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三十一匹のマーチ


 闇に閉ざされた森の中を、犬たちが駆ける。
 空は鬱蒼とした木々に遮られて、星はおろか月すらも見えない。

 しかし、彼らの心はこの暗闇よりも深い絶望と、強い怒りに満ちていた。
 頼るべき腕に捨てられて、わけもわからず放り出されて。
 満足な餌も得られぬまま死を待つばかりだった彼らは、突如、力を得た。
 そして今、彼らは怒りのままに駆けている。

 ――憎い。自分たちを捨てた人間が、憎い。

 激情に彩られた三十一匹の行進は、果てなく続く。


「……生き物を捨てる奴とか、マジで滅びればいいのに」
 ブリーフィングルームでリベリスタ達を出迎えた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、憤懣やるかたないといった様子で呟いた。聞けば、最近になって猫を飼い始めたらしい。

「ああ、悪い。任務の話だったな。
 今回はE・ビーストの撃破をお願いすることになる。
 悪徳ブリーダーに捨てられて革醒した犬たちで、全部で三十一体」
 彼らは深い森の奥に置き去りにされ、生きるか死ぬかという窮地に追い込まれた。
 やがて一匹が革醒し、増殖性革醒現象で瞬く間に全体がエリューション化した――ということらしい。
「犬たちは、群れをなして森の中を駆け回っている。
 自分らを捨てた人間を恨んでるから、人の気配を察したら問答無用で襲ってくるはずだ」

 数が多く、囲まれたら非常に厄介なことになる。
 夜間の戦いであるため、照明などの対策も必要だろう。

「今のところ犠牲者は出ていないが、放っておくわけにもいかない。
 犬好きにとっては別の意味で辛い任務だろうが、どうかよろしく頼む」
 黒翼のフォーチュナはそう言って、リベリスタ達を見た。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月22日(金)23:53
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 E・ビーストの全滅。

●敵
 悪徳ブリーダーに捨てられた後、革醒した犬のE・ビーストが31体。
 トイ・プードル、チワワ、ダックスフント、ポメラニアン、柴犬など、人気のある犬種が多く含まれています。
 体格がやや大きくなっている他は、外見的に大きな変化はありません。
 捨てられた恐怖と恨みで凶暴化しており、全力で戦いを仕掛けてきます。

 【吸血の牙】→物近単[HP回復][流血]
   対象一体に噛み付き、血を啜ります。
 【強襲】→物遠単[弱点][ショック][隙]
   地を蹴って跳躍し、対象一体に襲いかかります。
 【体当たり】→物近単[ノックバック]
   至近距離からの体当たりで対象一体を吹き飛ばします。

  ※『暗視』『猟犬』『超反射神経』と同等の能力を所持。

●戦場
 鬱蒼とした森の奥。時間帯は深夜で、ほぼ真っ暗です。
 的確なスキルや照明等がない場合、命中と回避に大きなペナルティがつきます。
 人はまず近寄らないため、一般人の対策は考えなくて構いません。

 情報は以上となります。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
マグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
デュランダル
四門 零二(BNE001044)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
覇界闘士
クルト・ノイン(BNE003299)
ダークナイト
ユーキ・R・ブランド(BNE003416)
ダークナイト
フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)
マグメイガス
鳴神・冬織(BNE003709)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)


 暗闇で満たされた森は、不気味な静寂を湛えていた。
 リベリスタ達が携行する懐中電灯の光が、木々の隙間を照らす。夜目が利かないメンバーにとっては、照明だけが頼りだ。
 このような場所に置き去りにされた犬たちの恐怖と絶望を思い、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)が口を開く。
「人の都合で飼われて捨てられて。憎まれても仕方ないよなぁ、これじゃ」
 彼の呟きに、『極黒の翼』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が「酷い話もあったもんだね」と答えた。
「やれやれ……犬と人は長き間を共に過ごした友人だというのに……」
 『小さく大きな雷鳴』鳴神・冬織(BNE003709)が眉を寄せると、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が言葉を続ける。
「――そいつが、何時からか金で売買するようになっちまった。
 その結果がこれってのも、何とも気にくわねぇ話だな」
 まるでモノのように取り引きされる動物たちの命。その重さを理解しない、理解しようとしないからこそ、簡単に捨ててしまえるのだろう。そんな人間の身勝手を思い、『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)は怒りを募らせる。
「どんな理由であれ、一度飼ったのなら最後まで家族になれよな」
 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が、無意識に拳を握った。
「滅びるべきだな。命を戯れに弄ぶ者も、それに乗じて私服を肥やす者も!」
 怒気を露にする仲間達を横目に、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が「この際、悪徳ブリーダーなんぞ如何でも良い」と冷静に言い放つ。
「人の屑より捨てられた犬達の方が重要なのじゃ。怒りに任せて無関係な者を襲う前に止めねばのぅ」
 正論だった。犬たちを捨てた悪徳ブリーダーが人として許せない存在であったとしても、今はエリューション化した犬たちの対処を優先しなければならない。

