● 闇に閉ざされた森の中を、犬たちが駆ける。 空は鬱蒼とした木々に遮られて、星はおろか月すらも見えない。 しかし、彼らの心はこの暗闇よりも深い絶望と、強い怒りに満ちていた。 頼るべき腕に捨てられて、わけもわからず放り出されて。 満足な餌も得られぬまま死を待つばかりだった彼らは、突如、力を得た。 そして今、彼らは怒りのままに駆けている。 ――憎い。自分たちを捨てた人間が、憎い。 激情に彩られた三十一匹の行進は、果てなく続く。 ● 「……生き物を捨てる奴とか、マジで滅びればいいのに」 ブリーフィングルームでリベリスタ達を出迎えた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、憤懣やるかたないといった様子で呟いた。聞けば、最近になって猫を飼い始めたらしい。 「ああ、悪い。任務の話だったな。 今回はE・ビーストの撃破をお願いすることになる。 悪徳ブリーダーに捨てられて革醒した犬たちで、全部で三十一体」 彼らは深い森の奥に置き去りにされ、生きるか死ぬかという窮地に追い込まれた。 やがて一匹が革醒し、増殖性革醒現象で瞬く間に全体がエリューション化した――ということらしい。 「犬たちは、群れをなして森の中を駆け回っている。 自分らを捨てた人間を恨んでるから、人の気配を察したら問答無用で襲ってくるはずだ」 数が多く、囲まれたら非常に厄介なことになる。 夜間の戦いであるため、照明などの対策も必要だろう。 「今のところ犠牲者は出ていないが、放っておくわけにもいかない。 犬好きにとっては別の意味で辛い任務だろうが、どうかよろしく頼む」 黒翼のフォーチュナはそう言って、リベリスタ達を見た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月22日(金)23:53 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 暗闇で満たされた森は、不気味な静寂を湛えていた。 リベリスタ達が携行する懐中電灯の光が、木々の隙間を照らす。夜目が利かないメンバーにとっては、照明だけが頼りだ。 このような場所に置き去りにされた犬たちの恐怖と絶望を思い、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)が口を開く。 「人の都合で飼われて捨てられて。憎まれても仕方ないよなぁ、これじゃ」 彼の呟きに、『極黒の翼』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が「酷い話もあったもんだね」と答えた。 「やれやれ……犬と人は長き間を共に過ごした友人だというのに……」 『小さく大きな雷鳴』鳴神・冬織(BNE003709)が眉を寄せると、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が言葉を続ける。 「――そいつが、何時からか金で売買するようになっちまった。 その結果がこれってのも、何とも気にくわねぇ話だな」 まるでモノのように取り引きされる動物たちの命。その重さを理解しない、理解しようとしないからこそ、簡単に捨ててしまえるのだろう。そんな人間の身勝手を思い、『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)は怒りを募らせる。 「どんな理由であれ、一度飼ったのなら最後まで家族になれよな」 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が、無意識に拳を握った。 「滅びるべきだな。