●元フルメタルフレーム07号、七栄 私は七栄。 フルメタルフレーム改造計画によって生み出された七番目の実験体である。 私を改造した松戸助六博士によれば、元は一般人であった少女をメタルフレームに強制フィクサード化。更に母体となるフルメタルフレームから機械化浸食をうけることにより、ボディの八割近くを機械化することに成功したと聞く。その際あらゆる記憶・感情・人格がリセットされ完全な機械人形になるよう調整がかけられており、私は晴れて機械人間兵器……フルメタルフレーム・七栄となった。 そうして私は幾つかの調整や試験を終え、実際的な性能を試すべくリベリスタ組織『ひまわり子供会』を襲撃する任務を帯びた。 だがしかし、途中でアークのリベリスタに遭遇。データ同様かそれ以上の戦闘力で撃破された。その時何を思ったか私は『仲間を庇って』自爆し、ギリギリ残ったパーツを回収、捕獲されたのだ。 その上にだ。損傷した肉体は取り戻したものの、回復の段階でただのメタルフレームに戻ってしまったこの事実。 憎きアーク。この恨みを晴らすべく日夜トレーニングを重ねいつかは彼らをぎゃふんと……。 「七栄おねーちゃん見て見て、にがおえ描いたのー!」 三歳ほどの幼子が、クレヨン画を掲げて見せてきた。 所々左右反転したひらがなで『ななえおねーちゃん』とも書かれている。 が、スケッチブックに描画されているのは黄色と肌色と灰色が入り混じった奇天烈なアートである。 私は自らのプライドを傷つけられたと察し、即座に幼子を処理することに決めた。 おもむろに立ち上がる。 「はい、わかったからもうお昼寝しましょうね」 「えーでもお絵かき……」 「目が覚めたらお姉ちゃんが付き合ってあげるから」 「本当!? 今!?」 「お昼寝の後で」 「えー……」 幼子を抱え上げ、十数枚のお布団が並べられた部屋へと移動。肉体組織を破壊しないよう細心の注意を払って布団の中へ入れる。 そして脳内に最近記録された子守唄を口ずさみながら、ゆっくりとお腹の辺りを(やはり肉体組織を破壊しないように注意を払って)ぽんぽんと叩いてやった。 やがて寝息が聞こえてくる。 私は元フルメタルフレーム07号、七栄。 どういうわけか『ひまわり子供会』に預けられている。 そしてまたどういうわけか、私はリベリスタ化したらしい。 ●アーク、ブリーフィングルームにて……。 ここまで『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明を聞いたリベリスタ達は、各々口をポカーンと開いていた。 「え……リベリスタ化したの?」 「はい。その上『ただの』メタルフレームになったようです」 「それで……子供会に預けられてるの?」 「精力的に保母の仕事をしているそうです」 「何のトレーニング重ねてるんだよ……」 一通り状況を理解したリベリスタ達。 が、この程度のことで態々依頼が組まれるわけがない。まさか子供会に遊びに行って来いとは言われまい。 「で、どんな問題が起こったんだ、そこで」 「はい……七栄を回収するため、松戸研究所から二体のフルメタルフレームが派遣されるんです」 過去の報告によれば、研究所で生まれたフルメタルフレームは全部で八体。 その内のどれが選ばれるかにもよるが、当時アークのリベリスタたちと互角に渡り合った彼らが来るとなれば激戦は必至だろう。 「予め『ひまわり子供会』におもむき、この組織を守ってあげて下さい」 ●フルメタルフレーム06号、六実。02号、二和。 『千葉ミルフィーユ』は千葉という地名がそのまま千の葉っぱ(ミルフィーユ)になると言うことで作られた実に千葉らしいアバウトなお菓子である。 しかしアバウトながらしっかり美味しく仕上げてくるのが千葉の民の素質というもので、お土産には大変喜ばれるのだ。 「因って、お土産はこの落花生最中を推奨します」 「さっきの話を聞いていなかったんですか? え?」 無表情でお菓子箱を持ち上げるフルメタルフレーム02号、二和。 腹部にタッチ式ノートパッドを仕込み、右腕にキーボード、左腕にタッチディスプレイを仕込んでいるというフィクサードであり、回復スキルに特化している。 「だから千葉ミルフィーユにしましょうと再三述べたじゃないですか。当分濃度やサックリとした歯ごたえからしてスピード型の七栄さんには最適だと」 向かい合うようにしてお菓子箱を持ち上げるフルメタルフレーム06号、六実。 頭部にパラボナアンテナを被り、メガネを透明型ディスプレイにし、九本の指にICチップを仕込んでいる(右手の小指は体温計)という、味方強化スキルに特化したフィクサードである。 