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<相模の蝮>へのへのもふじ


『 へ へ
  の の
   も
   △  』

(ぬぬー……んっ)
 歓楽街より溢れる輝きを忌避するように、うらぶれた路地裏に佇む雑居ビル。その中の一室で、竹園 輝夜(たけぞの かぐや)はモノトーンを基調としたデスクに突っ伏し筆を休めた。
「ねね。口元にある『△』がさ、何を表してるかわかる?」
 ふてくされたようにデスクから頭を上げず、顔だけを横に向ける。
「がぁっはっは! 俺様が絶対最強だぜーッ!1!!」
 輝夜の視線の先には、部屋のカラーと調和するような黒いスーツに身を包む4人の男達の姿がいた。
 その中で最も大柄な男が意味不明な内容を声高らかに吼えるものの、その光景にも慣れたもの。まともに反応を見せる者はその場には存在しない。
「豪一郎さ~んっ、聞いてるー? へるぷー」
「……さぁ、手前には、なんとも」
 さも落胆したように再度デスクにうつ伏せた輝夜から「ぎゃふんっ」と声がもれた。
 スーツ姿の男達に対する界隈での呼び名は『豪4兄弟』
「……」
 中でも寡黙な豪三郎は長兄に向けて含みを滲ませた視線を投げ、
「兄貴」
 己が激情に達するまでの臨界が近いことを知覚した豪二朗は、それでも静かに長兄に言葉を託した。
「御嬢、若頭の命令は分かってますね?」
 兄弟たちを手で制し、豪一郎は輝夜に問う。
「むむっ。そのために脅迫状を描いてるの にっ!」
 色鮮やかなデコレーションが施された淡緑色の封筒には、かろうじて読み取れる『きょーはくじょー』の文字。確認を求めるように手渡されたそれに、豪一郎に苦く、口元を歪めた。

 ――ガシャア!

「煩わしいんだこの糞アマがァ!」
 豪二朗が床面に叩きつけたボトルの破裂音により、室内は水を打ったような静寂に包まれる。
 だが、
「がぁっはっは! さッすが豪二朗兄貴も絶対最強だぜーッ!!!」
 雰囲気を察する思考力さえ乏しい豪四郎が居ては、それが長く続く道理もない。
「豪二朗、少し」
 表へ出ろ、と顎で扉を指す長兄。
「……、チッ」
 それでも僅かに冷静さを取り戻したのか、豪二朗は促されるまま、部屋を辞した長兄を追う。

 雑居ビルの非常階段。その手すりに体重を預け、夜の街に言葉を投げるように豪一郎は唇を動かした。
「気持ちは察するが、な。これも命令の内だ」
「上からの命令とは言え……あんな奴の下につけられるなんて」
 煙草を銜えた豪一郎に、手を風よけの形にした豪二朗がライターで火を点ける。
 その様子は、兄弟であれ立場が対等ではないことを表していた。
「豪二朗、知っているか? 彼女の父親は若頭の弾除けとなって殉職したそうだ」
「……それが、どうした」
 吐いた煙は暗い夜空を白く塗り、霧散する。
「そんな父の意志を継ぐ御嬢さんだ。『リべリスタの攻撃から我ら兄弟を庇い殉職した』と報告すれば、上も納得するとは思わないか?」
 その口元に再び煙草が戻されることはない。
 兄弟の表情に浮かぶ陰影が、歪んだ。


●ブリーフィングルーム
「マスコットキャラの座は譲らないし」
 無表情を崩さず、開口一番そう切り出したのは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)
 彼女が語りの結びで『し』を用いるのは珍しい。何か、心を揺さぶられる出来事でもあったのだろうか。
「アークのマスコットキャラクターはうさぎ。モルでも、へのへのなんとかでもない」
 まるでそれがアークの総意であることを確認するようにリべリスタに向け「だよね?」と視線を送るイヴ。その手には『きょーはくじょー』と書かれた淡緑色の封筒が握りしめられていた。
「カレイドシステムが事件を感知したのとほぼ同時に、脅迫状が送られてきた」
 手渡された封筒は既に開封されている。中を確かめれば、

