● ぎらぎら輝くネオンサイン。 店からこぼれてくる大音量のBGM。 酸化した食用油の臭いに、きつい香水の臭いが混じって気持ちが悪い。 配られるティッシュの高校はけばけばしい蛍光ピンクで、みんなその辺にしてるから、ひわいなモザイクに見える。 それは、いつもあたしの後ろにいる。 あたしを狙って、ありとあらゆるところに罠を仕掛けてる。 恐怖に耐えかねて、交番に飛び込む。 「助けてください!」 おまわりさんが見に行ってくれる。 もう一人のおまわりさんがいやな顔をするのはどうしてだろう。 「あのね、お嬢チャン。お友達達にも言っておきなさい毎日かわるがわる交番に飛び込んできておまわりさんをからかっちゃだめだろうこのへんの学校じゃないねどこの学校おまわりさん達も忙しいんだよ君昨日もおとといも来ただろう大乗不気味を追っ駆けてくる人もいないしトイレに隠れてる人もいないし更衣室に仕掛けは無いし――」 見に行ってくれたおまわりさんが戻ってくる。 「大丈夫だよおかしな人はいなかったよううちはどこ念のために贈って言ってあげるおうちの人に連絡しようね電話番号を教えてくれるかな――はいこちら――センター前の派出所ですお宅のお嬢さんがうちに女の子はいないってどうう言うことですかえはいあの確かに住所はこれこれ――」 あああ、おうちにかえりたい。 おうちは毎日変わるし、電話番号も、メールアドレスも、おまわりさんも毎日変わるし、追いかけてくるのだけがかわらない。 そうしてだれもきがつかないの。わたしがたべられたらたいへんなのにどうしてどうしてどうしてどうして. あの大きくて黒くてのた打ち回る肉食獣があたしをあたし達をみんな飲み込もうとしてるのにどうしておまわりさんたちはきがつかないのののののののののおおおおおおおっ!? 誰そ彼。 空は、どこまでもどこまでも赤黒い紫色。 ● 「繁華街って、雑多な思念がわきやすい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)に最も似つかわしくない場所を揚げよ。 答、猥雑な繁華街。 女の子が好きそうな店の横にさりげなく罠が潜んでいそうだ。 いや、実際潜んでいるのだろう。 「この町を訪れる女の子の繁華街に対する恐怖心が積もり積もって、E・フォースを形成した」 『あたしの友達の友達の話なんだけどぉ』 友達の友達は、怪しい路地に入ったり、たまたま入った店でそれは不幸な目に遭う。 でも、自分たちは大丈夫。 まるで、自分たちの身代わりするように、女の子達は「友達の友達」が酷い目に合う話をする。 その形無き「友達の友達」が実体化してしまったのだ。 「刻々と姿を変える女学生。見た目も一致しなければ継続的記憶も一致しない。決まってるのは、毎日同じ時間に交番に飛び込んで、追われてる。助けを求めるとこだけ。名前も住所も電話番号もでたらめ、すぐ入り口から逃げていく。それを追いかけて」 実際、「友達の友達」に危機は迫っているのだ。 「そして、実際、追われている。放置すれば、早晩、このE・フォースは別のE・フォースに食われる。『友達の友達』が食われるのはともかく、それに味を占めた捕食者の方が、現実の女子高生を襲い始めると困る。E・フォースは念積体だし、味は特別濃厚。その味を覚えたら、現実の女の子は薄味だろうね。次から次へなんてことになったら目も当てられない」 そういう訳で、と、イヴはモニターに表示する。 「今回は、この捕食者E・フォース及び女子高生E・フォースの討伐」 そう言って、モニターに映し出されたのは、巨大な海のギャング。 「トド?」 「トド。本物は、大体、3メートル越え。重さ、1トン越え。当然、現物より大きい。速い。強い、水なくても平気。空中を泳ぐように攻撃してくる」 「なんでトド?」 「トドは、ハレムを形成する。雄としての絶対君臨者に対する恐怖の象徴と解釈したんだけど、もっと分析した方が……」 いや、そんなもんで! あんまり深く考えるな、イヴ! 君のパパが、心労で倒れる! 「女子高生の方は、相手をかく乱する。言ってることに一貫性はない。自分のこと、念積体とか思ってないしね。実際、鏡に映るし、触れるし、人間と遜色ない。泣くし、喚くし、逃げ足速い」 でも、追いかけてとイヴは言う。 「追いかけている内、念積体の世界に紛れ込める。酷いところ。『友達の友達』が遭う災難で満ち溢れてる。