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【人類史上最大ノ姫君ヲ奪還セヨ!】君のためなら、死んでもいい。


「大きすぎる」
 フォーチュナー詰め所。
 今しがたの幻視を分析した『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、ふむと小首を傾げた。 
 同時に解決しなくてはならない要素が多すぎる。
 誰かに手伝ってもらわねば。
「空にそびえる鉄の城での攻城戦に興味がある人」
 そんなイヴのこの指とまれに、数多のフォーチュナーのうち、瞳をキラキラ輝かせて手を上げたのは、二人だった。


「試験的に組み込まれた制御AIが、女性型。なので、便宜上、『彼女』 今作戦の識別名『ばけたん』」
 ネーミングは私じゃないと呟くイヴが画面に映し出したものは、なに、この化け物。としか言えない機械だった。
 ぱっと見、「ぼくがかんがえたさいきょうのこうじょう」
 キャタピラの上に船が載り、その上に船の倍の長さのベルトコンベアーが尻尾のように伸び、さらに数本の強靭なアームが数本。互いを何十本ものワイヤーで支えあっている。
 そのアームの先には巨大な車輪がつき、その中にリベリスタの二、三人は入れそうなバケツが観覧車のようについている。
 つついたらこけそうな頭でっかちぶりだが。
「バケットホイールエクスカベーター。露天採掘の用いられる大型建設機械。人類史上最大の自走機械と認定されてるものもある」
 略して、BWE。
「もっとも、これは国内仕様。かなり小さい」
 あっはっは。
 だよね。こんなでっかいの日本的じゃないよね。
「全長150メートル、全高80メートルくらい」
 遠近感、狂ってる。
 それ、地面から射撃しても、上まで届かないってことじゃないですか、やだー。
「現在、E・アンデッドとE・フォースとE・エレメントの巣窟」
 なぜ。
「偶然にも地面に埋まっていたアーティファクトを掘り起こした。中に封じ込められていたエリューションがばけたんの制御AIを電脳的な意味で拉致監禁。増殖性革醒現象でエリューションが大量発生。フェイズ進行同時発生。さらに、現在も時速10キロで移動中。あまりの事態にちょっと暴れだしたい気分」
 そういうイヴは無表情。
「今回は、一度に対応すべき対象が多い上、色々デリケートな大人の事情が絡んでいる。手間を掛けることにした。三チームで対応する」
 モニターに、BWE――ばけたんの模式図が表示される。
 先端部の観覧車みたいな辺りから本体にあたる部分が青く表示される。
「ここは、メルクリィのチーム」
 さらに最上層、アーム部分が黄色く表示される。
「ここは、和泉のチーム」
 さらに本体から後ろに伸びる太い尾のような部分が、真っ赤に点滅する。 
「皆の担当は、このベルトコンベアー。任務は、今回の元凶となっているアーティファクトの封印」
 ポインタが、本体後部に当てられる。
「アーティファクト・識別名「大きな葛篭」 蓋を外すと、雑魚エリューションをだらだらだらだら無尽蔵に吐き出す。雑魚だからって安心しないで。放置すれば、増える、強くなる。しゃれにならない」
 実際、アーム部分では、掘り起こした鉱石のエリューション化が確認され、フェイズが進んだエレメントが報告されている。
 バケット部分では、しゃれにならない数が跳梁跋扈していると言うことだ。
 イヴは、無表情だ。
「さらにめんどくさいことに、この「大きな葛篭」、壊れると近くの「一番大きなもの」にとり憑く。壊れるに任せると、ばけたんが次の「大きな葛篭」になる可能性、大」
 それ、なんてホーンテッド。
「由々しき事態」
 はい。
「今、アーティファクトはベルトコンベアーの上を、エリューションを無尽蔵にぶちまけながら進行中」
 進行方向から逆の方向に飛ばされたりもしているようだ。
「構成要素は、籠の部分と蓋の部分。蓋をすれば、もうエリューションは出てこない」
 つまり、今、その二つは……。
「ばらばら。でも、不幸中の幸い。蓋は先遣隊が回収してきた」
 つまり、籠に専念していいんですね。
「速やかに発見して。皆がどうにかしないことには他チームが磨耗する」
 いかに早く回収するかが鍵になると言うことだ。
「このベルトコンベアー、頭上のバケットホイールが掘り出した土を後方に捨てるためのもの。後ろへ後ろへ進行している。このまま行くと、大量の土砂と一緒に、地面にぽいちょってことになる」
 イヴは、無表情だ。
「そうなった場合、事態の収拾が非常に困難になる。幸い、ベルトコンベアーの進みは非常に遅い。エリューションを吐き出し続けているので目印には事欠かない」
 ああ、それなら大丈夫そう。
「それから、コンベアーの幅は20メートル。長さは120メートル。そんなに長くないから安心して……」
 リベリスタなら大丈夫だね。
「一緒に大量の土砂や鉱石がのってるから。前とかよく見えない障害物競走。一つの障害物は二メートル四方。高さも二メートルくらい」
 いや、何のこれしき。
「管制室はエリューションに占拠されている。速度調整がでたらめにいじられて、いきなり最高速とか急減速という目に遭うかもしれない。墜ちたら、落下ダメージに現在時速10キロで動いているキャタピラに轢かれる……かもしれない」
 ははは、想定内さ。
「さらにエリューション垂れ流しで、それが襲ってくるから走ることに専念できない」
 戦いながらなんて、当たり前のことだよ。
「それから、葛篭の大きさは一メートル四方くらい。多分土砂に埋まってる。コンベアーの上は砂や土や石でごろごろ。足場としては最悪」
 そういう訳で。と、イヴはテーブルの上に苦労しながら大きなスコップを載せた。
「提供は、三高平市商工会議所」
 なし崩しに受け取ったリベリスタに、さらにイヴは言う。 
「他の二つの部隊も、手一杯。連携はまず無理。自力でがんばって。それと『BWE』は日本で非常に貴重なもの。AI制御のばけたんは色々大人の事情があるから、できるだけ傷つけないで」
 数秒黙り込んで、こう付け加えた。
「少なくとも、壊すとメルクリィが泣く」
 最後は情に訴えるとこ、女子高生マジエンジェル。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月06日(水)00:19
  田奈です。
 ばけたんかわいいよ、ばけたん。
 
