● 「死ぬなよ?」 「無茶ゆーなよ……」 「いいから。俺がいいって言うまで死ぬんじゃねーぞっ! すぐ連れて帰ってやっからっ。この際、桃子に土下座してでも……」 「韮崎さんにして。桃ちゃんに借り作ると、後怖い……」 「だよな」 「帰りたい」 「ああ」 「もうすぐ待機してる連中が来てくれる。そしたら、すぐ帰れっから……」 互いに肩を貸しあいながら、アスファルトを歩いた。 他の仲間は、だめだった。 俺とこいつだけが残った。 「ほんとに俺ら、よく生き残ったよな」 「……ほんとにね」 「どうした? 顔色悪いぞ」 「俺は、大丈夫」 大丈夫だよ。と、相棒は搾り出すように言った。 ● 「帰ってこさせないで」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の表情は硬い。 「ノーフェイス及びE・アンデッド討伐。気をつけて」 それが何を意味するか。 「知ってる人もいるかもしれない。アークのリベリスタ。作戦中に――」 片方は、死んだ。 片方は、フェイトを失った。 二人以外は、みんな死んだ。 名前が告げられ、息を呑む者も何人かいる。 「E・アンデッド。識別名『フォーゲット』 彼は、自分が死んだことに気がついてない」 映し出された写真は、アークの制服を着て、どこかくすぐったそうに笑った写真。 「ノーフェイス。識別名『ヒドゥン』 彼は、フォーゲットが死んだことを、フォーゲット自身から隠そうとしている」 映し出された写真は、三高平学園高等部の制服。眠そうな顔。 「二人は、仲良し。アークのレクリエーションでも大体一緒に行動してるし」 イヴは、無表情だ。 『今、二人はお互いに肩を貸しあいながら歩いてる。フォーゲットは自分たちが大怪我したと思い込んでるから」 ほんとはそんなの必要ない。 フォーゲットは忘れている。ヒドゥンが隠している。 死体に大怪我なんて関係ない。 化け物の進化は着々と進んでいる。 「だから、奇襲して倒せれば、こっちの損耗は少なくて済む」 アークの顔見知りに攻撃される困惑と絶望感に苛まれながら死んでいくだろうけど。 「死んだ人間は自分では思いつかない。面と向かって『おまえは死んでいるんだよ。だって、これこれしかじかだから』まで言わなければ、腕がもげようが、足がもげようが、はらわた飛び出そうが気にならない」 アンデッド。 生前の神経回路はすでに壊死し始めている。 「だけど、フォーゲットは、自分が死んでることに納得したら強くなる。ヒドゥンを逃がそうとするだろうね」 イヴは大きく息を吸う。 「ヒドゥンは決めかねてる。約束を果たそうかどうしようか」 イヴは無表情だ。 「みんなもしたことない? 『もしも、エリューションになったら』」 そのときはおまえが殺してくれないか。 約束は、もちろん果たしたいけれど。 俺がおまえを殺したら、だれが俺を殺してくれるんだ? 「ヒドゥンは、まだ話は通じるけど、時間の問題」 イヴは、無表情だ。 「どちらにしても、二人はもう三高平に迎えられない」 イヴは、無表情だ。 「私の代わりに、サヨナラを言ってきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月22日(金)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「お久しぶりで~す。先輩、すっげ巨乳でしたね」 「すいません。こいつ、VTS研修からずっとこの調子で……」 「聞いて下さいよ。トオッパってば、ぺったんこのロリ!」 「黙れ、ぱっつん熟女! 死んでしまえ!」 ツァイン、久しぶりに会う後輩から乳の話。 ● 「せ~んぱ~い! あれ、何でリベリスタが迎えに来てんの? 化けもんだったら、俺ら倒してきたよ」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は、手を振って答える。 闇を見通す目。 手を大きく振り回す、識別名「フォーゲット」 立ち止まった、識別名「ヒドゥン」 アーク本部の廊下で会えば、目を交わし、互いの武運を祈る。 時々、こんな別れが来る。 