●誰にでも出来る簡単なお仕事です。 「仕事としては、すごく簡単。だけど、多分すごくつらい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、しばらく目を閉じていた。 これからリベリスタが受ける苦しみを、わずかでもわが身に受けようと天に祈るかのように。 これからリベリスタを過酷な現場に送り出す自分に罰を請うように。 やがて、ゆっくり目を開けると、ぺこりと頭を下げた。 「お願い。あなた達にしか頼めない」 苦しそうに訴える女子高生、マジエンジェル。 だが、断る。なんて、言えるわけがなかった。 ● 「努力の甲斐なく、生えた。いや、この程度の生え具合で済んだのは、努力が実ったのだと思いたい」 そっか。 生えちゃったか。 事情がわかっている一部のリベリスタから、ぬるい笑いが漏れる。 モニターには、草丈3メートルのたんぽぽ。 花も、ひまわりみたいにでかい。 そして、緑濃いこの季節に枯れ草がぽつぽつ生えて、荒地状態になっている。 周囲の養分や水を独占しているようだ。 「花から魅了効果のある花粉が出ていて、株を守りたくなる。リベリスタでないと抵抗できる可能性がない」 逆を言えば、リベリスタでも魅了されるってことですね。 「大体、一株の大きさが直径三メートル。草丈じゃなくて、広げた葉っぱの直径が」 でかい。もう、しみじみでかい。 「アザーバイド、『ダンデライオン・植物形態』 動物形態でやってくる。アークが発足してからは、昨年六月、今年の一月の二回」 イヴの背後のモニターには、比較的小ぶりな個体と戦う夏の戦闘映像と、大きいのと小さいのが入り乱れて戦っている冬の戦闘映像。 「このアザーバイド。凶暴で肉食で戦った後は被害甚大なのも困るんだけど、もっと困るのは戦いの最中に種――胞子をばら撒いて、繁殖しようとする」 ふかふか綿毛と一緒に、この次元に根付いちゃえ~。という訳だ。 「花から魅了効果のある花粉が出ていて、株を守りたくなる。リベリスタでないと抵抗できる可能性がない」 そして、別のモニターに泥まみれになって、地面を掘り返しているリベリスタの映像。 「そういう訳で、植物形態の駆除が行われた」 ただし、というイヴは無表情。 「おそらくほとんどが戦闘種――識別名『四本傷の伊吾郎』の子孫と思われる」 他の個体は子供だったし。と、イヴは付け加えた。 「昨年夏の駆除株より、しぶとい。根付いた胞子は、草丈3メートル、円状に生えた歯の直径3メートル。根っこにいたっては最低10メートル。巨大たんぽぽもどきに成長し、根っこでは動物形態が育まれている」 ちょっと待て。なんか、前回よりでかくないか。 「今回、確認された株は10株」 去年の夏より少ない! やった。地面に掃除機かけた甲斐があった。 「このまま放置できない。すでに周囲の植生に影響が出ている。増殖性革醒現象も怖いし、それ以上にダンデライオン(動物形態)が成長中。この世界に適応するかどうかは未知数だけれど、すでに害悪。掘り返して。ひげ根の一本も残さないで」 草抜くだけじゃ、だめなんですね。 「残念ながら、どのくらいの期間でダンデライオンが生まれてくるか分からない。作業は速やかに終了させなくてはならない」 イヴは、モニターをズームアウトする。 「天気予報では、これから数日間は快晴時々雷、雹に注意。紫外線情報、非常に強い。不快指数60%。熱中症警報マックス」 野外作業は危険。 ぶっちゃけ、10株のダンデライオン(植物形態)の根っこを残さず掘り返し終わるまでは帰れません。 逆に言えば、それ以上は絶対出来ないのがわかっているのだけが救いなのだ。 「戦闘にはならない。ばかばかしいと思うのもわかる。ストレスがたまると思う。でも大事な仕事」 イヴは、もう一度頭を下げた。 「お願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月05日(火)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「頑張ったけど根を張っちゃったのね……仕方ない、責任持って後片付けしましょう」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)、親を討伐した者として。 