 ●注意事項
 このシナリオはガンマST・ADMSTの運営する【人類史上最大ノ姫君ヲ奪還セヨ!】シナリオと連動しています。
 その為、本シナリオに参加したキャラクターは、同時に両STの運営する【人類史上最大ノ姫君ヲ奪還セヨ!】シナリオへの参加ができませんので、くれぐれもご注意下さい。

 E・エレメント「スパーキング・スプーキー」×たくさん
 *チェインライトニング、壱式迅雷、ギガクラッシュにそうとうするダメージをリベリスタに与えます。

 場所・BWE・ベルトコンベアー上
 *詳しい状況は、OPをご参照ください。
 *星空がきれいな夜です。山奥の現場です。人目は気にしないでください。
 *ばけたんに傷をつけないように。オーバーダメージは傷の素。
 
特別ルール・葛篭の動き
 *葛篭は毎ターン、八方位に10メートル移動します。
  どっちに飛ぶかは、ランダムです。 
 *射撃範囲に入ったPCは、位置が特定できます。
  近接範囲に入ったPCは、確保を試みることが出来ます。
 *上記の行動は、通常攻撃に準じます。(10メートルの移動が可能です)
 *確保に成功するには命中判定に成功する必要があります。

  ベルトコンベアーの到達したところからスタート!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
スターサジタリー
ブレス・ダブルクロス(BNE003169)
覇界闘士
ミリー・ゴールド(BNE003737)
レイザータクト
日暮 小路(BNE003778)