「おっす、お前等、よく頑張ったな!」 ツァインは、そう言わずにいられない。 彼らは、リベリスタとしての生き様を全うしたのだ。 (何度でも言うよ、これはリベリスタとして、絶対に避けちゃいけない仕事だ) ヒドゥンは、気がついている。 リベリスタは、傷ついた二人を迎えに来たのではないことを。 「きゃー、先輩、もっとほめてよ。みんな、みんな、ほんとにがんばったんだよ」 よたよたとよろめきながら、フォーゲットはヒドゥンの傍から離れる。 「あ……」 ヒドゥンの指は、届かなかった。 『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)が打ち合わせどおりに、フォーゲットに飛びついた。 凍夜とフォーゲットがもつれ合うように崖を落ちていく。 谷は思いの他深い。 ガードレールを飛び越えて、ツァインは谷下の闇に身を躍らせた。 ルーメリアが谷の半ばで待っている。 ● 「玲ちゃんは大切にしなくちゃ」 「トオッパ、俺にも優しくして」 「暖かいお茶飲んでね。大丈夫? 桃ちゃんに借りとか作るもんじゃないよね」 「俺にもくれよ!」 「トオッパ言うな! おまえが玲ちゃんの年のとき、玲ちゃんは幼稚園児だ! 同じ扱いがいいとかバカか!? 死んでしまえ!」 『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)、桃子に頼まれて、限定スイーツ買いに極寒の300メートル行列で。 ● 玲の眼帯が外されて、黒と緋の瞳がさらされている。 いつも強気な玲の眉間にはしわが寄ったままだ。 「さて、碌でもない依頼じゃな。かつての仲間に手をかけなければならぬかもしれぬとはのぅ。どうしたものか……むーぅ……」 唸る玲。 「去っていった多くの人に言えなかった言葉を言うことが出来る。それだけが今回の救いよね」 それを幸せといえる程度に、糾華の周囲は死に満ちている。 「死なれるのは、もう沢山」 (それでも誰かが死に、誰かを手に掛けるのでしょうね) すぐそこにヒドゥン。 (果たして説得は成功するじゃろうか……覚悟的な意味でリボンは外そう。うむ) ほどかれるリボン。 夜風が玲の髪を乱す。 「玲ちゃん? 糾華ちゃんも来てくれたの」 違和感を感じない。 ノーフェイス。足りないのは恩寵だけだ。 「久しぶりね。とりあえずお疲れ様」 糾華の口元に柔らかく笑みが浮かぶ。 「この前は世話になったのぅ。お主のような頼れる先輩がいてよかったと思うのじゃ」 玲の口から最初に漏れたのは。感謝だった。 「薄々感づいているだろうけれど、聞いて欲しい。貴方達の事だから」 「お主は何もせずとも誰かを悲しませてしまうことになるのじゃ……」 『なにもしなくても、あなたは世界の害になる』 だから、自分がどんな存在とアークに認識されたのか、ヒドゥン――和には痛いほど分かっている。 「俺は自分で死ななきゃならない存在だね。でも、心残りがあるんだ。ごめんね」 和の目が、今、明が転がり落ちていった谷を見ている。 「ありがとう。俺と明にちょっとだけ時間をくれるんだね。ほんとに、アークのリベリスタってお人よしばっかだよね……」 ● 「おっ! ルメちゃんか。野球やってんの内緒にしてないんだ? 極めちゃえ。女子でも甲子園いけるんだぜ?」 「機嫌いいね。昨日もごひいきさん、勝ったしね。俺は、三連敗でどん底だけどね」 「そんなトオッパに、励ましのお便りを!」 「トオッパ言うな。でもルメちゃんがお便りくれたら嬉しいかな」 「ナンパ?」 「くたばれ」 ルーメリア、放課後の校庭で。 ● 「助けにきたのー! 大丈夫? 痛い所ない……?」 ルーメリアは落ちてくるフォーゲットと凍夜が怪我をしないように草を敷いていたのだが、どこからダイブするかの打ち合わせもなく、暗闇の中で不規則な隆起のある谷。 その位置に落ちるとは限らなかった。 様子を見てからと思っていたルーメリアだったが、本当に捜索してようやく二人を見つけた。 凍夜が動かない。 頭の下に大きな岩。 リベリスタだから即死ということはないだろうが、すぐ動けというのは酷な話だ。 