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猫たちのお世話と家探し


 猫。猫。猫。
 そこにはたくさんの猫。どっちを向いても猫。

 伸びをする猫。
 大きな口を開けて欠伸をする猫。
 丸まって眠る猫。
 じゃれあう猫。
 毛繕いに夢中の猫。

 短毛種も、長毛種も、耳が垂れているのも、足がちょっと短いのも。
 とにかく色々な猫。猫。

 猫たちが、あなた達を待っているよ。


「――皆、猫は好きかね」
 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向けて、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は開口一番そう言った。

「まあ、何でこんな話をしたかというとだ。
 つい先日、猫を集めて自分の世界に連れ去ろうとしたアザーバイドがいてな。
 アザーバイドは追い返してもらったんだが、後には連中が呼び寄せた大量の猫が残された、と」
 猫たちはかなり広範囲から集められた上、飼い猫も野良猫もごっちゃになっている。
 放っておいたら現場一帯が野良猫で溢れてしまうし、飼い猫も自力で家に帰れるか疑わしい雰囲気だったため、ひとまず猫たちはアークで纏めて保護することになった。 

「ただ、何しろ数が多い。餌やトイレの面倒を見るだけでもかなりの手間になる。
 それで、まず猫たちの世話を手伝って欲しいというのが一つ。
 退屈している猫も多いから、一緒に遊んでやるだけでも助けになるだろう」
 猫好きにとっては、心置きなく猫と戯れられる良い機会かもしれない。
 
「で、もう一つは猫たちの家探しを手伝って欲しいんだ。
 現場のすぐ近くに住んでいた猫は飼い主が見つかりつつあるんだが、まだ家に帰れない猫も多くいる。
 あとは、野良猫たちの里親探しだな」
 こちらはアークでも動いているが、やはり数が多いので順番にやっていくしかない。
 写真を撮って猫たちの情報を纏めたり、インターネットに告知を出してみたり、ビラを作ったり。
 そういった作業を手伝ってくれる人がいれば、猫たちの家を探すのも効率が良くなるだろう。

「最後に――猫の里親になってくれる人の募集、かな」
 なにしろこれだけの数だ。里親を募るにしても限界がある。
 この中で里親になってくれるメンバーがいれば、それだけ猫の落ち着き先が増えるということだ。 
「まあ、生き物のことだからな。
 猫にとっては一生を左右することになるし、軽々しく引き取ってくれとは言えないが。
 もし猫を飼いたいと考えているなら、検討してもらえると有難い」
 そう言って、数史はリベリスタ達の顔を見た。
「説明はこんなところだ。良かったら、手伝ってもらえるか?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月30日(水)23:55
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。
 たくさんの猫たちと戯れてみませんか。

●猫
 拙作『丘の上には猫がいっぱい』終了後にアークが回収・保護した猫たち。
 (該当シナリオを知らずとも参加に支障はありません)
  
 かなりの数が保護されており、人に飼われていたと思われる猫から、どう見ても野良という猫までさまざまです。
 多くが大人猫で、1歳未満の仔猫もちらほらいますが、離乳前の赤ちゃん猫は含まれていません。
 品種や柄などは色々で、健康状態は良好です。

●会場
 アークが手配した一時預かり所。広くて清潔。
 大まかに『飼い猫』『野良猫』の二部屋に分かれています。

 【飼い猫】→首輪ありor人に飼われていたと思われる猫
 【野良猫】→保護当時に汚れが酷い・人慣れしていなかった等、飼い主がいたと考え難い猫

 ※あくまで推測による分類のため、絶対の区分ではありません。 

 猫たちの家探しに必要なもの(インターネットに接続したパソコン・ビラ作りの道具など)と、猫たちの世話に必要なもの(餌やおやつ、猫用のおもちゃなど)は充分に揃っています。
 
 ※人間用の飲食物を猫に与えるのは禁止です。 

●推奨行動(一例)
 ・猫たちの世話をする
 ・猫たちと遊ぶ
 ・(迷子or野良)猫たちの家探しを手伝う

 行動は一場面に絞ることをお奨めします。

 なお、希望者は猫の里親になることが可能です。 
 アイテム発行等はありませんが、皆様の設定としてご活用いただければと思います。

【禁止行為】
 ・未成年(実年齢)の飲酒・喫煙。
 ・猫の心と体に優しくない行為。
 ・その他、公序良俗に反する行動、他の方に対する迷惑行為。

●描写人数
 可能な限り全員を描写します。
 (白紙プレイングや、上記の禁止行為については描写できません)

●NPC
 奥地 数史(nBNE000224)が参加します。
 基本は隅の方で地味に働いてますが、猫を一匹引き取るつもりのようです。
 お声掛け頂いた場合、面識の有無に関わらず何らかの反応は返します。

 また、過去に依頼で登場したリベリスタ『根谷弓美子』と『折本奏一』が会場のどこかにいます。
 お声掛けがあれば登場するかもしれません。

 ※いずれもお声掛けがない場合、原則としてNPCの描写は行いません。

●備考
 ・このシナリオはイベントシナリオです。
 ・参加料金は50LPです。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
 ・特定の人と絡む場合は『時村沙織 (nBNE000500)』という形で名前とIDをご記入ください。
 ・グループで参加する場合は【グループ名】をプレイング冒頭にご記入いただければ、全員の名前とIDの記載は不要です。
  (グループ全員の記載が必要です。記載が無い場合は迷子になる可能性があります)
 ・NPCに話しかける場合は、フルネームやIDの記載は不要です。
参加NPC
奥地 数史 (nBNE000224)
 


