● 「びっくりしちゃった。入院してたはずなのに、いきなり会いに来るからさ」 月子(つきこ)は、そう言って隣を歩く陽那美(ひなみ)を見た。 中学時代からの友人であり、今は遠い街で暮らしている陽那美。 重い病気で入院していたと聞いたが、彼女の顔色は健康そのもので。 「驚かしてごめんね。……でも、もうすっかり元気だから」 「うん。病院抜け出して来たわけじゃなさそうだし、安心した。 でも病み上がりなんだし、無理しちゃ駄目だからね?」 「大丈夫だってば」 心配性な友人に笑みを返した後、陽那美は視線を動かす。 「――あ、公園。懐かしいな、よく学校帰りにここで話したよね」 「ちょっと寄ってく? ちょうど今、誰もいないし」 月子の提案に、陽那美が嬉しそうに頷いた。 連れ立って公園に入り、ペンキのはげかけたベンチに歩み寄る。 「そうそう、このベンチ。懐かしいな――」 日が暮れるまで月子と語り合った思い出のベンチを撫で、陽那美が微笑んだ時。 二人の背後から、声が響いた。 「――見つけたぞ、ノーフェイス」 「え?」 振り向いた先には、自分たちとそう変わらない年頃の三人の男女。 剣呑な雰囲気を纏う彼らを見て、月子が陽那美を守るように前に立つ。 「何よあんた達。警察呼ぶわよ」 「愚かな。ノーフェイスを庇い立てするか」 「わけわかんないこと言わないで……っ!?」 叫ぶ月子に、三人組の一人が弓を向けた。 つがえられた矢は鋭く尖っており、玩具には見えない。 陽那美が、月子の服の袖を引いた。 「月子……だめ」 三人組は、じりじりと二人との距離を詰めてくる。 中央に立つ男が、感情の篭らない表情で重々しく口を開いた。 「世界に仇なす者と、それに与する者を根絶する。 ――それが、我ら『断罪の刃(エクセキューショナーズ)』の使命。 貴様の罪深き体を切り刻み、血の一滴、肉の一片に至るまで浄化してくれよう」 ● 「今回の任務はノーフェイスの撃破……ではあるんだが。ちょっと状況がややこしい」 そう言って眉を寄せた『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、ファイルに束ねた資料をめくりつつ説明に移った。 「ノーフェイスは『陽那美(ひなみ)』という十九歳の女性。 重い病気で余命いくばくもなかったんだが、革醒で一命を取りとめた」 元気になった陽那美は、昔からの友人である『月子(つきこ)』という女性に会い、自分をずっと心配してくれていた彼女と旧交を温めようとしている。 これだけなら、陽那美が月子と別れた後に倒せば良いのだが――。 「『断罪の刃(エクセキューショナーズ)』という革醒者グループがいてな、 『世界を守る』という大義名分をふりかざして好き勝手やってる連中だ。 とにかく、やり口が酷い。 敵性エリューションやアザーバイドを狩るためなら一般人もお構いなしに巻き込むし、 少しでも邪魔をしようものなら迷わず殺しにかかる。 『罪を浄化するため』とか抜かして、死体までバラバラに刻む徹底ぶりだ。 ――これでリベリスタを名乗って、手前らの正義を疑ってないあたり性質が悪い」 苦々しく言い放った後、数史は一つ息を吐く。 「……で、この『断罪の刃』のメンバーが三人、陽那美と月子が一緒にいるところを襲うわけだ。 『断罪の刃』は月子もろとも陽那美を殺そうとするし、 陽那美は陽那美で、恐怖のあまりパニックに陥って暴走する危険がある。 このままだと、真っ先に死ぬのは一般人の月子だ」 最終的に、ノーフェイスの陽那美には死んでもらわなければならない。 しかし、それに一般人の月子をわざわざ巻き込む必要など、どこにもないはずだ。 「どっちにしても、月子は友達と死に別れることになるが……。 せめて――彼女の命だけでも、救ってほしい」 黒翼のフォーチュナは視線を落とすと、リベリスタ達に深く頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月09日(土)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 陽那美と月子に、『断罪の刃』が迫る。 張り詰めた空気の中、元警官である『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)が叫んだ。 「そこの三人! やめなさい!」 