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星空の導―3rd phase―

●続・天珠の争乱
 異世界『天珠』。
 空に浮かぶ浮き島と白い大地、白い草原、白い世界に黒い建築物が立ち並ぶ。
 その一角、例え世界が変わろうと変わらぬ光景が夜闇の中に浮かび上がる。
 街が燃えていた。煌々と、明々と、薄ぼんやりとした光を帯びて人の住処に火の手が上がる。
 それらは徐々に、けれど確実に規模を拡げて行く。方々より上がる悲鳴。怒号と狂乱。
 上がる声は人の型を失い、獣の様な呻きとも苦悶とも分からぬ悲哀が火に照らされた空を焼く。
「……」
 黒い翼の少年は、瞳を伏せてそれを見ていた。
 止めなかった訳では無い。けれど実質的な権力を持たない彼の言葉は、
 決して彼の兄の言葉に優する事は無い。その結果がこの、燃える街並みである。
「……殿下」
「……。分かってます」
 掛けられた声に、手にした旗が揺れる。黒い翼と剣の描かれたその旗を掲げるのが彼の仕事の全てだ。
 それをしなければ終わらない。例え、その行為をどれ程厭おうと。
「此処にプロノトリア陥落を宣言する。翼を上げよ」
「翼を上げよ!」
 各所から上がる声。火の粉を吹き散らす様に広げられた翼は赤と黒。
 白い翼を持つ者、青い翼を持つ者は一人も居ない。その事実を確かめ、少年は奥歯を噛み締める。
「我らが勝利を影月に捧げよ。黒翼は至貴き故に」
「「「「「「――黒翼は至貴き故に」」」」」」

 上がる声はどれもが彼らの勝利を告げ、その栄光を賞賛する。
 朗々たる戦果に頷く将軍の横顔を見つめ、けれど晴れぬ表情のまま。少年は静かに戦旗を掲げる。
 だが果たして、それは本当に幕切れだったのか。
 焼け落ちる家屋と響く誰かの泣き声の内から、応えが返る事は――――無い。

●本部潜入
 アーク本部内、ブリーフィングルーム。
「月の無い夜ほどファンの声援をありがたく感じることは無い。そう思わないか」
 脈絡の無い言葉を程好くスルーする事を覚えたリベリスタ達に、
 けれど『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は止まらない。
 ロックバンドのボーカルと言うのはそういう物なのか、聞いていようがいまいがノンストップである。
「星は何時だって俺達に訴えかけている。幾星霜の彼方から全力のエールを送ってくるのさ。
 正にロックスター。こんなファンコール、答えられなけりゃアーティスト失格だ。そうだろ?」
 そうだろもどうだろも無い物である。
「黒翼教」
 けれど、続く言葉は何処かで聞いた様な語句。
「アザーバイド識別名『バードマン』主導による武装集団。
 まあ、新興宗教団体と言っても間違いじゃないだろうね。
 黒翼を持つ者は正しい。白翼を持つ者は悪い。主義主張は人それぞれとは言え、
 如何にも面倒な思想だよ。それを世界を渡ってまで押し付けてくるんだから尚更ね」
 苦笑いも浮かべずさらりと口にしたか、伸暁がモニターを操作する。

「つまりは、こういう訳さ」
 続いて動き出したモニターに描かれたのは地図。
 それも随分と大きな。まるで――アミューズメントパークの様な。
「最近じゃ余り聞く事も無くなかったけどね、第三セクターによる共同開発事業。
 って言うのを聞いたことは無い? オーライ、詳しい説明は省こう。
 要は国が作って途中放置した建築物。夢に溺れたロマンチスト達のエピローグって所かな」
 肩を竦める仕草をとる伸暁に、けれどいよいよ眉を寄せるリベリスタ達。
 誰だこいつに説明任せた奴。
「随分時間が掛かってしまったけれど、以前捕獲した『バードマン』から
 情報を引き出す事にようやく成功したみたいでね」
 黒翼教と呼ばれる非合法の新興宗教、その本拠地が判明したと。
 本来最初に話すべき内容をこの期に及んで明かす伸暁である。
 何故こんな重要そうな仕事の説明がNOBUなのか。
「とは言え、流石に真っ向からぶつかった場合俺達はともかく
 一般人に犠牲が出過ぎる。と言う事でこれは却下。よりスマートに行こうってわけさ」

 現時点、最大の問題は其処である。黒翼教には無数の一般人が含まれている。
 そして彼らは事が戦闘となれば我が身を省みず襲い掛かってくるのだ。
 殺さず無力化する事の難しさは今更言うまでも無い。正面突破は現実的とは言い難い。
「潜入調査」
 しかしだからと言って、続けられた言葉にリベリスタ達が引き攣る。
 彼らは主に荒事の専門家である。内偵や密偵の様な仕事には慣れていない。
 言うなれば、その任務は非戦闘員の独壇場である。
「極力敵にバレず、見つからず、怪しまれず、敵地の奥まで行って生還する。
 この際そうだな、要人でも確保出来れば万々歳だけれど其処まで無茶は言わない。
 要点は資料に纏めておいたけれど、肝心なのは引き際だね。心はホットに頭はクールに、さ」
 余裕気に笑う伸暁はさておき、差し出された資料の分厚さよ。
 何処かうんざりとした様子で手を差し出すリベリスタ達に、けれどそれで終わらないのがアークである。
「ああ、それともし万が一交戦しても極力一般人は殺さない様に」
 これでもかと重ねられた無茶振りの上、前代未聞の任務が始まる。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月30日(土)23:57
 65度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 お待たせ致しました。星空シリーズ三章第三幕を御届け致します。
 自由度の高い潜入シナリオ。でも地雷原。以下詳細となります。