 人里離れた採掘試験場。
 空気がきれいな為、満天の星空を拝める。
 そして、地上にも光の海。
「デカッ! トニー・ジョーズの家より何倍も大きいわ!」
 思い出深きホームステイ先の邸宅を引き合いに出した『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)が叫んだ。
「空の天鵞絨、輝く宝石まとう姫」
『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は、その本質を言い当てる。
 最高部地上80メートル。全長150メートル。
 送迎ヘリから見えた全容は、魁偉である。
 いや、今、電気エレメントに巣食われ、全身に電光のレースをまとった状態は、「人類史上最大の姫君」の名にふさわしい。
 制御AIは少女なのだから。
 雪白 桐(BNE000185)は、夏はミニスカートを好むが、精神構造はまぎれもなく男子である。
「こういう巨大な工作機械、いえ建造物は男心をくすぐりますね。なんといいますか人はこんな物も作れるんだというような」
「とても……大きゅうございますね。孤児院の男の子とか絶対喜んじゃいます」
『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)も、感歎の声を上げる。
「素晴らしいボディだね。メタフレとしてはこんな姿に憧れちゃう♪」
『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の声が弾む。  
(私もいつか……凶悪に)
 どんな進化を遂げる気だ。
 できれば、人間の原形はとどめておいてほしい。
 アーク本部に入らないから。
「しかも動くのですよ、ぐわんぐわん巨大な音を立てながら」
 桐は、感銘を受けているらしい。
 音も大事なファクターだ。
 共鳴する金属音。エンジンの動き。噴出される蒸気の音。
 ああ、この機械生きている。
 実際問題、ここのバケットホイールエクスカベーター、識別名「ばけたん」は、時速10キロメートルで、人里離れた山奥から市街地に向けて進行を開始している。
 時速10キロをなめてはいけない。一日半で、東京から大阪までいける。
「雑魚を吐き出すアーティファクトってだけでも厄介なのに、エリューションの巣窟要塞とか何事だよ」
『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)は、徐々に光の渦がエリューションであるのを視認できるようになり、うめき友嘆きとも軽口ともつかない声を漏らす。
 雑魚を吐き出すアーティファクトのせいでエリューション要塞化したのだ。
 そして、エリューション要塞化したせいで、アーティファクト回収がひどく面倒なものになっている。
 今回は同時に三チーム同時投入だ。
「80Mもの上空で戦う翔太の為にも、最速で元凶を封じてくれる!」
 見上げる星空。のしかかるように視界いっぱいに広がった機械の腕。
 その上にわずか診見える黒い複数の人影。
 友よ。
 自分の働きが、少しでも君に助けになるように。
『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は、友情に篤い男だ。
 たった今リベリスタたちが降ろされたベルトコンベアー120メートルのどこかに、今この瞬間もエリューションを吐き出している元凶・葛篭箱の本体があるのだ。
 とはいえ、頭上はるか上から降ってくる大量の土砂で見通しはすこぶる悪い。
「とーきょーフレ――」
 おっと、そこまでだ。
『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)は何かの気配に、こほんと咳払いをした。  
 世の中には知らなくてもいいことも少しだけある。
「あたし、まさかその上を走ることになるなんて思っても見ませんでしたよ。しかもコンベア上とかありえない」
 そんなことを言ったら、上空80メートルのアームや、観覧車みたいにぐるぐる回るバケットホイールで戦闘する別チームはどうなるんだ。
「安全基準守れ、アーク。主にあたしが働かなくてもいいように守れ」
 次元の穴の向こうに革醒者送り込むのを本人達の多数決で決める組織に、安全基準など求めてはいけない。
 つうか、アークの仕事は志願制だ。
 申請書出した自分を呪いながら、がんばるといい。
「障害物競走、ミリーそういうの好きよ」
 先遣隊が確保した葛篭の蓋を背負い、更に上からたすきがけしてて固定する。
「あるべき姿でやるべき仕事をばけたんが出来るようにする為にがんばるのですよ」
 桐が、一歩踏み出した。


「優希、遅れるなんてかっこわるいの、許さないわよ」
 ルカルカは、「三高平公園前」と書かれたバス停を肩に担いだ。
 コンクリ部分でどつくのだ。
 ちなみに、購入している。
 正確に言うと、適当に引っこ抜いたのを買い取った。 
 なぜ、バス停なのか。
 それは、世界が不条理だから。
「鉄の姫君を守るとあらば、紳士となろう」
 出来うる限りの現状維持。
 優希は装備を工夫し、通常よりも攻撃力を抑制していた。
 倒すべきは、エレクトリカル・スプーキーのみ。
 ゴンゴンと響く振動が、崩れてくる砂が、瓦礫が、リベリスタの足元を揺るがす。
 しかし、三半規管を発達させた二人にとっては、どうということはない。
 砂を蹴立て、鉱石を踏み越え、襲い掛かってくるエレクトリカル・スプーキーが「どこから来るのか」見当をつけなければならない。
 優希は耳をそばだて、ルカルカは砂山の上に飛び上がり、周囲を見回す。
「ミリーさんの邪魔をする相手を排除していくのですよ」
 深海魚の名に相応しい蒼く煌く魚体の様な刃がワイヤーで繋がれた蛇腹剣が、桐の手で鞘から解き放たれる。
(ホリメである私が、翼の加護を持っていれば……)
 重心を低く保ち安定した姿勢を保とうとしているエーデルワイスや、適当な柱にくくりつけようと自分にロープの端を結び付けている小路を見て、シエルに、ふとそんな考えが浮かぶ。
すぐにわずかに首を横に振った。
(……それは違いますね……)
 もはや、ここは戦場だ。
 ないものねだりをしている場合ではない。
 そこにあるものを搾り出し、ひねり出し、使い倒す。
 そして、シエルにあるものといえば。
「私の存在意義は皆様を癒す事……その一点のみ……なれば……弱音等無用……只管……癒しに癒してみせましょう……」


