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<裏野部>白昼の惨劇<ラジヲ>


 ザ、ザー…………。
『うらのべうらのべ! いっち! にっの! さーん! どんどんぱふぱふ。さー、今夜もやってまいりましたうらのべラジオ』
 特殊な無線機から流れるのは、ある組織の構成員のみが聴けるラジオ番組もどきだ。
『DJはいつものわたし、『びっち☆きゃっと』の死葉ちゃんでおとどけします』
 周波は特殊回線の123。悪ふざけのお遊びで、構成員にとってさほど重要ではないが知っておきたい情報を隠語で知らせるラジオ番組。
 DJである裏野部四八……、死葉のトークの軽妙さも相俟ってこのお遊びには組織内でも意外と支持者が多い。
『あー、あー、そう言えばそろそろパーティしたいってこの前誰かがいってましたね! ちなみに○○市の××町ではところによって血の雨がふるでしょー。おでかけのさいはダンビラやチャカなどをお忘れないようお気をつけください』
 おや、これは……、久しぶりの、本当に久しぶりのパーティのお誘いだ。
 発案者は誰だろう? 名前を言わない所を見ると、売名をする必要が無い程度には売れてる奴が発起人のはずだけど……。
 だがそんな事はどうでも良い。趣向も、内容も、未だ判らないが、この放送を聴いた血と暴力に飢えた、或いは鬱憤を溜め切った同胞達は○○市に集まってくる。

 無論そんな無軌道がまかり通るのは、彼等が裏野部だからだ。
 裏野部はその性質上、『壊れた』人間が多い。血だか暴力だか自分だかに酔っ払った彼等には定期的な『ガス抜き』が必要だ。それがどれ程無意味な殺戮だとしても。
 どれ程の被害をばら撒いたとしても。組織を維持する為に必要な『コスト』の一環であると考えればこそ――否、理性を持つ暴力装置である一二三はきっと面白がって『縄張りの中で部下達がやらかす』事を認めているのだ。

 嗚呼、偉大なるかな我等が首領、裏野部一二三。
 他者に傅く等考える事も出来ない我等が其れでも御方に従うは、其の威、其の力、其の恐怖、そして何よりあの方こそが我等の最大の理解者であるが故。
 そう、我々裏野部に殺戮に理由は要らない。切欠は何だって良い。
 とても、とても、とてもとてもとてもとても、パーティが楽しみだ。



「ねえ、きみ」
 男は、囁く。
「なあに、あなた」
 女も、囁く。
「綺麗だね」
 降り注ぐ雨に目を細め。
「そうね、とっても綺麗だわ」
 相合傘を雨が叩く。
 そんな仲睦まじい二人の男女を見守るは、首を失くして血を吹き出す無数の死体達。
 繁華街に、二人の為に血の雨が降る。


「鈴木さん、本当にやるんすか?」
 車を運転する男が助手席に座る自分達のリーダー、鈴木の顔をちらりと窺う。 
「俺達の為ってなら、やめてくださいよ。俺等は別に裏野部に入れなくても鈴木さんの下に居れればそれで……」
 これから起こる凶事に加わる事への恐怖も勿論も手伝い、男は再度鈴木に意見する。
 所詮自分達は半チクなのだ。こんな思い切った事件に関わるのが怖くないわけが無い。
 だがそれ以上に、そんな自分達を見捨てず導き、時には庇ってくれる鈴木にこれ以上の負担をかける事が何よりも心苦しい。
「……チッ、馬鹿野郎。だからテメェは半端だってんだよ。俺は嫌だね。テメェ等が良くても俺が嫌だ。テメェ等が半端者って笑われてる現状が我慢ならねえ」
 そう、鈴木は何時だって自分達の事を考えてくれるから。
「裏野部は良いぜ。何処よりも判り易い。テメェ等を笑う奴だって、首の100や200、千や万も並べれば直ぐにテメェ等を見直すさ。そしてよ。俺は何時かテメェ等と一緒にこの世界に名を残すぜ」
 だからこそ、ああ、そうだ。覚悟を決めよう。
「ってーかよ。俺を裏野部で一人にすんなよ。なぁ、テメェ等も入って来いよ」
『面倒見の良い鈴木さん』の為に。


