●理不尽は空より降る 生温い風が、真夜中のオフィス街を音を立てながら吹き抜けていく。長い黒髪がそれに乱されるのにも構わず、寿子は何時も通り屋上のフェンスの上に立った。すっと目を閉じる。全身を弛緩させると、彼女は宙を舞った。 ――どすん。 重い音が地上に響くのと、その場を通り掛かった女性の悲鳴が迸ったのはほぼ同時だった。 だが、その悲鳴はすぐに収まった。女性の顔に疑問の表情が浮かぶ。僅かの間考え込むと、彼女は恐る恐る寿子の元へと歩み寄った。 寿子の体には、傷ひとつ付いていなかった。 女性が空を見上げる。寿子が足場としていたのは、とある会社の自社ビルである七階建てのビルの屋上。そこから飛び降りたなら、死に至る可能性が極めて高い――そう、普通の人間であれば。 その時、寿子の身体がぴくりと動いた。驚きながらも、女性は寿子に大丈夫ですかと声を掛けようとして―― その頭部が、消し飛んだ。 「……何見てんのよ」 寿子が唸る様に言う。拳を強く握りしめると、彼女は女性の亡骸を蹴飛ばした。 「くそっ、くそっ、くそっ」 ぎり、と歯が鳴った。 「まだ死ねないの、あたし……!」 吐き捨てて、女性の亡骸に背を向ける。そして、今しがた飛び降りたビルの中へと消えていった。 ●憤怒に囚われて 「……理不尽」 溜息と共に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がぽつりと呟く。手元の機械を操作してモニターの電源を落とすと、彼女はリベリスタ達へと視線を向けた。 「今回の敵の名前は、寿子(ひさこ)。フェーズ2のノーフェイス」 「ノーフェイス? エリューション・アンデッドじゃ無いのか?」 リベリスタの問いに、イヴはふるふると首を振った。 「ノーフェイス。革醒した事で、非常に強靭な肉体を手に入れたの。だから、飛び降りても死なないみたいね」 言いながら、彼女が資料を配る。それに、リベリスタ達は目を落した。 「死にたがりの彼女が力を手に入れて、神に見放されたというのは、皮肉めいたものを感じる、かも」 色の無い声で告げながら、イヴは手元の資料を指先で弄んだ。 寿子が革醒したのは、彼女の精神が追いつめられている時の事だった。それにより力を得た彼女だったが、しかしその精神が救われる事は無かった。 彼女のかつての勤め先であったビルの屋上。そこから身を投げた彼女だったが、彼女は死ねなかった。 死ぬどころか傷ひとつ付かなかった自らの肉体に、彼女は憤怒した。何故憤怒したのか理由は不明だが、ともかくそれからというもの彼女はその屋上から身を投げ、そしてその度に傷の付かない肉体に憤怒する――というサイクルを繰り返す様になったのだ。 「……今までよく騒ぎにならなかったな」 リベリスタが、呆れた様に吐き出す。イヴは左右色の違う瞳を彼に向けた。 「彼女はその行為に至る事自体を恥じていたみたい。だから、資料にもあるけれど、実行に移すのは数日置きだったし、時間帯は何時も深夜。現場の周囲はちょっとしたオフィス街で、夜ともなれば人通りは殆ど無くなる。少なくとも、彼女の行為に気付いた人は居ない――例の、女性以外は」 周囲に行為に勘付きそうな人が居ないかどうかを確かめている節もある。そう、資料には併記されていた。 「不運だな……。で、今回の仕事はその女性を助けつつ寿子とやらを倒す、で良いのか?」 「理解が早くて助かるわ。だけど――当然と言うべきか、一筋縄ではいかないわよ」 先程告げられた寿子のフェーズは2。だが、それは限りなく3に近いものだという。 「何の対策も無いまま臨めば、全滅も有り得るわ。皆は、そうはならないと思うけれど」 全滅という単語に、リベリスタの間から息を呑む音が聞こえた。 資料を仕舞いこむと、イヴはリベリスタ達を見回した。 「フィクサードであれば、まだ救いの道もあったかも知れない。けれど、寿子はノーフェイス。そんなものは、ない」 運命は、変えられない。