●火竜顕現 その竜は炎を纏い、大型の機械の獣――機獣と組み合いながら三ツ池公園に出現した。その二体は敵対していたのか、お互いに攻撃しあいながら周りを破壊し尽くしている。公園とそこに現れた他のアザーバイドにとっては迷惑な話で、その二体の争いに巻き込まれて公園は燃え盛り、あらゆる施設が破壊されていた。そして、アザーバイドたちは巻き込まれた腹いせに二体の争いに介入していったが、鎧袖一触。一体残らず竜と機獣の攻撃に巻き込まれて敗れた。 それぐらい、機獣も竜も強かったのだ。それでも、どんなに強くても決着は付く。竜の放った炎によって堅牢な装甲は溶かされ、強靭な爪によって機械の四肢は引き裂かれてしまった。 そうして機械の獣を壊した後、炎を纏う異界の竜は勝利の咆哮を公園内に響かせて自らの存在をアピールし始める。その咆哮は言葉ではないが、以下のような意味を持っていた。 ――絶対強者はここにいるぞ。強き者よ、かかって来い。 機械との戦いで負った傷もまだ治っていない。だが、そういう意味の咆哮をしたということから推測するに、この竜は闘争本能をどんな時であっても抑え切れないようだ。 そんな竜の姿を見て、公園内に居た多くのエリューション化した生物やアザーバイドはこの竜に戦いを挑んだのである。傷を負った竜を狩り、自らの糧とするためにだ。 しかし、竜は挑んできた者すべてを強靭な爪によって引き裂き、焼き尽くした。 それぐらい、強かった。 だが、そんな竜でも逃げる者は追わなかったし、この公園から出ようとも思ってはいなかった。ただ、闘争本能のみがこの竜を支配しており、自らに挑む者だけを相手にしていたのである。 ……そんな竜であるが、困ったこともある。 竜は強かったが故に、やがて戦いを挑まれなくなった。そんな時、この竜は退屈しのぎをする。この退屈しのぎがこの世界にとってよくないことだったから、アークはこの竜を倒すことに決める。 その為に、竜と戦うリベリスタを募集するのであった。 ちなみに、その退屈しのぎとは自由気ままに空を飛び回るというものだ。これ自体は悪いことではないのだが、巨体で飛行スピードもあるこの竜が空を飛べば影響も少なくないし、住宅街の上を通り過ぎてしまうだけで風圧が人を襲ってしまうのだ。 そうした被害は、到底見過ごすわけにはいかないのだ。 人と竜。戦う宿命のあるのだろう。 ●闘争覇竜 モニターの中に映るのは、焼け野原に佇む一匹の巨大な竜の姿。自分の調子を確かめるように何度か炎を吐きつつ、その場で鎮座している。動こうという気配は今のところ見当たらない。 「これは今現在の映像ね。カレイドシステムが見せた未来だと、この竜は暇つぶしに空を飛ぶらしいのよ。……それで、その時に発生する衝撃波や目撃した人に対するインパクトは中々強烈な被害を叩き出すわ」 それは悪気のあるなしに関係なく、この竜がこの世界に受け入れられない存在であることを示している。 んー、と指を唇に持っていきながら、『運命演算者』天凛・乃亜(nBNE000214)は補足する。 「この竜を撃退するのが今回の任務だけど、油断しているとこちらが狩られるのは間違いないわね。だけど、倒さずにゲートに押し戻すのも作戦の一つと言えなくもないわ」 三ツ池公園には、閉じない巨大な門がある。ここから竜を含む異世界のものが流れ込んで来ているわけだが、これを逆に利用して竜を押し戻すことができるというのだ。 「でも、難しいと思うわ。普通に戦って倒すことも視野に入れるべきね」 乃亜は指示棒を使って竜の詳細を書いたホワイトボードに視線を移させる。そこには、竜が闘争を好んでおり、逃げる者を追わないということが書いてあった。正面からの戦いはむしろ歓迎ということだろう。 「どちらにせよ、強大な力をこの竜は持っているわ。どんな作戦だろうと、細心の注意が必要ね」 余裕を持っているのは強者の証か。とんでもない力を持っていると、ホワイトボードを見ながらリベリスタたちは思う。 