いかにも警官然とした彼の言葉に、三人の男女が思わず視線を動かす。 その隙に『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)と『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)が割り込み、陽那美と月子を庇った。 「ちっ……!」 舌打ちする男――イスに接近した『Beautiful World』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)が、赤く染めた“ペインキングの棘”を繰り出す。直撃を避けたイスは、冷気を纏わせた鉤爪でユーニアを迎え撃った。 目まぐるしい状況の変化を前に、陽那美と月子はもはや言葉もない。 ユーニアは陽那美を振り返り、「先にこいつら片付けるからさ。話はその後な」と声をかけた。 それを眺め、『Average』阿倍・零児(BNE003332)は思う。 重病で死に瀕し、革醒したノーフェイス――陽那美。 見た目は健康そのものでも、フェイトを得られなかった彼女は、果たして『一命を取り留めた』と言えるのか。 「うーん、難しい存在ですねぇ」 リーディングを発動させながら、彼は『断罪の刃』に視線を戻す。『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)が、弓を構えた男――ケンに駆けた。 「よぉ、悪漢達。か弱い女子に集団で襲いかかるってのも趣味悪ぃな?」 挨拶代わりに雷を纏う一撃を叩き込み、彼らを挑発する。 「貴様、ノーフェイスを庇……」 「ワケわかんねーこと言ってんじゃねーよ。 テメーらは集団で女に襲いかかった、それに間違いはねーだろうが」 痛みに顔を歪めるケンの言葉を途中で遮り、創太は彼の前に立ちはだかった。 両手剣の刀身を用いた大型銃剣“トゥリア”を携えた『鉄鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)が、射撃手としての感覚を鋭く研ぎ澄ます。体から伸びる鎖状のエネルギーコードは、幻視でしっかりと覆い隠していた。 一般人である月子に対し、神秘は可能な限り秘匿せねばならない。 超常の戦いが眼前で繰り広げられている現状、完璧に隠し通すのは難しいだろうが……。 不審に思われる要素は、減らしておくに越したことは無い。 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・マルター(BNE002558)が体内の魔力を活性化させ、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)が守を庇う。 『断罪の刃』の紅一点――ラグが天使の歌を響かせた直後、ケンが上空に矢を放った。 激しく燃え盛る矢が天から降り注ぎ、リベリスタ達を炎に包む。ミカサと霧也に守られる陽那美と月子が、ほぼ同時に悲鳴を上げた。 冴に庇われて業火を逃れた守が、邪を払う光で炎を消し去る。できれば敵の狙いをこちらに向けたいが、生憎とジャスティスキャノンは準備していない。 まずは、陽那美と月子を敵から引き離すことだ。 「ここはわたくし達が引き受けます。安全な所へ」 二人に呼びかけつつ、『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)がラグに肉迫する。 裂帛の気合とともに繰り出された白銀の騎士槍が、突撃の勢いを乗せて『断罪の刃』の女戦士を捉えた。 「世界の敵に与するか!」 ラグの叫びに、ノエルが眉を寄せる。 陽那美は僅かに身を震わせた後、自分を庇って火矢を受けたミカサを見た。 「あ、あの……」 心配は要らないと、ミカサが手を上げる。いずれ殺す相手に気遣われるなど、格好がつかない。 彼は、テレパシーで陽那美に語りかける。 ――今は、彼等の言葉を聞かないで欲しい。 陽那美は驚いたように目を見開いたが、ミカサと視線を合わせると黙って頷いた。 代わりに、隣にいた月子が声を上げる。 「ねえ、一体どうなってるの? あいつら、どうして陽那美を……」 「振り返らない方がいいよ、怖い思いをするから」 「混乱してるかもしれねーけど、今は俺達の言うことを聞いてくれ、頼む」 ミカサと霧也はそう言って月子の疑問を封じると、彼女達を庇いつつ戦場を離れた。 ● 「何故ノーフェイスを庇う!?」 イスの言葉を遮り、ユーニアが鼻で笑う。 「一般人巻き込んどいて粋がんなよ。ダセぇな」 「大義を知らぬ愚か者め!」 激昂したイスは、無数の幻影を展開して彼に襲い掛かった。 幻惑の鉤爪に肌を抉られても不敵な表情を崩さないユーニアに、イスが怪訝そうに眉を寄せる。考える隙を与えず、ユーニアが反撃に転じた。 「あんたの攻撃がトロくせーんだよ。俺みたいなガキ一人止められないのかよ」 “ペインキングの棘”がイスの肩口を貫き、鮮血を啜る。 続いて、ラグの心を読んだ零児が彼女に声をかけた。 「そんな格好してたら暑いですよね。今日は良い天気ですし」 長袖の制服をきっちりと着込んだラグは、額にうっすら汗をかいている。 暑さで一瞬緩んだ心を覗かれ、彼女の頬が紅潮した。 その隙に、大きく踏み込んだティセラがラグに強烈な打ち込みを見舞う。 月子たちが充分に離れるまで、余計なお喋りはさせない。 「我等の邪魔は――」 輝くオーラを纏った創太の剣が、ケンの台詞を鋭く断ち切った。 「力ねぇ奴らに力で何かしようとする奴が俺様は一番嫌いなんだ、何を言おうとぶっ倒す」 「くっ!」 ケンが創太に弓を向け、不可視の殺意で彼を射抜く。神聖な光でイスを蝕む致命の呪いを払ったラグに、ノエルが再び生死を分かつ一撃を繰り出した。 その間にも、陽那美と月子はミカサと霧也に守られながら戦場から遠ざかっていく。 「何者だ、何故ノーフェイスに加担する!?」 彼女らが充分に離れたことを確認した守は、『断罪の刃』に向けてニューナンブM60を連射しながらイスの問いに答えた。 「我々はアークのリベリスタです」 三人の顔に、驚愕の色が浮かぶ。だが、彼らは攻撃の手を緩めない。 「アークが何故、リベリスタの邪魔をする!?」 冷気を纏うイスの鉤爪と、ユーニアの“ペインキングの爪”が激しく打ち合う。 「貴方達をリベリスタと呼ぶ事は……平均的にできません!」 神速の早撃ちでラグに弾丸を叩き込んだ零児が、怒りを込めて言い放った。 独善的な価値観で一般人を巻き込む連中に、リベリスタを名乗らせはしない。 平均であることを望み、偏ったものを嫌う彼にとって、『断罪の刃』は許せない存在だった。 「我等の正義を愚弄するか!」 怒鳴るケンに、創太が言葉を返す。 「正義をどうこう言うつもりはねーけどな。……そのスタンスだけは気にくわねぇ」 オーラの剣でケンに斬り付けた彼は、まあいい――と『断罪の刃』の三人を睨んだ。 「――闘いだ。テメェらにも信念があるなら、その拳で語ろうぜ」 「減らず口を……!」 ラグが天使の歌を響かせ、ケンが燃え盛る魔力の矢をリベリスタ達の頭上に落とす。 守の傍らに立つ冴が、雨の如く降り注ぐ火矢を太刀の鞘で払い落とした。 今回のメンバー中、状態異常を回復できるのは守だけ。混乱の技を持つイスを倒すまでは、彼を護り抜くのが冴の役目になる。 前衛にオーラの鎧を付与していたリサリサが、全員のダメージを見て声を上げた。 「まかせてくださいっ、すぐに回復しますのでっ」 状態異常の回復を単独で担う守同様、彼女も傷の癒し手を一人で引き受けている。己の未熟は承知しているが、ホーリーメイガスの名にかけて倒れる訳にはいかない。炎の熱さに耐えつつ、リサリサは癒しの福音を響かせる。 全身の闘気を解放するノエルが、『断罪の刃』を鋭く見据えた。 「貴方達の行いはわたくしの『正義』に反する。故にここで我が槍をもって断罪致します」 極限まで装飾を排した白銀の騎士槍が、“Convictio(貫くもの)”の名の通りにラグを深々と貫く。 「馬鹿な、真に断罪されるべきは……」 己の運命を犠牲にして身を支えたラグに向けて、ティセラが迷わず踏み込んだ。 「罪がどうこう、理由がなければノーフェイスを殺せもしないのかしら」 両手に携えた武器は“トゥリア”、かつての友人であり、剣の持ち主でもある、彼女が殺めたノーフェイスの名前。 いついかなる時も、ティセラは己がリベリスタであることを忘れない。決して。 「断罪者気取り如きが、私の前でリベリスタを名乗るんじゃないわよ」 渾身の力で振り下ろされた刃が、ラグを一刀のもとに斬り伏せた。 霧也と二人で陽那美と月子を戦場から引き離した後、ミカサは周囲を見渡す。 ここなら安全だし、自分達が戦線に復帰しても充分に目が届く筈だ。 