「私はビールが好きね」
 女は瓶を振るう。ぐしゃり。
「私は断然ウィスキーよ。ビールなんて水じゃない」
 もう一人の女も瓶を振るう。よもや瓶で首が刎ね飛ぶとは、どのような技術で殴ればそうなるのか。
「ビールとウィスキーがどっちが上かは判らないけど、ブランデーが一番美味しいのだけは確かね」
 更に一人、瓶を振るった女の一撃は、人間一人を完全に脳天から叩き潰して砕き散る。
「うーん、品がないなぁ。あ、私はワイン派よ。だって美味しくて可愛いじゃない」
 最後の一人は、ただ眺めるだけで。
「「「「気が合わないわね」」」」
 ぴったりハモる4人の声。
「でもお酒で一番好きなのはビールだけど、一番好きな液体は血だわ」
「あら奇遇ね。私も血が一番好きよ」
「奇遇って程でも無くないかしら。だってそんなの当たり前じゃない?」
「そうね。だからもっともっと殺しましょうよ。まだまだ血が足りないわ」
 ランチの後の、殺戮タイム。


「壱、弐、参、死……死! 死、死、死、死、死死死死死死死死死死死死死死死死死死……」
 血と死と毒の、甘い香りが満ちる教室内で、死体を数える男は行き成り笑い声を上げ始める。
 哀しみと喜びで、男は笑う。
 この教室が最後だった。全ての教室を回ったのに、皆、皆、皆皆皆、1年生も2年生も3年生も死年生も5年生も6年生も、教師も用務員もみんなみんな、死ぬ運命だったのだ。
 かわいそうにかわいそうに、ああ笑える。
 何でだろう? 一人くらい生きる運命の者が居ても良かったのに。不思議だ。とても不思議だ。
 まだ足りないのかも知れない。
「そうだ。次は中学校へ行こう」
 笑いをピタリと止めた男は窓から飛び降りる。意味は無い。そんな事に意味は無い。
 この世界で意味があるのは、生きる運命なのか死ぬ運命なのか、あと薬美味しい。
 ああそうだ。そう言えばこう言う時は悪い奴が良く来るんだ。
 生きる運命の持ち主、生き延びた彼等を、瀕死の狭間で革醒した彼等を、殺しに来る悪い悪いリベリスタが。
「悪い奴は排除しないと」
 じゃあリベリスタを探しに行こうか?
 でも中学校へ行く心算だった筈?
 迷う。悩む。決めれない。
「仕方ないから幼稚園にしよう」
 すっきりした。さあ行こう。幼稚園は何処にあっただろうか? アレは保育所だったかも? まあ良いか。つまりリベリスタが悪いのだ。


「でねぇ」
「でねぇなあ。今幾ら使ったっけ?」
 札を突っ込みながら、ぼやく。
 例えかかったとしてももう取り戻せそうも無いくらいの金額を突っ込んでいるのだけれど、せめて少しでも取り戻さないと。
 きっとあと少しで出る筈なのだから。
「バッドラックだなぁ」
「ハードラックと踊っちまおうぜ」
 それが何時もの負けパターンではあるのだが。 
 まあ今日に限れば別に構いはしないのだ。フラストレーションを発散させる為の材料は、そこら中で暢気な顔して台に向かっている。
 溜めて、溜めて、溜めて、溜めるのだ。
 しかし本当にこの台揃わねぇな。


「さて諸君。ある町で惨劇が起こる。それを止めて欲しい」
 集まったリベリスタ達に『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は簡潔に告げる。
「行き成りで疑問はあるだろう。だが時間が無い。先ず聞いてくれ」
 配られる資料。
「何十人もの裏野部フィクサード達がある町に集まり無差別に人を殺す惨事を我々フォーチュナが予見した。けれどその惨劇発生までにあまりに時間が足りない。避難も到底間に合わない。緊急動員で搔き集めれたのは諸君等を含めた5チームのみ」
 モニターに映し出されるは5つに区分けされた町の地図。
「諸君等にはこの中央部分のフィクサードの排除を担当して貰う。多くの人が集う地域だが、放っておけば奴等はこの地域が文字通りの血の海になるまで殺しを行うだろう」
 集まった大勢のフィクサードがその気になれば、想像もつかない惨劇が起きる筈だ。そう、それこそ一つの町なら完全に殺し尽くすほどの……。
 いや実際に少し前に裏野部のフィクサード達は大量虐殺をやってのけたのだ。
 あの惨劇を再び繰り返すわけにはいかない。
「奴等が何を目的として殺戮を行うのかは判らん。だがそれを考える暇は無い。奴等は人の形をした災厄なのだ。全力で排除に努めてくれ。それでは諸君等の健闘を祈る」




