● 「お菓子作りとか得意な人ー」 その日、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向けられた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)の第一声は、非常に場違いなものに思えた。 「……いやこれ、ちゃんとした依頼だから。そんな微妙な顔しないで下さいお願いします」 場の空気に耐えられなくなったのか、黒翼のフォーチュナはそそくさとファイルをめくって説明を始める。 「今回の任務は、アザーバイドの送還とディメンションホールの破壊だ。 アザーバイドの見た目は、まあこんな感じ……あれ、画面の切替えってこれで良かったっけ」 未だに端末の操作に慣れないのか、悪戦苦闘しつつ正面モニターに画像を表示させる数史。 ――そこに映ったのは、一言で表すなら巨大なニワトリだった。 丸々と太っており、柔らかな羽毛でこしらえたボールのようにも見える。 赤いトサカは明らかに元気がなく、やや小さめの瞳からは涙の雫がぽたぽたと落ちていた。 人間にたとえるなら、『泣いてないもん』と言いながらしゃくりあげる子供とか、そんな感じである。 怪我でもしているのだろうか。 リベリスタの一人が首を傾げた瞬間、画面の中にいる巨大ニワトリの腹から、大きな音が鳴り響いた。 どうやら、空腹で泣いているらしい。 「空きっ腹を抱えて迷い込んで、そのまま動けなくなったんだな。 ディメンションホールは近くに開いてるが、本人は動けないし、あの図体だと運んでやることもできない。 かといって、下手に攻撃を仕掛けると暴れて手がつけられなくなる。 腐っても上位世界の住人だから、まともに戦うとこっちも無傷じゃ済まない」 何かと厄介事の多い現状、戦力の損耗は可能な限り抑えたいところである。 そこでだ――と、数史は言葉を続けた。 「このニワトリが腹いっぱいになるまで、手作りの菓子を食わせてやって欲しいんだ。 満腹になれば、自分から元の世界に帰るはずだから」 なるほど、仕事はわかった。 だが、どうして『菓子』で、しかも『手作り』限定なのか。 「こいつの普段の食事に近いのが、こっちの世界で言う菓子類なんだよ。 おまけに、『手作りにこめられた愛情』っていうの? それがないと腹が膨れないんだと」 どういう仕組みかは謎だが、自分で作ったり、拾った食べ物では栄養にならないらしい。 つまり一人ぼっちになった段階で生きていけなくなるわけで、それはそれで過酷だ。 この生態、独り身に対する嫌がらせに近いよな……と、数史がこぼす。 「――ま、それはそれとしてだ。 こいつは、菓子の中でも、『甘いもの』や『見た目が可愛いもの』を特に好むらしい。 でも、あくまで一番大事なのは心がこもっているかどうかだ。 そこさえクリアしていれば、少しくらい失敗したところで大した問題じゃない」 この世界に迷い込んでしまったニワトリ型アザーバイドのため、『心をこめて』お菓子を作る。 それが、今回のもっとも重要な任務だ。 「準備も含めて、ちょっと手間にはなるが……頼まれてくれるか?」 数史はそう言って、リベリスタ達を見た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月30日(土)00:12 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 野原の真ん中で、丸々太ったニワトリが泣いていた。 溢れた涙が白い羽毛を濡らし、赤いトサカはすっかり艶を失っていて。 そんなアザーバイドの姿を遠目に見た『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が、思わず呟く。 「ニワトリさん超可愛い……泣かないでって、ぎゅってしてあげたくなる☆」 ふかふかの白い羽毛は、抱きついたら気持ちが良さそうだ。仲良くなれたら、ハグさせてもらえるだろうか。 このニワトリは空腹でボトム・チャンネルに迷い込み、そのまま動けなくなったのだという。 いや、動く気力をなくした、と言うべきか。 