● 人気のない駅のホームに何処か違和感を覚えた事はないだろうか。 時刻が朝方のラッシュを過ぎたあたりだと言っても少なすぎる人影。 少なすぎる?――いや、誰もないのだ。 「……気持ち悪」 何処か感じた嫌な予感を頭から振り払う様に首を振る。 良くある心霊番組の体験談の様な――いや、まさに其れであるこの状況は十分にホラーなのだ。 次第に空の色が明るい青から夕闇の中に染まる様に暗くなる。 腕時計の針は未だAM11:00を指し示しているというのに。 本当に夜が訪れたかのような時を蝕んだような空の色が気色悪かった。 生ぬるい湿気が晒した腕にまとわりついて、次第に雨が空から落ちる。 「何、この電車」 目の前にぬるりと入りこんだ電車の行き先は『夢先』―― 「さあ、お嬢さん、お乗りなさい」 さもなくば行く先はない、と車掌は八重歯を見せてゆったりと笑った。 ● ――何処かの女子高生の会話が聞こえてくる。 「ねえ、夢先列車って知ってる?」 「なあに、それ」 「人気のない駅で電車を待ってると現れる列車!自分の一番好きな人が実体化するんだって」 「へえー……、いいんじゃない?何かあるの?」 「その人に『もういいよ、ありがとう』って伝えなきゃ、電車から降りれないんだって!」 その後の行き先は『夢先』へと。 ● 「夢先列車が現れたという」 何時になくそわそわとした様子の『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタたちに語る様に言う。 昨今、都市伝説として語られている『夢先列車』。乗らば、好きな人が実体化するというもの。 「実は、好きな人が実体化するのではなくて自分の中で一番幸せな思い出を見せてくれるらしい」 其れがどう転じてか『一番好きな人』へと転じた。――まあ、故人を見せるとなったのだろうが。 そのあとは噂通り、『もういいよ、ありがとう』と告げてくるだけでいい。 「実はその列車、アーティファクトで動いているらしい」 アーティファクト『夢滓』というガラス玉。これは車掌室に置いてあり、自動で夢先へと運転していく。 「夢滓を撫でて『もういいよ、ありがとう』と告げれば電車は暫くは現れないと思う」 優しい過去を見せることで幸せに浸れるのではないか、故人を見せ幸せな時を与えればいいのではないか。 アーティファクトに自我はないが、きっとそう思っているのだろう。 「人へ害もないし壊さなくていい。壊しても良い。アークに持ち帰っても良い」 それは任せる、とイヴはリベリスタ達を見回して言った。 「ただ、過去の思い出へ礼を言うのは辛い事だと思う。お気をつけて」 さあ、行く先は夢先。皆々様、想いを胸にて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月12日(火)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●行き先『夢先』 ただ、静かな駅。佇むのは8人のリベリスタ。 空の色が次第に黒く染まり、夜が来た様な錯覚に陥った。 腕時計を確認した『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は煙草を唇にあてる。 余りに暗くなった空にいささか不安を覚えつつも『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は、目の前のホームに滑り込んできた列車を見つめた。 「……灰は灰に、夢は夢に」 この列車の行き先として標されたのは『夢先』―― その終着駅として指定された夢に、彼女は淡い紫の瞳を伏せり、呟いた。 「夢先は終着駅じゃないわ、折り返しよ」 到着した列車はゆっくりと其の扉を開ける。 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は何かを確かめる様にゆっくりと列車へと近づいていく。 「あの日の事……」 運命を得た日を胸に『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は目をそむけたくなる現実と向き合う為にこの列車へと乗り込む。 