「それと、防具を溶かす力なんてのを持っているわ。女性陣はそこも気をつけて」 びしっと指を向けて乃亜はとんでもないことを言っている。これもドラゴンには悪気はないのだろう。ただ敵の装甲を剥がしたいだけなのだから。 「あともう一つ。うまくこの竜をなんとかできたら、この竜がやって来た世界を詳しく調べる機会ができるかもしれないわ」 異界から竜の姿のままやってきたこの竜の痕跡を調べることで、異世界への理解が深まるかもしれない、と乃亜は言う。研究者らしくうきうきしており、少し楽しそうなのが印象的であった。 そんな風に弾んでいる乃亜を見つつ、リベリスタたちは自分たちの闘争本能が刺激されていることに気付いた。 ――ドラゴン。 伝説の顕現とも言えるこの幻想生物と戦いたい、と思う者は少なくないのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月28日(木)00:19 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●激闘宣言 リベリスタたちは焼け焦げた匂いのする公園の道を抜けながら、煤だらけになってしまったその場所を遠目に見ていた。 圧倒的、ただひたすらに圧倒的な火力と暴力を見せつけられているような光景で、リベリスタたちの心中ではそれぞれの想いを燻らせていた。 さて、そんな場所にリベリスタたちは降り立つ。それまでの間、皆の会話はなく、ピリピリとした緊張感が皆を包んでいた。 そして、退屈そうに欠伸をしていた巨大な火竜の前に、リベリスタたちはやってきて……宣誓を始める。卑怯を嫌う火竜に対し、必要なことだと思うから。 そう、必要なこと。だから、歯を食いしばって、震える足を心で押さえて、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)はバベルの力を使い話しかけてみた。 「こんばんは、会話はできるだろうか? 客人」 まっすぐな目は、そのアザーバイドに。じろりと眺めてきた爬虫類のような目には背筋を震えさせたけど、怖くはない。後ろには仲間たちもいるから、大丈夫。……きっと。 「何用だ。この世界の者よ」 火竜は何かを抑えながら話しかけてきた。こうして、竜との対話は始まる。 ●雷音 怖くないと言えば嘘になるな。あの堅そうな鱗も、ギロリとした目も、戦うために作られた体というのは、怖いものだ。百獣の王もそうなのだから、竜という生き物は人を怖がらせるために生まれてきたのかとボクは思う。 でも、百獣の王だって子供のころはかわいい。竜もあの外見をやめて、もふもふとした毛皮だとか猫みたいな声を出せばいい。うん。 ……でも、竜とこうやって話している内に、分かって来たことがある。 この竜はさみしくて、でも、それでも押さえきれないものがあるから戦っているようだ。……今も、我慢しているのがひしひしと感じる。 ボクは直感が鋭いから分かる。我慢しているのは、闘争本能だろう。今すぐにでもボクたちと戦いたいんだ。 ……また、足が震えてきた。声も震えそう。 でも。 怖くはない。絶対に怖くなんかないぞ。 なぜなら――、 ボクはライオンで、虎の子だ! がおー!! ●準備時間 竜との対話は進む。内容はこうだ。 「僕達と正々堂々戦おう。己が力を存分に、得意な力を振るいあう。君も求めているだろう。ボク達が勝てば君たちの世界について教えてほしい。ボク達が負ければ、力を磨いて君が満足できる戦いをもう一度約束する。だから、ここで待っていてほしい。戦士の約束だ」 「ほう。再戦でも満足できるという自信があるのか。……ならば、私からも提案をしよう。お前たちが私を満足させる強さならば、その約束を守ると」 「流石の絶対強者も退屈には負けそうかぇ?」 横からくすりと笑った『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が口をはさむ。