●作戦成功条件
 一般人を2名以上殺害しない
 上記を満たした上で以下の情報の内2種類以上を取得する。
・黒翼教の陣容
・黒翼教の目的
・黒翼教の資金源
・協力しているフィクサードの所属
・協力しているフィクサードトップの風貌+特徴
・黒翼教トップの風貌+特徴

(得た情報により以後の進展が変化します)

●黒翼教
 黒い翼を貴い物として崇め、白い翼を偏執的に狩る新興宗教団体。
 アザーバイド『バードマン』が黒幕であると想定されている。
 一般人を洗脳し、戦闘員として利用出来る『黒い血晶』と言う
 アーティファクトを複数所有し、急激に規模を拡大している。

●黒翼教本部
 建築途中で放棄されたアミューズメントパーク。
 全体の広さは15万平方m程。これは東京ドーム3.5個分に相当し、
 これがエリアと言う単位でテーマ毎に3分割されている。潜入開始時間は夜。

・アトラクションエリア
 3フロア中最大の空間を占めるエリア。
 作りかけのメリーゴーランド、ジェットコースター、観覧車等がある。
 警備室及び施設管理室、警備員宿舎等がこのエリアに存在する。
【警戒度C】
 一般人の警備員が適宜巡回していますが、
 障害物が多く空間が広い為死角が多く存在する。
 また、電気と電話回線が通っており、電灯が付いている為光源にも困らない。
 
・ショッピングエリア
 土産物屋等の建築物がひしめくエリア。
 殆どの建物が完成しており、主に操られた一般人達が生活している。
 また、捕らえられた白い羽を持つフライエンジェ等も拘束されている。
【警戒度B】
 一般人の警備員、及びフィクサードの警備員が適宜巡回している。
 障害物は多い物の電気が通ってない為光源が無く、視界が通り難く、
 物が多い上音が反響し易い為些細な事で警備員に見つかり易い環境。

・ホテルエリア
 3フロア中最も狭いエリア。2つの宿泊施設が立ち並び、駐車場も有る。
 いずれの建物も大体完成しており、双方5階建て。5階はスイートルーム。
 片方は主にアザーバイド『バードマン』達が、
 もう片方は黒翼教に協力するフィクサード達が宿泊に利用している模様。
【警戒度A】
 主にフィクサードの警備員が巡回しており、厳重と言って良い警戒体制。
 また、バードマンらは命の危険を感じない限り原則ホテルを出ない。
 電気も通っており、警報装置、無線、電話回線等ライフラインは生きている。

・戦闘について
 警備員はお互いにトランシーバーで連絡を取り合っている
 但し幻想纏い等は存在しない為平常時は腰に括りつけている状態。
 連絡が行われた場合警戒度が引き上げられる可能性有り。

 一般人、フィクサード、バードマンらの戦闘能力は
 『星空の導―2nd phase―』のそれらと共通の物です。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
マグメイガス
桐生 千歳(BNE000090)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ナイトクリーク
風歌院 文音(BNE000683)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
スターサジタリー
ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)
★MVP
スターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
ソードミラージュ
ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)

●任務開始~Misson Start~
 時は宵の刻。薄闇に紛れて木陰を辿る影。その数、十。
 互いの動きを確認し合いながら辿り着いたのは廃棄されたアミューズメントパーク。
 アトラクションエリアと呼ばれる区画。その外壁の――更に外。

「……この辺は警備が手薄みたいですね」
 源 カイ(BNE000446)の語に方々が頷く。流石に壁外では警備の手も回らない。
 本来、隠密行動を必要とする任務で全員が纏まって動くと言うのは危険以外の何物でもない。
 が、敵地潜入とは言え突入前なら話は別だ。特に突入するルートの選定には細心の注意が必要である。
 その点、カイの瞳は千里を見通す魔眼である。周囲を見回せば何処に、どの程度の警備が配されているか。
 一目瞭然とまでは行かない物の多少の時間を掛ければ概ね把握出来る。
「一匹見れば何とやらか。さっさと駆除できないのが残念だが駆除の為の下調べは重要だな」
 こちらはこちらで透視を用い彼方此方を見て来た物の、どうも壁外には全く無頓着であると知れると
 思わずそんな毒が漏れるのは止む無い所。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の嘆息に、
 『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090)が大きく頷き拳を握る。
「そうよねっ! 気づかれないように、隠密が原則!!」
「桐生……声が大きい」
 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ)』星川・天乃(BNE000016)が呆れた様に呟くも、
 これも安全圏に居ればこそ。此処から先はそうは行かない。
 外壁をぐるりと巡り集めてきた情報を総合すれば、千里眼でも内部を見通せなかったのは唯一箇所のみ。
「……ホテルのスイートですか」
 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(ID:BNE002546)が小さく呻く。
 案の定、と言うべきか両ホテルの五階。其処には何かの神秘の力が働いているらしく視界が通らない。
 結界の様な物と言うよりも何かが散布して有るらしく、もやの様な物しか見えないのだ。
 不確定要素を極力消したいヴィンセントからすれば不安材料にしかならない。
 が、逆を返せばそれ以外の区画はほぼ把握出来ている。これは実際とてつもないアドバンテージである。
「さーて、それではこっそりこそこそ潜入任務~」
「みっしょんいんぽっしぶるーですねえー」
 ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)、『アークの鴉天狗』風歌院 文音(BNE000683)の2人が
 高い外壁をあっさりと飛び越えると、続いたヴィンセントが用意したワイヤーを使い、
 1人、また1人と壁の内側へと忍び込んで行く。