「終わったら家まで送るから、ここで待っていて」 「でも……」 一刻も早くここから離れたいと表情で訴える陽那美に、ミカサは『月子さんを巻き込みたくないなら言う事を聞いて』とテレパシーで念を押した。 (……まるで脅迫だね) 青ざめた顔で頷く陽那美を前に、彼は内心で自嘲する。 「大丈夫だ、連中はアンタ達に絶対近寄らせない」 霧也はそう言って二人を納得させると、ミカサを伴って戦場に戻った。 彼女らを肩越しに見て、すぐに視線を戻す。 (月と太陽――いつか別れる定めでも、ソレは連中がぶち壊して良いものじゃねーだろ) 無関係の人間を巻き込み、問答無用で殺そうとする『断罪の刃』に、霧也は強い怒りを覚えていた。 ● 守が、神聖なる光で炎を払う。合流したミカサが、ケンを気糸の罠で絡め取った。 「我々は世界を守るためにある。邪魔をするな!」 霧也が放った暗黒の瘴気が、喚くイスを捉える。 「世界を守る、大いに結構。でもな、だからって好き勝手やってイイって訳じゃねーだろ」 彼らの過去に、何があったのかは知らない。 エリューションを激しく憎むに足る理由が、あるのかもしれない。 それでも、『断罪の刃』のやり方は、到底許せるものではなかった。 「テメェ等はナンだ? 誰彼構わず噛み付いて狂犬って言葉がお似合いじゃねーか」 「貴、様……ッ!」 怒りに震えるイスを横目に、創太が気糸に封じられたケンにオーラの剣を繰り出した。 「『世界を守る』のなら、その“世界”の意味をもう少し考えやがれ」 ケンが動けぬ間に、リベリスタ達はイスに攻撃を集中させる。 零児の眼光に心身を射抜かれ、雷を纏うノエルの騎士槍に貫かれたイスは無数の幻を生み出して反撃に転じたが、ノエルを庇うユーニアに阻まれ、誰も混乱に陥れることができない。 舌打ちするイスの肩口を、ティセラの魔弾が抉る。守が、ニューナンブM60の銃口を『断罪の刃』に向けた。 正義を振りかざして人を傷つける自称リベリスタ。最近は、こういう手合いが増えているのか。 「自己満足の為に力を振るう様は、見たままフィクサードですよ。 手段が目的化している時点で、貴方がたにリベリスタを名乗る資格など無い!」 「正義の使徒たる我等を、フィクサードと呼ぶか……ッ!」 .38口径弾の連射を喰らったイスが、己の運命を代償に踏み止まる。 すかさず距離を詰めたミカサの残像が、鈍い紫色の輝きで軌跡を描くように鉤爪を振るった。 「俺は正義って言葉が嫌いなんだ」 それは、醜い性根を隠すにはあまりに便利すぎる。 自分にしても、“彼ら”を否定できるほど清くはないが――。 「殺さないよ。俺はフィクサードじゃない」 倒れたイスを見下ろし、ミカサは言い放つ。 残る敵は一人。癒し手を担うリサリサの守りについたユーニアが、ケンに撤退を促した。 「運命がいつまでもあんた達の味方とは限らないぜ? 追われる立場に堕ちたくなければ、仲間連れてさっさと逃げるんだな」 その正義、仲間がノーフェイスに堕ちてもなお貫けるものか。 ミカサはそれを知りたいと思うが、ラグやイスが倒れてもケンの表情に動揺の色はない。しかも、彼はまだ戦うつもりだ。 身を縛る気糸を引き千切ったケンが、再度の拘束を逃れて弓を天に構える。 激しく降り注いだ炎の矢が、零児を撃ち倒した。 リサリサの奏でる天使の歌が仲間達の傷を癒していく中、霧也が暗黒の瘴気を放ち、ティセラが強烈な打ち込みでケンを圧倒する。 これまで守の護衛に徹していた冴が、攻勢に転じた。 「貴様らはエリューションを狩っているだけのフィクサードに過ぎない」 彼女が為すは、『正義』の二文字。 雷気を纏う“鬼丸”の刀身が、断罪者を名乗る青年を袈裟懸けにした。 「通させて貰うぜ、俺様達の正義を!」 眩いオーラに包まれた創太の剣が、ケンの運命を削り取る。 「世界の守護者に……牙を剥く、者め」 血を吐きながら立ち上がろうとする彼を、ノエルが冷ややかに見つめた。 「貴方達の行いは『世界を守っている』とは言い難い。 関わらずに済む一般人を巻き込む。浄化と称して死体を斬り刻む。 そこに神秘を隠蔽するつもりはありますか? 新たなエリューションを生みかねないという自覚はありますか?」 「それは……」 返答を最後まで聞くことなく、ノエルは“Convictio”を構える。 「貴方達は立派に崩界を招く者です。『世界の敵』ですよ。 ――ここで倒れて頂きます」 信念の槍から繰り出された、生死を分かつ一撃。 