命を戯れに弄ぶ者も、それに乗じて私服を肥やす者も!」 怒気を露にする仲間達を横目に、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が「この際、悪徳ブリーダーなんぞ如何でも良い」と冷静に言い放つ。 「人の屑より捨てられた犬達の方が重要なのじゃ。怒りに任せて無関係な者を襲う前に止めねばのぅ」 正論だった。犬たちを捨てた悪徳ブリーダーが人として許せない存在であったとしても、今はエリューション化した犬たちの対処を優先しなければならない。 リベリスタ達は一様に口を噤み、感覚を研ぎ澄ませて歩を進めた。 唸り声、下草を掻き分ける音、微かな息遣い――犬の群れが近くにいるなら、必ず何らかの気配があるはずだ。 感情探査で一帯に網を張っていた『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が、こちらに近付いて来る強い憎しみと怒りの感情を察知する。絶望と恐怖も混ざり合って渾然一体としたそれは、犬たちが抱いているものに間違いないだろう。 敵の接近を告げる零二の声を受け、リベリスタ達は木々が比較的まばらな場所を選んで陣を敷く。 後衛が中心に立ち、前衛がそれを囲む円陣。移動中もそれを意識して隊列を組んでいたため、布陣は非常にスムーズだ。 空を翔ける翼と、複数の敵を狙い撃つスキルを持つ『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)、フランシスカ、冬織の三人が、頑丈な枝を選んで降り立つ。視界を広く取り、殲滅力を高める狙いだ。 「――さて、久しぶりのわらわらした依頼ね。 広域神秘攻撃兵器のアタシにこういうのは任せなさいよ」 一見すると大型の弦楽器にも見えるヘビーボウガン――“序曲”ギヨーム・テルを構え、杏が不敵に笑う。 多数の敵を相手にする戦いは、彼女が得意とするところだ。 懐中電灯の明かりで照らされた眼下に、視線を走らせる。昼間と同じようにはいかないが、それでも地上から狙うよりは多くの敵を巻き込めるだろう。 闇に閉ざされた森の奥から、犬たちの気配が迫る。 僅かな時間を使って仲間達が自らの力を高めていく中、冬織が樹上で呟いた。 「無情な話だが、倒すしかない、か」 直後、木々の間を縫って犬たちが姿を現す。 ポメラニアン、トイ・プードル、チワワ、ダックスフント……皆、エリューション化により一回り大きくなっているが、普通の犬と外見的に大差はない。 漆黒の闇で拵えた無形の武具に身を包んだユーキ・R・ブランド(BNE003416)が、薄汚れた毛皮に殺気を纏わせた犬たちを見て、一瞬だけ天を仰いだ。 「あー、もう……これは本当にやる気が削げる……呪いますよブリーダー……」 すかさず前方に視線を戻す彼女の隣で、闘気を全身に漲らせた零二が呟きを漏らす。 「……因果応報、だな」 その言葉は、果たして誰に向けられたものか。 彼は犬たちから目を逸らすことなく、両腕で剣を構えた。 「作戦、開始だ」 ● 癒し手の要として円陣の中央に位置する俊介が、襲い来る犬たちを見つめる。 どうすれば彼らが報われるか、ずっと考えていた。 でも、答えは見つからない。この不運な犬たちに、何をしてやれるというのか。 「――なんて俺は無力なんだ」 唇を噛みつつ、俊介は活性化した魔力を循環させ始める。 流水の構えで前衛に立つクルトが、円陣の外周から鋭い蹴撃を放った。生じた真空の刃が、先頭を走る犬を傷つける。 明かりで確保された視界に複数の敵影を捉えた冬織が、高らかに声を上げた。 「轟け雷鳴! この一撃……生半可なものではないぞ!」 樹上から奔った稲妻が、激しく荒れ狂いながら犬たちを次々に貫いていく。 