 この時点で、アトラクションエリア内の警備警戒度は限り無く0に等しい。
 何事もそうであるが、ルーティンワークと言うのは緊迫感を奪うのである。
「緊張しますね~」
「何時ものとおり、やるべき事をやるだけです」
 一方で。冷や汗を滲ませるユーフォリアに『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が告げる。
 そう、全員が一緒に居られるのは此処までだ。此処からは最小限の味方と自身の裁量で乗り切るしかない。
 失敗は許されない場、それ故の緊張。だが、それとて何時もと同じといえば間違いでは無い。
「戦闘があればいいなぁ」
 不穏当な発言を溢しながらも、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)、天乃、文音の三人が先ず移動を開始し、
「どうかご武運を」
 続いて、千里眼を持つカイと、星龍が2人で離脱する。残されたのは5人。此処から更に分散する。
「さーって悪戯しちゃうよー!」
「いや、悪戯はしなくて良い」
 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)の意気込みに、ユーヌが律儀なツッコミを入れる。
 それを困った様に笑いながら眺めるユーフォリアの3人が大きな屋根の有る区画。
 つまりはショッピングエリアへ進路を取ったか。ホテルエリアへ向かうのはヴィンセント唯一人。
「皆ー頑張ってねえー!」
 そして広いアトラクションエリアに残るのもうやはり唯一人。千歳だけである。
 手を振りこそした物の、実の所これはかなりの博打を含む。ペアであれば一人が失敗してもフォローが効く。
 だが、単独潜入と言うのは一瞬のミスが命取りなのである。
「とりあえず、何処から行こう……」
 何処となく不安そうに呟いた千歳もまた、アトラクションエリアの光を避ける様に動き始める。
 此処は伏魔殿。周囲を徘徊するのは全てが敵。だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。
 危険だからこそ――――得られる物も有るのだと信じて。
(……貴方を探すよ、だって友達だもの)

●彼方此方~Buck Up Ground~
「どうです?」
「ううん……かなり入り組んでますね」
 星龍の言葉に、下水を辿るカイが呻く。千里眼は非常に便利で強力な魔眼である。
 だが万能では無い。それを見るのが「人間」で有る以上情報処理の限界と言うのが必ず立ちはだかる。
 例えば、高所から見下ろす事が出来たなら園内の下水の流れ等一目瞭然であっただろう。
 しかし視点が1つで有る以上、壁外からこれを辿るのは立体図を横から見るに等しい。
 どの線とどの線が接続しているかが明確に把握出来ない。情報として不鮮明なのである。
 そして失敗が即撤収に繋がる潜入任務に於いて、不鮮明な情報とは無いも同然だと言える。
「中に入った分辿り易くはなったんですが」
 せめて何処から何処までのルート。と、必要なラインを決めていたならより正確性の高い情報を得られただろう。
 だが、調査と一括してしまえば通路として利用できない事も無い。程度の事しか言え無い訳である。
“……とりあえず、ホテルエリア方面への道だけ分かれば良い”
 幻想纏いから聞こえたのは顰められた天乃の声である。
 その要望に見えた限りの情報を送る物の、何処と無く自信が無いのはこの際止むを得ない事。
 星龍とカイの2人は現在アトラクションエリアの物陰を利用しながら退路になりそうなルートを探っている。 
 やはり最大規模の空間を誇るだけあり、警備もまばらである為か。
 警戒の精度が上がりさえしなければアトラクションエリアから外壁を超え脱出するのが一番安全そうである。

 一方でショッピングエリアから続く玄関ゲートはまるでお話にならない。
 カメラが有るからとか人質が間近に囚われているからとかでは断じてなく、
 警備員が固定配置されているからだ。アミューズメントパークの玄関口は広い。
 車などで突破する事すら可能であると思われる以上当然の処置であろうが……
「後はホテルエリアですね……」
 感情探査を用いて人の気配を探る星龍もほんの僅か眉を寄せる。
 ホテルエリアの方面へ近付くにつれ僅かに感じられるだけだった緊張感が強まっていく。
 これはその方面に緊張状態にある人間が多数居る事を示している訳だが、流石要人のお膝元と言うべきか。
 生半可な対応では突破出来そうも無い。その上、現時点其方へ向かっているのは一人なのである。
「駐車場がある以上退路の確保はそれ程難しくないと――っ」
「――静かに」
 星龍の超直観が、偶々カイの死角を通過しようとした影を捉え言葉を止める。
 これもまた、2人で居る事の利であろう。人間の視界は全方位を把握しきれないのだから。
 懐中電灯を手にしたその人物が立ち去るのを待ち、2人は再進行を開始する。
 進路は既に3名が向かって居る筈のショッピングエリアを外し、ホテルエリアへ。
 千里眼を持つカイが先行し、感情探査を行う星龍がこれをフォローする。
 哨戒を行うのには最適とすら言って良いペアである。そしてパーク内の仔細。
 地形情報の外枠を埋める事によって仲間達を支援すると言う2人の試みは状況を大きく後押しする。
 それはつまり、潜入に於いて情報と連絡と言う物がどれ程重要であるかと言う事も逆説的に示しており――

