●他始点、その直前 「……」 「あるじ様ーあるじ様ー」 「……」 「き、聞こえておりますよね? 正直このどろどろハーレム環境下でわたくしのストレスがマッハなのでございますが。何か言ってくださいお願い致します」 「……五月蠅ぇな畜生」 「あ。聞こえた。それで現在は何してらっしゃるんですか?」 「……」 「試用だの何だの言って陽動でございましょう? わたくしのお仕事。 この子達エリューション化させたところで元のアーティファクトほどの強化能力もなければ、単体ではリベリスタの皆様方に拮抗する力もない。趣味なら兎も角商品として見たらぶっちゃけ失敗作でございますよ。 それをわざわざ試用と言って使う理由というか……言ってしまえばそちらの狙いを話してくださると、わたくしもそちらに有利なよう動きますので、どうかお教えいただきたく」 「……本当、面倒臭ぇな。お前」 「……お役に立とうと気遣いましたのにぃ……」 「ああ、喧しい喧しい。単に預けたモンを取りに行ってくるだけだよ。俺らが直接動くと噛みついてきやがる馬鹿が出来ちまったしな」 「はあ。つまりアーティファクトの強奪でございますか」 「……そろそろお前本当に捨てるか」 「何故でございますかー!?」 「黙ってろ。用件解ったなら切るぞ。手前はあの餓鬼共と精々遊んでろ」 「うう。あるじ様はフィクサードでございます……」 ●始点、その前 「あるリベリスタの護衛をお願いしたいんです」 唐突に。 そう端を発したのは、『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)。 聞いたリベリスタは、若干難しそうな表情をした後……口を開いた。 「……珍しい依頼だな」 「同時に、難しい依頼でもあるんです。護衛する対象は此方になります」 言うと共に、一葉の写真がリベリスタ達に差し出される。 其処に映っていた対象を見て――見た者達は、動きを止めた。 「……此奴」 「ええ。それが理由の要因です」 映っていたのは、少女だった。 年齢は十歳前後。勝ち気な表情を浮かべるその顔には、しかし、右目がない。 少女に足りないものはそれだけではなかった。彼女には左手を除いた四肢が欠落している。 両足を金属製の義肢で補い、残る片手で僅かな装飾の見えた長剣を掴むその姿には、誰もが、同情というそれを抱いてしまう。 「彼女は、およそ一年ほど前にアークに訪れたリベリスタの一人です。 ある程度の訓練を積んで、実践もそこそここなし……ですが、とある依頼で彼女は、運命を削って尚死に至る傷を受けました」 「……」 これほどになって、何故。 誰もが、その言葉を思った。それに応えるように、和泉もこくりと頷き、説明を再び、始める。 「……去年、私たちは、あるリベリスタを……エリューションに『された』リベリスタを殺しました。 彼女――千崎愛理(せんざき・あいり)は、そのエリューション……いえ、元リベリスタの親友だったんです」 「復讐か?」 「解りません。彼女はそれ以降、他者との接触を極端にまで拒むようになってしまいましたから」 一時の、沈黙。胸中に渦巻く忸怩たる思いは、きっと誰もが一度は抱いたもの。 リベリスタ。世界と世界の境界線を守るため、生と死の境界線に自身を置く者達。 失う覚悟は、きっと誰にでもある。それでも……失いたくないという思いが、その覚悟によって消されるわけではないのだ。 「……話が逸れましたね。本題に入りましょう。 彼女が再び戦線に復帰するようになって、一月ほどした頃。彼女はその手に、新たな剣を手にしていました。 それを手にして以降、彼女の活躍はめざましいものでしたが……私たちが何度聞いても、彼女はその出所、能力の一切を語ろうとしません」 ――ですが、もうそれも限界です。 和泉はそう言って、モニターにある場所の画像を表示させた。 映っていたのは、三高平市外縁の道路上。