それが、“リベリスタ”同士の戦いに決着をつけた。 ● 戦いを終えた後、リベリスタ達は陽那美を伴い、月子を自宅まで送り届けた。 常識外の出来事を前に月子は混乱を隠せずにいたが、警官を名乗る守の言葉に、とりあえず納得はしたようだ。 リベリスタ達に囲まれて歩きながら言葉を交わす陽那美と月子と見て、霧也はやりきれない思いに囚われる。本人達は知るまいが、これが二人にとって最後の会話になるのだ。 (世界ってのはどうしていつも、こうも無慈悲になれるのかね――) 月子の家に着いた時、二人は「またね」と言って別れた。 リベリスタ達が陽那美を連れて公園に戻ると、『断罪の刃』の三人の姿が消えていた。 全員の生死を確かめた訳ではないが、少なくともイスは生きている。彼が仲間を連れて逃げたのか、或いは他の誰かが三人を回収したのか――気がかりではあるが、今は先にやる事がある。 陽那美に歩み寄ったノエルが、口火を切るように語りかけた。 「貴女にはここで倒れて貰わねばなりません」 はっと顔を上げた陽那美に、ミカサが全てを順序立てて話す。 『断罪の刃』を名乗る彼らが言ったように、陽那美は既に世界を壊す存在であり。 自分達は、そんな陽那美を殺しに来たのだと。 顔色を失う彼女から、ミカサは目を逸らさない。 結局、やる事が変わらないのなら。心を痛めようと自己満足に過ぎないし、許されるとも思わない。 出来るのは、罵りも怒りも、全て受け止める事だけ。 救いを求めるような陽那美の視線を受けて、霧也が口を開いた。 「悪ぃな、俺はアンタを助ける術を持ってねーんだ。 ハハッ、コレじゃ連中のこと何も言えねぇじゃねーか、畜生が」 「そんな……」 ティセラが、迷い無く声を重ねた。 「あなたは何一つ悪くないわ。でも……何があろうと私はあなたを殺す。 いくら恨んでもいいし抵抗してもいい。 あなたがどんな選択をしたとしても、 遺された人を傷つけないために私ができる限りの事はする」 その言葉に秘められているのは、リベリスタとしての揺らがぬ意志。 「こうする事しか出来ない俺達を恨んで下さい、罵って下さい。 貴女にとっては奴等も俺達も同じ事でしょうから……」 守が、心底申し訳なさそうに陽那美に頭を下げた。 「――しかし! これが間違い無く、月子さんの平穏に繋がるのです。それだけは保証します……!」 頭を下げたまま肩を震わせる守を、陽那美がじっと見つめる。 「俺様達はこうすることでしか、テメェが親友を傷つける未来から守ってやれねぇ。 理不尽だと叫ぶなら叫べ。……当たりたいなら俺様を殴ってでも良い」 創太の言葉に、陽那美はゆっくりと視線を上げた。 「あなた達は……あの人達とは違う。 月子を守ってくれたし……私のこと、彼女にバラしたりしなかった……」 でも、やっぱり残酷だわ――と、彼女は声を震わせる。 「……あんな事があった後に、そんな風に言われたら。 私、黙って死んでいくしかないじゃない……違う……?」 陽那美は両手で顔を覆い、嗚咽を漏らした。 泣き伏す彼女に、ユーニアがそっと声をかける。 「運命に愛されなくて残念だったな。 ……でもさ、あんたが親友に最後にお別れ言えたのも、 そのクソったれな運命って奴のおかげなんだよな」 涙で頬を濡らした陽那美が、指の隙間から彼を見る。 革醒しなければ、彼女はそもそもここに来ることができなかった。 病院のベッドの上で、死を迎えていたはずだった。 「だから、この世界を憎まないでほしい。 消えることで親友が生きてるこの世界を守ってやってほしい。 俺が、苦しまないように殺してやるから――」 逡巡の後、陽那美はゆっくりと頷いた。 「月子には何も、言わないで……」 彼女の遺言を聞き届けたリベリスタ達が、武器を手に集中を始める。 最期を迎えた時、陽那美はありがとう――と囁いた。 「平均的に、これで良かったはず、なんです」 先の戦いで負った火傷をさすりながら、零児がぽつりと呟く。 すっかり暗くなった空を見上げた後、創太が陽那美を振り返った。 「じゃあな。……せめて月子にもう何も起きないよう見守ってやってろ」 夜が更ければ、そこには月が昇るだろう。姿を消した陽の姿を、追い求めるように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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