「――下水のルートが……大体割れた」
「そりゃ結構、さぁてお宝を頂きに行きますかぁ」
「今回に限っては電子網何てお宝の山ですからねえー」
 昨今のマンホールは地面にで打ち付けられている為にあっさり開けたりはしない。
 が、リベリスタにとってそんな物風前の灯である。
 天乃が魔力鉄甲でこれを叩き割る際若干の異音が立った物の、
 これには天乃が注意していた為にさして大きな害はなし。忍び込む事自体は然程難しくも無い。
「やや、さすがに真っ暗ですねー。ぽちっとなっと」
 真っ暗の視界を文音の懐中電灯が照らすと、周囲を据えた匂いと水の音とが包み込む。
 流石にアミューズメントパークである以上園内各所に水路を引いているのだろう。
 下水の接続はあたかも迷路の如く複雑怪奇と言って良い代物である。
 何の情報も無く突入したら先ず間違いなく迷う。そしてカイから得た情報は完全な物とは言い難い。
「……多分……こっち」
「んー……いや。事前に聞いた園内地図と重ねるとこっちじゃねぇ?」
 そして地下迷路と言うのはいとも容易く方向感覚を狂わせる。 
 この場合、御龍の用意したノートPCの存在は大きかったと言えるだろう。
 出発地点さえ分かっていれば。どちらへ曲がったかだけで大体の角度を推測出来る。
 若干余計な時間こそ消費した物の、辿り着いた金属梯子。そしてPCの無線LANが反応した所を見ると、
 此処が“どちらかの”ホテルの下で有る事は間違いが無い。
「ちゃっちゃとお仕事終わらせましょーねぃ」
 電子の妖精。そう呼ばれる能力で以って電子網と一体となった御龍を余所に、
 どうにも手持ち無沙汰で音に耳を済ませる天乃。彼女の集音装置が地上の足音を掴む。

 状況の変化は――その直後。
「……あ」
「あ」
「あー」
 思いも掛けず、3人の声が唱和する。ホテル内の警備システムを掌握し、警報装置を切る。
 帳簿と警備のシフト表を吸い上げる。此処までしておいて。まさかの事態。
 地上から聞こえたのは“火災報知機の音”勿論――電池式である。
「誰か、見つかったみたいですねー」
「……うん、作業急いで」
 天乃の声に、御龍が頷く。すぐさま瞬く幻想纏い。其処から声。地下の闇に朗々と響く――声。

●囚徒背反~Prisoner's Dilemma~
 とん、と。降り立ったのは屋根の上。至極頑丈に作られたショッピングエリア全体の屋根である。
 周囲を見回せばパーク全体が見下ろせる絶好の立地。その上バードマンらが居るホテルエリアからは外れている。
 実の所、恐らくは――千里眼が最大限行かせるポイントである。
「此処からなら何処が怪しいか一目瞭然だな」
 呟くユーヌの視界にはショッピングエリアの内側がほぼ見えている。
 2階建てでも無い限り、一般的に屋根と言うのは1枚である。
 そしてショッピングエリアには2階建ての建築物も勿論幾つか有った物の、平屋も多い。
 これが特殊な建材に満ちた三高平であればそうは行かないだろうが、
 千里眼ほどではない物の透視と集音装置を併用するユーヌが活動する地形としては非常に適していると言えた。
“にしても、俺達いつまで雇われてんだよ”
“だよなあ。しかもこんなかったるい仕事でさ”
“ロバート様は気紛れだからなあ”
“いや、あれで上からの指示通りらしいぜ?”
“や、それは無いだろー。何も考えてないってあの人”
 意識して耳を済ませると聞こえる幾つかの声。駄弁っているのは恐らくフィクサードなのだろう。
 言葉に奇妙な訛りが感じられる。透過の視線を向ければ案の定、喋っている2人は中南米辺りの風貌である。
 聞こえてきた内容をメモするも、時折出て来る名前は総じて2つ。
(“リコリス”と“ロバート”か)
 流石に路上でアークが必要としている情報を漏らす程ザルではないらしく、
 それ以上の情報は得られない。だが、同時に地形把握もしていたユーヌにとっては、
 ノーリスクで得たリターンである。すぐ様幻想纏いを起動し情報を散布しようとするも――
「……?」
 遠く聞こえてきたのは、火災報知機の音。途端、眼下が騒がしくなる。