 エレクトリカル・スプーキーが飛んでくる。
 ソフトボール大の発光球から、夜を焼け付かせる閃光がミリー目掛けて突進してくる。
 直撃する前に到達軌道を読み、幻が現れるほどの瞬発的動きでどうにかやり過ごしたものの掠め飛んでいったそれに、激しい痛みを覚える。
 まともには当たらなかったが、それでも薄くはない装甲の上を突き抜けてきた。
 無数とさえ思える一つ一つ。
 ミリーの肌があわ立った。
 夜空を埋め尽くす星よりも鮮明に、静寂を打ち壊す破裂音と共に、それは飛来する。
 まったくもってでたらめに。
「今ので、防御方針と、対抗攻撃方針固まったですよ」
 砂山の中を、猛然と小豆色のジャージに布団の甲羅を背負った亀――小路が突き進んでいる。
 リベリスタ達は、戦闘官僚からの防御方針と攻撃方針を相次いで受け取っていた。
 働きたくはないが、働かないといつまでもコンベアーの上で徒競走の後紐なしバンジージャンプのコンボになってしまう。
「走りながらの戦闘なんてよくある事だよ」
 かなり背の高いブレスの身の丈ほどもある自動小銃が、スプーキーのレース模様目掛けて硝煙とノズルファイアの蜂の巣模様を重ねる。
 銃剣を取り付けたそれは、今はBWEを彩るレース針のようだ。
 疾走というより駆け足で、前方のスプーキーだけを殲滅しながら、コンベアの上を進んでいく。
「俺の早さだと、中衛ポジションに落ち着くか?」
 前方に目を凝らすと、ピンクの羊が急に視界から消えた。

 消えたピンク羊ソミラ――ルカルカは、砂にまみれていた。
 眉をしかめ、ペッペッと砂を吐き出す。
 耳をピルピルさせながら一言。
「よごれちゃったじゃない」
 理不尽。と、続けようとしたとき、スピーキーが群れているところが目に入った。
 上から崩れてくる砂山にうずまりかけている、けれど、まぶしい巨大な発光体。
「みつけ、た。見つけたのよ!」
 大声で、全員に知らせた。
 ベルトコンベアの耳をつんざく作動音の中でも、おそらく優希は聞きつけてくれる。
 聞こえていなくても、自分の動きを見れば仲間は気づいてくれる。
 そこに向かって突進する。
「たくさんいるのって不条理、理不尽だわ」
 ひときわ放電する発光球に、次々と他の発光球が群がってくる。
 今が夜だということを忘れられるほどの光。
 発光球が縦に連なる。
 長く長く伸びて、BWEを飾りながら、ルカルカと背後からルカルカのフォローに回ろうとしていた優希と桐を巻き込んだ。
 上空から見た者はいただろうか。
 それは、長さ20メートルの光の珠のラリエット。
 夜の大地とリベリスタ三人を焦がした。


 エーデルワイスは仁義を切る。
「エリエリレマサバクタニ~」
 神よ、神よ、何故に私にかくなる痛みを与え給うか。
 切られる十字は祈りの証。
 攻撃の起点になるとりわけ輝いて見えるスプーキーが、エーデルワイスの賞金首だ。
 トリガーハッピーの義手にもてあそばれたフィンガーバレットが、踊り狂うように弾丸を吐き出し、狙いを定めたスプーキーだけが連鎖的に爆散していく。
「狙いは慎重に、でも射撃は苛烈にカーニバル」

