● ザ、ザー…………。 『うらのべうらのべ! いっち! にっの! さーん! どんどんぱふぱふ。さー、今夜もやってまいりましたうらのべラジオ』 特殊な無線機から流れるのは、ある組織の構成員のみが聴けるラジオ番組もどきだ。 『DJはいつものわたし、『びっち☆きゃっと』の死葉ちゃんでおとどけします』 周波は特殊回線の123。悪ふざけのお遊びで、構成員にとってさほど重要ではないが知っておきたい情報を隠語で知らせるラジオ番組。 DJである裏野部四八……、死葉のトークの軽妙さも相俟ってこのお遊びには組織内でも意外と支持者が多い。 『あー、あー、そう言えばそろそろパーティしたいってこの前誰かがいってましたね! ちなみに○○市の××町ではところによって血の雨がふるでしょー。おでかけのさいはダンビラやチャカなどをお忘れないようお気をつけください』 おや、これは……、久しぶりの、本当に久しぶりのパーティのお誘いだ。 発案者は誰だろう? 名前を言わない所を見ると、売名をする必要が無い程度には売れてる奴が発起人のはずだけど……。 だがそんな事はどうでも良い。趣向も、内容も、未だ判らないが、この放送を聴いた同胞達は○○市に集まってくる。 無論そんな無軌道がまかり通るのは、彼等が裏野部だからである。 裏野部はその性質上、『壊れた』人間が多い。血だか暴力だか自分だかに酔っ払った彼等には定期的な『ガス抜き』が必要だ。それがどれ程無意味な殺戮だとしても。 どれ程の被害をばら撒いたとしても。組織を維持する為に必要な『コスト』の一環であると考えればこそ――否、理性を持つ暴力装置である一二三はきっと面白がって『縄張りの中で部下達がやらかす』事を認めているのだ。 嗚呼、偉大なるかな我等が首領、裏野部一二三様。 そう、我々裏野部に殺戮に理由は要らない。切欠は何だって良い。 とても、とても、とてもとてもとてもとても、パーティが楽しみだ。 ● 「あいぁっしゃしたぁー!」 威勢だけが良い店員の声を聞き流しながら、一ノ瀬・多々良は形の良い眉を顰めた。 雑誌に紹介されてからという物、ラーメン屋『麺々亭』の味は落ちるばかりだ。混み合っているというのに、その人ごみすらも煩わしいだけでしかない。 嗚呼、なんたる悲劇、あの日得た一つの味との出逢いは一つの殺しを防いだというのに……今となっては何一つ私の心を動かさない。 大げさに流れるセルフモノローグと共に別れ行く野口英世の写った一枚のお札。嗚呼……さよなら野口さん。腹は満たされども心は満たされない物のために貴方は往く。 「まあ、それはそれとして、頑張っている店員くんに一つだけプレゼントをあげましょう」 くつくつと喉を鳴らすような笑みを浮かべ、多々良は手に持った木彫りの林檎を投げ渡す。 怪訝な顔を浮かべる店員に悪戯っぽく笑い、店を出る。 「お守りよ。とてもとても大切なモノだから。死ぬまで持っていてね?」 ケタケタと悪意の篭った笑みが溢れる。 多々良の中性的な美貌を歪めるのは被虐への愉悦。殺戮の光悦。無知なる者の末路を嘲笑う悪魔の笑み。 ごしゃっ 『麺々亭』が音を立て瓦礫の塊と化す。悲鳴も軋みも何もなく。ただそれが当然の形であったかのように、塵ひとつさえ残っていない。遺ったのは一抱えの瓦礫の塊。 彼は死ぬまで林檎を持っていたのであろうか? 嘲りを隠すこと無く多々良は囀る。 ごきっ 更に鈍い音が響き、瓦礫の塊が圧され、バスケットボール程の塊と成る。瓦礫の林檎。その内より滲み出る血の朱が陽光に照らされヌラリと光る。 「さあさあ、楽しいパーティーの始まり始まり。早く逃げなくちゃ死んじゃうわよ」 ステッキの先端で塊を弄びながら、一ノ瀬・多々良は携帯端末より連絡を入れる。 アーケード街の至るところから人々の悲鳴が沸き起こり、混乱が広がっていく。 「ゲストを迎える準備は、良ーい? 丁重に、殺しあいましょ」 さあ、パーティーの始まりだ! ● 「緊急の呼び出しですいません。大変な未来が観測されてしまいました」 ブリーフィングルームへと集まったリベリスタへ告げる『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)の表情は暗い。 