「この辺ですかね~」
 カイとユーヌが蒐集した情報を元に、ショッピングエリア内で暗躍しているユーフォリアである。
 アトラクションエリアに比べれば遥かに人目も多く見つかり易い環境を、
 影潜みと細心の注意で見事に埋めている。偶に見つかる事が有ってもその対処は鮮やかと言える。
「は~い、通りますよ~」
 飛び交うチャクラムがトランシーバーを弾き落し、返す刃で黒い血晶を抜く暇も無く叩き伏せる。
 流石にフィクサード相手に早々上手くは行かないだろうが、
 相手が一般人である限り即時対応さえ間違えなければ在る程度は何とかなる物である。
 それが革醒者と普通の人間の差であり、違いであると言う事も出来るだろう。
「物陰に隠してっと……あ、居ましたね~」
 確りと見つからない様に倒した警備員を隠したユーフォリアが、そうして辿り着いた先。
 それは商店裏の倉庫である。本来商品の在庫等を詰めておくのだろう陳列棚に格子が渡されており、
 その人一人が生活するには余りにも狭い空間に、白い翼を持った人々が囚われている。
 見た所、年齢層は非常に低い。大半が10代~20代。
 外見が年齢と一致しているのであれば、齢若い。即ち、戦う力に乏しいだろう世代。
「あの~、少し宜しいでしょうか~」
 にこやかに話し掛けるユーフォリアに対し、けれど囚われた白翼のフライエンジェ達は、
 見るからに警戒の色が濃い。それはそうだろう。ユーフォリアもまた白い翼を持っている。
 平常であれば親近感を抱くかもしれないその共通の特徴は、けれどこの場では逆効果である。
「なっ、なんであんた――」
「白い翼じゃないか! どうしてそっち側に居るんだよ!」
 束縛もされず監視をする者すら居ないユーフォリアは、彼らからすれば“捕らえた側”の人間にしか見えない。
 上がる声にはヒステリーの色すら混じり、見て分かるほどに明確な敵意を向けてくる。
 これはユーフォリアからしても想定外だったのか、問いを投げる余地すらない。

 とは言え――日々同じ場所に監禁されている者が連れて行かれ戻ってこない。
 そんな状況を目の当たりにし続けて来た人間が平常心を保てているか、と考えればそれは否である。
 明確に彼らの味方であると示す事が出来るのであればともかく、
 ユーフォリアには“必要な情報が全て集まらない限り”彼らを逃がす心算もない。
 切迫している人間相手に交渉を投げ掛ける。それが如何程に難しいかは言うまでも無い。
「畜生、出せ! 此処から出せよ!」
「もうやだ、おうちへ帰りたい……」
 喚く者、泣き出す者、これほど騒げば誰かが気付いても可笑しくない。
 慌てた様に踵を返すユーフォリア。耳を澄ませば監禁部屋に近付いて来る複数の足音。
「喧しいぞ囚人共! 白卑の眷属の分際で何を騒いでいる!」
 間一髪、補足される事は免れたが、これで此処から情報を得るのは絶望的である。
 この場は逃げの一手あるのみか、と思った丁度そんなタイミング。
 聞こえてきたのは誰でも一度や二度は聞いた事のある甲高いベル。
「ん、なんだ、火事か?」
「おい、ちょっと様子を見て来いよ」
 果たしてそんな声が聞こえたか。早々に離脱を選んだのは正に大正解である。
「まあ、仕方有りませんよね~」
 影に潜み距離を取るユーフォリアを横目に、俄然騒がしくなるショッピングエリア。
「……今がチャンス、かな」
 唯一人残った黒髪黒目の少女はひっそりと。そんな事を呟くと雑踏の中に紛れて行く。

●右往左往~Action & Happening~
 所変わってアトラクションエリア。息を潜めて警備員が通り掛かるのを待つのは勿論千歳である。
 基本警備等と言う物は2人1組で行う為、2人で居る、と言う条件はなかなか難しかった物の、
 しかし場所が場所である。警備は随分と杜撰な物であり単独行動をする者も居ないでは無い。

「やほやほー」
 通り過ぎようとした警備員の死角を縫って近付いた千歳の挨拶に、
 慌てて振り向いた一般人が慌ててトランシーバーを抜く。が――少々遅い。
「千歳のお話、きいてほしーな」
 思念を込めた催眠の魔眼。戦闘能力を底上げされているとは言え、
 あくまで一般人でしかない警備員らに対し、これは当然有効に作用する。
 視線を合わせた瞬間びくりと体躯を震わせると、どんよりと濁った眼で黙り込む警備員。
 手元からトランシーバーがからりと落ちる。
「よし、成功ー。えーっとそれじゃー……」
 だが、一方で。相手はあくまで一般人。下っ端も下っ端でしかない。
 欲しい情報を幾つも質問として投げ掛けるも、返る言葉は酷く主観的で極めて不鮮明な物。
 けれどそれでも、完全な空振りではない。
「貴方達のトップについて、知ってる事を何でも教えて?」
「とっぷ……くろき、とうとき、つばさの、うたひめ。くろひめ、りこりすさま」
 突然出て来た言葉に、余り期待していなかったが故に面食らう。
「と、特徴とかはっ!?」
「おうつくしい、くろのつばさ、ぎんのおぐし」
「銀の、おぐし?」
 銀の御髪。銀髪であると言う事に思い至るまで若干の時間を要した物の、
 容貌、と言うにはやや弱い。だが、ヒントにはなるだろう。
「そっかそっか銀髪……ルシエルとは髪の色違うんだね」
 得られた情報を幻想纏いで伝えようとしたした千歳が、けれど其処ではたと気付く。
 魔眼で催眠を掛けるまでは良い。だが、その催眠状態の相手を最終どうするかまるで考えていなかった事に。

