● 『俺の稼ぎを俺が使って、何が悪いんだッ!』 怒号が、マンションの一室に響く。がっしりした体格をした、赤ら顔の中年男だ。 『そういう台詞は、家にちゃんとお金を入れてから言ったら? お父さん。 いい年して、お酒呑んでくだ巻いてばかりとか、みっともないでしょ』 二十歳前後と思われる茶髪の娘が、形の整った眉を顰めて毒舌を振るう。 父親が怒鳴り返す前に、娘によく似た顔の母親が彼女を睨んだ。 『ぬけぬけと、よく言うわね。うちから黙ってお金を持ち出してたくせに。 一体、どれだけブランド物に費やしてきたの!?』 『誰かさんのおかげでお小遣いが足りないんですもの。 それに、お母さんだって人のこと言えないんじゃない? 若いツバメなんて囲っちゃって』 たちまち怒りで顔を真っ赤にする母親に、父親が追い打ちをかける。 『そうだ。俺が必死に働いた稼ぎを、お前は他所の男に貢いでやがったんだッ!』 『だからって私を責めるの!? 私が今までどれだけ我慢してたかも知らないで……』 両親と娘の言い争いを、十代半ばと思しき息子の叫びが遮った。 『うるせぇ! もうウンザリだ、こんな家出てってやる!』 すかさず、娘が反撃する。 『他人事みたいに言うんじゃないわよ。グレて散々迷惑かけてるくせに』 『そうよね。お母さん、どれだけ恥ずかしい思いしたか』 『この面汚しめ!』 一斉に責められて、息子は負けじと声を張り上げた。 『知るかよ。大体からして、親がこんなだから子供がロクに育たねえんだ……!』 一家四人の言い争いは、際限なく続く。 ● 「……とまあ、こんな感じで延々と喧嘩してるE・フォース一家を倒すのが今回の任務だ」 端末と睨めっこしながら正面モニターの表示を切り替えた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、軽く肩を竦めてリベリスタ達を見た。 「現場は、そのうち取り壊される予定の廃マンションだな。 何と言うか、色々と問題を抱えた一家が多く住んでたらしいんだが…… 彼らが立ち退いた後、そういった複数の思念が集まってE・フォースになった、と」 E・フォースは四体。両親、娘と息子が一人ずつの四人家族である。 「父親は酒癖が悪くて、母親は若い男と浮気してて、 娘は家の金くすねて浪費しまくり、息子はグレて喧嘩と万引きの常習。 ……家族仲は最悪で、全員が自分以外の家族にその責任をなすりつけ合ってるわけだ」 一家は好き勝手に言い争いを続けているが、リベリスタ達が現場に踏み込むと攻撃を始める。 家族同士による喧嘩の延長にも見えるものの、どういうわけか家族を器用に避けて、リベリスタ達だけを狙ってくるのだという。まったく迷惑な話だ。 「基本的に連中は言い争いに夢中で、仲裁とかにはまったく耳を貸さない。 だが、『誰が一番悪いか』ということを理由をつけてきっちり指摘してやると、 指摘された一人が逆ギレで強くなる代わりに、残りの三人が攻撃の手を緩めてくる」 四体のE・フォースはそれぞれ能力が異なるため、これを上手く活用すれば少し戦いやすくなるかもしれない。 「言い争いばかりしてる連中だが、四人でこの人数と互角に渡り合えるだけの力はある。 どうか油断しないで、気をつけて行って来てくれ。よろしく頼む」 黒翼のフォーチュナは、そう言って軽く頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月17日(日)23:53 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 『俺はしっかり働いてたんだッ! それをお前らが無駄遣いで――』 『買い物くらいしないとやってられないわよ、こんな家』 『だいたい、あなた達ときたら我侭ばっかり! 私がどんな思いで家を守ってきたか……』 『ヨソに男作ってる奴が言う台詞かよ!』 一家が言い争う声は、廊下にまではっきりと響いていた。 部屋のドアを前に、『名無し』氏名 姓(BNE002967)が「何とまあ」と呟く。 「……えと、これが……家族、の団欒?」 