 資料

 チームA
 2人組のチーム。駅前のパチンコ屋からスタート。連携を得意とする。
 メンバー平均危険度A。
(彼等はパチンコに興じている為、始動が他の面子より少し遅い。ただし放置すればパチンコ屋で不運を力に変えた状態で動き出す)

『ハードラック』周防・土岐
 裏野部に所属する男性フィクサード。他人に不幸を押し付ける事で自分は救われるとの考えの持ち主。
 不運を力に変えるアーティファクト『ハードラックシステム』を所持し、其の効果でファンブルをする度に攻・防・命中・回避・速度の能力数値が一定数値上昇、逆にクリティカルするとファンブル一回分の上昇値が消える。
 ジョブはクリミナルスタア。武器はナイフ両手持ち。
 クリティカル、ファンブルは共に20。

『バッドラック』亘理・良哉
 裏野部に所属する男性フィクサード。
他人に不幸を押し付ける事で自分は救われるとの考えの持ち主。
 不運を力に変えるアーティファクト『バッドラックシステム』を所持し、其の効果でファンブルをする度に攻・防・命中・回避・速度の能力数値が一定数値上昇、逆にクリティカルするとファンブル一回分の上昇値が消える。
 ジョブはクリミナルスタア。武器は拳銃両手持ち。
 クリティカル、ファンブルは共に20。


 チームB
 4人組のチーム。商店街の洋食屋からスタート。
 メンバー平均危険度B。

『beer』カヨ
 裏野部に所属する女性フィクサード。クロスイージス。
 好きな酒はビール。武器は恵比寿様のラベルのビール瓶型アーティファクト。このビール瓶で殴られるとショック・圧倒状態に陥る。

『Whisky』ミヨ
 裏野部に所属する女性フィクサード。ナイトクリーク
 好きな酒はウィスキー。武器は真赤蘭と名付けた瓶型アーティファクト。この瓶で殴られると琥珀色の液体が発する香りに囚われ、虚脱・麻痺状態となる。
 

『Brandy』サヨ
 裏野部に所属する女性フィクサード。デュランダル
 好きな酒はブランデー。武器は(OXO)と名付けた瓶型アーティファクト。この瓶で殴られると琥珀色の液体が発するフルーティーな香りに囚われ、虚脱・混乱状態となる。

『wine』キヨ
 裏野部に所属する女性フィクサード。マグメイガス
 4人の中では一番おしゃれに気を使っている風。イタリアブランドが好き。
 好きな酒はワイン。武器はキャンディクラシックと名付けた瓶型アーティファクト。手番を消費して中の液体を飲む事でHPとEPを回復させる。


 チームC
 一人組みのチーム。小学校からスタート。
 メンバーの平均危険度A+。

『junkie』威岐路・死祢
 裏野部に所属する男性フィクサード。非常に危険な人物で裏野部構成員からも一目と共に距離を置かれている。血の香りと薬でとろとろになった頭で、生きる事と死ぬ事の意味を考える為に、今日も人を殺す。そして気まぐれに見逃す。それが気持ち良い。
 彼の所持するアーティファクト『どくどく』は、彼の半径20m以内に立ち入った者全てに毒、猛毒、死毒のバッドステータスを付与する。
 ジョブはプロアデプト。毒無効を活性化。