言葉の内容は分からないが、うずうずとしている火竜の姿を見て少しは分かった気になっていた。 雷音は頷いてから、会話を続けて事前の準備はよいと取り付ける。 それを聞いた『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)は退屈そうに煙草を咥えながらの準備体操を、アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)は闇纏を使って戦いの準備を進めていく。 他の仲間たちも、緊張感と高揚感を心に秘めながら動く。巨大な竜と戦うということは、すなわち英雄の所業。そうした認識が、皆の中にあるのかもしれない。 単に、大喧嘩を前にしてワクワクしているのかもしれないけど。 「常識は大事だが、この場面では非常識が常識と言えるな。まったく、非常識どもめ」 陰陽・刀儀を使いながら『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)はこの光景に思い出すものがあって、無表情のまま噴き出した。 ユーヌがデジャブしたこの光景は――、 「ネットゲームのイベントに似ている。そう、大型竜退治だ」 ハハハ、と声だけ挙げて笑う無表情。ユーヌなりにこの戦いに向けて高揚しているのか、皮肉っぽい言葉の数が普段よりも多い。 「ならば、私は普通のリベリスタらしく、自分なりの力で戦おうか」 長い黒髪を撫でて揺らし、札を懐から取り出してユーヌは小さく口元を緩ませた。こう見えて、ユーヌだって戦いが好きだ。今もワクワクしている。 「楽しい時間の始まりということじゃな。わらわも高揚しておる」 銃を構えた瑠琵もまた、この戦いにワクワクしていた。この世を楽しもうと考える瑠琵にとって、戦いは楽しみの一つ。バトルマニアほどではないが、楽しさを見出せるのである。 「さあ、か弱い乙女と遊んでおくれ?」 純粋無垢な少女のような笑みを浮かべ、まっすぐに火竜の巨体を見上げる。火竜はにやりと笑い、鋭い爪のある腕を見せつけていた。 ●ユーヌ また竜か。あの男といい、私はよほど竜に縁があるのだな? 繋がるなら何処ぞのバイデンとか、戦闘好きと潰し合ってれば良かったものを。……アークにも多いことは否定しないがな? それにしても大きいな。いや、決して私が低いわけではないぞ? 大きさに見合った強さとの噂だが。さてどうだろうな。まあ、この公園の有象無象をゴミ掃除したというのだから、実際強いのだろう。 そしてその有象無象を倒した竜を私たちが倒す。実に合理的だ。 そうなると、私もいつか巨大な敵に倒されるのだろうか? それが強さを証明するのに合理的ではあるが……まあ、死ぬつもりはないがな。 さて、無駄に考えすぎたな。今日も観察を始めようか。竜に立ち向かう私の観察だ。ふふっ、まるでヒーローだな。ヒロインがいないのは寂しいが……やるとしよう。 ●瑠琵 こやつは本当に戦いが好きで好きで堪らないんじゃな。だが、好きこそものの上手なれ。強くなりすぎたのは悲劇ということかの。 強者は最も素晴らしく孤独である、か――。挑戦者が現れない理由は強過ぎるからじゃが、火竜には弱者の気持ちは理解出来んじゃろうなぁ。 わしも何度かこういう手合いを見てきたからのぅ。その度に他のことを楽しめないのは不憫だと思うわい。世の中にはいっぱい楽しいことがあるからのぅ。 しかし……故に強者、故に孤独。難しいものじゃな。 だが、わらわも戦いは嫌いじゃないぞよ。泣く子も黙るか弱い乙女として、少しは手を煩わせてやるとするかの。 ふふふっ。 では、退屈な強者に一つ手合わせ願うとするかのぅ。 ――天元・七星公主を起動。宵咲の力、見せてやるのじゃ。 ●戦心着火 準備が終わったことを確認すると、火竜は咆哮を挙げてこれから自分が戦いを始めることを宣言する。