ゆっくりと首を振る二和。 「あなたは何も分かっていない。千葉に生まれたからには地元の巨大落花生の味を知らないわけがありません。このシルエットをみて望郷気分に浸り、尚且つ中に含まれる落花生クリームの味で千葉に生まれた幸せをかみしめる。仲間から離され孤独に震えている筈の七栄さんを慰めるにはこれ以外にありません」 「……分かりました。そこまで言うなら、両方詰合せて貰うじゃありませんか!」 腕まくりをしてレジに持っていく二人。詰め合わせは無理だと言われて再度口論になるのは目に見えていた。 二時間後。 「七栄さんが捕らわれているというのは、この『くぬぎ山幼稚園跡』で間違いありませんね?」 「肯定。リベリスタ組織『ひまわり子供会』の潜伏場所とも言われています」 二人はお菓子箱が二つ入った紙袋を下げ、京成線くぬぎ山駅の階段を下りていた。 目的地はここから徒歩数分も無い場所にある。 「リベリスタ組織と言うことは……間違いなく迎撃される可能性がありますね」 「肯定。この情報を掴んだアークが待ち構えている可能性もあります」 「支援型の私達二人がまともに戦って勝てるとは到底思えませんね……六道の兵隊達に連絡を取りましょう」 「研究所の通常メタルフレームたちですか? あまり強さは見込めませんが」 「数さえそろえば何とかなるでしょう。どんな待ち伏せをしているかは分かりませんし、データにある様な『一見好意的なフリ』をしてくる可能性もあります。彼等の演技力は高いと言われていますから、何を言われても騙されてはいけませんよ」 「肯定。七栄に扮した偽物を用意している可能性も否定できません。まずはリベリスタを一斉攻撃。その後で調査をかけるようにしましょう」 「完璧ですね。この任務、必ず遂行させましょう。ふふふ」 「ふふふ……」 薄笑いを浮かべて歩く彼女達を、駅前のタバコ屋さんが怪訝な眼差しで振り返った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月30日(土)00:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●アークを憎むリベリスタ 千葉県は鎌ヶ谷市くぬぎ山。 六道の松戸研究所によって開発されたフルメタルフレームが他のメタルフレームたちと合流している前後。 戦場となる筈のくぬぎ山幼稚園跡にはアークのリベリスタ達が到着していた。 「よう七栄、いつぞやぶりだな」 そう言って紙袋を無造作に突き出す『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)。 受け取ってみると、中身は千葉半立だった。要約するととても美味しいピーナッツである。 元フルメタルフレーム07号・七栄。 現在は所属不明のリベリスタ・メタルフレーム・七栄。 彼女は世にも複雑な顔をして紙袋を受け取った。 「くっ、どうもご丁寧に……アーク、一体何をしに来たの。私を解体して情報を抜き取ろうと言うなら無駄よ」 「いや、そう言う訳じゃない」 子供ながらに老けた首の振り方をする福松。 その横で、『フォートプリンセス』セルマ・アルメイア(BNE003886)が早口で自己主張を始めた。 「フルメタだかハリボテだか知らないけど落花生とミルフィーユの二択とか千葉への愛が足りないね! このセルマちゃんを満足させるには最低限アサリ関連商品かさんが焼きもしくはジンギスカン並びにソフトクリームでも持ってくる事さね! 何? 分からないモノがある? アンタそれじゃあ千葉県民失格だよ!? だよね!? あっお土産はBBQ弁当とチャーシュー弁当だから、あと房総サイダーだから!」 「……誰、この人は。お土産屋さんのひと?」 「……残念ながら仲間だ」 「何が残念か!?」 何処までもテンションが上がって行くセルマをぐいぐいと場外に押し出す福松。 入れ違いに、『機械仕掛けの戦乙女』ミーシャ・レガート・ワイズマン(BNE002999)が『きをつけ』の姿勢で七栄に頭を下げた。独特なヘルメットがカクンと傾いて眼鏡に当たる。 そして、落花生パイの箱を紙袋から出して両手で突きだした。 「どうも初めまして、今回はですね……」 話すと長くなるので割愛するが、ミーシャはことのあらましと自分たちの目的について説明した。 複雑そうな顔で、『頷く』と『傾げる』の中間くらいの仕草をする七栄。 「要するに私の回収が目的と……ならなぜ直接私に通信を入れて来ないんでしょう。ジャムられたのかしら」 「それは分かりませんが。