● 『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)はその日、アーク本部から下宿へと帰る所だった。彼がアークに加入した時期はアーク全体がバタバタしており手続きが出来なかったので、他所に下宿を借りることになったのだ。情勢も落ち着いてきたし、引っ越した方が何かと楽ではあるのだが、なんとなくなぁなぁで引越しは行われていない。 三高平南駅を降り、バスに揺られること10分。「三高平銀座」という大層な名前のついた商店街を通りかかる。ご大層な名前だが閑散としており、かなり名前負けしている。そこで、守生が適当に惣菜でも……と思った所で事件は始まった。 「あらあら、モリゾーちゃん。ちょうど良い所であったわ~」 「あぁ、どうも、こんばんは。どうかしたんですか?」 肉屋の前にいたのは近所のおばちゃん。たしか、町内会の役員だったか。いつもの「モリゾーじゃねぇ」という叫びを飲み込んで、世間話モードを取る。早く適当に打ち切って、晩御飯のおかずを買って帰りたいのだが、下手に逃げると後が怖い。 「それがねぇ、今度のお祭りなんだけど人が集まりそうになくて困っているのよぉ、どうしたら良いかしら?」 そう言えば近くの神社で縁日があるとかいう話だった。この一帯は開発が遅れていた一帯なので、そういうこともあるのだろう。適当に受け答えをする守生。そんなことよりも、重要なのは今晩の安売りの品だ。フォーチュナの予知能力を使えればいいのだが、と益体もつかないことを思ってしまう。 そうこうしている内に、おばちゃんの話が終わろうとしているようだった。意識を会話に戻す。 「……で、そういうわけなのよ」 「あぁ、なるほど」 「じゃ、モリゾーちゃんお祭りの盛り上げ係頼んだわよ? アークで働いているんだから、お友達も多いでしょ」 「あぁ……って何だって!?」 驚きの余り、声を上げる守生。 話半分に聞いていたら、そういうことになっていたようだ。 そして、おばちゃんは守生の戸惑いなど気にかけること無く、話を進めていった。 「若い人がいた方が盛り上がるからね。よろしく頼んだわよ、モリゾーちゃん」 「あ……あぁ……」 なんとなく勢いに負けて断りきれない守生。 「そうそう、それとついでにコロッケあげるから持ってきな。モリゾーちゃんは体強く無さそうだから、野菜もしっかり取るんだよ」 コロッケを守生に押し付けると去って行くおばちゃん。 守生はもらったコロッケの袋を眺めて、受けてしまった仕事にコロッケが見合っているのかを考え込んでしまうのだった。 ● 「で……だ。縁日があるんだが、歌ってみねぇか?」 翌日、アーク本部でリベリスタを捕まえては、上のようなよく分からない発言をする守生がいた。普段は鋭い目付きも、テンパっているせいかどこか泳いでいる。半年近くアークに所属しながら、リベリスタに対して「エリューション」「鬼」「フィクサード」の絡む会話しかしていなかったためか、口調も不自然なものになっている。 つまり、守生の言うことを纏めるとこんな所になる。 守生の住む地区にある神社で、今度縁日が行われるそうだ。その目玉がのど自慢――カラオケ大会もある。町内会としては自信のあった企画だったが、去年はそれ程の盛り上がりを見せなかったので、今年はどうにかしたい。そこでアーク職員である守生に盛り上げる手伝いを要請したのだと言う。 景品も用意してあり、ちゃんとしたイベントになっている。 屋台はそれなりの規模が出ているし、縁日として楽しむことも出来るだろう。目の前でテンパっている少年を弄りに来るだけでも価値はあるかも知れない。 「そんなわけだ、どうだろ?」 守生はつっかえつっかえ説明を終えるのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月14日(木)23:44 |