「環境に影響出始めてるし、後始末もヒーローも役目さ」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)、親の首級を切り飛ばした者として。 ● いい天気だ。 既視感に襲われているリベリスタが多かった。 今年一月に、ここで一体のアザーバイドが討伐された。 恐ろしく凶悪な、ふかふかもふもふたんぽぽライオンぬいぐるみその実巨大なサメの口と歯を持ち、四本の触手を駆使する凶暴肉食獣。 識別名「ダンデライオン攻撃種・四本傷の伊吾郎」 「……ええ、もう。戦闘状態のあいつらが動いてるの見たら幻想なんて全力で吹き飛ぶわよね。強いし。触手だし。走るし。口だし。……いかん、思い出すだけで寒気が」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)の背に悪寒が走る。 『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE00261)は、歓迎深げに何度も頷く。 「四本傷の伊吾郎か。以前戦ったときには随分と苦労してもんだが、やはり後始末の必要性が出たか。そう言えばあの時の戦いは……」 回想モードの戦闘語りは、そりゃ長い。 副音声でお楽しみください。 これからほっくり返すのは、その忘れ形見だ。 昨年夏の事案から非常に高い繁殖力を懸念したアークは、地面に掃除機をかけて種の回収に努めた。 しかし、生体ダーツとしてリベリスタを苦しめた伊吾郎の種子のいくつかは地中深く食い込んでいて、惜しくも回収に至らなかったのだ。 「探すまでも無いのと周囲に人気が無いのが幸いかな」 麦藁帽子に作業着。軍手に長靴、首にタオル。手にスコップ。 完璧に園芸作業員のいでたちの疾風が、『ダンデライオン(植物形態)』の位置・数を指差し確認した。 「何度数えても、十株あるなぁ」 この巨大なたんぽぽの下に、凶悪なアザーバイドの落とし仔が10体。 今もすくすくと成長しようとしている。 成長しきる前に、引っこ抜かなくてはならない。 快活に笑う。ヒーローだから。 「あんなのがぽこぽこ産まれてくるのも困るし、早めに引き抜いておかないとね」 彩歌は、ジャージだ。 「あんなの」に独特のアクセントがつくのは、ダンデライオンとの戦闘経験者にはありがちのことだ。 「取りました、マスタードライブ。重機は、アークに重機はありませんかっ」 彩歌は去年の手掘りの大変さを痛感していた。 だが、今回現場が悪かった。 人もまともに通らぬ峠道。 重機の搬入、ちょっと無理かも。 事前にわかってたら、空輸とかも考えたんだけどなぁ。 一応今から手配してみるけど、それまではがんばって手掘りしてね。 別働班の笑顔はさわやかだった。 「でも、まあ、掘る前に」 疾風は、黙々とテント設営を行った。 イヴちゃんが天候不安定とか言ってたし。 くぼ地を避け、風下に出入り口を向け、どこに出しても恥ずかしくないテント完成。 アウトドアでもてる男。 夏に彼女の前でやると、愛情度がアップします。 ● 「前にもやった簡単な……いやいや、全員魅了されて大惨事だったでござるYO?」 『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)、すでに気分は拙者。 「え、違うの? 新しく生えた? この世界って、いったいどれだけの影響を受けてるんだろうね……?」 『静かなる古典帝国女帝』フィオレット・フィオレティーニ(BNE002204)、遠い目をして。 ● 「うん……去年そんなの引っこ抜いた気がするよ」 フィオレットは、遠い目をする。 いや、目の焦点が微妙になってもおかしくない。 遠近感をまるで無視した草丈3メートルのたんぽぽだ。 ちなみに去年は1メートル。 攻撃種め。 (これは逃 げ ざ る を 得 な い) 智夫の危険察知スイッチがぱちんと入り、逃走王「拙者」が目を覚ます。 しかし。 ともに、戦闘なく死線を何度となく越えた『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)が、見てる。 (とはいえ、ご近所さんのオーバル殿に既に警戒されている様子) 前科、多すぎ。 (ならば偽装するしか……) 引きつった笑顔。 「拙、じゃなくてミラクルナイチンゲールでござるよぉ」 偽装工作。完璧だと、智夫は思った。 「持病の口内炎とか持ってないし、逃げるつもりもありませんよぉお」 しかし、今まで何度となく共に戦闘なき以下略のアウラールには分かる。 