「(前略)へのへのさんを静岡組織のマスコットキャラクター化しなきゃダメ、絶対! モルとかうめももとか話にならんっっ。それと私が人質にとられてへるぷーっなので身代金お願いね。あと(後略)」
 
 なるほど。この小学生が書いたような内容を、脅迫状として真剣に書いている姿を想像すれば頭も痛くなるというものだ。
「皆が怒るのもわかる。アークの正当マスコットキャラクターに相応しいのは、うさぎ。それを無視して話を進めようとすることは許されない」
 そんなことで怒っているのはイヴさんだけです。
 ――だが、多少の違和感は覚える。『モル』や『うめもも』という単語は機密情報ではないとはいえ、アーク外部の者であれば知る由もない名称のはずだ。
「脅迫状の送り主、竹園 輝夜はフォーチュナ。彼女はその力でアークの情報を感知している」
 フォーチュナ、探査系の超能力を持つ者はそう呼ばれる。だが、アークの虎の子『万華鏡(カレイド・システム)』の力を借りずに得られる情報は、断片的なものではないのだろうか。
 それには眼前のフォーチュナの少女が、首肯で肯定した。
「うん。輝夜の力は、アークのフォーチュナに比べて限定的。具体的には、皆の相談の様子を少しの期間だけ監視されると思っていい」
 相談とはチーム単位での情報を共有を可能とし、齟齬なく集団行動を行うための手段としても有効だ。それが一定期間制限を受けるというのは、うまい話ではないのだろう。
 だが、監視されるタイミングに合わせてうまく偽りの情報を流せば、敵を誤誘導することも可能ではないのだろうか。
「脅迫状には複数の施設の爆破予告が書いてある。敵は最もリべリスタの集まる予定の少ないところに爆弾を仕掛ける」
 だが、手紙によれば『私が人質にとられてへるぷー』等とも書いてある。これは施設の爆破以外にも、別の事件が起きることを示唆しているのではないか。
 それにはイヴが「少し、気になることがある」と一度言葉を置き、
「カレイドシステムが感知した事件は一つの施設の爆破と、別の場所で行われる一人の少女の殺人事件。
 殺害される被害者は件のフォーチュナ、竹園 輝夜」
 何故――、主犯格であるはずの彼女の名前が、挙がるのか。
「今回の依頼は、ううん、」
 イヴはかぶりを振り、
「今回、フィクサードが何を考えているかは分からないけど」
 見れば、無表情を保ってはいるもののイヴの足元はふらつき、おぼつかない。それが、今ここに立つより先に立て続けに行ったであろう『重労働』を思わせた。
「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」
 それでもなお懸命に言葉を紡ごうとするイヴを、リべリスタの手が柔らかく制する。
 現時点で、これ以上の情報は得られないだろう。けれど、すでに十分だった。
 リべリスタは『きょーはくじょー』に視線を落とす。その文面からは緊張感の欠片も見当たらない。

 ……それにしても。
 末尾に描かれたコレの存在自体、いったい何を意味するのだろうか。

『 へ へ
  の の
   も
   △ ←これ、な~んだ?』



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:みみみ聶  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月31日(火)23:28
みみみ聶です。

※特別ルール
 敵側に存在するフォーチュナの影響で、この依頼の相談卓の内容は一定期間敵側に筒抜け状態となります。
 相手フォーチュナが相談卓を視る期間は2011年05月19日(木)08:30~相談期間終了時まで。 伝わったリべリスタの相談内容を指針として敵は作戦を練ってきます。
 期間中の相談内容も一部プレイングとして採用させていただく場合もありますが、敵側に見落としがまったくないというわけでもありません。

 相談は義務ではありません。また、何より相談卓とは個人の発言の自由が尊重されるべき場でもあると私は考えています。依頼への熱意が仲間への『強要』と発展しないよう、ご協力をお願い申し上げます。

●達成目標:施設爆発の阻止

●戦場
 路地裏:十字路の中心に配置された竹園 輝夜を囲むように、豪一郎、豪二朗、豪三郎が初めから存在しています。交差する中心以外の路面横を沿うように、壁となる建物が存在します。
 駅or学校or商店街:爆破予告のあった3か所です。リべリスタの集結が最も少ないと思われる場所に豪四郎が爆弾を仕掛けに行きます。学校のみ広い校庭が存在します。