絶えず花束が置かれている場所。 「何があるかは聞かないでください。彼女は毎月、此処に一人で花を添えに来ます。 今月も同じように、其処へ花を手向けているのですが……そのタイミングを見計らい、あるフィクサード達が彼女に襲いかかります」 「目的は……言わずもがな、か」 「はい。敵は、少し前に此方へE・ゴーレムを差し向けたフィクサードの二人組です。 過去の記録に因れば、彼らは召還能力と、幾つかのアーティファクトを利用した独自の戦闘行動を取ってきます。決して、油断はなさらぬよう」 和泉はそう言って、説明は終了する。 しかし、リベリスタはその場から動かなかった。 どうしたのだろうか、と、和泉が問うより先に。 「……一応聞くが、本当に任務内容は『彼女の』護衛なのか?」 彼女の恐れていた、問いをする。 身を強張らせて、和泉は小さく、答えを返した。 ●始点、その直前 手向けた花束が、風に揺れた。 墓標もない、只の道路上。置いてあるのはこの花束だけで、だからこそ、此処に何があったかを覚えている人は少ないのだと。そう思う。 「……今日も、来たよ」 気持ち悪いカッコで、ごめんね。そう苦笑して、私は花束の前にちょこんと座り込んだ。 「私、ね。今回も頑張ってきたんだよ。 とっても、難しいお仕事とか、危ないお仕事とか。今日も全部、話してあげるね」 車の走る風切り音を音楽の代わりにして、私は、今日もお話をする。 あなたの大好きな世界を、今日も守りきったよと、教えるために。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月04日(月)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 起点は一瞬の攻防が基だった。 座り込んだ少女に飛びかかる影は二つ。それぞれが簡易な装飾を施された剣を手に、違うことなく彼女の背を狙っている。 それを―― 「……嗚呼、もう」 少女は、千崎愛理は、只の一閃で振り払った。 弾かれる二人、一、二歩後退った彼らを見て、愛理は言う。 「人の墓参りくらい、そっとしておいてくれないかな」 十歳の少女の――その外見を見れば、『只の』少女とは思えないだろうが――台詞には凡そ似つかわしくないそれ。 それを耳にしながら、フィクサードは、笑っていた。 「ちょいと物乞いに来ただけだよ。その剣をくれれば直ぐに帰ってやるさ」 「……」 嫌悪感溢れる表情を、じわりと渋面に浮かばせて、彼女は言葉を返すこともなく、剣を構え直す。 否、構え直そうと、した。 「……っ、!?」 知らぬ間に――本当に知らぬ間に、少女の身体には太いワイヤーが全身に張り巡らされていた。 「さあ、もう一度だ。剣を渡して貰おうか」 「……殺して奪いなさい」 「ったく、素直じゃ無えの」 問の答えを予想していたのだろう。躊躇一つ無く、二つの剣が振り下ろされる。 それを、少女は―― 「あーりゃ、もう始まってた?」 「「「!?」」」 ――少女は、己が矮躯に受けるはずと、そう覚悟していたのに。 そう、『真の』起点は、一瞬の攻防が基。 拘束された愛理の戒めを、『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)が全て断ち切り、 自由になった身体を、バイクに乗った『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)が抱え、ドリフトを決めながら停止。 離れた愛理、甚内との距離を詰めようとしたフィクサード達を、『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)が割り込み、一瞬の虚を突く。 