● チームに誘われた時は、素直に嬉しかった。 ちょっと未来を視るだけの私の力が、みんなの役に立てるんだって。 でも、喜んでいられたのは最初のうちだけ。 この世界は、驚くほどの理不尽に満ちていて。 私の視る未来は、どこまでも残酷なものばかりだった。 世界を守るために戦うのがリベリスタなんだって、みんな言っていたけれど。 そのために殺さないといけないのは、いわゆる“悪者”ばかりじゃなくて――。 運命の悪戯で、世界の枠組みからほんの少し外れてしまった人々。 罪もない、ただ運が悪かっただけの人の命を、時には奪うことになる。 その未来を視て、みんなに話すのは私。 みんなはそれを聞いて、運命に見放された人たちを殺しに行く。 ずっと、その繰り返し。 私がチームに入ってから、みんなの“仕事”は楽になったらしい。 打ち上げの時、これからもよろしくと、みんなに言われた。 ――でも、私はもう、素直に喜べなかった。 何も知らない子供を殺すなんて。 幸せそうな恋人たちを引き裂くなんて。 あの人たちは、何も悪いことなんてしてないのに。 これからも、私はその手伝いをしなきゃいけないの? そのうち、私は悪い夢を視るようになった。 私が未来を視て、みんなが“仕事”で殺した人たちに関わる夢。 子供を失って泣き叫ぶ親。 死んだ恋人の後を追うように踏切に飛び込んだ男の人。 世界を守るための“仕事”の裏で、こんなに悲しみが生まれて。 寝ても覚めても、悪夢は私に纏わりつく。 ――だから、私は私を殺したの。もう、何も視たくなかったから。 ● 「今回の任務は、E・フォースとE・アンデッド――合わせて四体の撃破だ」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向けて、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、いつも通りにそう切り出した。 「E・フォースは『莉沙(りさ)』という少女の思念が、死後にエリューション化したものだ。 彼女は少人数のリベリスタグループに所属するフォーチュナだったが、先日、自ら命を絶っている。 そしてE・フォースとなり、グループの仲間達を皆殺しにした」 殺されたリベリスタは三名。全員がE・アンデッドと化し、E・フォースと共に彼らの溜まり場だった廃ビルの一階にいる。 E・フォースの少女――莉沙の自殺の原因を問うリベリスタに、数史は僅かに沈黙を返した。 やがて、彼は静かに口を開く。 「……自分の未来視に、耐えられなくなったんだ。 彼女が視たのは、とにかく救いのない事件、残酷な事件が多かった。 世界を守るというリベリスタの使命と、その裏で犠牲になる人々の無念の板ばさみになった彼女は、次第に心を病み、とうとう命を絶った」 それでもE・フォースとして蘇ってしまったのは、皮肉としか言いようがない。 死してなお安息を得られぬ莉沙の魂は荒れ狂い、かつての仲間達を残らず手にかけてしまった。 「彼女には生前の記憶が残っているし、言葉を交わすことも出来なくはない。 だが、人の話をまともに聞き入れるような精神状態じゃないから、説得は難しいと思う」 そう言って、数史は手にしたファイルを閉じる。 「最期まで、考えもしなかったんだろうな……。 自分の視たものを直に背負って、命懸けで戦ってた仲間のこと」 誰にともなく呟き、黒翼のフォーチュナは顔を上げてリベリスタ達を見た。 「――どうか、皆の手で幕を引いてやって欲しい。頼まれてくれるか」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月04日(月)23:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 廃ビルの中は、胸を締め付けられるような圧迫感に満ちていた。 それは、死してなお悪夢から醒めぬ少女の呪詛か。 あるいは――その手にかかった、彼女の仲間達の嘆きの声か。 「何だろうね。