 時刻は夜。月明かりはありますが空は暗く、上空の視認は困難となります。
 爆発時間と輝夜死亡時刻はほぼ同時です。豪四郎への待ち伏せが成功した場合、戦闘は路地裏より若干早く開始されます。路地裏と爆破予告場所の往来は目安として、飛行能力を持つものであれば片道4ターンほどの距離です。

●登場人物、他
 竹園 輝夜(たけぞの かぐや):フォーチュナ。これまでリべリスタともフィクサードとも分類できない立ち位置でした。今回はフィクサード陣営に与するため、生死を問いません。
 戦場人質を演じていますが、実際には自力で脱出できるほどに緩い拘束です。静岡のリべリスタ組織であるアークは自身の芸術性を理解してくれるのではないかと期待を抱いています。
 今回は『フィクサードに人質を取られた時のリべリスタの反応』を見るための作戦と認識しており、爆発物に関連した作戦内容は知りません。一般人に迷惑のかかる手法をひどく嫌い、それが伝われば今後二度とフィクサードに力を貸すことはありません。
 リべリスタ側とフィクサード側を秤にかける好感度があり、より好感度の高い陣営の説得ほど効果は高くなります。

 豪一郎(ごういちろう):ずる賢いタイプです。リべリスタが目に見える説得を行えば、その説得内容を無効化する内容で説得し返します。
 豪次郎(ごうじろう) :頭に血が上りやすいタイプです。自身が一定以上のダメージを負えば問答無用で人質を攻撃します。
 豪三郎(ごうさぶろう):寡黙です。『ジャミング』を展開しています。

 上記兄弟共通:メタルフレーム、見たことのないジョブです。耐久力が一定以下になれば撤退します。
 兄弟の内一人以上が撤退した後、輝夜に銃を向け人質として扱います。
 リべリスタの集結人数に関わらず、開幕前までは周囲を警戒していますが、あらかじめ伝えられたリべリスタ戦力が出揃えば、認識した敵のみに警戒を限定します。
 想定外のアクシデントに弱く、大きく心が乱されれば目に見えるリアクションが生まれ、戦闘行動へのペナルティが発生します。大きなペナルティであれば、戦闘能力を持たない者にすら攻撃が命中しないほどの弱体化も可能です。アクシデント発生から1ターン経過すれば精神を持ち直し、それ以後似た内容のアクシデントへは耐性を得ます。
 兄弟二人目からの撤退の際に、輝夜に向けて発砲します。

 豪四郎(ごうしろう) :メタルフレーム、見たこともないジョブです。拳のみで戦い、耐久力が一定値以下になればリべリスタを強敵(とも)と認め、可能な範囲で協力を行います。
 作戦内容のほとんどを忘れていますが、爆弾の設置はかろうじて成功します。が、設置場所と解除方法はすぐに忘れます。
 拳(装制:[格闘])のみで戦うリべリスタを比較的早い段階で強敵と認めます。

 用心棒A:ジーニアス、見たこともない職です。事前の段階で『リべリスタの動向が不明瞭or優秀なリべリスタが8人以上揃っている可能性があるor相談内容からあからさまな違和感を感じた』場合、兄弟に雇われ指定された戦場に現れる場合があります。
 用心棒B:同上。

 爆弾:携帯性に優れ、威力も高いです。その危険性を豪四郎以外の兄弟はよく知っています。

 謎の多い依頼です。プレイングで触れていただけた内容については、表現できる範囲で可能な限り回答を提供できるように努めます。
 それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
★MVP
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
ホーリーメイガス
李・灰蝠(BNE001880)
覇界闘士
呼子・ヴァナラ・爬沼庵(BNE001985)
プロアデプト
堡刀・得伍(BNE002087)
ナイトクリーク
夕立・梟(BNE002116)
プロアデプト
七星 卯月(BNE002313)