夢先へと向かう列車を目の前に『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は一つの強い意志を胸に抱いていた。 ふと、リベリスタらの目の前に車掌が降り立つ。その外見がどのように見えたのか、其れは彼ら其々の目に映った通りだ。 ただ、夢先へと案内する案内人。 「ねえ車掌さん」 この電車、乗り続けたらどうなるんです? そう問うた『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)に車掌は小さく笑う。 「さあ、行き先は夢先。それ以上は存じません」 死ぬまでずっと、幸せな夢を見続けられるか、そんなもの車掌は知らないと首を振る。 「わたしゃ、あくまで案内人。皆さんの行き先、『夢先』までのご案内しかできません」 「さあ、お客さん、お乗りなさい」 行く先はただ、夢先のみ。車掌は八重歯を見せてにったりと笑った。 ●誉れの弓 見たいものを見せてくれる列車、そう認識していた『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は列車内をきょろきょろと見回す。 「……まやかし」 一番みたい想いですらもまやかし。其れを念頭に置き手近の座席にそっと腰掛ける。 其れからは夢現、誘われるままにただ、瞳を伏せり―― 「与市、与市」 名を呼ぶ声に与市は目を開ける。目の前にいたのは、彼女の父親だ。 立ち上がり、父親に近づくが、その手は触れられない。優しく微笑み、弓を握る父の背中をただ見つめるだけであった。 望むならば父に褒めてもらいたい。頭を撫で、偉い偉いと。 望むならば、父に稽古をつけてもらいたい。未だしっかりと握れない弓の引き方を教えてもらいたい。 「与市、良く出来たな、偉いぞ」 「与市、ご飯よ」 褒める父の背後から顔をのぞかせた母は優しく手招きする。 食卓に広がった出来たての夕飯が鼻孔を擽る。おいしいと微笑めば幸せそうな母の笑顔が垣間見えた。 お手伝いをしたい、そう与市が母を見上げれば困った様に笑って彼女は離れた。 「与市、大丈夫、お父様と稽古してらっしゃい」 「お母様、わしは好きな人が出来たのじゃ……」 花嫁修業を、と意気込んで教えてもらった簡単な裁縫、簡単な料理。 だが、母の得意とする料理を教わる事は出来なかった。 「与市、こっちにおいで。少しだけ稽古をしよう」 笑った父の言葉が脳裏をかすめた――ああ、あの問いの真意はなんだったか。 遠い昔、父が頭を撫でながら聞かせてくれた問い。修行中である彼女にはまだ応える事が出来ない問い掛け。 「いつか、」 ――何時か、父の言葉が分かります様に。 ――何時か、母の素敵な料理を想い人へと届けられます様に。 其れが幻想であれど、偽物であれど、目の前の二人に彼女は小さく微笑んだ。 例えもう褒めてくれる人がいないと、そう思えど、自身の戦う理由を。誰かを護る事を再確認する。 「もういいのじゃよ。ありがとうじゃ」 其のまま瞳を開ければ、先ほどと同じ景色が目の前に広がっていた。 ●強がり未来 『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)は座席を目の前に、ただ、呆然と立っていた。 「幸せな過去」 思い出す事もないだろうと思っていた過去。遠い、昔。胸に封じ込んだその想い。 「アタシは、見たいのか……それを」 愕然と呟いた言葉。じわりと胸に込み上げた想い。そっと座席に座りこんだ瀬恋は目を閉じる。 それは七歳までの、幸せな、幸せな記憶。七歳で暗転する、彼女のしあわせ。 ヤクザの家柄に生まれた彼女は周囲からあまり良く見られていなかった。 しかし、彼女は家に帰れば組員と優しい両親に迎え入れられる。溺愛されてる事も、後継ぎにならないことも知っていた。 幸せを願ってくれてる事も知っていた。 瀬恋、瀬恋。 父親が微笑む。今度の休みに遊園地に行こう。最近は遊んでやれなかったから、約束しよう。 「本当ですか?