眠たげな目で仲間達を振り返った『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)の言葉に、答える者はいなかった。 よくわからないが、家族とはなかなかに難しいものであるらしい。 口元を隠し、小さな欠伸を噛み殺す那雪の隣で、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が口を開いた。 「家族会議――なのでしょうか、これ」 「もう子供の喧嘩ですねぇ。子供も居ますけど」 彼女に答えた葉月・綾乃(BNE003850)が、軽く肩を竦める。 これも、世の風潮というものだろうか。まったく嘆かわしい。 「飲んだくれの夫にツバメに貢ぐ妻、浪費グセの娘……いや、誰がいくら稼いでたんだよ」 廊下に筒抜けの言い争いを聞いていた雪白 音羽(BNE000194)が、思わず突っ込みを入れた。 もっとも、彼らは複数の家族から生まれた思念体なので、ここまで崩壊寸前の一家が実在していたかどうかはわからないが。 ――とにかく、一家四人のE・フォースを残らず倒すのが今回の任務である。 「喧嘩する程仲がいいって言うが、ここまで来ると一家離散させるしかないね」 「ほんと、E・フォースになってまで……仲良しさん、ね」 姓の言葉に、那雪がのんびり答える。それが揶揄ではなく、言葉通りの意味だと察した『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)は、ゆるゆると首を横に振った。 仲良しの延長線上にある喧嘩としては、度を越している。 那雪は小さく首を傾げた後、「それにしても、元気なの、よ……眠い……」と言ってよろめき、廊下の壁に頭をぶつけた。 「家族水入らずでエリューションか。羨ましいな、皮肉ではなく純粋に」 何人かの仲間が突入に備えて自らの力を高めていく中、『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)がそんな呟きを漏らす。 家族を失ったあの日。 せめて、自分以外にもう一人でも革醒して生き残ってくれていたらと、そう思わなくもないが――。 己の感情を心の片隅に追いやる瞳の横で、『霧の人』霧里 まがや(BNE002983)が言った。 「誰が悪いっていうなら誰も悪くないのだろう。何が悪いっていうなら最初からだろう」 血縁なんてそんなもの。家族っていってもそんなもの。 ぶっきらぼうに嘯き、長い黒髪を煩げにかき上げる。ここに来たのも、彼にとっては暇潰しに過ぎない。 ここまで沈黙を保っていた『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が、遠慮がちに口を開いた。 「……本当は、家族の誰が悪いと言うのでもなく、 先ず互いを認め、支えあってこその家族なのだと……そう、私は思います」 理想論に過ぎぬとは、彼女自身にもわかっている。 呼び起こされた幼い頃の記憶を振り払うように、彼女は声を上げた。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 黙って頷いた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が、ドアのノブに手をかける。 視線で合図を交わしたリベリスタ達は、一気に室内へと突入した。 ● 「お前らの中で誰が一番悪いか? そんなの父親に決まってんだろ!」 先陣を切ったフツが、E・フォース一家の一人息子をブロックしながら叫ぶ。 一家が闖入者たちに視線を向ける中、ミリィが言葉を重ねた。 「子は、父親の背を見て育ちます。 それなのに、いつも貴方はお酒を飲んで怒鳴って騒いでばかり。 そんな姿を見せられ続ければ子だけではなく、誰だって嫌になります」 理路整然と語りながら、攻撃の効率動作を共有して仲間達の戦闘力を高める。 E・フォースたちは互いに責任をなすり付け合っており、誰もが自分の非を認めようとしない。 第三者の立場から『一番悪いのは誰か』を指摘すれば、対象の一体が強化されるかわりに残りの三体を弱体化させることができる。 