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● 今日は神社の縁日。それ程大きくない神社だったのだが、予想以上にリベリスタ達が訪れてくれたお陰で大盛況だ。守生はその様子を見て、こっそりと驚いていた。 「目一杯遊ぶでござるですよー! 金魚救うでござるです!」 姫乃の声が、三高平南の某神社を小気味良く通り抜ける。おばばに着せてもらった可愛らしい浴衣姿で金魚すくいに向かう。その様子を縁日に来ている大人達は微笑ましく見守っている。 アンリエッタもそうした1人だ。故郷のカーニバルとは違う、この空気は中々に趣があって良いものだ。がやがやした雑音、屋台から漂う食べ物の香り、遠くから聞こえる祭囃子に歌声。これがこの国の祭りらしさなのだろう。 そして、アンリエッタが日本の祭りに一歩踏み出した時だ。 「こ、これは! ま、魔法少女のお面!」 それは何処にでもあるお面屋。みんな知っているアニメのキャラのお面が並んでいる。そこにある可愛らしい女の子のお面――元気に戦う魔法少女のものだ――が、1年以上前に彼女が戦いの中で犯した過ちを思い起こさせたのだ。 「カレーポイントまでゴーですよ!」 思わず大地に手をついて過去の所業を悔いるアンリエッタの横を、【なのはな荘】のメンバーとやって来た香夏子と小梢が駆け抜けた。 2人の目的はカレーの屋台。いわゆる本格的な屋台ではなく、町内会が出した簡素なものではあるが、重要なのはカレーがあることだ。 「かれーはよはよです!」 台をばんばん叩いてカレーを要求する香夏子。カレーのためになら人を殺せる勢いだ。カレーをよそってもらうと、幸せそうにぱくつき始める。 一方、小梢は自分の分に加えてもう一皿もらい、それを近くで眺めていた守生に差し出した。 「これは賄賂ですから、分かっていますよね?」 「いや、賄賂って言われてもな……じゃ、俺は用事があるから行くぜ。これはもらっておくよ」 守生はカレーを持って祭りの会場の中へと歩を進める。 小梢が加点対象を言い忘れていたのに気付くのは、その後のことだった。 ● 「ニッポンの市井のお祭りへようこそ。なかなか賑やかで、楽しそうだろ?」 あんず飴を片手に、紺の浴衣を身に着けた快が【重工】で集まった仲間達を縁日へと案内する。国際色豊かなメンバーが多いので、並ぶ屋台はいずれも目新しいものばかりだ。 「はーなるほど。このお砂糖菓子は溶かしたお砂糖を遠心力で細かい繊維状にしてるんですね。勉強になります」 屋台ならではのお菓子に興味津々のチャイカ。もっとも、向ける視線は研究者のものだが。 モニカはカラーひよこが見つからずに残念そうだ。昭和の屋台では見られたカラーひよこも、近年ではすっかり廃れてしまったのだという。 「浴衣の女性たち……目の保養目の保養……フフ」 お祭りでテンションが上がる真の目に映るのは女性陣の浴衣姿。 エナーシアは黒地に藍色の花が彩る浴衣姿、陽菜も紺色に雪の結晶のような模様が施された浴衣、その他にも色とりどりの浴衣が女性陣の姿を彩っている。普段はメイド服姿のモニカも、浴衣に着替えさせられていた。 ブリジットが和ゴス姿なのは、主義なのかボケなのか勘違いなのか。 「ちょいとそこのお嬢さん達、うちのたこ焼きウマイよ。買ってかないかい」 そんな一堂にたこ焼き屋の屋台から声がかかる。思わず身を構える女性一同。 「……って、うおおおい! オレだ、フツだよ!」 「フツさんじゃない、新手のナンパかと思いました」 彩花の言葉に苦笑を浮かべるたこ焼き屋、もといフツ。