そこに自分と近いものを感じたらしい『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)が、誰にともなく口を開く。 「あたしも動きたくねーです。おなかいっぱいになっても動きたくねーです」 だからこそ、『満腹になるまで動かない』ニワトリの気持ちはよくわかるのだ。 「知らない土地で一人でおなかすいて食べるものない、とか心細いよね」 昼と夜の空色でグラデーションを描く長い髪をポニーテールに括り、同色の翼を背に生やした『紺碧』月野木・晴(BNE003873)が言うと、『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)が答えた。 「お腹が空いたままだとションボリするって、まおは知っていますよ」 紫色の大きな瞳でニワトリを見つめる彼女に、晴が頷く。 「いっぱい食べて元気になって貰えたらいいな!」 意気込む彼に向けて、『三高平高等部の爆弾娘』蓮見 渚(BNE003890)が「がんばろうねっ!」と、ハイタッチを求めた。この日のために新調した可愛らしいフリルつきのエプロンに身を包み、意気込み充分。 小路とは別の意味でニワトリに親近感をおぼえる『砂のダイヤ』敷島 つな(BNE003853)が、艶々としたふくよかな頬に手を当て、それにしても――と言った。 「愛情こもったお料理しか栄養に出来ないのに、こんなに丸々してるなんて、 余程、誰かから愛されているのね」 どういう体質なのか、あのニワトリは『他者に愛情こめて作ってもらった食事』しか受け付けないらしい。 歩くよりも転がった方が早いのでは、とすら思えるボールのような体型は、本来の世界で幸せに暮らしていることの証明だろう。 早く帰して安心させてあげなくちゃ、と言うつなに、『sourire chat』クロエ・ラプラード(BNE003472)がこくり、と頷く。彼女は、大好きなニワトリによく似たアザーバイドと聞いて、この依頼を請けたのだった。 少し距離を置いてニワトリを眺め、クロエはシャルトリューの尻尾をピンと立てて目を輝かせる。 (Chicken……!) 誤解のないように言っておくが、『愛玩動物的な意味で』好きということだ。彼女が猫のビーストハーフだからといって、それ以外の意味ではない。 ともあれ、あのニワトリに手作りの菓子をご馳走し、満腹になって元の世界にお帰りいただくのが今回の任務だ。 「お菓子が食べれると思って来てみたら、作るほうだったですぅ」 『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)が、少し残念そうに呟く。 まあ、無事に成功した暁には、仲間達が作ったお菓子も少しくらいつまめるだろう。 「つ……作るほうも任せるといいですぅ!」 鼠の耳を揺らして胸を張る彼女の傍らで、如月・真人(BNE003358)が、車に積んでいた大きな包みを両腕で抱え上げた。中には、事前に作ってきた菓子がぎっしり詰まっている。 「作り過ぎて、荷物が重くなり過ぎました……」 苦笑しながら、真人はシートを敷いた地面に包みを下ろす。『From dreamland』臼間井 美月(BNE001362)が、アークを通してレンタルした移動販売車の調理設備を確認していた。折角なので、その場で作りたてを食べてもらいたい――という気遣いにより、二台ほど手配したのである。 消費電力の大きすぎる電子レンジは電源の問題で使用が厳しいが、オーブンつきのガスコンロは備え付けてあるし、アウトドア用の小型冷蔵庫もある。ほぼ不都合はない。 ● クロエが、慎重にニワトリに歩み寄る。猫の姿を怖がられるのでないか、と危惧していたが、どうやら心配要らないようだ。ぽろぽろと泣くニワトリの前で、飴を握った両手を開いてみせる。 ニワトリが泣き止み、クロエの掌にある飴をじっと見つめた。 砂糖を溶かし、色々な型で固めた手作りの飴は、どれも可愛らしい形で。クロエがそれを一つ口に放り込んでやると、ニワトリの目の色が変わった。喜んでいるらしい。 その様子を見て、真人が表情を綻ばせた。 「お菓子をあげて帰ってもらう……穏便に済みそうで大変嬉しいです」 戦いを好まない彼にとって、こういった任務は有難い。