● 「見てくれたまえ同志諸君。此れが僕の『フォルトゥナ』さ!」 運命の車輪を操ると言うフォルトゥナ。時にはフォーチュナとも呼ばれる女神の名を冠したその化物を、よれよれで何が原因かわからない得体の知れない染みの付着した白衣を、悪い意味で違和感なく着こなす研究員、『エンスージアスト』長谷村零司郎はライバルであり同志でもある数名の、他の研究員達に嬉々としてお披露目する。 其れは例えるならば5mほどもある巨大なイソギンチャク。女神の面影は何処にも存在しない。 「有能かつ崇高な精神を持つ我が同志諸君なら、僕のキマイラ研究が取り込みによる自己進化や自己増殖をテーマにしている事は既にご存知だと思う」 此処に居たのが叫喚なら、或いは阿鼻なら、キマイラの其の姿の醜悪さやネーミングセンスに何らかのコメントをしただろうが、此処に居るのは皆どこかイカレタ研究員達。 研究発表の場においてそんな瑣末な事に囚われよう筈も無い。 「キマイラ研究において大きな障害の一つとなるのが、其の素体の確保であると言う事は同志諸君も痛感している事だろうと思う。何せキマイラを作るには複数の種別を異にする素体が必要だからだ」 ガラガラと台車に乗せられた、一人の女性が連れてこられる。 何の変哲も無い一般人の女性が。 「僕が今回作成したフォルトゥナは、女性を材料に運命の車輪と名付けたキマイラを作成する、増殖型キマイラさ」 フォルトゥナを見ておびえる女性を、助手は容赦無くフォルトゥナに向かって蹴り飛ばす。 フォルトゥナの、イソギンチャクの様な触手に捕まり持ち上げられる女性。 「まずは核となるノーフェイスの作成工程。此れは増殖性革醒現象を利用するから、必要時間が正確に割り出せないのが難点かな。今までの例だとまあ10秒~30秒ってとこだったけれどね」 「い゛や゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」 触手に生えた針から謎の液体を注入され、更には電流を流された女性の悲鳴が耐えることなく響き渡る。 死すら許されず、体内を弄られ、強引に革醒を促されていく。 そしてずるりと、ノーフェイスと化した瀕死の女性はフォルトゥナの中へと取り込まれた。 「さて、後はもう簡単さ。この中に普通の人間を放り込んでやれば良い。今は未だ誰でもって訳にはいかなくて、核になるノーフェイスと同程度の体格の女性しか合成出来ないんだけれど……」 悲鳴を上げる女性が、次から次へと、運び込まれ、フォルトゥナへと取り込まれていく。 そして其の果てに生み出されたのは、女性の上半身が腰で繋がり、まるで車輪の様に見える化物と、同じく女性の下半身が腰で繋がりまるで車輪の様に見える化物。 「素材捕獲用キマイラ『運命の車輪』の完成。こいつ等は素材を捕らえてはフォルトゥナに運んで同胞を増やしてくれるのさ。こいつ等自体を別のキマイラの素体とする研究も進めているよ」 嗚呼、実に、醜悪だ。 「まあ素材が大した事ないから高い戦闘力は望めないけど、一山幾らの連中よりは使えると思うよ。さて、じゃあ次は実際に捕獲と増殖の実働試験をお見せしようか」 ● 「女の子は可愛くて綺麗で良い匂いがして……、そんな男の幻想を裏切らない為に金使ってるんだから飯奢れ。と、昔とある女性が言ってるのを聞いたことがある」 僅かに遠い目をし、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)はリベリスタを出迎える。 「まあ其の発言自体が幻想クラッシュだと思うのだが、はてさて。しかし美しさを求めるのは女性にとっては本能とも言えるのかも知れん」 コツ、コツ、コツ、逆貫の指が机を叩く。 「さて、本題に入ろうか。その女性達が美しくある為の化粧品の無料試供会が行われる。若い女性限定でな。だが此れはダミーで運営者はフィクサード。……それも六道に連なる者達だ」 六道から連想されるとおり、配られた資料に書かれているのは……。 「そう、その化粧品の試供会は間違いなくキマイラの実験舞台だろう。