務でローンを短縮する子煩悩パパの名は高木京一。 十畳のリビングには大型の液晶テレビ。ソファーなんかもある。 それはどこにでもある一般的な光景とも言えるけれど、こんな世の中ではどこか貴重でまぶしい光景でもあった。 そんな当たり前に見える生活を、当たり前に見えるように支えているのが、京一という男だ。 そんな彼だから休みの日の家族サービスも欠かさない。妻子にはお出かけして頂いて、掃除洗濯夕食の準備と良いパパを頑張ってしまう。 奥さんにはいつも家事を任せきりでもあるのだから、こんな日ぐらいお安いご用だ。それに彼とて平素は多忙。こんな時ぐらいにしか、やってあげられることもないのである。 そろそろ夕食を作る時間も迫ってきている。てきぱきとどんどん片付けて行こう。まだまだやることは沢山残っている。 こちら電話に向かって中国語を話しているのはタオである。実家に手紙は書いているが、たまには声を聞かせてあげたいと思ったのだ。 以下はアーク職員による翻訳の成果である。 「あっ、パーパ?」 「……楽しいよー。面白い人も沢山居るし!」 いよいよ異世界にまで足を踏み入れた組織は、そうそうない。 これだから止められないのだ。 「うん……色んな人に出会った。 これから長く仕えたいと思える人も、出来たんだよ」 時村の親父様である。 (……最初はご飯のためだけでしたけど、最近は違います。不思議デスね……) 父と貴樹、どちらにも元気で居て欲しいというのは、二人には内緒だけれど…… アリアの部屋にはぬいぐるみが沢山居る。くまも、うさぎも、ねこも、ぶたも、かるがもも。 寂しいからではないと彼女は言う。かわいいからなのだ。子供らしさは残るが彼女は秀才中の秀才。スタイルも抜群である。 彼女はついこの間もゲームセンターから新しい仲間を連れ帰った。 「今日からお世話になるテトランダー・ダルムハイド・ブリジットフォンクス・アルセデス・フィフィ・バッテンベルグ、略してフィーなのだ。みんなよろしくするのだぞ!」 彼等にとってすわり心地がいいように、綺麗に並べなおす。 そして離れて暮らす父母へ向けて写真を撮る。可愛らしい一枚だ。早速メールを送信する。お手の物だ。 『パパ、ママ、今日は新しい仲間が増えたの……ました』 と。かわいい仲間と、明日もまた頑張るのだ。 シンプルで飾り気のない部屋。こんな部屋こそ口数の少ない実直なロシア男に相応しい。 チェアに座り込むのは作業着を着込んだウラジミールだ。銃を解体し、磨いて整備している。 鑢等の小道具を使って黙々と丁寧に磨き上げ、バランスを確認しながらてきぱきと作業して行く様は美しさすら感じられる。 弾を込め、抜き打ちの動作を試みる一連の流れを、これまでこの男は何度繰り返してきたのだろう。 次にナイフを調える。こちらも毎日の作業の中で流れるように行われる。 これが終われば葉巻の時間だ。心休まるゆったりとした、だけどそれほど長くもないひととき。 その後にもカチリカチリと時が刻まれるようにロシヤーネも動き出す。 シチューとウォッカの昼食を取り。 「午後からは出かけるとするかね」 いつもの軍服を着こんで、何かへ向けるように一人ごちる。 一瞥した視線の先は一枚の写真。そこに写るセピア色の故郷、セピア色の家族達は、今は彼の心の中だけに居るのだった―― こちらの部屋もモノが多い部屋だ。決して汚いわけではない。趣味人の部屋である。 沢山の古いレコードに、ドクロをモチーフにした雑貨。大好きなアーティストのポスターに、大好きな人からもらったお洒落なキャスケット帽。職人が丹精篭めた一点物だ。 そんな部屋の中でプレインフェザーは部屋の隅にある机に向かって手紙をしたためている。あて先は故郷の家族だ。 パパ、ママ、オヤジ、父さん、それからババアと兄さんと兄さん。 あたしはアークの仕事にも、日本にも慣れてきて、割と元気。 色々ありすぎて話題に迷う位。 他にも沢山初めての経験はしたけど、中でも―― 筆が止まる。移ろう視線の先には、大切なあの帽子。 「《好きな人》ね…さて、どう説明しよう」 少女は再び書きかけの手紙に視線を落とす。 