地を揺るがす轟音に、ベルカは思わず身を竦めた。仲間の術とは分かっているが、それでも雷は少し怖い。 深く息を吸って気を落ち着かせつつ、彼女は防御動作の共有化を行い、味方の守りを固める。 その様子を見た杏が、ベルカに声をかけた。 「ベルカちゃん、ちょっと怖いでしょうけど、こればっかりは仕方ないからちょっと我慢してね!」 事前に展開した魔方陣で爆発的に高められた魔力が、一度に解き放たれる。 破壊をもたらす霹靂が暗き森を青白く染め上げ、犬たちの全身を強かに撃った。 小鬼を従えた瑠琵が、“天元・七星公主”の銃口を天に向けて引き金を絞る。弾丸に込められた呪力が不可視の雲となり、凍てつく氷の雨を降り注がせた。 数の上では、彼我の戦力差は三倍に届く。速やかに敵を減らさなければ、こちらが集中攻撃を受けて倒されてしまう。見通しが良い場所を選んだ分、樹上から攻撃を行う三人は、特に敵の目にも留まりやすいだろう。 犬たちを目掛けて瘴気を打ち下ろすフランシスカを、村田式散弾銃“二四式・改”を構えた烏が援護する。放たれた光の散弾が、闇を切り裂いて敵を捉えた。 低い唸り声を上げて、三十一匹の犬たちが突進する。 樹上の三人を見咎めた犬たちが地を蹴って跳び、その残りが円陣に向かって駆けた。 空中から繰り出される強襲が、血を啜る鋭い牙が、勢いを乗せた体当たりが、リベリスタ達を傷つける。 後衛の前に立って猛攻を食い止めながら、ユーキは小さく溜息をついた。 逃げない犬猫は大好きだ。逃げる犬猫も切ないが好きだ。 そして、逃げずに襲いかかってくる犬猫は―― 「……やはり好きなんですよねえ、これも。仕事だから討伐は、いたしますが」 やりきれない思いを抱えつつ、漆黒のオーラを呼び起こす。夜の闇を纏った一撃が、眼前の犬たちを射抜いた。 残像を生み出し、周囲の敵に鋭い斬撃を浴びせていく零二が、犬たちを真っ直ぐに見る。 彼らの憎悪は、人間から受けた仕打ちの記憶を根源としているのだろう。ならば、そこを刺激することで気を惹けないだろうか。 「良い子だ。――『お座り』」 捨てられる前、ブリーダーにかけられたであろう言葉を予測して語りかけるも、目立った変化はない。 それだけ怒りが強いのか、あるいは、そもそも声をかけてもらえる環境になかったのか。 クルトが、狂ったように牙を剥く犬の前に腕を翳し、喉笛を庇う。 片腕に牙を食い込ませたまま、彼は疾風の如き速力をもって雷撃を纏う蹴りを次々に放った。 多勢を相手にする以上、後衛も敵の攻撃を免れられない。前衛である自分が避けてしまえば、それだけ後衛の危険が増す。ここで引くわけにはいかない。 それに、クルトは心に決めていた。犬たちの怒りを受け止め、その憎しみごと破壊する――と。 俊介が、円陣の中心から癒しの福音を響かせる。 外周で奮戦する前衛たちのおかげで、彼の傷は比較的浅い。しかし、犬たちの攻撃は苛烈だ。少しでも油断すれば、一気にやられてしまうだろう。 「それほどまでに、辛かったんだろう、悲しかったんだろ?」 返答がないのを承知で、俊介は言葉を続けた。 「来いよ! それで怒りがおさまるのなら、俺は何度だって受けてやるよ!!」 痛くても、辛くても――自分達にしてやれるのは、たったこれだけ。 神秘の閃光弾を手にしたベルカが、大きく表情を歪めた。 「信ずべきマスターを失う苦しみ、痛いほどに分かる。 こうする事しか出来ない私を許せ! 許してくれ……頼む……」 投擲された閃光弾が、轟音とともに犬たちの視界を灼く。 冬織の雷光が戦場を駆け巡る中、フランシスカが暗黒の瘴気で二匹の犬を屠った。捨てられたことに同情はするが、彼らを放っておくわけにはいかない。 「被害が出る前に、安らかな眠りを」 仲間を倒されても、犬たちの戦意は一向に衰えなかった。 