 リベリスタ達は一様に口を噤み、感覚を研ぎ澄ませて歩を進めた。
 唸り声、下草を掻き分ける音、微かな息遣い――犬の群れが近くにいるなら、必ず何らかの気配があるはずだ。
 感情探査で一帯に網を張っていた『闇狩人』四門 零二(BNE001044)が、こちらに近付いて来る強い憎しみと怒りの感情を察知する。絶望と恐怖も混ざり合って渾然一体としたそれは、犬たちが抱いているものに間違いないだろう。
 敵の接近を告げる零二の声を受け、リベリスタ達は木々が比較的まばらな場所を選んで陣を敷く。
 後衛が中心に立ち、前衛がそれを囲む円陣。移動中もそれを意識して隊列を組んでいたため、布陣は非常にスムーズだ。
 空を翔ける翼と、複数の敵を狙い撃つスキルを持つ『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)、フランシスカ、冬織の三人が、頑丈な枝を選んで降り立つ。視界を広く取り、殲滅力を高める狙いだ。
「――さて、久しぶりのわらわらした依頼ね。
 広域神秘攻撃兵器のアタシにこういうのは任せなさいよ」
 一見すると大型の弦楽器にも見えるヘビーボウガン――“序曲”ギヨーム・テルを構え、杏が不敵に笑う。
 多数の敵を相手にする戦いは、彼女が得意とするところだ。
 懐中電灯の明かりで照らされた眼下に、視線を走らせる。昼間と同じようにはいかないが、それでも地上から狙うよりは多くの敵を巻き込めるだろう。

 闇に閉ざされた森の奥から、犬たちの気配が迫る。
 僅かな時間を使って仲間達が自らの力を高めていく中、冬織が樹上で呟いた。
「無情な話だが、倒すしかない、か」
 直後、木々の間を縫って犬たちが姿を現す。
 ポメラニアン、トイ・プードル、チワワ、ダックスフント……皆、エリューション化により一回り大きくなっているが、普通の犬と外見的に大差はない。
 漆黒の闇で拵えた無形の武具に身を包んだユーキ・R・ブランド(BNE003416)が、薄汚れた毛皮に殺気を纏わせた犬たちを見て、一瞬だけ天を仰いだ。
「あー、もう……これは本当にやる気が削げる……呪いますよブリーダー……」
 すかさず前方に視線を戻す彼女の隣で、闘気を全身に漲らせた零二が呟きを漏らす。
「……因果応報、だな」
 その言葉は、果たして誰に向けられたものか。
 彼は犬たちから目を逸らすことなく、両腕で剣を構えた。
「作戦、開始だ」


 癒し手の要として円陣の中央に位置する俊介が、襲い来る犬たちを見つめる。
 どうすれば彼らが報われるか、ずっと考えていた。
 でも、答えは見つからない。この不運な犬たちに、何をしてやれるというのか。
「――なんて俺は無力なんだ」
 唇を噛みつつ、俊介は活性化した魔力を循環させ始める。
 流水の構えで前衛に立つクルトが、円陣の外周から鋭い蹴撃を放った。生じた真空の刃が、先頭を走る犬を傷つける。
 明かりで確保された視界に複数の敵影を捉えた冬織が、高らかに声を上げた。
「轟け雷鳴! この一撃……生半可なものではないぞ!」
 樹上から奔った稲妻が、激しく荒れ狂いながら犬たちを次々に貫いていく。
 地を揺るがす轟音に、ベルカは思わず身を竦めた。仲間の術とは分かっているが、それでも雷は少し怖い。
 深く息を吸って気を落ち着かせつつ、彼女は防御動作の共有化を行い、味方の守りを固める。
 その様子を見た杏が、ベルカに声をかけた。
「ベルカちゃん、ちょっと怖いでしょうけど、こればっかりは仕方ないからちょっと我慢してね!」
 事前に展開した魔方陣で爆発的に高められた魔力が、一度に解き放たれる。
 破壊をもたらす霹靂が暗き森を青白く染め上げ、犬たちの全身を強かに撃った。
 小鬼を従えた瑠琵が、“天元・七星公主”の銃口を天に向けて引き金を絞る。弾丸に込められた呪力が不可視の雲となり、凍てつく氷の雨を降り注がせた。
 数の上では、彼我の戦力差は三倍に届く。速やかに敵を減らさなければ、こちらが集中攻撃を受けて倒されてしまう。見通しが良い場所を選んだ分、樹上から攻撃を行う三人は、特に敵の目にも留まりやすいだろう。
 犬たちを目掛けて瘴気を打ち下ろすフランシスカを、村田式散弾銃“二四式・改”を構えた烏が援護する。放たれた光の散弾が、闇を切り裂いて敵を捉えた。