やっぱり色々ありすぎて説明しづらいや。今度帰った時に話すよ。 その時は、会ってみて欲しい人を連れてくかもしれないけど―― ●なのはな荘 ここは503号室。 (今日はお姉さまも出かけているし……お姉さまの部屋に侵入するには絶好のチャンスだわ……!) とてもお見せできないゲス顔ダブルピースをキメているのは久嶺である。薄暗い部屋も暗視でばっちり。宝箱(紅葉のタンス)を漁るのだ。 と、頭ががっしり掴まれ、タンスの引き出しにガッ! 「ガハッ!?」 すげえ痛そうである。 「き、貴様…なぜここに…!?」 振り返ればヘクスの姿。 「なぜ、ここにいるかですか、そうですね。簡単に説明してあげましょう。ここはヘクスの家でもあるからです。簡単ですね」 そりゃそうだ。 「くそっ、諦めて堪るか! アンタを倒してお宝を手に入れるのよぉおー!」 「ヘクスを倒す? いい度胸です鉄壁打ち砕いて見せてくださいよ」 騒音、爆音、殴打音。 「はっ、しまった、そろそろお姉さまが帰ってくるわ……!?」 「どうしたんですか、お宝を手に入れるんでしょう? もう一度顔を埋めてはどうですか?」 紅葉が病院から帰宅すると、なんだか妹と親友がどったんばったんしているではないか。 「えっと、久嶺にヘクス……どうかしたのですか? 喧嘩は駄目ですよ?」 「あ、紅葉! 喧嘩ではありませんよ。ちょっと久嶺が寝ぼけて箪笥に首を突っ込んでいただけなので。えぇ」 「箪笥に……大丈夫ですか?」 双子の姉に顔を覗き込まれ、戦利品(下着)を後ろ手に隠す久嶺。 「あ、あはは、お姉さま、お帰りなさい!」 「あ、洗濯物が残っていましたか? ありがとう久嶺」 ヤンデレ妹、お宝獲得失敗の巻。 「そうだ……わたくしの怪我もそろそろ良いですし、今晩は少し奮発致しましょう。きっとお腹が空いているから喧嘩してしまうのです」 こちらも『なのはな荘』にある一室。 今日も今日とて友哉、小梢、香夏子の三名はごろごろダラダラとしている。とりあえず三名のうち誰かの部屋だ。 「あー、今日も一日だらだら日和だねー」 この三名は通称ダリィーズならばこんな様子も致し方ない。足をダバダバしたり転がるのも面倒くさい、動きたくない。 なんかもう動く時はカレーを食う時だけである。 なんだか上のほうの階が騒がしかったが、美味しい匂いが漂い始めたものだからお腹もすいてきた。というわけで台所のカレー食べに行く時でさえ転がりながら向かうのだ。 暇そうだって? いや、彼等は暇じゃない。今日も部屋で一日ごろごろする予定が詰まっているのだ。だから掃除なんて出来ない。 そんな所に乱入するのは腕鍛だ。流石ダリィーズ、鍵だってかかってない。はーいと一声お掃除開始、なぜかぽいぽいと投げつけられる洗濯物も手際よく回収していく。 「え? 部屋の掃除ですか? ご苦労様で……」 等と述べていると、コロコロと部屋の隅に転がされていく。 そんなこんなでアーリィも参上である。ただでさえ散らかっている上にダリィーズが手ずから掃除をするとは思えない。彼女等がなさねばもうなんか大変な事になりそうだから頑張るのだ。 本当はルーメリアと共に来ようと思ったのだが、姿が見えないようだから仕方ない。野球でもしに行ってしまったのだろうか。兎も角せっせと片付けをしていく。 さて『下着を回収する男』腕鍛、ブラもパンツも手洗い等と考え『にはは』と笑うが、小梢はお構いなしに下着を投げつける。もうなんか洗ってもらえるならなんでもいいのだ。 とある事情から紐パンを預かっていたのだが、掃除ついでにこっそりと混ぜておく。 「違うでござる。本当に貰っていたもので……何故拙者ももらえたか今でも謎で……」 なぜか繰り広げられる必死な弁解に答えるのも面倒そうなダリィーズ。どうやら事なきを得たようである。 そんな中でも掃除を続けるアーリィが埃を払った謎の色紙にはスタラユーイと書かれていた。 ●エンジェル来訪 団地にある質素な部屋。 簡素なベッドに本棚が置かれ、カルナや友人達との写真が並んでいる。そこはたった今くしゃみした悠里の部屋。目に入ったのは薔薇園の時の写真だ。 