でも、戦闘は気兼ねなく出来る」 イヴは、それでも無表情。 「両方倒さなきゃ、帰ってこられない。被害者も加害者も、年の澱みを完膚なきまでたたき潰して」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月01日(日)23:41 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● うかつさ。慢心。ちょっとした不運の象徴。 ピンの道を歩く赤頭巾。 扉を開ける仔山羊。 捧げられなくてはならない。 本物の子羊の代わりに。 私の大事な「友達の友達」 永遠に続く人柱。 ● リベリスタは、「友達の友達」を追う。 午後四時過ぎ。 夏の空はどこまでも青く、日の暮れる気配などない。 コスプレ的ナース服。雨合羽、いい色に焼けた坊主に、メイド服。 繁華街をすり抜けるリベリスタに、人々は軽く視線を送るが立ち止まることもない。 (居るのに人に無関心な人ごみ。どこまでも続いてる気がする繁華街) 雪白 桐(BNE000185)は、ぶつ切れの視線を浴びながら、現実を見る。 「だから、こういう事があるのかもしれませんね」 日暮れの気配もなかった空が。 (郷愁と不安と曖昧さを感じる夕闇。そこは現実と想像と記憶が混じり合う時間) 脇を走る人影は、仲間なのか、通りすがりか、異形の者か。 青い空なんて見たこともない。 ● 「友達の友達」は、歩行者天国を掻き分けるようにして、必死に逃げている。 リベリスタたちは懸命に追う。 あっという間に見失いそうだ。 姿が、瞬きの内にころころ変わる。 栗毛ポニーが黒髪ショート金髪ツインテ、ブラウスがベストにジャンパースカート、紺ソックスが生足……。 (たとえ人ごみに紛れて姿を変えても、逃げていく人なんてそうはいないはず……) この街の観光地図を頭に叩き込んだ『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072) は、着眼点を絞った。 (外見ではなく逃げる動作、足元を見て全力で追いかける) コインローファーが踏み潰したスニーカー、黒のエナメルストラップ。 逃げる足。逃げる足。逃げる足。 その斬乃を先頭に、リベリスタ達は異界に足をかける。 『斬幻』司馬 鷲祐(BNE000288)は、ペースを抑えている。 「……俺の友達は、俺の友達にとって、友達の友達……」 友達の友達は、話に登るだけの自分とは無関係の人だ。 「現代に生きる守り雛みたいなモンかもしれねえな」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は、その成り立ちに思いをはせ、一人ごちる。 現実の女子高生達。 彼女たちが受ける災厄の身代わり。 「友達の友達」は、災難に遭い続ける。 「曖昧に聞いた不確かな噂。あるいはその場限りの話題目的の嘘八百」 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)はすらすらと口にする。 「そういったモノを都合よく立てたい時に『友達の友達』は頻繁に登場しますね。 私には『とある情報筋』の方がしっくりきますが」 最後尾から声が追いかけてくる。 「私の常日頃からその手の情報は信用しない事にしています」 大企業・大御堂の屋台骨たるモニカが戯言に惑うことはない。 「だからこそ、私って彼女を葬り去るには割と適役なんじゃないですかね?」 ● 『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)が考えていたような「入り口」なんか、なかった。 気がついたら、空はどこまでも赤黒かった。 桐が呟く。 自然、注意は背後にもむく。 「異空間……。どこから、トドが来るかも分からないってことか……」 すれ違う人はみんなのっぺりとした影法師で、でも確かにそこにいて歩いている。 それ以外は、建物も道路も変わらないように、リベリスタには見える。 でも、心がざわめく。 赤と黒の世界。 他の色が付いているのは、リベリスタと「友達の友達」くらい。 心が不安定になる暗さを、フツの体から発する光が切り払う。 張り巡らされる結界の中では、空気に溶けた害意が和らげられた。 しかし、光が強いところには、より暗い影が落ちる。 足元に大きな影が差し、見上げれば巨大な海獣が生臭い息を吐き散らし、リベリスタ目掛けて身を躍らせていた。 