 低い唸り声を上げて、三十一匹の犬たちが突進する。
 樹上の三人を見咎めた犬たちが地を蹴って跳び、その残りが円陣に向かって駆けた。
 空中から繰り出される強襲が、血を啜る鋭い牙が、勢いを乗せた体当たりが、リベリスタ達を傷つける。
 後衛の前に立って猛攻を食い止めながら、ユーキは小さく溜息をついた。

 逃げない犬猫は大好きだ。逃げる犬猫も切ないが好きだ。
 そして、逃げずに襲いかかってくる犬猫は――

「……やはり好きなんですよねえ、これも。仕事だから討伐は、いたしますが」
 やりきれない思いを抱えつつ、漆黒のオーラを呼び起こす。夜の闇を纏った一撃が、眼前の犬たちを射抜いた。
 残像を生み出し、周囲の敵に鋭い斬撃を浴びせていく零二が、犬たちを真っ直ぐに見る。
 彼らの憎悪は、人間から受けた仕打ちの記憶を根源としているのだろう。ならば、そこを刺激することで気を惹けないだろうか。 
「良い子だ。――『お座り』」
 捨てられる前、ブリーダーにかけられたであろう言葉を予測して語りかけるも、目立った変化はない。
 それだけ怒りが強いのか、あるいは、そもそも声をかけてもらえる環境になかったのか。
 クルトが、狂ったように牙を剥く犬の前に腕を翳し、喉笛を庇う。
 片腕に牙を食い込ませたまま、彼は疾風の如き速力をもって雷撃を纏う蹴りを次々に放った。
 多勢を相手にする以上、後衛も敵の攻撃を免れられない。前衛である自分が避けてしまえば、それだけ後衛の危険が増す。ここで引くわけにはいかない。
 それに、クルトは心に決めていた。犬たちの怒りを受け止め、その憎しみごと破壊する――と。

 俊介が、円陣の中心から癒しの福音を響かせる。
 外周で奮戦する前衛たちのおかげで、彼の傷は比較的浅い。しかし、犬たちの攻撃は苛烈だ。少しでも油断すれば、一気にやられてしまうだろう。 
「それほどまでに、辛かったんだろう、悲しかったんだろ?」
 返答がないのを承知で、俊介は言葉を続けた。
「来いよ! それで怒りがおさまるのなら、俺は何度だって受けてやるよ!!」
 痛くても、辛くても――自分達にしてやれるのは、たったこれだけ。
 神秘の閃光弾を手にしたベルカが、大きく表情を歪めた。
「信ずべきマスターを失う苦しみ、痛いほどに分かる。
 こうする事しか出来ない私を許せ! 許してくれ……頼む……」
 投擲された閃光弾が、轟音とともに犬たちの視界を灼く。
 冬織の雷光が戦場を駆け巡る中、フランシスカが暗黒の瘴気で二匹の犬を屠った。捨てられたことに同情はするが、彼らを放っておくわけにはいかない。 
「被害が出る前に、安らかな眠りを」