リベリスタ達はこの性質を戦術に組み込み、父親に口撃の狙いを定めていた。 事前に展開した魔方陣で力を増幅させた音羽が、母親と娘の背後に回り込みながら声を放つ。 「あんたがだらしない背中を見せてたから子供達もだらしなく育つんだよ、原因はあんただ」 『利いた風な口をきくなッ! そもそも子供は――』 「妻に任せてたから俺のせいじゃない? ふざけんな、そういう責任放棄がだらしないっていうんだよ!」 音羽の詠唱で生み出された四色の光が、魔曲の旋律となって父親を襲った。 身を捻って直撃を避けた彼に、那雪が気糸の罠を仕掛ける。 眼鏡をかけた彼女は、先の眠たげな様子から一転してシャープな雰囲気を纏っていた。 「全く……大黒柱たる父親が不甲斐ないと、こうも家族という形を維持できないとは…… 父親に威厳がないのが、敗因か。情けない」 那雪の溜息とともに、父親の四方からオーラの糸が伸びる。 気糸が全身に絡みつこうとした瞬間、彼は腕を振るい、力任せにそれを引き千切った。 ――なるほど、確かに強くなっている。 その様子を見た姓は、一歩前に踏み出して口を開く。 「父親は家族を養う為に働くものだろ? その金は酒じゃなく家族の為に使えよ。 だらしない。こんな美人な奥さん、あんたには勿体無いよ」 言の葉をすらすらと舌にのせて、姓は母親に意味深な流し目を送った。 「……ね?」 『あら、お上手ね』 さりげなく流し目を返す母親の誘いを、微笑を湛えて受け流す。 激昂した父親が、そこに酒瓶を投げつけた。 『この野郎、俺の女房に色目使いやがって!』 額目掛けて飛来する酒瓶を、姓は黒い卒塔婆で弾いて直撃を防ぐ。砕けたガラス片が、頬を掠めた。 姓の傍らに控える沙希が、周囲の魔力を次々に取り込んで自らの力を高める。 彼女は口を噤んだまま、念話で父親に語りかけた。 『出来る男というものは…… 大半をお小遣いにしても【余裕で】家にはお金を入れる事が出来る程度の稼ぎがあるんです。 それが出来なければ……ふ……ふふ……恥・ず・か・し・い』 辛辣な謗りを受けて、父親の赤ら顔がさらに赤黒く染まる。 防御動作の共有化で全体の守りを固めた綾乃が、絶妙のタイミングで追い打ちをかけた。 「古き良き日本社会が完璧に良かったとは言いませんが、 父親の発言力低下も昨今報じられてる家庭崩壊の原因っぽいですからねぇ。困ったものです」 本音を言えば、家父長的な家制度など封建時代の遺物としか思えないのだが、おくびにも出さない。 『やっぱりお父さんが悪いんじゃない。威張ってばかりの甲斐性なしとか、サイテー』 娘の悪罵が、猛毒の呪いと化してまがやを撃つ。父親をなじっているにも拘らず、攻撃がこちらに向かうのは納得いかないが、痛みは感じないのでどうでもいい。 彼は魔方陣を幾重にも展開しつつ、父親に悪態をついた。 「自分の管理も出来ないのが家族なんて始めたのが間違ってる。 みろよ、ご覧の体たらく。実に悲惨じゃないか」 同情する余地もない、と一息に吐き捨てる。 瞳が仲間全員に小さな翼の加護を与える中、息子の眼前に駆けた佳恋が全身に闘気を漲らせた。 『畜生が、やってられっかよッ!』 怒気も露に、息子が佳恋に殴りかかる。 その拳を覆う炎は、はたして誰に対する怒りなのか。家族か、世の中か、あるいは自分か――。 白鳥の羽を思わせる長剣を翳し、佳恋は燃え盛る拳を受け止める。 『誰も彼も、俺を馬鹿にしやがって!』 怒りに任せて雷を落とす父親に、フツが泰然と口を開いた。 「なあ、父ちゃんよ。 親父が呑んだくれているのを見たら、子どもは溺れることを覚えちまう」 邪を払う光で状態異常を退けつつ、彼は説法を続ける。 「逃げるのはいい。 逃げるのも、逃げるのをやめるのも、自分の意志だからな。 だが、一旦溺れることを覚えちまったら、後はもう流されるだけだ。 そこに自分の意志なんてものは必要ねえ――」 誘導性の真空刃で息子を狙い撃つミリィが、後に続いた。 「貴方も一度、自分を客観視して見るべきです。 貴方は……貴方は、自らを誇ることが、 子が妻が、誇りに思えるような存在だと、そう思っているのですか?」 