■メイン参加者 46人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
プロアデプト
天城・櫻霞(BNE000469)
デュランダル
ラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ソードミラージュ
神薙・綾兎(BNE000964)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
ソードミラージュ
山田・珍粘(BNE002078)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
ホーリーメイガス
月杜・とら(BNE002285)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
マグメイガス
百舌鳥 付喪(BNE002443)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
スターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
プロアデプト
山田 茅根(BNE002977)
ナイトクリーク
六・七(BNE003009)
スターサジタリー
桜田 京子(BNE003066)
ナイトクリーク
フィネ・ファインベル(BNE003302)
プロアデプト
プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)
ダークナイト
赤翅 明(BNE003483)
覇界闘士
ジョニー・オートン(BNE003528)
ダークナイト
ルーチェ・ルートルード(BNE003649)
ダークナイト
スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)
プロアデプト
チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)
ホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
レイザータクト
日逆・エクリ(BNE003769)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
レイザータクト
日暮 小路(BNE003778)
ソードミラージュ
小犬丸・鈴(BNE003842)


 扉を開けると、広い部屋のいたる所に猫がいた。
 年齢も性別も毛色も性格も様々な猫たち。彼らは皆、あるアザーバイドの能力で呼び寄せられたものだ。
 連れ去られかけていたのをリベリスタ達に救われ、保護されたのである。

「にゃんこにゃんこにゃんこにゃんこにゃんこにゃんこにゃんこにゃんこにゃんこー!!!」 
 野良猫部屋に足を踏み入れた理央は、猫たちを見て歓声を上げた。
 先日は、アークの回収班が来るまでの僅かな時間しか猫と触れ合えなかった。今日は力尽きるまで猫と戯れるつもりである。 
 猫じゃらしとマタタビを携え、いざ野良猫たちにダイブ!
「にゃんこちゃんどんどん来て!」
 両手の猫じゃらしで猫たちと遊びつつ、彼らにマタタビの贈り物。猫の海に埋もれるなら本望だ。 
「猫かわいいよ、猫。ほーら、おいでおいで~☆」
 終もまた、猫じゃらしを振って猫を呼び寄せる。
 遊びに夢中になっている隙にカメラを構え、里親募集用の写真撮影。
「よし、ベストショットゲットー☆」 
 写真の出来に満足しつつ、彼は電話やメールで猫好きの友人知人に連絡を始めた。


 一方、こちらは飼い猫部屋。
「ふふっ、猫って良いですよね。自由で、それでもって可愛くて。
 チャイカさんは猫、好きですか?」
 ミリィが、猫じゃらしを振りながらチャイカを振り返る。
 しかし、チャイカは周りの人に猫の生態を説明するのに夢中で。
「あとですね、猫さんは強い光を受けるとびっくりしてしまうので……」
「……あれ、チャイカさん? もしもーし」
 目の前で手を振るミリィに、チャイカもようやく彼女に気付いた。
 同行者を放っておくのは申し訳ないが、間違った知識による世話で猫に害が及ぶのは何としても避けたい。
「あ、ごめんなさい、もうちょっと待ってて下さいねー」
 そう言って説明に戻るチャイカを見て、ミリィは軽く溜息。
「はぁ、仕方がありませんね。私達だけで遊びましょうか」
 持参した鼠やボールの玩具を取り出し、彼女は近くにいた猫と遊び始めた。

「にゃんこ依頼の時のにゃんこ達、元気にしてるようでよかったのです」
 猫たちを眺めて表情を綻ばせるそあらの手の中には、現場付近で届出をされた迷い猫のリスト。『さおりんの専属秘書』を名乗る彼女が、アークのネットワークを介して入手したものだ。
 早速、ここにいる猫の特徴をリストと照合するそあらだったが……。
「だからにゃんこ共、あたしのしっぽはねこじゃらしではないのです!
 じゃれつくとお仕事出来ないのです!」
 例によって、尻尾に飛びつく猫たちに全力で邪魔されていた。
「あーもー! あたしは怒ってるのです! 遊んであげてるのではないのです!」
 叱っても、ますます喜ぶだけで反省の色まるでなし。
 その傍らで、アンジェリカは赤い首輪をした黒猫を撫でていた。
「大好きなご主人と離れて寂しいよね。ボクも大好きな人と離れてしまったから……」
 姿を消した大切な人を捜す彼女にとって、主人とはぐれた飼い猫たちの苦難は他人事ではない。何とかして、会わせてあげたいと思う。
 首輪にサイレントメモリーを用いたアンジェリカは、断片的に得られた情報を丁寧に記録する。手がかりは、一つでも多い方が良い。
「はーい、注目~。僕の私の、おうち自慢大会が始まるわよー」 
 猫の言葉を解するルーチェが、床に毛布を敷きつめて猫たちを呼んだ。 
 集まった猫たちにおやつを配ると、彼女は一匹ずつ、彼らの家族について聞き込みを始める。
「へえ、そう。アナタのお家にはパパとママ以外に子供が居るのね。
 アナタのお姉さんになるのかしら? ……え、違う? あっちが格下?」 
 猫の視点から見た家族の力関係は、なかなかにシビアだ。
 ルーチェは相槌を打ちつつ、猫たちの名前や家族構成をメモしていく。
 飼い猫の聞き込みが終われば、次は野良猫の番。首輪のない飼い猫が、うっかり紛れているといけないから。
 猫たちの身体的特徴をノートに記録すると同時に、掲載用の写真をせっせと撮影していたエクリが、撮影済みの目印として用意した小さなリボンを猫の首輪に結ぼうとする。
 しかし、でっぷり太った猫の脂肪に阻まれて、なかなかリボンが首輪の間に通らない。
「……お前、アゴ肉むちむちね」
 小さく溜息をつき、エクリはでぶ猫の顎を軽く撫でる。
 首輪なんかして苦しくないのだろうか、と心配になるくらい立派な贅肉だ。
「どれだけ甘やかされてるのよ。けしからんお肉め。えい、えいっ」
 ぷにぷにたぷたぷとした感触に思わず頬を緩ませた後、慌てて気を取り直す。
 この猫たちは神秘事件の被害者だ。一刻も早く、平穏な日常に帰してやらなくては――。

