●冷たい雨の中で 冷たい雨が降り続け、じめじめとした湿気が人の心に嫌気を生んでいく。 そんな中で、傘もささずに空を見上げる女子高生風の少女が一人。 彼女の瞳には生気がなく、彼女の着ている高校の制服はびしょ濡れになっていた。だというのに、町の人々は誰も彼女に声をかけることができない。 というのも、彼女は小さな結界を張っており、その上で声をかけ辛い雰囲気を作っていたからだ。 「ああ、冷たいと思ったら……雨か……。これだから、六月は嫌い……」 ぼそりと呟いて、まだ空を見上げている。 結界を使っていることからも分かる通り、彼女は革醒者だ。だけど、数分前までは一人の女子高生として恋人と一緒に町を歩いていた。その時は幸せで、悪いことなんてしようとも思わなかった。 だけど、今は違う。何故か? 「フラれちゃった……な……」 言葉通り、彼女は数分前にフラれた。というのも――、 「危ない……!!」 街中をデートしている時に突然出現したエリューション・エレメントが彼女の恋人を襲った。当然、彼女は恋人を庇って、その上でエリューション・エレメントを撃退したからだ。 「……う、うわぁ! ば、化け物!?」 恋人はその光景を見てそう言った。最初、彼女はエリューション・エレメントのことかと思って、恋人を安心させるために手を差し伸べたのだが、 その手は弾かれ、恋人の瞳は彼女を恐れた。 「来るな! 化け物!!」 化け物が誰を示しているのか、彼女はその時ようやく分かった。恋人を守るためとはいえ、今まで隠してきた神秘の力を使ってしまったのは――自分だ。 唖然としているうちに恋人は逃げ出し、ぽつぽつと雨が降り出した。 「……冷たい」 それからずっとこの少女は雨に打たれている。 傘をさす気力もなければ、ただ立っているだけもできない。だから、雨に打たれながら当てもなく歩いている。 「……もう、やだ。こんな世界――」 ぐすっ、と小さな声が少女の口から洩れる。涙が出ているとは自分でも思うが、雨が激しすぎて涙とそれ以外の区別がつかない。 「――先の戦い、見ていたわ。あなた、私の仲間にならないかしら?」 「……えっ?」 そして、そんな時に彼女は出会った。黒いゴスロリに身を包み、傘をさしている女……黄泉ヶ辻のナツキに。 彼女は語る。 「この世界はおかしいわ。だから、すべての人を革醒させれば……あなたのような悲劇は生まれない。違う?」 「……そう、かな」 「そうよ。……それにあなた、なんでもいいから暴れたいって思っている。それはよくないことだけど――発散、したいわよね?」 そのナツキの言葉には頷かず、しかし心のどこかでそう思っていることは否定できない。少女の心はぐちゃぐちゃなのだ。 「まあ、いいわ。私の仲間になりなさい。あなたの力、あなたの心。有効活用してあげるから」 「……あっ」 傘とタオルを差し出され、少女はナツキを見上げる。そこには、優しげな表情。 もし自分に姉がいたのなら、こんな人物なのだろうと少女は思う。 「あなたの名前は……。いえ、あなたにもう普通の名前は要らないわね。“ザ・レイニー”と名乗るといいわ」 「ザ・レイニー……?」 「そう。世界に降り注ぐ雨。それが、あなたの新しい名前よ」 こうして、この世界にまた一人フィクサードが誕生した。 ●雨を降らせる女 リベリスタたちがブリーフィングルームに入ると、モニターを眺める『運命演算者』天凛・乃亜(nBNE000214)の背中があった。乃亜はモニターの中に映る雨に首を傾げつつ、リベリスタたちに状況を説明し始めた。 「町の中にフィクサードが出てきた……のだけれど、様子がおかしいのよ」 モニターの前から乃亜が退くと、リベリスタたちにもそのフィクサードの姿が見えてくる。土砂降りの雨の中で、傘もささず悲しい顔で雨を一身に受けている少女。それが今回事件を起こしているフィクサードらしい。 そのフィクサードのコードネームは“ザ・レイニー”であり、特別な力を持っていると乃亜は言う。 「この雨が彼女の力よ。彼女は雨を降らせる特別な能力を持っている。だけど、それで攻撃するわけではないみたいなのよね」 土砂降りの雨だが、これを被っても大きな被害は起きていないらしい。ダメージを受けるのかと思えばそうでもないし、水に関する神秘的な力がブーストされるかと言われればそうでもないのだ。 「今回はこの雨の調査をして欲しいのよ。能力で生み出されたものなら、何かしら影響を与える可能性があるものね。