その隙を見逃さじと『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)がスパナと銃を叩き込み、 後退しかけたフィクサードらを、その背後から『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が捉え、薙ぐ。 「貴方、達……?」 「……やっと見つけたぜ、面白半分に甚振る様な真似ばかりしやがるフィクサード共!」 動転。何が起きたかを、まるで理解できない愛理の後方から、更に現れたのは『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)。 身にした黒鋼が陽炎を纏う。触れた者ものを皆焼き尽くすが如き業炎は、見る者に彼の憤怒を知らしめて尚足りぬほどに。 「てめぇらはここで刻んでけ……この俺が! 付喪モノマが! てめぇらを狙ってるって事をな!」 「吠えてろ、品の良い坊ちゃんが。パーティにでも行く気か?」 「っ!」 憎まれ口なら相手が上手である。更に激しかけたモノマを手で制したのは、その傍らに居た『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)。 「陰謀策略は俺の専売特許である。……真似しないでくれたまえ」 平時と凡そ変わらぬ口調。怒りなど、憎しみなど、まるで何処にもないかのような。 しかし、故に――彼の『怒りに反応するアーティファクト』が、ギリギリと時計の針を逆回しにしていると言う事実が、その身に秘めた激情を表し続けている。 「……やれやれ。ちったあ休んでても良いんだぜ?」 「冗談じゃないッスよ。アンタらの姿を見るだけで、リルはぶち殺したくてしょうがないッスから」 「相当の好きモンだな、『お嬢ちゃん』」 「……」 突如の奇襲とて、前後を挟まれた状況とて、僅かにも嘲弄の姿勢を崩さない彼らに、リベリスタは苛立つ。 「……何なの、貴方達」 その思考を、冷ます――否、別のベクトルへとねじ曲げたのは、他ならぬ愛理の言葉。 「ヒーローのつもり? 正義の味方のつもり? 助けなんて要らない。私は一人で良い。……手、離して」 自身を抱える甚内の腕を振り払った少女は、屈辱感に苛まれた表情で、自らを助けた相手を睨んだ。 「……別にお前さんを助けているわけではない。アークに所属したのならば分かるだろう。我らは、ただ我らの目的を遂行しているだけである」 「その通り。妾達はアークとしてAFとお前を護るために来た。それだけの話じゃよ」 「……っ」 オーウェンの、メアリのにべもない言葉に、愛理は歯がみする。 守られるだけなんて嫌だ、と。 私も戦える。私も世界を守れる。私は、私は、私は――! 「『世界』ッスか……。世界を守るために動ける人なんて、少数派ッスよ」 それを、白んだ声で。 誰ともなく、それこそ、愛理にすら向けていない様な言葉を、リルはぽつぽつと呟く。 「守りたい覚悟は感じるッスけど、一人の手で掬えるものなんて、たかが知れてるんス。だから――」 「……そう。だから、俺たちはここに来た」 そして、最後の一人。 リルの言葉を継ぐように、現れた『鎧鱗』司馬 鷲祐(BNE000288)が、愛理の頭にとんと手を置いた。 「確かに――千崎愛理。俺達はお前の護衛をしにきた。……だが、そんなのは建前だ」 「……みんなで仲良く戦おうなんて、お遊戯じみた話でもしに来た?」 「何とでも言えばいい。俺たちはお前の強さを、『彼女』の痛みを知っている。それを無碍に否定はしない」 「……」 「このまま逃げるのならば、俺たちはそれに付き合おう。その後は好きにして構わない。どうする」 「断るわ」 「じゃあ、一緒に戦いましょう?」 応えたのはぐるぐだった。 手にした二種の武器でフィクサード達を牽制しつつ、視線だけを少女へと送るぐるぐの目には、誰が疑うまでもない、「絶対に死なせない」と言う意志が宿っている。 鷲祐も、同様に。 刺すように鋭い銀眼を敵へと向け、鷲祐は彼女へ、フィクサード達へ、開戦の言葉を告げた。 