悲しい旋律」 重く淀んだ空気の中を歩きながら、フォルティア・ヴィーデ・アニマート(BNE003838)が呟く。 音楽に鋭い感性を持つ彼女は、この場に立ちこめる雰囲気を“音”として感じ取っていた。 底知れぬ絶望と、悲嘆が奏でるメロディ。 「自分の未来視に耐え切れずに、仲間を殺してしまった……ね」 『紡唄』葛葉 祈(BNE003735)に続き、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が口を開く。 「世界は美しいとは限らない、その醜い部分に耐え切れなかったと」 理不尽な未来を視続けた結果、折れてしまった少女の心。 己が持つ力に心が追いつかぬというのも、不幸な話だろうか。 沈黙したまま、左右で色の異なる紅蒼の目を僅かに伏せる『花縡の殉鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の傍らで、『十字架の弾丸』黒須 櫂(BNE003252)がその少女――莉沙の心中に想いを馳せる。 (奥地はああ言ったけど……) 辛い現実に直面した時、それを乗り越えられるかどうかは本人の資質にもよるが、心の支えになる存在があるかどうかも大きい。 かの黒翼のフォーチュナには“家族”が居たが、莉沙にはおそらく誰も居なかったのではないか。 「それでもよ、仲間に少しでも相談出来ていれば違った結末にもなっただろうになぁ」 烏の言葉を聞き、祈は思う。 あるいは、莉沙の仲間達が、傷ついた彼女の心に気付いてあげられていたら――と。 そう言いかけて、祈は口を噤む。これはもう、終わってしまったお話。 今はただ、悪夢に囚われ続ける彼女達を救うだけ。 やるべきことは、一つでしかない。 部屋の前に歩を進めた『Weiße Löwen』エインシャント・フォン・ローゼンフェルト(BNE003729)が、固く閉ざされた扉を切れ長の赤い瞳で見つめる。 サングラスの位置をそっと直した『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が脳の伝達処理を高め、烏が誇りを胸に運命を引き寄せた。 「誰もかれも、一人で手遅れになってばかりね。ムカツク」 驚異的な視野をもって認識を広げる『鏡文字』日逆・エクリ(BNE003769)が、憤りを込めて呟く。 ドアノブに手をかけた櫂が、扉を勢いよく開け放った。 ● 突入したリベリスタ達は、適度な散開を心がけつつ陣形を整えていく。 前衛に躍り出た櫂が、敵の先手を打って銃弾の洗礼を浴びせた。 E・アンデッド達の土気色に染まった肌からどす黒い血が溢れ、彼らの服を汚していく。 ふわりと身を翻して直撃を避けたE・フォース――莉沙は、部屋に雪崩れこんできたリベリスタ達を見て忌々しげに眉を寄せた。 『あなたたちもリベリスタね。 “世界を守るお仕事”のために、人殺しだって平気でするんでしょ!?』 凶運をもたらす魔弾が櫂を撃ち、続けて闇のオーラがリベリスタ達を襲う。 仲間達の何人かが癒しを封じられ、呪いに蝕まれる中、烏が莉沙に肉迫した。 己の長身をもって彼女の視界を狭め、愛用の村田式散弾銃“二四式・改”を構える。 「愚痴ぐらいは聞いてやる。そいつが嬢ちゃんに贈れるせめてもの餞だ」 銃口から飛び出した光の散弾が、E・アンデッドの一体を巻き込んで莉沙を穿つ。 活性化させた魔力を循環させ始める遥紀のやや前方、白い翼を羽ばたかせて低空を舞うエクリが、神秘の閃光弾を投げてE・アンデッドのうち一体の動きを封じた。 残る二体が豪腕を振るって前に立つ櫂と烏を殴りつける中、フォルティアが防御の効率動作を共有して全員の守りを固める。 彼女は、そっと莉沙に語りかけた。 「僕はリベリスタとして、ここが初めてだけど……単純な仕事なんて割り切りは出来ないかな。 きっと、そんな人も身近に居たはずだよ。 一言くらい言ってくれれば、誰か力になったのかもしれないのに」 『うそ、うそよ! みんな、いつも笑っていたもの! “お仕事”のあと、いつだってバカみたいに騒いで……っ!』 