あっ、それより、七栄さんをお姉さまって呼んでもいいですか?」 「おねっ……お断りよ! 誰がアークを妹分になんかするもんですか!」 「ええっ、そんな! いいじゃないですかメタフレ同士経験(レベル)も上なんですから」 「経験(データ)だけよ、実経験は一年も無いんだから! ちょっと、離して!」 「そう言わずにー!」 ミーシャをずるずると引きづりながら振り返る七栄。 すると。 「よーしよし、お兄さんが遊んでやるぞぉ」 「ハゲだ! はげのオッサンだ!」 「おい誰がオッサンだハゲはともかく17歳の俺に向かってだな」 「オッサンオッサン! ハゲおっさん!」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の頭がドラムよろしく連打されていた。 「あ、あの……すみません」 保護者らしきリベリスタの女性が頭を下げてくる。 フツはニヒルに指を振った。 「いいってころよ、ぺちぺちされても起こらない温厚なオレ……あ、ここのリベリスタってどのくらい?」 「一応リベリスタですが……すみません、戦闘はあまり」 「だろうな。ええと……」 「あ、房野道子と言います。昔は『ここ』の出身で」 「へえ、そう……か」 フツはその時、ふと頭の中に古い(といっても一月ほど前の)記憶がよぎったが、その時は形にならずに消えた。 なぜなら子供達が容赦なくフツの頭を連打するからである。 「オッサンオッサン、ハゲのオッサン、きゅきゅっきゅきゅっきゅ」 DJ気取りでサングラスをぐりぐりし始めたので、フツは子供を抱えて急速に振り上げてみた。 「はっはっは、元気だなあ子供は。ホレ高い高い!」 そういうことをされると驚くのが子供である。 子供がばたばたとしていると、七栄が(ミーシャを引きずったまま)すっ飛んできた。 「やめなさいアーク! 子供達になにをするつもり! ……はっ、まさかアークお得意の非人道的な脳介入で洗脳するつもりね! そこに直りなさい、叩き切ってあげる!」 「おい待ていつからアークがそんな闇組織になったんだよ!」 「そんなこと言って、記憶を操作していのままに操るつもりでしょう!」 「うっ、微妙に合ってるからなんとも言え……んわけあるか! 戦闘のトラウマが残ってたらそいつを除去してやろうとだな」 手と首をぶんぶんと振るフツに、七栄は腕の折り畳み式クローを展開。 「言い訳は聞きませんっ。今日こそはアナタたちアークをぎゃふんと言わせて」 「『ぎゃふん』」 二人の間からにょきっと生えてきた『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が、奇妙なポーズでそう言った。 「て、言わせたかったんじゃね?」 「「…………」」 停止する二人。 タイミングが絶妙だったからか、突っ込むに突っ込めない様子だった。 ぼーっと微笑むような顔をするりりす。 「それよりさ、あっち見てやったら? イド君が困ってる」 『幼児の後ろ襟を片手で掴んで持ち上げる』というのは、動物的に言ってそこまで理不尽な抱き方ではないが、人間的にはあまりに酷い。 だがそうとも知らない『エンプティ』街野・イド(BNE003880)はむっつりとした『への字口』のまま、吊り下げた幼児をじっと見つめた。 「だぁ……」 「要求が理解できません」 「……だぁ」 「要求が理解できません」 「だぁ……」 「要求が」 「何をやってるのっ!」 (ミーシャとセルマと暇なりりすを引きずったまま)七栄がすっ飛んできて、イドから幼児を取り上げた。 「子供の抱き方はこうです。こう」 「…………I、模倣します」 近くで遊んでいた子供を同じように抱き上げるイド。力加減がおかしくて微妙にバランスが悪かったが、子供は何故か楽しそうな顔をした。 「最初のころの七栄ちゃんと一緒」 「……」 無表情で瞬きをするイド。 内容が理解できないと言う風に、子供の顔をまじまじと見た。 そんな彼女にすすっと寄ってくる『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)。 「そろそろ……向こうから攻めてくる時間じゃありませんか?」 へらっと笑うリンシード。 いつでも人を殺しそうな顔をしていて、とても不気味だった……が。 「お姉ちゃん遊ぼう、遊ぼう!」 子供からスカートを引っ張られ、キッと人間らしい顔でにらんだ。 「なにをするんですか……これだから子供は! 私は遊びませんよ」 「やだ」 「やだじゃありません……!」 やがて同じステージに立って言い争いを始める子供とリンシード。 