「おっ! ルメちゃんか。俺は大丈夫だけど、雪白さんが動かない。回復頼むわ! しかし、何で雪白さん、俺にタックルなの? 行き過ぎた愛?」 よく知ってる少し弾む語尾と、軽口。 「うん……うん」 「でさ。今回、連動作戦だっけ? 俺らの手際悪かったからなぁ」 頭をかく爪がぐじゃぐじゃになっていることにフォーゲットは気づいていない。 その血がとうに冷え切っていることに、これっぽっちも気づかない。 大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。 こんなになるまで戦って、命を落として。 でも、お兄さんはそのことを忘れて笑っている。 「俺、先に上に戻るな。トオッパ怪我してるんだ。あいつ、自分の傷も治せないでいるから。雪白さん治したら、あいつのことも治してな」 「遠葉さんには、別の人達が助けにいったから大丈夫だよ……?」 いつもの笑顔が出来ているだろうか。 「無理しないで、もうぼろぼろなんだから……ゆっくりいこう?」 そうすれば、もう少しこうして話をしていられる。 崖の上に上がったら、全てが終わるから。 「今回の依頼、大変だったね……」 「俺とトオッパだけ残った。トオッパ、ほんとに怪我酷いんだよ。上にいた人、癒し系いたっけ?」 「また帰ったら野球したいね! こんな日常がずっと、続くといいのにね……!」 ルーメリアの唐突な雑談の内容に、フォーゲットは首をひねる。 「ルメちゃん、どうした? なんかあったか?」 そんなことには気が回るのに、どうして自分が死んだことを忘れているんだろう。 崖の上から、金の髪。 ツァインが滑り降りてくる。 「大丈夫か。ああ、雪白さん、怪我したか……」 ルーメリアの目は涙でいっぱいだ。 逃げることは出来ない。 だから、これはツァインの役目だ。 「明。さっき、崖から滑り落ちた時、痛かったか……?」 「全然。突き抜けて、アドレナリン出っ放しーみたいな」 フォーゲット――明は、屈託のない笑顔だ。 「おまえが突き抜けたのは、生死の壁だ」 もう彼岸の人なのだ。 「はい?」 「死んでんだよ。分かれって言っても無理なくらいおまえ脳みそから死んでんだよ! ルーメリア。悪い。こいつを回復してやってくれるか?」 死人を癒す回復はない。 「へ?」 明が頓狂な声を上げた。 癒しの福音は、明と凍夜の体を取り巻いた。 生者の傷はふさがる。 凍夜の息が安らかになる。 でも、死者の傷はふさがらない。 なにも変わらない。 「ルメちゃん、詠唱間違えた?」 明の言い様に、ツァインは運命の残酷さを知る。 こんなことも分からないほど鈍い奴ではなかった。 「雪白の傷は治ってるだろう。詠唱は効いてるよ」 ツァインは、声を振り絞った。 「――おまえが、死んでるんだ」 ルメは、玲にぎゅっと抱きついた。 「ごめん、ごめんね……もうルメでも治せないの。助けたかった……間に合わなかったの……ごめんね」 玲の血まみれの戦闘服の上に、ルメの涙が新たなしみを作る。 「ルメ、絶対……絶対に二人のこと忘れないから……2人の分まで、がんばって生きるから……お願い、貴方が貴方でなくなる前に……遠葉さんとの約束……果たして……!」 絞り出されるルーメリアの声。 その頭にぽんといつもの調子で血まみれの手が載った。 「そっか。俺、死んでるんだ。そか。そうなんだ……」 死んでいることを認めた途端に、皮肉にも死んだ体は修復を始める。 崩れていくばかりの屍ではなく、より強力なアンデッドへ。 「じゃあ、俺攻めてトオッパに終わらせてほしい、かな……あいつなら。ずっと俺のこと覚えててくれるだろうし――」 ずっとは、ない。 言えなかった。 ● 「カップルとか言うな。お腐れがわいたら困るだろ!?」 「どうやったら俺がこいつと夫婦になるの」 「ま、そん時は俺がトオッパのとこに婿行くわ。キシカズじゃ短すぎてかわいそうだし」 「ジャメちゃん、俺がこいつを殺したら、日頃から精神的虐待を受けていたって証言してな」 愛美、ありふれた日常。 ● 谷底を見るクラスメイトに、『以心断心嫉妬心』蛇目 愛美(BNE003231)はいつも通りの軽口を叩く。 