カルナにとっては初めて呼ばれた恋人の部屋でもある。きょろきょろとはしないように、だけどしっかり見ておきたい。 なぜか隣には一緒に誘われたエスターテも居り、なんだか折角、初のお呼ばれなのに他の子も居るというのは微妙な気持ちもしてしまうのだが―― 部屋に立ち込めた甘い香りは、悠里手製のクッキーの物である。カルナは甘いものが好きだし、エスターテにも振舞うと約束していたし、良い機会だと思ったのだ。 それに恋人同士とはいえ、初めての訪問であれば第三者が居たほうが入りやすく招きやすいという心理もあったのかもしれない。 「はい、二人共どうぞ」 椅子に座ったカルナとエスターテの前に、甘く香るクッキーと紅茶が運ばれてくる。悠里自身、それなりには美味しく焼けたと自負しているものだ。 三人で一緒に頂く静かな時間。カルナにとっては、どことなく緊張している桃色の髪の少女とは、こうして話すのは初めてだった。 ゆっくりと刻まれる時の中で、他愛もない話をしながら甘い物を頂いていると、少しずつ表情も和らいで行くというもの。これを機会に仲良くなれればとカルナは想う。 流石にしっかりと硬くなったけれども、まだどこかほんのり暖かいクッキーはとても美味しかったようだ。 「まだあるから遠慮無く食べてね」 悠里もそんな様子を見ていると、次も頑張ろうと思えるのだ。 ●あれ、あのあと、どうなったん? どれくらいの時間が過ぎたのだろう。夏栖斗が薄っすらと目を開く。 眼前では彼女がゼリーを食べている。結構美味しいらしい。よかった。 「アバンギャルドな歓迎痛み入るけど、ご機嫌いかが?」 椅子に後ろ手で拘束されたままの御対面。いつも通りだ。まだ動揺する程ではない。 「貴方、いつも同じ手に掛かるけれど楽しんでいるでしょう」 くすりと微笑みながら、こじりはゼリーを口に運ぶ。甘酸っぱい。 「こじりー、あーん」 「はい、あーん」 ものほしそうな彼氏に匙の上のゼリーを近づける。べちょ。空を噛む夏栖斗の口。ぬれる頬。 「全くこの子は、粗相ばかりするのだから……」 頬をぺろり。果物の味がする。 「こじりさま、この哀れな雄犬に施しを与えてください」 微かに首をかしげたこじりは、何を思ったか夏栖斗の膝に乗る。 いつも通りだ、まだいつも通りだ、余裕だ。 「その前に何して遊びましょうか……?」 艶やかな笑み、腿を這う白い指先―― 『はい、カットー!』 『どんなプレ……日常なんですか、コレ』 『いや……何もないと思いますよ。ほら、彼、それで有名ですし』 『アウトー! とにかくカットー!』 ●朝のひととき 朝のランニングを終えた龍治が部屋に戻ると、モル枕を抱き込んだまま寝ている恋人の姿が彼の隻眼に飛び込んでくる。 美しい肢体が良く見える。つまり―― 「……また布団を蹴飛ばしているな」 そろそろ夏ではあるが、朝早ければ肌寒い日も多い。 「む、む、もう朝か……」 木蓮はうっすらと目を開けるが、もう少し……といつまで寝ているつもりなのだろうか。 「こら、いい加減起きんか」 髪をわしわししてしまう。 「えっ、あっ、おはよう!」 危ない所だった、今日は平日ではないか。 それにしても、改めて見渡せば彼女の私物が恋人の部屋に少しずつ溶け込んでいることに気付かされる。 「なんか嬉しくなるぜ」 ぽつりと呟く。龍治は余り部屋に頓着するタイプではないが。 「言われてみれば、随分とお前の匂いが増えた気がする」 「よーし、今度は龍治が俺様の部屋に来いよ、和室で広いんだぜ!」 「ふむ、そちらの部屋には行った事がないか」 「モルだらけだけどな」 「モルだらけ……まあ、想像はつく」 しばし朝の忙しない時が刻まれ、着替えを終えた木蓮が姿を見せる。 「そんじゃ俺様は戻って学校と店の準備でもしてくるか。また後でな、龍治!」 くすりと笑いながらの口付け。表情は崩さずとも、頬に熱は篭る。 「……ああ、行ってこい」 見送る龍治は汗を流しに風呂へと向かった。 今日も一日が始まり、映像はそこで途切れる―― |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|