色の薄い彼女の顔に、微かに悲しみの色が差した。 「厳しい戦いになると思う。皆も無事では済まないかも知れない。それでも、寿子の為にも――お願い出来るかしら」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:高峰ユズハ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月28日(土)22:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●寿子包囲網 真夜中のオフィス街を、一羽の梟が舞う。優雅に円を描くそれの下、現場となるオフィスビルの屋上に、寿子の姿はあった。 周囲に人の気配は無い。吹き抜ける風に乱れる髪を整える事もせず、寿子はフェンスに指を掛けた。 「今日こそ――」 小さく呟いて、地上へと視線を落とす。 「今日こそ、死んでみせる」 瞳には、狂気が滲んでいた。 『魔眼』門真 螢衣(BNE001036)は、五感を共有する梟の眼を通してそれを見ていた。まだ動き出す時ではない。仲間達にそう伝えると、彼女は監視を続行した。 現場に到着後、リベリスタ達は『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が絞り込んだ寿子の着地予測地点を中心に戦場を整えた。 ビル前を走る道路上には、『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)と雪白 桐(BNE000185)により『ガス管工事中』の看板やカラーコーンが設置されている。更に『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)が強結界を、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が結界を展開。一般人が現れる可能性を大幅に減少させていた。 現在リベリスタ達は、ビル付近の物陰やビルの壁際に潜伏している。暗色の服を纏う、気配を絶つ、死角に潜む。寿子に勘付かれぬ為の対策は概ね功を奏している――当の寿子の様子からそう結論付けながら、彼等は開戦の時をじっと待った。 (じれったいな……) 上空を見上げる『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)が苦笑した。 望遠かつ暗視能力を持つ彼であったが、寿子の姿はビルに阻まれ確認出来ない。頼れるのは螢衣からの情報のみ。彼は微かな焦燥を呑み込んだ。 (――彼女にとっては、死こそが救いなのだろうか) 同様に屋上へと視線を向ける『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)の胸に、苦いものが滲む。 (どういう事情があって、この道を選んだのかは解らない。だが……本当に、それで良いのか) 脳裏にイヴの言葉が蘇った。救いの道など無い。寿子の望みがどうあれ、やらなければならない。彼は唇を固く結んだ。 (何を、不幸だと感じてるのか、知らないし興味も無い、けど……もっと、悲惨な人は一杯いる、なんて言葉は通じないんだろう、な) 気配を完全に絶った状態で集中を繰り返しながら、天乃は溜息を吐いた。 (不幸だって、思い込んでる人に……そうじゃない、って諭しても意味が無い。だから、怒ってあげない) 色の薄い瞳の下で、彼女は決意を固めた。 (しかし、死ぬ為に飛び降りるとか。態々そんなに頑張らなくても……ねぇ?) 人生なんてモノは緩慢な自殺に他ならないというのに。幼い顔立ちに似合わぬ思考を巡らせながら、『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は肩を竦めた。 (正直、僕の好みからは外れるかも知れないけど――まあ良い、歯応えくらいはあるだろうから) その時、螢衣が合図を出した。