どうやらこっそり屋台を出したのが裏目に出たらしい。鉢巻き姿が似合い過ぎていたのも、気付かれなかった理由だろう。 「ほら、これはオレの奢りだ。それと射的の屋台だったら向こうにあったぜ」 鰹節と青のりをたっぷり乗っけたたこ焼きを差し出すと、フツは縁日の奥を指差す。コーポでも射的が出来ないか話題に上がっていたので、事前に探しておいたのだ。 「ならば向かうとしようか、全員いるようだ」 黒浴衣姿のウラジミールはメンバーの確認をすると、フツに礼をして、射的の屋台に向かう。生粋のロシヤーネの割に、浴衣姿は妙に決まっていた。 射的の屋台の近くにも様々な屋台が並んでおり、三々五々散って行く。 ウラジミールは型抜きリベンジ、慎也は金魚すくい、ブリジットはくじといった具合だ。 そして、射的に向かった一同に対して、陽菜が『負けた人が荷物全部持ち』勝負を宣言する。一同の荷物持ちをしていたモニカとしては特に問題無かったのだが、こういうのはノリ。コルク銃を握っての勝負が始まった。 「コルク先端に詰めただけの鉄砲だから、照準通りには飛ばないよ。腕を伸ばして体を前に傾けて、出来るだけ近い距離から狙うんだ」 「今回の試射で上方への逸れ具合と気流の影響がほぼ完全に掴めました、この二射目で確実に、落とします」 快のアドバイスもあって、景気良く景品は落ちていく。特にエナーシアは、E能力を容赦無く使うので、屋台の親父は涙目である。 「落とせないように配置した的以外残ってなさそうね、ご愁傷さまだわ」 その一方で、縁日の悲しみを背負う者たちもいた。 「いつになっても当たらないんですが! これ、インチキじゃありません!?」 「スタサジのアタシがなんで……きっとコルクの銃がいけないに違いないよ!」 くじでお金を使い果たしたブリジットと、お約束で『みんなが』手に入れた景品を背負う陽菜。 屋台は本来、店側にとって有利なゲームなのだ。 そして、その空気を楽しむのもお祭りの醍醐味である。 ● 「地元のお祭り、か。昔は祭りの度にやったらはしゃぎ回ってた記憶があんな。こうしてリベリスタとして活動するようになってから、めっきり来なくなっちまったが」 「今、はしゃいだって構わないんだぜ? 三高平はそれが許される街なんだからよ」 物思いに耽っていた霧也に、何故か溶けて潰れた綿あめを持った守生が声をかける。 リベリスタと関わりを持つ者だけが暮らす街、三高平。神秘を隠匿する必要が無い、リベリスタ達にとって数少ない安住の場所である。 「いや、ほら。アレだぜ、俺そもそも上手くねーし、流行の曲も知らねーってか。後でたこ焼きでも差し入れするからソレで勘弁な」 そう言って小走りで屋台に向かう霧也と入れ替わり、真独楽が守生の前に姿を現す。 「モリゾー、審査員してるの? それじゃワイロに……なんて、ウソ! まこのわたあめ半分、あげるっ」 「賄賂渡すのが流行っているのか? ま、ありがたくもらっておくよ」 真独楽の綿あめを受け取る守生。年中仏頂面をして取っ付き辛いが、年下には若干甘いのだ。 その時、のど自慢大会開始のアナウンスが聞こえてくる。 「おっと、それじゃ、急がないとな」 「モリゾー、これからもお仕事がんばってね?」 真独楽は背伸びすると、守生の頭を撫でる。 守生は微笑みで返すと、会場の方に急ぐのだった。 「町内会のみなさん、そしてこのお祭りを楽しみに来たみなさん! 始めまして、ルーメリアなの! 今日はモリゾーさんに誘われて歌いにきました! ルメの歌声、楽しんでいってね!」 ルーメリアの声に会場が沸く。 アイドルっぽいふりふりの衣装も、彼女には良く似合っており、明るい歌声は会場を魅了する。 