智夫の肩をがしっとつかんだ。 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)も、反対側の肩をぽん。 「女の子達も頑張ってるんだから、男の子が逃げちゃダメだよね☆」 え? ミラクル・ナイチンゲールハオトコノコジャナイヨダカラダイジョブゼンゼンモンダイナシ――。 アウラールはがっくんがっくん揺さぶった。 「負けるな、戦え! 僕らのミラクル・ナイチンゲール!!」 そのとき、智夫の中で光がはじけた。 説明しよう! ミラクル・ナイチンゲールとは、依頼から逃げたいけど逃げられない状況で智夫を鼓舞してくれたり、勝手に働き出す魔法少女的ペルソナだ! もはや、発動に着替えも不要になってきた。 「拙者退散っ!」 ぶんと智夫の左手が振りあがり、自らの左頬をグーパン! …………。 現在、脳内変身バングシーン中です。少々お待ちください。 「例え困難が待ち受けようと、戦い続けるのがミラクルナイチンゲールの勤めです。 ダンデライオンさんのおっきいタンポポも頑張って取り除きますっ」 アウラールと終、顔を見合わせ、サムズアップ! よしっ! 正しくミラクル・ナイチンゲール召喚! ● 「奴等はぶさかわなどではない。もっとおぞましいなにかだ」 アンナ。ベテランリベリスタ、拳を握り締めての力説。 「今日のマジエンジェルからの要請:巨大タンポポをひげの根1本残さず全て掘り起こす事☆ イエス、マム!承りました~☆ 1本残さず掘り起こすよ」 終。マジエンジェル・イヴの為なら、血反吐はいても戦い抜く決意。 ● 「動けない今が好機! すべて掘り返して燃やすなり送還するなりしてしまえ!」 麦わら、軍手頌着済みのアンナが叫ぶ。 残念ながらしば焼き機で燃えてくれるようなかわいいもんじゃない。 まずは掘り起こさないと。 (特段スキルやら技能は使えないし、今回使うような案件でもないので、ひたすら作業、作業) ……そういう風に、働き続けられると思っていたときもありました。 六月初旬とはいえ、もうすぐ夏至なのだ。 太陽光線自体は真夏よりも強いのだ。 紫外線は体に有害。 メラニン色素がうっすいアンナさんは。 (……あつい……もうだめ……) ぷっしゅーん。 いい感じにうだる、作業開始二時間過ぎ。 (ど、どこからどうみても私アウトドア系じゃないでしょうよー……) 木造校舎の薄暗い図書室カウンターなんかすごく似合うね。 (うぐぐ、でもこれ終わらせないとまたあのらいおん詐欺が……) まぶたを閉じると思い出される、とてとて短いあんよでたどたどしく歩くぬいぐるみのようなふかふか可愛いのの背中がばくっと開き、中からおぞましく赤い舌が突き出され、肩掛け紐のような触手が縦横無尽に振り回され、びよーんびよーんと空中を跳んでくるのだ。 涙がにじんでくるくらい許せない。 (体力は根性で補うしかないか……や、やるぞー) 「先生、地面を掘るのに神秘攻撃力は適用されますか」 彩歌が、ダンデライオンの根っこを掘る地価8メートルの土の底から虚空に向かって問うた。 答・神秘の技を使ってください。 「一つ掘っては父の為、二つ掘っては母の為――」 地蔵和讃を歌い始めたら、良い感じで煮詰まってきた証拠だ。 (……ってあれ三途の川(Lethe)の話、冗談にならないから止めておいた方がいいかも) 経験者もへばってくる、ここらが一つの山だ。 小鳥遊・茉莉(BNE002647)は、大きく息をついた。 「遠足は家に帰るまでが遠足、と言いますが、これもそういう類のものでしょうか」 季節が変わったが、要は後始末だ。 「まあ、愚痴を言っても仕方ないですね。地道に少しずつやっていくしか」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は、とにかく自分を鼓舞し続けた。 「リベリスタなら簡単なお仕事……って、リベリスタでも辛いものは辛いのです」 『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692) も、肩で大きく息をする。 (アークではたまに「かんたんな仕事」と称して全然簡単では無い仕事があると聞いていましたが、これでしたか……) リベリスタの頑健な体と神秘耐性だけが当てにされる、あくまで作業工程が簡単なだけであって、期間的には簡単に終わる仕事ではない。 