「……あー……どうしよ」
 正に、どうしようである。
 
「なんとか、此処までは来ましたが……」
 アザーバイド『バードマン』の滞在するホテル。その3階。
 ヴィンセントはこの地点で完全に立ち往生を喫していた。警備と言うより“人通り”が多く、まともに進めない。
 気配遮断を駆使し、階段の影と空き部屋と言う巡回ルートの死角を利用している為に、
 見つかる事だけは免れている物のとかく人の通りが激しい。
 総数だけで言えば、恐らくホテル内のバードマンは20に満たない程度である。
 細かく幾つと絞れるほどでは無い物の、少なくは無いが過剰に多くも無い。
 部屋に篭もってさえ居てくれれば上の階へ進む事は十分可能な数の筈である。
 が、これは上からの指示でも出ているのか――彼ら『バードマン』は原則ホテルから出てこない。
 数日ならともかく、これが毎日の事であるならそれは半ば缶詰に等しい。
 流石に暇を持て余すのだろう。彼らはちょくちょくと廊下に出て来る。
 その度にヴィンセントは隠れなくてはならないのだ。厳重警備、と称されるのは伊達では無い。
「後、3階……」
 いっそ。腹を括って飛行を用いれば相応の被害と引き換えに最上階へ辿り着く事は叶っただろう。
 だが、ヴィンセントが取ったのはあくまで安全策。それも、危険を避けただけで安全で有るかは微妙である。
 そして状況が膠着した場合の対処を何か用意してきた訳でも無い。
 詰まる所抜き差しならぬ状況とはこの事である。今更階を下るのもそれはそれで困難だ。
 当然飛行出来る以上は窓を割って出るなら容易である。脱出路は有る。有る、が――
「少々無茶をし過ぎましたかね」
 それでも。じっくりと時間を掛け、更に幸運が彼の行動を後押しすれば或いは突破口も有ったのかも知れない。
 だが、それは仮定の話である。事実として、この時この瞬間に於いては“そうではなかった”のだから。

「――?」
 遠く響く。ジリリリリリリ、と言う甲高い音。何かと思うでもなく廊下の『バードマン』達が騒ぎ出す。
「何です?」「えっ、何の音?」「侵入者らしいですよ」「えっ、侵入者!?」
「どこから」「どうもあの不思議な乗り物の」「だったらあの底界人達が」「そうね、その筈ですけど……」
 聞こえた内容から、誰かが見つかったのだと察するもばたばたと足音。そして扉の開閉する音。
 その殆どが上へ向かっている。恐らくは――5階へ向かっているのだろう。
 何の為にか。当然、この緊急事態に指示を受ける為だ。混乱状態、そして彼は黒翼である。
「……」
 混ざれなくも無いだろう。危険を冒せば、黒翼教トップの情報を得る事が出来るかもしれない。
 だがそれは、折角開けた退路を自ら捨てる行為に等しい。そして、彼はあくまで安全策を選んで来たのだ。
「此処は、退くべきでしょうね」
 5階に『バードマン』が集合しただろう事を考えれば、誘拐等夢のまた夢である。
 強攻策と安全策は相容れない。ヴィンセントは身を翻すと人気の無くなった階下へと駆ける。
 彼の幻想纏いに反応が有ったのは、そんな折のことである。

 ――放置する事にした。
 要約すれば、それだけの事。何も知らない、覚えてない、平常通りである。
 或いはそんな暗示を掛けてから放り出せばまだ何とかなったのだろう。
 けれど、特に気にしていなかったのか、或いは気が急いていたのか。千歳は情報の収集を優先した。
 次から次へと魔眼によって暗示を掛け情報を引き出す。
 警備員毎にそれ程業務に違いが有る訳では無い為それらは余り芳しい結果を齎さないが、
 催眠状態で佇む人間の数は増えて行く。それが他の警備員に見つからない筈も無い。
“定期連絡が無いが、どうしたんだ?”
 トランシーバーから返事が来ない事に誰かが気付き、同時並行してそのぼんやりとした警備員が見つかると、
 これはいよいよ異常事態である。慌ててアトラクションエリアの警備室から、
 フィクサードらのホテルへ電話を繋げば使用中を示す無機質な音。これでおかしいと思わない筈も無い。
 結果――
「ごめええええん!! 見つかったああああああ!!」
 園内全域に鳴り響く火災報知機の音。そして各所の幻想纏いに響く千歳の悲鳴。
 慌てた彼女はそれでも独自に脱出する事無くショッピングエリアへ向かう。
 彼女にとって自分の事は二の次三の次。大事なのはまず、仲間の無事なのだから。
 