質量だ。 それが空中を泳ぐたびに、空気が揺れる。 智夫は、仲間と自分を助ける為に詠唱する。 仲間の背に生える仮初の羽根。 (トドだろうと何だろうと、私にとっては然程ドウデモ良い) 『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659) は、戦いに形而上学的意義を見出さない。 (別ニ考エル必要は無い。ソコにアルのは敵。それを倒すだけ) 背中に生えた小さな翼が、彼女の動きを補助する。 (物体ジャネーケド、速いっぽいし何か材料ニデキネーカナァ) 宙に飛び上がり、僅かな足場も彼女にとっては大地に等しい。 「向かうぞっ!」 すでに体から開放される闘気が、斬乃の髪を煽る。 背に生えた髪の赤と同じ翼が、流れ行く影法師の頭上にその体を持ち上げる。 地上から二メートル、人の頭を踏まない高さ。 トド目掛けて巨大な電動刃が振り下ろされる。 生死を問う一撃。 君臨する黒い巨魁に叩きつけられるチェーンソー越しに感じるだぶついた皮膚の下、重厚な脂肪と筋肉の層。 同時に吹き上がるコールタール上の体液ではない何か。 それでも斬乃は不満げに片眉を潜ませる。 これでも、こいつにとっては致命の一撃とはならない。 「きゃああああっ!!!」 「友達の友達」が金切り声を上げる。 「何ナノ怖いよ怖い怖いよぉ!」 リベリスタの胸に苛立ちがよぎる。 生理的に湧いてくる嫌悪感。暴力誘発性気質。 滅せられなくてはいけない概念世界にとどまりきれず、ボトムチャンネルにまで噴き出してきた澱みだ。 トドは、嬉々として『友達の友達』に突進してくる。 鷲祐が立ちふさがった。 「モニカと連携攻撃を入れる予定だったというのに……来い、『お前』を連れていく」 否応などない。 トドから逃がすためではない。 リベリスタから逃げられないようにするため、 青い肉食トカゲの目が、怒りに巻かれて燃えている。 『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)の金属パイプの角に反響する、「友達の友達」が放つ悲鳴と鳴き声。 (『あの怖いのはやっつけてやるよ』 その言葉に嘘はねえんだがねぇ……) 鷲祐に手荷物のように抱え揚げられて、トドの攻撃範囲外へ。 雲も伴わず、空にばら撒かれた符から落ちる氷の雨。 「穿て、全て!」 氷の雨粒は、足元を行きかう影法師達を素通りしていく。 黒くつやつやと光るトドの表面を白く曇らせはしたが、その肉を凍らせることは出来ない。 絶対君臨者であるトドは、速い。 赤黒くドロリと災厄という名の溶岩を含んだ空気が、トドの生息領域なのだ。 リベリスタが放つ凶事も、トドには届かない。 血を流させ、命を削るのが一番確実な方法だ。 リュミエールが街灯の笠を踏んだ。 4分の3ターン。 僅かな姿勢制御と角度修正。 その結果が、弾丸のようなありえない位置への移動だ。 物理法則を無視する跳弾。 確実なトドの死角。 狙いを絞らせない為に、フツがその影に交錯する。 気をそらさせることが出来れば上々だ。 「雨でだめなら仕方ねえ。本職に戻るとするか」 暖簾の手の中に黒紫に輝くぶち抜きマリア。 長らく共にある相棒に、おしとやかにしてな。と消音器を取り付けながら、ビルとビルの隙間のひさしに腰をすえる。 殺すための一撃。 (トドの狙いが散りゃあ幸いだ) 致命傷に至っていないが、トドが明らかに交錯するリベリスタにいらだっているのは見て取れた。 トドの喉が目に見えて震えだす。 咆哮。 音ではない。衝撃波だ。鼓膜と皮膚と心に突き刺さる暴力だ。 『逃げられると思ってんのか』 速度を否定する絶対停止。 動けない。 ひさしの上の暖簾。 動けなくなる。 それまで繰り返していた最適位置からの移動射撃準備に入れないモニカ。 そして。 仮初の小さな翼で羽ばたくのをやめたら。 墜ちる。 地面に。 フツ、斬乃、リュミエール、桐。リベリスタにとってはごく僅かな衝撃。 痺れた体で受身を取ることもままならないが、それでもかすり傷だ。 一瞬闇に覆われる視界。 地面に這い蹲るリベリスタを踏みつけるのではなく、すり抜けていく影法師たち。 質量があるわけではない。 だが、確かに自分ではないものが自分をすり抜けていくありえない幻触。 黒い巨体が降ってくる。 痺れた体に鞭打って、逃れるしか術はない。 