でも今のところは、私たちには影響ない効果みたいよ」 不気味な雨だ。それを降らせ続けるこのザ・レイニーというフィクサードも不気味である。 彼女は黄泉ヶ辻所属のフィクサードだという。それなら不気味さにもある程度納得できるのだが。 「その上で、雨を止めてほしいのだけれど……。止めようとすれば彼女と戦闘になるかもしれないわね。戦闘になった場合、彼女を連れて帰ってきて。もちろん、倒してもいいのだけれど……少し気になるのよね。経歴が経歴だし」 男性に化け物と言われたのが黄泉ヶ辻のフィクサードになった原因だと、資料は語っている。その後雨を降らす能力を手に入れたようだが、これが何か分からない。 「それにこの雨は成分的に見て、エリューションに近いのよ。それが、とても気になるわ」 不安げな乃亜の顔を見て、リベリスタたちにも不安が伝染する。見えてこない動きが、とても気持ち悪く思えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月21日(木)00:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●止まない雨 空は黒く茂っており、太陽の光は届かない。強い雨の日は、まるで夜のような日になってしまう。 一寸先の見えない夜にそっくり。 「6月。水無月……かぁ」 大雨を見て、夜のような空を見る男が一人。 「懐かしい。8才の時に言われたな。あの時はどんな気持ちだったかな……?」 その男……『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は空を傘も差さずに見上げていて、過去を回想している。友人や家族から疎まれた記憶。拒絶されたという事実。 七海の表情は長い髪によって隠れてしまっているが、その顔には様々なものが浮かんでいた。 ――その時の感情は、すっかり過去のものになってしまったけれども。 「大丈夫。自分でもなんとかなった」 空に向かって呟く。雨が服に染みついて体の重みになっていくけれども、自分は動けるし戦うことも感情を表現することもできる。少し、動きづらい時もあるけれども。 「恋人に振られただけで本物の“化け物”になるなんて随分と可愛らしい“化け物”だな」 雨を受け入れている七海とは対照的に、雨を振り切るように張り切っているのは『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)だ。傘とタオルを手にしたこのスーツ姿で出るところが出た女性は、ザ・レイニーが雨を発生させている空をキッと睨みつけている。 しかし、少し思い出すことがあって、こほんと小さく咳払いをする。 「まぁ、誰だって自分が一番不幸だ。私だって、もし、あの日、私を守ってくれたあの人が生きていれば、私が覚醒する事が無ければ私も彼を“化け物”と恐れていただろうか?」 家族の記憶。生の人間であった頃の事件からは逃れられない。 「もし、私がジーニアス、あるいはメタルフレームの変異部位が顔ではなければ、私は自らを“化け物”と思わずにすんでいただろうか? と、過ぎた事にいつまでも囚われている。如何しようも無いのは分かっているのにな」 それは、一生付き合っていくことだろう。メモリーの中に刻み込まれてしまっている。 だからこそ、振り切りたいのだが。 「甘いな、私も」 ザ・レイニーの分まで用意していたタオルと傘を手に、瞳は俯きながらも笑っていた。 「フィクサード“ザ・レイニー”ですか……。一体、彼女は普通のフェイトを持った者と何がどう違うのか」 七海や瞳を見て、それから自分も用意していたタオルを見て、『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は思うことがある。自分も悩んでいたことがあるし、今仲間になっている彼らも力に悩んでいた。ひょっとしたらそれは、今も続いているのかもしれない。 そんな自分たちが、悩み苦しむフィクサードとどう違うのか。 「件の雨、あの力があればこそナツキに見出されたのでしょう」 やはり、持っている力の質なのかもしれない。力があるが故に、厄介事は向こうからやってくる。 「出来る限りの事をやりましょう。それが、関われる者の務めなのでしょうから」 私服で来るのか巫女服で来るのか悩んだが、今回は巫女服でやって来た。