その咆哮は公園中に響き渡り、他の任務をしていたリベリスタにも聞こえたとか。 「まともにやって勝てる相手じゃないってのは前に立ってよくわかるわ」 咆哮の迫力と音量。そして何より隠さない闘争心が体の芯まで届いていることから、『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)は火竜の強さを確信する。 「ミリー、あんたみたいなの好きよ!」 それでも、強さがあったとしても気力は衰えない。それどころか、逆に体中が燃え上がってくる。戦う気力が湧いてくる。 「いやー背景無しの喧嘩は久々だぜ。よーしおれ癒されちゃうぞー」 上がって来た体温を感じて腕まくりをした『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)は腰の短刀に手をつけて、相手の動きを確認する。 すでに、攻撃態勢。 「おっと、気が早いんじゃないの」 腰の短刀を抜いて防御の体勢を取ると、火竜は鋭く尖った爪を振り被っていた。 「リベリスタ、新城拓真……参る!」 しかし、そんな火竜に向けて一直線に走り出す者が一人。『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)だ。拓真を象徴する二本の西洋剣は地面を擦って火花を上げていた。この戦いの熱を象徴するように。 「振り向くな、ただ自分が次に為すべき事を考えろ……ッ!」 自らに言い聞かせ、振り下ろされた爪の一撃を十字に構えた剣で受け止める。 迷いのない剣の動きであり、爪の一撃を受け止めることに成功したが……もう一本の腕が拓真の体を吹き飛ばしてしまった。 「……グッ!?」 血反吐を吐いて、しかし決して膝は付かずに拓真は火竜を睨みつける。 火竜はその覚悟に感心をし、その上で最大の一撃を放とうと息を思い切り吸い込んだ。周囲の温度も触覚で感じ取れるレベルにまで上昇していく……! 「そう易々とは撃たせぬ。攻撃は最大の防御ってのぅ」 「こんのぉぉおお!!」 それを熱感知によっていち早く気付いた瑠琵は愛用の銃を構えて陰陽・氷雨を放ち、口元を凍らせる。……が、その氷はダメージにはなったものの上昇した温度によって一気に溶かされてしまう。 「さすが、といったところかの」 ミリーは自分の力を最大限に引き出して、気合と共に火球を作り出して次に放たれるであろう攻撃に対抗しようとする。 「燃えてきた! ミリーの全力全開と勝負!!」 頭上に作り出した巨大な火球を放つと、火竜は口を大きく開いて蒼い炎のブレスを放った。 火球と蒼炎が空中でぶつかり、激しい光となって戦場を包み込む。 ●ミリー ……ッ!! どうなったの……! ミリーの炎は!? こっちはダメージを受けていて、相手は……。 健在!? ううん、分かってた! マリーの記憶にあった竜だってタフだったし、前に戦った水の竜もそうだったわ! ……火竜っていうからにはやっぱり炎にも強いのかしら。 ううん。それでも、やっぱり熱く戦いたいじゃない! 今回は押し返せなかったし、攻撃を止めることもできなかった。でも、何百回押し負けたって諦めない、押し返して見せる! 百万回やられたって、負けないんだから! ミリーの炎は、まだまだ燃えているわ! あんただって戦いを求めているんでしょ! ミリーも同じ! 情報なんてどうでもいい! アンタともっと戦いたい! 死ぬほど闘り合いましょ! ●拓真 熱い、な。これがお前の全力というわけか。 ……面白い。何も考えずただ全力で剣を振る事の出来る相手を待っていた。 この俺の全てを彼方にぶつけよう、その上で勝利の剣を撃ち立てよう! 剣はまだ折れてはいない。俺はまだ剣を振るうことができる。戦いを望む心はまだ胸の中にある。 ……俺は最強でもないし、理想を守れる力があるわけじゃない。それでも、俺は最高の戦いを望む。 頂の火竜よ! 俺の刃を刻め! お前は求め続けていたのだろう、追い求め続ける挑戦者の刃を! 