カスタード入りのシュークリームを手に取り、ニワトリの口元に運ぶ。 量が足りずに満腹してもらえないという事態を避けるため、数も種類も充分に作ってあった。 シュークリームはホイップクリームやチョコレートの他、変り種の餡子まで用意していたし、三種のフルーツを用いたパイやマシュマロもある。仮に余っても、その時は皆で食べれば良いのだ。 もちろん、真心もたっぷりこもっている。 笑顔で食べてもらう場面を思い浮かべながら、食べる人が幸せな気持ちになれるように――。 願いの詰まった菓子たちを、ニワトリは夢中で胃袋に収めていく。 続いて、終がアップルマンゴーのタルトを振舞った。 「どーぞ、召し上がれ☆」 サクサクの生地に敷き詰められたカスタードにバニラビーンズが香り、完熟マンゴーの果肉が旬の存在感を主張している。仕上げに陽の光に輝くクラッシュゼリーと、涼しげなミントの葉をあしらったタルトは、眺めているだけで元気になれそうだ。 菓子作りを得意とする彼の自信作だが、それでも食べてもらう瞬間は少し緊張する。 たった一人で心細い気持ちが、はじけて消えてしまうように。 きらきらの涙が、きらきらの笑顔になるように。 自慢のとさかをピンと立てて、笑って家族のもとに帰れるように――。 想いをこめて見守る終の前で、ニワトリが嘴でタルトをつついた。 一口食べた後に目を見張り、すぐさまそれを平らげる。安堵しつつ、終はおかわりを勧めた。 エプロン姿の渚が、金のツインテールを揺らしてニワトリに駆け寄る。 「正義の心を知ってもらうために、念を思いっきりこめながら作ったよ!」 彼女がそう言って差し出したブラウニーは、あからさまに焦げていた。チョコレートが上にかかっているのに、である。生クリームと蜂蜜入りにもかかわらず、味見した両親が「苦い」と言って卒倒したのは、今は思い出さないでおこう。 大切なのは、技術より心。すなわち正義。 正義は必ず勝つ、正義は素晴らしい――人生とは、正義の心で光るのだ! そんな渚の思いが伝わったのか、ニワトリはもぐもぐと丸焦げブラウニーを食む。 持参の包みを抱えた小路が、ずいと前に出た。 「おなかがいっぱいになるまで絶対動くもんかというその覚悟、あたしはとても感動した!」 働きたくない、が口癖の彼女だが、今回は珍しくやる気になったらしい。 てーれってれー、と、どこかで聞いたような効果音を口にしつつ、包みを解いてみせる。 それを覗きこんだニワトリが、一瞬、微妙な顔をした……ように見えた。 「何ですかその目は。あたしが普段自作して食べてるれっきとしたおやつですよ」 油で揚げ、砂糖をまぶしたパンの耳。 見てくれはあまり良くないが、安い、簡単、旨いと三拍子揃った手作り菓子である。 当初は“ニート飯”の真髄を見せてやろうと、彼女が最強と信じるたまごかけご飯などを考えていたのだが、菓子しか受け付けないと知って断念したのだった。 いずれにしても、ニワトリの心意気に応えるべく小路なりに全力を尽くした結果だ。彼女にとっては人生の一部を分け与えるにも等しい。 ニワトリが、パンの耳を恐る恐る嘴でつまむ。 「どーですか、素晴らしいでしょー」 彼女の言葉に答えるように、ニワトリは顔を突っ込んでがつがつと食べ始めた。 ● 現地で手作りするメンバー達も、着々と作業を進める。 マリルはまず、カップケーキのデコレーションから始めていた。作って二日目くらいが一番美味しい、という言葉に従い、事前に焼き上げておいたものだ。ちょっとデコボコしているが、そこはご愛嬌。 「かわいくデコれば全然問題ないのですぅ!」 強気に言って、クリームやフルーツなどでケーキを飾りつけるマリルだが。 「あ……あるぇ?」 クリームの盛り付けが、どうも思うようにいかない。 ぺたぺたと塗れば塗るほど、違和感は大きくなり―― 「あーっ! クリームこぼしたですぅ!」 慌てて形を整えるマリル。 「会心の出来な気がしてきたですぅ!」 そう言うと、どこか芸術的にも見えてくるから不思議。 一方、まお&つなのペアは蒸しパンを作っていた。 まおが予め仕込んだ生地をカップに入れ、蒸し器で蒸す。 