ミリィは周りの忠告に素直に従い、日焼け止めクリームを塗り、つばの広い帽子をかぶり、サングラスをし、スポーツドリンクを定期的に摂取していた。 それでも11歳の華奢な体には、この炎天下での重労働は堪えたのだ。 よほどの大規模戦でなければ、連続して敵性エリューションと一時間以上接し続けることはまずない。 一種の緊張感はリベリスタでさえも消耗させる。 はたり。と、倒れて動かなくなった。 「ああ、もう筋肉痛で手足がパンパンです。やはり頭脳労働専門の年寄りには無理でした。年寄りの冷や水ですね」 茉莉が、ギクシャクとありえない体勢のまま背中から地面に倒れる。 「大丈夫かああああっ!!」 熱血な叫びが辺りにこだまし、土煙を上げて走ってくる奴がいる。 疾風は、この過酷な状況の仲間が心配で、常に仲間の様子を見守っていたのだ、千里眼。 「無茶しやがって! 後は任せろ!」 ミリィと茉莉を両脇に抱えて、涼しいテントに移送! 「――ああ、もうこんな時間か」 ディートリッヒに別働班が近づき、何かを囁いた。 「みんな。すまないが、別の依頼に出発する時間だ。そういう約束でのパートタイム参加だから、俺はここで」 次の依頼に出発するまでの空き時間、少しでも穴掘りの手伝いがしたいなんて、ディートリッヒさんはいい人ですね! 気をつけてね~。御武運を~。の声を背に、男は次の戦場に去っていく。 一方、麻衣の肌がじりじりと音を立てていく。 (やっぱりこれ以上日光に当たると日焼けが酷いだけでなく、夜、日焼けのせいで肌が熱を持って眠れそうもないです) 日焼けの痛みは、回復詠唱で治るだろーか。 「お肌を守るため帰らさせていただきます! 後よろしくお願いしますね」 とても良い笑顔で立ち上がった。 後は、脱兎のごとく走るだけ! 「気分悪くなったの!? サービスサービス!」 手に、塩飴とドリンクがねじ込まれた。 終が、すっげー笑顔だ。 ホーリーメイガスがソードミラージュから逃げられますか? 無理。 「!?」 更に、頭と首に冷たいタオルが巻かれる。 終は、自分がかぶっていた麦藁帽子を舞にかぶせた。 「……もうちょっとがんばった方が良いと思うな」 ぼそぼそと、終が麻衣の耳元で囁く。 「あれ、みてごらん」 終が指差した先。 「逃亡者はビキニアーマーの強制着用の刑だー! こんなかわいい子が男の子のはずが――」 うっかり「拙者」がぶり返した智夫が、ノーブラ白Tシャツで無駄にセクシー成分を増したフィオレットに馬で追い回されていた。 「絶対逃がさない!」 一人逃げたら、仕事が一人分増えるからな。 ● 「ミックスベジタブルとひき肉で、手軽に……って、よく考えたら。カレーなんか、作ったの持ってきて暖めなおせば良かったんじゃ……」 『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)、鍋の前で熱中症を発症しながら。 「なに、働かざる者食うべからず。きっちりバーベキューが始まる前に片付けてやろう」 『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)・新人リベリスタが陥りやすい罠。うん、それ、無理。 ● 辺りに夕闇が迫る頃。 照明機材が持ち込まれ辺りは昼間のように明るい。 寝るなってことですね、分かります。 頭のてっぺんからつま先まで土臭くなりながら、リベリスタたちは極度の疲労と戦いながら、バーベキューに興じていた。 遊んでいる訳ではない。 多少でもテンションを維持しておかないと、「負ける」のだ。 ご飯大事。超大事。 「グヒヒヒ、妾にも見えるぞ。視界を覆うほどの消化に悪そうな食糧たちが!」 シェリーは飢えていた。 ダンデライオンを食ってしまいそうに飢えていた。 やめて。今食ったら、ホビロン状態だ。 アークに車では、日々の食事も事欠く有様だったのだ。 昼もたらふくカレーを食べたけど、育ち盛りのぽんぽんがもっとまんまと言っています。 それでなくとも精神的に追い詰められているので、食い物に逃避したくなるのだ。ご飯があるから掘っていられる! というか、掘ってさえいれば、結構良いご飯が食べられる。 アークって素晴らしい! 人、それを餌付けという。 そして、お風呂代わりにビニールプール。 遊んでいるのではない以下略。 「この格好で作業すると結構暑いですね。