モニターには、穏やかで平和な街の様子。商店街にアーケード街、住宅街などが映し出される。この場所のいずれかが次の事件の場所だろう。 「モニターに映っているのは、○○市の××町です。地域産業の要所となっているため、ご覧の通り人通りは多いのですが……」 そこで、一度言葉を止め、リベリスタに視線を向ける。 「白昼堂々に裏野部のフィクサードの集団が一般市民を無差別に殺害し始めます。事件の規模は☓☓町全域。 一チームでは対処は不可能と判断した為、五つのチームが派遣されることが決定されました」 モニターが切り替わる。先ほど流れた映像群の一つであるアーケード街が映し出される。 様々な店舗が立ち並んだ人々の行き交う場所。 その様な場所で事件が起こったならば、その混乱はどれ程のものとなるだろうか。 「皆様には街の南方のアーケード街に現れたフィクサードの集団の対処にあたって頂きます」 事件が起こると推測されるポイントはここです、と、切り替わった見取り図に五つの光点が灯る。 「割りと好き勝手な位置に配置されているんだな」 フィクサードがいるという店舗はラーメン屋から同人ショップまでと様々だ。実に趣味的で裏野部らしいといえばらしいのだが……。 問題は店舗同士の距離がそれなりにあるために、完全に抑えようとすると分担するしかない。 分担するにしても、彼我の実力により状況が許されるかどうか? というのも問題だ。 「この区域の『パーティー』のリーダーと思われるのはチーム『A』のラーメン屋にフィクサードです。 林檎の形をした奇妙なアーティファクトを持っていて、次々と人々や建物を塊にしていきます」 次々と物や人を取り込んで巨大になっていく『林檎』を対処しながら戦う必要がありそうだ。 「それと、公園にいる『鳴神』というフィクサードには注意してください。裏野部の古強者で、一般人の殺戮には興味を持ってないようですが『パーティー』に寄ってくるリベリスタを狩るために『参加』している節があります。恐らく、この区域で一番強い存在は彼です」 裏野部の中にも色々な流儀がある。これもその一つだとは言え、その『やり方』で今まで生き延びてきたからにはその実力の程も見えてくるだろう。 「取り急ぎ他の資料も提示しますので、どうか、皆さんご無事で」 祈るように見つめられたら、やってやるしかないじゃないか。 ●資料一覧 チーム『A』 危険度:大 強力なフィクサード単体戦力。奇妙なアーティファクトを使う。 裏野部構成員一人布陣。アーケード街中央にあるラーメン屋『麺々亭』よりスタート。 ケタケタ笑いながら気ままに街を蹂躙していく。 『蛮勇引力』一ノ瀬・多々良 フライエンジェ・デュランダル 裏野部所属のフィクサード。細身の体をスーツで飾った性別不詳。アーケード街周辺のパーティー会場を取り仕切っている。 木槌状の先端を持つステッキのアーティファクトを持ってして特殊なアーティファクトを支配している。 体格に似合わずパワーファイター。ノックバック攻撃を主に活性化している。 アーティファクト『selfish Apple』 ヘタを押し込むと強烈な引力を発生し、あらゆる物を引き寄せつける能力を持つ木製の林檎。 その引力と重力は強力ですが、革醒した存在ならば幾分かは抵抗することが可能です。 チーム『B』 危険度:中 二人一組のフィクサード。仲が悪いが息はぴったり。 裏野部構成員二人布陣。アーケード街外れにあるホビーショップ『728』よりスタート。 言い争いながら淡々と街を蹂躙していく。 『戦鬼発破』二之浦・健剛 ヴァンパイア・マグメイガス 裏野部所属のフィクサード。プラモデルの箱を抱えている。相方の持っているものとはライバル機。 暴力主義者。暴力は正義である。クラスの割りに体格が良い。マグメイガスのスキルの他にデュランダルのスキルもかじっている。 得物は巨大な鎖付き鉄球。球体は神秘だ。 『絶界法拳』三ケ辻山・流々 ヴァンパイア・ホーリーメイガス 裏野部所属のフィクサード。