この前もそんなこと言って、結局お仕事だったじゃありませんか」 拗ねたように言えば父は慌てて言いわけを捜す。その様子が余りにも楽しくて、彼女は小さく微笑んだ。 意地悪しただけ、約束をしましょと指を絡める。幸せそうな父の顔。 「ねえ、瀬恋。今日のごはんどうかしら?」 新しい料理に挑戦してみたのと母は心配そうに伺う。 「とっても美味しいですよ、お母さん。これなら毎日食べたい位です」 心からの言葉に母がほっとしたように笑う。優しい母の笑顔。 暖かくて、優しくて、とても幸せで、遠い未来、線路の先までずっと続くと信じた未来。 ――叶わない事が分かっていても、ずっと続くはずの幸せを。 「もういいよ、ありがとう」 目を開く、歪む視界に小さく俯き拳を固めた。 生きていく術は汚れ仕事だった。幸せを思い出したら耐えられないから。 弱い心を押し殺さなければ、生きていく事が出来ないから。 ――そこまで強くない。戦えなくなってしまう。 強がっていなければこの両の足は地を踏みしめる事が叶わなくなってしまう。 震える足で立ち上がる。 「……クソッタレが」 頬にゆっくりと暖かいものが伝っていった。 ●星描く銃痕 座席に着いたエナーシアの目の前に広がっていたのは銃撃戦の現場で会った。 十年と少し前、もう何時の事か忘れていて、それでいて忘れられない過去。 孤児として教会で育てられ、銃器の扱いを身につけた使い捨ての兵士であった彼女。 「いいですか、エナーシア。一人残ってこの場を死守するのです」 その言葉に頷いてから、4桁に上る人を撃って、撃って――それでいても口元には笑みが浮かんでいた。 自分と主で構成され、部屋の壁に描かれた模様をぼんやりと見つめている、ただ、そんな無機質な世界。 銃器を握りしめる彼女の目の前に、一人の老人が現れる。 「何してるです?」 ごろん、と寝転がった爺の様子に驚き、一瞬手を休める。彼女の前の前で爺は何事もなかったように笑った。 「ちぃとな、星を見てんのさ」 此処からの眺めが一番綺麗だと思った。ただ、その理由。それだけで銃撃の中に飛び込んできた爺。 「危ないのですよ?」 「危なくない場所なんてねぇよ」 命なんて、何時どんな理由で消えたっておかしくない。ならば自身のやりたい事をやるべきだろう。 爺の言葉に彼女は銃を取り落とす。ああ、なんて素敵なのかしら。 何でも屋と称した爺の仕事。単純作業、頭脳労働、人助け、犯罪――沢山の依頼を共にこなす。 「何故、どんな依頼でも請けるです?」 短い生命の中、やりたい事をやれと言った彼への小さな疑問。 「どんな依頼だろうとおもしれぇからさ。この世界につまんねー事なんてねぇよ」 つまんないのならそれは『そいつ自身』。彼は笑う。彼の最期の灯が揺れ動く中。 「だぁら、コッチ来いよ、面白いぜ、そんなつまんなそうな顔してねぇでよ」 爺は手を伸ばす。 その手を握りしめたエナーシアは小さく微笑んだ。 「もういいわ、ありがとう」 彼女の世界が色めく。彼女――エナーシアが始まる。今の彼女の世界を色づける。 最高の思い出で、彼女の存在に色をつけたその思い出であれど、今の現実の方が幸せが溢れている。 彼女は前を向く。乱れたスカートを直し、優しく微笑む。 ああ、なんて世界は面白いのかしら。 ●揺れる残滓 幾度も見つめた過去の欠片。其れが脳裏に過り拓真は刀を握りしめ、着席する。 『あの頃』の自分では見えなかったものが『過去の記憶』を見つめ直すことで見えるかもしれない。 その確証はなくとも、祖父が残した『何か』を見つけられる可能性があるならば。 自身の屋敷の中庭がぼんやりと見える。 幼い自身と祖父の弦真が其処には立っていた。 祖父が何かを言い聞かせているのが見てとれた、嗚呼、其れは覚えている。 自身の行動原理も、理想も全て祖父への崇拝にも似た感情のもの。 貴方になりたい、その願いが胸の中にあった。 その生き様は受け継げた、だが――剣技を正しく受け継げた訳ではなかった。 懇願した末、一回だけ。祖父が渋りながらも見せた剣技。 ――幼い自分では見えなかったが、今なら見えるかもしれない想いの欠片。 時が止まる錯覚。祖父の構えた剣に拓真の目は釘付けとなっていた。 