●脱出行~Escape!~
 火災報知のベルが響き続けるアトラクションエリア。
「劉さん、どうですか?」
「混乱の感情ばかりですね。まだ状況が正確に把握出来ている人間は少ないようです」
 カイと星龍が退路として目星を付けたのはその一角。スタッフ用の搬入門である。
 アトラクションエリアは空間を母数とした場合に人数の割合が圧倒的に少ない。
 例え多少警戒が強化されようと、大量に人員が追加されたりしない限りその事実は変わらない。
 また幸運な事にと言うべきか、今回黒翼教側は侵入者をはっきり発見した訳でなかったのもこれを後押しする。
 何かおかしな事が起こっている事は間違い無いが、何が原因かは分からない。
 この様な場合普通は原因究明に手を割くより、まずは要人の周囲を固める物であろう。
 結果として――
「ヴィンセントさんと、下水へ向かった3人が遅れているみたいですね~」
「いや、白雪も居ないぞ。何処へ行ったんだ」
「ううう、ごめんねええええ」
 合流を果たした2人に手を合わせる千歳をよしよしと宥めるユーフォリア。
 それを横目に、カイとユーヌが周囲へ視線を巡らせる。
 アトラクションエリア内の警備状況は突入時と大差無い。脱出その物は然程難しくは無いだろう。
 現状――――ままであれば。
「すみません、遅れました」
 ホテルエリアから危うくも脱出を果たしたヴィンセントが5人の下へ駆け寄ると、これで6名。
 残り4名の所在はカイにすら見通せない。じりじりと焦れるその刹那。突然接続する幻想纏い。
「どけどけどけっ! さもないと殺すぞー!」
「えっ」
 響き渡ったのはまさかの鬨の声。話し掛けるもまるで余裕の色が感じられない。
 互いの顔を見合わせる6人は、けれど慌てて救助へ向かう。このままでは脱出も何も有りはしない。
 しかし果たして、何がどうなってこうなったのか。発端は若干過去へ遡る。
  
 情報の回収とホテル内セキュリティの掌握。それに伴い諸々の数的データを取得した下水道班は、
 今回の任務で最も効率的に、行動を成果へ繋げたと言えるだろう。
 万難を廃し下水道を脱出した彼女らが起こした次なる動きは、けれど脱出ではなく更なる情報の取得だった。
「警備員発見……行くよ」
「はいよっとぉ。さぁて、暴れさせてもらうとするかぁ」
 天乃が先導し距離を詰め、御龍がにまりと口元を歪める。他方何処か気乗りしなさげな文音である。
「さてさて、荒事はあんまり得意じゃないんですけどねえー」
 それにどうにも微妙に嫌な予感がする。具体的には言え無いまでも何かが抜けている気がする。
「ん、何だお前ら。何処の警備……ん? いや――」
 対した警備員は恐らくフィクサードなのだろう。文音が黒羽であったが為に一瞬躊躇った物の、
 流石に身内の顔位は把握していると言う事か。慌ててトランシーバーを取り出す。
 応じて駆け寄る天乃。御龍もまた愛刀たる『月龍丸』を嬉々と抜く。
 だが、厳重警戒態勢を敷いている相手に奇襲を仕掛けるのは中々に困難な試みである。
 相手の方が先に気付いたのであれば、彼らは至極当たり前の様にトランシーバーへ連絡を入れる。
 そしてユーフォリアと異なり彼女ら3人はこのタイムラグに関して、対処を用意してきていなかった。
“お、どうした。そっちで何が――”
「……ちっ」
「侵入者だ――! ごふっ」
 天乃の気糸が警備員を雁字搦めにするのと、その叫びとはほぼ同時。
 しかして、向かって来たのはホテルの警備担当をしていたフィクサードの一集団。
 事情を問い質している暇などある筈も無い。3人で2桁を超える警備員は幾ら何でも手に余る。
「あー……よし。ここはすたこら逃げるとしましょう」
 「自分に」清く「自分に」正しい風歌院さんこと文音が決断するまで僅か1秒。
 結果望むと望まざると、攻撃と移動を駆使して逃避行を演じざるを得なくなった訳である。

「――と、言う事なのさぁ」
「言う事なのさじゃないですよっ!?」
 慣れない任務形態である事も手伝ってか、警備と対した場合の対処の甘さが諸に出た形である。
 暢気に告げる御龍に、インターセプトに割り込んだカイが焦りの声を上げるが届いて居るやら居ないやら。
「此処は私達で抑えます。消耗の激しい方は優先して脱出して下さい」
「止めなさい! 千歳の羽が見えないの!!」
 雷神を纏った星龍の射撃が追撃者を纏めて巻き込めば、翼を広げた千歳の手元から放たれる魔炎の火球。
 弾幕を背に駆ける下水道班を、トラックを顕現させたユーフォリアが掻っ攫う。
「ちゃんと掴まっていてくださいね~、飛ばしますよ~」
 正しく。と言うべきか。口調に反し自重しない運転で、アクセルを踏みっ放しのトラックが疾走する。
「それで、情報は?」
「ばっちりだよぉ」
 トラックに同乗したユーヌの問いに、天乃が頷き御龍がノートPCを開く。
 其処に記されたのは黒翼教の経理データ、及び物資の搬入ルート。そして信者の名簿まで揃っていた。
「やりましたね」
「これで少し……あちら側へ近付いた」
 例え明言する事はなくとも、思う所は複雑である。
 天乃の小さな呟きに、似た心境と異なる因縁を持つヴィンセントが小さく息を吐く。
 果たされなかった約束があり、果たしたかった再会がある。躓けない理由はそれで十分。
 こんなところで、何時までも足踏みしてはいられない。
“此方も何とか、撤収に成功しました。千歳さんが――”
“がんばったよ! やっぱり洗脳された一般の人は黒い翼には手出し出来ないみたいだね!!”
 幻想纏いから響いた声に、漸く漏れる安堵の吐息。
 帰路を辿るトラックの中、次へと辿る糸を手繰り、リベリスタ達は力強く拳を握る。

「――ところで、さっきさり気無くスルーされたんだが」
 けれど、其処に割り込んだのはずっと考える様な仕草を続けていたユーヌの言葉。
「白雪は、何処へ言ったんだ?」