次々に襲い来る体当たりを、ユーキは防御を固めて耐える。吹き飛ばしで陣形が乱されるのは避けたい。 しかし、立ち塞がる前衛を飛び越え、樹上の三人を強襲する犬たちも少なくはなかった。夜目が利き、優れた嗅覚を持つ犬たちにとって、彼女らの居場所を掴むのはさほど難しくない。 苦肉の策として、零二が持参のペットフードを己の周囲にぶちまける。烏が光の散弾で空中の犬を撃ち落しにかかる中、瑠琵が鴉の式神を放って一匹の狙いを自分に向けた。 「憎んでくれて構わんが、見逃す訳には行かぬ」 怨みの篭った視線を真っ向から受け止め、瑠琵は迷いの無い口調で言う。 犬たちの攻撃が途切れた一瞬の隙を突いて、杏が激しい雷を呼び起こした。 無意識に体を強張らせるベルカを眼下に見て、そんな彼女を可愛らしいと思う。 (こんなに頼りがいのある風貌なのに雷が怖いとか、なにこれ、萌え? ギャップ萌えなの?) ――戦いが終ったら、頭を撫でてあげたい。 ● 蹴り足に雷撃を纏わせ、クルトが周囲の犬を薙ぎ払う。その中の一匹が大きくよろめいたのを見て、冬織が頭上に魔力の大鎌を召喚した。 「命を刈り取れ大鎌よ。そして、我に力を寄越せ!」 収穫の呪いを刻んだ巨大な刃が、傷ついた犬を両断する。続いて、烏が光の散弾でさらに二匹を撃ち倒した。 「これで十二匹撃破――ってところかねぇ」 敵は減りつつあるが、まだ数の上ではリベリスタが不利だ。 樹上のメンバーをフォローするにも、庇うことができない以上は限界がある。運悪く、彼女らに攻撃が集中した時、それを食い止めるのは難しかった。 犬たちの強襲を立て続けに喰らったフランシスカが力尽き、杏も運命を削って遠のいた意識を繋ぐ。 これ以上、戦闘不能者が増えるのは非常に拙い――そう判断した零二は、迷わず俊介の守りについた。癒し手が健在である限り、立て直しはきくはずだ。 瑠琵が“天元・七星公主”を構え、弾丸を憑代に式を打つ。空中に姿を現した鴉の式神が、鋭い嘴で犬を襲った。 「回復はすけしゅんとんに任せるわ」 枝の上で体勢を立て直した杏が、眼下に雷を落としながら声を放つ。 返答が無いので、彼女は俊介を見てもう一度言った。 「聞いてるの? 貴方よ、霧島すけしゅんとん」 「誰がすけしゅんとんだッ!!」 全力で異議を申し立てつつ、俊介が癒しの福音を響かせる。彼の回復に背を支えられながら、リベリスタ達は犬たちに攻撃を加えていった。 ユーキが常闇の恐怖を秘めた漆黒のオーラで敵を撃ち、冬織が黒き大鎌を召喚して弱った犬に止めを刺す。なおも襲い来る犬たちを迎え撃つべく、ベルカが銃剣を構えた。 しかし――。 「くそっ! 銃のボルトが重い!」 訓練で何千何万と繰り返してきたはずの動作が、何故か思うようにいかない。 「なんで手がもつれる!? 撃たなきゃ当たらんのだぞ!」 彼女の叫びに、獣の低い唸り声が重なる。 両の腕で猛攻を受け止めながら、クルトが眼前の犬に囁いた。 「いいぜ、ぶつけてこいよ。憎しみなんか、ここでぶつけていけ」 鋭い牙を突き立てられた彼の腕は、流れる血で赤く染まっている。 構いやしない。二本の腕くらい、くれてやる――。 冷気を纏ったクルトの回し蹴りが、カウンターで犬に叩き込まれた。 呪力を天に放ち、氷の雨を降らせる瑠琵が、罪無き犬たちに語りかける。 「因果応報。罪人は必ずその報いを受けるじゃろう」 ――だから、せめて。無関係な人々を手にかけてしまう前に。 「最期は、安らかに眠ってはくれぬかぇ?」 一匹、また一匹と、犬が地に崩れ落ちる。 敵の数が十を切ったところで、烏は“二四式・改”を構えて前進した。 犬たちは未だ逃走の気配を見せてはいないが、警戒するに越したことはない。全ての敵を射程内に留めつつ、光の散弾を撃ち放つ。 