 ルカルカの唇がもぐもぐと動いている。
 言葉にならないあれやこれやがたまっているのだ。
 もぐもぐが二つとなり、四つとなり。
 理不尽な増殖により、道は切り開かれていく。
「あの山の下にあるのよ」
 場所さえわかってしまえば、後は掘り返し蓋をするだけだ。
 そこに到達できれば。
 耳に意識を集中させていた優希の耳が異音を聞きつける。
 ガコン、ガチンと何か大きなものが切り替わる重たい金属音と規則的な振動。
 一時的に回転を緩める、完全停止する駆動機関。
 再びギアが上がり、ベルトコンベアーが動き始め――。
「動きが変わるぞ、皆姿勢を低くしろ。何か手近なものにしがみつけっ!!」
 優希が叫んだ。
 そのとき、磐石ではなかった足元が揺らいだ。
『ベルトコンベアーを管理している管制室は、現在エリューションの支配下。速度が勝手に換わったり、逆走したりするかもしれない』 
 ブリーフィングでイヴが言っていた言葉が脳内で再生される。
 この揺らぎは、逆走だ!!
 しかも、おそらくは高速進行!
 三半規管が特化した者は、何とかその場に踏みとどまる。
 その上に、慣性の法則に耐え切れなかった大量の土砂が降り注ぐ。
 シエルはからくも上空に脱出した。
 エーデルワイスは、宙に放り出された。
(キャタピラに轢かれないように全速力で回避だね。これに巻き込まれたらいくらなんでも……ね)
 リベリスタでも一巻の終わりだ。
 十数秒先の修羅場に備えたエーデルワイスの体をシエルが捕らえた。
「……大丈夫ですか?」
「一応」
 足元は見えない漆黒の地獄。
 和装の翼人が、豪奢な鋼人をかろうじて抱きかかえている。
「お、降ろしますね……?」
「そうですね。みんなを追います」
 ブレスが転倒し、砂に銃剣を突き立て何とかコンベアーにしがみつく。
 小路は、支柱に結びつけていたロープを伝って、体が後方に流されないようにしがみついた。
 背負ったままの布団六点セットが、申し訳程度に小路への衝撃を軽減させている。
「働きたくない働きたくない働きたくない……っ!!」 
 魂の底から叫ぶ。
 第一前提として、死にたくない! 一生グダグダしていたい! 
 戦術的視界確保により常時より拡大された小路の見開いた眼の先、盛大にシェイクされる砂と鉱石の中、巨大なスプーキ-の輝きが見え、その奥に古式ゆかしい葛篭箱が――。
「あったーっっ!!」
 コンベアーの流れと逆走していた先陣が、小路の声を聞きつけると同時に一転。
 きびすを返して葛篭箱を追う。
(こういうトレーニングは色々やってきたもの、新トレだと思うと楽しくて仕方ないわ! でも遊びじゃないの!)
 ミリーが走る。
 ミリーが追いつき、背中の蓋を本体にかぶせてしまえば、あとはスプーキーの相当でこのチームは任務完了だ。
 あそこだと指差す小路の助けを借り、暗闇の中、目を凝らせば、砂の中からあふれる光。
 湧き上がるように行く手を阻むエレクトリカル・スプーキー。
 連なる連環が、ねずみ花火のように超速回転しながら飛んでくる。
 触れた鉱石が内側から爆発する。
 あれに触れたら、まずい。
 すぐ脇を何かが飛んでいった。
 眼前のスプーキーが両断されて霧散する。
 ミリーがわずかに振り返ると、小路が「止まれ」の交通標識を構えなおしていた。
 小路の放った真空刃と知れる。
 前を向き直ったミリーの脇を、高速のピンクの羊が跳んでいく。
「シビシビするし、ほんとによごれちゃったの。ルカは機嫌が悪いの。この怒りの矛先は、小人に向けるの」
 話があまり脱線しないところを見ると、かなりご立腹のご様子。
 スプーキーが何匹も連なって更生されたライトニング・リングが放電を始める前に、幾人ものルカルカのナイフが光輪を手当たり次第に八つ裂きにする。
「最速で確実にアーティファクトを封じ、敵の増殖を止める。それがこの場を託された俺達の務めだ!」
 群がり、強大な雷を形成しようとしているスプーキーの只中に飛び込んだ優希が、お株を奪う雷の武舞を放つ。
 湧き出るエレクトリカル・スプーキーは四方向に分かれ、アーム部、バケットホイール、管制部、そしてベルトコンベアーに陣取るリベリスタに襲い掛かる。
 ここを抑えなければ、リベリスタは遅かれ早かれ無尽蔵のスプーキーに押し潰される。
 再びコンベアーの上に降り立ったエーデルワイスは、ミリーのそばに立つ。
「ここまできたらアーティファクトに当たるかも。あれを壊したら元も子もないからね」
 群がるスプーキーを拳で殴る。
 ブレスは、ここが正念場と砂山を駆け上がる。
 これでもかと撒き散らされる弾幕は、葛篭を確保に向かう味方の道を切り開く。
 それでも、リベリスタたちは極力この哀れなお姫様「ばけたん」を傷つけないよう、各々出来うる限りで気を遣っていた。
 どろどろに汚れて、耳をピルプルさせ続けているルカルカも例外ではなかった。