『私としてはこれは日本を象徴するぐらいの、素晴らしい完成度を誇るマスコットだと思うのだ』
 それは竹園 輝夜がフォーチュナの力により視た、ブリーフィングルームでのリべリスタの発言だった。
「へのへのさんは日本を象徴するマスコットだと思うのだ」
 整然とモノトーンのデスクが並べられた一室。
 光沢を放つブラックスーツに身を包む男達を前に輝夜は喜色もあらわに胸を張り、主観を交えてリべリスタ達の相談内容を伝えていた。
『制限のキツい文字絵に「静岡の象徴」を入れるだなんて洒落たことをしてくれるわね。
 ニつ
 ハる
 ◯◯
 ム
 し  さんもビックリだわ』(ビフォー:リべリスタの発言)
「洒落た二つハるもへのへのさんにビックリだわ」(アフター:輝夜の解釈)
「……」
 豪三郎は諦観を乗せた視線を長兄に向ける。
「御嬢。リべリスタの奴らはどうでした」
 それに輝夜は「ふっ」と鼻を鳴らし、
「違いの分かる組織、アーク。優れた審美眼をもってるわ」

『富士山、へのへのもへじ、静岡。見事なものでございますね……。自分は、かぐや姫繋がりかと思ってでございました』
 敵フォーチュナの監視中に放った言葉を『夜闇逢魔を狙う猛禽』夕立・梟(ID:BNE002116)は胸の内で反芻した。
 音さえ立てずに踏み出せば、歓楽街より溢れる喧噪が一歩遠のく。
(すでに貴方たちは梟の懐の内でございます)
 フィクサード陣営に属する輝夜はその探索系能力を行使しこちらの相談の様子を監視したのだという。
 されどその用途は『万華鏡(カレイド・システム)』有するアークのフォーチュナに比べれば限定される。
 事前に『監視』の期間を知り得たリべリスタにとって、それは偽の作戦を伝える工作の場を与えられたことにすら同義であった。
「ワタクシにしてみればフィクサードを倒せれば十分でゴザイマスガ、何かしらを救うことになるならば、それは素敵なことでゴザイマショウ!」
 曲線を描くように突き出た鼻下がチャーミング。『イービル・ジョー』呼子・ヴァナラ・爬沼庵(ID:BNE001985)
「うふふふ……! みんなかわいーし、アタシ好みの良いカラダなコもいるし♪ うきうきゾクゾクしちゃうね! きゃっ///」
 居合わせる中での最年長を思わせない陽気さを振りまく可愛いおっちゃん『肉恋い蝙蝠』李・灰蝠(ID:BNE001880)
「今回のミッションは非常に難易度が高いけど、君達とならこなせる。気を引き締めて行こう」
 理路整然としたフェイクの作戦内容。それを輝夜に掴ませた殊勲を知る者はなく、謳われることもない。『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(ID:BNE002313)
(大きく動きそうだけど、まずは目の前の仕事を確実に――)
 銃把を握れば、心の在り様が凶手のそれに切り替わるのを感じる。
 しかし、今宵『BlessOfFireArm』エナーシア・ガトリング(BNE000422)の主眼はカレイド・システムが感知した殺人事件の被害者、竹園 輝夜の救出。やがてエナーシアは銃を収めた。
(――根性的に三下な連中から、お姫様救出と参りましょうか)


『駅と商店街は、どちらも爆破された時の被害が大きいな』
 それは敵フォーチュナ、輝夜に視せた偽の作戦だった。
 あえて警戒の手薄な場所を作り出すことで、爆発物を所持するフィクサードをこの場へと誘導しこれを待ち伏せる手筈。
 暗雲湛える夜の海の下、雲のベールの先へ響かせるように『鉄心の救済者』不動峰 杏樹(BNE000062) は祈りを捧げる。
 寒々しいばかりの学校のグラウンド。されど金色の髪がなびくこの場はまるで、神聖な祈祷の場のようですらある。
『で、ええと、僕は駅で待ち伏せ、と。了解しました』
 先に敵フォーチュナに向けてそう宣言した『カムパネルラ』 堡刀・得伍(ID:BNE002087)は今、学校へと侵入し自身の感覚を警備システムに滑り込ませ、これを掌握していた。
 突然、形容しがたい悪寒が背筋を走る。
 窓の外へと視線を転じれば、闇の中にゆらりと漆黒の影が揺れた。