「和。こんな時にも明の心配ね……相変わらず、貴方達はその辺のカップルよりも仲良いわね、妬ましい」 和は苦笑した。 「いや、いい奴見つけてよ。もう紹介してやれないけど」 教室の続きだ。 「和、なんで貴方、約束を守ってないの? 『多分自分達は大丈夫だろう。けど、此処はこう言っとくべきかな』なんて、その程度の約束じゃないんでしょ?」 質問に質問で返した愛美に、和はちょっと目を見開いた。 すぐ思い当たった顔をし、照れくさそうに頭をかく。 いつもの彼と変わらない。 愛美は、ぼそぼそと続ける。 「私達は守ってもらいたいのよ。最も親密だった人との約束を。だって、貴方達のその姿は……もしかしたら、私達だったかもしれないんだから……」 ぐすっと鼻を鳴らす真奈美に、和は苦笑する。 「怖いんだね、ジャメちゃん。本当は『かもしれない』だから。戦場に出る限り。ジャメちゃんだって、明日こうなるかもしれない」 最後なのに、意地悪言ってごめんね。と、和は言う。 「この上で六人死んでるから、ちゃんと三高平に連れて帰ってやって」 リベリスタは、死にやすい。 フィクサードが命惜しさに退く局面でも、恩寵を燃やして立ち続けるから。 そして、恩寵が尽きれば狩られ、いつ尽きるのかは本人さえも分からない。 「だってさ。自分が死んでんの忘れてるんだよ。さすがに想定外。いっそウガウガ言い出してたら、俺も覚悟が決まったんだけどさ」 ころりと、数の頬から転げ落ちるものがあった。 「あいつ、俺に肩貸すんだよ。『俺は動けるから心配すんな、すぐ連れて帰ってやる』って。死んでも馬鹿だ。動けんのは、死んでて、痛いも苦しいもわかんなくなってるからなのに」 明のことを知っている者達は、ああ、ありうると頷いた。 「さすがにさ、今やったら、俺どれだけ非情なの? ――ってさ」 和は、ははは。と、小さく笑った。 「おかしいだろ? 肩貸してどうすんだろな。三高平に帰れる訳ないだろ。実際、ちゃんと来たじゃないか。『お迎え』が」 あの世行きの。 もう行くところは一つしかない。 ● 「――だぁから、そんな捨て身されても困りますぅ! つかですね、俺は吸血できないからそれ前提の大技ばっかで構成とか無理!」 「そうですよ、ちゃんと避けてくれなきゃ困ります。こいつは猪なんだから、ユーキさんは大人でいて下さい」 ユーキ、撤収の移動車の中。子供に釘を刺される。 ● 「意地悪く言えば、ね。貴方がまごまごしているから私達が呼び出されたと。そういう事ですよ」 和は、うわぁと悲痛な声を上げた。 「――ユーキさんは、ほんとに明だけに甘い」 「……実の所、ね。明君は、貴方に任せて安心していたんですよ。勝手な話ですが……最後まで任せてしまっても、構いませんか?」 「俺、ユーキさんに頼まれると、いやって言えないんですよ」 「後の事は、我々が。約束しますよ。その為に、来たのですし」 「そうですね。後は、お任せしますね」 後。 それは。 「トオッパ! なんだよ、その背中!?」 ガードレールをまたいで、死人が近づいてくる。 「何って言われてもな。悪い。俺、恩寵使い果たしちゃったみたい」 戦闘用導師服が裂けた。 現れる背中から生えた黒い双角。 死人の目の色が変わった。 「逃ゲロ……狩られるゾ」 どんな形でもいい。 君だけは生き延びたのだから、この先も生きていてくれたっていいはずだ。 「こコは、俺が引キ受けルカら。早く、逃げろ……っ!!」 玲の、糾華の、愛美の、ユーキの、ターシャの間合いに、明は立ちはだかる。 おまえが生き延びる為なら、おまえに引導を渡してもらうのは諦めるから。 「お前等生きてんだ! こんなになるまで頑張って、必死に出した答えをバカになんてさせねぇ! さぁ来いよ! お前等の全部、俺の全部で応えてやらぁ!」 ツァインが、断腸の思いで剣を抜く。 だから……。 「ごめんな」 トオッパの声がした。 痛みはなかった。 死人は痛みを感じない。 「俺のせいでおまえをみんなの敵にするくらいなら、おまえを後ろから刺すくらい出来るんだよ、俺は」 明の後ろにかばわれた和の背から生えた槍上の双角が。 正確に、明の心臓と肝臓を貫く。 