 チームD
 裏野部構成員一人と、彼個人の手下20名のチーム。道路からスタート4台の車と12台のバイク。
 メンバー平均危険度E。ただしリーダーのみB。

『面倒見の良い鈴木さん』鈴木・蜂矢
 裏野部に所属する男性フィクサード。自らの手下をファミリーと称し、彼等からは非常に慕われている。
 ジョブは覇界闘士。

 鈴木の手下
 ダークナイトとレイザータクトを除く全てのジョブが入り混じる混成軍20名。全員lv1。


 チームE
 2人組のチーム。腕を組んで繁華街からスタート。連携しての戦いを得意とする。
 メンバー平均危険度C。

『愛哀傘左』左
 裏野部に所属する男性フィクサード。愛哀傘右と二人で一つの傘を持ち、柄の部分の仕込み刀を用いて戦うソードミラージュ。
 服装は黒のタキシード。

『愛哀傘右』右
 裏野部に所属する女性フィクサード。愛哀傘左と二人で一つの傘を持ち、先端が銃口になっている傘型マシンガンを武器とするスターサジタリー。
 服装は白のドレス。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年07月01日(日)00:06
 長い長い。超長い。

 成功条件は出来うる限り犠牲者を少なく、フィクサード達を撃退する事。

 今回の依頼では少人数対少人数のシチュエーションが増える為、一人の時に戦闘不能に陥りそうになれば自動的に撤退します。(最後の力を振り絞って安全な場所までいってから力尽きる。次の一撃に耐えれないことを悟って撤退する等)仲間と一緒に居る場合は倒れるまで戦って仲間に連れられて撤退のパターンもありえます。
 フィクサード側も一部を除き、命を捨ててまでどうこうしようと言うほどのモチベーションはありませんので撤退すべき状況になれば撤退を選択するでしょう。
 ただし一部の敵や、ある条件を満たしてしまった敵に関してはは最後まで戦うかも知れません。

 フィクサード出現ポイントの移動はそれなりの時間がかかります。
 全てを零さず救う事は到底不可能でしょう。犠牲者を出来うる限り少なくする道を、どうか見つけて選び取ってください。

 pipiさん、夕影さん、ガンマさん、築島子子さん、4名のSTさんと連動して出していますが、成功失敗は個別です。
 裏野部ラジオはpipiさん発案ではじまりました。妄想って凄いですよね。

 ではお気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
ソードミラージュ
神城・涼(BNE001343)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ダークナイト
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)


 白昼の惨劇。過激派<裏野部>の連中が、自らの欲求の為、或いは鬱憤の発散の為、もしくは売名の為に、只管に殺戮をばら撒く悪夢。
 くだらない。ろくでもない。どうでもいい。クソだ。
『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は思う。
 自分と奴等、裏野部の連中にどれほどの違いがあったものか。でも、それでも、そう。
 ああ、それがどうした。
 そんなクソみたいな物は、ただぶち壊してやりたい。
「行きましょう、敵が災厄なのだとしたら」
 町の入り口に立つ『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)が呟く。
 自分達が裏野部に、災厄にとっての最悪の存在であろうと。
「裏野部は、許さない」
 心に決めて。
 4人ずつの2グループに分かれて街中へと散っていくリベリスタ達。
 裏野部を、この町に降りかかる災厄を打ち砕くために。

 けれど町でリベリスタ達を待ち受ける災厄は彼等の想像以上に……。
 こじりの言葉を借りるとすれば、そう。
「この世は不条理と、不平等と、不公平で埋め尽くされている」
 町が朱に染まっていく。