俺は挑戦者だ。可能性がある限り、挑み続ける! 最後にボロ雑巾のようになっていようと、俺は彼方に勝てると信じている! だから、退屈なんてするなよ……! ●焔陣拡大 蒼炎のブレス……超神炎砲が命中した拓真は剣を地面に突き刺し、息も絶え絶えであった。フェイトの力と拓真自身の生きたいという気持ちがなければ消し炭になっていたかもしれない。それほどの威力であった。 「我が剣の真髄、我が心にあると知れ……!」 それを身で思い知っても、決して拓真は折れはしない。まだ立ち向かっている。 他のリベリスタたちも同様だ。強力な一撃だけでは、決して折れはしない強さが心の中にある。 だけど、そんなリベリスタたちをあざ笑うかのように、火竜の攻撃は続く。今度は火竜を中心に魔法陣が広がっていき、そこから炎が噴き出し始めたのだ。 防具とアクセサリーを焼き尽くす解防焔陣だ。 「冬場なら少々面倒だったが、この時期なら問題ない。変態から羨望受けそうな大道芸だな?」 防具を破壊されたところで、ユーヌは止まらない。肌を晒すことはある意味慣れているし、むしろこの場で喜びそうな変態がいなくてある意味残念ではあった。むろん、変態とは一人を指しているのだが。 「ボクは少女だから肌を晒すわけにはいかない」 一方、雷音は防御を固めることでその炎を防ぎきり、破壊を防いでみせた。色々と危ないところであった。 「我が身を包む闇は堅牢な防具でもある。これしき……!」 特徴的な黒衣の防具を破壊されるもののアルトリアはまるで怯まない。ダークナイトの技、正義を貫こうとする自身の意思が誇りであり、黒衣が壊されたことは大した問題ではないのだ。 「たとえ捕らえる事は出来ずとも、生み出す刃は確実に貴様を捉える!」 大型の盾を構えて闇を纏い、肌を晒してしまった自らの身を守りつつアルトリアは反撃に出る。 「なるほど、これが異世界の炎! 熱量だけじゃなくて性質も若干違いますね!」 アルトリアと同じく、熱意を持って肌を晒すことを気にしない『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)は熱意の源……溢れる好奇心と研究心を頭の中でフル稼働させていた。幼く小さい体に秘められた頭脳は、将来の夢のためにこの火竜すらも利用しようと企んでいるのだ。 「さあ、私はここにいますよ! お互いの持てる最大の力で、どちらの勢力が上か決めようじゃありませんか!」 もちろん、研究だけでなく戦いも忘れてはいない。皆の戦いに合わせ、ピンポイント・スペシャリティによって攻撃を一点に集中することで火竜の体に穴を開けようとしているのである。 「どんなに堅い鱗でも、弱点はあるはずです!」 シビアかつ論理的に、攻め立てていくチャイカは少し怖い。だけど、それも火竜にとっては楽しい相手であった。戦いとはそういうものなのだから。 「まずは、こいつだぁぁぁぁ!!」 考えることもなく、ただ戦いに全力を出しているモノマも行く。尖った刃のような眼光を火竜に向けて飛ばしながら、腕を力いっぱい振るう。がむしゃらに焔腕を叩きこんでいくその姿が楽しそうに見えたのは、やはり彼も戦いが好きなタイプだからだろう。 何より、ニヤついたモノマの顔がそれを表していた。 「スケフィントンの娘よ!」 一方のアルトリアは闇の力を生み出し、自身最大の力を持って火竜という伝説に立ち向かう。世界を守る闇の騎士として、いざ竜退治だ! ●アルトリア 水の次は火。ある程度予想はできていたことだが、やはり厄介な相手だ。 前回の水竜は一度撤退してしまったが、今度は一度で決めたいものだな。その為にも朝食は十分に取ってきた。負ける訳にはいかない。 それにしても正々堂々……その姿勢は私も見習いたいものだな。私の持つダークナイトの力は正々堂々とは言いづらい。それで卑怯だと誹られるのであれば致し方あるまいと思っている。 