『喧しい、他人に何がわかる! あいつらだって……』 拳を握り、腕を振り上げる父親を、音羽が睨む。 「文句があるなら、言わないで済むよう直す努力をしろっていうんだ」 四属性の魔力が、次々に父親を襲う。回避に気を取られた一瞬の隙を逃さず、那雪が気糸の罠で父親を捕らえた。 「そうやって暴力振るうから奥さんの愛も離れるんだろ? 僕なら優しく……幸せにしてあげるのに」 父親の動きが止まったのを見て、今度は姓が息子の周囲に気糸を展開する。 集中領域に導かれた頭脳によって仕掛けられた罠は、息子の全身を容易く絡め取った。 「酷い男だ。彼女のこと愛してるようには思えないね。 可哀想に、……今まで辛かっただろう?」 姓の視線に、母親が縋るような表情を返す。 『やだやだ、また色ボケしちゃって』 『なんてこと言うの、この子は!』 つまらなさそうに香水瓶を放る娘に、母親が怒鳴った。 強い香水の匂いが鼻を突く中、母親の投擲する包丁がリベリスタ達を襲う。しかし、父親への口撃が効いているのか、威力も精度も覚悟していた程ではない。 「さて、それじゃースーパー殲滅タイムだな」 一条の雷を放ち、縦横無尽に室内を駆け巡らせるまがやに続き、瞳が声を放った。 「喧嘩両成敗、家族仲良く消えてもらおうか」 瞳と沙希が癒しの福音で仲間達を包み、傷を塞いでいく。 綾乃が放つ神秘の刃が、罠に封じられた息子を切り裂いた。「白鳥乃羽々」に全身の闘気を込め、佳恋が一歩踏み込む。 「家族といえば一般的には支え合うものだと思うのですが―― これでは、家族と呼べるのかすら怪しいですね」 いずれにしても、家族を失った自分には関係のない話だ。 「……羨ましくなど、ないですから」 微かな呟きは、誰の耳にも届くことなく。 大きく羽ばたいた白鳥の翼が、少年の思念をかき消した。 ● 力技で気糸の罠から逃れた父親は、激しい怒りに目を血走らせながら酒瓶を投げた。 『この間男がッ!』 頭に瓶をぶつけられた姓が本当に間“男”かどうかは、実のところ定かではないが…… 母親の気を惹き、父親の怒りの矛先を自分に向ける姓の男っぷりの良さは、E・フォース一家の誰もが認めているようだ。 口撃による強化で、父親の速度や状態異常からの回復率は向上している。 麻痺狙いより火力を優先させるべきと判断した那雪は、前進しながらオーラの糸を伸ばし、残る敵を纏めて狙い撃った。 「不甲斐ないから尊敬されず、あげくに洗濯物も一緒を嫌がられるんだろう?」 父親の神経を逆撫でするため、鼻で軽く笑うことも忘れない。 ブレイクフィアーで致命の呪いを払ったフツが、真摯に言葉を紡いだ。 「男なんて弱いもんだ。それはオレもわかってる。 だが、父親は……頼ってくれる家族の前では強くなきゃいけねえ。 溺れることも揺らぐこともない、強くてぶっとい柱でなきゃいけねえ。 結婚するってことは、そういうことだろ」 語りかけながら、彼は父親の視界を遮るべく前に立ち塞がる。背後の状況を把握できるよう、後方には式神も配置していた。 次のターゲットである娘に向けて、ミリィが真空の刃を生み出す。音羽の放った雷撃が、後を追うようにしてE・フォースの一家を次々に貫いていった。 『香水瓶が、来ます……』 優れた観察眼をもって娘の攻撃動作にいち早く気付いた沙希が、念話で仲間に警告する。 彼女は室内を見渡して全員の状況を確認すると、癒しの風で姓の傷を塞いだ。 今回、沙希は例外的に中衛寄りの前衛として動いている。回復を担いつつ、危機に陥った仲間の庇い手に回る構えだ。 一人だけ、楽をしようとは思わない。 たとえ運命を削ることになろうと、家族喧嘩の観戦料として割り切るつもりだ。 佳恋が「白鳥乃羽々」の一閃で娘を吹き飛ばし、綾乃のチェイスカッターがそこに鋭い追撃を加える。 前衛に射線を遮られて母親の包丁攻撃を逃れたまがやが、うんざりしたように言った。 「……あーやだやだ、美少女の一つでも持って来いって話よね」 年増の誘惑など勘弁して欲しいし、香水臭い女もお断りだ。 まがやの放った一条の雷が娘の全身を撃ち、その姿を霧散させる。 直後、父親の怒号が響いた。 『どいつもこいつも、好き勝手なことばかり抜かすなッ!!』 