「さぁ、守るとしようか。俺達と共に」 ● 「ったく、数じゃこっちが断然下だぞ、少しぐらい手加減しろっての!」 言うと同時、フィクサード達(今後、個々を解りやすくするために呼称を『A』『B』と分ける)が側面と前方に分かれ、それぞれが自身の『軍勢』『手勢』を召還する。 「あー、っと……範囲攻撃持ってんのは其処の餓鬼と坊主っぽい名前の女か。足止めしとけ!」 「ッ!」 行動済みで召還される『軍勢』を狙おうとした彼らの策は、流石にフィクサード達も見抜いていた。 即座に移動する『手勢』達が、それぞれ二体ずつリルと珍粘のブロックに回る。 しかし、 「……名声がそれほどに無いって、こういうときに助かるわよね」 モノマ、甚内らと動いた愛理が踊る剣戟(ダンシングリッパー)を振るえば、瞬時、『軍勢』達の身が朱に染まる。 「ほう、ナイトクリークかえ?」 「『回復狂』。貴方のブレイクフィアーは貴方の職のスキルなの?」 出でた傷口を焼き尽くすように光輝を降り注がせるメアリに対して、呆れた声音で愛理が言った。 「一人で戦うために、色んな技を取る必要があっただけ。……だから、貴方達のような極化した技には叶わない」 悔しいけど。そう言う彼女ではあるが、実際与える技は地味であるにしても、彼女の基本的な所作の練度は、ともすればアークでトップクラスのモノマやぐるぐのそれにも追いつかんとするクラスだ。 「……アーティファクトの効果ッスか?」 「それを貴方達に言う義理はないわ」 ぴしゃりと問いをはねのける愛理に、リルもばつが悪そうに頬を掻いた。 「一つだけ、言っておきますが」 急所に成りやすい部分を執拗に狙い、はしっこく動き回る『手勢』達に多重斬影剣を振るいつつ、珍粘は笑顔をそのまま、冷静に言葉を告げる。 「私の名前は那由他・エカテリーナです。坊主っぽい名前、などではありません」 「……そういやそんな自称してるとかあったな。良いじゃねえかンなこと、別に」 「……」 笑顔、笑顔。性格『だけ』を繕った珍粘の攻勢は恐らくいつもより苛烈であり、それ故に『手勢』の消耗は敵味方をしてその予想を遙かに上回っていた。 ――が。 「ったく、なんつー馬鹿げた火力だ!」 「……!」 自身を封鎖する『手勢』を叩き斬った時点で、その死骸から強酸があふれ出す。 本来は強固なアーティファクトが、その瞬間のみ溶け出した。一時的な無力とされた珍粘を、じっと見たぐるぐが声に出して言う。 「……ねえ、ひょっとしてそれ、罠を生み出すアーティファクト?」 「惜しいな。『今の』コイツは罠の材料をストックして、任意の場所に発生、構成させるアーティファクトだ。精度も悪いし、これじゃあ精々六割ってとこだが……」 会話の最中にも飛びかかるぐるぐ。剣を構えて防御の姿勢を取った『A』に対し、ゴツい銃の銃口を差し込んで強引にその態勢を崩す。 残る片手、手にしたスパナが『A』の腕を砕いた。ばきばきと伝わる嫌な感触にも表情一つ逸らすことはないが、次いで襲い来る噴霧――猛毒の煙には流石に焦りを顔に出してしまう。 「今のお前らには、これでもキツいくらいじゃねえか?」 「……心配してくれるの? やーさしー♪」 「ハ、ロリコンの糞ジジイ共でも紹介してやろうか、婆さん」 一同に対し、甚内のみに与えられる攻勢は他に比類無き苛烈さを極めていた。 「……てっきり、愛理ちゃんの方を狙うかと思ったけどねー」 「庇ったら幾らか防御能力上がるだろうが。それくらいなら庇い手を先に倒すぜ」 魅了の効果を持つ『B』の攻撃にひたすら耐え、或いはメアリのブレイクフィアーを受けつつ、それでも着実に削られつつある体力は、あと少しで運命の変転をも余儀なくされている。 と、言うのに……甚内は浮かべた笑みを少しばかり深くしていた。 ――うん良いじゃない護衛護衛。千崎ちゃんの護衛で良いと思うよ。 