抜き放たれる日本の刀。 其れは老人が放つとは思えない程に力強く、流れるような美しい剣捌きであった。 ――ああ、これだ、決して俺が真似できないこの技。 「拓真」 名を呼ばれ幼い自分と、『夢を見る自分』が顔を上げる。 「これは儂の人生その物」 お前の剣を――応えを楽しみにしている。祖父は小さく笑う。 「もういいよ、有難う」 瞳を伏せり、彼は呟く。 耳にしたのは祖父と幼い自分の声ではなく、がたんごとんと揺れる音。 「お前に、伝えておきたい事がある。過去は今を生きるために糧とする物だ」 その言葉を聞く者はいない、だが、彼は続けた。 「だから、ただ幸せに浸らせる為じゃなく――その背中を後押ししてやるために、頑張って欲しい」 何処かで、何かが小さく光った。 彼は立ち上がる。もう振り向く事はない。 ●鏡合わせ 目を開ければ其処は鏡合わせ。 大人の体躯に黒髪に黒い瞳。目の前にいるのは魔道を愛した『過去』だ。 「おぬし、か」 「お前、か」 互いに同じ言葉を繰り返す。厳格に育てられた彼女は魔道をただ究める事だけを求めていた。 「何故、アークに加担している?」 其れこそが過去の自分の疑問、アークに加担し魔道を疎かにする『過去』の自分からの疑問。 鏡の奥、手を合わせた彼女が真っ直ぐとその黒い瞳でシェリーを射た。 「崩界を止める為に決まっている」 そう応えた、だが彼女は断片的な欠落した記憶を持ち、自身が本当に『シェリー』である確証が得られなかった。 だが、アークに加担するという意思は強かった。その日々は基盤となる。自身を――『シェリー』を新しく構築した今。 「お前は何故、魔道を極めないんだ」 「妾は、魔女。だが、崩界を止める事が大事なのだ」 対話する、鏡合わせの自分。シェリーと『過去』の大きな違い。 魔道を追求するが故、独りである自分と世界を護ると決めた自分の周りにいる人々。 ――ああ、詰まらない人間だ、『私』は。 ふと、胸の中に浮かぶ小さな確信。『私』という存在が『妾』に変わる瞬間。 「嗚呼、妾は失ったのではない。機会を得たのだ」 シェリー・デーモンという名前の『過去』の鏡を割る。砕け散る破片に映った自分は明らかに『シェリー・D・モーガン』であった。 破片の中で哀しげに笑う、『過去』がそっと手を伸ばす。触れ合った指先から伝わった想いに彼女は目を伏せた。 今の自分と過去の自分。バラバラになっていたパズルのピースを合わせて、その想いを胸に抱く。 「もういい、ありがとう」 最高の魔女。 瞳を開けた彼女は呟いた。 ●在る瞳 目を開ける。ああ、そう、此れは夢だ。夢、夢なれば大丈夫だ―― 『夢』であれば見つめられる。夢であれば、彼女の眼を見つめられる。 否、夢でなくても見られる。 彼女は死人だから―― 目の前の瞳。 若い頃の自身が『彼女』を見つめているのか。何も戸惑う事もなく手を取り、目を合わせ、微笑むのか。 ――そうだったら、自身は目を上げて見られるのか? 彼の瞳が喪に服す色になってから、愛しい人は死んだままであった。 生き返らない彼女への愛の言葉は『過去』が伝えればいい。 もしも今が、『今の』存人が告げた所で、何かが得られるわけではなかった。 彼女が死んだ後も自分はこの世界をのうのうと生き延びる。死ぬのは、恐怖だった。 愛しい彼女の後追いをする事もなく生きているだなんて、愛を伝えることなんてできない。 言葉にならないまま唇を動かし五文字の言葉を吐き出した。 しかしその言葉は声にはならない。過去のものだから、過去の自分の言葉だから。 記憶の中で、微笑む彼女が指を絡める。その眸をまっすぐに見つめて、もう一度口にした。 彼女へと伝える過去の自分の言葉。 「愛してる」 ふ、と目を開く。鼓膜を擽る規則正しい音に小さく息をついた。 「もういいです。ありがとうございました」 そう、あれは夢なのだから。 声にならぬ五文字は泡のように消えた。 ●日記帳 うとうととしながら、夢見心地に記憶を語る。 「姉さまとの、思い出ですか」 嗚呼、過去の思い出は父母との事だと思っていた――自分の心は分からぬものだ、とそっと彼女は夢を見る。 