そんな光景を横目に、『残念な』山田・珍粘(BNE002078)はじっと窓の外を見つめた。 「…………」 戦いの気配がすぐ近くまで来ている。 珍粘はそれを、己の肌で感じた。 ●後方支援型フルメタルフレーム、六実と二和 場面を切り替えることなく、現在。 窓の外を見ていた珍粘は、ゆっくりと施設前に横付けされたワンボックスカーを見つけた。 話し声が漏れ聞こえてくる。 「あ、どうもありがとうございます。ご丁寧に。車はすぐにどけますので、はい。近くに駐車場など……え、ここに停めても? どうもすみません、よろしかったらこれつまらない物ですが……」 向かいの梨園に車を入れ、ぺこぺこ頭を下げる二人のメタルフレームを発見。 先刻『戦いの気配を感じる』と述べてしまった所で申し訳ないが、どうやら彼女達がフルメタルフレーム六実と二和で間違いなさそうである。パラボナついてるし。 六実はマジックで『松戸』と書かれたメガホンを取り出すと、こちらに向けて喋り始める。 「えー、アーク・リベリスタの皆さん。我々は、アークに捕らわれたフルメタルフレーム07号・七栄を救いだすべく訪問しました。只今より30秒後に襲撃をかけますので、一般人の皆さんは屋内退避、もしくは避難をして下さい。えー、並びにご近所の皆さまには突然のことながら騒音等ご迷惑を――」 真面目に告知をし始めた。 珍粘はシリアス顔のまま、窓の外をじっと見つめた。 どういう顔で出て行こうか考える。 考えて……結局いつもの感じを選んだ。 「アーク・リベリスタ。那由他です。告示に応じて迎撃に参りました」 後に、相手方のデータベースに『アークのリベリスタ、那由他。本名は珍粘』と記録されていることを知って愕然とすることになるが、そこは割愛する。 こうして、さして広くもないくぬぎ山幼稚園跡の庭に松戸研究所のメタルフレームたちとアークのリベリスタ達がぎっしりと集うことになったのだった。 そして特にゴングも鳴らさず戦闘が始まったのだが。 「さして恨みは無いが相手になって貰うぞ、アーク!」 「来いよポンコツ。安心しろ、パーツはきっちりリサイクルしてやる」 福松のB-SSが炸裂し、突っ込んで行こうとした前衛メタルフレーム陣は全員いっぺんにのけ反った。 そこへ珍粘とリリスが容赦なく残影剣や多重残幻剣を浴びせ、スピードで負けていた彼らは可哀そうなくらいに手玉に取られることになった。 あまりに可哀そうなので詳細を述べること憚られるが、マトモに動けもせずに全員好き放題に苛め抜かれたとだけ述べておきたい。 「何かを守る戦い何て随分と久しぶりです。たまにはいい物ですね……ぞくぞくします」 耐久力だけはあるメタルフレームたちを散々弄びながら切り捨て、珍粘は自らの頬に手を当てた。 かと思えば、梨園で梨をかじっていたリンシードが背後から奇襲をかけて六実と二和に襲い掛かるのだが。 「後方、リベリスタ一体! 奇襲来ます!」 即座にリアクティブフィールドを展開した六実にばしっと攻撃を止められた。 「探知系には、相性悪いですね?」 にひゃっと笑うリンシード。しかしやはり速度に差があり過ぎるのか六実達は防戦一方と言う様子だった。何しろ後方支援型である。ろくな攻撃手段を持っていないようで、自らの身を守るのが精いっぱいらしい。 「……となると、俺の仕事がめっきり無くなってくるんだが」 建物の前に陣取って腕組みするフツ。 「どうしたもんかな。今日やったことが『子供に剥げ頭を叩かれる』しかなくなるぞ。それはいかん……」 とはいえない物はないので、しょうがなく別働隊に想いを馳せてみた。 今頃、裏口から非難した彼女達はどうなっているだろうか……と。 一方その頃。 「これで全員か!? 全員乗ったな!? よぉし車出してくれ!」 セルマが子供達をトラックに詰め込み、扉をしっかりと閉めた。 運転は大人たちに任せればよい。勝手に避難して貰えるならそれに越したことはない。 閉まる直前、荷台に滑り込むイド。 「七栄には相手から見える位置に待機してもらいましょう。七栄の姿を視認して戦闘して見せれば、こちらのトラックを追わない筈です」 「否定(ネガティブ)。そちらの説明が本当なら、リベリスタ化した私を見て偽物だと判断する筈よ。残念ながら、証明する手段はないの。FMFではなくなってしまったしね」 「……では、なぜここに?」 「もし彼らがトラックを追って来たなら、足止めになれるから」 「あまり積極的に賛成したくないですけど……子供達を安全に逃がせるなら」 深く考える仕草をするミーシャ。 その時、子供の一人がこう言った。 「忘れ物をしちゃったの、戻っちゃだめ?」 ●『メタルサイエンティスト』松戸助六 戦闘は思いのほか手早く終了した。 歯応えらしい歯応えも無く、メタルフレームたちはバタバタと倒れ、下っ端らしき彼らは早くも撤退体勢に入っていた。 「私達はどうしましょう」 「アークに捕まったら非人道的な拷問や神秘解体が待っている筈です。牽制射撃をしつつ撤退するのが吉かと」 「自爆はできるだけしたくないですね。最初のころは楽でしたが、とても痛いですし」 「死ぬほど痛いですからね」 などと小声で話していると、ミーシャやイド達が出口を塞ぐようにして到着した。避難場所からここまでの距離をどうやって縮めて来たかについては、想像に任せたい。自転車を超高速で漕ぐ想像をして楽しんでも良い。 「お待たせしました! メタルヴァルキリーズ広報担当ミーシャ、交戦します!」 えいやーと言いながら二和の背中にショルダータックルを叩き込むミーシャ。 「平和な千葉を荒らす悪党へ正義の鉄槌、セルマちゃんナッコォ!」 ワンテンポ遅れて(あまり効かなかったが)全力のパンチを叩き込むセルマ。 もうワンテンポ遅れてイドと七栄が到着。交戦状態に入った。 完全に囲まれた六実と二和は軽く手を上げる。 「後が無くなりましたが……」 どこからかダガーを抜いて慎重に構えるイド。 「武装解除の上でなら対話を認めます。七栄がリベリスタ化したなら、貴方たちにも理解できる筈です」 「七栄さんがリベリスタ化ですって!? 冗談じゃありません、誰がそんな嘘――」 「別に逃げてもいいぞ」 それまでやることが無かったフツがここぞとばかりに前へ出てきた。 非武装の両手を翳して見せる。 「別に追い詰めて捕まえるつもりはない」 「リベリスタは優しいので、見逃してあげますよ。今度はお土産持って、武器置いて、来て下さいね?」 フツの背後からちらりと顔を覗かせるリンシード。 すると、二和のお腹に組み込まれたディスプレイが起動した。 『いや、武器を置いていくわけにはいかんのう』 松戸助六。 フルメタルフレームを開発した男だと名乗り、彼はリベリスタ達に顔を見せた。 口調の割には若く、二十台後半といった様子である。ひまわり子供会の大人リベリスタと同年代だろう。 二和がお腹当たりのシャツを捲り上げたままキープしているので、どこかフェチズムのある光景だったが、フツはあえてそれを飲込んだ。 「武装解除ができないってのは、どういう意味だ?」 『ちょい待ち、その前に……フムフム。そこに居る七栄は本物らしいのう。リベ化したか。機械浸食もなくなっとるし』 「…………」 静かに瞠目する六実と二和。助六は彼女等を無視して話を続けた。 『ワシの目的はむしろ子供会そのものじゃったから、七栄が帰りたくないならそれでもかまわん。かわいい子には旅をさせろと言うしのう』 「ね、僕もやわこい方がむひむひしやすくて好き」 「りりすお前ちょっと黙ってろ」 『というか七栄、そっちで第二の太陽は見たか?』 「……何のことです、博士?」 『分からんならいい。あ、研究所は引き払っとるから、今から位置特定しても無駄じゃよ。うちの子らをこれ以上パクられても胸が痛むから、先に言っとく。他に聞きたいことは?』 コンコン、と剣の柄を叩く珍粘。 「ホワイトマンについて何か」 『何かってまた漠然としとるのう。奴のオリジナルなら保管と研究の交換条件で預かっとるけど、詳しいことをワシから話すわけにはいかん。うちの子らも知らんしな。あ、Sメモはかけるなよ、フリじゃないから。かけるなよ』 「そうか……まあ、今はそれでいい。帰っていいぞ」 銃を下げて手を振る福松。 二和たちは恐る恐る後ずさりながら、残っていた車に乗り込んだ。 「ええとこういう時は何を言うんでしたっけ」 「分かっています。『覚えて居なさいアーク、次こそは必ず貴方達を倒します』! では、お疲れ様でした!」 どこまでも気の抜ける挨拶をしてから、彼女達は車で走り去ったのだった。 車の音が聞こえなくなった頃、イドは傷一つない建物を見上げた。 「『第二の太陽』……聞きなれない言葉です」 「そうだな……そうか……」 曖昧に頷く福松。 「病院もなんも必要なかったね。よかった……のかな? ちょっと分かんないけど」 電話機をぷらぷらとさせるりりす。 色々なものを後回しにして、今日という日が終わろうとしている。 未来にやってくる『何か』を待つように、りりすはそっと目を閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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