辛い思いを抱えて、なお笑ってみせる人もいる。 バカ騒ぎだって、やりきれない仕事を終えた後のせめてもの憂さ晴らしだったかもしれない。 でも――それを言ったところで、莉沙は決して認めはしないだろう。 最も後方に立ち、仲間の全員を自らの回復射程に収めた祈が天使の歌を響かせる。 致命の呪いに侵された数人を除くリベリスタ達の傷が、みるみるうちに癒えていった。 その祈と莉沙の中間に立って彼女への射線を遮った彩歌が、全身から煌くオーラの糸を伸ばして莉沙とE・アンデッド達を狙い撃つ。 莉沙の能力は厄介なものが揃っており、よく考えて対処せねばならない。 まずは、彼女のスピードを殺し、こちらが後手に回るのを防ぐことだ。 全ての状態異常を自動的に回復する莉沙だが、その能力が発動するまでには若干のタイムラグがある。 そこを突いた彩歌の作戦は、見事に功を奏した。 莉沙の動きが明らかに遅くなったのを見て、櫂と烏が相次いで愛銃から光弾を撃ち放つ。 絡みつく気糸が流転する運命を示すようにかき消えた後、莉沙は再び闇色のオーラを解放したが、烏にぴったりと前を塞がれており、先のように多くのリベリスタ達を狙えない。 苛立った彼女は、自らの未来視を幻に変えてリベリスタ達へと叩き付けた。 ――両親の目の前でエリューション化し、異形化した肉体で襲い掛かる幼い子供。 ――自ら制御できない力に翻弄されながら、死にたくないと叫び続ける青年のノーフェイス。 ――革醒により正気を失った恋人に心臓を貫かれ、目を見開いたまま事切れた女性。 仲間達が駆けつけた時、それらは大抵もう“起こってしまった後”で。 たとえ間に合ったとしても、もはや誰かの犠牲は避けられない。 悲しみは新たな悲しみを生み、残された者すら絶望の淵に追い落とす。 『こんなの視たらね、もうご飯なんて喉を通らないのよ……! 何で自分は生きてるんだろうって、そればっかり考えて。 その気持ちが、あなた達にわかる!?』 幻がリベリスタ達を縛り、心を惑わせていく中、莉沙が叫ぶ。 精神を侵す状態異常を無効化して自らを保ったエクリが、神秘の閃光弾でさらに一体のE・アンデッドを封じた。 「くるくるくるくる、よく廻る運命ね。 仲間が居たくせに、独りぼっちで悲劇のヒロイン気取ってんじゃないわよ」 そう言って莉沙を睨むエクリに、櫂が「やめて」と声を上げる。 「相手は過去にありえた、あるいは明日の我が身……違う?」 フェイトがあっても地獄、無くても地獄――。 リベリスタ達は常に運命がもたらす理不尽に向き合い、自らの心とも戦わねばならないのだ。 ● 邪を退ける光で幻を消し去った遥紀が、そっと口を開いた。 「……俺も時々思うよ、リベリスタが正義の味方で居られたらと」 紅蒼の双眸は、莉沙を真っ直ぐに見ている。 「沢山の、沢山の人を殺したよ。小さな子を持つ優しい父親も、幼い少年も、他にも沢山。 世界の為、だから何だ――其れは、免罪符じゃない」 天使の歌で仲間達の傷を癒した祈が、彼の後に続いた。 「私達の行いが罪のない誰かを殺め、傷つけることもあるかもしれない。 でもね。それだけではなかった筈よ。 目には見えないけれど、誰かを救い、笑顔を守る事も出来る。 それに、思い出して。本当に辛かったのは、貴女だけだったの……?」 表情を歪める莉沙に、祈はさらに言葉を重ねる。 「瞳を曇らせないで、思い出して。 貴女の思いを背負い戦っていた彼らを。今も戦い続ける仲間のことを」 動く屍と化したかつての仲間達に、莉沙が視線を動かした。 そこに彩歌が気糸を伸ばし、莉沙のスピードを再び殺していく。 人の声とも思えぬ咆哮を響かせるE・アンデッドに、エクリが神秘の閃光弾を投擲した。 味方を巻き込むのを避けるため、どうしても狙いは一体ずつになってしまうが、それでも充分な成果を上げている。 三体のE・アンデッド全てが動きを止めたのを見たエクリの胸に、一つの確信が浮かんだ。 ――戦ってみて分かった。あの人達は、自分の心に負けたんだ。 依頼を受けた時から、エクリはずっと疑問に思っていた。 