「ねえ、きみ」
 男は、囁く。
「なあに、あなた」
 女も、囁く。
「此れは少し、拙いね」
 目を細め、傘の柄から仕込んだ刃を引き抜く男。
「貴方と一緒だから死ぬのは怖くないけど、此処はちょっと貧相ね」
 開いた傘の先の銃口をリベリスタ達に向け、女は溜息を吐く。
 非現実的な光景に、何事だろうと遠巻きに眺めながらも歩みを止めず去っていく通行人に、微笑み返す女。
 あと少し、リベリスタ達の到着が遅ければ其の一般人の、無数に溢れる獲物達の血で繁華街を赤く染めれたのに。
 自分達の前に立ちはだかったリベリスタの数は、4人。
 其れも何れも、一目でわかる実力者達。
 この町に集まった裏野部フィクサードの中でもワンランク格の劣る自分達が、この4人の実力者相手に勝利するには、そう、それこそ奇跡が必要だ。
 それは右も、左も、『愛哀傘』の二人は判っているけれど、二人は其れでも睦み合う様に囁きを交わす。
「黙りなさい」
 だが其の囁きはピシャリと放たれたこじりの言葉と、次いで起きた一般人達の悲鳴に掻き消された。
 こじりが『桜』と名付けたショットガンから放った一撃、ピアッシングシュートは銃声と共に左の、男の肩口を貫き真紅の花びらを散らす。
 幻想纏いから引き抜かれた本物の武器、銃声、そして眼前で撒き散らされた血に、一般人達が漸く危機を悟り、我先にと押し合い圧し合い逃げ始めた。
 しかし其の背に向かって、傘から右が、女が銃弾を放つ。
 逃げる獲物を撃ちたくなるは猟師の性か、或いはもっと歪んだ、どうせリベリスタに勝てぬのならば目の前で一般人を殺す事で憂さを晴らそうとの思いか、もしくは自分と男の死地を血で飾りたいだけだったのか。
 いずれにしても、けれども其の弾丸は身を持って射線にと割って入った涼子の体を貫くだけに終った。
 其の目は、下らない事をせず、狙うなら自分を狙えと、言葉よりも雄弁に、涼子の意思を語る。
 弾を後ろに逸らす位ならば、避ける心算すら毛頭ない。
 強すぎる意地と覚悟。時に其れは相手に漬け込まれる隙とすらなりかねないのだが、しかし易々と其の隙を突かせてやる程リベリスタ達は甘くない。
 放たれた銃弾が翳された傘の表面で滑り逸らされ、地面に火花を散らす。
 注意を引くように、わざと甘く弾ける程度の攻撃を放ったのは、『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)。多くの裏野部をフィクサードを、或いは奴等が起こした悲劇を見て来た彼女には、涼子の覚悟が裏野部が大喜びで漬け込んでくる類の物である事を良く知っている。
 だが其れで良いのだ。アークは多種多様な人間が居り、その数だけ価値観が存在する。
 一つの価値観に固まったグループは強いが、崩れ去る時は脆い。多数の価値観が集まるアークは、時にぶつかり足を引っ張り合う事もあるが、はまれば一つの視点からは見えなかった物を見出せる柔軟性を持つ。
 だから涼子は其れで良い。彼女の覚悟を隙だと言うなら、虎美が其処に漬け込ませなければ良いのだから。
 無論、虎美の実力は先程の甘い一撃が全てでは無い。
 ダブルアクション。流れる様な動作で、体を入れ替え、逆手に持った銃の引き金を引き絞る虎美。放つは1枚の小さなコインすら、壁にあいた小さな穴すら通せるほどの精密射撃、1¢シュート。
 愛哀傘の右が、女が、腕に小さな真紅の花を咲かす。

 戦いの時間は数十秒。
 倒れた愛哀傘の右の首筋にピタリと当てられた黒一色のナイトランスに、左の、男の動きが止まる。
「退け。断れば殺す。勿論てめーも」
 殺気と共に撤退を促す『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)。
 其の瞳に燃える怒りが、彼の本気を如実に語る。
 態々手間をかけて非殺を貫く心算など無い。ただ、逃げ帰ってくれるなら時間が節約できるから、そう言ってるだけだ。交渉に時間を取る気も無い。
 左の、男の逡巡は一瞬だった。仕込み刃の柄を持つ手から力が抜ける。
 だが其の一瞬の逡巡が、彼の運命を決めたのだ。
 ずぶり、と愛哀傘の左の胸を、そう、丁度心臓の辺り貫くこじりのショットガン。
 無論ショットガンはそう言う風に使う代物では無いのだが、其の無理を押し通させたのは数々のジョブの中でも有数の攻撃力を誇るデュランダルとしての力と、破壊的な闘気。
「貴方達程度ならこの方が早いわ」
 引き絞られるショットガンの引き金。弾ける闘気とフィクサードの肉体。放たれた技の名は皮肉にもデッドオアアライブ。生か死か、はじめから結果は見えて居ると言うのに。
 だがこじりの行動は確かに手間が無い。実力に劣る彼等とは、言葉を交わすよりも武力をぶつけた方がずっと早い。逃げ延びた彼等が、他の人を手にかける心配も無くなる。
 非情ではあれど、合理的だ。
「……彼ほどには、甘くなれないわね」
 こじりの呟きに、僅かに息を吐いたカルラが、ナイトランスの切っ先を振り下ろす。