 仲間を倒されても、犬たちの戦意は一向に衰えなかった。
 次々に襲い来る体当たりを、ユーキは防御を固めて耐える。吹き飛ばしで陣形が乱されるのは避けたい。
 しかし、立ち塞がる前衛を飛び越え、樹上の三人を強襲する犬たちも少なくはなかった。夜目が利き、優れた嗅覚を持つ犬たちにとって、彼女らの居場所を掴むのはさほど難しくない。
 苦肉の策として、零二が持参のペットフードを己の周囲にぶちまける。烏が光の散弾で空中の犬を撃ち落しにかかる中、瑠琵が鴉の式神を放って一匹の狙いを自分に向けた。
「憎んでくれて構わんが、見逃す訳には行かぬ」
 怨みの篭った視線を真っ向から受け止め、瑠琵は迷いの無い口調で言う。
 犬たちの攻撃が途切れた一瞬の隙を突いて、杏が激しい雷を呼び起こした。
 無意識に体を強張らせるベルカを眼下に見て、そんな彼女を可愛らしいと思う。
(こんなに頼りがいのある風貌なのに雷が怖いとか、なにこれ、萌え? ギャップ萌えなの?)
 ――戦いが終ったら、頭を撫でてあげたい。


 蹴り足に雷撃を纏わせ、クルトが周囲の犬を薙ぎ払う。その中の一匹が大きくよろめいたのを見て、冬織が頭上に魔力の大鎌を召喚した。
「命を刈り取れ大鎌よ。そして、我に力を寄越せ!」
 収穫の呪いを刻んだ巨大な刃が、傷ついた犬を両断する。続いて、烏が光の散弾でさらに二匹を撃ち倒した。
「これで十二匹撃破――ってところかねぇ」
 敵は減りつつあるが、まだ数の上ではリベリスタが不利だ。
 樹上のメンバーをフォローするにも、庇うことができない以上は限界がある。運悪く、彼女らに攻撃が集中した時、それを食い止めるのは難しかった。
 犬たちの強襲を立て続けに喰らったフランシスカが力尽き、杏も運命を削って遠のいた意識を繋ぐ。 
 これ以上、戦闘不能者が増えるのは非常に拙い――そう判断した零二は、迷わず俊介の守りについた。癒し手が健在である限り、立て直しはきくはずだ。 
 瑠琵が“天元・七星公主”を構え、弾丸を憑代に式を打つ。空中に姿を現した鴉の式神が、鋭い嘴で犬を襲った。

「回復はすけしゅんとんに任せるわ」
 枝の上で体勢を立て直した杏が、眼下に雷を落としながら声を放つ。
 返答が無いので、彼女は俊介を見てもう一度言った。
「聞いてるの? 貴方よ、霧島すけしゅんとん」
「誰がすけしゅんとんだッ!!」
 全力で異議を申し立てつつ、俊介が癒しの福音を響かせる。彼の回復に背を支えられながら、リベリスタ達は犬たちに攻撃を加えていった。
 ユーキが常闇の恐怖を秘めた漆黒のオーラで敵を撃ち、冬織が黒き大鎌を召喚して弱った犬に止めを刺す。なおも襲い来る犬たちを迎え撃つべく、ベルカが銃剣を構えた。
 しかし――。
「くそっ! 銃のボルトが重い!」
 訓練で何千何万と繰り返してきたはずの動作が、何故か思うようにいかない。
「なんで手がもつれる!? 撃たなきゃ当たらんのだぞ!」
 彼女の叫びに、獣の低い唸り声が重なる。
 両の腕で猛攻を受け止めながら、クルトが眼前の犬に囁いた。
「いいぜ、ぶつけてこいよ。憎しみなんか、ここでぶつけていけ」
 鋭い牙を突き立てられた彼の腕は、流れる血で赤く染まっている。
 構いやしない。二本の腕くらい、くれてやる――。
 冷気を纏ったクルトの回し蹴りが、カウンターで犬に叩き込まれた。
 呪力を天に放ち、氷の雨を降らせる瑠琵が、罪無き犬たちに語りかける。
「因果応報。罪人は必ずその報いを受けるじゃろう」
 ――だから、せめて。無関係な人々を手にかけてしまう前に。
「最期は、安らかに眠ってはくれぬかぇ?」

 一匹、また一匹と、犬が地に崩れ落ちる。
 敵の数が十を切ったところで、烏は“二四式・改”を構えて前進した。
 犬たちは未だ逃走の気配を見せてはいないが、警戒するに越したことはない。全ての敵を射程内に留めつつ、光の散弾を撃ち放つ。
 ユーキが自分に喰らいつく犬に牙を立てて血を啜った直後、杏の雷撃がひときわ蒼く輝き、犬たちを薙ぎ倒した。
 ボロボロの姿で起き上がり、なお向かってくる犬を見て、俊介が声を絞り出す。
「次、生まれてきたらさ、俺んとこ来いよ」
 不器用だけど、動物は好きだから。きっと、最後まで傍にいる。