好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。可愛らしいぬいぐるみを貸して、と駄々を捏ねた。 我儘な妹であったと自分でも思う。 「懺悔しようと、思っていたのです」 お嫁に行く時に、新しい門出に頬笑みを持って言うはずだった。ごめんなさいと有難う。 其れを言う機会は訪れなかった。 ぎゅっと胸へと手を当てる。 好きだった。姉が。今でも、好き。 だからこそ、姉が歩んだ生き方を模して、献身する。この身が土くれになるまで。 その日迄只管に癒して癒して、自らの罪を贖う。 「姉様、そんな顔しないでください」 何処か、遠くで哀しげな顔をした姉へと小さく微笑む。 「私……割とこの生き方、気に入ってます」 憧れた貴女の生き方だからじゃない、罪を贖う為でもなく、ただ、シエルとしての生き方として。 何処からか電車の音が聞こえる。 「姉さま、恋をしたかったですか?」 幼い頃の記憶にある、姉の本棚にあった恋愛小説。とても好きだと聞かせてくれた一冊の本。 小説の内容は陳腐な恋愛かもしれない、それでも真似ごとはしてみたいと思った。 でも、と彼女は言葉を止める。寂しげに視線を揺れ動かして、寂しげに笑った。 「私は死と日蔭の匂いのする女だから……何とも」 彼女の体に姉の指先が触れた気がする――夢の中、ただ、姉が彼女の頭を撫でた。 「私は姉さまやお父様、お母様の居る所へは行けないでしょうから」 だから、戻ったらお伝えください。シエルは目を伏せる。 色々と、ごめんなさい。 目を覚ます時、ありがとう、もう良いですよ、と彼女は呟き歩きだす。 綴る日記をぱたりと閉じて、遠くで微笑む姉の面影を小さく描く。 ●飛び立つ日 目を閉じたまま、零二は思う。浮かべるは小さな思い出。 「ああ、オレは明日、日本を発つ」 その言葉を発した思い出の自分。目の前にいるのは思い出の中にいる『キミ』であった。 日本を発つ準備をしている最中であった。 背後から呼びかけた『キミ』は真剣な表情で俯きがちに聞く。本当に、行くのかと。 「……平和を語るのは大事なことだと、思う。しかし、此処で出来得ることには限りがある」 だからこそ自身は何かを護りに行かねばならないのだ。この場で論じる事も大事だとは思う。 この手で護り抜かねばならないことだってある。 「何度も言ったとおりだ」 そう、そんなの思い上がりだ、と何時も通り何も変わらぬ口調で告げるその様子が懐かしくも思う。 だが、自身が動かなければ何も始まらない、そう思うのだ。 「もう一度、考え直せ……」 「……解っているよ、大した事は出来ないかもしれない」 じっと見つめ返すその眸が、寂しげで、哀しげに揺れ―― 「もう、いいよ、ありがとう……」 涙が出たわけではない、ただ、胸にこみ上げる思いが確かにあった。 すまない、これ以上は、結構、だと。 ●目覚める時 先に車掌室に辿りついていた与市は集まってきた仲間たちを見つめ、頷く。 「お任せ、するのじゃ」 与市の言葉にそっと零二とシエルが前に出る。 優しげにアーティファクトを撫でた二人の口から出たのは一つの礼。 「ありがとう、……お疲れ様」 「有難う、もう、良いですよ」 シエルは目を伏せる。思い出は見るものを時に苦しめ、時に励ますものである。 何かを再確認する切欠にも何得るそれは、優しくもあり厳しくもある。 持ち帰りたいと拓真は宣言する。 「誰か、持って帰ってやってくれんかの。わしはちょっと墓参りに行きたいのじゃ」 「いってらっしゃい」 赤くなった目を擦り、言った瀬恋に与市は頷く。 踏ん切りがついて、向かい合う覚悟が出来たから。 拓真が手にしたアーティファクト『夢滓』は煌めいた。 車掌室から出ると、車掌が立っていた。 「こちら、終着点で御座います」 お客様、どうぞ、ここでお降りになって。 その言葉に従ったリベリスタ達が元居た駅のホームに降り立てば、『夢先列車』は背後で消えてなくなった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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