戦闘が行われる可能性が高いから、というのもあるが……関わる者として、相応しい恰好をしてきたのだ。 「……それにしても、嫌な雲」 傘を軽く回しつつ空を観察して、ペットボトルに雨水を入れる。千里眼で見た空は禍々しい。 「弱り目に付け込むようなやり口は好きではありませんね。いずれにせよ潰すまでですが」 普通の水と混じり合うこの雨を強く睨みつけるようにして眺めている『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)は、世界が傷ついているのを感じていた。それゆえに、世界を傷つける者を止めなければならない、なんとしてもとも感じていた。 もちろん、その裏で動く敵も。 「わたくしは“正義”を為すまでです」 すべて、切り捨てるまで。かつて、自分がそうしてしがらみを断ち切ったように。 だが、もちろんノエルもザ・レイニーを殺す気はない。戦いによって発散できるものがあれば、その相手もしようと思ってはいるが。 「この季節の雨って鬱陶しいのよね」 湿り気を帯びた長い髪を手で払いながら、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は頬に義手を当ててアンニュイな気分になる。亜熱帯特有の纏わりつくような湿気は、常に体を触られているようで好きじゃない。 そんなエーデルワイスは雨合羽と指導員の腕章を付けている。というのも、指導員という名目でザ・レイニーと接触をするつもりだからだ。 「雨は嫌いじゃないけど、外出が億劫……」 エーデルワイスと同じく雨合羽を着込んで、ため息をついているのは引き籠り体質な『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)である。華奢で子供らしい体は、雨合羽を着込んで安全靴を履いていると小学生の低学年にも見える。実際11歳なのだが。 「大規模な増殖性革醒現象を起こすのが目的? ザ・レイニーは1人では無いかも」 手元の端末をいじりながら、自分の考えを吐露していく。この雨にはエリューション的な要素が含まれているならば、つまり革醒物質が含まれている可能性もある。そこは今回の調査のポイントになるだろう。 「この季節だってのに、さむけがする。うっとうしい雨ね」 そんな雨の危険性を本能的に感じ取っているのか、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は子供らしくない眼光を光らせて、手を強く握る。裏で動いているフィクサードが気に入らないし、この雨だって気に入らない。 むしゃくしゃする。 「たかだか雨にふられてるぐらいで、下を向いて歩くのは、しゅみじゃない」 そんな涼子は傘を差さずに、雨の中を一歩一歩進んでいる。一歩踏み出すごとに、水が体に絡みついて、余計にむしゃくしゃした。 「人をもてあそんで殺すだけの奴らに、これ以上。これ以上は、好きにさせてたまるか」 強い憎しみで、唇を噛む。表情は変わらないけれども、内面で燃えたぎる何かがある。 それが、むしゃくしゃするということだ。 それでも、まずは調査をしなければならない。だから、見て、舐めて、触って、匂いを嗅いだ。 そして、空を見上げた。 どれも、胃がムカムカする。 いやな予感が、胸の中で燃え続けていた。 「用意してきたよー」 車を持ってきて、その中から濡れた仲間に声をかけているのは『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)だ。スーツのコスプレ……もとい、きっちりとスーツを着て、今回戦う敵であるザ・レイニーについて聞き込みをしてきたのである。車はその時にも使ったもので、他にも小道具は色々と用意した。 「恋人に化け物って言われたのは凄くショックだと思う」 そして恋人を探してきたのだが、どうもその恋人はもう会いたくないということなので、その言葉だけを智夫は借りてきた。 「誤解なら何とかしてあげたかった……んだけどな」 ん……、と指を咥えて、智夫は預かってきた言葉を思い出す。ほとんどが罵倒と無理解の言葉だったので言い出せるものは少ないが、 「……少しは、なんとかできるかな」 息を吐いて、手を握ってがんばろうと智夫は思う。 「それぞれの役目、やっていこう」 そしてリベリスタたちはそれぞれ動き出した。ある者は説得のために、ある者は調査のために、ある者は……缶コーヒーを買いに。 