●後日談らしきエトセトラ~From Before To After~
 台上に上がるのは銀の髪に黒い翼。年の頃は中学生位と言った所か。少女と形容して良いだろう年頃の娘。
 金糸を縫いこんだ黒いローブ。普段は目深に被っているフードは首の後ろに除けられている。
「皆さん、悲しい出来事が起きました。とてもとても悲しい事です」
 朗々と告げられる言葉は軽やかに。けれど決して狭くは無い屋外ステージ全域に響き渡る。
「慈悲と友愛を旨とし、黒き翼の貴さと白き翼の悪辣さを伝えるべく舞い降りた私達に、
 悪意の刃を向ける方が居ます。皆さんも先日の騒ぎは記憶に新しい事でしょう」
 潜入調査より2日が経過したその日。どうも定期集会と言うらしい。
 野外ステージで語られた内容を要約すればこう言う事だ。
 何も悪い事をしていない自分達に害意を以って接してきた組織が有る。
 それによる罪も無い信者達に少なく無い被害が出た。この様な理不尽を許しておいてはならない。
 白い翼を持つ者が世界に居るだけで、この世界は壊れて行く。12年前の大災害もこれが原因である。
 白い翼を狩り尽くさない限り、この世界に安寧と救いは無い。
 黒き翼を持つ私達はそれを教える為に天より舞い降りた救世の使徒である。
(良く言うよね……口から出任せもここまでやれば立派なのかもしれないけどさ)
 熱狂する信者達に混ざり、苦笑いを噛み殺しながらも黒髪黒目の少女はそれを見続ける。
 誰ならん。ウィッグとカラーコンタクトで変装した白雪陽菜である。
 彼女は潜入時点から1つの狙いを以ってこの作戦に挑んでいた。
 即ち仲間全ての行動をある種のデコイとして、自然に信者の内に紛れると言うのがそれで有る。
 流石に万を超える信者を点呼などしないし、そもそも黒い血晶によって自我を暈されている信者達だ。
 見慣れぬ顔が身近に増えたとしても、然程気に留めたり等しない。
 勿論、見回りのフィクサードらはまた別問題であり、本来であれば此方に発見されても可笑しくは無い。
 言うなれば極めて危険な試みである――が、状況の変化が陽菜を救った。

 外部からの侵入を許したことが発覚した為、警備体制の見直しが行われた所為である。
 外へ警戒を強めれば内側への警戒が薄くなる。
 其処まで見越してか偶々かは不鮮明な物の、これによりこの2日間陽菜を見咎める者は居なかったのだ。
 当然、ステルスとペルソナの併用と言う革醒者に対する最大級のジャミングが施されればこそであるが、
 幸運の後押しを受けてとは言え、これらの本格潜入から得られた情報は極めて貴重な物である。
「リコリス様万歳!」
「「リコリス・ジオ・ゼノフェイム様万歳!」」
「「「白き翼を捧げよ!」」」
「「「「白き翼を捧げよ―――黒翼は至貴き故に!」」」」
 繰り返される讃歌。繰り返される唱和。気だるげにそれを口にしていた陽菜へ、リコリスの視線が一瞬止まる。
「こ、黒翼は至貴き故にー!」
 冷や汗を掻きながら誤魔化す陽菜。驚いたのは視線以上にその瞳の虹彩である。
 片目が銀、片目が黒のオッドアイ。特徴と称して余りある独特な風貌。
 それを強く記憶し、視線が逸れるのを待つ。果たしてこんな無茶が、何時まで保つ物か。
(本当は、白翼の人達も救いたいんだけど……)
 外敵への警備が厳重化する過程で虜囚となっている白翼のフライエンジェ達への、
 警備もまた厳重化してしまっている。
 倉庫に近付く事すら難しい状況では、その目的を果たす事は流石に難が有ると言わざるを得ない。
「……くやしい、なあ」
 悔しくとも、歯痒くとも、1人ではどうしようもない事もある。
 白雪陽菜が黒翼教に入り込んでいた期間は計4日。その間、果たして何人の白い翼が贄とされたか。
 その度に、彼女は唇を噛み締める羽目に陥った物の――けれど。
「募金お願いしまーす」
「黒い羽募金でーす」
「宜しくお願いしまーす」
 一般信者の募金活動に紛れ、そっと姿を晦ますまでの間、彼女はその役割を果たし続けた。
 その行為は、執念は、決して無駄になる事は無いだろう。得られた糧はこれで4つ。

「皆、たっだいまー!」
 どうにも落ち込みそうになる気持ちを奮い立たせて声を上げた三高平の悪戯姫が、
 そんな無茶をする事をまるで知らされていなかった潜入任務のメンバー達にもみくちゃにされるのは
 もう少し。ほんの少し。後の話である。
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルEXシナリオ『星空の導―3rd phase―』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

潜入や調査と言う任務形式は非常に稀有な為、
色々とコツの掴めない部分が多かったかと思われます。
気になった点等は作中で述べさせて頂きました。
総合的に見て、やるべき事はきちんと抑えていた為無事成功です。
MVPは、本日のびっくりどっきりプレイング。
想定の斜め上を成層圏まで突き抜けた白雪陽菜さんへ。
スタンドプレーはリスクにリターンが見合わない事が殆どです。
他の皆さんの行動が結果的にプラスに働いていなければ本当に危ない所でした。
とは言え、噛み合わせと言うのは有る物です。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。