苦しそうに『護衛対象』を正確に話したフォーチュナに対し、唯一人、優しい笑みで言い切ったのは他ならぬこの男だ。 評価されている。信頼されている。自分たちなら、今傍らで戦う無謀な少女を守りきってくれると、そう思ってくれている。 違わぬ『信頼の証』を受け取った甚内にとって、今この時は最も充実している――! 「そーいうわけでさ。千崎ちゃんも思うようにやっててくれて構わんからねー」 「言われなくても!」 愛理も――口には出さずとも、リベリスタたちを気遣っていたのだろう。 庇い手である二人が近づいた段階で範囲攻撃を控え、一体一体の『軍勢』達を丹念に潰していく少女を見ながら、しかし。 (……でも、『心の壁』は未だ取れず、かなー) 剣の力を読まれんと彼女が放つ自己防衛(ジャミング)に対して、甚内は密やかな苦笑を浮かべた。 戦中、鷲祐は、偶然背中合わせとなった愛理に、低く、しかし意志を乗せた確固たる言葉で、彼女を説得し続ける。 「後戻りできない立派な覚悟だ。だからこそ、お前に一歩を踏み出して欲しい。 お前一人でこの世界を守っちゃいない。その剣、その体、何よりそう進ませる、彼女の想いがあるからだろ?」 「……っ」 『彼女』の事を告げられる度、その動きは僅かに鈍る。 「勿論俺だけでも守れん。だから共に戦う。限界を補いあい、互いに高みへ臨むために。 覚えていてくれ。たった一人で戦う背中には、必ず後ろから見てくれる者がいることをな」 「……こんな背中」 呟いた愛理は、自虐のように、訥々と言葉を漏らす。 「バカやって、勝手に傷ついて。背負わなくても良いものを背負って、重くて、汚くて、傷だらけの、こんな背中。守りたい人は、いないわ」 「ならば、先ず俺がお前の背に立とう」 走り、舞う『軍勢』達に囲まれる鷲祐と愛理。 一瞬だ。直ぐに庇い手と、『軍勢』を潰す仲間達がやってくる、と言うのに――まるで鷲祐の言葉に合わせ、二人だけの舞台を作られたこの偶然に、不謹慎ながら、鷲祐は笑みを浮かべた。 「お前は俺の背中を守ってくれ。 お互いがお互いを助け合う、高め合う。故に、俺も倒れん。お前も、倒れん」 「……」 「そして」 ……それさえあれば――お前は世界を守れる! 「さて……ここからが本番、であろうか」 「ああ?」 『軍勢』の殆どが消滅しつつある状況。リベリスタ達の消費も少なくはない。 それでも、傍目の余裕を崩さぬのが彼の矜恃。 光刃、Rule-Maker。薄くブレード状に展開されたエネルギーが暴発するかのように四散すれば、空間に散逸したエネルギーはオーウェンが象った式に反応、その姿を光の鎖へと変貌させ、『B』の身体を絡め取った。 「この通りだ。防御すれば行動を一回相殺……防御せねば捕縛である。さてどうする?」 「それ以前に……手前に対処なんかさせねえけどなあっ!」 言葉を重ねたのはモノマだった。 幾体ものエリューションにその身を啄まれ、全身から血を吹き出しながら、それでも彼の炎は僅かにも揺るがない。 拳が流水の如く滑らかに動く。体躯が稲妻の如き疾さを閃かせる。 壱式――迅雷。 水月に突き込んだ拳に、『B』の身体がくの字に曲がる。 ……否。 「……ハ、ハ、ハ」 「っ!?」 光鎖はあっさりと砕き放たれ、モノマの拳は当たりこそしたものの、十全にも響かず。 「餓鬼の飯事に付き合う程、暇じゃねえってんだよ……!」 返す刀。一瞬の刺突が、モノマの心臓を違い無く貫く。 ぐらり、倒れかける身体。傷口には拳を当てて。 だが。 「……未だだ……」 「ッ、手前!」 当てた拳に運命を秘め、止めどなく溢れる血潮すらも気力で止めたモノマは、再度の咆哮を上げた。 「終わってねえ、全然、足りねえ! お前らを徹底的に――打ち砕くっ!」 ● それから、およそ一分が経過する。 フィクサードらが呼び出した『手勢』『軍勢』のエリューション達は、その殆どがリベリスタ達によって消滅。 その間に行われた相手方の攻勢によって、甚内が倒れ、モノマもフェイトを使用し、更にドラマ復活を経て尚倒れかけの状態。 