 ジリリリリリリリリリ!
 騒々しいパチンコ屋の店内を、それ以上の音で非常ベルが鳴り響く。
 店内に設置された非常ベルを鳴らし、人々に避難を促そうとしたのは『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)。
 しかしパチンコに興じる人々は、煩い非常ベルに一瞬不審げに天井を見上げたりはするものの、直ぐに視線を台へと戻し遊戯に戻ってしまう。
 それどころか幾人かの店舗スタッフが、ベルの停止と、ベルを鳴らした涼を注意するためにやって来てしまう有様である。
 そう、パチンコ店では負けた客が非常ベルを悪戯に、腹いせに鳴らす事は、実は稀にある出来事なのだ。
 必死に逃げろと声を張り上げる涼だったが、台で遊ぶ客や、スタッフ達の反応は実に現実的で、彼の言い分に耳を貸そうとはしない。
 パチンコ屋の客は、例え停電が起きようと、隣の台から出火しようと、大事なのは自分が金を突っ込んでいる台が出るかどうかで、逃げたり退いたりする者は少ない。だって退いた後に座られて其の台で出されたら嫌じゃないか。
 けれどそんな危機感の無い彼等にとっての、災厄が今、店内の一角で正に爆発しようとしていた。
「やっほ~、どう?出てる?」
『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)緊迫感の無い暢気な声と同時に繰り出されたのは、しかしその暢気さとは裏腹に己の生命力を暗黒の瘴気に変化させる一撃。
 更にはその一撃に合わせる様に、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の放つ十字の光、ジャスティスキャノンと、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)の抜き放った黄金のダブルアクションリボルバーでの不運を施す弾丸が、未だ台のハンドルに右手を置いたままの『ハードラック』周防・土岐襲い掛かる。
 粉々に砕ける遊戯台。エルヴィンのジャスティスキャノンこそ外れたものの、葬識、福松の高命中を誇る二人の攻撃は確実に命中して其の身を抉った筈なのに、ハードラックの表情に焦りは出ない。
「こいつ等ありえねえ……。お前等、さっきのリーチ信頼度50%越えてんだぞ……。うわ、ないわ。まじハードラックだわ」
 放り投げられるは、ジャスティスキャノンを避ける際に台からもぎ取ったハンドル。煌めくは、何時の間にか抜き放たれた左右のナイフ。
 けれども殺意に荒れ狂う大蛇の様に振り回された2本のナイフは、リベリスタを傷つける事無く、周囲の台を、更には余りに非現実的な光景にぽかんと口をあけたままハンドルを回し続けていた、パチンコ屋の客を一瞬のうちに切り裂き血煙に変えた。
「……あん?」
 狙いを完全に逸れた己のナイフに不思議そうに首を傾げるハードラック。不運が一つ、ハードラックシステムに溜まる。
 噴出し、撒き散らされた血煙に、漸く自体を把握した客等の悲鳴が響き、この一角の客が逃げ始めた。
「おいおい、何だよ未だ何もしてねえぞ。このタイミングで入る邪魔って、アレか。噂のアークって奴? 面倒くせえなあ。バッドラックにも程があるぜ」
 ジャケットの懐から拳銃を取り出し、大袈裟に溜息を吐いた『バッドラック』亘理・良哉の表情にも、矢張り言葉とは裏腹に焦りの色は無い。
 仲間達の手助けにと逃げる人を掻き分けてコースに入った涼に、冷静に銃弾を叩き込むバッドラック。
 4対2。丁度時を同じくして繁華街で行われている戦いと、同じ比率。
「ちきしょう、不吉やら不運やらの使い手かよ。ついてねえ。ああうざってえ。テメーらゆるさねえ。ハードラックと躍らせてやらぁ」
「本当にバッドラックな日だぜ。この不運、お前らに押し付けて逃れるしかねえよなあ」
 けれど決定的に違う其の態度。
 彼等は己が強者だと知っている。
「させるかよ! 何処からでもかかって来やがれ!!」
 エルヴィンの叫びに力と力が火花を散らしてぶつかり合う。
 葬識、福松の高命中の両名が放つ不吉と不運は、敵の攻撃、防御を絶対失敗させるが、其の反面上昇する敵の能力は不吉と不運が意志の力で捻じ伏せられた時に炸裂する。
 一度捻じ伏せられてしまえば、もはや高まった能力の前に再付与は難しい。
 高まりに高まった敵の爆発的な猛威に、崩壊しかかる戦線は、けれども其の逆境こそを己が領域とする涼の存在により、ギリギリの所で踏み止まった。
 そして一度の危機を乗り越えてしまえば、癒し手であるエルヴィンを抱えて継戦能力に優れるリベリスタ達が戦いの趨勢を握る。
 元よりファンブルで能力を高めるというフィクサード側のシステムは、使い手に大きな負担を強いるのだ。
 攻撃の時のファンブルなら、未だ良い。けれども防御時に起きるファンブルは、驚くほど早く彼等の体力を削っていく。
 不吉と不運で加速された其れは、フィクサード達に正に伸るか反るかの賭けを強いた。
 無論一度の猛威を耐え切られたからと言って、高まった能力が霧消する訳ではないのだが、このまま戦闘を続ければ、其れは正しく命をチップにした賭けとなる。リベリスタ達を倒し切るまでに、ファンブルを出せばそこで終わりの、些か部の悪い賭け。
「人殺しなど許せん!等と言うつもりは無い。が、仁義も美学も何も無いコロシには反吐が出る」
 傷だらけになりながらも黄金色のリボルバーの銃口を向ける福松の目に、覚悟を湛えた任侠者の目に、2人の不運は負けを悟り撤退を提案する。
「ちっ……、かなわねぇな。本当にハードでバッドな奴等だぜ」