「ま、これくらいは奢ってあげる」 空を見上げて、綺沙羅は懐に温かい缶コーヒーを仕舞い込む。 ●雨と傘 ザ・レイニーは駅前を傘を差さずに、うつむいて歩いていた。顔の中に雨粒が入らないようにしているのだろうが、肌に服が張り付くぐらいに濡れて俯いている彼女を見て、心配する一般人も多い。心配するだけで、声はかけられないのだが。 「……こんな雨の中、傘も差さないなんて風邪をひきますよ?」 「そんなに濡れたら風邪をひきますよ……被ったけど」 ザ・レイニーにかけられる声は二つ。差し出された傘も二つ。紫月のものと、エーデルワイスのもの。 顔をあげて、ザ・レイニーがその二人の顔を見る。笑顔だ。 「あなたに御話があります、ついて来て下さいませんか……?」 「とりあえず、身体を乾かせる所へ行きましょうか」 エーデルワイスが手を差し出す、紫月が雨に濡れないよう傘でザ・レイニーを守る。 俯いたまま、ザ・レイニーは何も答えないし動かない。 そんな姿が、痛ましかった。だから、多少強引に雨が当たらない路地裏の方まで連れ出すことにする。 「お嬢ちゃん、ナツキの事もっと知りたくないですか? ナツキが貴方に教えてない事を教えますよ」 「……!?」 エーデルワイスが選んだ方法は、ナツキの名前を出すことだ。それに反応したザ・レイニーは誘導されるがまま、路地裏まで連れ出された。抵抗はまだない。 強引なのは紫月も同じ。持ってきていたタオルを使って、ザ・レイニーの体を拭いて雨を払っていく。……それにも、抵抗はなかった。 路地裏には仲間たちが待機しており、皆アークの知るナツキの情報を聞いているザ・レイニーの顔をまっすぐに見て何かを言いたげにしていた。実際、言いたいことはあるのだ。同じ革醒者として。 「はい。冷えは美容と健康の敵」 ナツキの話がひと段落したところで、話しかけたのは缶コーヒーを渡そうと待機していた綺沙羅だ。 「綺沙羅っていう。あんたは?」 「……ザ・レイニー」 「それは名前じゃ無くて役割」 ふう、とため息をついてから、その顔を眺める。答えたくはない、という表情だ。 「全ての人間が覚醒しても誰かが化け物と呼ばれる。覚醒を促す方法は数あれど、フェイトを得る方法は未だ確立されてない。世界は元より理不尽」 肩をすくめて、つらつらと語り始める。 他人との距離が測れないのは、綺沙羅の性質だ。 「でも。あんたは一度でも努力した? 理解される努力を」 睨みつけるようにしてから、その答えを待つ。 「……っ! あなたたちには、わからないっ……!」 しかし、帰ってきたのは激しい反発と飛び交う雷の力。 戦闘は避けられそうにない。だが、その反発の言葉にリベリスタたちはどこか安心していた。 「……貴女も言われたんですね。自分は両親からでしたが」 どこか懐かしいものを感じたからだろう。 ●雨の届かない場所で 路地裏での戦闘は、熾烈であった。狭い場所に飛び交う電撃の威力もそうなのだが、最も熾烈だったのはザ・レイニーに対する強い思いだろう。何としても阻止し、連れて帰りたいという思いだ。 「化物と呼ばれその人との関係が拗れても、その人の命は確かに守れたじゃないですか! 今は無理でも命を奪うより守る側の人であって欲しいんです!」 弓を引き、矢がザ・レイニーの体を掠める。そこから流れる血が、人のものか化物のものなのか、区別はつかない。 「大切な人を守れたんだろ? それだけで十分じゃないか」 サングラス越しに瞳の視線がザ・レイニーの体を貫く。同時に天使の歌を使い、電撃によってダメージを受けた仲間たちを瞳は癒していった。 「年長の化け物からの提案だ。君にも家族はいるだろう? エリューションに関することは話せなくても、色々と相談は出来るんじゃないか?」 それから説教に似た話を持ちかける。ザ・レイニーの敵対行動はまだ収まっていないが、言うなら今のうち、ということだ。 「……わたくしとしては何が善く、何が悪いとは申しません。貴女がどう感じるか、です。少しでも引っかかるところがあるならば協力して頂けないでしょうか」 前衛に立ち、超重武器であるランスを突き出してザ・レイニーの動きをブロックするノエルも瞳と同じ気持ちである。その上で、ノエルは戦いの中で発散できるものがあると信じていた。 だから、デッドオアアライブの一撃がザ・レイニーの腹に叩き込まれ、壁にその体を叩きつける。無遠慮に。 「……くっ」 その攻撃も、言葉も効果があった。