「俺様が絶対最強だーッ!!」
 大地さえ揺るがす野太い咆哮。
 隠密性などは欠片もない。知性の乏しさを全力で主張したフィクサードはまっすぐに正門をよじ登り、
「がぁっはっは! きれいな姉ちゃんだ」
 悠々とグラウンド中央を闊歩し、弓を構える杏樹に屈託なく声をかけた。
「不遜な態度なんだな。フィクサードは施設の爆破くらいじゃ罪の意識を持たないのか」
「んん? なに言ってるかわからん。じゃあなッ!」
 そうして、杏樹の傍らをそのまま通り過ぎ背を向けた。
 バシュッ。
「ギャーーーッ!1!!」
 放たれた鏃はだが殺傷を目的とはせず、豪四郎の耳朶に鋭い風切り音を残し擦過したのみ。
 仮に攻撃が直撃すれば即座に戦闘へと突入し、的外れな場所に着弾したところでこの豪放な男は意に返すことさえしなかっただろう。
 フィクサード待ち伏せのために散った仲間と合流する時間を稼ぎ、この巨躯な男の歩みを止めたことは、針穴にさえ通すような正確さを誇る杏樹の一撃が可能とした芸当といえた。

「ういっす爆弾抱えてご機嫌麗しゅう」
『残念イケメンヴァンパイア』御厨・夏栖斗(ID:BNE000004)はトンファーで肩を叩く。それはこの好戦的な無頼漢に対する正しい礼式であった。
「いいなぁ、お前。拳が疼くッ」
 豪四郎は破顔し、血気にはやるよう夏栖斗に正対する。
「んじゃま、正義のミカタとしては爆弾止めたいわけで。それよりもお前とやりあってみたい、どうよ?」
「がぁっはっは! 応ッ! だが悪いな、爆弾とかは知らん」
 その言葉に夏栖斗は不可解といった含みを滲ませ、先よりこの場に居合わせた杏樹に視線を向ける。
「恍けたわけでもないようだ」
 射抜くような眼光は豪四郎から外さぬまま、杏樹はそう結論付けた。
 豪四郎がこの場にいることからも、敵は爆破目標をこの学校に定めたことに相違あるまい。
 だが眼前にいる豪四郎は血に餓えた野獣のように目を爛々と輝かせ、戦い以外は眼中に無いといった風ですらある。やがて、これ以上の問答は無用とでもいうように豪四朗は構えをとり、戦闘態勢へと移行した。
「わかった、やろうぜ」
 情報を引き出すとしたらまずはその荒ぶる闘争心を満たす必要があるだろう。
「支えが必要なら言うといい」
 豪四郎に向け拳を突き出した夏栖斗の背中に、杏樹の祈りが凛と響いた。

「フィクサード豪四郎、勝負を所望します!」
 堡刀・得伍は挑発するように指を伸ばす。
 そして、その先の光景にごくりと喉を鳴らした。

 二つの拳が激突し相克し合う度、余波で砂塵が巻き起こる。
 夏栖斗の蹴撃が生む大気の奔流が咆哮を上げれば、剛腕が繰り出す衝撃は、防いだ夏栖斗の足を突き抜け踏みしめる大地を穿つ。
「久しい充足感だ! なぁ、強敵(とも)よォッ!!」
「……ッ! ……ああ、ダチ公!」

 眼前で繰り広げられる攻防を前に堡刀・得伍は、
「……ああ、いえ、僕ではなく彼がですけど」
 そっと、指さす先を夏栖斗に転じた。

 堅牢な揺るぎない巨躯に対し、次第に夏栖斗は傷痍を増していく。それでも精悍な眼差しは輝きを失うことなく、真っ直ぐに豪四郎を見据える。
 いつしか、豪四朗は夏栖斗を強敵(とも)と呼んでいた。
「がぁっはっはーッ! なぁ強敵よ、俺達の兄弟にならんか?」
「豪四郎、お前の拳真っ直ぐで、スゲー好きだ。一緒に戦いたい」
 その言葉に、巨躯は喜悦も露わに摩耗したスーツを躍らせる。体躯に創痍は届かねど、その身の覆いはひどく傷んでいた。
「なあ、アークにこいよ」
「がぁっはっは……、っは??」
 その意味の理解に至るまでに、しばらくの間があった。
「……」
 そして初めて、豪四郎の表情から色が消える。
「俺が地に伏せた後に、もう一度聞こう」
 豪四郎は自身のスーツをかなぐり捨てる。男の纏う気風が、変わった。