集まった女性達はキマイラ実験の贄となる」 資料 キマイラA:フォルトゥナ 5mほどの大きさのイソギンチャクの様な化物の口の中に、女性の上半身が隠れているキマイラ。 捕獲した女性を改造し、運命の車輪を作り出す能力を持つ。 10人の女性を体内に取り込む毎に、後述する運命の車輪(上半身)と運命の車輪(下半身)を一体ずつ作り出す。作成に掛かる時間は6ターン~8ターン。 其の他に電撃を放つ触手や、謎の液体を注入する触手で戦うことも出来る。見た目通りタフ。 キマイラB:運命の車輪(上半身)×2 女性の上半身が腰で連なり車輪を形成しているキマイラ。後衛型。 車輪を構成する女性の胸が育ち、回転の勢いで千切れた胸を飛ばして攻撃してくる。胸は何かにあたるとはじけ飛び、真っ白な毒液を撒き散らす。 千切れた胸も高速で再び成長する為弾切れは無い。 敵に腕を絡めて車輪内に取り込み回転して削るなどの攻撃も行う。 キマイラC:運命の車輪(下半身)×2 女性の下半身が腰で連なり車輪を形成しているキマイラ。前衛型。 車輪で轢き潰す攻撃の他、敵に足を絡めて車輪内に取り込み回転して削るなどの攻撃を行う。 フィクサードA:颶・風 六道フィクサード。会場スタッフ。 ジョブはソードミラージュで10~15lv程度の実力。 フィクサードB:怒・無 六道フィクサード。会場スタッフ。 ジョブはクロスイージスで10~15lv程度の実力。 フィクサードC:道・徳 六道フィクサード。会場スタッフ。 ジョブはホーリーメイガスで10~15lv程度の実力。 「今回の作戦目標はフォルトゥナの撃破となる。醜悪な敵が、美を餌に獲物を呼ぶ。皮肉だな。……諸君等の健闘を祈る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月22日(金)23:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「あの子可愛いなぁ……。あ、捕まった。あーぁ、勿体ねぇ」 「ちきしょう気持ち悪いな。何なんだよキマイラって。あの気持ち悪い研究者、エンスーだっけか? キチガイは箪笥に小指ぶつけて死なねえかな」 「おい、馬鹿。聞かれたら俺等も素体とやらにされるだろうが。黙って仕事に励もうぜ。まあ俺もこう言うのは地獄の連中とかの仕事だろって思うけどよ。多分俺等の方が安上がりなんだろ」 必死に逃げ惑う女性達が逃げ出す事の出来ぬよう、扉の前に陣取り天井に向かって発砲するフィクサード達。 彼等にとって目の前の惨事は他人事だ。加害者でもなければ被害者でもない。被害者からすれば襲い来る化物と出口を塞いだフィクサードは何ら違いなく恐怖の対象であろうけど、そんなの知った事ではない。 もういっそギャーギャー抵抗せずに早く捕まってくれればこんな気分の悪い仕事から解放されるのに面倒くさい……其の程度の心境なのだろう。 けれどだからこそ、彼等はその危機に気付くのに遅れてしまったのだ。 彼等が封鎖する正面出入り口を、まさか逆側からルビーレッドのクーペ型軽自動車に乗ったリベリスタがぶち破って突っ込んで来るなんて。 響き渡る轟音。 弾き飛ばされ無様に地に転がったフィクサード達。 如何にE能力に革醒したフィクサードであろうと、油断してる背後からブレーキ無しで突っ込んで来た車に轢かれればそりゃ痛い。まあ軽自動車程度では痛いだけで大きな被害に繋がらないのが一般人と比べれば凄い所ではあるのだけれど。 そんな彼等には目もくれず、ベコベコに凹んだ車から颯爽と降り立ったのは『肉混じりのメタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)と、歪んだドアを開けずに割れたフロントガラスから這い出したのはステイシーのナビをしていた『Beautiful World』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)の二人。 だがそんな二人に、刎ね飛ばされた三人のフィクサードが怒りの報復攻撃を仕掛けて来る。 