一通り歌い、踊り終えると、ルーメリアは一礼してステージを降りる。 「どうだった、モリゾーさん。ルメ上手だった?」 「あぁ、踊りも良かったしな。やるじゃないか」 続いて歌うのは、同じく【なのはな荘】のアーリィ。 打って変わって、静かなイメージの曲だ。 人前で歌うなどそうそう無いだけに、緊張してしまう。それでも何とか歌い終えた。 「ふぅ」 そして、緊張が解けた所で、一緒に来ていた友達とはぐれていたことに気が付く。 リベリスタとは言え、小学生程の年齢の女子が夜にばらばらと行動するのは危ない。 「と、ともかく急いで皆探しに行こう」 アーリィはてってと他のみんなを探しに行くのだった。 アンジェリカの優しい歌声が会場に響き渡る。 教会でいつも歌っている教会音楽だ。 彼女が歌うのは目の前にいる人々のため。 そして、誰よりも大事な、自分に「愛すること」「愛されること」を教えてくれた神父のため。 彼女の歌声に思わず会場も静まり返ってしまう。 その時、子供達がステージに上がってくる。事前にアンジェリカが手伝いを頼んでいた子供達だ。 「有難うございました……」 子供達が手を振る中、アンジェリカは歌い終える。 その頬が紅潮しているのは、大勢の前に立った緊張か、それとも……。 次に流れたのは、一転して熱い熱い、それでいてこぶしのバッチリ効いたロック演歌。 歌うのは竜の柄が入った男物の着物を纏った御龍。「別に音楽やってたわけじゃぁないけどぉ、いつも運送中の愛車の中で歌ってるからねぇ。歌は得意だよぉ」とは、歌う前の彼女の挨拶だ。 その言に違わぬ歌唱力に、会場は大きな拍手を返した。 「審査とか関係なく、この場を借りて皆と楽しみに来た。音楽を一緒に楽しもう!」 ネロスが歌うのは、おそらく誰もが知っているであろう、有名なあの曲だ。 歌詞通り、ナンバー1になるのではなく、みんなで楽しむには最適の曲と言えるだろう。 時には会場にマイクを向けて、観客にも歌ってもらう。 ネロスは思う、音楽とはその空間にいる人たちを楽しませる為のものであるべきだ、と。 そして、彼の望みは叶った。 「た、楽しんだもの勝ちだよねっ! 先輩、頑張りましょう!」 「おぅ、頑張ろうな、壱也」 少々恥ずかしげにしていた壱也も、曲が始まったことで覚悟を決める。 流れるのは軽快なポップ。 2人とも歌唱力に自信は無いという。だったら、パッションで補えばいい。 「みんなも手拍子お願いします!」 間奏が始まると、モノマはブレイクダンスを始め、壱也もそれに合わせて手拍子を行う。 会場も手拍子を合わせてきた。 そして、歌を終えた時、モノマは壱也を思い切り上に放り投げた。 会場から「おお」と声が上がる。 落ちてくる壱也を、モノマは華麗にキャッチ。 その瞬間、客席からは大歓声が上がるのだった。 ● 「こういうのんびりとした日が過ごせるので一番なのですが、中々取れないもんですね」 ベビーカステラをつまみながら、孝平は屋台が立ち並ぶ中を歩いていた。 遠くから聞こえてくる音楽を聴く限り、のど自慢大会も盛り上がっているようだ。 周囲を見渡すと、くじで手に入れた光るヨーヨーで遊ぶウィンヘヴンや、焼きそばを食べながら歩くアルフォンソの姿が目に入る。最近激化していく戦いが嘘のように平和な光景だ。 「手を、繋ぎ、たいのだ」 騒がしい人ごみの中で雷音が夏栖斗に妹らしくおねだりする。 「夏栖斗の手は、壊す手じゃない、守る手だから、ボクは壊れない」 「御免な、いつも心配掛けて。ありがとう」 雷音の頭を撫でると、手を握り返す夏栖斗。 「好きなの買ってやるよ、遠慮するなよ、お姫様」 「あんず飴食べたい。全部2つずつ買うのだ、一緒に食べるのだ」 ちょっとわがままを言ってみる雷音。