着実にザ・レイニーの動きは鈍くなっていく。 「無用な悲劇は望まないと信じています」 凛とした、まっすぐなノエルの声と表情がザ・レイニーにはまぶしく思える。まるで、雨上がりの太陽のように。 「革醒なんてなくても。人がいれば雨の日があって、泣く日もあるってだけ」 ノエルだけではない、涼子もまた言葉と感情をぶつけていく。激情を浮かべたような顔をして、影と共にナイフを振るう。ナイアガラバックスタブだ。 影を纏うナイフの一撃は非常に当たりどころがよく、ザ・レイニーの体を一度は倒す。しかし、ザ・レイニーは運命の力を使い始めて、ふらふらと立ち上がった。 「……死にたく、ない」 「晴れる日がくれば、笑う日もくる」 そのまま影はザ・レイニーの逃げ道を塞ぐように立って、にこりと笑ってみせた。不器用な笑い方だったので、ザ・レイニーが反撃の体制に移ったらすぐに崩れたけれども。 「彼氏さんから……キミのことを、聞いてきたよ……!」 路地裏に広がる電撃を受けながらも、フェイトを使って智夫は立ち上がる。マントを広げて、ザ・レイニーの視界を塞ぐようにして立ち塞がり、動揺した彼女に向かって言葉を続ける。 「……化物のことなんて知らないって」 その言葉と共に放たれたジャスティスキャノンはザ・レイニーの体を貫いて、心を乱した。 「でも、心配する言葉もあったよ。彼にとって、かわいい彼女と過ごした日々は……忘れられないんだと思うな」 そう言って、ぽややんとした顔で智夫は笑いかける。それが、ザ・レイニーにはとても理不尽に思えたが、 「そっか……」 納得せざるを得なかった。 「この雨は、一般人に悪影響を及ぼす危険があるんです…ですから、お願いに来ました。……お願いです、この雨を止ませてはくれませんか?」 そこに紫月の言葉が式神と共に飛んでいく。式神はザ・レイニーの眼前で止まり、その問いの答えを待つ。 「私を……私を、倒すことができたのなら……!」 答えで示したのは可能性。あるいは、自分の退路を塞いでいる相手に対する挑発だったのかもしれない。……どちらにしてもリベリスタたちの説得によって、ザ・レイニーと呼ばれていた彼女の心は揺れ動いたのだろう。それは確かだ。 「そうですか。……ならば!」 だから、紫月は腕を振って式神をぶつけに行った。 「うふふ。この一撃はと~ても痛いわよ……死ぬほどね♪」 それから、その言葉を聞いて笑い声をあげ始めたエーデルワイスが背後から銃を向けてバウンティショットを撃ち始めた。 まずは勝つ。話はそれからだ。 幸い、戦闘は有利に進んでいる。……彼女が本気で逃げることもできない状況にも追い込んだ。 だから勝つことはできる。問題はその後、彼女の心がどう揺れ動くか。 ●雨上がりに誓う 戦闘はしばらく続いたが、リベリスタたちの優位に進み……フェイトの力を多く引き出したザ・レイニーは疲労の限界を迎えて倒れた。そんな彼女を、リベリスタは治療しながら手を差し出す。 「もし、君がアークに来てくれるなら私の傘とタオルを受け取ってくれ」 瞳はこう提案をして、ザ・レイニーの前に傘とタオルを投げて渡す。 「彼氏に化け物と思われ続けられるのが嫌なら。アークのリベリスタで記憶操作が使えるものに改竄してもらえば良い。男が欲しいならアークにも少なくとも外見は良いのがそれなりにいる」 提案の後、瞳はこうも付け足してみせた。……それが愛嬌なのか、皮肉なのか、天然なのかは表情から伺えない。 「いっしょに、この雨を止ませよう。あなたはまだ、取り返しがつくところにいるから」 続いて、拙く途切れ途切れの言葉であったが、涼子が思いを伝える。その背景に色々なものがあるのが伺えた。 「そっか。みんな、色々あるんだね」 少し迷った後、ザ・レイニー……いや、智夫の治療を受けながら仰向けに空を見上げている少女は、タオルと傘を手にとった。 「……ひどいことしちゃったけど。めて、よろしくお願いします」 雨は止み、ザ・レイニーと呼ばれたフィクサードは活動を停止した。 「いい。それよりも……ホントの名前、教えてくれる?」 「うん。私の名前は――」 空には色とりどりの虹がかかっていた。 その光景を見て、ゴスロリの少女は微笑んで……消えたという。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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