もし仮にもっと大型の車であったなら、轢かれたフィクサード達も怒りの反撃を起こすような戦意を奪われていたかも知れない。それ以前に大型の車であったなら正面入り口ではなく壁をぶち破っての侵入も可能だった筈なのだ。そうすれば危険を恐れたやる気のないフィクサード達は我先にと逃げ出していた筈なのに。 ソードミラージュである颶・風の刃がステイシーの鉄を多く含んだ身体に、それでも彼女の油断も手伝い深々と突き刺さる。更にホーリーメイガスの道・徳が自分達の受けた傷を治癒の力で消し去り、……だが、其処までだった。 次いでユーニアに対してクロスイージスの怒・無が十字の光、ジャスティスキャノンで攻撃を仕掛けようとしたその時、ぶち破られた入り口から飛び込む一台のバイク、『落とし子』シメオン・グリーン(BNE003549)が運転する其れの前輪が、深々と怒・無の顔に突き刺さったのだ。 E能力者であろうと顔面にバイクの前輪をぶち当てられりゃ、そりゃ痛い。物凄く痛い。痛いだけで死にはしないが、兎に角滅茶苦茶痛い。思わず攻撃を中断してしまう程には、その衝撃は大き過ぎた。 更には、次々に駆け込んで来る複数のリベリスタ達の姿に、フィクサード達は中途半端な報復行為を事をすぐさま後悔する羽目になるのだが、けれども確実に時は其処で浪費されていく。 『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)の放つ雷光が、大気を焼きオゾン臭を撒き散らす。 突かれた藪ごと、燃え尽きる。 ● 会場内に溢れ返るは絶望と悲鳴。 眼前に迫る醜悪な車輪。裸の女性の上半身が連なった其れに、一人の女が恐れに萎えた手足で必死に床を這って逃げる。 この車輪に捕まればどうなってしまうのかは嫌と言うほど見せられた。 嫌だ。捕まりたくない。怖い。けれど、怯えれば怯えるほどに手足は萎え、腰は砕け、まともに逃げる事すら叶わない。 伸びる手に足を掴まれ、恐怖が喉から溢れ出そうとしたその時、だが其の女に最悪の運命を運ぶ車輪には無頼が、怒りを込めた、問答無用で強烈な拳の一撃が突き刺さる。 運命の車輪と女の間に割り込み拳を放ったのは、しかし攻撃の苛烈さとは裏腹に細身で色白の少女、『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)。 一見すれば何処にでも居そうな、少し派手気味ではあるけれど……女子高生に見える雅だが、けど違う。決定的に、其の戦闘能力以上に、身に纏う雰囲気が違う。 「後ろを振り返らずにこっちに逃げなさい! 醜いバケモンは全部止めてやるからさ!」 威を伴う、其の声に、萎えを吹き飛ばされたのか、驚きと混乱はやまねど、未だ立つ事叶わず這ってではあるが、先程よりは遥かに早く女は出口を目指して逃げ始めた。 だが既に敵は、フォルトゥナは新たな車輪を吐き出し、捕まえた女性を次なる核とするべくノーフェイスの作成に入っている。 「こ゛わ゛ぎ゛ぁ゛ぃ゛ぃ゛た゛ぃ゛ぃ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」 怖いのか、痛いのか、其れとももっと別の何かを訴えているのか、判別の出来ぬ悲鳴が会場中に木霊する。 威を瞳に宿した雅の拳は、まっすぐにフォルトゥナに。嗚呼、あまりにも醜悪だ。無粋だ。気に食わない。 「ぶっ潰してやる!」 雅の宣言に、車輪の一部は新たな敵、或いは新たな、ずっと優れた研究素体となるであろうリベリスタ達に標的を変える。 全てでは無く、一部を残して車輪を増やそうとするのがキマイラ達を操るエンスージアストの厭らしさだ。 彼は知っている。全てを対リベリスタに当てるより、一般人を襲うキマイラを残す方が、一般人を救わんとするリベリスタ達の動きを乱せて効率が良いという事を。 彼は知っている。例えリベリスタが一般人を見捨てようとも、ならば数を増やしてしまえば自分の作品は負けはしない。其れだけの研究理論が、あのフォルトゥナには詰まっているという事を。 如何転んでも、新たな素体は自分の手に落ちる。嗚呼、あの眼前に立つ少女の瞳は素敵だ。捕まえたら先ず、あの目を抉ろう。