 チャイカが一通り説明を終えた頃、ミリィは遊び疲れた猫たちと一緒にうとうとしかけていた。
 そのまま眠ってしまったミリィを膝枕しつつ、チャイカは彼女の寝顔を眺める。
「ふふ、可愛い寝顔なのです。さて、残りのお仕事は……」 
 説明と並行して記録していた猫の画像や動画のデータを手早く編集すると、チャイカはインターネットで飼い主探しを始めた。 


 皆が作業を進めていく中、野良猫部屋にいた終の携帯電話が鳴る。
「はいはい、終だよーん☆」
 電話を取った彼は、たちまち表情を輝かせた。
「え、メールに送付した猫ちゃんに会ってみたい?? マジでマジで!?」
 弾んだ声で場所を告げる終。
 同じ頃、飼い猫部屋でも良い報せがあった。
「よかったね……」
 無事に飼い主が見つかった黒猫を撫でて、アンジェリカが微笑む。 
 家族の元に向かう猫を送り出した後、彼女は野良猫部屋へと向かった。
 野良の子たちにも、その手を取ってくれる人を探してあげたい。
 里親が見つからなければ一匹引き取ろうと考えながら、アンジェリカは会いたいと願う人の顔を思い浮かべていた。


「誰かビラ配ってくれるか?」  
 皆が作ったビラを手に呼びかける数史の声に、部屋の中からちらほらと手が上がる。
「はいはーい、ビラ配りのお手伝いに来ましたよ」
 真っ先に名乗り出たのは珍粘。壁や天井を自在に歩ける彼女は、ビラ貼りにうってつけの人材だろう。
「悪いな」
「いえ、どうぞお気になさらず。可愛い物のために動くのは、私の基本方針の一つですから」
 そう言って、珍粘は軽やかに身を翻した。怪我続きで療養中の彼女だが、今日は体慣らしのリハビリも兼ねている。
 続いて、ビラを受け取った京子が元気な声を上げた。
「任せてください、数史さん! 街へ出掛けて猫の里親を探しにいくのです!」
「頼りにしてるよ。どうか気をつけてな」
 意気込む京子の後を追い、舞姫も部屋を出る。
(あんなに一生懸命……同じ猫どうし、他人事じゃないんですね)
 京子が宿すのは猫でなくチーターの因子だが、それはさておき。
 最後に部屋を出た亘は、振り返りざまに猫たちを名残惜しそうに見た。
「うぅ、猫と遊びたい気持ちMAXですが我慢我慢……」
 今日は、里親探しを優先すると決めている。できる限り遠くまで、足を運ぶつもりだ。


 街に出た二人は、ビラを手に通行人に声をかける。
「そこのお兄さん! かわいい猫ちゃんの里親になりませんか?
 今なら金髪隻眼隻腕美少女も付けますよ! どうですか?」
 京子の言葉に、舞姫は思わずセクシーポーズ。
「ミケにする? 茶トラにする? それとも、ア・タ・シ?
 ……って、何やらすんですか、京子さん!?」
 我に返り、抗議の声を上げる舞姫。
「猫め! この猫娘め! にゃんにゃかにゃーんと里親を招き猫するといいよ!」
「私は違いますよ! この耳も猫じゃなくてチーターですからねっ!?」
 じゃれ合いで一時中断。
 気を取り直した京子が、先輩も一匹どうですか、とビラを差し出す。舞姫が、そっと手を伸ばした。
「それじゃ、ピンクに黒点模様のかわいい、この子にしよーかな?」
「私の事じゃなくて……」
 チーター耳を突付かれながら、京子が「私も飼おうかな」と呟く。
「いつか寂しい思いさせちゃうかもしれないから避けてたけど」
 一匹でも、その運命を変えられるのなら――。
 それを聞いた舞姫は、優しい口調に決意を込めて声を重ねた。
「……大丈夫、寂しい思いなんてさせません。絶対に」

 一方、亘は民家を一軒ずつ回って里親を募る。
 生き物の一生に関わることなので無理強いはせず、物腰は柔らかに。
 断られても、めげることなく次の家に向かう。
 こういう時のために鍛えているのだ。ひたすら足を使い、多くの家に声をかけていくしかない。
 走って、走って、一匹でも多くの猫に里親を。
 猫は人を幸せにしてくれる存在だから――どうか、猫にも幸せになってほしい。

 同じ頃、珍粘は誰もいないビルの屋上で苦笑いを浮かべていた。
「……いやー、ちょっと調子に乗ってしまいましたね」
 足の赴くままにビラを貼っていたのだが、些かやり過ぎたらしい。


 場面は変わって、再び野良猫部屋。
 気ままに過ごす野良たちを前に、七が表情を綻ばせる。
「わあ、ねこだあ。猫がいっぱいだ……何て素晴らしい」
 猫と暮らしている彼女でも、野良猫と戯れる機会というのはそう多くない。
 早速、猫じゃらしや紐、羽根などを装備して誘惑開始。猫のツボを心得た彼女の玩具捌きに、猫たちは瞬く間に夢中になった。
 遊びに満足した猫には、ブラシを取り出して優しくブラッシング。
 もちろん無理強いはしないが、あまりの気持ち良さに猫の方から膝によじ登ってくる。
 リラックスしきった様子の猫を見て、七は「ノドをゴロゴロ言わせるが良い!」と頬を緩めた。
 