 近づくと、砂漠の蜃気楼のように、あらぬ方向に飛んでいく。
 リベリスタは、葛篭箱のイレギュラーバウンドに翻弄される。
 頭上を跳んでいく葛篭を見上げ、または砂の向こうに跳ねていく葛篭箱に飛びつく。
 全員、砂と泥でどろどろだ。
 目や鼻や口に、鉱石の粉塵が入って、痛いし、かゆいし、咳が出る。
 上から、ばらばらと何かの燃えさしや小さな石の指などが降ってくる。
 上は上で佳境らしい。
 鼻の奥に粘りついた錆びの匂いと機械油の臭いを今すぐ洗い落としたい。
「逃げるの理不尽ね」 
 ルカルカはうめいた。
 誰でもいいのだ。とにかく前へ。
 葛篭を確保して、蓋をするのだ。
 幸い、傷はできる端から、シエルが治していく。
 砂と瓦礫のフィールドで、電撃にさらされた仲間を癒す為、途切れることのない詠唱が続く。
 腹の底に響くベルトコンベアーの駆動音にかき消されることない福音が響く。
 痛みは一瞬。
 不快感と焦燥感が、累積状態だ。 
 BS怒りにも似た感情で、リベリスタが爆発寸前となる中。
 そのとき。
 ベルトコンベアーが急に止まった。
 なぜかは、とりあえず、後回しになった。
 砂山の上に着地していた葛篭が停止の衝撃で転げ落ちてくる。
 最も近くにいた桐が、ほとんど反射的に葛篭箱に飛びついた。
 中からあふれ出てくるスプーキーの直撃に、意識が薄らいでいく。
 ミリーの目に、不規則に痙攣を繰り返しながらも葛篭にしがみついた桐の姿が見えた。
 背中に蓋をくくりつけていた紐を解く。
 両手でしっかり蓋をつかむ。
 バリバリと放電してくるスプーキーの体当たりが痛い。
 指の先が痺れてくるのを無視して、桐に体当たりするように中が真っ白い無限に見える葛篭箱に蓋をした。
 次の瞬間、今までうるさかったのが、スプーキーの放電音だったことに気がついた。
 今うるさいのが、自分の耳から聞こえる心臓の音だということに気づいた。
 辺りは、静寂を取り戻し。
 桐とミリーを癒す為の、シエルが吹かせた柔らかな風が吹いていた。


 そもそも有象無象。
 残ったスプーキーの掃討は、勢いづいたリベリスタにとっては瑣末なことだった。
 全てのエリューションを倒した後、ベルトコンベアー上にある光源は、それぞれが用意した懐中電灯くらいのもので、先ほどまでの喧騒が嘘のようだ。
 いつの間にか、ばけたん自体が完全に停止している。
 まだ鼓膜の奥で何かががんがん鳴っている錯覚さえするのに。
 体のあちこちが痛むが、動けなくなった者はいなかった。
 シエルは、ようやく満面の笑みを浮かべる。
 優希は上を見上げた。
 星空をさえぎるアーム群。
 上空80メートル。
 友よ、見えているか。
 120メートルベルトコンベアーの上から。
 優希は、友の勝利を信じ、拳を夜空に突き上げた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 ごろんごろんと転がる葛篭が、なかなか止まりませんで。
 リベリスタの皆さんもベルトコンベアーの上を走り回ることになりました。
 ばい~んぼい~ん。

 これで、ばけたんは普通の女の子BWEに戻って、元気に現場投入されることでしょう。
 ゆっくり休んで次のお仕事がんばってくださいね。