もし否定されていたならば、私はそもそも対峙する資格すらなかったことになるな。 だが、この笑っているなこの竜は。戦いを楽しんでいる。 私の矜持が通じたということか? ……ふっ。それならば、私も全力で闇の力を使おうか! 闇に堕ちしこの力でも、守れる正義はある。そのことをお見せしよう! ●チャイカ ふれいむどらごん! 以前見た流麗な竜さんにも驚きましたが、やはり火ともなるとまた別格の迫力があるのです。アザーバイドの生態は本当に不思議で、興味があります! 力での勝負を望むのならば、……私は識者として負けません!度でも立ち上がってそのデータを取らせてもらいます! 争いは望みません。ですが、それがあなたの理解に繋がるのならば、私は戦います! そして、当然勝って見せます! もし負けたとしてもあなたの鱗一枚か爪のかけらぐらいは貰って行きますよ。研究者ですからね! 分からない事なんて無くして見せます! 私も今裸同然ですが、あなたも丸裸にして見せます! ……あれ? と、戦闘以外のことを考えている暇はありませんね! 今は全力で戦いましょう! ●大人子供 火竜が闇に捉えられ、その対応をしている間。 「私にできる、全力……。回復しかできないけど、皆さんをお助けします」 白衣を翻し、後方から『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)は声をかけていく。その声と共に使われた天使の歌は、戦いと熱で消耗している心身を癒していった。麻衣の可愛らしくもうまい歌は不思議と戦場に似合っており、火竜もどこか楽しそうにしている。 「できる限り、私は回復に集中します。だから……」 「ボクたちに任せるのだ」 麻衣をいつでも庇えるように立っている雷音が小さく頷いてから言葉を繋げる。こうした少女たちのバックアップに、逞しさを感じる甚之助であった。麻衣はどう見ても小学生にしか見えないぐらいには小さいので子供としてカウントしている。実際の年齢は知らないし。 「俺もがんばらないとねぇ……」 甚之助が引き継いだ記憶は「彼女たちを守り戦え」と心の中で叫んでいる。「好き勝手にやらせろ」と心の中で反論する甚之助であったが、口元は笑っていた。 「……さあて、あいつを魅了させる準備をしないとな。いい男はつらい、ってか?」 集中を重ねて、攻撃の一瞬を待つ。十分に準備をした一撃ならば、きっと竜すらも……。 そう信じて力を蓄える甚之助は、チャンスを見つけた。火竜は闇を解いて攻撃の態勢に移り始めたのだ。 攻撃の瞬間こそ、チャンスが来る。 ●甚之助 子供には弱いんだよね。俺の中にあるあいつの記憶がうるさいしさ。 でも、ま。カタギの子供も守るのも、力ある大人の仕事だっていうのは賛成だ。ろくでなしの大人でも、やらなきゃいけない時はあるってね。 やるしかないね。仕方ない仕方ない。 ところで、あの竜の野郎……澄ました顔をしやがって、高い知能ですって言っている訳か? 待っていろよ、今にすげえ一撃をかましてやるからな。 その顔が崩れる瞬間が、楽しみだ。 その後は意地の張り合いをしている連中に、俺も混ざるとしますかね。 なんたって……楽しそうだもんな。あれ。 それにしても派手だねぇ。俺も少しは豪華絢爛に行きますか。 淳、少しは力を貸しやがれよ? ●麻衣 異界からのドラゴン。しかも誇り高き王が如き精神の持ち主。もしかしたら、異界の王なのかもしれませんね。一研究者として興味深いです。 チャイカさんは研究対象として興奮しているようですが、私も気になります。特殊な細胞によって体が変化し、強靭になるものならば医療にも使えないでしょうか……。 さて、そのためには勝たなければなりませんね。 私たち卑小な存在と比べて尚、その強さは私たちの手に届くかどうか。それでも尚、私たちは挑戦しなければなりません。 ……この戦いの果て。もし戦いに私たちが勝ったのなら、彼はどうするのでしょうか? 