確かに莉沙は強力なエリューションだが、数々の仕事をこなしてきた彼らのチームでも手に負えなかったのだろうか、と。 仲間が悩んでいたことに気付けなくて、彼女が自ら命を絶つのを止められなくて。 E・フォースになった莉沙と相対して初めて、彼らは激しい後悔に苛まれたに違いない。 そして、彼らはついに、莉沙を討つことができなかったのだ――。 烏の“二四式・改”から放たれた光弾が、莉沙の近くにいたE・アンデッドを撃ち倒す。 凶運を孕んだ弾丸が至近距離から胴を抉り、続いて闇色のオーラが全身を蝕んだが、状態異常を払う遥紀と傷を癒す祈の支援を受け、烏はなおも莉沙の前に立ち続けた。 戦場の全体に視野を広げたフォルティアが、残るE・アンデッドのうち傷の深い方に駆ける。 「……君達も僕達と同じだったのにね。肩並べて闘ってみたかったな!」 くるりと回転したトンファーが、E・アンデッドの死角から顎を打った。 「こうなる未来が視えなかったのが不幸といえば不幸なのかしらね……」 両手を覆う“論理演算機甲「オルガノン」”で気糸を制御し、敵の動きを阻害し続ける彩歌が、莉沙を見て呟く。 自死してまで逃げたはずの悪夢に、今も囚われている少女。 事情を詳しく知らぬ身に、何が悪かったと言うことはできないけれど。 ――少なくとも、こんな状況を望んでたはずはないだろう。 ここが決め時と判断した櫂が、“神鷹”のトリガーを素早く絞り込む。 凄まじい速さで連射された弾丸が、残る二体のE・アンデッドを同時に沈めた。 ● E・アンデッドの全滅を確認したエクリが、すかさず遥紀を庇いに動く。 状態異常の回復と傷の癒しを両方行える遥紀は、リベリスタ達の生命線だ。彼にもしものことがあれば、戦況が傾きかねない。 「ね、僕達もさ。“お仕事”なんて割り切ってやれるわけじゃないんだよ」 莉沙との距離を詰めたフォルティアが、軽やかにトンファーを操り出しながら語りかけた。 説得が難しいとわかってはいても、言葉の旋律を紡がなければ伝えられないこともある。 「莉沙くん達みたいにフォーチュナが視てくれて。 その光景を……こうやって、僕らは目の前で見てる――」 『だからなに!? それであなたは平気だっていうの!? こんなものを見ても……っ!!』 運命の残酷を余すところなく映した幻が部屋を覆い尽くし、リベリスタ達の心をかき乱す。 直後、膨れ上がるように放たれた闇色のオーラが、槍の鋭さで襲い掛かった。 胸を貫かれたエインシャントが倒れ、肩口に直撃を受けたフォルティアも膝を突く。 何が何でも、ここで負けるわけにはいかない。 自らの運命を手繰り寄せ、フォルティアは再び立ち上がる。 「それでも、目をそむけたくても。これ以上放っておけないから。 ……残された人は辛いかもしれないけど、 それ以上の悲しみの連鎖で悲しい音で満ちるのは嫌いだから」 莉沙を見つめる彼女の瞳は、一点の曇りもない。 『どうして……どうして、まだそんな目ができるのよ……っ』 エクリに庇われた遥紀が、神聖なる光を輝かせて仲間達の心を幻から引き戻す。 彩歌に射線を遮られて闇色のオーラから逃れた祈もまた、安らぎに満ちた癒しの福音を響かせた。 素早く態勢を立て直したリベリスタ達は、互いに連携して莉沙を攻撃する。彩歌がオーラの糸を巧みに操って莉沙のスピードを殺すと、櫂がそこに銃弾を叩き込んだ。 相手は三人の革醒者を屠ったE・フォース。数で勝っていても、油断はできない。 烏が散弾で莉沙の膝を撃ち抜き、彼女の全身を揺らがせる。 思念の塊である莉沙はそれでも転びはしなかったが、彼女が追い詰められつつあるのは確かだった。 『私は……私は認めない……世界が、世界が何だっていうの!? そのために人を犠牲にして、何が世界を守るよ……笑わせないで!』 形振り構わず泣き叫びながら、莉沙は自分が視た未来を幻として放ち、闇色のオーラを撒き散らす。 だが、それでもリベリスタ達の心は一向に折れない。 遥紀を庇い続けるエクリが、運命を燃やして自らの全身を支える。 莉沙の仲間達がやり残した仕事は、自分が果たすと決めていた。 