「ばーか。脳筋め。無理しないでおとなしく死んどけ。俺のことは心配すんな」 「ひどい。トオッパは最後までひどい」 「トオッパ言うな。今までありがとな。サヨナラ」 明が動かない死体になるまで、和は双角を抜かなかった 耳障りな異音が、辺りに響く。 変貌。 悲しみが、少年を化け物にする。 ● 「紹介する本決まってる? 俺、紹介したい本が二つあるんだ。こっち、君のクラスでやってくれないかな?」 「あ、トオッパってば女の子に迫ってる」 「どっから湧いた。トオッパ言うな。くたばれ」 「ひどい」 「これ、そんなに難しくないから。目を通して嫌じゃなかったら」 ターシャ、図書委員会終了の喧騒の中で。 ● 「フェイトがなくなると、腹の底が冷えるような感じがするよ。俺だけかな? 世界中がみんな敵みたいな感じがするけど、俺は幸せ者だね」 悲しみが、和の心を置き去りにして、体を化け物に変えていく。 「どうか、みんながこんなのを感じることのないように」 もう、人の形はとどめていない。 巨大な双角を持つ鴉に抱かれているよう。 そういえば、よく鴉を飛ばしていた。 「せーのでやってくれる? 次々つっこんでこられたら、ちょっと切ないから。最大威力の奴をいっぺんに」 誰がとどめか曖昧になるように。 自分が止めを刺すことになったら、数週間は学校を休んでしまうだろうと思っていたターシャは、ぎゅっと目を瞑った。 「新緑焔舞曲……とっておきの新技、和先輩に見せたかったんだ」 無論、こんな形じゃない。 「見るよ。一番最初に受ける奴になるよ」 神様は、時として融通がきかな過ぎる。 ● 「ツァイン先輩、テストのヤマ助かりました」 「玲ちゃん、桃ちゃんに借りを作っちゃだめ」 「ジャメちゃん。明の机にジャムパン入ってる。食べといて」 「ターシャちゃん、明日の図書委員会。うちのクラスの分も頼むね。俺どうしても二冊紹介したいから」 「ユーキさん、酒量、ほどほどに」 「糾華ちゃん、いつぞやは明をかばってくれてありがとう」 「ルメちゃん、野球がんばってね」 その場にいた人全てにサヨナラを言って。 彼はただそこに立っていた。 「イヴがサヨナラを伝えてくれって……アイツあんなだからさ、多分……今までありがとう、ごめんね。それから……お疲れ様……」 ツァインが、イヴからの頼まれごとを果たす。 「はい。お先に失礼します」 せーの。 攻撃することが出来なかったルーメリアが見届けた。 幾万の黒い羽根になって散っていく和を。 「全部助けよう、なんて……夢物語なの、かな……」 ルーメリアは小さく呟いた。 ● 「糾華ちゃんだ。よろしくね」 「うんうん、一緒だと安心!」 「場は整えるから安心してね。こいつ盾にしていいから」 「ひどい」 「というか、かばえ。おまえより糾華ちゃんの方が強い」 「ひどい」 「骨は拾ってやるから」 糾華、ブリーフィング室で。 ● 「信頼できる先輩仲間。そう、只の仕事仲間じゃ……くそぅ……」 明が目を閉じた。黙祷というには切ない暗闇。 「返せなかった。本……」 リンドウの押し花の栞をはさんで持ってきた本は、ターシャの手元に残った。 図書委員会は、明日だ。 頼まれたから、学校に行かなくてはならない。 「……何故、あなたがたはいつもいつも私を置いていくんですか。 順番から言えば私が先でしょうに」 きびすを返したユーキの肩は小刻みに震えていた。 「……呑んで忘れるのにも……限度があるってものですよ……」 愛美は鼻を鳴らす。 「苦しいわけ……無いじゃない。悲しいわけ……無いじゃない。何時までも忘れずに居るなんて……絶対してやらないから……」 何で明の机の中身知ってるのよ、妬ましい。 「サヨナラ。ありがとう。そして、お疲れ様」 糾華は、サヨナラが言えることを喜ぼうとしていた。 (そして、また仲間が亡くなっていく) 何人見送ればいいのだろう。 運命さえも、答をくれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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