 ――ねこ。ねこかわいいなあねこ。

 猫を存分にもふろうと腕を伸ばした朱子が、寸前で手を引っ込める。
 硬くて冷たい機械の掌は猫たちにいたく不評のため、猫を撫でる時は手袋が必須だ。
 しっかり手袋をはめて、いざ再アタック。 
 始め気持ち良さそうに撫でられていた猫が、不意に指に噛みつく。
「だめだよー。メタルだから噛んだら歯いたいいたいよー」
 気分屋なところも可愛いけれど、歯が欠けたりしたら大変だ。
 ころんと転がる猫のお腹や肉球を、朱子は交互に撫でる。ぽにぽにぷにぷにの感触が心地良い。
 家を空けてばかりの自分に、猫は連れて帰れないから。可愛い猫たちと、ここで目一杯遊ぼう。

 まだ里親が決まらない野良たちを見て、小路が歩み寄る。
「あんたたちはあたしと一緒ですね」
 そう呟いた彼女は、直後、掌を返したように声を上げた。
「……なんていうと思ったですか、バーカ!
 あたしは自由に自分の部屋に立て篭る、ニートの中のニートなのです!
 甘えた声出して餌貰って生きてたあんたらとは違うんです! ざまー!」
 一通り罵って満足したのか、小路はその場に布団を敷く。
 里親探しも世話も人任せにして昼寝……のはずが。
「お、重い! 布団に乗るな! 入り込むな! うがー!」
 やはりと言うか、猫たちが布団を見逃すはずもなく。
 彼女は布団という自分の王国を守るため、猫たちと争う羽目になった。
 そんな喧騒の横では、じっと座して瞑想するジョニーの姿がある。
 彼の師が言うには、『良き忍者は動物に好かれるもの』らしい。つまり、これも猫たちと心を通わせるという、忍者としての修行である。
 断じて、猫と触れ合いたいなどと企んではいないし、あわよくば一匹連れ帰ろうなんて思っていない……たぶん。
 雑念を振り払うように集中するジョニーの膝に猫が一匹乗り、遊んで欲しそうに「にゃあ」と鳴いた。

「遊んでおいでチャチャ~」
 以前の依頼で引き取った薄茶色の猫・チャチャを野良猫たちの中に放した後、陽菜は「でも喧嘩しちゃダメだからね!」と念を押す。
 野良たちと無邪気に遊ぶ愛猫を眺めつつ、彼女はビデオカメラを手に部屋を見回した。『猫と戯れる猫のビーストハーフ』を激写する狙いだったが、タイミングが合わなかったのか探し人は見つからない。渋々諦めつつ、野良猫と遊ぶチャチャに視線を戻す。
 仲良しになった猫がいたら、一緒に連れ帰るのも良いだろうか――チャチャのように髪に絡まるタイプでなければ、だが。もう一匹増えたら、髪が抜けてしまう。

 部屋の片隅では、プレインフェザーが玩具で野良猫を構っていた。
 どちらかといえば犬派な彼女だが、基本的に動物好きなので猫も嫌いではない。 
「猫もイイな。クールで自由な上に、カワイイときた。……羨ましい」
 つい本音を口にしてしまった後、しばし黙り込む。
 彼女も、自分の容姿や、素直になれない性格について思い悩むことはあるのだ。
 動物は良い。彼らは美しく正直で、何より自由だ。
「良い人に貰われろよ。
 でも、どんな環境にいても……猫としての孤高や誇りや野性を忘れんじゃねえぞ?」
 呼びかけても、猫は玩具に夢中で。 
「……聞いてるワケねえか」
 プレインフェザーは猫の頭を撫でると、その幸せを祈った。

「本当に色々な猫がいるね……あ、このペルシャとか神薙っぽい」
 どこか綾兎に似ているペルシャを見つけて、遥紀が微笑う。
「美人さんで可愛い……神薙はかっこ可愛いけれどもね」
「お兄さん、何言って……危ない」
 綾兎は反論しかけたものの、ペルシャを撫でようとした遥紀が引っかかれそうになっているのを見て、咄嗟に自分の手を割り込ませた。
「わ、神薙ごめん、大丈夫かい!」
 代わりに引っかかれた綾兎の手を見て、遥紀が慌てる。
 大丈夫、と手を振った後、綾兎は猫じゃらしをペルシャの前で振った。
 初め警戒していたペルシャも、徐々に気を許してじゃれつき始める。
「そう上手……ほら、こっち」
「猫って随分高くまで飛べるんだね、しなやかだ……」
 感心する遥紀の前で、綾兎が猫じゃらしをさらに高く掲げた。
「もう少し高く飛んでみたら?
 君ならできるでしょ? ……て、別に誉めたわけじゃないからね」
 頬を染めて横を向いた綾兎を、遥紀が抱きしめる。
「おにーさん、何してっ……!」
「……やっぱりかわカッコいいなぁ、神薙は」
「俺は可愛くないってば……」
「ごめんごめん、思わず衝動がね」
 綾兎と一緒に抱きしめられたペルシャが、軽く欠伸をした。どうも眠くなったらしい。
「この子逞しいね……懐いてるみたい様だし、連れて帰ってあげたらどうだろう?
 俺も構いに行くしさ」
「もう君、うちの子になる?」
 ペルシャを優しく撫でる綾兎の手に、彼を抱く遥紀の手が重なった。