学校のクラブで習った、ミックス粉を用いないレシピ。 初めて作った時も美味しく食べられたから、きっと上手くいくはず。分量が十倍なら、愛情も十倍だ。 蒸している間、つながトッピングの準備を整えていた。 小分けにしたクリームにカラフルな食紅を混ぜ、薄く伸ばしたマジパンを星やリボンの型で抜く。 アザランやカラーシュガー、昔懐かしのバタークリームも用意してあった。 「小さい子とお菓子作りが出来るなんて、楽しいわ♪」 つなが弾んだ口調で、ちょうど蒸し上がった蒸しパンを取り出す。 第二陣を蒸し器にセットした後、まおは彼女に教わりつつ蒸しパンのデコレーションを始めた。 「ほわ、蒸しパンが色とりどりになっていきますね」 初めての経験に目を輝かせつつ、色とりどりのトッピングで動物の形を作る。 その様子を微笑ましく眺めながら、つなは懐かしむように呟いた。 「……こうしていると思い出すわねぇ、娘と暮らしていた頃を」 夫が「芋の味がする」とあっさり言い捨てたスイートポテトを、「おいしいね」と褒めてくれた娘。 ナイトメア・ダウンで行方知れずになった愛娘を想い、視界が涙で歪んだ。 「敷島様?」 顔を上げたまおに心配かけまいと、「何でもないのよ」と答える。 せっかくだから、あの娘が喜んでくれそうなデコレーションにしよう。クリームをたっぷり絞って、アザランをふって、童話に出てくるお姫様のドレスみたいに。 (バタークリームは、あの人が好きだったのよね) そして、つなは夫の横顔を思い出す。頬についたクリームを拭いてあげた時の、憮然とした表情を。 冷蔵庫で冷やした持参のプリンをニワトリに届けた晴が、腕をまくって作業に取りかかる。 作るのは、やっぱりプリン――それも、特大のバケツプリンだ。 「プリンにはなー! 愛と希望と夢が詰まってるんだー!」 電子レンジは今回使えないが、代用する方法を得意な人に教えてもらったので問題ない。 温めた牛乳に卵とバニラエッセンスを加え、砂糖・蜂蜜・オリゴ糖とあらゆる甘味を豪快に。 バケツに入れて冷やし固める間、トッピング用意。 チョコ・バナナ・生クリーム……ここでもやっぱり蜂蜜、あと水飴にキャラメルも。 すでに『激甘』を遥かに凌駕しているが、晴にとってはこれで『適度な甘さ』なのが恐ろしい。 移動販売車の中では、クロエがレシピと睨めっこしてフランス菓子を作っていた。 猫毛が混入しないよう細心の注意を払う彼女の表情は、真剣そのもの。 泣いていたあの子が元気になって帰れるようにと、心をこめる。 その時、傍らでクッキーを仕上げていた渚が歓声を上げた。 「――ひよこクッキーの完成だぁ!」 彼女の前には、砂糖と塩を入れ間違えたアイシングでデコレーションされた何か。 焼いてる最中にオーブンの中で爆発しかけたとか、ひよことは名ばかりの見た目はこの際問題ではない、はず。 そして、もう一台の車では、終のアドバイスを受けてマドレーヌに挑戦する美月の姿があった。 「手作りの物を振舞って喜んで貰う……それだけの事が、僕には本当に難しいんだ」 不器用は自覚している。どんなに頑張って料理しても、焦がしたり、分量を間違えたりで、まともに成功したためしがない。 「パ……父なんかは、美味しいよって言ってくれるけど……」 無理して食べてくれているのがわかるから、尚のこと辛くて。 だから。技術に関係なく、心が大事なのだという今回の依頼に、美月は全力を傾けていた。 どうせ失敗するからと手を抜いたりせず、ほんの少しでも良いものを。 式神の『みに』にも、頼ったりしない。自分にできる全てをこめて作る。 喜んで欲しいから。美味しいと、思って欲しいから――。 ● 「これが怠惰の味というものです、魅惑の蜜です。たんと味わうのです」 揚げたパンの耳を次々に放りながら、小路がニワトリに語りかける。 そこに、出来上がった菓子を持った仲間達が続々と現れた。 「ふふ……鶏さんもきっと気に入ってくれるわね」 優しく笑うつなに抱えられて、まおが動物デコの蒸しパンをニワトリに食べさせる。 ヤモリこそ自粛したが、謎の生物『モル』や、アザーバイド『(´・ω・`)』の姿もあり、バリエーションは豊富だ。 つなのお姫様デコ蒸しパンと合わせて美味しそうに平らげるニワトリを、まおはそっと撫でる。 