夏栖斗は笑顔で応じると、屋台のおっちゃんにあんず、すもも、みかん、りんご、いちごの飴を注文する。 そんなわがままを聞いてくれる兄に対して、妹は小さく呟く。 「お兄ちゃん、大好き」 リベリスタ達の多くは偶然にもあんず飴に集中していた。 季節的にかき氷はまだ早いし、手がべたついてしまうという弱点を持つが、持ったまま移動しやすいのが一因であろう。 だが、それともう1つ。小さい頃から憧れている者もいた。 「ほんとに氷の上においてある~!!!」 感動の声を上げる終。彼が住んでいた地域では見かけることが無かったのだという。 そして、いざ実食。 「ハラショー! ハラショー!!」 ひんやりした食感、その甘味に終は魅了される。 混み合うあんず飴の屋台をレンと那雪が訪れる。 2人とも浴衣姿だ。那雪は可愛らしく淡い紫色に白とピンクの花柄のもの。レンの方は浴衣で動き辛そうだが、那雪にとってはそんな姿も新鮮でたまらない。 「あんず飴……? 初めて聞くな。縁日は不思議なものが売っているんだな」 氷上で冷やされる水あめというのは、見慣れないものには不思議に映るようだ。 「どうしても、食べてみたかったの……」 那雪の願いであれば、と2本のあんず飴を買うレン。 「初めて食べたの……甘くて、おいし。レンさんは……?」 「あんず飴、初めて食べたけど、甘くておいしいな」 2人で食べたから、もっと美味しくなったのかも知れない。お祭りとはそういうものなのだから。 「ボッチ……。うぅ、べ……別に寂しくなどありませんよ。一人だから思う存分遊べるということもありますし……って、これただの残念な人じゃないですかっ!」 1人ぶつぶつ呟きながら歩いていたミリィは、ようやく自分を客観視することに成功した。こうなったら仕方が無い。お祭りメニューの全制覇をするべく歩き出した。 「縁日か! 縁日は良いな!」 メニュー全制覇を試みる勇者は1人だけではない。ベルカもその1人である。ただし、さっき既にここは踏破していたはずにも関わらず、たこ焼きの注文をしている。これは勇者と言うよりも、猛者と言った方が良いのかも知れない。 一方、同じ独り者ではあるが、カイの楽しみ方は器用なものだ。適当にたこ焼きや焼きそばを食べながら、今は金魚すくいに興じている。射的もやりたかったのだが、何故か早々と店じまいをしていた。残念な所である。 「金魚すくいのコツ、ポイは全体を濡らして、すくう時はゆっくり斜めに持ち上げる……と」 カイの腕が水槽の上を通ると、ポイの上で金魚が1匹踊っていた。 それを見て、カイは満足げに微笑んだ。 「さすがに全制覇は無理だろう」 「1つ頼んで頼めば大丈夫だよ! おっちゃん、りんご飴1つ!」 手を繋いでりんご飴を購入するのは、ユーヌと竜一。 合流した時から、竜一はユーヌの白い花柄の着物に夢中だ。抱き着きたいのは大人の余裕で抑え込む。藍色の着流しも『大人な俺』の演出なのだ。 ユーヌはりんご飴を渡されると、かりっと齧る。 「ふむ、林檎の酸っぱさが丁度良いな。ほら、私はあまり入らないからな」 一口齧ると、ユーヌは竜一にりんご飴を押し付けた。彼女なりの愛情表現だ。 それを察して、竜一は大きな口でりんご飴に齧り付くのだった。 「ふふ~、ランディも食べる?」 いたずら顔で綿あめをランディに押し付けるニニギア。 甘いのが苦手なランディは、しばらく戸惑っていたが、意を決して綿あめを口に放り込んだ。 「……甘ぁ」 口一杯に広がった甘味が喉の奥に進んでいくのを感じて、顔をしかめてしまう。 「わぁ、無理して食べなくていいのに。大丈夫? 聖神の息吹しようか?」 「ん、大丈夫、ニニと一緒に食うのが嬉しいんだ」 恋人の不器用な優しさがニニギアの胸の中を温かくする。 