 胸騒ぎがした。
 得伍は導かれたように脱ぎ捨てられたブラックスーツへと視線を転じる。
 案の定というべきか、あからさまな違和感で膨らんでいた。
『ついたら よめ』
 得伍がスーツを拾い上げ内ポケットを確認すれば、要点のみが明瞭に記載された取扱い書と、それに不似合いな威圧を放つ重厚な箱が収められていた。
『つくまで あけるな』
「……」
 かぱっ。箱を開けてみた。
 得伍は爆弾を手に入れた。


「やあ、初めまして。アークのリベリスタだ」
 歓楽街の喧噪さえ届かぬ路地裏。明滅する街灯に照らしだされてリべリスタの姿が浮かび上がる。
「……」
 事前にフォーチュナが告げた人質救出にあたる人数と眼前の者達と照らし合わせ、豪三郎は黙然とそれが一致することを認めた。
「へのへののとんち、おもしろうゴザイマシタ。新作が拝見したく存じますので、オタスケシマスデショウ!」
 呼子の力強い言葉に、十字路中心で人質を演じる輝夜の表情に喜色が浮かぶ。それはまるで救出よりも『きょーはくじょー』に描いたマスコットを褒められたことが嬉しい。といった風な瞳の輝きであった。
「その娘を解放したまえ。君達の目的は、私達アークに関係する事だろう。金銭目的ならば誘拐という手段を用いる必要はないし、仮に誘拐するとしても有名会社社長の家族の方が効率的だ。違うかな?」
 七星 卯月の言葉に、輝夜を囲むように立つ豪兄弟は憮然と返す。
「さて、な」
「ア? 身代金の用意はありません、ってか?」
 実のところ、七星 卯月の指摘は正鵠を得ている。
 されど豪兄弟は輝夜がもたらした信託と、人質という二つの優位性を有しているために大様な構えを崩すことはない。
「爆破をカレイド・システムで検知したわよ」
「……チッ」
 エナーシアの言葉に豪次郎は憤りも露わに舌を打つ。だがそれを長兄は視線で律し、
「何分世情は物騒でね。大方我々の関与しない事件でも感知したのだろう」
 豪一郎は『相模の蝮』に関与する同時多発的な活動を認知している。例え爆破が成功しようとそれは豪兄弟のあずかり知らぬ事と通すだろう。

 ここにきてフィクサードの警戒は北へと向いた。
 その意識の外から忍び寄る気配に気付く様子はまるでない。
 十字路南側。そこには闇に同化するように蠢く二つの影があった。
「さて、かぐや姫を救いに参るといたしましょう」
 闇さえ見通すそれは正にフクロウの目。夕立・梟の視線の先には嗜虐を思わせる歪みが豪次郎の顔に浮かぶ。
「ふふ、お姫さまを手荒に扱っちゃーだめアルよねぇ♪ ……ひっ」
 フィクサードの姿を垣間見ればその足元には光沢を放つ黒いエナメル靴。灰蝠はヤクザに追われた記憶に蓋をするように視線を逸らした。
(アイヤー。でも梟ちゃんがきっと上手いコト輝夜ちゃんげっちゅー! してくれるね♪ ……でなきゃおっちゃん泣いちゃうっ)
 そうして、何事もなかったように心酔するような視線を呼子に送った。

「相模の蝮って大物が絵を描いているって噂だけど?」
「……ッ!」
 その眼光は豪兄弟の背後にいる蝮原 咬兵を見据えている。射抜くような視線に底冷えしたように豪三郎は後ずさった。
「だったらンだってンだァ!」
 対照的に豪次郎の語調が高ぶる。
 だがエナーシアは臆した様子もない。それは豪次郎にとって『貴方達は末端の小物』と侮蔑されたことに同義であった。
「糞アマがァッ!」
 豪次郎は癇癪起こし懐から短銃を取り出す。

 ――ヂュインッ!!