「お腹いっぱいに幸せになって下さい」 お次はマリル。 数種のフルーツジュースをゼラチンで固めて器に盛り合わせた、夏らしい、カラフルでキラキラなゼリー……のはずが。 ゼラチンを溶かすのに失敗したとか、大好物の苺のジュースだけ大半を飲み干したとか、ゼリーの固まり具合が一定じゃないとか、まあ色々あって、えもいわれぬ色合いに。 ニワトリが若干引いてたように見えたのは、きっと気のせい。ちゃんと残さず食べたし。 続いて、クロエが丸型のヴァランシア――オレンジを用いたケーキを手際よく切り分ける。 星の形をした蜂蜜味の飴細工を飾ったそれは、宝石を散りばめたようで。 「Valencia……Yummy!」 一切れを即座に完食したニワトリに、今度はフォレ・ノワールの皿を差し出す。 ドイツで生まれ、フランスに伝わったサクランボのケーキは、二つの世界を結ぶ友好の象徴。 ビターなチョコレートを用いたので少し心配ではあったが、気に入ってもらえたようだ。 その後ろから、美月が緊張した面持ちで自作のマドレーヌを差し出した。 微妙に生焼けだったり、小麦粉と間違えて別の何かを入れてしまたり、失敗点は数え上げればキリがなかったが――ニワトリはそれを躊躇うことなく食べ、美月の思いを幸せそうに味わっていた。 (美味しいと喜んで貰える、それこそが最高の報酬なんだ――) 一度で良いから、その報酬が欲しかった。それが今日、叶ったのだ。 涙に歪む視界の中で、美月は嬉しさを噛み締める。 そんな彼女を見て、焼きたてのパンケーキを手にした終が「お菓子と笑顔はセットでなきゃ☆」と笑いかけた。 渚のひよこ(?)クッキーに続き、晴の特製バケツプリンがニワトリの腹の中に消える。 塩味だろうが、逆に度を越した激甘だろうが、関係はなかった。真心に勝る調味料はない。 「折角だし、みんなとも一緒にお茶出来たら嬉しいなぁ」 晴の呟きに、真人が頷きを返す。 「そうですね。一人……一人? えーと、自分だけ食べてもつまらないでしょうし」 「他の人が作ったお菓子も、つまめるならもぐもぐしたいですぅ」 マリルの一言で、突発ティータイム決定。 ニワトリに食べさせるのと並行して、リベリスタ達も菓子を楽しむことにした。 渚が、唯一得意といえる紅茶を皆に振る舞い、終が追加で全員分のパンケーキを作る。 自作のベリーシロップを添えて、余ったアップルマンゴーもピューレにして最後まで使い切った。 クロエが、立てた尻尾を揺らして菓子が載った皿を指す。 「……Good」 彼女は、自分のケーキも惜しまず仲間達に勧めていた。誰かと一緒に食べるお菓子は、やはり格別だから。 晴が、笑顔でニワトリに語りかける。 「みんなで一緒に食べた方がおいしい! とかそんなことない? ない?」 彼の言葉が通じたのか、マリルに運んでもらったジュースを飲んでいたニワトリは、頷くように白い翼を羽ばたかせた。 ● すっかり和んだ空気の中、真人がニワトリのふわふわした羽毛に背を預けてもたれていた。 「ふわふわもっふもふ! もふもふ万歳!」 猫じゃらしを振る渚の傍らで、晴がニワトリに思い切り抱きつき、その感触を楽しむ。 もふりたい衝動を堪えて白い翼を撫でつつ、クロエが残りのケーキを与えた。 美月が繰り返し作り続けていたマドレーヌも、とうとう最後の一個になる。 それを食べ終えると、ニワトリはゆっくり立ち上がった。 礼を言うように、白い翼を大きく広げる。 美月は目に涙を浮かべ、最高の笑顔でニワトリを見た。 元の世界に帰還するニワトリを「元気でね」と見送り、つなが次元の穴を塞ぐ。 「知らない場所で小人にお菓子をご馳走して貰った…… なーんて話を、家族としたりするのかな☆」 終の言葉に、誰かがくすりと笑った。 余った蒸しパンの生地を眺め、まおが思案する。 アークに帰ったら、皆にお疲れ様の蒸しパンを作ろう。 最後まで食べるのも愛情だと、そう思うから――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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