元いた場所に帰るのでしょうか? それとも、生き恥を晒すを良しとせずに……。 私としては無闇に死を選ぶ事の無いよう、祈りたいものです。無用な命が消えてしまうのは忍びないです。 もちろん、皆も怪我がないようにしてもらいたいですね。 医者としての願いです。 ●攻防激突 爪に向かって放たれた甚之助のアル・シャンパーニュが直撃し、豪華絢爛な一撃が火竜を魅了する。大した攻撃であり、痛手を負わせたことに火竜は魅了されたのである。 「どうよ」 よくやったろ? という顔を甚之助は火竜に見せて笑ったが、火竜はそれに対して笑って見せた。 「そうそう、こっちこっち……こっちを向きな」 しかし、火竜は咆哮と共に闘気を全開にしていく。放たれた竜の闘気は実際に力を持って甚之助を含むリベリスタたちに襲いかかり、全員を引き寄せていった。 「あァ? おいコラ、俺だけを見ろって言ってんだろ?」 まるで女を口説く時のような言葉を使いながら、甚之助は引き寄せられながらも火竜に絡む。後ろを見れば、 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」 咆哮に対抗するように叫び声をあげているモノマを始め、麻衣を庇ったユーヌや逆にチャンスが来たと目を輝かせている瑠琵や早く距離置かねばと焦る雷音たちがいた。対応はそれぞれ。しかし、皆警戒している。次に繰り出される攻撃を。 そして放たれたのは、甚之助を含むリベリスタたちを巻き込んだ爪の乱舞である。 「……てめっ!! そっちが勝手に惚れたんだから手加減しろや!」 「血の一滴まで燃やせ! この焼け野原に最後まで立ってるのはあんたじゃない」 甚之助とミリーは体力を削り取られ、フェイトによる復活を余儀なくされる。だが、それでも火竜と戯れるようにきゃっきゃとはしゃぐ甚之助と、まだまだ戦いを楽しんでおり、次の攻撃に備えて口元を拭うミリーの姿は、火竜の次を引き出す。 その次は、地面に魔法陣を展開してからの炎。つまり、解防焔陣であった。 再び湧き上がった炎はやはり防具を溶かしてきて、リベリスタたちの戦力を確実に削っていこうとする。 「ッコラッ! そこは遠慮しろっつったろ。泣かすぞド畜生が」 その炎は、防具と共に心に染み付いていた何かをも壊す。だから甚之助は先程とは打って変わって怒りを顕にし、罵声を浴びせていた。 「……なるほど、魅了されているから彼を巻き込む攻撃を優先的に使っているんですね」 「意外と一途なんですね」 「ふたりとも、仕事熱心なのだな……。ボクは少女だから、恥ずかしい状況になったのだが……」 それを見ながら、麻衣はチャイカと共に分析をしている。炎は威力が低いものの、既に防具を破壊されている身には大きなダメージとなるため、麻衣は雷音に庇われながら天使の歌も忘れずに使う。そのせいで色々と燃えてしまったが、みんなと同じなので、がんばるとした。 「くっ……! だが、まだ私は戦える!」 一方、この炎でフェイトを使用するまでに追い込まれた者もいる。アルトリアだ。彼女は直接闇をも焦がし身を焼く炎を肌で感じながらも、反撃を為に闇を再び纏い始める。 そう、ここからが反撃だ。火竜の好き勝手させるわけにはいかない。 その反撃の起点となったのはモノマであった。引き寄せられながらも、火竜の首筋に噛み付いたモノマは土砕掌を使って火竜の体をひたすらに撃ちぬいていく。 「ずたずたになるまでやってやらぁ!!」 肉を裂き、鱗を引き剥がす。 それでも火竜は戦う意志に陰りを見せないから、モノマは余計に高揚して攻撃を続けた。 ●モノマ ドラゴンか。強い相手を待っているんだったな。 気持ちは分かるぜ。弱い相手ばっかとやっても退屈で死んじまうよな。 ってことは、今のお前は楽しんでるってことか。……ま、俺も楽しんでいるからお互い様ってことだな。 孤独だとか、何とか言われるけどよ、それでも結局俺たちがやれることは一つなんだよな。力の比べあいだけだ。 