 餌をあげたり、頭からお尻にかけて優しく撫でたり。
 甲斐甲斐しく猫たちの世話をするリセリアから少し離れて、猛が首を捻る。
 実のところ、実際に猫と触れ合った経験はあまり無い。
「……んー、俺が近寄って怖がったりしないか?」
「この子は人馴れしていますし、大丈夫だと思いますよ」
 リセリアに頷いた猛は慎重に猫に歩み寄り、そろりと手を伸ばす。
 嫌がられたらすぐ止めるつもりでいたが、猫は大人しく彼に身を任せた。
「おぉ、柔らかい、もふもふしとる……」
「可愛いですよね」
「うん、可愛いなー」
 ごろごろと喉を鳴らす猫を見て、二人は短く言葉を交わす。
 ややあって、リセリアが僅かに肩を落とした。
「でも、面倒をちゃんと見てあげれそうにないんですよね……」
「責任の伴う事だしな……ずっと飼ってみたかったけど」
 ことは生き物の一生に関わる。軽々しく引き取るわけにはいかない。
 飼いたいけれど、連れて帰りたいけれど。どうにも難しい気がするのだ。
 うーん、と考えこむリセリアの傍らで、猛も握った拳を震わせる。
「飼いたい……けど無理……くっ……!」
 諦めることも、一つの決断だ。
 撫でていた猫をそっと抱き上げ、リセリアが呟く。
「……この子達、ちゃんと誰かの所にいけるといいですね」
 それを聞き、猛が立ち上がった。
「よっし、此処で考えてても仕方ねぇ。俺達で里親を探してやろうぜ?」
 彼の目を見上げたリセリアは、少し考えて。そうしましょうか――と答えた。

 一方、こちら飼い猫部屋。
「ぬこがっ! いっぱい!! 素晴らしい!!!」
 猫を群れを前にテンションが上がったアウラールが、大きな声を上げる。
 ちなみに、いつも連れ歩いている『ぴよこ』は今日は留守番。猫いっぱいで危ないし。 
「――なあ、この気持ちを日本語で正確に表現するには、何て言ったらいい?」
 彼はそう言って同行する二人を振り返ったが、とらもキリエも聞いちゃいなかった。
「いいよー、お兄さん一人でぬこもふもふしちゃうしー」
 微妙に拗ねたアウラールをよそに、とらが通りがかった数史に声をかける。
「数史さんは、どの子を連れて帰るの?」 
「まだ決めてないが、貰い手少なそうな大人猫かな。
 あっちにも人を選ぶ権利あるだろうし、お眼鏡にかなえばだけど」
 黒翼のフォーチュナが去った後、キリエがそれにしても、と口を開いた。
「よくこれだけの猫を集めたよね」
 呼び寄せたのはアザーバイドらしいが、つくづく不思議である。
「こんなにたくさんいたのでは、一匹一匹をケアしきれないし、対話も出来ないよ?
 何より、幸せに暮らしていたよそ様の猫を攫ってくるとかあり得ない。
 ……聞いてる? アウラール」
 キリエが顔を向けると、アウラールが猫の腹に顔を埋めていた。
「ぬこ素晴らしい、イケてる!
 これこそまさに神が創った生ける芸術、最高傑作だ。
 きっと人々に癒しを与えるために舞い降りたエンジェルに違いない」
「やべぇ、このフィンランド人役にたたねぇ☆」
 顔や服を猫毛だらけにして「俺もぬこを集める能力が欲しいなー」などと言うアウラールを見て、とらが肩を竦める。
 彼はとりあえず放っておこうという結論に達した二人は、協力して猫たちの家探しを始めた。
 とらが首輪の記憶を読み、手がかりを元にキリエがパソコンで検索を行う。
「そう言えば、とらって猫みたいな名前だね」
 キリエの言葉に、とらが顔を上げた。
「名前? えとね、ナイトメアダウンでママとはぐれちゃって。
 『とら』って名前を覚えてたから名乗ったみたいだけど、本名じゃないかも~☆」
「そう。じゃあ君も迷い猫だね」
 うん、と笑って頷くとら。
「でもね、色んな人にごはんをもらって歩いてるよ♪」
 自分にすり寄る彼女に、キリエはそっと声をかけた。
「……また一緒にお菓子を作ろうか」
 たくさん作っても、この子はきっとすぐに食べてしまうのだろうけど。


「わぁ♪ 愛らしい猫ちゃんがいっぱいですぅ♪」
 右手に猫じゃらしを握り、左手で恋人の服を掴んで。
 櫻子は、青と赤の瞳を無邪気に輝かせる。
「本当に多いな、此処までとは思わなかった」
 苦笑する櫻霞の鼻先に、櫻子が猫じゃらしを翳した。
「櫻霞様っ♪ 何匹か連れて帰って飼いたいですの~♪」
 猫じゃらしを振りつつおねだり開始。
 近くに寄ってきた猫の頭を撫でつつ、櫻霞は恋人の顔を見た。
「連れて帰るのは構わんが、ちゃんと世話出来るのか?」
 こくこくと頷く櫻子。
 櫻霞の返事を待たずに、彼女は懐いてくれそうな猫を探し始める。
 どうやら、飼うことは既に決定事項らしい。
「はぅはぅ、この子達がいいですぅぅ」
 櫻子の声に振り向くと、そこには白・黒・茶トラの三匹を抱えた彼女の姿。
「……三匹もか」
 櫻霞の渋い顔にも、櫻子はまったく引かない。
 聞けば、既に首輪も注文してあると言う。
「猫ちゃんは大好きですが、一番大好きなのは櫻霞様ですし、大丈夫なのですぅっ」
 三匹の猫を両腕に抱いて力説する櫻子に、櫻霞もとうとう折れざるを得なかった。
「まあ良い、どうせ文句をつけた所で引き下がらないだろうしな。
 その代わり世話はちゃんとする事だ」
 嬉しそうに頷く櫻子の長い尻尾が、ぱたぱたと揺れた。