プラモデルの箱を抱えている。相方の持っているものとはライバル機。 法理主義者。弱さは罪である。クラスの割の体格が良い。ホーリーメイガスのスキルの他にクロスイージスのスキルもかじっている。 得物は鋲付きガントレット。神の愛。 チーム『C』 危険度:小 指揮官格とその配下のグループ戦力。数が多い。 裏野部構成員計六人布陣。アーケード街の路地裏にある薄い本販売店よりスタート。 マイナーカップリング支持者の悲哀を滾らせ街を蹂躙していく。他の仲間との合流を果たそうと動きます。 『腐華繚乱』四之条・斬斬舞 ジーニアス・レイザータクト 裏野部所属のフィクサード。ゴスドレスを着飾った残念美人。 優秀な指揮能力を持っているがその発言のほとんどが残念である。 レイザータクトの初級スキルと中級スキルのいくつかを活性化している。 斬斬舞さんのオトモダチ×5 裏野部所属のフィクサード。ゴスドレスを着飾った残念集団 一人前に足を踏み入れた程度の実力。 構成はデュランダル・ソードミラージュ・スターサジタリー・マグメイガス・ホーリーメイガス。 初級スキルと職パッシブを活性化している。 チーム『D』 危険度:小 同等の実力を持った仲良しフィクサード五人組。お互いを補助しあう動きをする。 裏野部構成員五人布陣。アーケード街中央付近のファミレスよりスタート。 五人仲良く気怠げに街を蹂躙していく。割と自由に動いています。 『五行陣・青龍』五郎丸・青冥 ビーストハーフ(蜥蜴)・覇界闘士 『五行陣・朱雀』六櫻社・朱天 ビーストハーフ(鳥)・覇界闘士 『五行陣・白虎』七夜月・虎涯 ビーストハーフ(虎)・覇界闘士 『五行陣・玄武』八千穂・九亀 ビーストハーフ(蛇)・覇界闘士 『五行陣・黄龍』九印字・黄樹 ビーストハーフ(蜥蜴)・覇界闘士 裏野部所属のフィクサード。思い思い私服を着飾った能力者達。 能力は五人とも同一であり、お互いフォローし合う動きをする。 壱式迅雷とランク1のスキルを活性化している。五人特定の配置についていないと使用できない技がある。 EX『五行陣・神雷』 神遠域 ダメージ極大 雷陣 習得した五人が特定の配置についていないと使用できない。 チーム『E』 危険度:特大 ずば抜けた実力を持ったフィクサード一人。殺戮に加わること無く立っている。 裏野部構成員一人。アーケード半ばにある公園よりスタート。 求めるのは唯一、強者との殺し合いのみ。 『鳴神』十蔵 ジーニアス・デュランダル 裏野部所属のフィクサード。着流しの似合う初老の男。二刀流の剣士。 雷光の如き踏み込みと、雷撃の如き剣撃を有する歴戦の戦士。 無差別殺戮より血で血を洗うような激闘を好んでおり、強者の気配がする方に進撃していく。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:築島子子 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月01日(日)00:03 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 白昼の惨劇。文字にすれば高々五文字。それで済まされるには夥しい数の人間の命が刈り取られて行っていた。 数並ぶフィクサードの内で最もシンプルかつ碌でもない連中と目される、過激派『裏野部』の行った示し合わされた無軌道の矛先。 フラストレーションを発散させるためにだけ行われたパーティーに、巻き込まれた無辜の人々の命を省みることはない。 意味もなく。目的もなく。そこにいた。それだけで人は死に、屍を晒す。 裏野部のフィクサードは、碌でもなく意味もない。各々の思うまま、破壊の衝動をまき散らしていく。 ひたすら裏野部的に……。 ● 「……これが裏野部というものですか。ある意味では六道にも劣る」 六道に与する者が聞けば青筋立て猛抗議にあいかねないことを忌々しげに語る『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)の眼前には、内側からの圧力により深い切れ目の入ったテナントビル。 