雷雲が天井に渦を巻き、稲光が室内を青白く染める。 部屋全体に降り注いだ雷が、リベリスタ達の全身を激しく貫いた。 その一撃の前に瞳が倒れ、音羽が己の運命を燃やして自らの身を支える。 フツが癒しの福音を響かせ、仲間達の傷を塞いだ。 「皆、大丈夫か!?」 彼の声に頷き、那雪が煌くオーラの糸を伸ばす。体勢を立て直した音羽が、負けじと雷撃を放った。 リベリスタ達の猛攻に傷つきながらも、母親が姓に流し目を送る。 『もう子供たちもいないし……私と一緒に、逃げてくれる……?』 すぐ近くで雷を落としまくっている旦那は目に入っていないらしい。 「いけない奥さん……」 姓は視線を逸らすと、やや腰を引き、母親を制するように手を上げた。 「すまない、でも……実は彼女がいるんだ」 『な……!?』 絶句する母親の胸を、姓の掌から伸びた気糸が真っ直ぐに貫く。 すかさず放たれた綾乃の真空刃が弧を描いて襲いかかり、母親のE・フォースを袈裟懸けに両断した。 ● 残るは、荒ぶる父親ただ一人。 雷撃を放ちながら、まがやはふと思う。 ここまで醜い口論を続けながら、なおこの四人を一つ屋根の下に繋ぎ止めていたのは、やはり父親の金なのだろうか――と。 考えても仕方の無いことではあるが、彼は思わず溜息をついた。 「はぁ……夢も希望もありゃしないな」 雷に変えた自らの闘気を纏い、佳恋が父親に肉迫する。 親が働いて得た金を盗んだ娘。若い男に入れあげて家族を蔑ろにした母親。 そして、酒に溺れて暴力を振るう父親―― 口にこそ出さないものの、彼女には彼らの思考はまるで理解できない。 なすべきことは、たった一つ。 「終わらせましょう。……色々な意味で、偽りの、家族を」 白鳥の羽ばたきが、父親の全身を激しく叩く。 対する父親は苦し紛れに酒瓶を投げつけるも、姓は倒れない。 後光の如く輝くフツのブレイクフィアーが致命の呪いを払い、沙希が癒しの息吹を届けて姓の背をしっかりと支える。世の中はギブアンドテイク――攻撃を引き受けてもらった分は、しっかりと返さねば。 那雪が気糸で父親を貫いていく中、綾乃が神秘の真空刃を生み出しながら呟いた。 「奇しくも若い順、なんでしょうか、これ」 狙ったわけではないが、リベリスタ達は息子、娘、母親、そして父親と、年若い者から撃破している。 E・フォースに、年齢も何もあったものではないだろうが。 音羽が、「一人になった感想はどうだ?」と、父親に問いかけた。 「喧嘩相手ももういない、怒鳴る必要ももうない、すっきりしたか? 寂しくなったんじゃないかね?」 『フン、寂しいだと』 軽く鼻で笑う父親に、音羽は真っ直ぐ言葉を重ねた。 「家族ってのは、大事にするもんなんじゃないかね?」 生じた一瞬の迷いを突くように、四属性の魔光が父親に絡みつく。 『女房に裏切られ、子供に馬鹿にされてもか……!』 全身の動きを封じられ、もがく父親に向けて、ミリィがそっと声をかけた。 「それでも、家族を支えてきたのは、やはり貴方です。 貴方が頑張ってきたからこそ、ここまで子供達が育つことが出来たのです」 彼女を見た父親が、一瞬、目を見開く。 ミリィは、そこに真空の刃を放った。 「……ありがとう、お父さん」 でも、お酒はちょっと控えてくださいね――? 切り裂かれた父親の姿がゆっくりとかき消え、マンションに静寂が戻る。 人騒がせな家族喧嘩も、これで終わりだ。 「さて家に帰るよ。彼女が待ってる」 そう言って、姓が踵を返す。自宅に戻れば、彼女――“お嬢さん”と呼ぶ白い猫が、自分を出迎えてくれるだろう。 仲間達が順に部屋を出ていく中、ミリィは先ほど口にした一言を胸の内で反芻する。 (……ありがとう、ですか) ずっと言いたくて、言えなかった言葉。 今なら、もう一度言える気がした。 「ありがとう、お父さん。お母さん。私は今、元気です」 ――今はもう、一人ではないから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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