「猫を飼います」
 猫(ネコ)――ネコ目(食肉目)―ネコ亜目―ネコ科―ネコ亜科―ネコ属の小型哺乳類。
 学名は『Felis silvestris catus』、いわゆるイエネコの通称である。 
 こじりが飼うと宣言したのは、その中でも決まった主を持たない猫――つまり野良猫だ。
「可愛いの探さないとな」
 そう言って、夏栖斗は野良猫たちを見て回る。
 身を低くして警戒する仔猫に、こじりが屈んで呼びかけた。
「おいで」
 仔猫より先に、金目の黒猫を抱えた夏栖斗が戻る。
「わんわん」
「御厨くん、貴方じゃないから」
「あ、まちがえた」
「うん、呼んでない。呼んでないってば」
「遊べー。僕も遊べー。わんわん」
「後で遊んであげるから」
 あしらわれつつも、夏栖斗がこじりに向ける視線は優しい。
 何も近付かせなかった彼女が、一緒に暮らす猫を真剣に選んでいる。
 それが、彼には嬉しかった。

 しばらくして、こじりの手の中には小生意気な顔立ちの猫。 
「ちょっと位、捻くれてる方が可愛いのよ」
 猫の鼻先に口付けたこじりが、夏栖斗に微笑みかける。
「よし、お前もこじりのナイトだな。よろしくな……うわ!?」
 握手を求めるように差し出された夏栖斗の手を、猫が思い切り引っ掻いた。

「……随分と居るんだな。もう少し……少ないものかと思っていたんだが」
 猫の玩具を借りた拓真が、集められた野良猫の数を見て呟く。
 行き場のない猫がこれだけ存在するという事実に、悠月が僅かに視線を伏せた。
「今の人の世では、飼い主……人間という保護者を得ないままでは、
 生きていくのは難しくなりつつある。それはそれで悲しい事ですね……」
 床に座した二人は、興味を持って歩み寄ってきた猫たちに手を伸ばす。
 猫じゃらしを振って遊んでやっている拓真の横顔を眺め、悠月は膝の上の猫を撫でた。
(……この子達も、このままだったら果たしてどうなる事やら)
 猫たちの運命を思い心を痛める彼女の隣で、拓真はふと過去を思い出す。
(そういえば、昔よくうちに遊びに来ていた猫がいたな)
 いわゆる通いの猫ではあったが、祖父によく懐いていた。

 やがて帰る時間になり、二人は黙って立ち上がる。
 部屋の隅にぽつんと佇んでいた仔猫が、拓真を見つめていた。
「悠月は……猫は嫌いだっただろうか?」
 彼の視線を追った悠月も、仔猫に気付く。
「猫は……好きですよ。あの子、気になりますか?」 
 怯えさせないよう気を配りながら、二人はそっと仔猫の傍に屈んだ。
「……一緒に来るか? 俺と彼女だけでは、少し家が広くてな」
 微笑む拓真に歩み寄った仔猫の喉を、彼の指が優しく撫でる。
「ふふ、新しい家族……に、なるのでしょうか?」
 みゃあ、と鳴く仔猫を、悠月が両手で包むように抱いた。

 三千と一緒に猫の世話をしていたミュゼーヌが、シャルトリューの仔猫を見つける。
 まだ幼いのに甘えた声を出さない、毅然とした佇まいのクールな猫。どうやら女の子らしい。
 近付くミュゼーヌを見て、仔猫は素早く距離を取る。
 子供とはいえ、流石は貴族に愛された血統ということか。
「そう……名門は優雅たれ。良いわ。待っててあげるから」
 屈みながら片手を差し出し、辛抱強く視線を合わせる。
 心が通じたのか、仔猫はしばらくして彼女に歩み寄った。
「わ、その子かわいいですねっ」
 三千が、ミュゼーヌが抱き上げた仔猫を見て声を上げる。
 ミュゼーヌは仔猫に彼を紹介したが、彼女は腕の中から三千を一瞥したきり、すぐに目を逸らしてしまった。
「とても可愛い子だけど……ふふ、他の人には厳しいみたいね」
 仔猫を見つめ、三千がぽつりと呟く。
「そう言えばこの子、少しミュゼーヌさんに似てるかも」
 人見知りだけど、仲良くなった人には甘えるとか。
 まだ子供だけど、どこか凛とした部分があるとか。
 考えるほど、共通点が増えていく。
「ミュゼーヌさんのことを、お姉さんみたいに思ってるのかもですね」
 三千の言葉を聞き、ミュゼーヌは再び仔猫と目を合わせた。
「気に入ったわ。あなた、私の家に来なさい」
 口調は少しばかり尊大でも、そこには小さな命に対する責任と愛情が篭っている。
「甘えられる相手が見つかってよかったね、ふふ」
 大人しくミュゼーヌに抱かれる仔猫を見て、三千が笑った。