とても愉快な声で鳴くに違いない。 翳した符から迸る呪力が会場に氷の雨を降らせる。『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)の放った陰陽・氷雨は確実にフォルトゥナや運命の車輪達にダメージを与え、其の一部を凍結させるが、けれどキマイラ達も其の程度では怯まない。 自らの前に立ちふさがるリベリスタ、美峰やステイシー等に対して4体もの運命の車輪が一斉に襲い掛かる。 遠心力によって引き千切られた胸が宙を飛び、無数の足が彼女達を轢き潰さんと回転しながら蹴足を叩き込む。ぶつかり弾けた胸から乳白色の毒液が撒き散らされ、彼女等の肌を、服を焼いて行く。 だがそんな痛みよりも、気持ち悪さよりも、美峰の目を引いたのは、胸の千切れた痛みに泣き叫ぶ、運命の車輪の中の女の一人。 「……酷いもんだ」 焼けた服の懐から、符を取り出し構える美峰。此れはあまりにも、 「綺麗になりてえって奴がこんな姿になるのは笑えねえジョークだぜ……」 笑えない。 この身の震えは痛みじゃない。綺麗になりたいと願っただけの女性達を襲ったあまりに理不尽な運命に対する、悪意に対する、……怒りだ。 恐怖のあまり半狂乱になっていた女を懐に抱え込み、付喪は其の背で流れ弾の胸を受け止める。 毒液が背を焼く音に、女のパニックは一層激しくなり付喪の懐で暴れるが……、 「良いから落ち着きなって。入り口は私達が解放したから其処から逃げると良いよ」 痛みを堪えて付喪は静かに語りかける。時間は無い。それでも焦りはしない。声を荒げもしない。 ただ必要な事を正確に。取り乱した女にはそれが一番必要だと感じたから。 そう、こんな時でも付喪は優しい。 痛みよりも自分を気遣ってくれる付喪の其の優しさに、女の瞳に正気が戻る。 「全く世話を焼かせるんじゃないよ、怪我は無いかい?」 付喪が取りこぼしを防がんと個別対応を行ってくれているから、此方は全体の避難誘導に専念できる。 「皆さん、ココは危険です!」 大きな、会場中に響く大声で、全員に呼びかけたのは『狂気と混沌を秘めし黒翼』波多野 のぞみ(BNE003834)。 彼女が口にしたのは、当たり前の、今更確認するまでも無い、そう、当然の事実。 けれど強すぎる恐怖は、その恐怖の理由さえも麻痺させてしまう。自らの心を守る為に、感情を、思考を、停止させるのだ。 だがそれでは死の恐怖から逃れられても、死、其の物の運命からは逃れられない。 今此処に助けの手がある。気付いて欲しい。生き延びる為に差し出した手を掴んで欲しい。 故に、のぞみは当然過ぎる事実から再確認を始めたのだ。 普段は快楽こそを至上とする、少しあぶなかったしい所もあるのぞみだが、彼女の心は今、怒りで満ちていた。 女性を道具の様に、或いはモルモットの様に、扱うモノがこの世界にあって良い訳が無い。 本当ならば今すぐにでもフォルトゥナに、この醜悪な存在を作り出した研究員に、アームガトリングの弾丸を撃ち込みたいとのぞみは思う。 しかしそれでは誰も救えない。此処に居る女性達を、ただ綺麗になりたかっただけの罪の無い彼女等を、助ける事だけを今は考えて。 心はホットに、でも思考はクールに。 「誘導しますので、こちらに来てください!」 無論捕獲にまわるキマイラ達が其の避難を見逃す筈は無いのだが、 「……させると思うか、縛り付ける」 何時の間にか張り巡らされた気糸が絡みつき、運命の車輪の回転を封じ込める。 動きを封じた車輪の前に立ち、女達の逃げ道を守ったのは『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)だ。 「慌しいな、面倒なことだ……」 そう嘯く櫻霞に、運命の車輪は足をバタつかせて拘束を振り解こうとするのだが、けれどももがけばもがく程に気糸は絡み付いて離さない。 櫻霞の唇に酷薄な笑みが宿り、 「さて、潰すぞ……徹底的にな」 運命の車輪に、其の最期を予言する。 ● キマイラと、リベリスタの戦いは続く。 「こんなのが女神に見えるのかね……変態の考えることははよくわかんねーな!」 