傷ついてるリベリスタは凡そ全員、しかし、二人を除き、それが回復を要する傷かと言えば否だ。 ならば――と、思うかも知れないが。 「……次で最後です」 言って、残る何体かのエリューション達に無尽の剣閃を放った珍粘が、気力の枯渇を声に出して表した。 そう、体力の消耗は無い。しかしその間、『軍勢』のみに全力を費やし続けていたリベリスタ達は、此処に至ってリソースの殆どを消耗していた。 原因は、と言えば単純なことで――リベリスタ達の攻撃目標があくまでも『軍勢』に有ることを確信した段階で、フィクサード達は『軍勢』達に全力防御を命じ続けていた。 トップクラスのリベリスタ達が、スキルを介した攻撃である。その命令をして命中精度にさしたる支障は無いが……幾許かにも上がった防御力は、彼らに無駄な消耗を与え続けていた。 「……キツそうだな、リベリスタ。剣と餓鬼一つ守るのに、随分必死みたいじゃねえか」 「それ、そっくりそのまま返すッスよ」 言い返したのはリルだった。 「たかが剣一つに、随分とご執心みたいッスけど……それ、アンタらの『蛇を呼ぶ能力』に関連してるんスか?」 「……はあ?」 リーディングが使えない現在、此処でカマを掛け、愛理か、フィクサードらから情報を奪えれば……そう思っていたリルにとって、この反応は予想外であった。 見れば、愛理もさして何かを気にした様子もない。どういう、と言いかけた少年に対し、 「……やれやれ、相当に強固であるな。お前達の防壁(ブロック)は」 それに被せる形で言葉を発したのは、オーウェンだった。 「隙を見ては繰り返しスキャンし続けてきたが……得た情報は精々貴様らの得物についてのみだ。どういう技で隠しているか、興味があるな」 「……盗賊が」 嘲笑するような顔のオーウェンと、苦み走る顔のフィクサード。 「贋剣グラーシーザ。剣自体を折ると言う『結果』を先に起こすことで、殺したい相手と自分の双方を殺す――E属性持ちなら精々体力を根こそぎ削り取る程度か――真名のアーティファクト。 贋剣奇蛇剣(くさなぎのつるぎ)。剣と、その剣に触れている者を、召還した大蛇の腹の中と言う『元の居場所』へと転移させる真名を持つアーティファクト。 ……やはり、それらのアーティファクトを作っていたのは、貴様らか?」 「んにゃ、違うのでございますよー」 突如響いた第三者の声に、一同がぎょっとした顔を浮かべる。 現れたのは一人の少女――式神は、リル、珍粘にとってはつい先ほど目にした顔である。 「わー、リル様に……ナユタ様で合ってましたっけ。先ほどぶりです!」 「……何の用だクソガキ」 「おお、あるじ様。手持ちの罠と『手勢』『軍勢』使い切りましたよね? もう帰りましょうよ」 憎々しげに視線を向けた男に対し、式神はけろりとした表情で笑う。 「……見逃すと思うッスか?」 「ええ」 咎めるようなリルの言葉ににっこりと笑った式神は、かむかむ! と適当な方向へ手を振る。 それに応えて現れたのは――赤いコーンと立ち入り禁止の看板を引きずりながら、ずりずりと這いずる『灰の血』の生き残り。 「……!」 「……余計なことしやがって」 「あるじ様も意地張らない! 早くしないと一般人来ちゃいますよ。さ、行きましょう」 まるでだだっ子をあやす親のように、式神は男達を連れ、何処とも知れぬ帰路を歩み始めた。 リベリスタ達に、追う術はない。 式神の言うとおり、これ以上の戦闘を行うことが出来なかった――だけでは、なく。 「……さあ。話を、聞かせて貰おうかしら」 剣を道路上に突き立て、鋭い瞳で彼らを見据える愛理が、其処にいたから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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