 一方こちら、猫耳装備の三人娘……の、はずが。
 フィネの場所には、大きなダンボール箱が置かれていた。
 これぞ、警戒心が強い野良猫撮影のための秘密兵器『隠密君1号』。
 気配を消したフィネが、撮影用の穴越しにビデオカメラを構えれば準備OK。
(ご縁が結ばれるように、フィネもお手伝い、です)
 撮影に励む彼女の傍らでは、明とスペードが世話をする猫を選んでいた。
 里親探しの一環として、汚れた猫を綺麗にするつもりだ。 
「手始めにあのコとかどうかな?」
 どっしり構えたブチ猫を指す明に、スペードが頷く。
 歩み寄り、猫語で「へい旦那!」と呼びかけた明に、ブチ猫が抗議の声を上げた。
「あ、えっ、ごめんなさい素敵な奥様」
 旦那じゃなかったらしい。
 すっかり腰が低くなった明が体を拭かせてもらえるよう頼むと、ブチ猫は渋々身を任せる。
 それをお手本に、今度はスペードが別の猫に声をかけた。
「だ、旦那様ァ。毛繕いをさせてもらいやす、よぅ……」 
 明の通訳を介して語りかけた後、真っ赤になって俯いてしまう。
「な、なんだか恥ずかしいです……っ!」
 誰ですか、この口調が猫に対する作法だって彼女に吹き込んだのは。 

 猫の汚れを拭く二人の横で、フィネは『隠密君1号』の中から猫たちの撮影を続ける。
 突如、撮影用の穴から猫の手が伸びた。
「穴から、肉球が生え……にゃああ!?」
 『隠密君1号』の天井が、みしりと音を立てる。猫が飛び乗ったらしい。
「こ、ここは戦略的撤退、を……」
 その後、『隠密君1号』は猫たちのダンボールハウスになりましたとさ。

 フィネも二人の手伝いに加わる中、濡れた毛皮を乾かす明がブチ猫に名を付ける。
「ブチがあるぶちゃいくだから、名前はぶちゃ子さん! ……あ、痛い痛い」
 全力で噛まれた。
「せめて甘噛みにしてください奥様……え? 元オス? オジサマ? あいたっ」
 荒ぶるブチ猫を抱え、明は「気難しいな! もううちにおいでよ!」と声を上げる。
 その隣では、スペードが担当の猫を引き取る決意を固めていた。
 世話をするうち、互いに通じるものがあったらしい。
「今日から、あなたが私の旦那様です。不束者ですが、宜しくお願いしますね」
 名前は、もちろん『旦那様』。


 猫たちの世話を担当するリベリスタ達は、息つく間もなく仕事に追われていた。
 鈴は足元にじゃれつく猫を巧みにかわしながら、諸々の雑用を順にこなしていく。
 その間も猫たちが退屈しないよう、黒柴の尻尾を振ってじゃらそうとしたが――。
「甘噛みで頼むぞ……って多い多い多い!」
 大勢でかかってこられては流石に仕事にならない。
 手を止め、近くにいたリベリスタに半数ほど引き受けてもらう。
 残った猫の一匹が丸い瞳でじっと見上げているのに気付くと、鈴は傍らに膝をついて猫の頭を撫でた。
「すまないな。私はこの街に来たばかりで、自分らを養えるかもハッキリしない。
 こんな状態で新しい家族を迎えることはできんよ」
 断るのも、優しさの一つの形。良い主人と出会えるようにと祈る彼女に、猫が「みゃあ」と鳴いた。

 流し台の前では、竜一が猫たちのお風呂とブラッシングに忙しい。
 里親に快く貰ってもらうためには見た目も大事だし、綺麗にしておくに越したことはないだろう。 
 外暮らしが長そうな猫から優先して、竜一は一匹ずつ丁寧に身だしなみを整えていく。
 どんなに汚れが酷くても、決して手を抜かない。
 この仕事には彼らの人生……いや、猫生がかかっているのだ。毛並みが悪いことを理由に貰い手がつかなかったりしたら、悔やんでも悔やみきれない。

 ――しばらくして。

「お疲れさん。こっちすっかり任せて悪……い!?」
 野良猫部屋を訪れた数史が見たのは、担当の猫たちを残らずふかもふに仕上げて力尽きた竜一の姿。
「へへっ、数史のおやっさん、俺は燃え尽きちまったぜ……」
「……ちょ、大丈夫か!?」
 無茶しやがって……。

「ね、触れてみてー、この子とっても人懐こいの」
 硬い表情を崩さないランディに、ニニギアが抱いていたトラ猫を差し出す。
 ぎこちなく伸ばした指先に、柔らかなものが触れた。
「ふむ、肉球か……」
 ぷにぷにと肉球を突付くランディの顔を眺め、ニニギアが笑う。
「ほら、ランディったら、和んでる。口元や頬が緩んでる」
「違うぞ、病気とかしてないか確めただけだ! 俺はもっと雄々しい生き物がだな……」
 全力で否定するランディだが、対するニニギアはにこにこ顔。 
「よかったね、怖がられなくて」
 その一言を聞き、ランディはニニギアと猫を交互に見た。
「……猫共の飯でも用意すっか、ニニも手伝ってくれ」
 誤魔化すようにそう言って、猫たちの食事を作り始める。
 砕いた煮干に魚のすり身を混ぜた、簡単な猫フード。
 何匹もの猫によじ登られるニニギアも、笑顔で彼を手伝った。
「猫まみれ! 楽しい! もふもふ!」
 ランディは特別猫好きではないが、ニニギアが楽しんでいるならそれで良い。

 猫たちが食事を平らげた頃、トラ猫の里親が決まったと連絡が来た。
「飼い主さんができたのね。よかったね。可愛がられてね」
「よし、ニニ。バイクで一緒に届けに行かねぇか?」
 立ち上がった恋人を見上げ、ニニギアは満面の笑みを浮かべる。
「……なんで笑ってんだ、ったく」
「ん、なんでもない」
 彼が見せる表情、さりげない優しさと気遣い。それが、彼女には何より嬉しかった。