もう少し通気性が高い服だとよかったです」 少し頬を上気させつつ襟のボタンを緩めた智夫――ミラクル・ナイチンゲールが少しうつむいた。 「そ、その、あまりじろじろ見ないでいただけると嬉しいのですが……」 耳まで赤くなっている。 こんな可愛い子が女の子の以下略。 「大丈夫、友人とヌーディストビーチに行ったことあるし、晒すのには慣れてるよー」 セクシー成分倍増の使命に燃えているフィオレットは、去年よりサイズアップした胸をたゆんたゆん揺らしつつ、Tシャツがばっと脱ごうとして、女子から「おおっと、そこまでだ」的バスタオルアタック食らっていた。 「乙女の双丘は永遠に成長期だー愚か者どもー」 板胸水着のシェリーはプールにダイブ。 ● 翌日も快晴。 ただし午後から上空に寒気が流れ込み、もこもこと積乱雲ががんばり始めていた。 アウラールは心の平和を保つ為、超幻影でふとましいつやつやした三毛猫を出していた。 「ぬこいいなーお昼寝いいなー……暑いなー、突然雨でも降らないかなー」 そんなこと言うと、招くぞ? 辺りに冷たい風が吹き、にわかに空が暗くなる。 がらがらがらがら。 「雹だ!」 「いたいいだいいたいいだい!」 「頭かばえ! 死ぬぞ!」 「雷ー! 雷来たー!!」 「雨ー!! 溺れる。早く引き上げて、山の中で溺死はイヤー!!」 「ダンデライオンが倒れるぞ!!」 「植物形態に押しつぶされるのもイヤー!!」 「急いでテントや車に退避して着替え……って、なんで男の人が?! きゃああああ! で、出て行ってくださいっ」 「おまえが男だ、内薙智夫!」 テントの下で待つこと十数分。 今度は、灼熱の太陽が現れた。 そして、自身の危機を感じたダンデライオン植物形態がついに伝家の宝刀を抜いた。 辺りはまっ黄色の花粉でかすんで見えた。 「魅了には気をつけないといけません。前回も多くの人が敗れていきましたし。魅了されたとおぼしき方を発見したら、出来るだけ速やかに連れ出しましょう………」 経験者は強いね。 智夫、頭上からべふっと降ってきたまっ黄色の花粉にまみれて一言。 「何をしていたんでしたっけ?」 下から引き上げた土入りバケツを抱える。 「あ、確かダンデライオンさんを植えないといけなかったですね」 穴目掛けて、バケツばさー。 「ぎゃああああっ!」 穴の底から悲鳴が上がる。 「ダンデライオン可愛いよ。掘り返すなんてとんでもない」 穴目掛けてふらふらと土を投げ込み始めた疾風も巻き込んで、アンナ問答無用のブレイクフィアー! というか、このためにここにいるといっても過言ではない。 「だまされるな、みなのもの! コイツの本質はらいおんじゃなくて触手よ!」 うわ~。だけど、ほんとのことだぞぉ。 「そう!今まさに掘り返してるこの根っ子が本体ぐらいの勢い!」 その根っこをジャブジャブと幸せそうな顔をして洗っているアウラール(花粉まみれ) 「――心なしか前のより骨太? お前もきれいになると、気持ちいいだろう? うむ、いつ見ても不思議な光景だ。マンドラゴラってこんな感じ?」 うっとりと透き通る根っこの中のあかんぼダンデライオンに話しかける。 「これ、子供のうちから飼ったら、懐いたりしないかな」 魅了無効を身につけた彩歌が、根っこからアウラールを引き剥がした。 「ぬこ……」 後ろ髪引かれまくり。 「戦え、現実とぉっ! それはぬこじゃなくて触手だといってるだろうがぁっ!」 ぶれいくふぃあー。 「頑張ってても魂飛ばしたくなる時もあるよね……。そんな時はタンポポに登るんだ……世界は広いね……この空の向こうには何があるんだろう……? えへへ……お花のベッド~♪」 地上3メートルでぼいんぼいん危うい感じでゆれるたんぽぽ。 戯れる終のお目目はぐるぐる。 「たんぽぽに登るなあ!?」 ぶれいくふぃあー。 「妾としたことが、我を忘れるとは情けない。良いだろう、貴様を最大級の敵と認めよう」 「おお、逆境燃え!」 「何で埋めなおしてるんだ」 「だが挫けてたまるか!」 「ダンデライオン可愛いよ。掘り返すなんてとんでもない」 「永久運動!?」 ● 夜空にキャンプファイヤー。 植物形態十株が空に帰っていく。 「今日、何日目だっけ……?」 それは、聞かない約束よ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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