「次はランディも好きなものにしましょ」 そう言って、2人は肩を寄せ合ったまま、あえて混み合う通りを進んでいく。 ずっと一緒にいたいから。互いにもっと傍にいたいから。 「な、ニニ。戦うのは悲しい事も多いだろうが、こうやって報われるんなら悪い事ばかりじゃないよな」 思わず呟くランディ。 ニニギアはその言葉に笑顔で頷くと、また寄り添って人ごみの中、歩を進めるのだった。 藍色地に朝顔柄の浴衣姿で、麻衣はひとり祭りを楽しんでいた。 本当を言うと、屋台に回りたかった所だが、諸々の理由で断られてしまったのだ。 小学生にしか見えない外見が恨めしい。 それでも、お祭りの楽しみ方など、いくらでもある。綿あめ片手に巾着を持って、屋台を巡ってきた。 その横でスーツ姿の知世はしょんぼりとしていた。その辺は、人それぞれである。1人でいるのが寂しい時もある。 (もっと積極的にアピールした方が良いので御座いましょうか……?) 祭りの片隅で想うのは彼のことばかりだ。 「おぬし、ちょっとこのあんず飴を持っていてくれぬか? 両手が塞がってしまってな」 そんな知世の前に現れたのは、浴衣の袖を捲った姿のシェリー。 隙間があるからと食べ物を浴衣の袖に入れた結果、これである。 「あ、はい」 ちょっと飴を持ってもらっている間に、ささっとシェリーはお好み焼きを平らげる。まさしく、食欲の権化だ。 そして、あんず飴を返してもらっていると、遠くから歌声が聞こえてきた。どうやら、のど自慢大会もクライマックスに入ってきたようだ。 「なにやらカラオケ大会が開かれたようだな。歌なんて腹の足しになりはしないというのによくやるな」 「そうで御座いますね……」 ● 「いえーい! 銅鑼を鳴らせー!」 派手に銅鑼が鳴らされる。のど自慢大会会場の横に屋台を出したのは、【的士】の2人。狄龍と牙緑である。屋台に並ぶのは小龍包と餃子、それに饅頭。最近、こうした屋台は結構増えていて、それなりに美味しいのである。 調理担当の牙緑の腕前もあって、熱々の肉汁を含んだ小龍包とぷりぷりのエビが入った餃子は中々好評な売り上げだ。 「なーアニキ、これが売れたらその金でカーナビつけよーぜ! テレビも見れるヤツがいいなぁ」 「俺らのカーナビのために、稼ぐぜー! よう、そこのお嬢ちゃん、タクシー……じゃねェや。饅頭はどうだいっ」 「それじゃ……1つ……ちょうだい」 饅頭を1つ購入するのは、紅梅色地に花柄の着物を着たエリス。 饅頭を手にすると、てとてとのど自慢大会の会場に入っていく。 「あっつあつの小籠包と餃子だ! 肉汁たっぷりだぞ!」 再び声を上げて客引きを行う狄龍。 この様子を見るに、モノにもよるがカーナビはそう遠くないように思われた。 「さ、テンション上げてこっかー!」 会場の中では、フィオレットがショルダーキーボードを提げて、ゲームミュージックを歌っていた。 会場のボルテージは暖まっており、それに合わせて彼女のテンションも上がっていく。 生演奏の腕前もあって、大会のボルテージは否が応にも高まっていた。 「頑張って下さい、紅葉」 小さく拍手と声援を、壇上の紅葉に送るヘクス。 紅葉が歌う夏祭りをテーマにした明るい曲に合わせて、ヘクスは手拍子を合わせ、お手製の旗をリズム良く振る。 紅葉はアイドル志望なだけあって、歌もダンスも中々のものだ。 「声援ありがとうっ♪」 歌い終えると、拍手で声援に答える紅葉。 彼女の輝くような笑顔は、何よりも楽しんだ証明である。 意外にも、杏は普段持っているギターを手放してステージに上がる。 「曲知らなきゃ楽しめないでしょ?」 怪訝そうな顔をする知り合いにウインクで答えると、ゆっくりと歌い始める。