鋭い呼気と共に繰り出されるは呪刻剣。自らの身をも削っての禍々しい黒光を帯びた武器での告死の呪いの一撃が巨大なイソギンチャクの肉体を裂く。 ユーニアが現状で繰り出せる最大の一撃は、確かにフォルトゥナにダメージを与え得る。 だが、足りない。巨大なフォルトゥナを打倒するには、圧倒的に火力が足りていない。 そう呪刻剣の真価を発揮するには、其れ単体では駄目なのだ。ダークナイトが単独での戦いを苦手としがちな傾向があるのと同様に、呪刻剣も其の真価を発揮する為には対象へのバッドステータスの事前付与を必要とする。美峰の陰陽・氷雨による凍結があるとは言え、それが充分であったとは到底言いがたい。 ユーニアに対して伸びるフォルトゥナの触手。 ユーニアは、毒に耐えうる。電撃に耐えうる。精神への攻撃に耐えうる。惑わされない。そして麻痺にも耐えうる。 けれど、未だ其の耐久度はフォルトゥナを一人で支え切るには足りていない。個体としての力が、届かない。 だが火力も耐久も足りぬ事は、刃を交える彼自身が一番良く判っている事だ。 再びフォルトゥナを切り裂くは、奪命剣。 ほんの10数秒を稼ぐ為に、せめても、足掻く。 ……長い戦いの末に、再び吐き出される醜悪。上半身と下半身、二体の運命の車輪。 僅かに救い切れず、2度目の車輪作成を許してしまったリベリスタ達。けれど、遅かったのはキマイラ達も同様だ。 新たな運命の車輪が吐き出されたのは、既に殆どの敵が片付けられた後だった。 ユーニアは倒れた。ステイシーも倒れた。けれど女達は逃げ延び、フォルトゥナも既に大きな傷を負っている。そして何より大きいのが、最大戦力でもあるフォルトゥナが櫻霞の放った気糸、トラップネストに捕らわれて身動きを取れなくなるパターンに陥ってしまった事だろう。 キマイラの生産速度を上回ったリベリスタの殲滅速度。 生み出された運命の車輪、倒され行くフォルトゥナに、シメオンがほんの一瞬、惜し気な表情を晒す。 彼の理想の為にこのキマイラ研究のテーマは、非常に魅力的に映ってしまう。 自己進化と自己増殖。エンスージアストの研究成果の一つであるこの作品を見るシメオンの目は、研究者としての其れだ。 だがシメオンの内面が零れたのは僅か一つ瞬く間だけ。今の彼の立場はアークのリベリスタ。先が如何在るかはわからねど、今この瞬間の仕事で手を抜くわけには行かない。 美峰の陰陽・氷雨、付喪のチェインライトニングに併せてシメオンが放つ神気閃光が視界を真っ白に染め上げる。 「そんな気持ちワリィ姿で女神名乗ってんじゃねえよ! 出直してきな!」 「こんなモノはこの世にはあってはいけない。壊れなさい、壊れなさい、壊れなさい、壊れなさい!!」 そんな光に焼けた視界を切り裂く様に、雅の、のぞみの、怒りの声が響き、……フォルトゥナに銃弾の雨が降り注いだ。 其処で映像記録が途切れ……、操作に従い再びはじめから戦いの様子を映し出す。 何度も、何度も、『エンスージアスト』長谷村零司郎は其の映像を食い入るように見つめる。 同僚の研究員達の前でかかされた恥はもう良い。仕方ない。アレはどうしようもなく慢心だった。 敗戦の理由は明白なのだ。生産速度の遅さが致命的だった。 この屈辱は糧だ。 フォルトゥナを失い。素体も手に入らなかった。けれど此処に戦闘データが残ったではないか。 記録をじっと見詰める。自らの手で最強のキマイラを作り出す為のヒントを捜し求めて。 この敗北は糧なのだ。 自分が全てを手に入れる日の為の、貴重な糧だ。 手に入れ損なった素体……アークのリベリスタ達も、必ず手に入れる。逃がさない。腹を開いて抉って混ぜて、立派なキマイラに仕立ててやる。 そして何時かは、何時の日にかは、六道紫杏も、この手におさめる。 何時の日にか、必ず。 其の日を想像する零司郎の笑みは、キマイラ達より醜悪で……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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