念積体だというのにどうしてこうも生臭いのだ、こいつは。 だぶりと余る皮膚、脂肪。 圧倒的質量。 体の全部が一度に攻撃されるのだ。 圧迫される呼吸。 悲鳴を上げる骨格。 滞る血流。 肉をはぜらせ、外に出たいと駄々をこねる内臓。 分断を警告する神経。 押し潰されるというのはこういうことかと、まともに働く頭の隅でそんなことを思った。 ● 『友達の友達』の耳障りな嗚咽は止まらない。 怒りに任せて、引き裂いてやりたい衝動が鷲祐を苛む。 濁った叫び。 やんだと思った瞬間、脇腹に鋭い痛みを感じた。 がりり、ぶつり、ぐちゃぐちゃぐちゃ……。 ガムのように肉を噛み締める。 「しにたくない。死にたくないなら、戦わなくちゃ」 その性質、性格は、一定しないでころころ変わる。 一瞬前まで泣きじゃくっていた『友達の友達』は窮鼠と化して猫ならぬトカゲを噛んだ。 濡れた物が落ちる音がしたのは、噛み締められつくした鷲祐の脇腹の肉。 癒し手は、はるか後方。 トドに届かない距離。癒し手は更に届くこと適わず。 鷲祐に自分を癒す術はない。 この状態が積み重なれば、鷲祐も力尽きる。 それでも、鷲祐は『友達の友達』を離さない。 爪が『友達の友達』の脇腹に食い込む。 振り回されるナイフ。 ふくらはぎを縦に断ち割るきれいな傷跡。 「おめでとう。『お前』は脚を怪我している」 悲鳴と罵声の二重奏。 トドがしとめられるまで、離れない。 血肉を解しての交歓は終わらない。 ● 始めから、心に癒しの天使を召喚して仕事に臨んでいた。 自分が戦場から逃げ出したりしないように。 智夫は、予想していた。 だから、みんなから距離をとっていた。 みんな麻痺しているから、例え混乱していたとしても即殺し合いにはならないだろう。 それでも、まずは傷より凶事払いだ。 動くことが出来なければ、トドがまた降ってくる。 避けることは出来ても、神経を侵された体で避けきることは難しい。 今度同じ攻撃を受けたら、何人かはもう立ち上がれなくなる。 「しっかり……。みんな、しっかりして下さい!」 全員が範囲に入る位置で放たれる凶事払いの光。 それは、先ほどまでトドがいたのと同じ場所で。 散開したモニカと暖簾も一度に癒すには、どうしても、その場所でなくてはいけなくて。 トドが智夫を次の生贄に選ぶのは当然のこと。 智夫の体がビルの壁に叩きつけられる。 二階から一階へ転がり落ちる。 上から、割れた窓ガラスの破片が降り注いだ。 「ははは。いったいなぁ、もう……」 呟く智夫の上に福音が舞い降りる。 凶事を祓われ立ち上がったフツが、上位存在を召喚したのだ。 福音というよりはご詠歌。 身体中の痛みを拭い去ってくれる響き。 「鉄拳制裁だ、喰らいやがれ!」 智夫を押し込み、目と鼻の先につっこんできたトドに、暖簾の拳がトドの鼻先をぶち抜かんと問答無用の拳を叩き込む。 トドのくびれのない頚椎に、見えない刃が二本食い込み、平行に並んだ傷口は、次の瞬間黒いものが噴き出す。 桐の銀色の深海魚を模した蛇腹剣から放たれた居合いの一撃。 斬乃の電気のこぎりから放たれた居合いの一撃。 更に、リュミエールがトド目掛けて、渾身の速度をこめてトドに挑む。 「おまえ、結構早いナ。でも私は絶対負けない」 ごく普通のナイフ。 それは刃物ではなく攻撃の媒介として、今、速度という名の突貫槍と化した。 トドの喉から辺りを鳴動させる声が漏れる。 でも、それは。 咆哮ではなく、悲鳴。 ● 「おめでとう。 『お前』は髪を切られた」 鷲祐が切り取った黒髪は、次の瞬間茶髪のベリーショートに変わる。 背後には、鷲祐が切り取ったとりどりの髪がほぼ等間隔に落ちている。 トドを倒すまでは『友達の友達』は後回し。 そう皆で決めたからには、怒りによる衝動で『友達の友達』を殺してしまわないように、鷲祐は矛先を自分自身に向ける。 「おめでとう。『お前』は『俺の』温度を知っている」 自分の手で切り裂かれた頬からあふれる血が『友達の友達』の頭に降りかかる。 鷲祐の体を蝕む、数え切れない女子高生の金切り声。 『友達の友達』はそんなものだけで出来ている。 プロアデプトなら、冷静に戦術分析しただろう。 J・エクスプロージョン。 ● 奇しくも、モニカが鷲祐ととろうとしていた、最後手と最先手の擬似連携攻撃はリュミエールとの間に発生していた。 時折トドは、喉を鳴らす。 桐と斬乃の斬撃に、体が賦活呼吸法に呼応しなくなっていることに未だ気づかない。 