ユーキが自分に喰らいつく犬に牙を立てて血を啜った直後、杏の雷撃がひときわ蒼く輝き、犬たちを薙ぎ倒した。 ボロボロの姿で起き上がり、なお向かってくる犬を見て、俊介が声を絞り出す。 「次、生まれてきたらさ、俺んとこ来いよ」 不器用だけど、動物は好きだから。きっと、最後まで傍にいる。 「だから、だから――もう、止めてくれ」 滅ぼすためではなく、その牙と爪を、これ以上血に染めぬために。 俊介は、全てを焼き尽くす聖なる光で犬たちを包みこむ。 残像とともに駆けた零二が、剣の一振りで彼らの行進に終わりを告げた。 ● 「これでおしまい、かな」 木の幹に背を預けて立ち上がったフランシスカが、敵の全滅を見届けて呟く。 地面に舞い降りた冬織が、犬たちの亡骸を見下ろして口を開いた。 「我も、猫を飼っているのだがな……このような末路だけは、勘弁だな」 改めて、自分が預かっている命の重さを噛み締める。 フランシスカは目を閉じ、両の手を合わせて彼らの冥福を祈った。 「哀れな魂たち、次の生では幸せになれますように――」 リベリスタ達は、倒した犬たちを集めて弔うことにした。 亡骸の傍らに膝をついた俊介が、そっと手を伸ばして開いたままの目を閉じてやる。 許してくれなどとは、決して言わない。 「お疲れ、次はきっと良いセカイ。それまでお休みな」 彼はそう言って、犬の背中を優しく撫でた。 全ての亡骸を丁寧に回収した後、零二はゆっくりと天を仰いだ。 「……テリー、ハッピー。そちらにたくさん友達がいく。 いつかオレが往く迄、一緒に遊んでいてくれ」 空は見えなくても、想いはきっと、届くだろう。 旅立った犬たちに向けて、クルトが「Wiedersehen(さようなら)」と囁いた。 その後、リベリスタ達は全員で犬たちが捨てられた場所に向かう。 エリューション化を免れた犬が残っているかもしれない――という淡い希望は、しかし、無惨に打ち砕かれた。 革醒できなかった犬たちは、全て、衰弱の果てに死を迎えていたのである。 ショックのあまり立ち尽くすベルカの頭を、杏が撫でた。 撫でられながら、ベルカは肩を震わせる。 「泣かないと決めたはずなのに、私は軟弱者だ……ちょっと吠えてくる!」 彼女はそのまま身を翻し、森の奥へと駆けた。 「ゴッドスピード、友よ! せめて今は安らぎにあらん事を!」 理不尽に命を奪われた犬たちのため、腹の底から叫び、吠える。 ベルカの声を背中で聞きながら、ユーキが眉を寄せた。 改めて、怒りがふつふつと湧き上がる。 「……ちょっと八つ当たりがしたい気分ですね。件の悪徳ブリーダーに」 そんな彼女を見て、烏が口を開いた。 「実はおじさん、出掛けに奥地君に頼んできたんだわ。 この犬達を捨てた悪徳ブリーダーを突き止めて欲しいってね」 それを聞き、俊介が顔を上げる。 できるものなら犬を捨てた連中を殴ってやりたいと、顔に書いてあった。 「確かに彼奴等は罪人じゃが、私刑は赦されぬぞ」 やんわりと釘を刺す瑠琵に、ユーキが答える。 「なあに、常識の範囲内で嫌がらせをするだけですよ、ええ」 「悪行には相応の報いをとは思うがな、ヒトの業の深さはエリューションより怖いもんだ」 烏もまた、そう言って新しい煙草に火を点けた。 神秘の絡んでいない組織に、アークとして必要以上の介入はできないだろう。 だが、匿名で通報を行い、彼らの違法性を訴えることは可能なはずだ。 同じ悲劇が繰り返されることのないよう、手は打っておきたい。 「何ともな、煙草が不味くなる話だよ――」 烏は紫煙を吐き出し、低い声で呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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