赤い瞳に決意をこめて、エクリは莉沙を見据える。 「――世界を守るとか大仰なこと言っても、やることは人殺し。 仲間と群れて“仕事”と割り切って、自分達から切り離さなきゃやってけない。 彼らだって、そんな弱さを抱えながら理不尽と戦ってた。 あなたも仲間に弱音くらい吐けば良かったのよ」 『……っ』 邪を払う光をもって全員の状態異常を消し去った遥紀が、そこに声を重ねた。 「君の絶望は痛みに向き合った証。頑張った、苦しかったね」 莉沙から目を逸らすことなく、彼は言葉を紡いでいく。 「……でもさ、 実際に手を掛け、君を護れず、世界の脅威となった君と向き合った君の仲間の絶望は、 俺達が背負う物よりもっと重く、哀しかったろうね――」 『やめて! そんなことが聞きたいんじゃないッ!!』 莉沙の悲鳴を聞き、フォルティアはこれ以上の言葉は無意味と悟る。 ならば、せめて―― 彼女が生きた証を。“莉沙”という少女の、生命の楽譜を。 それを“聞く”ために、フォルティアはトンファーを振るう。 まだ傷が深い彼女の身を、祈が奏でる天使の歌が包み込み、優しく癒した。 「莉沙、見えてる? これが……リベリスタの戦いよ」 “神鷹”を構える櫂が、莉沙に語りかける。 戦いはクールに、想いは真摯に―― 同じ孤独を知る者として、行動で示すことが莉沙に対する精一杯の餞(はなむけ)。 銃弾が、莉沙の胸を正確に貫く。 穿たれた傷に、烏が“二四式・改”の銃口を突き入れ、即座に引き金を絞った。 「この一撃では仕留めるに『足らず』、だが致命の一撃にはなっただろうよ」 至近距離で散弾を撃ち込まれた莉沙が、ぐらりと揺らぐ。 彩歌が、そこに止めの一糸を放った。 「未来と言うのは、『未だ来てない』から未来って言うのよ」 莉沙が視た未来は、本当に変えようのない最悪の結末しかなかったのだろうか? 少なくとも、彩歌はフォーチュナ達が視た未来を少しでも良い方向に導けるよう行動してきたし、これからもそうありたいと思っている。 「たとえ崩界に関わらない悪夢だろうと、仲間に伝えられれば良かったのにね」 煌く軌跡を残す気糸が、莉沙の苦しみに幕を引いた。 ● 消え逝こうとする莉沙の思念に、フォルティアがそっと手を伸ばす。 「ねえ、最後に聞かせて。莉沙くんの紡いできた、音を」 聞こえてきたのは、莉沙と仲間達が奏でた交響曲――リベリスタ組織としての名前。 四人は、自らを『ホープ(希望)』と名乗り、活動を続けていた。 この世界を、守るために――。 莉沙の消滅を見届けた後、遥紀が弔歌を亡き四人へと捧げる。 どうか、これ以上傷つかぬようにと、祈りを込めて。 ――我が翼を賭し、其の魂導こう。罪も、穢れも、怨嗟も、全て置いて……お眠り、愛し子達。 莉沙が消えていった空中を眺めながら、祈が口を開く。 「……私達の声は、傷ついたあの子にちゃんと届いたのかしら、ね」 悪夢に囚われ続けた莉沙が救われたかどうかは、わからない。 でも、彼女は今度こそ、辛いものを視ることなく眠ることができる。 それだけは、確かだ。 エクリが、かつて莉沙たちの居場所であったこの部屋をゆっくりと見渡す。 二度に渡る戦闘で荒れてはいたが、隅に残された私物が、ありし日の四人の姿を思わせた。 黙ってそれを眺めていた櫂が、アーク本部にいる数史に連絡を入れる。 死者の弔いを依頼すると、黒翼のフォーチュナは『わかった、こちらで手配しておく。任せてくれ』と迷わず答えた。 「人間、何も知らないのが一番幸せなのかしらね。 自分の未来くらいは自分で決めたいと願っているけれど」 彩歌の言葉を聞き、烏が紫煙をくゆらせながら口を開く。 「残酷なる未来……それが当たり前だとしか思えねぇんだがな、正直よ」 生きるってのはそんなもんだぜ――。 そう言って、彼は静かに両手を合わせた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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