『舞い散る花雨』桜月 零音(BNE000244)が屋上へと視線を走らせる。その先に、屋上の縁に立つ人影があった。 (あれが――) アークで見た情報とその姿が重なる。零音は息を呑んだ。 ●殺し間に、ようこそ 屋上の縁に佇む寿子の表情に色は無い。幾度となく繰り返してきたそれに、彼女は最早何の感慨も抱いていなかった。 (今日こそ、上手くいくはず) 期待を滲ませると、彼女は目を閉じ全身を弛緩させた。 モニカが機械化された右目で落下予測地点へと狙いを引き絞ったのは、それと同時だった。 (落下前なら憤怒状態は発動せず、落下中はほぼ無防備状態、力学的にも威力の倍増が見込める――まさに至れり尽くせりですね) 研ぎ澄まされた感覚の下で、表情を変えず思う。その横で、桐は巨大剣の柄を握り締めた。 (もう少し、もう少し――) 逸る気を抑えながら繰り返す。集中に集中を重ねた彼の瞳には、寿子の落下が緩慢なものに見えた。心臓の鼓動すら耳に入らぬ程の緊張。そしてその果てに―― 「――今ですっ!」 彼は、一気に踏み出した。 それは、完全なる不意打ちだった。 桐と拓真の斬撃、モニカの射撃、天乃の気糸、瑠琵の呪印、雷音の鴉。ほぼ同時に放たれた攻撃は、地面に激突する寸前の寿子を苛烈なまでに打ち据えた。 更に続く衝撃に土煙が舞う。反響音が薄まる中、リベリスタ達は潜伏を解いた。 「完璧なタイミングじゃったのう。気を張りに張った甲斐があったというものよ」 「うむ、ぴったりだったのだ!」 天乃の後方、中衛に就きながら笑う瑠琵に、雷音が笑みを返した。 「あとは、これでどれだけ削れたか、なのだ」 土煙が薄まった先に寿子の姿が現れる。瑠琵は肩を竦めた。 「……まあ、そんなもんじゃろうな」 寿子が身を起こす。見開かれた瞳が、自身を見回した。 華奢な身体は麻痺や呪縛などに縛られ、傷が幾筋も走っている。だが、彼女の意識はそこには無かった。 「また、死ねなかった――」 ぎこちなく身体を揺らして立ち上がる。 「また、また、また」 彼女の身体はどす黒い瘴気に包まれた。その光景に、リベリスタ達の間を寒気に似た衝撃が走る。彼等と寿子の視線が交錯した。 「……何見てんのよ」 ぎり、と寿子が歯噛みする。 「あんた達、殺してやる」 吠える彼女を、螢衣は真直ぐ見つめた。 「――死ぬ事さえ出来ない辛さ、分からないでもありません。ですが、八つ当たりの巻き添えにされる方にとっては迷惑千万です」 狂気が蠢く寿子の視線にもたじろぐ事無く、言葉を続ける。 「どちらにしろ死ぬしか道が無いのなら、私達がお手伝いします。……さあ、始めましょうか」 ●魔法が解けるまで 「幸せそうな人も大嫌い、か。鬼ぃさんとか愛され系男の娘だし、きっと狙われちゃうね。大変! 変態!」 「こういう自己中自殺志願者さんの前でそんな事言うと、本当に私に矛先向きそうなんですけども?」 慣れた様子で軽口を交わすりりすと桐が能力を増大させる。その後方でウルザが印を切った。 「自殺すると天国にいけないぞ! と言う訳でオレが天国に送ってあげよう!」 放たれた気糸は、活性化された思考回路により導き出されたポイントを正確に貫いた。穿たれた右目を押さえながら、寿子が唸った。 「どうでも良いわ、そんな事」 そして滲んだ血を拭う。 「ムカつくわね、あんたも他の奴等も。幸せそうなツラして、そうやってあたしを見下して」 彼女を縛る呪印が崩壊した。全ての負から解放された寿子の足元から、どす黒い瘴気が広がった。 「みんな、みんなみんな、死んじゃえば良いのよ」 齎された呪縛の力に、複数の者が拘束される。それを逃れた天乃は、嘲笑う寿子に一気に間合いを詰めた。 「縛る……その上で、死なせてあげ、る」 全身から気糸が放たれる。それは再び寿子を麻痺に陥れたが、傷を刻む事は出来なかった。 「――――!」 天乃が目を剥く。そこへ、りりすが死角から躍りかかった。 