降り注ぐガラスや粉塵に混じりあう濃い血の匂いと人であった物の残骸。 無残に引き裂かれたビルディングと周辺に転がる死体の数々は、路行く人々に否が応でも死を直面させる。 巻き起こったパニック。アーケードの外れにある、同人冊子販売店の周囲は早々にして熱しききった鉄火場の様相を相してきていた。 「少々ヤリ過ぎただけじゃございませんか。それなのに命を狙ってくるなんて、少々酷すぎるんじゃございませんか?」 拗ねたように華やかなる少女が唇を尖らす。そうよそうよと周囲を取り巻く少女たちもまた同調する。他者の命を全く省みることのない白々しい言葉が鼻につく。 華美なゴシックドレスに身を包み艶やかな黒髪を靡かせながら、フィクサード『腐華繚乱』四之条・斬斬舞は自らの存在を誇るべく戦場に咲き誇る。 「なかなか素敵な招待状だね。興の乗らない殺戮はしない主義ではあるけれど……」 戯言など聞く耳なし。『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が踏み込み戦列に捻り入れた二本の凶刃が幻影と舞う。 戦場を切り裂く踊り狂う二本の刃の前に立つ五人のゴシックドレスの少女。斬斬舞の五人の友人。 引き裂かれるドレス。傷ついた肌より溢れ出る血が路上を染める。 「チョイと面白そうなの子もいるようだし。一つ、パーティーと洒落こもう」 優先されるは己が興味。どこか裏野部的なりりすの襲撃に動じることなく踊る様に武装を展開する五人の少女。 斬斬舞が蠱惑に笑う。 「それでは、闘争を始めましょう」 斬斬舞の一言で少女たちが踏み込む。意識レベルでの効率の共有。それを果たされた少女たちの腕は未熟ゆえに上げられた伸びしろの効果を最大限発揮されていた。 「私の力が皆様のお役に立てるのならば……!」 一歩踏み出し『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の神の意志が集約された閃光が灼く。 加速する思考。最高効率を誇る頭脳演算より導き出された閃光を掻い潜り少女が肉薄する。剣戟一閃に立ち塞がるは『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)。 その身に傷を負いながらも放つ漆黒の瘴気が生命を蝕み、瘴気の渦を切り裂く雷光。悠月の朔望の書より放たれたチェインライトニングの術式がフィクサードたちに炸裂した。 戦いの刻は進む。 少女たちの一撃はリベリスタの命へと捉える切ることは出来ず、逆に手傷は増えていくばかり、未熟な回復手の術式だけではフィクサード達の傷を癒し切ることが出来ない。 第一線のリベリスタに対応しきれない事実を早々に悟った斬斬舞は、後方に大きく跳ぶ。 「それでは、皆様、一時のお暇を……」 戦いの余波で焼け焦げたドレスを翻し、少女の顔をした殺人鬼は走り去る。 斬斬舞の行くは、雷光渦巻くアーケードのその先へ……。 戦いは次のフェイズへと続く。 ● 時は同じくして……。 ホビーショップ周辺に血の華が咲く。 「語るべき相手でもなし、さっさと死んで頂きます」 物騒極まりない言葉と共に振るわれた『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)の銀槍の全力の一撃を、ガントレットの背で受け、強引の受け流す。 辛うじて直撃を避けた裏野部フィクサード『絶界法拳』三ケ辻山・流々がその冗談のような威力に笑いを零す。弱さは罪だ。だが、エゴすらも飲み込む強さは祝福である。 「いや、なかなか強さを持っている。ならば、その傲慢すらも許せる」 『斬幻』司馬 鷲祐(BNE000288)の神速の一撃。浅倉 貴志(BNE002656)の内功へと至る透しの一撃が着けた傷跡は小さくない。 受け止め、耐え切り、流々は笑顔すら見せ、願うは神の奇跡、不浄を打ち払う浄化の鎧。 受けた傷の八割を癒し、防御の術を受けながら、流々は笑う。 