「ガッッ!」
 だが、その苦い声は豪次郎の口から漏れた。
「……まったく、益体もないわね」
 衝撃に弾かれた短銃は無様な円を描き足元に落ちる。 
 我が目を疑う虚ろの眼差しで、豪次郎は軽くなった手元を眺めた。

 眼前で起きたその光景。
 照準向けることさえ許さず銃身を撃った精密な銃撃は、男の脳裏に沈殿する一つの記憶を呼び覚ました。
(BlessOfFireArm『銃火器の祝福』――)
 闇に巣食う者達に響く名がある。豪一郎はそれを胸の内で反芻した。
(――エナーシア・ガトリング)

 その銃声が合図だった。
「輝夜姫は頂戴させていただきます」
 打てば響く速さで夕立・梟は駆け出す。
「……!」
 豪兄弟が反応を見せたのは、既に気配無く接近した梟が輝夜を抱きかかえた後だった。
「あーれぇ~~」
 そのお姫様抱っこを焦がれていたように輝夜は陶酔の声を上げる。
「獲物を手中に収める時まで、爪は隠すのが能ある猛禽でございますよ」
「……、ッ!」
 梟の足下から意志ある影が眼前の者を襲撃する。移動を念頭に置いた狙いの粗雑なその一撃に、だが豪三郎は為す術なく飲み込まれた。
「富士山のセンスはとても素晴らしい。素質ある君を死なせたくはない。今のうちに戦場から離れたまえ」
「糞ッ! 共がァぁッッ!」
 七星 卯月は闇の中に線状の煌きを走らせ、短刀を手に駆け出す豪次郎の行く手を阻む。
「さて、一丁戦りまショウ!」
「うふふふふ……っ! おっちゃんらぶ込めて皆を癒すアルー♪ はぁん。やっぱ近くでみる呼子ちゃんは倍率ドン! で魅力的アルよぅ♪」
 投げちゅっちゅ♪ 李・灰蝠の口唇に触れた指先は爽風を生み呼子の傷痍を取り去っていく。
「……よもや、」
 豪一郎の構えた銃口の先。輝夜を抱えたまま闇に沈むように遠ざかる梟の背中を照準に捉え、だが引き金が絞られることはない。
「これほどとはな。……撤退する」
「……ッ!」
 長兄の声に反応し、梟の放った影から抜け出た豪三郎が睨みを飛ばす。
 破裂音が起こり、それまで僅かな明かりを落としていた街灯が臨終し周囲を闇が包む。
 豪次郎のものと思われる舌打ちが鳴り、駆け出すフィクサードの足音が残響した。
「人質は救出できたのだ。深追いする必要もないのだよ」
 追撃を行えば敵は死力を尽くし抵抗するだろう。
 七星 卯月は次第に遠くなるフィクサードの靴音を、ただ静かに黙過した。
(絶対に、私の前で人を殺させはしないのだよ)


 なぜだか、耳がむず痒い。
 夏栖斗が目を覚ました時、傍らでは灰蝠が悦楽にひたるように耳に吐息を吹きかけていた。
「ステキに怪我するコがいぱいアル♪ 一人だって怪我させたまま帰すつもりはねーアルよ。きゃっ///」
 灰蝠は人実救出班として路地裏にいたはず。それがこうしてグラウンドにいる事実は、夏栖斗が長い時間気を失っていたことを意味していた。
 見上げれば先刻まで雲が覆っていた空に見事な満月が浮かんでいる。
 拳を競った豪四郎の姿はすでになく、がさつに割かれたブラックスーツの切れ端がまるで応急手当といったように掌に巻かれていた。
 手に意識を向ければ、未だ痺れが微かに残る。
 夏栖斗は満月に合わせるように手を掲げ、力強く、拳を作った。
「――ダチ公。次あったら、もっと派手にやり合おうぜ」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
みみみ聶です。

●MVP
 エナーシア・ガトリングさんの『超直観』と『エネミースキャン』の非戦スキルを併用した交渉が特に面白かったです。此度の敵はアクシデントに弱く、心が乱れれば相応の目に見えるリアクションが生まれる特徴を持っていました。言ってみればわかりやすい奴らです。効果的な内容を、より効果の得られるタイミングで突き付けていました。
 また、人質救出の交渉を極力平和的に行うスタンス、強襲班に突入の合図を出していたこともよかったです。

 参加者各位に素晴らしいプレイングが多くやりがいを頂けました。
 ご参加、誠にありがとうございます。