リュミエールの放つ金色の飛沫は、むくつけきケダモノの消滅の花道を飾る装飾には、華麗すぎるくらいだった。 執拗に同じところに叩き込まれる暖簾の銃弾がトドの頭蓋にひびをいれ、そこからも体液めいた何かが流出していく。 智夫が、何度か魔力補給の詠唱を済ませた頃。 ぐらりと、トドの重心が揺らいだ。 醜く肥大した腹が上をむく。 肥大した腹が膨れ上がり、間の抜けた音を立てて、穴が開く。 あさっての方向に飛んでいこうとするトド。 とどめの時だ。 突き刺さるナイフが、真空の刃が、銃弾が、神秘をまとったジャベリンが、そして、規格外の砲弾が。 トドのような何かを、粉微塵に破壊し尽くした。 ● トドが葬られたのを見届け、傷つき果てた仲間に向けて福音を召喚した刹那、フツは走り出していた。 つけっぱなしのAFに仲間の現在位置と状況が逐一表示されるように設定していた。 今映し出されている、鷲祐の状況は「致命的」 ブリーフィングルームで、「友達の友達」は、俺一人で十分だと言っていた横顔が視界の隅に想起される。 リュミエールが、建物の壁を器用に飛び跳ねながら追い越していく。 鷲祐の移動速度が、あまりにも遅い。 トドを倒したことに気がついて、速度を落としてくれたと思いたい。 「――お前はそのままでいい。お前はそういうものだ」 歩行者天国の真ん中。 道幅いっぱいに行き交う影法師。 力任せに放り出される『友達の友達』 嗚咽を漏らしながら、四つんばいで逃げていく。 驚くほど早い。 ナイフを構える鷲祐。 鷲祐の脇腹を中心にして、大体少女の手が届く距離。 執拗なまでに攻撃を加えられた跡。 なぜ、あの傷でまだ立っているのか。 フツは、福音召喚の詠唱を始める。 背後から、智夫の詠唱も聞こえてくる。 「訴え、追われ、逃げ、苦しむ。永遠の輪廻だ。今お前は、お前の本来の役割を果すため、死ぬ」 リュミエールは待っている。 鷲祐が技を放つのを。 「きっといつかまた、『お前』の代わりが生まれる。だが忘れるな、お前の記憶に、俺は永遠に居座ってやる」 傷ついた足が地面を蹴った。 「刻め。神速斬断ッ! ――『竜鱗細工』ッ!!」 赤黒い空気がばらばらに切り裂かれて、『友達の友達』に叩きつけられる。 ああ、青い空なんか見たこともない。 「きっといつかまた、俺が殺してやる」 技の残心を待たずして、鷲祐の体が音を上げた。 倒れ伏す。 それを合図に、リベリスタたちは狩りに走る。 「悪い夢ダカラ、私ガお前ヲ摘み取レバ元通リニナル」 リュミエールは、会話が成立しないのを承知で超遠距離から斬りつける。 「霧散するならそれでよし」 斬乃のチェーンソーが再び唸り声を上げる。 「そうでなければ……容赦なく断ち斬るだけっ!」 チェーンが鎖骨を割り裂いていく。 「怒りで理性飛んじまいそうだな。気合入れさせてもらったぜ」 ささくれ立った唇から滲んだ血をなめとりながら、暖簾は腕を突き出した。 「悪ィがお前さんも逃がす訳にゃあいかねェンだよ!」 稚い額に穴が開く。 「怒りに飲まれて攻撃とかありえないですし?」 桐の呟きは、「竜宮の使い」の稼動音に飲み込まれる。 放たれた真空の刃が腹を断ち割り、出血を強いる。 「私は『虚実の噂を信じない』のでございます」 モニカは、体の中身を落としながら逃れようとする『友達の友達』に宣告する。 「それでも、あなたがそこにいるというのなら、精神的にも物理的にも今すぐ消して楽にして差し上げます。ごゆっくりお休み下さいませ」 慇懃に告げられた終了のお知らせ。 『友達の友達』は、完全否定の内に消滅を余儀なくされた。 割れていく世界。 吹き抜ける癒しの風。 矢継ぎ早に貼られる癒しの符。 意識を途切れさせたらもう起きて来ないような気がしたから、リベリスタたちは口々に鷲祐に話しかける。 「大丈夫だ……。ほとんどは泣きじゃくってただけだから……」 この期に及んでそんなことを言う鷲祐を殴りたい衝動に駆られる。 程なく、空気が変わった。 喧騒。 雑踏の中。 急に現れたリベリスタ達を避けていく通行人。 青い青い空に、すけるような白い月。 その空気の優しさに、戻ってこれたと実感が湧いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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