真直ぐ行ってぶっ飛ばすことが好きで仕方ないって顔をしてやがるな。分かるぜ、そういうのもよ。 だからよ。まだまだ、こんな攻撃じゃあ満足できねぇよなぁ? ……はんっ。俺としたことが少し考えすぎちまったな。この戦いが楽しすぎてお前に同情しちまった。 さぁて、 てめぇがどれ程のもんか知らねぇが思いっきりぶっ飛ばしてやるぜ! ここからが、クライマックスだ! ●戦竜決着 モノマたちの反撃が終わっても、まだまだ戦いは続いていく。再び動き出した火竜は闘気によってリベリスタたちを絡めとり、炎爪を振り回して攻撃をする。 「楽しいな、強者と驕るだけのことはある」 「何度でも、立ち向かいますよ……!」 フェイトの力を使ってユーヌが立ち上がり、チャイカもまた、フェイトによって立ち上がって火竜を不敵な顔で見上げる。その瞳からは炎は消ない。 「皆。まだ、戦えるな」 雷音が皆の顔を見回してから、声をかけていく。このまま行けば勝てると雷音は確信し、指揮を取り始めた。その根拠は、激しかった攻撃が鈍くなっていたことだ。楽しすぎて火竜自身は気付いなかったのだが、火竜は己の体が与えられたダメージによって消耗し動きが鈍くなっていたのである。 「……来るぞ」 それにようやく気付いたのか、火竜は自身の持つ最大の攻撃をぶつけようと口を開き始めた。あのブレスが再び来る。それをユーヌは察知して、仲間に知らせる。その知らせを受けた仲間たちの行動は――、 「呵々! 零距離で氷雨を喰らうが良いのじゃ!」 「まだまだ負けないんだからぁ! 私は燃え尽きていないのよ!」 「俺も恨み節をぶつけちゃうよ。何壊してくれてんだ!」 口元に向かっての総攻撃だ。瑠琵が陰陽・氷雨を使って口元を凍らせたところをミリーが業炎撃によって蹴り上げて、そこに甚之助のアル・シャンパーニュが放たれて、火竜を怯ませる。巨体に登り、張り付いたリベリスタたちの攻撃である。 「攻撃は最大の防御! 連続攻撃……行きます!」 「必ず、貴様を倒すと誓っている!」 「お前の口は散々だな。だが、もう一回凍ってくれ」 続けて、チャイカのピンポイント・スペシャリティとアルトリアのスケフィントンの娘が放たれて傷を深くしていき、ユーヌの魔氷拳が叩き込まれることで口元は凍っていく。 しかし、火竜はここまでダメージを受けても、凍っていても、気合いと共に口を開いて、蒼い炎を吐き出す! だが、それでも――炎の中を突き進む者たちはいる。 「──当てて見せる!行くぞっ!」 「てめぇの炎でも喰ってやがれっ!!!!」 モノマと拓真だ。二人は蒼い炎が燃え上がる中を踏み込み、己の体が焼けるのを感じても躊躇なく駆け抜けていた。 彼らは火竜の巨体を駆け登り、二刀の刃と拳を振りかぶる。 そして、放たれるのは最大の一撃。いや、ニ撃。 「おおおおおおっ…!! 二撃、断割!」 「くらいやがれえええぇぇぇっ!!!!」 デッドオアアライブと土砕掌。二つの技が同時に放たれて、火竜はがくりと巨体を倒れさせた。 決着はついたのだ。リベリスタたちの勝利によって。 「……勝ったな」 タオルを掲げて、ユーヌは笑った。それに続けて、リベリスタたちの口から笑みが溢れる。 こうして、強敵であった火竜との戦いは終わりを告げた。 火竜はリベリスタたちを認め、傷つきもはや闘うことも難しい体を引きずってアークに協力することを誓い、元の世界へと帰っていく。 「さようならー」 「彼方は、真実誉れ高い竜だった。……その存在、我が心に確りと刻みつけよう」 「……大変でした」 それを見送り、リベリスタたちは勝利を噛み締めていくのであった。 「やったのじゃー!!」 「楽しかったぜ!!」 喜んで、はしゃぐのも無理はない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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