「癒しの術を持つものを狙うの必定定理。その術に謝り無い」 だがしかし……。 「定理より外れた者も、少なからずいる。私や、彼のような……な」 流々の視線の先には、彼女の相棒たる一人のマグメイガス。 「うおおおおぉぉぉっ!」 鉄球を振り回す裏野部フィクサード『戦鬼発破』二之浦・健剛。巻き起こる戦風が烈風を巻き起こし流々を巻き込んで炸裂する。 戦場を駆ける戦士の技でありながら神秘の術を拠り所にするこの技を、魔術師が魔陣の力を借りて放てば恐るべき威力を発揮する。 机上の空論にすぎないその実証を裏野部のフィクサードがやってのけたのだ。 次々に傷つく仲間に向けすかさず『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)が天使の歌を歌い上げ、発現された癒しの力がみるみる傷を塞いでいく。 「全く、面倒なことをしてくれるわね」 そう呟く彼女の視線の先には健剛の血を吸い赤みを帯びた鉄球。使い込まれたそれを見て、唇を舐め、笑う。 その表情は獲物を狙うそれであるがそれを狙うには戦場がそれを許さない。 膠着の雰囲気を持つこの戦場では、完全に膠着には到っていない。破壊力という一点が、リベリスタが凌駕している。 ただ打ち破る一撃を、それだけを待ち、戦いが続く。 ● 一つ転がり、二つ転がり、三つ転がり漸く止まる。 林檎は転がる。ころころと周囲を巻き込みながら。ひたすら転がる。 気侭な林檎の身勝手な主張。重力こそは吾にあり。 果てなき夢想を身に纏い、その身を象るは瓦礫と血みどろ。 人を喰い、瓦礫を喰い、思いを寄せるは直径12,700km。 裏野部のフィクサードの織り成す殺戮パーティーの怒轟の内に、『selfish Apple』はまた一つ、商店を轢き潰し成長する。 ● 戦いは巡る。 斬斬舞より取り残された少女たちも、よく戦った方だと言えよう。 元より斬斬舞の指揮能力に戦闘能力を上げられていた少女たちである。彼女の不在は、大きく少女たちに影響されていた。 デュランダルの強烈な一撃も躱され、ソードミラージュの速度を備えた連撃も捌かれ、スターサジタリーの銃撃は着弾すれども威力が出ない。 術師達の支援を持ってしてもリベリスタ達のアドバンテージを覆すことは出来ず、襲い来るりりすの斬撃に、ジョンの気糸の一撃に、悠月の雷撃に、禅次郎の省みぬ一撃に、少女達は一人、また一人と倒れ伏す。 そして、最後の少女の胸元にりりすの短剣が深く突き刺さり、この場の戦闘は収まったかに思えた。 雷光が疾走る。 現れたのは、四肢より迅雷の雷光を放ちながら獣相を隠すことない血濡れた五名の闘士。。 裏野部の五行陣。『青龍』『朱雀』『白虎』『玄武』『黄龍』 恐るべき迅雷の使い手がフィクサードが、斬斬舞のエスコートにより現れる。 「さあ、お手伝いが増えたところで、第二ラウンド、始めましょう」 笑う斬斬舞に応えるように、構えを取る五行の闘士。 そして……。 着流しを着た初老の男。腰に挿した二本の鞘。無防備を装いながらも隙の無い立ち居振る舞い。未来視が特に危険と差した男。『鳴神』十蔵。 飄として立つ。血濡れた街の戦場すらも自然体を崩さぬその姿に、紅涙・りりすが笑う。 ● 撃ちあい癒される数もまた数合。 癒しの力に幾度と無く振り出しに戻される暴力と法理による応酬も終焉が近い。 「暴力も法理も所詮力か」 呆れるように、事実を述べるように、ナイフを構え鷲祐は疾走る。 彼が纏うは風。彼の繰り出す一撃は神速の一撃。例え相手が神智の護りの粋を極めた者だとはいえ、神速に至れば神の域、届かぬわけがない。 鷲祐にとり事実がどうであるかなどはどうでもよい。要はこの一撃が彼の中でどのような物であるのか? それに尽きている。 踏み出し地を蹴る。速度、反応、いつも通り。つまり……最高だ! 「……届くッ!!」 口から出た言葉を発し切るその前に、鷲祐の一撃は流々の脇腹を深く切り裂いていた。 「暴力も法理も、悪ならば踏み躙られるだけでしょう」 脇腹を押さえ、苦しげに息を吐く流々を見下し、ノエルが構えるは銀槍Convictio。 