歌うのは先ほども流れた、多くの人になじみのあの曲だ。 「杏、ふぁいとー! 超カッコイイぞっ!」 杏は会場から上がる応援の声に手を振り、手話のパフォーマンスで歌い続けるのだった。 ノリの良い曲に合わせて、帽子を被ってチャイナ服を着た2人組がデュエットを唄う。 腕鍛によるもので、武術の演武を取り入れたパフォーマンスが完璧なユニゾンで観客を魅了する。また、不思議なことに、2人分の歌声が聞こえてくるのに、いずれも同じ声に聞こえる。 観客達は不思議に思いながらも、目の前で行われる幻想的な演武に心を奪われるばかりだ。 そして、曲が終わろうとした時だ。顔を見せなかった1人が帽子を放り投げる。すると、その中からお団子テールにまとめていた髪がこぼれ出る。 ガッツリだ。 そう、ガッツリがE能力を駆使して、腕鍛の動きを真似ていたのだ。 観客は詳しいトリックこそ分からないものの、その見事なパフォーマンスに拍手を送る。 「楽しかったでござるし、また来たいでござるな。にははは」 「腕ちゃんお疲れ様だお」 姿を現したガッツリと腕鍛は笑顔でハイタッチを交わした。 「三高平学園音楽愛好会代表、桜咲 珠緒。全力でいくでぇ!」 トリを務めることになったのは珠緒だ。 最初は青いドレスを着ていたように見えた彼女が身を翻すと、サッと赤いドレスへと姿を変える。 歌うのは精錬な青き歌姫と情熱的な赤き歌姫が競い合う歌。彼女はそれを左右対称のドレスを着ることで表現しようというのだ。 (……流石にここまで来ると挑戦やけどね) と、本人は内心思うものの、観客の方は意図を察して沸いている。 そして、歌い終わった時には、万雷の拍手で迎えられた。 ● 「あー、それじゃあ結果の発表だ」 いつの間にかマイクを握らされている守生。気付けばアークで依頼を説明する時の口調に戻っている。緊張したりすると、こうなってしまうのだろう。 ステージの上には参加したリベリスタ達が並んでいる。 「まず3位」 ドラムロールが鳴り、会場が暗くなる。 そして、ライトが当てられたのはモノマと壱也のコンビ。 「お、マジか!?」 「先輩、やりましたね!」 「楽しそうな歌声だったってのが理由だ。最後のキメも決まっていたしな」 守生の声も耳に入らずに手を取って喜ぶ2人。こうした感情が観客に伝わったのかも知れない。 「次に2位は桜咲珠緒だ」 「うちなん? ありがとー!」 前に出てくると珠緒は観客に手を振り、部活動の宣伝を始める。 「やっぱ強力だったのはパフォーマンスだよな。歌も上手かったから、納得の高得点だったぜ」 左右対称の衣装で手を振る珠緒は、喜色満面と言った様子であった。 そして、最後の1位の前には長いドラムロールが鳴る。 「それでは、最後に1位だが……」 そして、ドラムロールが鳴り止み、ライトが当てられる。 「雲野杏だ」 「へー、アタシなんだ。愛してるわ、みんな」 拍手に対して投げキッスで答える杏。 「派手なパフォーマンスではなかったが、心遣いが感じられるものだったってさ。それじゃ、これでのど自慢大会は終わりだ。みんな、残りの時間も楽しんで行ってくれ」 解散の言葉に、三々五々散って行く観客とリベリスタ。 杏優勝の一番大きな理由はここだろう。今晩はお祭りの夜だ。 神秘の世界に生き、一般の社会から隔絶されてしまったリベリスタ達。 そして、彼らが平和な時間を生きることができる場所、三高平。 今後もそんな場所で過ごせる時間が、平和なものであることを祈りつつ、夜は更けていくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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