 けれどリベリスタ達が人を救えたのは、此処までだ。
 2組のリベリスタ達が次の戦場に辿り着いた時、既に殺戮は始まっていた。

 繁華街から移動したカルラ達が辿り着いたのは、20と1人のフィクサード達の手により破壊される真っ最中の中央道路。
 一人のフィクサード、恐らくはスターサジタリーが拳銃を構え、一台の車のタイヤを打ち抜く。滑り横転した車に、別のフィクサードが更なる一撃を加え……、車の中の一般人を救おうと駆け寄ったリベリスタ達の眼前で、車は爆発炎上する。
 怒りに武器を、其れが元々何だったのかも判別がつき辛くなった鈍器、単発銃を車を破壊したフィクサードへと向けた涼子に、同様に20からの武器の切っ先が向けられる。
 だがそんな涼子を制して前に進み出たのは、
「1対1で、やらない?」
 こじり。辺りの惨状を写す瞳に、感情の色は宿らない。
 そんなこじりの前に進み出るは、此処を荒らすフィクサード達のリーダー『面倒見の良い鈴木さん』鈴木・蜂矢。
 出て来た鈴木の頭部に、隠れ潜む虎美の銃口が狙いを定める。
 こじりの提案は、彼女と鈴木の1対1の戦い。こじりが勝てば鈴木は部下を連れて撤退。鈴木が勝てば、この場のリベリスタ達は彼等の行動の阻害をしない。
 無論双方に保証のない約束ではあるのだが、けれどこじりは確信していた。
「嫌なら、良いの。全員殺すだけだから」
 こじりの言葉に色めき立つ鈴木の部下達。だが鈴木はそんな彼等を手で制し、
「面白い事言う女だな。ちっきしょう。俺の事を良くわかってやがる。良いぜ。受けるぜ。寧ろサービスだ。勝っても負けても退いてやる。ただし俺が勝ったらお前は俺等が持って帰る。リベリスタにしとくにゃ惜しい。お前は俺の横に居るべきだ。後当然約束どおりに他の連中の邪魔は無しだぜ」
 鈴木の言葉に、今度はカルラが、涼子が、怒りを露わにするが、こじりが再び手で制する。
 誰よりも、引き金を引き絞ろうとした虎美を抑える為に。
「良いわよ。早く始めましょう。私達には時間がないわ」