踏み出した繰り出す一撃に、足元のタイルが割れ粉塵が舞う。 全力全開の一撃、生と死を分かつ全力のデッドオアアライブ。 「私が弱かった。故にこれは私の罪」 貫き穿たれ、体を引き裂く衝撃に、小さく細かく息を吐き、流々が沈黙する。 「流々!」 駆け寄ろうとする健剛の前に立ちはだかるティアリア。流々が沈黙したと見て貴志が健剛に躍りかかる。 「貴方を倒させて頂きます!」 振り回す鉄球を掻い潜り、流れるように貴志のトンファーが狙うは水月。鉄球を間に挟み入れ急所を庇う姿に構わず、勢い良く踏み込む。 パンッ! と弾ける音が響き、芯まで浸透する衝撃が体を穿つ。 くの字に折り曲げ、健剛が悶絶する。悶絶し、苦悶する。苦しみ藻掻く意識の隅で、最後に見えたのはニコリと笑うティアリアによる、鉄球の無慈悲な一撃。 「そう、球体は神秘だったわね」 意識を失い、倒れ伏すフィクサードに嬉しそうに語るティアリア。 「私もそう思うわ」 衝撃に爆ぜ割れた健剛の鉄球を愛おしげに撫でながら、その日一番の笑顔を見せるのであった。 ● 転がる。回る。轢き潰す。 全てを壊し。全てを殺し。全てを取り込み大回転。 転げ転がり育ちに育った大怪球。 この場にある全ての物はひとつになった。この場にいる全ての者はひとつになった。 育ちに育った大林檎。思いを寄せるは直径12,700km。 「さあ、次に行きましょう」 ステッキを持った存在が、林檎に道を指し示す。 さあ、行こう。さらなる糧が待っている。 ● 雷光よりも早く、速く、疾く、りりすは走る。 迸るアドレナリンが体を突き動かす。彼を、敵を、十蔵を屠らんと、ただそれだけに。闘争のために。 この身を駆り立てる餓えに、渇望に、羨望に、欲望そのままに振るわれる刃。切り裂く刃。リッパーズエッジ。 む、と眉を顰めた十蔵が得物を抜き、交差する瞬間に振るわれる。けたたましい音が響き打ち合わされる二本の刀に二本の疾風の刃。 「なるほど、アークの『人食い鮫』……か。聞きしに勝る悪食だ」 巻き起こる旋風に浅い傷を残し、十蔵が笑う。闘争に、血に、獲物を待ち望む獣のように。この男も、また裏野部。 血を吸い重くなった生臭い風が吹く、血風渦巻く戦場の空気。 その中にありながら、静謐を保つ彼の者『鳴神』 「余程、私に焦がれていたらしい。なるほど、余程に我ら向きではないかね?」 落ち着き払った口調に似合わぬ、鋭い剣筋。二本のアーティファクトを持ってしても捉えきれぬ。剣匠の刃に押さえつけられ押しも引きも出来ぬ刃。片鱗を覗かせる確かな技量にりりすの顔に笑みが浮かぶ。 「他のモノなんぞ如何でも良い。世界が崩壊しようが、誰が死のうが、如何でも良い。そんなモノに興味も無い」 カチカチと打ち合った歯同士で音が響く。嗚呼、そうだ、全てはこの時の為に。 「さぁ、ヤろうぜ。血みどろの殺し合いってヤツをさ。それが御望みだろう?君も。僕も」 この歓びの時の中で果て合おうぜ。鮫の誘いに剣士が笑う。 「応」 疾風の乱舞に『鳴神』の二刀が舞い踊る。 残るジョン、禅次郎、悠月の三人も苦戦を強いられていた。 突如現れた十蔵にりりすが暴発するように挑みかかることは想定済み。 元より最強の駒の存在は最強の駒でなければ抑え切れないとの判断もあり、だが残りの三人に対して敵陣は五行陣+斬斬舞の六人の布陣。倍数を相手取るには苦戦も止むなし。 「さあ、皆さん、蹂躙の時間ですわ」 斬斬舞の号令により、より動きを洗練させる五行陣。 襲い来る『黄龍』九印字・黄樹がジョンに肉薄し龍の如き鱗に覆われた四肢を振るう。迸る雷光。紫電纏う乱舞が、ジョンを、禅次郎を貫く。 「次は大きいのが来るぜ、見てなよ?」 衝撃に耐える二人に黄龍が笑う。 黄龍たる黄樹を中心に四方に配置されるフィクサード。 東の『青龍』五郎丸・青冥、南『朱雀』六櫻社・朱天、西『白虎』七夜月・虎涯、北『玄武』八千穂・九亀。そして央の『黄龍』九印字・黄樹 名を冠したままの方陣の配置、五行陣・神雷。その推定通りの儀式術式の様相に悠月が唸る。 「まだです。効率も安定も定かではない儀式方陣ならば打ち崩すことも可能のはず!」 