 丸い瞳の猫たちが、付喪をじっと見つめている。
 かつて捨て猫のエリューションを討伐した自分が野良猫の世話とは、何とも皮肉な話だ。
「まあ良いさ、それが分かってて来た私が馬鹿だってだけだしね。
 ……ふん、ほれ食べな」
 差し出した餌を、猫たちは先を争って食べ始める。 
 自分の皿を空にした猫が隣の皿に顔を突っ込もうとするのを、彼女は手で制した。
「……おっと、これ以上はやれないね。我慢しな」
 不満げに鳴く猫をあやすように、慣れない手つきで玩具を振るう。
 これはこれで、なかなかに楽しい。
「そうそう、もし引き取り手が居ないなら……」
 言いかけて口を噤んだ付喪の手に、猫が頭をすり寄せた。

 トイレ砂を抱えて部屋に戻った数史に、茅根が「こんにちは」と声をかける。
 こうやって一対一で話す機会というのは、案外少ない。
「もう大分仕事には慣れられたみたいですね」
「おかげさまで。そろそろ四ヶ月かな」
「私としては、その成長が楽しみだったりするんですよね。
 もっと強かになって頂ける事を、期待しております」
「強かに、ね。……ま、努力しますよ。フォーチュナが潰れたら話にならないし」
 軽く肩を竦めて笑う数史。
 それじゃあ、と猫トイレの掃除に向かう彼を、茅根が呼び止めた。
「ああ、お仕事お手伝いしますよ。話を聞かせて手を止めさせたのは私ですから。
 私も、伊達に年を取ってる訳ではないんですよ――」
 生まれて六十年余りの間に色々な事を経験したし、それで多くを得た。
 これからも、きっと。


 その頃、快はアークに提出する企画書を纏めていた。
 全ての猫に里親が現れるとは限らない――ならば、いっそアーク本部に猫カフェを開店してはどうか。
 猫たちは食い扶持を自分で稼げるようになり、リベリスタ達はいつでも猫たちに癒してもらえる。 
 大学で経営学を修める、彼ならではのアイディアだ。 

 経費や店舗規模の計算を一通り終えた後、カメラを取り出す。
 企画書には、写真があった方が良い。
 猫と遊ぶリベリスタ達の姿に心を和ませつつ、快は撮影に向かった。


 爪とぎマットやケージの設置、動物会話による心のケア。
 幅広い技能で猫の世話に尽力していた雷慈慟が、ふと知った顔を見つける。
 かつての任務で救ったリベリスタ――根谷弓美子だ。
「根谷嬢も居られるのか。……極度の犬嫌いは克服されただろうか」
 そう言って、雷慈慟はこの場に伴ってきたファミリアーの牧羊犬を振り返る。 
 まあ、おそらく大丈夫だろう。

 弓美子の元には、真独楽とラシャの姿があった。
「ゆみこは元気してた? もぉねこのためにムチャなんかしてない?」
「うん、元気。無茶もしてないよ」
 真独楽に笑顔で答える弓美子に、ボブテイルの三毛猫を抱いたラシャが声をかける。
「その節はどうも。根谷さんが助けた三毛田さんもこの通り元気だ」
「助けてくれたのは、皆だよ。あの時はありがとう」
 三毛田さんは以前に弓美子が危機に陥った際、彼女と一緒にリベリスタに救われ、ラシャに引き取られた猫だ。
「根谷さんも三毛田さんを抱いてみるかな?」
「いいの?」
 ラシャから手渡された三毛田さんを、弓美子は幸せそうに抱く。
「……ふかふか」
「今回は三毛田さんの婿を探しに来たんだ」
「お婿さん?」
「こればっかりは相性だからな、無理に連れて帰っても喧嘩するし。
 後で他の猫と遊ばせてみる」
「いいお婿さん見つかるといいね」
 そう言って三毛田さんを戻す弓美子に、ラシャは大きく頷いた。 
「せっかくたくさんのねこに囲まれてるんだもんっ! 一緒に写メとかいっぱい撮ろ!」
 真独楽が弓美子を誘い、猫の群れに混ざる。
「……ふにゃ、このコの耳、ゆみこにそっくりじゃない? ねえねえ、抱っこしてみてっ!」
 垂れ耳の猫を弓美子が抱き上げたところに、携帯カメラのシャッターをぱしゃり。
「えへへ、二人とも、すっごいカワイイ!」
「次はあたしが撮るね」
「まこ、団地に住んでるから、ねこちゃん飼えないし……
 こんなにたくさんのねこと遊べるなんて、幸せ!」
 チーターの尻尾を振って猫をじゃらす真独楽に、弓美子が「あたしも」と笑う。
 直後、彼女の表情が曇った。
「この子たち、どうなるのかな」
 歩み寄った雷慈慟が、「大丈夫だ」と声をかける。
「居場所の見当たらぬ者の面倒は、自分が全責任を持って受け持つ事を約束する」
 彼は後顧の憂いを断つために来た。
 残った猫たちは、全て自らの牧場で引き取る覚悟で。
「心配するな お前達を決して一人になどさせはしない」
 猫たちの頭を、雷慈慟の手が撫でた。 

 その様子を眺めていた快は、撮影の手を止めて表情を綻ばせる。
 どうやら、企画書は提出前にボツになりそうだ。
「大学のレポートに流用しようっと」


 ――どうか、全ての猫たちに幸あれ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
数史「お疲れさん。手伝ってくれた皆も、猫を引き取ってくれた皆も、ありがとうな」

 うっかりした隙に文字数が大幅に伸びてしまい、泣く泣く調整する羽目になりました。
 会場にいたNPCたちにもお声掛けいただけて嬉しかったです。
 
 世話や家探しを通して、猫たちとの触れ合いを楽しんでいただけたら幸いです。
 猫たちの里親になられた方々は、どうか可愛がってあげて下さいね。
 ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!