 一方パチンコ店から移動した涼達を待ち受けていたのは、紫色の毒に染まった小学校。
 既に、下の階にあった1年生、2年生、3年生、そして職員室は全滅している。苦しみもがき、裂けた喉から血を吐いて、大人も、子供たちも、絶命していた。
 死体の見開いた目を閉じさせ、葬識は思う。この殺しには余りにも愛が無さ過ぎると。
 命は大切なのだ。葬識も人の道にもとる殺人鬼ではあるけれど、だからこそ、命は大切だと思う。
 糧であるから。
 けれどこの殺しはあまりに無意味で、嗚呼、大量虐殺は美しくない。
「悪い悪いリベリスタのおでました、まっすぐこっちに向かって来い!」
 エルヴィンの怒号と共に放たれるジャスティスキャノン。己に引き付けんとするエルヴィンの一撃は、だが今回このエリアに集まったフィクサード達の中でも最も実力の高い『junkie』威岐路・死祢には掠りすらしない。
 毒が、猛毒が、死毒が、其の背に、殺戮に追いついたリベリスタ達の体を蝕む。
 毒に蝕まれながらもトップスピードを維持し、踊りかかった涼に対しての、懐に潜りこんでの蒼穹の拳の、最大火力を叩き込む構えを取る福松に対しての、死祢が選択する戦術は全力防御。
 血と薬に蕩け掛けた脳は、それでも最適の戦術を選択し、実行に移す。
 体を縮める事で懐に抑えた福松の体を盾に、涼の攻撃を阻害する死祢。
「ようこそようこそ。リベリスタがぁ、壱、弐、参、死、死、死、死、死、死、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! ゆっくりと! 蕩けて! 血を吐いて! 踊れ踊れ踊れ踊れ死ね死ね死ね死ね! うひひひひひひひ! う死死死死!」
 耳障りな殺戮に狂った呪いの言葉。なのに全力防御の構えを崩さぬ其の冷静さ。そう、これが裏野部のプロアデプトの姿。
 高い火力と、この場に居るメンバーの中では最高の命中を誇る葬識のソウルバーンですらが、その防御姿勢の前には真芯で捉える事を許されない。
 否、寧ろこの葬識の存在こそが、死祢から全力防御以外の選択肢を排除した最大の要因であるのだろう。死祢の実力を持ってしても、尚も葬識の一撃は侮りがたい力を秘める。
 故に彼は防御姿勢を崩さない。彼が手を下さずとも、彼の愛する毒が、猛毒が、死毒が、死を撒き散らしてくれるから。
 マナサイクルがあるとは言えど、エルヴィンの回復も無限には続かない。限られたリソースをじわりじわりと削りあう戦いが続く。


 最後の戦場、商店街。其処に、商店街に辿り着いたのはカルラ、虎美、涼子の三人。こじりが身を挺して進ませてくれたのだ。
 けれど3人が其処で見たものは……。
 最初の二箇所は、救われた。次の二箇所は、破壊の途中で食い止められた。
 だが最期に回されたこの場所は……、既に、もう何も無い。ただ、赤に、朱に、真紅に、染まっている。
 全てが潰され、殺され、赤い塊と、染みと化した商店街に佇む4人のフィクサード。
 血に染まった彼女たちは、やって来たリベリスタ達を振り返り、
「あら、リベリスタ? どうやって此処が判ったのかしら。でも残念ね、もうパーティはお開きよ」
 彼等の敗北を、告げた。
「くたばれ糞野郎!」
 涼子の中で、人を救うためにと抑えこんで来た何かが音を立てて切れる。カルラの体から漆黒の闇が溢れ出る。
 突撃した二人を援護する様に、虎美の2丁の拳銃が有りっ丈の弾を吐き出す。
 けれども其れは、既に全て無意味な行為。やり切れない思いを晴らさんとするだけの、リベリスタ達の号泣。

 戦いは永遠には続かない。
 ある戦場ではフィサードが、またある戦場ではリベリスタが、退く。リベリスタが退けど、既に傷を負ったフィクサードも傷をおしてまで殺戮に励みはしない。
 勝者は無く、死だけを残して、戦いは終る。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 最大の敵はポイント間の移動時間でした。
 殺戮は0.5+0.5+1で合計2の計算となります。
 出来うる限り少なくと言うには少し多いのでこの結果になりました。
 ただ、皆さんの行動で大幅に被害が減ったのもまた事実です。
 お疲れ様でした。

 道路、小学校はフィクサード側撤退、商店街はリベリスタ側撤退となります。




 MVPは面白い提案をした方に。
 上手く回れば少人数で一箇所を抑えうる、相手の性格を読んだ良い手でした。