悠月が繰り出すは雷撃の術式。西洋魔法に傾倒しているが、魔術の名門風宮の術士である以上、陰陽の理もすらも掌握せんと術式を練る。 「木気たる雷よ……木生火の理を以て朱雀を相生し……木剋土の理を以て黄龍を相剋せん」 振り上げた腕。慣れ親しんだ術式に五行の理を当てはめる。狙うは黄龍。 「弾けよ、雷光!」 めくれ上がる朔望の書。迸る雷光が五行陣を撃ち据える。 「ならば、私も、私の出来る限りをしなければいけません!」 ジョンの仕立ての良いスーツが翻し、掲げた腕より放たれる閃光がフィクサード達の視界を灼く。 プロアデプトの高度な演算能力により導き出された閃光は、恐るべき精度を持ってフィクサードに衝撃を与える。 「俺の痛みを……」 脅威的なタフネスを誇る禅次郎も、流石にこれまでの激闘に傷跡も絶えない。 だがしかし、構えた銃剣に宿る黒の呪い。暗黒騎士しか許されない痛みの殺意が傷跡に篭った痛みすら力に変える。 「受け取れ!」 放たれた銃弾が炸裂し、衝撃覚めぬ黄樹を撃ち抜く。渦巻く呪殺が黄樹を蝕む。 だが、しかし、まだ倒れない! 「一度くらいは受け取ってくれよ……」 傷だらけの黄樹が顔を上げる。流石に二度は許されないだろう。だから……。 「「「「「五行陣・神雷」」」」」 五人の声が唱和され、五行のサーキットに雷光が猛る。 恐るべき紫電の渦がアーケード街の屋根を破りながら立ち昇り、リベリスタ達を飲み込んだ。 ● 二名のフィクサードを下したリベリスタ達は先に進む。 先にいるは麺々亭を打ち壊した裏野部フィクサードの一ノ瀬・多々良、そのはずだ。 「何なのです……これは……」 貴志が息を呑む。 周辺の様相は一変していた。 建築物が人がいた痕跡が、全くない。 アーケードの屋根とも床とも言わず全て消失し、剥き出しになった土が大地を覆っているだけ。 フィクサードはどこへ……? 疑問に対する答えは自然に出ていた。 大地を抉った跡が指し示している先の公園は、阿鼻叫喚の地獄に堕ちていた。 ● ころころころころ転がって。 ころころころころ轢き潰す。 阿鼻叫喚の地獄に至り、ころり転がり目指すは直径12,700km。 血と瓦礫の大林檎へ向け、制止の声を掛けるは四名のリベリスタ。 声を掛けども反応はなし。動かく不動の大林檎。 見れば巨大な伽藍堂。巨大で空虚な大林檎。嗚呼……。 「残念無念のお先に失礼」 木彫りの林檎に唇寄せて、姿を消すは……。 『蛮勇引力』一ノ瀬・多々良。 ● 紫電が渦巻き、雷光を撃つ。 神雷を凌ぎ、連撃を耐え、運命の加護を削りながらも的確に反撃を加えるリベリスタにフィクサードは徐々に倒れていく。 ジョン、禅次郎、悠月の三人も満身創痍。だが、必殺の神雷を耐えられたフィクサードに状況を変えるほどの切り札もなく。 最後の五行陣、虎涯が遂に膝をつく。 これで残るは四之条・斬斬舞と『鳴神』十蔵のみ。 そして、りりすと十蔵はまだ死闘の最中にいた。 血風舞う。 りりすの奮う必殺の双刃を捌き、捌き切れない余波の残風で十蔵の血飛沫が舞う。 十蔵の双剣を辛うじて避け、だが千変万化の閃きに対応しきれずりりすの血飛沫が霧散する。 凄惨かつ壮絶な私闘、だが、それすらも楽しみにすぎない。 餓えた獣同士のぶつかり合い。 お互い昂まったボルテージは最高潮で弾け合う。 距離を開けて立つ両者。血に濡れた瞳でりりすが十蔵を睨む。かはぁっと十蔵は血の臭いのする吐息が漏れる。 一歩、踏み出す。距離を縮める血塗れの獣……二匹。 「撤収よ」 無粋。 二匹の獣が睨む。 特に気にする風もなく斬斬舞は日傘を廻し、再び言う。 「撤収よ」 裏野部の獣の瞳に理性が灯る。 「そう、か」 愉しめていたのに、残念だ。 剣を納め、飄々。『鳴神』十蔵。最早いる意味無しと背を向ける。 「待てッ!」 血を吐き、りりすが吼える。 だが、アドレナリンの切れた体は利かず……。 幻想纏いの着信音が鳴り戦いの終結を告げる。 この、血に塗れた戦いの結末は……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|