● 『 へ へ の の も △ 』 (ぬぬー……んっ) 歓楽街より溢れる輝きを忌避するように、うらぶれた路地裏に佇む雑居ビル。その中の一室で、竹園 輝夜(たけぞの かぐや)はモノトーンを基調としたデスクに突っ伏し筆を休めた。 「ねね。口元にある『△』がさ、何を表してるかわかる?」 ふてくされたようにデスクから頭を上げず、顔だけを横に向ける。 「がぁっはっは! 俺様が絶対最強だぜーッ!1!!」 輝夜の視線の先には、部屋のカラーと調和するような黒いスーツに身を包む4人の男達の姿がいた。 その中で最も大柄な男が意味不明な内容を声高らかに吼えるものの、その光景にも慣れたもの。まともに反応を見せる者はその場には存在しない。 「豪一郎さ~んっ、聞いてるー? へるぷー」 「……さぁ、手前には、なんとも」 さも落胆したように再度デスクにうつ伏せた輝夜から「ぎゃふんっ」と声がもれた。 スーツ姿の男達に対する界隈での呼び名は『豪4兄弟』 「……」 中でも寡黙な豪三郎は長兄に向けて含みを滲ませた視線を投げ、 「兄貴」 己が激情に達するまでの臨界が近いことを知覚した豪二朗は、それでも静かに長兄に言葉を託した。 「御嬢、若頭の命令は分かってますね?」 兄弟たちを手で制し、豪一郎は輝夜に問う。 「むむっ。そのために脅迫状を描いてるの にっ!」 色鮮やかなデコレーションが施された淡緑色の封筒には、かろうじて読み取れる『きょーはくじょー』の文字。確認を求めるように手渡されたそれに、豪一郎に苦く、口元を歪めた。 ――ガシャア! 「煩わしいんだこの糞アマがァ!」 豪二朗が床面に叩きつけたボトルの破裂音により、室内は水を打ったような静寂に包まれる。 だが、 「がぁっはっは! さッすが豪二朗兄貴も絶対最強だぜーッ!!!」 雰囲気を察する思考力さえ乏しい豪四郎が居ては、それが長く続く道理もない。 「豪二朗、少し」 表へ出ろ、と顎で扉を指す長兄。 「……、チッ」 それでも僅かに冷静さを取り戻したのか、豪二朗は促されるまま、部屋を辞した長兄を追う。 雑居ビルの非常階段。その手すりに体重を預け、夜の街に言葉を投げるように豪一郎は唇を動かした。 「気持ちは察するが、な。これも命令の内だ」 「上からの命令とは言え……あんな奴の下につけられるなんて」 煙草を銜えた豪一郎に、手を風よけの形にした豪二朗がライターで火を点ける。 その様子は、兄弟であれ立場が対等ではないことを表していた。 「豪二朗、知っているか? 彼女の父親は若頭の弾除けとなって殉職したそうだ」 「……それが、どうした」 吐いた煙は暗い夜空を白く塗り、霧散する。 「そんな父の意志を継ぐ御嬢さんだ。『リべリスタの攻撃から我ら兄弟を庇い殉職した』と報告すれば、上も納得するとは思わないか?」 その口元に再び煙草が戻されることはない。 兄弟の表情に浮かぶ陰影が、歪んだ。 ●ブリーフィングルーム 「マスコットキャラの座は譲らないし」 無表情を崩さず、開口一番そう切り出したのは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001) 彼女が語りの結びで『し』を用いるのは珍しい。何か、心を揺さぶられる出来事でもあったのだろうか。 「アークのマスコットキャラクターはうさぎ。モルでも、へのへのなんとかでもない」 まるでそれがアークの総意であることを確認するようにリべリスタに向け「だよね?」と視線を送るイヴ。その手には『きょーはくじょー』と書かれた淡緑色の封筒が握りしめられていた。 「カレイドシステムが事件を感知したのとほぼ同時に、脅迫状が送られてきた」 手渡された封筒は既に開封されている。中を確かめれば、 「(前略)へのへのさんを静岡組織のマスコットキャラクター化しなきゃダメ、絶対! モルとかうめももとか話にならんっっ。それと私が人質にとられてへるぷーっなので身代金お願いね。あと(後略)」 なるほど。この小学生が書いたような内容を、脅迫状として真剣に書いている姿を想像すれば頭も痛くなるというものだ。 「皆が怒るのもわかる。アークの正当マスコットキャラクターに相応しいのは、うさぎ。それを無視して話を進めようとすることは許されない」 そんなことで怒っているのはイヴさんだけです。 ――だが、多少の違和感は覚える。『モル』や『うめもも』という単語は機密情報ではないとはいえ、アーク外部の者であれば知る由もない名称のはずだ。 「脅迫状の送り主、竹園 輝夜はフォーチュナ。彼女はその力でアークの情報を感知している」 フォーチュナ、探査系の超能力を持つ者はそう呼ばれる。だが、アークの虎の子『万華鏡(カレイド・システム)』の力を借りずに得られる情報は、断片的なものではないのだろうか。 それには眼前のフォーチュナの少女が、首肯で肯定した。 「うん。輝夜の力は、アークのフォーチュナに比べて限定的。具体的には、皆の相談の様子を少しの期間だけ監視されると思っていい」 相談とはチーム単位での情報を共有を可能とし、齟齬なく集団行動を行うための手段としても有効だ。それが一定期間制限を受けるというのは、うまい話ではないのだろう。 だが、監視されるタイミングに合わせてうまく偽りの情報を流せば、敵を誤誘導することも可能ではないのだろうか。 「脅迫状には複数の施設の爆破予告が書いてある。敵は最もリべリスタの集まる予定の少ないところに爆弾を仕掛ける」 だが、手紙によれば『私が人質にとられてへるぷー』等とも書いてある。これは施設の爆破以外にも、別の事件が起きることを示唆しているのではないか。 それにはイヴが「少し、気になることがある」と一度言葉を置き、 「カレイドシステムが感知した事件は一つの施設の爆破と、別の場所で行われる一人の少女の殺人事件。 殺害される被害者は件のフォーチュナ、竹園 輝夜」 何故――、主犯格であるはずの彼女の名前が、挙がるのか。 「今回の依頼は、ううん、」 イヴはかぶりを振り、 「今回、フィクサードが何を考えているかは分からないけど」 見れば、無表情を保ってはいるもののイヴの足元はふらつき、おぼつかない。それが、今ここに立つより先に立て続けに行ったであろう『重労働』を思わせた。 「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」 それでもなお懸命に言葉を紡ごうとするイヴを、リべリスタの手が柔らかく制する。 現時点で、これ以上の情報は得られないだろう。けれど、すでに十分だった。 リべリスタは『きょーはくじょー』に視線を落とす。その文面からは緊張感の欠片も見当たらない。 ……それにしても。 末尾に描かれたコレの存在自体、いったい何を意味するのだろうか。 『 へ へ の の も △ ←これ、な~んだ?』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:みみみ聶 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月31日(火)23:28 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|