「だから、だから――もう、止めてくれ」

 滅ぼすためではなく、その牙と爪を、これ以上血に染めぬために。
 俊介は、全てを焼き尽くす聖なる光で犬たちを包みこむ。
 残像とともに駆けた零二が、剣の一振りで彼らの行進に終わりを告げた。


「これでおしまい、かな」
 木の幹に背を預けて立ち上がったフランシスカが、敵の全滅を見届けて呟く。
 地面に舞い降りた冬織が、犬たちの亡骸を見下ろして口を開いた。
「我も、猫を飼っているのだがな……このような末路だけは、勘弁だな」
 改めて、自分が預かっている命の重さを噛み締める。
 フランシスカは目を閉じ、両の手を合わせて彼らの冥福を祈った。
「哀れな魂たち、次の生では幸せになれますように――」

 リベリスタ達は、倒した犬たちを集めて弔うことにした。
 亡骸の傍らに膝をついた俊介が、そっと手を伸ばして開いたままの目を閉じてやる。
 許してくれなどとは、決して言わない。 
「お疲れ、次はきっと良いセカイ。それまでお休みな」
 彼はそう言って、犬の背中を優しく撫でた。
 全ての亡骸を丁寧に回収した後、零二はゆっくりと天を仰いだ。
「……テリー、ハッピー。そちらにたくさん友達がいく。
 いつかオレが往く迄、一緒に遊んでいてくれ」
 空は見えなくても、想いはきっと、届くだろう。
 旅立った犬たちに向けて、クルトが「Wiedersehen(さようなら)」と囁いた。 


 その後、リベリスタ達は全員で犬たちが捨てられた場所に向かう。
 エリューション化を免れた犬が残っているかもしれない――という淡い希望は、しかし、無惨に打ち砕かれた。
 革醒できなかった犬たちは、全て、衰弱の果てに死を迎えていたのである。  
 ショックのあまり立ち尽くすベルカの頭を、杏が撫でた。
 撫でられながら、ベルカは肩を震わせる。
「泣かないと決めたはずなのに、私は軟弱者だ……ちょっと吠えてくる!」
 彼女はそのまま身を翻し、森の奥へと駆けた。
「ゴッドスピード、友よ! せめて今は安らぎにあらん事を!」
 理不尽に命を奪われた犬たちのため、腹の底から叫び、吠える。

 ベルカの声を背中で聞きながら、ユーキが眉を寄せた。
 改めて、怒りがふつふつと湧き上がる。
「……ちょっと八つ当たりがしたい気分ですね。件の悪徳ブリーダーに」
 そんな彼女を見て、烏が口を開いた。 
「実はおじさん、出掛けに奥地君に頼んできたんだわ。
 この犬達を捨てた悪徳ブリーダーを突き止めて欲しいってね」
 それを聞き、俊介が顔を上げる。
 できるものなら犬を捨てた連中を殴ってやりたいと、顔に書いてあった。
「確かに彼奴等は罪人じゃが、私刑は赦されぬぞ」
 やんわりと釘を刺す瑠琵に、ユーキが答える。
「なあに、常識の範囲内で嫌がらせをするだけですよ、ええ」
「悪行には相応の報いをとは思うがな、ヒトの業の深さはエリューションより怖いもんだ」
 烏もまた、そう言って新しい煙草に火を点けた。

 神秘の絡んでいない組織に、アークとして必要以上の介入はできないだろう。
 だが、匿名で通報を行い、彼らの違法性を訴えることは可能なはずだ。
 同じ悲劇が繰り返されることのないよう、手は打っておきたい。

「何ともな、煙草が不味くなる話だよ――」
 烏は紫煙を吐き出し、低い声で呟いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
数史「お疲れさん。全員、無事に戻ってくれて何よりだ。
    あとは――こんな風に捨てられる犬達が少しでも減るように、だな」

 木々が少ない地点ということもあり、枝の上に立って攻撃していた方々に敵の攻撃が寄ってしまう場面も見られましたが、回復が厚く、また全体の連携もしっかりしていたため、致命的な事態には至りませんでした。

 動物が酷い目に遭うシナリオは書き手としても何とも言えない気分にさせられますが、皆様の心情や、その後の働きかけなどを見て、幾分か救われた思いです。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。