「挨拶が遅れたけど――初めまして、こんばんは。通りすがりの死神です」 軽い調子で言いながら大鎌を振るう。幻影を纏った軌跡は寿子へと突き刺さった。 次の瞬間、寿子は振り返った。麻痺を引きちぎって、理不尽な怒りを乗せた手を鋭く伸ばす。強烈な衝撃が身体を走ると共に血が散る。その多くが自らのものである事を、りりすは悟った。 口元を拭うと、りりすは苦笑した。 「……やれやれ、なかなかヘヴィだね。出来れば抵抗しないでくれると楽なんだけど――『死にたい』のと『殺されたい』ってのは全然別物だからしょうがない、のかな」 涼しい表情の裏で、身体は大きな痛手を受けていた。 受ける者によっては一撃で昏倒する程の傷。危ういと察しながらも、瑠琵は呪縛より動く事が出来なかった。 「くっ……!」 その時、彼女の後方から癒しの符が飛んだ。 「あの黒いのがある内は強いっぽいのだ」 りりすの傷がある程度癒えたのを確認して、雷音が寿子を指差す。寿子の身を這う様に蠢く黒い瘴気。それが寿子に驚異的な防御と火力を齎していた。 時が経てばそれは消える。しかし、その時は遥か先の事であるかの様に感じられた。 (この場を凌ぎ切らねば勝機は無い――) 瘴気を見つめる瑠琵の瞳に険しさが滲む。 (それまで堪えるのじゃ、皆……!) 動かぬ身体で、彼女はただ祈った。 リベリスタ達を翻弄する寿子の姿を後衛から見つめながら、零音は心が強張るのを感じていた。 (覚悟はしていた、けれど) 目の前で繰り広げられる、自分よりも経験で勝る仲間達の苦戦。それに彼女は呑まれていた。 首を横に振ると、彼女は魔符を手にした。 (今は、出来得る事を――) 呼び出された鴉は寿子を貫いたが、その身を怒りに染めるには至らなかった。 寿子が零音へと視線を向ける。その隙を穿つ様に、輝くオーラを纏った桐が巨大剣を振るった。 「痛いわねっ……!」 寿子が、迸る怒りを込めた腕を桐へと伸ばす。その一撃は防御の間隙を縫って桐の胴に炸裂した。 「ぐ、うっ」 呻きながら膝を突く。後ずさった彼を背にしながら、モニカは九七式自動砲を構えた。 「とても撃ち甲斐のある硬さをお持ちなのは結構ですが、些か獰猛に過ぎる様ですね」 落ちる硬貨さえ撃ち抜く程の精密な射撃が寿子の心臓部を貫く。その隙に、動きを取り戻した瑠琵と雷音が桐に癒しを施した。 血を拭いながら、寿子はぎりと歯噛みした。 「ちょろちょろとウザったい!」 足元からどす黒い瘴気が広がる。再び呪縛に囚われる仲間達の姿に、零音は唇を噛んだ。 寿子の強化が解けるまでに残された時間はあと僅か。だが、それまでにまた強烈な一撃が放たれたら、今度こそ誰かが昏倒するかも知れない。寿子に未だ疲弊の色があまり無い段階で、それは戦力の瓦解を招きかねなかった。 (……今は、出来得る事を) 事態を覆す程の力は無い自分に出来る事、それは―― 「――あぁ、あんな所から落ちて死ねないなんて、何て可哀想な」 彼女は凛とした声を放った。 「死にたいほど辛い事があったんですね。死ねない事が辛いんですね。誰も理解してくれないことが寂しいんですね」 続く言葉に、寿子の顔がみるみる紅潮する。 「同情します。その心が少しでも救われるなら――」 「黙れ」 鋭い声に遮られて、零音は言葉を切った。寿子は怒りに身体を震わせた。 「何にも、何にも知らない癖に、わ、分かった様な口を利きやがって」 零音の表情に、悲しみの色が差した。 「この私の本心が説教に聞こえるなら、どうぞ私を狙いなさい。……元より傷だらけの私。貴女の痛みも、引き受けましょう」 かっと目を見開くと、寿子は彼女に向けて腕を振るった。 「望み通りにしてやるよ!」 どす黒い瘴気が、苛烈な勢いで零音を貫く。傍に居たウルザが目を剥いた。 「零音!」 昏倒した零音を庇いながら、追撃に踏み出す寿子に気糸を飛ばす。足元を穿たれて転倒した寿子は、起き上がろうとして目を見開いた。 その身に纏わりついていたどす黒い瘴気が、消え去っていた。 ●末路 「チートタイム終了、ですね」 宣告と同時に、モニカが連続射撃を放った。まるで蜂が襲撃したかの様な弾丸の嵐が寿子へと降り注ぐ。弾かれる様にして地を滑った寿子は、すぐに体勢を立て直した。 細かな傷から血が滴り落ちる。それを呆然とした様子で見つめながら、彼女は口を戦慄かせた。 「なんで、なんで、なんで――私はただ、死にたいだけなのに、なんで」 うわ言の様に呟きながら、ぽろぽろと涙を流す。その姿に、複数のリベリスタ達の心に怒りが湧いた。 再び前線に立っていた桐は、思わず歯噛みした。 「周りの迷惑を省みず、かつ責任も取れずに行動とか駄目過ぎると思いますが?」 怒りと共に吐き出して、巨大剣を担いだ肩を竦める。それに頷いて、りりすは薄く嘲笑を浮かべた。 「言葉は対等の者と交わして意味を持つ。残念だけど君にそれを望むのは酷かもね。――馬鹿は死んでも治らない。まして君は死ぬ事も出来ないようだし」 怒りを抱いた他の者達も、口々に寿子を責め立てる。再び顔を紅潮させると、寿子はゆらりと立ち上がった。 「あ、あんた達……こ、殺してやる、殺してやる……!」 「――想え東方木禁は吾が肝中に在り……想え南方火禁は吾が心中に在り……」 寿子が踏み出したのと、螢衣が呪印を展開するのは同時だった。その呪印は寿子の身体を幾重にも包み込み、その行動を封じた。 「やっと大人しくなって頂けましたか。――先程も申し上げましたが、私達は貴方の願いが達せられるのをお手伝いして差し上げているだけですよ」 ほっと胸を撫で下ろす彼女を、寿子は鋭く睨みつけた。 「わらわとしては、ビルから落ちても死ねぬなら勝手に溶鉱炉にでも飛び込むなりしてくれれば楽なんじゃがのう」 天乃に庇われて怒りを回避した瑠琵が、呆れと共に吐き出す。 「お主の甘ったれっぷりには腹が立つが……まあ、それもあと僅かじゃ。せいぜい悲劇のヒロイン気分に浸っておれば良い」 見下す視線の先で、寿子は只管にもがいた。 動きを封じられた彼女に、リベリスタ達の攻撃が集中する。勿論そのまま事態が終了するはずはない。暫しの後呪印を打ち破り自由を取り戻した彼女は、再びその力を振るった。 瘴気が消え当初よりその威力は劣っているとはいえ、猛威である事に変わりは無い。時間が経過するにつれ、寿子の疲弊の色が濃くなると同時に、リベリスタの中に昏倒する者も出てきた。 根気比べの様相を呈してきた戦況に、モニカは薄く笑みを浮かべた。 「やはり、撃ち甲斐のある標的は素晴らしい。ですが――」 そして、連続射撃を寿子に浴びせる。最後となる弾丸の嵐が、猛烈な威力をもって寿子に叩きつけられる。寿子は、血を迸らせながら地面へと崩れ落ちた。それを、モニカは冷えた瞳で見据えた。 「その態度に飽き飽きしてまいりました。そろそろ終いとしましょう」 その言葉に応じる様に、螢衣が呪印を展開する。それに囚われて、寿子の動きが封じられる。 それが、戦況を大きく傾けた。リベリスタ達は傷付いた身体に鞭打ち、最後の猛攻に出た。それを受ける事しか出来ない寿子は、もがき、足掻き、そして―― 天乃の身体から、破滅的な黒いオーラが伸びる。それに頭部を穿たれて、寿子は地面を転がった。 仰向けのまま動きを止めた彼女へと、天乃が歩み寄る。致命的な一撃を頭部に受けた寿子は、既に息絶えていた。 「ようやく……逝けた、ね。――いってらっしゃい」 そう囁きかけると、天乃は見開かれたままになっていた寿子の瞳を閉じさせた。 手早く道具を片付け、現場を清掃すると、リベリスタ達は撤退を開始した。 ビルの屋上に佇む梟が、表情の無い瞳でそれを見届ける。ひとつ鳴き声をあげると、それは夜空の中へと飛び去って行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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